【悲報】ピッケル100本折ったアホ、神ハンターに暴言を吐いて人生をチェックメイトされる   作:翔田美琴

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第22話 身体で返す無意味

高台の階段の脇から、村長の息子が腕を組み、呆れ果てた溜め息混じりに声を投げかけた。

 

「おいおい……『体を張る』とか簡単に口走る前に、外の状況くらい把握しなよ。夜のモガの森は上位モンスターが跋扈する森だよ」

 

その一言に、泥土にへたり込んでいたレッドの肩がびくりと跳ね上がった。

 

「昼間ですらケルビに蹴り飛ばされて、毒キノコ握って転がってたんだろ? 陽が沈んだ後のあの森が、どれだけヤバい場所か分かってんのかい? 凶暴化したリオレイアが低空を滑空し、真っ暗闇の茂みからは狡猾なナルガクルガの紅い眼光が光る。地面の亀裂からはウラガンキンの吐く高熱ガスが噴き出すような世界だ」

 

村長の息子は、堆肥溜めの前にうずくまる一家を憐れむように、しかし冷酷に見下ろす。

 

「気配を殺す知識もねぇ、ペイントボールで位置を捕捉する知恵もねぇ、閃光玉の調合すらできねぇ連中が夜の森に飛び込んだらどうなるか。……体を張るどころか、踏み込んで三分で大型モンスターの夜食になって骨すら残らねぇよ」

 

父親の顔から血の気が完全に引いた。

 

「な、なるが……? り、りお……?」

 

聞いたこともない上位の脅威の名に、ただ唇を小刻みに震わせ、己が口走った「体を張る」という言葉がいかに底知れぬ無知から出た暴論だったかを思い知らされる。

 

「お聞きになりましたね」

 

美琴は手帳を閉じ、冷淡極まりない眼差しを一家の頭上へ落とした。

 

「知識なき突撃は勇気ではなく、ただの自殺志願です。昼の平穏な浅瀬で自滅したあなた方に、夜の過酷な生態系を潜り抜けて採取を行うなどという具体策は、万に一つも成立し得ません」

 

高台の上では、レムが宵闇に包まれ始めた水平線を静かに眺め、涼やかに息を吐いた。

 

「夜風が冷たくなってきたね。……具体策のない『体を張る』というポーズが、いかに薄っぺらで滑稽なものか、よく分かったんじゃないかい?」

 

夕闇が完全に落ち、森の奥から上位モンスターの重く地響きのような咆哮が遠く響き渡る。

知恵も道具も持たぬペテン師一家の眼前には、一歩踏み出せば死が待つ夜の闇と、背後を塞ぐ冷徹な村の監視の壁だけが広がっていた。

 

レムは手すりに指先を這わせ、夜風に銀髪をわずかに揺らしながら、底抜けにお気楽な調子で言葉を投げた。

 

「どうすんの? 調合でも極める? 調合書は一冊1,000ゼニー、初級編は2,000ゼニー、中級編は5,000ゼニー」

 

暗がりの中で脂汗を流すレッド一家を見下ろす瞳には、憐憫など微塵もない。

 

「モンスターを避けて安全に稼ぐなら、手元の素材を価値ある薬品に化けさせる調合が一番手堅い。だが、成功率を引き上げるための理論書はタダじゃない。……君たちが『文字の虫けら』と馬鹿にして薪代わりに燃やした知識には、正当な市場価格がついているんだよ」

「せ、千……にせん、ごせん……!?」

 

父親が掠れた悲鳴を漏らし、震える指を折ろうとして、また途中で止まった。所持金ゼロ、それどころか48万超の負債を抱える一家にとって、千ゼニーすら天文学的な巨額だった。

 

「ご安心なさい。あなた方に売る本など、この村には一冊もありませんわ」

 

美琴が冷ややかに割って入り、手帳をパチンと閉じる。

 

「購入資金の欠如以前に、信用残高が完全にマイナスです。貸し出しも、分割払いも、先行投資も存在しません。知識を憎悪し、本を焼き捨ててきた無学者に、今さら学問への入場料が払えるはずもありませんわね」

 

レッドは泥土を強く握りしめ、爪を剥がさんばかりに食い込ませた。

腕力で全てをねじ伏せられると信じ、本を笑い、文字を嘲笑ってきたツケ。

安全に生き残るための「知識の敷居」は、すでに彼らの手の届かない高みへと跳ね上がっていた。

森の奥から、冷たい夜風に乗って凶暴な咆哮が届く。

知性を拒絶した一家の目の前には、本を買う金も、森を生き抜く術も、夜を越すための知恵も、何一つ残されていなかった。

 

レムは宵闇のテラスで小さく笑い声を漏らし、呆れと嘲笑を混ぜた吐息をこぼした。

 

「どうすんの? アプトロスに返り討ちって、最弱動物以下じゃない」

 

銀髪を梳く指先には一切の力みがなく、ただ事実の惨めさをそのまま突きつける。

 

「草を食むだけの鈍重な草食竜にすら、間合いも読めず真正面から尻尾で薙ぎ払われて泥を啜る。……大型モンスターどころか、村の子どもでも誘導して肉を剥ぎ取る相手に完敗するなんて、生態系の底辺にすら居場所がないね」

 

広場を取り囲む漁師たちから、堪えきれない爆笑が噴き上がった。

 

「アプトロスに負けたハンターなんて前代未聞だぞ!」

「あいつら、首を振られただけでひっくり返って喚いてたぜ!」

「最弱の草食獣以下が、よくもまあハンター面してデカい面できたもんだ!」

 

レッドは泥水に顔を半分埋めたまま、屈辱で全身を小刻みに震わせた。

昼間のケルビの蹴り足に続き、森の浅瀬でのそのそ歩いていたアプトロスにすら力任せに突っ込み、太い尾の一撃で肋骨を軋ませて逃げ帰った無様な失態。反論の余地など、一片も残されていない。

 

「レム様の仰る通りですわ」

 

美琴が冷酷に足元へ歩み寄り、見下ろす視線でレッドの息の根を止めるように言い放つ。

 

「攻撃の予兆を観察する知性もなく、肉質を見極める知識もない。ただがむしゃらに突進して草食竜の尾に吹き飛ばされる姿は、最弱動物の餌にも劣る粗大ゴミそのものです。……さて、アプトロス以下の一家が、この上位の夜をどう生き延びるのか、見ものですね」

 

暗闇に沈む森から、獲物を求めて徘徊するモンスターたちの足音が、地響きとなってじわじわと近づいていた。

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