俺たちの危機を正に間一髪、颯爽と現れたそいつは何度も見た技を…だが明らかに練度が桁違いな技を使いやがった。
その背中、派手な髪、間違いねぇ。
「本当に生きてやがったか煉獄!この俺よりド派手に登場するとは-」
「さつまだ」
「は?」
俺が手厚く歓迎してやろうと思ったら、振り向いたそいつは妙な狐の面をつけてやがった。俺を差し置いて祭りの帰りか?
「煉獄なにがしではない。我が名は薩摩!謎の仮面剣士だ!」
「……あー、だからお面?そういうアレか」
成程、一応は死んだことになってるから正体は不明でよろしくって事だな。元忍びなめんなよ、その程度の察しはつくんだぜ。
(錆兎にちょっと似てるなぁ)
おい竈門わかってんのか?なに妙なほっこり顔してやがる?
「む…やはり木刀では無理があったか。すまない竈門少年!予備の刀など持ってはいないだろうか?」
「いや隠す気ないだろオイ」
初対面のはずの奴の名を知ってたらおかしいだろうが仮面剣士。あと髪なんとかしろや、一番目立つとこだろうが。
「あ、それでしたら…これを」
竈門は思い出したように、ずっと腰にさしていた包みの長物を取り出す。刀だろうとは思っちゃいたが…。
「これは…!何故…」
「折れていたものを、千寿郎君に頼まれてそのまま預かっていたんです。お館様伝で刀鍛冶さんに直していただいて、いつでも渡せるように持ち歩いていました」
「千寿郎が…?」
「はい、その時に言ってたんです」
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『えぇ!?だ、ダメだよ千寿郎君』
『お願いします。そうした方が良いような気がするんです。もしかすると兄の刀鍛冶さんなら修復出来るかもしれませんし。それに…』
『それに…?』
『なぜでしょうね、兄が死んだ実感が全然わかないんです。明日にでもひょっこり帰ってくるんじゃないかって。でもその刀を受け取ってしまえば、兄の死を認めたことになりそうで…』
『千寿郎君……じ、実は』
『炭治郎さん、お願いします!兄の遺体は見つからなかったんですよね?もし、もしも何処かで生きていて、会うことができたなら……僕と父は元気でやっていると、いつでも帰りを待っていると、お伝えください…!』
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「…そうか、その兄は幸せ者だな」
「れん…薩摩さん。この刀は貴方にお預けします。この先もしも、煉獄さんに偶然お会いしたら返してあげてください」
竈門は神妙な面持ちで、多分同じく神妙な面持ちだろう(仮面で見えねえから)薩摩に、見慣れた鍔付きの刀を手渡した。
「うむ…心得た!」
頷く薩摩…ってかさっきの技、木刀でやったってことかよ?有り得ねえだろ…元々べらぼうに強い奴だったが、鬼になるとここまで変わるもんなのか?
「すまない、待たせたな!」
「構わないぜぇ俺は優しいからなぁ…てめぇも鬼のクセに人間の味方するんだなぁ?」
鬼の野郎はれん…薩摩が現れてから、警戒したのか様子を見ていたのか、成り行きを不気味に静観していた。
「それは少し違う!君が悪い鬼でなければ俺は敵対しないだろう。しかし残念ながら君は、多くの人を殺め喰っている。だから許すわけにはいかない!」
「許さねえのはこっちなんだよなぁ。ククク…てめぇらが仲良くお喋りしてる間、俺が只ぼ〜っと突っ立ってるだけだと思ったかぁ?」
「むっ!」
なんだと?何を…や、やべぇ!いつの間に-
「仲良し同士まとめて死ねよなぁ!!」
【血鬼術・『二十重ノ血鎌』】
前後左右、いや全方向から毒の鎌が飛んでくる。しくじった、呑気に話してる場合じゃなかったか…いや警戒はしていた。それを気づかれない程の高度な隠し技!
逃げ場がねぇ!
「鬼だろうが今の俺の毒を喰らえば、立ってることすら出来ねえだろう。四方八方から隙間なし、お仲間を盾にすりゃあ無事に済んだかもなぁ〜?」
確かに逃げ場は無かった…だが、
「見事な技だった!」
「…なんだとぉ」
「無数の帯のようなものを、それもほぼ透明にして広範囲に展開したか。しかも帯からよもや無数の飛び道具が出てくるとは恐れ入ったぞ!」
「恐れ入ったなら大人しく喰らえよなぁ〜?なにしやがった」
「なに、単に全てを斬っただけだ!」
そう、薩摩がやった事は至極単純…俺でさえ動きが見えない程の速さで刀を振るい、向かってくる毒鎌の刃を切り伏せたんだ。
(斬った…だと?奴の血鬼術かぁ…?)
「二人とも、すまないが下がっていてくれ。…奴は俺が倒す!」
…チッ、自信満々に言ってくれやがる。
憎たらしいほどに頼もしくなりやがって!
「悔しいがその方が良さそうだな。竈門、ここから離れるぞ。ほら方足やられてんだろ?肩かしてやる」
「ぐっ、すみません…薩摩さん!」
「案ずるな、任せろ!」
「逃がすわけねえだろがぁぁ!!」
「させん!」
俺たちは何故か相当やつに目の敵にされてるからか、正に鬼の形相で襲いかかるところを薩摩が間に割って入る。
柱として情けねえ限りだが、遠慮なく頼らせてもらうぜ…煉獄!
「くそったれがぁぁ、奴らは許せねえんだ。いきなりしゃしゃり出てきて邪魔すんじゃねぇよなぁぁ!?」
「何をそんなに怒っている?」
遠巻きに様子を見る。万全の俺でも邪魔になりかねないほどの激しい攻防をしながら、何か話しているらしい。だが聞き取れる距離じゃない…ので忍びらしく唇を読む。
「アイツらのせいで、俺はもう妹に会えねえ…喧嘩することさえ出来なくなった!俺から奪いやがったんだ!」
「だが君たちが今まで喰ってきた者にも、同じように大切な人が居た!奪ったのは君たちの方ではないのか?」
「他人なんざ知ったこっちゃねえなぁ?だから必ず取り立ててやる…奴らからも、邪魔するてめぇからもなぁぁ!」
「悪いが君とは相容れないようだな!」
もはや剣撃どころか、その姿すら霞んで見える速さの戦い。それが暫く続き…。
「ハァ、ハァ…化け物がぁ…」
「化け物、か…その通りだ」
限界を越えた動きを続けたからか、敵のほうは鬼に珍しく息が上がっていた。傷の治りも遅くなりつつある。だが薩摩はというと無傷どころか息ひとつ上がっちゃいねえ。力の差は歴然だった。
「許せねえ許せねえ…どいつもこいつも俺たちの邪魔しやがってぇぇ!俺も危ねえ技だから、これは使いたくなかったが…辺り一帯消し飛ばしてやらぁああ!!」
なんだ?敵の鬼が…やせ細った身体が膨らんできてねぇか?なんかヤバい予感だ。
俺は竈門を抱えて更に距離を取る。
「なにを…!?」
「へ、へへ…俺の身体んなかの毒を爆発させて撒き散らすとなぁぁ、この遊郭の広さくれぇなら丸ごと射程範囲だ。テメェは生き残れるかもしれねぇが、他の奴らはどうだろうなぁぁ?」
「自爆技か!」
「おおっと、頸を斬るか?やってみろよ。刺激与えたらうっかり爆発しちまうかもしれねえがなぁぁ?」
何をしてる薩摩、さっさと頸を斬っちまえ!俺たちの事を気にしてるんだろうが、今やれば多分被害は俺たちだけで済むだろうが!
「くっ…!」
「ハッハッハ!てめぇは確かに俺より強え。だがてめぇは守りきれなかった!俺はキッチリ取り立てるぜぇ?だから俺の勝ちだよなぁぁ!」
馬鹿野郎、鬼になっても甘い所は変わんねえのかよ…。
「おいおい、打つ手なしで刀を鞘に戻したのかぁ?みっともなく足掻いてみろよなぁ〜?無駄な悪あがきだがなぁ〜?」
「---コオォォォ…」
待て、ありゃあ何の構えだ?
納刀からの深い抜刀の構え…俺の知らない炎の型か?
我妻の型に少し似ているが…。
「なんだ?…てめぇ、それは…」
すると不意に、薩摩の呼吸が変わった…ような気がした。目の錯覚か?いつもの炎の呼吸とも違う…白く、光ってる?
熱がここまで伝わるような感覚。
なんだこりゃ…でもこれは、どこかで…。
「俺は…何も奪わせない!ここの民も、仲間も!そして-」
「ま、眩しい…目が焼けそうだ…!なんだそれは…何なんだテメェはぁぁ!?」
闇夜を照らすような輝きに目が眩む。
くそ、何が起きてやがる…!
「我が名は薩摩。鬼に仇なす者…貴様の鬼を、斬るッ!」
「やめろ…やめろおおォォォーーー!!」
敵の断末魔が聞こえなくなり、ようやく俺は決着がついたのだと理解した。
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「…はっ!?お、俺は斬られて…」
確実に頸を斬られたのだと思った。
だが俺は何故か無事で、すぐ隣には妹が…っておい待て、なんで火が!
「う、梅!梅!?なんで燃えてんだ…おい、助けてくれ!妹を助けてくれっ!俺はどうなってもいい!梅だけは…!」
前にもこんな事があった気がする。あの時はもう黒焦げだったが、今なら間に合うはずだ。どこかに水は…誰かいないのか!?
「んん……お兄ちゃん…?」
「う、梅…!」
俺が騒いで目を覚ましたのか、梅は呆けた顔で目を擦った。おま、大丈夫なのか!?
「えっ燃えてるよお兄ちゃん!?」
いやそれはお前の方…ってマジかよ。
「俺も…?たしかに燃えてるのに、熱くねぇ…むしろ…」
「あたしも…何だろう、とっても暖かい…まるで…お日様に包まれてるみたい…」
…あぁ、そうだ。最期の記憶が冬のクソ寒い時だったから…すっかり忘れちまってた暖かさだ。
「そういやもう随分、太陽なんて見てねぇもんなぁ…」
春はよく、天気いいと桜を見に行ったよなぁ。
お前と桜は並んでると絵になってなぁ。
「…あたし、お兄ちゃんとお散歩したいな。小さい頃みたいに手つないで」
「そいつはいいなぁ…こんなあったけぇなら、気持ちいいだろうなぁ」
うまい昼飯でもあれば尚良かったのに、貧乏で用意できなくってなぁ…。
「うん、いこ?お兄ちゃん!」
「おいおい、はぐれるなよ?しっかり手つないでおくからなぁ…」
でも不思議と満たされてるんだよなぁ。
ああ、神様…また妹の笑顔を見せてくれて、ありがとう---。
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「これは…さっきの鬼たち、か?」
光が収まった場所に戻ると、そこには鬼の面影を少し残した…兄と妹が、手を握りあい、寄り添うように横たわっていた。
二人とも息はない。だがその表情は穏やかで、まるで普通に眠っているようだ。
「ああ。悪い鬼はもう居ない…仲の良い兄妹が、ただ安らかに眠っているだけだ」
「鬼は死んだら消えるはずなのに…人間に、戻って…!?」
竈門が驚くのも無理はない。
俺も顔には出さねえが吃驚仰天だ。
頸を斬らずに鬼を倒す…胡蝶の毒はまさにそれだが、同じとは思えない技。
「れんご…薩摩、どうやったんだ?」
「それが俺にも良く分からん!奴が危険な技を出そうとした時、何とか食い止めなければと思ったんだが…無我夢中で、気がついたらこの様だった!」
だいたい予想通りの返事だった。
いや具体的に解説されても困るんだがな。
「これも血鬼術、なんでしょうか?…もしかして、その技で禰豆子も人間に…!」
「いや、流石に試すのは危険だろう。また同じように行くとは限らんし、そもそも死んでしまっては元も子もない!」
「そ、そうですよね…。そういえば禰豆子の血鬼術は、鬼の血鬼術を打ち消すような力があるんです。あの鬼の毒はしのぶさんの解毒剤で対策してたんですけど、やっぱり少し毒が回ってて、さっき禰豆子がそれを燃やしてくれたんですが…」
それは俺も思った。似ているなと。
竈門の妹と薩摩の共通点…鬼になり、しかし人を喰っていない事か?そして薩摩は呼吸を使えるっていう点も…いや推測の域は出ないな。
「鬼になったこいつの技にも、似たような効果があるってか?術どころか鬼そのものを斬る技、か…」
「ふむ…名付けるとしたら、おにぎ-」
「鬼滅の、刃…鬼滅刃?」
「鬼滅刃か、中々に派手な名前だな」
「おお!良い名だ竈門少年!この鬼滅刃…完全に習得すべく励むとしよう!」
なんか薩摩が不穏な名付けをする気がしたが、気のせいだろう。竈門よくやった!しかしこの技は完成すれば、文字通り鬼殺の必殺技になるんじゃねえか?どう報告するか悩みどころだが。
……ん?そういやあ。
「ところで薩摩、相方は一緒じゃなかったのか?ほら洞窟でコソコソ話してたろ」
俺はいつぞや尾行した時の事を思い出す。
そして嫌な予感はまだ俺の背を撫でている。
「やはりあの時の気配は宇髄だったか!うむ、実は途中まで共に行動していたんだが…」
突如響き渡る轟音。
「!?-今の音は…」
「向こうから…しまった!皆を避難させている方向です!」
「新手か…ぐっ」
走ろうとしたが身体がふらつきやがる。
くそ、応急処置はしたんだがな…失血しすぎたか…。
「二人は傷が深い、俺が行こう!」
「お願いします!…薩摩さん、もうすぐ夜明けですから気をつけて!」
竈門の呼び掛けに頷くと、薩摩はもう見えなくなった。
あの鬼に集中しすぎたか…また別の鬼が…?
そういや猪頭も気配がねぇ。我妻と合流できたのか?
くそ、状況が読めねぇ…。
治ったら地味にイチから鍛え直しだな。
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「おかしいな〜、これは俺の優しさなのに…なんで邪魔するのかな?猗窩座殿〜」
「俺の名は…狛治だ」
遊郭の夜は、まだ終わらない。
次回、ようやく主役が活躍します。
突っ込み柱の宇髄さんは忍びだから万能でしたね。
こんな倒し方があってもいいかな…と思ったら水の呼吸にも慈悲の技ありましたね。炎の呼吸にもあるんでしょうが、それとは別の技ということで何卒ご容赦を(土下座)