この先は話の構成上、時系列が前後するかも知れません。読みにくさはご容赦を。
あの日から既に一月が経過した。
ブン…ブン…!
「炭治郎」
「はぁ、はぁ…!」
俺がもっと強かったら結果は違っていたかもしれない。倒せないまでも、煉獄さんが鬼になることは無かったかもしれない。
ブン…ブン…ブン…ッ!
「なあ炭治郎、飯ぐらい食えよぉ」
「はぁ、はぁ、はぁ…!」
善逸の気遣いが嬉しい。
事実、空腹は極限だ。
でも煉獄さんはもっと飢えているはず。
悔しい、情けない、俺はなんて弱いんだ!
もっと、もっと強くならないと…。
任務のない日は全部、死ぬ気で鍛錬だ。
いつまた十二鬼月と出くわすかも分からない。
それに…許せない。
俺は自分が許せないんだ。
あの夜からずっと…!
ーーーーーーーーーーー
『はぁ、はぁ…!!』
腹が減ったと、食糧を頼むと煉獄さんは言った。嘘だとすぐに判った…解ってしまった。禰豆子が鬼になりたての時と同じ感じがしたから。
俺を、人間を食うまいと、強靭な精神力で衝動を押さえつけていたんだ。俺を逃がすためにあんな事を言ったに違いない。
それでも俺は、もしかしたら普通の食糧も煉獄さんの場合は食べられるのかもしれない…と微かな望みに縋るように、仲間の元へ走っていた。
善逸や伊之助…仲間たちにどう説明する?いや、黙っているべきだろうか。煉獄さんはやっぱり間に合わなくて、猗窩座は逃げ去ったと言えば…ダメだ、俺の下手な嘘なんてきっとすぐにバレてしまう。
違う、今はとにかく食料を持って戻る、それだけを考えろ。
引き返した俺は善逸と伊之助に、無限列車内の駅弁などをかき集めるよう頼み、二人の質問には答えず急がせ、俺も箱に戻って眠っていた禰豆子を担いで…。
あの場所に再び向かったが、そこに煉獄さんの姿は無かった。
『戻ったか』
一人残っていた猗窩座。
仕掛けようとする伊之助を俺は手で制し、怯える善逸に禰豆子の箱を預けた。万が一戦闘になったら、善逸の足なら逃げ切れる可能性があると思ったからだ。
『猗窩座、煉獄さんはどうした?』
『炭治郎…それも含めて、杏寿郎からの言伝を預かっている』
俺は驚かなかった。そんな予感がしていたからだ。煉獄さんは死に際、俺たちに伝えたい事があると話していた。
面と向かって会うのは危険…そう判断したんだろう。言伝の内容は、
直接伝えられなくて面目ない。
己の鬼に打ち勝つため暫く修行する。
俺は敗れて死んだと伝えてほしい。
鎹鴉にもそう言い含めてある。
遺品の代わりとして刀を預ける。
日の呼吸について手掛かりがあるかもしれないので実家を訪ねるように。
それと禰豆子君を鬼殺隊の仲間と認める。
彼女を見習い、次こそ負けないように俺も強くなる。猗窩座にも、己の鬼にも。
仮に人間に戻れずともだ。
だから君たちも心を燃やし強くなれ。
また会おう、必ず。
そんな内容だった。
『俺は無惨の元には戻らず、杏寿郎の様子を見ることにした。どうやら無惨は俺の気配を見失っているようだからな…。でなければとうに様子を見に来ているか、根城である無限城に戻されているはずだ』
もしもの時は責任をもって煉獄さんを止める約束をしていた猗窩座は、やはり敵対するつもりは無いらしい。
俺は猗窩座に、鬼を人間に戻す可能性について協力を求めた。珠代さんの名は念のため伏せて。
『成程、強い鬼の血か…。杏寿郎の血も役立つかもしれないな。伝えておこう』
猗窩座はあっさりと了承し、血を少し提供してくれた。同様に煉獄さんの血を採取できたら指定の場所に持ってくると言い残すと、採血器具をひとつ預かり、瞬きの内に姿を消した。
ーーーーーーーーーーーー
(ーー俺は、頼ることしか出来なかった)
敵だった猗窩座に。
頭を下げる勢いで。
必要な事だと分かっている。
それでも、許せない。
「はぁ、はぁ……煉獄さんも、俺が、弱いから…!」
猗窩座に頼らざるを得なかった。
鬼と化した煉獄さんを止められる可能性があるのは、猗窩座だけだったから。
本当なら全てを黙認した俺が、やらなければならない事なのに。
ブン…!ブン…!ブン…ッ!ブン…ッ!!
「俺は!弱いから!責任を…!取ることすら…!出来ないんだッ!!」
許せない。
弱い自分を許すな。
素振りする手から血が滲む。
全身の筋肉が、骨が、悲鳴をあげる。
肺が燃えるように熱い。
そうだ、もっとだ。
もっと燃やせ。
心を燃やせ!
強くなれ、竈門炭治郎!
「うおおおぉぉオオオ!!」
ブンッ!!
「ーーどうした杏寿郎?」
「いや…なんでもない」
竈門少年の声が聞こえた気がして、つい素振りの手を止めてしまった。こんな山奥の洞窟に居るはずもないというのに。
「俺もまだまだ精進が足りないな!」
「…?あれから一月ほど経つが、格段に強さは増していると思うぞ。俺が言うのもなんだが、ただの木刀一本でよくもまあ人を喰わずここまでの領域に…」
首を傾げる猗窩座へ、俺は木刀を構える。
「猗窩座、やはりお前との会話はどうにも噛み合わないようだ。剣と拳で語り合うとしよう!」
待っていたとばかりに猗窩座は不敵な笑みを浮かべ、見慣れた構えを取る。
「よく言った杏寿郎!前回は不覚をとったが、同じ手は通じないぞ?…来い!」
鬼同士の闘いで決着は困難を極めるが、ここに居るのは二人の純粋な好敵手同士。互いの実力は最早遜色なく、それ故に負けを認める時も潔い。
漆黒の洞窟内に、激しい火花が咲き乱れた。
狛治さんの存在によって、特に影響を受ける人物に視点を当てていく予定です。