猗窩座は逃げない   作:サモエド仮面

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お館様の心情って難しいなと改めて思いました。
大人しく三人称にすれば良かった…判断が遅い。


四. 産屋敷耀哉の場合

 

うん、今日は良い天気みたいだ。

それがせめてもの救いだろうか。

雨が降っては怪我に障ってしまうから。

 

「すまないね炭治郎。傷もまだ癒えていないというのに」

 

「い、いえそんな!…あ、お館様におかれましては…」

 

「クス、大丈夫だよ。今は柱合会議ではないから、そう畏まらなくてもいい」

 

「はっはい!」

 

私が呼び出した子供、竈門炭治郎。

もう私の目では殆ど姿は見えないが、

きっととても緊張していることだろう。

あれからまだ十日と経っていない中、申し訳なく思う。

 

「無限列車の件は、要から…杏寿郎の鎹鴉から、大体の事を聞いているよ。よく下弦の鬼を倒し、無事に帰ってきてくれたね。ありがとう」

 

それでも私は、彼と話したかった。

だから心苦しいけれど、許してほしい。

 

「そんな…俺一人じゃとても無理でした。勝てたのは仲間が居たからです。それに…」

 

「そうだね。伊之助、善逸、禰豆子…それに杏寿郎も、よく頑張ってくれた」

 

「!……はい」

 

竈門炭治郎。

鬼になってしまった妹の禰豆子を人に戻すべく、鬼殺隊に入隊したという彼。

鬼舞辻無惨と接触し、生き延びている事実。

それだけで十分に『なにか』を感じずには居られない。私の勘が、そう言っている。

そして今日、こうして呼んだ理由もまた。

 

「炭治郎。私はどうしても、直接聴きたかったんだ。あの場にいた君の口から、杏寿郎の最期を。…教えてくれないかな?」

 

私はそう問いかけ、いつも通り微笑んだ。

炭治郎はというと、言い淀み困ってしまったような雰囲気だったけれど、少しずつ言葉を選ぶように教えてくれた。

 

列車の乗客は、杏寿郎の大きな働きもあって全員生還したという事。

上弦の参の鬼、猗窩座の襲来。

一騎打ちの死闘。

だが討ち取るには至らず、夜明けと共に猗窩座は逃げ去ったという。

そして杏寿郎は…。

 

「杏寿郎は…どうしたんだい?」

 

言葉に詰まった炭治郎へ、私は確認するように尋ねる。

炭治郎は正座の姿勢を崩さぬまま、何かを膝の前に差し出した。

 

「それは…刀、だね」

 

「はい…煉獄さんの日輪刀です。遺品として、これを渡すように…と」

 

「そうか…それは杏寿郎の家族に、炭治郎が持っていってほしい。傷が癒えてからで構わないから、頼まれてくれるかい?」

 

「わ、わかりました」

 

少しホッとした様子の炭治郎に、私はもう一つ、どうしても聞かなければならない。

 

「では、杏寿郎の遺体はどこかな?」

 

「……!!」

 

「現場に赴いた隠からは、杏寿郎の姿はどこにも無かったと聞いている。杏寿郎の鎹鴉も、彼は死んだと言うばかりでね。せめて遺体だけでも、煉獄家に帰らせてあげなければと思ったんだ」

 

「そ、それは…」

 

「それは…?」

 

炭治郎はきっと、とても純粋で正直者なのだろう。初対面の時からそんな節があった。だから私は、そこに無遠慮につけ込むような真似をしている。

 

「……こ、答えられません!」

 

炭治郎は頭を下げてしまった。

答えられない…か。

 

「それは、杏寿郎の行方を知っているけれど言えない…という事かな?」

 

「そ、それも…言えません!」

 

炭治郎はすっかり困ってしまっているようだ。もしかして私は、自分が思っているよりも意地が悪いのかもしれないね。

 

「じゃあ、これは私の憶測だけれど。杏寿郎は上弦の鬼に唆されて、命惜しさに鬼となり我々の敵になってしまったのかな」

 

「それは絶対に違いますッ!!」

 

立ち上がり叫ぶ炭治郎。

 

「あっーーー」

 

「…ありがとう炭治郎。それを聞けただけで十分だよ」

 

私はその時、笑っていたのだと思う。

 

「も…申し訳ありません!」

 

「謝るのは此方のほうだよ。意地の悪いことばかり言ってしまって、すまなかったね」

 

深々と頭を下げると、炭治郎は慌てて頭を擦り付けんばかりに土下座をしてしまった。

 

そうして炭治郎にはしっかり療養するように告げ、帰らせた後。

 

「お疲れ様でした」

 

妻のあまねが労い、手を引いてくれた。

 

「うん、ありがとう」

 

「良かったのですか?彼にもっと問いたださなくても」

 

あまねは尤もな疑問を投げかけた。

嘘が付けない彼は、叩けば埃がまだ出るに違いない。私も最初はそう思った。

 

「良いんだ。炭治郎はきっと、杏寿郎の誇りを懸命に守ろうとしている。今は言えない事でも、時期が来れば話してくれると思うんだ」

 

本来なら全て明るみにし、私だけでも把握しておくべきなのかもしれない。そうすれば炭治郎たちの負担も減るだろうし、今後の対策も立てやすいかもしれない。

けれど、今はそっと見守ろう。

 

「ふふ、勘ですか?」

 

「勿論そうさ」

 

炭治郎が現れた事で少しずつ動き出した、運命の歯車がまたひとつ、大きく動く音が聴こえるような。

 

(杏寿郎…)

 

『お館様!ご壮健で何よりです!』

 

また彼の元気な挨拶が聞けるような。

そんな予感がした。

 

 

 

 

 




〜帰り道〜

炭治郎「あぁ、ごめんなさい煉獄さん」
隠「だからもう泣くなって…ほら鼻水ふけって」
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