畜生、どうなってやがる。
柱の野郎は確かに強えが、俺ほどじゃねえ。
「お兄ちゃん!なにやってるのよ!」
首だけなのにうるせえ妹は俺の背中に、なんとか髪の毛を帯にして巻きついている。つまり俺はさっきから両手が空いてまともに戦ってるんだがなぁ。
【血鬼術-『円斬旋回』!!】
【音の呼吸・伍の型-『鳴弦奏々』!!】
俺の技に柱野郎がまず反応する。
威力はほぼ互角だが範囲は俺が勝ってる。
【ヒノカミ神楽・陸の型-『日暈の龍・頭舞い』】
なのに、この炭治郎とかいう奴が、弱っちいクセに穴埋めする感じで追撃してきやがる。少しずつ俺の動きにも慣れてきて。
「ぁああ〜鬱陶しいなあぁぁ!?」
一丁前に俺の頸を狙ってんじゃねえよなぁぁ?先に目障りなコイツを殺っちまいてえのに、柱が上手いこと割り込んで来やがる。
「竈門!まだ行けるか?」
「ハァハァ…はい!宇髄さんと少しでも特訓できたお陰です!」
「そうだもっと敬え!一気に決めるぞ!」
チッ、こいつら道理で連携ができてる訳だ。俺たちの倒し方も、毒の事も、前もって知ってて備えて来たってことかよ?ふざけるなよなぁぁ!?
くそったれが、もっと人を喰って力つければ…!
「…チッ、隠れたか。逃げ足の速え野郎だ」
何とか上手いこと距離を取れたか。仕方ねえ、今のうちに妹に頼るしかねえなぁ。
「おめぇの人質すこしくれ。そうすりゃあ」
「それが、アイツらに見つかって逃がされたみたい…あたしの分身も逃げようとしたけどやられちゃって…」
「は…?なんだそりゃあ!?」
「仕方なかったのよ!まさか場所がバレるなんて思わなかったし…さっきの黄色頭の他にも変な猪頭と、遊郭に忍び込んでた女も居て…藤の花の毒まで使われたの!」
…つうことは、やっぱり全部筒抜けってことだよなぁ。よく見たら街の人間も見当たらねえし、騒ぎを知って逃げたにしちゃあ早すぎるよなぁ?雲隠れしてる猗窩座の野郎が俺たちを売ったって考えるのが普通だよなぁぁぁ〜!?
「…許せねぇ許せねぇぇ、俺たちから取り立てるんじゃねえよなぁぁ!!」
くそったれがぁ、すぐ反撃してぇが…この調子だと柱がもう一人や二人来てもおかしくねぇ。いっそ逃げるか?とにかく今はここを切り抜けねえと…。
「………お兄ちゃん」
「…なんだぁ?」
ぎゃーぎゃー喚いてたのに、急にしおらしくなっちまって、何か言いたそうだなぁ。
「あたしたちは、二人なら最強だよね」
「あぁ…?」
俺の口癖だ。なにを今さら…。
「だから、このまま負けちゃうぐらいなら……いいよ、あたしを食べても」
「!?」
妹の髪帯の締めつけが、少しだけ強くなる。
「な、なに言ってやがる…そんな事したらおめぇ、元に戻れねぇかも知れねえんだぞ?」
妹を取り込んで『本当にひとつに』なれば、確かに今より強くなるだろうがなぁ…普段俺がコイツに潜んでるのとはワケが違う。
俺がこいつを喰う…完全な融合ってやつだ。
考えた事はあるが、正直それをすると俺もどうなるか分からねえし、それに、
「それになぁ、俺は綺麗なおめぇがたった一つの自慢だ。頭は少し足りねぇ、口は煩えし頸は今まで何回も斬られちゃあいるが、それでも…」
「でも!負けたら、死んだらお終いでしょ!?悔しいの…あんな男に手玉に取られて、まんまと出し抜かれた。鬼としても花魁としても、このままじゃあたしは自分を許せない。だから、お願いお兄ちゃん…」
…背中が濡れてて、熱いなぁ。
「ほんっとおめぇは…いつまで経っても泣き虫のままだなぁ」
俺は背中の妹の頭を正面に持ってくる。
そしていつものように、その汚ねえ顔を拭って綺麗にしてやった。
「ぐす、お兄ちゃん…」
「おめぇの言う通りだ。俺たちは二人なら…ましてやそれが合わさりゃ、そりゃあもう最強の最強だからなぁ」
「…うん、絶対勝ってね!」
俺は返事の代わりに妹を抱きしめてやる。
すると俺のガリガリの胸に、溶け込むように妹は吸い込まれて、最後に笑った。
「…見つけた!宇髄さん、こっちです!」
「随分と遠くまで逃げやがって、妹の身体でも探してたか?」
多分もう、こいつの笑顔は見れねぇんだろうなぁ。こいつは怒ってる顔も泣いてる顔も可愛いが、やっぱり笑ってるほうが綺麗なんだよなぁ。俺が出てくる時は大体やられそうな時で、笑顔なんか暫く見てなかったけどなぁ…。
「許せねぇ」
よくも。
「許せねぇなぁ」
よくも、俺から妹の笑顔を…奪いやがって。
「な、なんだ!?奴の気配が…」
取り立ててやる。必ず。
おめぇの覚悟、無駄にしねぇからなぁ。
「てめぇらアアア!散々やってくれやがって…取り立ててやるからなぁぁ!百万回ぶっ殺してやるからなぁーーーーッ!!」
「!?竈門、逃げ-」
【血鬼術・八重帯ノ鎌斬リ】
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「…い、生きてるか竈門」
宇髄さんの声で、俺は気がついた。
気を失っていたのか俺は。
凄まじい衝撃に吹っ飛ばされた、らしい。
何が起きたのか分からない程の。
「は…はい、何とか…うぐっ!」
ぜ、全身が痛い。右足と…肋骨もやられている。でもさっきの攻撃、この程度で済んだのが奇跡だ。
「また、宇髄さんが守って…?」
「いや…単に運が良かっただけだ。この俺でも見切れない技だったが、どうやら俺たちを狙いきれなかった…って感じだ」
俺は宇髄さんの視線の先…つい先程までよりも、遥かに強烈な鬼の匂いを発する敵を凝視する。鼻が麻痺しそうなほどに匂いが濃くなっている…まさか…。
「まさか、妹の鬼と合体を…!?」
「多分そうだろうな。技の出だしに奇妙な帯みたいなもんが見えた。それが元々そいつの血鬼術だったんだろうが…チッ」
「はっ…宇髄さん!腕が…!?」
見ると宇髄さんの左腕がへし折れていた。
そして刀の片方は刀身部分がボロボロだ。
それに何かの破片が腹に刺さっていて、出血が酷い。すぐに処置しないと命に関わるかも知れない。
「大したことねぇ…と言いたいが…」
敵はゆっくりこちらへ歩いて来る。
くそ、構えろ。次は防がないと。
本当に合体したなら、初撃はその力を使いこなせていなかったんだと思う。けどすぐに慣れてしまうだろう、その前に倒さなければ!
「竈門…撤退だ」
「え?」
な、何を…。宇髄さんは鬼から目を切らずに右手で残った刀を構えている。
「負けるつもりはねえが、ハッキリ言って勝ちの目は薄くなった。だが幸い夜明けは近い。俺が殿で耐えてる間にお前らは撤退して、奴の情報をお館様に報告しろ」
「そ、そんな!この鬼は今ここで倒さないと…それに、避難させている人達は…!」
確かに夜明けは近い。逃げの一手を打てば俺たちは夜明けまでに逃げ切れるかも知れない。
けど、逃げた町の人達を狙われたら、夜明け前に皆きっと喰われてしまうだろう。
「させねえ!俺があいつを此処に足止めする。俺は元忍びだって言ったろ?地味に幾つも策はあるんだよ」
「宇髄さん…でも…!」
「事前に決めたろうが、不測の事態は撤退優先だってな。生きてる奴が勝ちなんだ!最後に派手に勝てばいい。…これは柱としての命令だ。俺も後から追いかける」
あぁ、またか…。
分かってしまう、宇髄さんから、
覚悟の匂い。
ここで死ぬ気だ。
俺たちを、街の人を守って。
「手筈通り、撤退合図の閃光弾を打ち上げる。街の住人は俺の嫁たちと隠が上手く逃がしてくれるだろう。我妻と猪頭はそう消耗していない筈だ、万が一の為に住人の護衛を頼め。…任せたぞ、竈門」
「…お、俺も一緒に………ッ…!!」
食いしばる歯から血が零れる。
また失ってしまう。
二人で戦っても、いや善逸と伊之助と全員で戦ってたとしても、おそらく今の状況では勝てない。そのぐらい敵は強い、強くなってしまった。
ここまで作戦が上手くいっていたのに、俺が…もっと柱並に強ければ、こうなる前に頸を斬れていれば…!!
何のために猗窩座に頭を下げた。
何のために敵から情報を貰った。
今日ここで勝つためじゃないのか。
宇髄さんは本来、勝って助かると言っていたのに、ここで死んでしまうのか。
俺が弱いから?きっと本来の俺は、もっと修行して強くなったんだろう。足りなかったから、及ばなかった。頸に刃が届かなかった。俺のせいだ、俺の。
来る。敵が来る。
もう瞬きの間にあの攻撃が。
宇髄さんが合図を構える。
時間が引き伸ばされる。
全てがゆっくりと流れる。
攻撃が来た。不思議と見える。
命令だぞ、逃げろ。
だめだ、俺はもう逃げない。
逃げられない。死なせない。
たとえ命を捨てても。
禰豆子の箱がない。衝撃で壊れたか。
どうか無事でいてくれ。逃げてくれ。
ごめん禰豆子、俺は。
【炎の呼吸・肆ノ型-『盛炎のうねり』】
どこか懐かしい声。
「よく頑張ったな、二人とも!」
夢に何度も見た背中が。
俺と宇髄さんの危機を救った。
オリジナル展開です。
狛治さん?残念!薩摩さん(仮名)でした!
なお狛治さんはこの物語の主人公です(震え声)