【悲報】ピッケル100本折ったアホ、神ハンターに暴言を吐いて人生をチェックメイトされる 作:翔田美琴
海風が吹き抜ける村の中央広場。村長はパイプの煙をくゆらせながら、三人の前に立った。その視線は、一瞬で「扱い」を分ける。
「レム殿、美琴殿。長旅ご苦労であったな。お二方には、海が一望できる東の高台の宿を用意してある。静かで風通しも良く、ドンドルマやミナガルデの客人にも好評をいただいておる部屋じゃ。どうぞ気兼ねなく身体を休めてくだされ」
「お気遣い痛み入るよ、村長殿。静かな波音を聞きながら過ごす夜は、砂漠の天幕とは違った贅沢だ」
レムが優雅に会釈し、美琴も淑やかに礼を執る。二人の立ち振る舞いには、田舎の漁村に対する敬意と、洗練された旅慣れの手際が完璧に調和していた。
だが、村長の視線がレッドに向けられた瞬間、その目尻の皺がすっと険しく引き締まる。
「……して、レッド殿。お主には、港の物置小屋の隣にある納屋の二階を宛がうことになっておる」
「ああん!? なんであの銀髪の気取り屋が海の見えるいい部屋で、俺が魚臭ぇ納屋なんだよッ! 差別すんなクソジジイ!」
開口一番の怒声と唾飛ばしに、周囲を歩いていた村の漁師や海女たちがピクリと足を止め、一斉に冷たい視線を向けた。村長は眉一つ動かさず、バルバレのギルドマスターから届いた書状をトントンと指先で叩く。
「差別ではない、明確な『区別』じゃよ。宿代を前納し、身元引受の書類に寸分の不備もなかったレム殿たちに対し、お主は前金ゼロ、ギルドの登録証すら泥で汚れて判読不能、挙句の果てに桟橋の杭を蹴り折った損害賠償がすでに発生しておる。……屋根と藁布団があるだけでも、ギルドマスター殿の顔を立てた温情と知れい」
「んだとゴラァ! 金なんざ後でモンスターぶっ殺して山ほど払ってやるよ! 信用がねぇってのかよ!」
「ええ、一切ありませんわね」
横から氷のように冷ややかな声が突き刺さる。美琴が扇子を口元に添え、ゴミを見るような目をレッドに向けていた。
「信用とは、過去の実績と契約の履行能力によって積み上げられる数理的な担保のことですわ。文字も読めず、財布の中身は銅貨三枚、到着早々に公共物を損壊する獣に、誰が上等な寝床を貸し出すとお思いで? 藁の上で眠れるだけ、モガの皆様の慈悲深さに涙を流して感謝すべきです」
「てめぇ美琴ッ! 偉そうに能書き垂れやがって……!」
「静かにせんか、若造!」
普段は温厚な村長の鋭い一喝が広場に響き渡った。海で荒波と魔物に対峙し続けてきた古老の気迫に、レッドが一瞬気圧されて言葉を詰まらせる。
「モガは小さな村じゃ。協調性を欠き、道理を弁えぬ者に割く余分な情けなど一滴もありはせん。己の無知と無作法を棚に上げて村の秩序を乱すなら、納屋どころか無人島へ叩き出すぞ」
周囲の村人たちの視線も完全に冷え切っていた。
「なんだいあの乱暴なガキは」「道具屋の看板を睨んでたやつだろ」「村長にあんな口利くなんて」「早く追い出した方がいいんじゃないかい?」――ヒソヒソと交わされる囁き声は、すべてレッドを異物として排除する刃となっていた。
「チッ……! どいつもこいつもグルになりやがって……! 見てろよ、俺がデケぇ獲物狩ってきて、全員土下座させてやるからなッ!」
レッドは真っ赤な顔で地面を激しく踏み鳴らし、魚臭い納屋へと吐き捨てるように去っていった。初速から完全に村中を敵に回した愚者の背中を見送りながら、レムは肩をすくめて苦笑する。
「やれやれ。元気があるのは結構だが、最初の夜からあんなに周囲のヘイトを集めてしまっては、明日からの買い出しすら苦労しそうだね」
「自業自得ですわ、レム様。学ぶ耳を持たぬ者が社会の冷遇に凍えるのは、自然界の摂理というものです」
美琴の冷徹な一言と共に、モガの村におけるレッドの孤立無援の生活は、最悪の滑り出しを記録していた。