【悲報】ピッケル100本折ったアホ、神ハンターに暴言を吐いて人生をチェックメイトされる 作:翔田美琴
翌朝、モガの村の朝靄を切り裂いたのは、道具屋の前に響き渡る怒声だった。
「おいババア! なんだこのナマクラはよォ! まともに石も割れねぇで真っ二つに折れやがったぞ! 不良品売りつけてんじゃねぇ!」
レッドがカウンターに叩きつけたのは、無残に砕け散ったボロピッケルの残骸だった。刃先は潰れ、柄の結合部は無理な衝撃で裂けている。背後には、同じようにへし折られたピッケルが何十本と地面に転がっていた。
道具屋の老女は青ざめながらも、眉を吊り上げて言い返す。
「何を言ってるんだい! ピッケルは鉱石の割れ目を見極めて、角度を合わせて打ち込むもんだ! お前さん、岩の硬い部分を力任せに連打してるだけじゃないか! 朝から何十本無駄にしたら気が済むんだい!」
「うるせぇ! 道具なら叩いて壊れねぇのが当たり前だろうが! テメェがインチキ商品を売りつけて俺をハメてんだろ! 金返せ!」
唾を飛ばして暴れるレッドを取り囲む村人たちの目は、完全に侮蔑と警戒で固まっていた。誰もが眉をひそめ、距離を取り、言葉を交わすことすら避けている。
その喧騒からわずかに離れた広場の木陰。
レムは、仕立てのいい上着の袖を整えながら、長椅子に腰掛けて静かに海を眺めていた。
手元には、すでに計算され尽くしたマイセットが収められたアイテムポーチ。HR1の身でありながら、無駄な素材集めを完全にスキップする山菜引き換え券と食券、厳選された神おまを組み込んだ装備は寸分の狂いもない。彼がモガの森へ一度足を踏み入れれば、素材不要の調合手順と最短ルートの把握により、ピッケル1本すら損耗させることなく必要な鉱石だけが過不足なく手元に残る。
「……朝から実に見苦しい騒ぎですわね」
隣に立つ美琴が、手帳に冷淡なペン先を走らせながら呟いた。
彼女の腰にある双剣は鏡のように研ぎ澄まされ、泥一つ付着していない。
「鉱物の硬度すら調べず、打撃の衝撃吸収角も知らず、ただ腕力に任せて道具を破壊し、その損害を売人のせいにする。オクレマセ村の教育水準以前に、あれはもはや理性を備えた人間の行動ではありません」
「まあ、本人は至って真剣なんだろうがね」
レムは苦笑し、手元のギルド証を軽く指先で回す。
「だが、あの調子で資源を潰し続けられたら、村のピッケルの在庫が底をついてしまうな。のんびり釣りをしようにも、これでは落ち着かない」
レッドの破壊劇は止まらなかった。
日が高くなる頃には、森の浅瀬から戻ってきたレッドの足元に、さらに折れたピッケルの山が築かれていた。その数、ゆうに100本を超えている。
「クソッ! また折れた! 100本以上買って全部ゴミなんざ、絶対村ぐるみで俺を嵌めてやがる!」
荒い息を吐きながら広場を睨みつけるレッドの視界に、優雅に立ち上がり、腰の武器を整えるレムの姿が映った。
レムの背負う片手剣は眩いばかりの輝きを放ち、ポーチからは何の手間もかからず手に入れた極上の素材の気配が漂っている。
レッドの頭の中で、無知ゆえの嫉妬と逆恨みが完全に焼き切れた。
「――おい! そこでお高くとまって茶ぁ飲んでる銀髪野郎!」
レッドが泥まみれの指を、レムの眉間に突きつける。
「テメェ、朝から一回もツルハシ振ってねぇだろ! なのに何でそんなピカピカの武具持ってんだよ! 道具屋とグルになって、俺にゴミを売りつけて裏で美味ぇ汁吸ってんだろ!」
広場が一瞬で静まり返った。
村人たちの息を呑む音が響く中、レッドは狂犬のように歯を剥き出し、決定的な一言を吠えた。
「答えろや! 銀髪のペテン師めッ!」
レムは足を止め、銀髪を揺らしてゆっくりとレッドを振り返った。その涼しげな双眸に宿ったのは、怒りではなく、完全に底の見切れた哀れみと冷徹さだった。
「……ペテン師、か」
レムが小さく呟いたその瞬間、横から静かな足音が響いた。
美琴が一歩前に進み出る。彼女の瞳には、一切の感情が失われていた。
「そこまでです、無学者」
美琴は淡々と手帳を開き、計算され尽くした数字を、逃げ場のない宣告として突きつけた。
「今から、あなたが破壊したピッケル104本分の代金、村の備蓄損害、営業妨害、そしてギルドの特級ハンターに対する侮辱罪の賠償請求書を読み上げます。……耳をかっぽじって、その足りない脳髄に刻みなさい」