【悲報】ピッケル100本折ったアホ、神ハンターに暴言を吐いて人生をチェックメイトされる 作:翔田美琴
美琴は手帳を胸元に抱えたまま、顎をわずかに引き、汚泥に浸かるレッドの顔面を真っ向から見下ろした。
その瞳に宿るのは、憐れみでも怒りでもなく、路傍の汚物を見つめる時のような純然たる拒絶だった。
「答えをください、って感じの目。嫌いですわ」
吐き捨てられた言葉は、冷たい夜風よりも鋭くレッドの鼓膜を切り裂いた。
「自分では何一つ思考せず、数字からも本からも逃げ回り、いざ追い詰められれば『どうすればいいか教えてくれ』と物乞いのような視線を向けてくる。……その卑しさが、心の底から虫唾が走ります」
レッドは口を開きかけたが、言葉にならない掠れた息が漏れるだけだった。
泥水に塗れた顔を上げ、すがるように美琴や高台のレムを見上げていたその浅ましい瞳の奥を、完全に射貫かれ、解剖されていた。
「自力で答えを導き出す知性すら放棄した者に、誰が施しとして解法を与えるとお思いで? あなたがこれまで馬鹿にしてきた『知識』も『理論』も、すべて先人たちが血の滲むような思考と試行錯誤の末に積み上げた資産です。タダで縋り付いていい道理など、どこにもありません」
美琴は踵を返し、双剣の鞘を微かに鳴らした。
「答えが欲しいなら、その足りない頭を夜通し絞り尽くして自力で見つけなさい。……もっとも、アプトロスにすら思考力で劣るあなた方に、解ける方程式などこの世に存在しないでしょうけれど」
高台の上では、レムが宵闇の空に紫煙をくゆらせることもなく、冷めた茶器を手元に引き寄せていた。
自活の知恵を持たず、他者の慈悲を乞うことしかできなくなった愚者たちを、夜の底知れぬ静寂が包み込んでいく。
夜の闇が深まるにつれ、森の奥から響く地響きのような咆哮と、広場の周囲を取り囲む「打ち上げタル爆弾G」の鈍い火薬臭に追いつめられたペテン師一家は、もはや立ち上がることすらできなくなっていた。
膝の皮を擦り剥き、泥水と鼻水に塗れながら、一家三人が横一列になってモガの石畳を這い進む。前代未聞の「土下座道中」だった。
「ひぃぃっ! 許してくだせぇ! 宿の軒下でも、豚小屋の隅っこでもいいから置かせてくだせぇぇッ!」
「お母ちゃん寒くて死んじまうべ! 頼むから一晩だけ、一晩だけ屋根の下に入れてぇッ!」
「すんません……! 俺が悪かった、全部俺が悪かったからよォッ!」
額を地面に打ち付けるたびに、ゴツン、ゴツンと鈍い肉骨音が響く。
だが、彼らが這い進む先々で、村人たちは一様に冷酷な壁となって立ちふさがった。
雑貨屋の店先
「うちの敷居をその汚い額で触らないでちょうだい! 負債の利子も計算できない連中に、タダで貸す雨露しのぎの場所なんてあるわけないでしょ! 塩撒いて追い出しなさい!」
冷水をバシャリと浴びせかけられ、一家は悲鳴を上げて石畳を転がり、さらに先へと這いずる。
加工屋の工房前
「どけッ! 職人の仕事場を這い回るな! 道具の命を嘲笑った奴らが、道具で建てられた頑丈な屋根を欲しがるなんざ反吐が出るぜ。夜露に濡れて、せいぜい己の浅知恵の錆でも落としてな!」
赤く熱された鉄塊から散る火花を浴びせられ、父親は悲鳴を上げながら息子の首根っこを掴んで逃げ惑う。
村長の屋敷前
「……帰れ。知性を尊ばぬ者に、この村の平穏を分かつ余地はない」
長老の静かで絶対的な一言と共に、頑丈な木の扉が目の前で重々しく閉ざされた。
どこへ這い行こうと、差し伸べられる手はひとつもない。
かつて彼らが馬鹿にし、踏みにじり、見下してきた「他者との信頼」と「社会のルール」。それをすべて失った人間がどれほど無力で、ただの邪魔な肉塊に過ぎないかを、一家は擦り切れた膝の激痛と共に味わい尽くしていた。
「あいつら、まだ這い回ってるよ」
「豚の親子が地面舐めて歩いてらぁ」
「ほら、爆弾の導火線に火ぃつけとけ! 敷地に入ってきたら即打ち上げるぞ!」
広場を埋め尽くす村人たちの容赦ない嘲笑と、突きつけられる爆薬の列。
逃げ場を失い、広場の吹きさらしの石畳で団子のように固まって震えるペテン師一家の頭上へ、高台から静かな足音が近づいてきた。
レムは手すりに寄りかかり、銀髪を夜風に遊ばせながら、冷えたグラスを指先で弄んでいた。その瞳には、路傍の泥水溜まりを見る以上の感情は浮かんでいない。
「地面を額で磨くだけの芸当なら、アプトロスの方がまだ愛嬌がある。……知性を捨てた君たちの頭には、額を打ち付けて他人の情けにすがる以外の使い道が、本当に残されていないようだね」
美琴がその隣で手帳をパチンと閉じ、見下ろす眼差しに冷徹な終告を乗せた。
「夜を越す知恵も、自活の手段もなく、ただ地べたを這い回るだけの存在。……あなたがたの土下座には、1ゼニーの価値も、一滴の同情を引く力もありませんわ」
夜の冷気と上位モンスターの咆哮が容赦なく降り注ぐ中、ペテン師一家は自分たちが築き上げた「無知と傲慢」という名の牢獄の中で、ただガチガチと歯を鳴らして震え続けるしかなかった。