【悲報】ピッケル100本折ったアホ、神ハンターに暴言を吐いて人生をチェックメイトされる 作:翔田美琴
村の出口へと続く木の柵の前に、粗末な木板が一枚、無造作に突き立てられた。
受付台に両肘をついたアイシャが、夜風に金髪を揺らしながら、底抜けに晴れやかな笑顔でペラリと羊皮紙を叩いた。
「はい、お待たせしましたー! レッドさん一家限定の超優遇枠、『夜の採取クエスト』の受注手続き完了でーす!」
【特命依頼:人間に戻れる(かもしれない)採取実務】
指定納品物: 特産キノコ 3個、厳選キノコ 3個
契約金: 0ゼニー
報酬金: 0ゼニー(全額、債務返済に強制充当)
支給品: なし(ボックスは完全空欄)
環境情報: 夜間・上位不安定(大型牙獣種および飛竜種の徘徊を確認)
「ね? たった6個キノコをもぎ取って戻るだけの、とーっても簡単なお仕事でしょ? 子どもでも分かりますよね〜!」
アイシャの満面の笑みの奥にある完全な無機質さに、父親の喉がヒッと鳴った。
簡単なお仕事、なわけがない。夜のモガの森でキノコの群生地といえば、薄暗く湿った洞窟の深部か、肉食竜ジャギィの巣の目と鼻の先、あるいは大型モンスターの縄張りと重なる鬱蒼とした茂みだけだ。
「じ、支給品ボックスが空って……たいまつもねぇのかよ!? 暗闇でどうやって探せってんだ!」
レッドが泥のついた爪を立てて喚き立てると、美琴が一歩歩み寄り、冷徹に手帳の角で男の胸板を小突いた。
「月明かりと己の五感をお使いなさい。明かりが欲しければ、昼間にへし折った104本のピッケルの破片を擦り合わせて火花でも散らすことですわね。……もっとも、夜の森で不用意に火を焚けば、光に誘われたジャギィの群れや夜行性の飛竜に『ここにエサがいます』と合図を送るようなものですけれど」
高台の手すりから、レムが気怠げに視線を落とし、くすりと笑った。
「特産キノコと、厳選キノコ。……毒テングダケとの違い、ちゃんと見分けられるのかい? かーちゃんが昼間にやったみたいに、猛毒の胞子を吸い込んで喉を塞がせないといいね」
銀髪を梳くレムの言葉に、母親は顔を蒼白にして口元を押さえた。
図鑑の文字も読めず、絵姿の差異すら頭に入っていない一家にとって、闇夜の中で「毒キノコ」と「納品対象」を選別すること自体が、すでに死のロシアンルーレットに等しい。
「さあ、ゲートを開けなさい」
美琴の冷淡な合図と共に、頑丈な丸太の柵が軋んだ音を立てて引き上げられた。
その先には、松明の光すら届かない、底知れぬ漆黒のモガの森が口を開けている。湿った土の匂いに混ざり、遠くから上位モンスターが木々を薙ぎ倒す地響きと、飢えた咆哮が風に乗って吹き込んできた。
背後では、漁師たちが手に持った打ち上げタル爆弾Gの導火線へ、静かに種火を近づけている。
「たった6個ですわ。拾えなければ、夜明けを待たずに村の台帳からあなた方の名前が永久に抹消されるだけ。……行ってらっしゃいな、簡単なお仕事へ」
知恵も明かりも持たぬペテン師一家の背中を、死と隣り合わせの闇が容赦なく飲み込もうとしていた。