【悲報】ピッケル100本折ったアホ、神ハンターに暴言を吐いて人生をチェックメイトされる 作:翔田美琴
夜明け前の午前四時。モガの村の集会所には、波音を切り裂くような悲鳴が響き渡っていた。
「ぎゃあああっ! なんで『3』に『5』を足したら『8』になるんだべぇぇッ!? 『35』でいいじゃねぇかッ!」
「ちーがーいーまーすー! ほら、レッドのおじちゃん、指を折って数えて! ほら、1、2、3……はい、バツ! これで十回目の間違いー! 今日の朝ごはんの芋、一個没収ね!」
カンテラの淡い光の下、レッド一家は粗末な板敷きの上に正座させられていた。
レッドの目の前には、モガの村の五歳児が使う木製の算盤と、平仮名が並ぶ薄汚れた練習帳。採点係を務める村の子どもたちは、容赦なく赤いチョークで巨大なバツ印を書き殴り、ゲラゲラと腹を抱えて笑い転げている。
「う、嘘だろ……なんで俺がこんなチビどもに頭下げて、棒切れの数を数えなきゃならねぇんだ……! 腕力だ! モンスターをブッ殺すのに足し算なんざ要らねぇんだよッ!」
「まだ囀る口が残っているようですわね」
背後から、氷を擦り合わせたような冷淡な声が落ちる。
美琴は立ったまま手帳に視線を落とし、指先で双剣の鯉口を微かに鳴らした。冷気のような殺気がレッドの首筋を撫で、男の背筋を凍りつかせる。
「筋肉を動かすにも、モンスターの重心を見極め、運動エネルギーの作用点を計算する知性が必要です。それを理解できず、ただ武器を振り回すだけの肉塊だからこそ、あなたはピッケルを百本へし折り、ここに座らされている。……次、看板娘さん、文字の書き取り試験を」
「はーい!」
アイシャが満面の笑顔で、しかし眼球の奥を一切笑わせずに、一枚の白紙をレッドの鼻先に叩きつけた。
「はい、レッドさん! 『薬草』って書いてみてくださーい! 書けないと、今日の午前中の森での採取作業、素手で行ってもらいますからね〜」
「や、やく……草……? くそっ、どうやって書くんだよ! 棒をこう引いて、ぐるっと回して……」
「ブーッ! それ『虫』です! 採取どころか毒虫を口に放り込む気ですか!? はい、減点! 負債にペナルティとして五百ゼニー追加でーす!」
「ひぃぃっ! やめてくれぇ!」
隣で『1』から『10』の数字の書き取りに苦戦していた父親が、泡を吹いて頭を抱えた。
「レッド! 頼むから真面目にやってくれ! 村の家が、ワシらの畑が本当に取られちまうべぇぇッ!」
「うるせぇジジイ! てめぇがガキの頃に文字を教えねぇからだろうがッ!」
「お前が教本を薪にして燃やしたんだろうがァッ!」
みっともなく罵り合い、互いの無知を擦り付け合う親子の姿は、かつて彼らが嘲笑い、軽視し、踏みにじってきた「学び」という概念そのものから復讐を受けているかのようだった。
知性を馬鹿にし、論理を嘲笑い、努力を「頭でっかちの弱者」と切り捨ててきたツケ。
その因果応報は、幼子に指を差されて嘲笑され、文字ひとつ書けない己の無力に震え、数字の暴力によって人生を完全に買い叩かれるという、逃げ場のない現実となって一家の骨の髄まで軋ませていた。
やがて東の空が白み始め、高台のテラスに清涼な朝日が差し込む。
優雅に目覚めの白湯を口にし、神おまのスキルシミュレーションを完璧に終えたレムが、広場の惨状を一瞥した。
銀髪を潮風に遊ばせ、憐れみすら浮かべない透明な瞳で、地べたに這いつくばる愚者たちを見下ろす。
「因果応報、自業自得。……学問の重みを知るには、少々遅すぎたようだけれどね」
絶対的な勝者の呟きは、波音と共に、ただ冷たく虚空へと溶けていった。