【悲報】ピッケル100本折ったアホ、神ハンターに暴言を吐いて人生をチェックメイトされる 作:翔田美琴
桟橋のタラップを軋ませて降りてきたのは、つぎはぎだらけの麻袋のような服を纏い、背中を丸めた初老の男女だった。
オクレマセ村の貧相な土埃をそのまま連れてきたような二人は、モガの村の整然とした広場と、鳴り響く異様なコールに怯え、縮こまりながら立ち尽くした。
「「ペッテン師! レッド!」」
「「ペッテン師! レッド!」」
「ひ、ひぃ……! お、お父ちゃん、なんだべこの騒ぎは……?」
「お、おい見ろ……あそこで地べた這いつくばって喚いてんの、うちのバカ息子じゃねぇか……!?」
耳を塞いで土下座のように丸まるレッドの姿を認め、二人は慌てて駆け寄った。
「レッド! お前、何やらかしたんだべ!? 故郷に突然ギルドの偉ぇ役人が押し寄せてきてよぉ! 『四十何万ゼニー払えねぇなら畑も家も全部差し押さえだ』って紙切れ叩きつけられて……!」
「お父ちゃん、お母ちゃん……ッ!」
すがろうとするレッドだったが、その甘えを切り裂くように、美琴の冷え切った声が頭上から降る。
「ようこそ、モガの村へ。オクレマセ村の保護者様方」
美琴は淡々と手帳を開き、計算書を二人の目の前に突きつけた。そこには、赤インクで無慈悲に記された『損害総額:480,000z』の刻印。
「ピッケル104本の損壊、村の備蓄金属の枯渇、道具屋への営業妨害、虚偽申告、そしてギルド特級ハンターであるレム様への誹謗中傷。これら全て、教育を放棄してこの獣を野に放ったあなた方の連帯債務です」
「よ、よんじゅうはちまん……!?」
父親は白目を剥き、母親はその場にへたり込んで泡を吹きかけた。
「う、嘘だべ……! うちの村の年収全部合わせても、そんな大金見たこともねぇぞ……! なんでこんな……たかが石掘る道具を折っただけで……!?」
「『たかが』ではありません」
美琴は眉ひとつ動かさず、感情を削ぎ落とした正論で切り捨てる。
「孤島における鉄の輸送コスト、道具の損耗率、そして知識を持たぬ者がもたらす経済的損害の数理的帰結です。勉強をさせず、道理を教えず、『走ればいい』と育てた結果がこの負債。あなた方がツケを払うのは、至極当然の道理ですわ」
広場の村人たちは、怯え震える両親に対してもはや同情すら向けなかった。
「あんなバカ息子を野放しにしてりゃそうなる」「親の顔が見てみたいと思ってたら、本当に見られたよ」「ペテン師一家じゃないか」と、冷酷な嘲笑が一家を包み込む。
父親は激昂し、真っ青になって震えるレッドの胸ぐらを掴んで引き起こした。
「この大バカ野郎がッ!! 『大ハンターになって仕送りしてやる』って威勢よく村を出ていきやがって! なんだこの借金はァッ! 村を滅ぼす気かッ!」
「痛ぇ! やめろよ親父! 俺は悪くねぇ! あそこの銀髪のペテン師が裏でハメたんだよッ!」
往生際悪くレムを指差すレッドの頬を、父親の節くれだった拳が殴り飛ばした。鈍い肉骨音が響き、レッドが砂利の上に転がる。
「黙れッ! この期に及んでまだ他人のせいにしてんのかテメェは! お前が頭使わねぇで暴れたからこうなったんだろうがッ!」
見苦しく怒鳴り合い、殴り合う親子。
その無様な断罪劇の傍らで、レムは静かに立ち上がり、上着の埃を払った。
「やれやれ……身内の泥仕合を眺めるのも、いささか風情に欠けるね」
銀髪を潮風になびかせ、レムは一切の関心を失った足取りで宿へと歩き出す。彼の手元には、今日も完璧な計算によってもたらされた、豊かなモガの暮らしが約束されていた。
取り残されたペテン師一家の頭上には、現実という名の容赦ない負債と、村中の冷徹な視線だけがどこまでも重くのしかかっていた。