【悲報】ピッケル100本折ったアホ、神ハンターに暴言を吐いて人生をチェックメイトされる 作:翔田美琴
高台の木陰から、ふわりと上質な茶葉の香りを漂わせながら、レムが静かに言葉を落とした。
「嫌なら、今すぐに学を深めることよねぇ」
銀髪を潮風になびかせ、ティーカップの縁を指先でなぞりながら、どこか戯れるような、それでいて絶対的な落差を突きつけるお気楽な声だった。
「文字を覚え、契約を理解し、鉱石の硬度とピッケルの打撃角を数理で導き出す。……それができないから、君は104本もの鉄をゴミに変え、自分の父親を土下座させ、爆薬を突きつけられている。違うかい?」
レムの凪いだ双眸に見下ろされ、レッドは喉を詰まらせた。
言い返そうと口を開くが、言葉が出てこない。目の前にいるのは、圧倒的な知識と準備によって村の全インフラを初日で掌握した本物の神ハンターだ。
「勉強から逃げ回って腕力だけに頼ったツケを、今さら口先の『すいやせんでした』で値切れると思っているあたり、実に浅はかで愛らしいけれどね」
レムはくすりと笑い、視線を広場の村人たちへと巡らせた。
「知性を磨く苦労をサボった人間は、その代わりに別のものを差し出すしかない。――汗か、血か、あるいは一生を縛る強制労働の契約書か。選ぶ権利くらいは、まだ残されているんじゃないかな?」
村人たちからドッと残酷な笑いが沸き起こる。
「違いない! レム様の仰る通りだ!」
「今から字の練習でもするか? 道具の名前すら書けねぇだろうがな!」
美琴が冷ややかに契約書をレッドの鼻先へ突き出した。
「お聞きになりましたね。学ぶ気がないのであれば、四の五の言わずに指を切りなさい。血判の押し方くらいは、文字が読めぬあなたでも理解できるでしょう」
知性を手に入れた者が優雅に潮風を吸い、学ぶことを拒絶した愚者が血判を迫られる。
モガの広場に広がっていたのは、逃げ場のない「知的格差」という名の冷徹な現実だった
レムは空になったカップをテーブルに置き、脚を組み替えてレッドを見下ろした。その銀髪に午後の陽光が反射し、貴族然とした優雅な輪郭を際立たせる。
「『学問のすすめ』の代わりに、まずは調合の真髄でも学んだらどうだい?」
嘲るでもなく、ただ哀れな子犬に初歩の躾を言い渡すような、お気楽で軽やかな声音。
「素材不要調合の領域にいろ、とは言わないさ。だがね、薬草とアオキノコを適当に口に放り込んで腹を下すような真似をやめ、配合比率と温度変化、抽出効率の初歩くらいは頭に叩き込むべきだ。……そうすれば、君のその薄っぺらなポーチの中身も、少しはハンターの体裁を保てるようになるんじゃないかな」
「調合の……真髄……?」
レッドは地面に膝をついたまま、呆然と聞き返した。彼にとって「調合」とは、カバンの中で草と虫をグチャグチャに握り潰す作業と同義だった。比率も温度も、文字通り異次元の呪文にしか聞こえない。
「理解できなくて当然ですわね」
美琴が冷酷に割り込み、自らのポーチから整然と並べられたガラス小瓶を取り出して見せた。濁りひとつない澄んだ琥珀色の液体が、完璧な密閉容器の中で揺れている。
「レム様が仰るのは、無駄な試行錯誤を排し、最小の資源から最大の効能を引き出すための『理論』です。調合書を1巻から読み解く根気すら持たず、適当に混ぜては失敗作の煙を撒き散らしてきたあなたには、豚に真珠、猿に錬金術というもの。……学ぶ脳がない者に、真髄など一生届きません」
広場を囲む村人たちからも、冷ややかな失笑が漏れる。
「調合書どころか、自分の名前すら書けねぇんだぞ」
「回復薬グレートの作り方を聞いたら『ハチミツを直で飲む』とか言い出しそうだな」
「レム様も優しいねぇ、あんな野蛮人に勉強の機会を勧めてやるなんてさ。もっとも、あの頭じゃ逆立ちしたって無理だろうけどよ」
父親は「ほら見ろ! 偉いハンター様がそう言ってくださってんだから、勉強しろバカ息子!」とレッドの頭を小突き、レッド自身は屈辱と絶望で顔を真っ赤に腫らしながら、ただ息を荒らげることしかできない。
圧倒的な知の高みに座す神ハンターと、文字すら読めず泥を舐めるだけの愚者。
レムの軽妙な一言は、決して埋まることのない絶対的な階層差を、まざまざと広場全体へ見せつけていた。