大人しく三人称にすれば良かった…判断が遅い。
うん、今日は良い天気みたいだ。
それがせめてもの救いだろうか。
雨が降っては怪我に障ってしまうから。
「すまないね炭治郎。傷もまだ癒えていないというのに」
「い、いえそんな!…あ、お館様におかれましては…」
「クス、大丈夫だよ炭治郎。今は柱合会議ではないから、そう畏まらないでおくれ」
「はっはい!」
私が呼び出した子供、竈門炭治郎。
もう私の目では殆ど姿は見えないが、
きっととても緊張していることだろう。
あれからまだ十日と経っていない中、申し訳なく思う。
「無限列車の件は、要から…杏寿郎の鎹鴉から、大体の事を聞いているよ。よく下弦の鬼を倒し、無事に帰ってきてくれたね。ありがとう」
それでも私は、彼と話したかった。
だから心苦しいけれど、許してほしい。
「そんな…俺一人じゃとても無理でした。勝てたのは仲間が居たからです。それに…」
「そうだね。伊之助、善逸、禰豆子…それに杏寿郎も、よく頑張ってくれた」
「!……はい」
竈門炭治郎。
鬼になってしまった妹の禰豆子を人に戻すべく、鬼殺隊に入隊したという彼。
鬼舞辻無惨と接触し、生き延びている事実。
それだけで十分に『なにか』を感じずには居られない。私の勘が、そう言っている。
そして今日、こうして呼んだ理由もまた。
「炭治郎。私はどうしても、直接聴きたかったんだ。あの場にいた君の口から、杏寿郎の最期を。…教えてくれないかな?」
私はそう問いかけ、いつも通り微笑んだ。
炭治郎はというと、言い淀み困ってしまったような雰囲気だったけれど、少しずつ言葉を選ぶように教えてくれた。
列車の乗客は、杏寿郎の大きな働きもあって全員生還したという事。
上弦の参の鬼、猗窩座の襲来。
一騎打ちの死闘。
だが討ち取るには至らず、夜明けと共に猗窩座は逃げ去ったという。
そして杏寿郎は…。
「杏寿郎は…どうしたんだい?」
私は確認するように、炭治郎を見た。
炭治郎は正座の姿勢を崩さぬまま、何かを膝の前に差し出した。
「それは…刀、だね」
「はい…煉獄さんの日輪刀です。遺品として、これを渡すように…と」
「そうか…それは杏寿郎の家族に、炭治郎が持っていってほしい。傷が癒えてからで構わないから、頼まれてくれるかい?」
「わ、わかりました」
少しホッとした様子の炭治郎に、私はもう一つ、どうしても聞かなければならない。
「では、杏寿郎の遺体はどこかな?」
「……!!」
「現場に赴いた隠からは、杏寿郎の姿はどこにも無かったと聞いている。杏寿郎の鎹鴉も、彼は死んだと言うばかりでね。せめて遺体だけでも、煉獄家に帰らせてあげなければと思ったんだ」
「そ、それは…」
「それは…?」
炭治郎はきっと、とても純粋で正直者なのだろう。初対面の時からそんな節があった。だから私は、そこに無遠慮につけ込むような真似をしている。
「……こ、答えられません!」
炭治郎は頭を下げてしまった。
答えられない…か。
「それは、杏寿郎の行方を知っているけれど言えない…という事かな?」
「そ、それも…言えません!」
炭治郎はどんどん困ってしまっているようだ。もしかして私は、自分が思っているよりも意地が悪いのかもしれないね。
「じゃあ、これは私の憶測だけれど。杏寿郎は上弦の鬼に唆されて、命惜しさに鬼となり我々の敵になってしまったのかな」
「それは絶対に違いますッ!!」
立ち上がり叫ぶ炭治郎。
「あっーーー」
「…ありがとう炭治郎。それを聞けただけで十分だよ」
「も…申し訳ありません!」
「謝るのは此方のほうだよ。意地の悪いことばかり言ってしまって、すまなかったね」
深々と頭を下げると、炭治郎は慌てて頭を擦り付けんばかりに土下座をしてしまった。
そうして炭治郎にはしっかり療養するように告げ、帰らせた後。
「お疲れ様でした」
妻のあまねが労い、手を引いてくれた。
「うん、ありがとう」
「良かったのですか?彼にもっと問いたださなくても」
あまねは尤もな疑問を投げかけた。
嘘が付けない彼は、叩けば埃がまだ出るに違いない。私も最初はそう思った。
「良いんだ。炭治郎はきっと、杏寿郎の誇りを懸命に守ろうとしている。今は言えない事でも、時期が来れば話してくれると思うんだ」
本来なら全て明るみにし、私だけでも把握しておくべきなのかもしれない。そうすれば炭治郎たちの負担も減るだろうし、今後の対策も立てやすいかもしれない。
けれど、今はそっと見守ろう。
「ふふ、勘ですか?」
「勿論そうさ」
炭治郎が現れた事で少しずつ動き出した、運命の歯車がまたひとつ、大きく動く音が聴こえるような。
(杏寿郎…)
『お館様!ご壮健で何よりです!』
また彼の元気な挨拶が聞けるような。
そんな予感がした。
〜帰り道〜
炭治郎「あぁ、ごめんなさい煉獄さん」
隠「だからもう泣くなって…ほら鼻水ふけって」