【悲報】ピッケル100本折ったアホ、神ハンターに暴言を吐いて人生をチェックメイトされる 作:翔田美琴
夜風が吹き抜ける高台から、レムは手すりに肘をつき、歌うような軽快さで言葉を滑り落とした。
「レッド君〜、底辺ハンターでも調合レシピの物知りっているんだよ」
泥水に浸かり、柵にしがみつくレッドの耳元へ、その底抜けにお気楽な嘲笑が容赦なく染み込んでいく。
「下位クエストを泥臭く回して、日銭を稼ぐのがやっとの駆け出しや万年新米ハンターでさえね、生き残るために必死で頭を使っている。薬草とアオキノコで回復薬、それにハチミツを足せばグレードアップ、閃光羽虫と素材玉で目くらまし……文字を追い、比率を暗記し、知識という名の防具を頭の中に築き上げているんだ」
レムは細い指先を一本立て、柵の向こうの闇を指し示した。
「彼らは知っているから生き延びられる。知識があるから、たとえ腕力で劣っていても上位モンスターの足止めができる。……それに引き換え、君はどうだい? 腕っ節だけを誇って頭を使う連中を『臆病者のペテン師』と見下し、結果として底辺ハンターどころか、知識ゼロのただの肉塊としてそこに転がっている」
「う、ぐ……あ……ッ」
レッドは泥を噛みしめ、血走った目を剥いた。
かつてオクレマセ村の酒場で、分厚い調合書をめくりながら薬草の配分を議論していた真面目なハンターたちを「ガリ勉」「弱虫」と仲間内でゲラゲラ笑い飛ばしていた記憶が、脳裏を鈍器のように殴りつける。
「レム様の仰る通りですわ」
美琴が柵の上から冷酷に追撃し、手帳の角でレッドの指先をピシャリと叩いた。
「技術や装備で劣る者が、最後に頼るべき最大の武器こそが『知識』です。底辺から這い上がる知性すら持ち合わせず、学ぶ努力を『ペテン』と切り捨ててきたあなたのような怠惰な粗大ゴミと、泥臭く知識を蓄える本物の底辺ハンターを同じ括りにするなど、彼らに対して失礼極まりありません」
背後では、ジャギィたちの黄色い双眸が暗闇の茂みからずらりと這い出し、低い威嚇音を喉の奥で鳴らしながら間合いを詰めてくる。
「調合レシピのひとつも頭に入っていない頭蓋骨なんて、モンスターにとってはただの柔らかい殻付きのナッツだよ。……ねえレッド君、知識のある底辺と、知識のないゴミ屑。どちらが先に夜の森の胃袋に収まるか、分かりきった話じゃないかい?」
レムの澄み切った声が、逃げ場のない夜の湿気の中へと冷たく溶けていった。
高台の手すりから、レムは呆れたように小さく息を吐き、泥まみれのレッドを見下ろした。
「キミってホント筋肉だるまだよね。底辺ハンターに教授でもあおったらどうだい?」
銀髪を梳く指先には一切の力みがなく、ただ滑稽な生き物を観察するような冷めた視線が注がれている。
「考える頭を持たず、無駄な肉の塊だけをぶら下げて突っ込むからそうなる。プライドを全部捨てて、キミがこれまで『臆病者』『ガリ勉』と馬鹿にして見下してきた底辺ハンターたちの足元に額を擦りつけ、調合の基礎やモンスターの習性を一から教えてもらうんだね」
「な……ッ!?」
レッドは泥濘の中で目を見開き、喉を詰まらせた。
酒場で嘲笑の的にしていた連中に頭を下げ、教えを乞う。これまでの自分を根底から否定するような屈辱的な提案に、血走った瞳が激しく揺れる。
「無駄ですわ、レム様」
美琴が柵の上から手帳を軽く叩き、絶対零度の声で割って入った。
「教えを乞うにしても、相手に対する最低限の礼節と、受け取った知識を咀嚼する脳組織が必要です。相手をペテン師と罵り、文字も数字も拒絶し続けてきたこの筋肉だるまに、他者の知恵を敬い、吸収する器などあるはずがありません。教えてもらうどころか、ただ相手の時間を奪うだけの公害ですわ」
柵の背後では、ドスジャギィの荒い鼻息がすぐそこまで迫り、茂みがガサリと音を立てて揺れた。
「確かにね」
レムは手すりに体重を預け、夜風に冷たい笑みを溶け込ませた。
「学ぶ耳を持たない筋肉だるまに、教授を施す奇特な人間なんてこの世にいない。……せいぜいその自慢の筋肉で、夜の捕食者たちの噛みごたえを少しでも良くしてあげるのが、キミに残された唯一の役割なんじゃないかい?」