【悲報】ピッケル100本折ったアホ、神ハンターに暴言を吐いて人生をチェックメイトされる 作:翔田美琴
ツアーを終え、堆肥溜めと鉱滓の山に挟まれた泥土の上に引き戻された一家の頭上へ、穏やかで澄み切った声が降ってきた。
「どうかね? 現実というのが見えたかね?」
高台の柵に身を預け、レムは手元のグラスを軽く傾けながら、お気楽そうに目を細めていた。銀髪が西日に透け、地べたにへたり込む泥まみれの一家とは対照的な輝きを放っている。
「港に積まれた豊かな獲物、青々と茂る農場、工房で鳴り響く美しい槌音。……あれら全てはね、知性を尊び、数理を学び、他者への敬意と正確な計算を積み上げた結果、この村に生まれた現実だ」
レムは視線をすっと落とし、レッドの足元にある錆びた鉄屑と、農場長に投げ捨てられた「石ころ」を一瞥した。
「一方、君たちが立ち尽くしている足元はどうだい? 壊したピッケルの山、毒草で腫れ上がった顔、そして誰からも必要とされていない冷たい視線。……『腕力さえあればいい』『理屈をこねる奴は臆病者だ』と豪語して暴れた結果、君たちが手に入れたのは、その無様なゴミ溜めだけだ」
「う、あ……」
レッドは喉を震わせ、反論の言葉を探そうと血走った目を泳がせた。
だが、漁港で浴びせられた「魚の餌にもならない」という冷酷な視線、農場のアイルーたちが見せた害虫を見るような瞳、加工屋の親方が叩きつけた104本の鉄屑の残骸――五感の全てで刻み込まれた圧倒的な「無価値の証明」が、喉の奥を重く塞いでいた。
父親はガタガタと歯の根を合わぬほど震わせ、母親はただ泥に額を擦りつけて泣きじゃくる。
「知性を馬鹿にし、学ぶ人間を『ペテン師』と罵ることでしか己を保てなかった愚者が、どれほど社会の害悪であるか。……文字も数字も読めない君たちでも、肌の感覚くらいでなら、少しは理解できたんじゃないかな」
レムはグラスを傾け、氷の鳴る涼やかな音を響かせた。
「君たちが如何に無価値なゴミか。……その現実を噛み締めながら過ごす夜は、さぞ格別だろうね」
背後では美琴が静かに双剣の柄に手を添え、漁師たちが手に持つ打ち上げタル爆弾Gの導火線が、西日を浴びて静かに一家の逃げ道を塞いでいた。
高台の手すりから、氷のように乾いた声が鋭く突き刺さった。
「呻くだけなら誰でも出来る。具体的な方法は?」
レムはグラスを卓上に滑らせ、目を細めて見下ろした。
お気楽な調子の奥底に、言い訳や感情論を一切受け付けない冷徹な論理の刃が光っている。
「『痛い』『助けてくれ』『悪気はなかった』……そんなノイズは豚の鳴き声と変わらない。48万2,300ゼニーの負債を、どの資源を、何日かけて、どのルートで採取し、どう補填するのか。その頭蓋骨の中に脳味噌という組織が残っているなら、情緒ではなく数字と計画で述べてごらん」
「ぐ、あ……」
レッドは口元を震わせ、泥にまみれた指先を蠢かせた。
だが、数字の概念すら拒絶してきた頭からは、ただの一言も出てこない。一日何ゼニー稼げば何年で返せるのか、そもそも薬草一本がいくらで売れるのかすら、彼には一切見当がつかなかった。
父親が泡を食って這い進み、額を血が出るほど地面に打ち付ける。
「お、おいらの腎臓でも何でも売りますだ! 体を張って、何でもしますからぁッ!」
「却下ですわ」
美琴が冷ややかに割って入り、手帳を胸元に抱えたまま鼻で笑った。
「生体売買などギルド規約違反です。それに、基礎的な健康管理すら怠り、酒と怠惰で蝕まれた臓器に値打ちなどつきませんわ。……結局、親子揃って『体を張る』という曖昧な言葉に逃げ、計算から目を背けているだけではありませんか」
美琴の視線が、地べたで固まるレッドの首筋を刺す。
「レム様がお求めなのは感情の吐露ではなく、実行可能な返済計画です。何一つ提示できないのであれば、あなた方の存在は『回収不能な負債』――すなわち、廃棄処分すべき産業廃棄物と同義ですわよ」
日没が近づき、赤く染まる海を背にして、逃げ場のない問いがペテン師一家の頭上に重くのしかかっていた。具体策を持たぬ愚者に残された道など、最初からどこにも存在しなかった。