【SS】夜の艦橋、あるいは甘えん坊の特権
静まり返った鎮守府の夜。
扶桑の部屋の扉が、遠慮がちに、けれど迷いのない力で小さく叩かれた。
「あら、菅野さん? こんな夜更けにどうしたのかしら」
「……扶桑。なあ、今日はここで寝かせてくれ」
戦闘機から降り、小さな妖精の姿になった菅野は、いつもの不敵な笑みを綺麗に消し去って、子供のようにまっすぐ扶桑を見上げていた。
「ええっ!? そ、添い寝ですか……!? でも、私は戦艦ですし……」
「いいだろ、減るもんじゃなし。俺、昔から『かほる姉さん』の隣じゃないと、どうにも寝付けない時があるんだ。お前を見てると、なんだかあの姉さんを思い出す。……だめか?」
いつもは「バカヤロウ!」と豪快に笑うデストロイヤーが、耳まで赤くして、本当にただ寂しそうな顔で縋ってくる。史実の『最後の撃墜王』に記された、お姉さんの前でだけ見せるという「一番大人しい弟」の顔。そのあまりに無防備な瞳に、扶桑の母性センサーは一瞬で限界を迎えてしまった。
「……もう、仕方のない人ね。……少しだけ、ですよ?」
扶桑が困り眉で微笑み、そっと両手を差し出す。菅野妖精さんは待ってましたとばかりにその手のひらに飛び乗り、扶桑の着物の胸元、一番温かくて安心できる場所へともぐり込んだ。
昼間の荒々しさが嘘のように、驚くほど静かに、すとんと深い眠りに落ちていく。規則正しい「スースー……」という寝息が、扶桑の胸に優しく響いた。
ガッシャーーーン!!
「ちょっとおおおおお!!! そこの戦闘機!! !!!!!!姉様に何破廉恥なことしてんのよぉぉーーッ!!」
凄まじい勢いで襖を開け放ち、般若の如き顔で乱入してきたのは、案の定、妹の山城だった。
「静かに、山城。今、菅野さんはやっと眠りについたばかりなの。……見て、とっても大人しくて、可愛いお顔をしているわ」
「か、可愛い!? 騙されちゃダメよ姉様! その男、昼間は『デストロイヤー』とか呼ばれて艤装をぶっ壊して回ってる問題児よ!? すぐに叩き出して、私が姉様と添い寝するわ!!」
「スースー……うう、姉さん……」
「(ぴくっ)……ね、寝言で姉様って言った!? 確信犯よ! ギルティよ!! 扶桑型重火力による一斉射撃で今すぐ消し炭にして――」
「シーーー。静かにね、山城(満面の聖母の笑み)」
「……う、うう……姉様がそう言うなら……でも明日になったら絶対、艦首の爆風で消し飛ばしてやるんだからぁ……!!(涙目)」
おわり