【悲報】ピッケル100本折ったアホ、神ハンターに暴言を吐いて人生をチェックメイトされる 作:翔田美琴
レムは手すりに寄りかかり、夜風にさらされる広場を見下ろしながら、底抜けに明るい声音で囁きかけた。
「レッド君さあ、採取クエストに行く? 無料クエだけど」
「む、無料……?」
泥まみれのレッドが、途切れ途切れに顔を上げる。ギルドのクエストといえば前払いの契約金が必要なはずだ。金のない自分たちにとって、その単語は一筋の甘い罠のように響いた。
「契約金ゼロ、保険金ゼロ、報酬金ゼロの完全自己責任枠だ。支給品ボックスは空っぽ、地図も応急薬もたいまつすら入っていない。ただ夜のモガの森へ放り出され、生きて持ち帰った雑草や石ころの端数だけ、美琴が負債から引いてあげるっていう慈善事業だよ」
レムは指先で軽く円を描いてみせる。
「どうだい? 契約金すら払えない今の君には、これ以上ない破格の優遇措置じゃないか」
「……っ、そんなのただの死刑宣告じゃねぇかッ!」
レッドが血走った目で叫び返すと、美琴が一歩間合いを詰め、冷徹に手帳の背でレッドの額を小突いた。
「文句を言える身分とお思いで? 信用も元手もない無知蒙昧な粗大ゴミに、正規の手続きを踏んだクエストなど回ってくるはずがありませんわ。受託するか、今すぐギルド憲兵隊に突き出されて残りの人生を地下炭鉱で終えるかの二者択一です」
美琴は腰の双剣の鯉口をカチリと鳴らし、森のゲートを顎で指し示した。
「無料ですのよ、レッド。知性を捨てたあなたの命に見合った、最初で最後の格安チケットですわ。……さあ、夜の森へ行ってらっしゃいな」
背後では村人たちが掲げるたいまつと爆弾の列がじわじわと前進し、一家を漆黒の森の入り口へと容赦なく追い立てていた。
高台のテラスから、パチパチと乾いた拍手の音が夜風に乗って響いた。
「さすがペテン師! 口答えはホント尊敬するよ」
レムは手すりに身を乗り出し、喉を鳴らして楽しそうに笑った。その瞳には、路傍の羽虫が必死に羽を震わせているのを観察するような、無機質で冷酷な光が宿っている。
「手元には借金しかない、知識も道具もない、命の保証もない。完全な詰み盤面だってのに、プライドの欠片みたいな減らず口だけは一丁前に叩けるんだからさ。その無駄な頑丈さだけは、ある意味で感心するよ」
「ぐ、ぅ……ッ!」
レッドは泥を噛みしめ、血走った目を剥いたまま喉を鳴らした。言い返そうにも、レムの言葉は寸分の狂いもなく己の無様さを射抜いており、ただ惨めな息が漏れるだけだ。
「ええ。中身のない虚勢を張る技術だけは、特級ハンター並みですわね」
美琴が冷ややかに追撃し、手帳をパチンと音を立てて閉じた。
「ですが、現実のモンスターは口先一つで退散してはくれません。口答えに割くカロリーがあるなら、手足の一本でも動かして石ころを拾い集めるべきですわ。……それとも、その威勢のいい舌ごと、森の肉食竜に差し出すおつもりかしら?」
広場を取り囲む漁師たちから、どっと下卑た嘲笑が沸き上がった。
「口だけは一人前のペテン師だ!」
「その調子でリオレイアにも文句言ってみろよ!」
「尊敬されちゃってよかったなぁ、おい!」
四方から浴びせられる嘲弄の嵐の中、父親は頭を抱えて石畳に額を擦りつけ、母親は声もなく咽び泣く。
威勢のいい吠え声すら、絶対的な上位者の前ではただの「滑稽な見世物」として消費され、ペテン師一家の逃げ場のない夜は、さらに残酷に更けていった。