【悲報】ピッケル100本折ったアホ、神ハンターに暴言を吐いて人生をチェックメイトされる 作:翔田美琴
一連の喧騒と壮絶な解体ショーが完全に幕を閉じ、静寂を取り戻したモガの村には、かつての重苦しい空気とは打って変わって、どこまでも澄んだ穏やかな朝が訪れていた。
潮風が穏やかに波打つ港を撫で、加工屋の炉からは心地よい鍛冶の音が響き、農場ではアイルーたちが活き活きと作業に勤しんでいる。厄介な負債の種も、村の空気を濁していた寄生虫一家も、ドスジャギィの圧倒的な機能美によって一掃された今、そこにあるのは完全な秩序と平穏だけだった。
高台の手すりから、レムは冷めかけたカップを軽く傾け、穏やかに晴れ渡った水平線を静かに見つめた。
「――ふう。ようやく、無駄な雑音のない綺麗な朝になったね」
泥にまみれた悲鳴や、現実逃避の命乞いなどはもうどこにもない。ただ淡々と、しかし確かな経済の歯車が回る村の様子を眺めながら、レムは満足げに細い息を吐き出した。
美琴は手帳の最終ページに「完」の二文字を冷徹な筆致で書き記すと、満足そうにパタンと音を立てて閉じた。
「実に素晴らしい平穏ですわね。生産性のない不純物がすべて綺麗に濾過され、村の資産と生態系が本来あるべき均衡を取り戻した。これが、理に適った正しい世界のあり方というものですわ」
背後では音楽家が奏でる『The ruins of Love』の激しい旋律もやみ、代わりに波の音と潮の香りが、モガの村に訪れた確かな平和を優しく、そして冷徹に彩っていくのだった。
知性を手放し、他者に依存し続けた末路が、どれほど滑稽で容赦のない「資源回収」に行き着くのか――。レムの後期のエッセイには、まさにその「知性放棄」に対する冷徹な断罪が綴られていた。
「自分で考えること、状況を分析して生産的な行動を起こすことを放棄した人間は、もはや生存する権利を持つ『主体』ではなく、ただ消費されるべき『客体』に成り下がるのさ」
高台の風に目を細めながら、レムは静かに語る。
「思考を止めた生き物は、自ら稼ぐことも、責任を取ることもしない。ただ口を開けて他者がもたらす恩恵を待ち、いざとなれば言訳と他力本願の命乞いを繰り返す。そんな知性の欠落した存在がたどる結末は一つしかない。……自らの肉体を差し出して、ようやく世界の経済や生態系に微小な貢献を果たせるという、残酷なまでの因果応報だね」
美琴は手帳の該当ページを指先で軽く叩き、冷ややかに頷いた。
美琴やレムといった名を持つ人物や、作中で語られるエッセイの内容は、まさしく今回の「オクレマセ村」の一家が歩んだ全行程そのものだった。
「考えることをやめた人間から順番に、自然の摂理と村の経済システムによって綺麗に濾過されていく……。知性の放棄とは、言い換えれば自発的な生体解体へのパスポートですわね。実に、合理的なプロセスですわ」
モガの村に訪れた朝の静寂の中、冷徹な理屈だけが波音に溶けていくのだった。
モガの村を揺るがした一連の粛清劇と、その裏で展開された徹底的な「生体資源の回収」の記録は、後にハンターズギルドの中枢においても特異な事例として扱われることになった。
バルバレギルド、ミナガルデギルド、そしてドンドルマの巨大な本部ギルド――。
歴戦のハンターや高官たちが集うその場所の奥深く、一般の閲覧が固く禁じられた厳重な書庫の一角に、その記録は「特級資料」として永遠に保管されることとなった。
「――『知性の放棄が招く生態学的・経済的清算プロセス』か」
ドンドルマの重厚な書庫の静寂の中、古びた表紙に記されたその文字を眺めながら、一人の高官は冷ややかな感嘆の息を漏らした。
「モンスターの狩猟とは、単なる害獣駆除にあらず。社会の負債を清算し、不純物を濾過するための極めて高度な経済活動である……か。現場のハンターどもに読ませたら顔を引きつらせるだろうが、真理を突いていると言わざるを得ないな」
バルバレの拠点を行き来する旅芸人や交易商たちの間でも、この一件は「オクレマセ村の末路」として語り草となり、人々に強烈な教訓を刻み込んだ。
努力を放棄し、他者に依存し続けた者がたどる結末は、人間の法律や情けによって裁かれるのではなく、厳格な自然の理とドスジャギィの機能美によって等しく回収される――。
ミナガルデのギルドマスターは、届いた特級資料の束に目を通すと、苦笑交じりにペンを置いた。
「やれやれ、レムと美琴の奴ら、相変わらず容赦がない。だが、この記録があるおかげで、無駄な寄生虫どもが我が街の門を叩く前に身構えることができる。……特級危険呪物地域指定、か。実に素晴らしい防衛策だ」
背後では遠くモガの波音が聞こえるかのように、冷徹で合理的な理の波が、ギルドの分厚い扉の向こうへと静かに浸透していくのだった。