【悲報】ピッケル100本折ったアホ、神ハンターに暴言を吐いて人生をチェックメイトされる   作:翔田美琴

32 / 36
第30話 ペテン師の妄言

高台の手すりから、夜の冷気を凍てつかせるような声が、柵にへばりつくレッドの頭上へ垂直に突き刺さった。

 

「馬鹿? キミが馬鹿でしょ? 妄言を垂れるんじゃないよ」

 

レムはグラスを卓上に置き、手すりに指先を這わせながら、眉ひとつ動かさずに見下ろした。その双眸にあるのは怒りですらなく、論理の破綻した鳴き声を吐き出す害獣への底知れぬ侮蔑だった。

 

「状況の分析もできない、リスクの計算もできない、自業自得の因果関係すら理解できない。その上、自分が無様に追い詰められたら他人に当たり散らして『バカヤロー』かい? ……知性を捨てて感情で喚き散らすその様、誰がどう見ても頭が空っぽなのはキミ自身じゃないか」

「う、ぐ……ッ!」

 

レッドの喉から、潰れた蛙のような情けない音が漏れた。

柵の向こう、松明の光に照らし出されたレムの銀髪は、夜風に乱れることすらなく静まり返っている。その圧倒的な静寂の前に、レッドの喚き声はただの汚れたノイズとして霧散していった。

 

「ええ。美辞麗句も論理も持たぬ、ただの無学者の遠吠えですわね」

 

美琴が柵の上から冷淡に言い放ち、手帳にカリカリとペンを走らせる。

 

「上位モンスターの徘徊予測も立てず、支給品も持たずに闇夜へ飛び出し、案の定追い回されてゲートに縋り付く。すべてあなた自身の無知と怠惰が招いた『自業自得』という名の必然です。それを他者のせいにして喚くなど、妄言以外の何物でもありませんわ」

 

柵の背後、暗闇の茂みからは、ドスジャギィの統率された低い威嚇音がじわじわと間合いを詰めてくる。

さらに上空では、リオレイアの巨大な翼が風を切り、風圧が一家の泥まみれの背中を叩きつけた。

 

「命乞いをする知恵すら持ち合わせず、口を開けば己の愚かさを証明する妄言ばかり。……観客席を不快にさせたペナルティとして、ゲートの開放時間はさらに遠のきましたわよ」

 

美琴の冷酷な通告と、レムの冷え切った眼差し。

知性を侮辱し、己の浅薄な感情だけで喚き散らしてきたペテン師の言葉は、誰一人として動かすことはなく、ただ夜の捕食者たちを呼び寄せる撒き餌にしかなっていなかった。

 

高台の手すりに寄りかかり、レムは呆れ果てたように首を振って、氷の粒のような冷徹な言葉を投げ落とした。

 

「謝罪を口にすればポーズ、暴言、意味のない嗚咽。最悪だ」

 

銀髪を梳く指先を止め、泥濘で丸太にしがみつく一家の姿を、吐き気すら催さない純然たる無機質さで見据える。

 

「額を擦り付けたと思えば中身のない命乞いのポーズ、都合が悪くなれば柵越しに喚き散らす暴言、そして追い詰められれば鼻水を垂らしての意味のない嗚咽。……どれ一つ取っても問題の解決に向かっていない。知性を放棄した人間が辿り着く、絵に描いたような醜態のフルコースだよ」

 

柵にしがみつくレッドの指が、屈辱と恐怖で血を滲ませながら痙攣する。

謝れば許されると思い、通らなければ怒鳴り散らし、死の牙が迫れば泣き叫ぶ。その場しのぎの感情だけで生きてきたペテン師の行動様式を、レムの冷酷な解剖刃が寸分の狂いもなく切り刻んでいた。

 

「まったくですわ。生産性ゼロのノイズに付き合わされるこちらの身にもなっていただきたいものです」

 

美琴が柵の上から手帳を軽く叩き、絶対零度の視線を父親の頭頂部に落とした。

 

「謝罪とは、己の過失を数字と行動で清算する覚悟の表明です。暴言とは、弱者が己の無能を隠蔽するための粗雑な威嚇です。そして嗚咽とは、他者の同情を搾取しようとする最も浅ましい甘えに過ぎません。……あなた方の発する音の全てに、耳を傾ける価値など1ピコゼニーたりとも存在しませんわ」

 

背後の暗闇から、ドスジャギィの爪先がカチリと湿った石を叩く音が響いた。

茂みをかき分け、涎を垂らしたジャギィの群れが三人の真後ろ、数メートルの位置まで肉薄している。頭上ではリオレイアの風圧が泥を巻き上げ、逃げ場のない輪郭を闇の中にくっきりと浮き彫りにしていた。

 

「キノコを探す手は止まり、口だけは休むことなく無駄な音を垂れ流し続ける。……そんな騒音発生装置、上位モンスターの腹の足しにでもなって静かになってくれた方が、この森の生態系にとってもよっぽど有益じゃないかい?」

 

レムの底抜けに冷たい嘲笑が夜の湿気に溶け込む。

感情に逃げ、理性を拒絶し続けた一家の醜い泣き声は、救いの手を引き寄せるどころか、夜の捕食者たちを招き寄せる完璧な鐘の音として森中に響き渡っていた。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。