【真田教官】
「8分間!!それが実戦配属された新任衛士の、初陣に於ける平均生存時間だ!」
黒板を叩き教官がそう言うのを焔は眺めていた。そして視線を講義を受けてる衛士候補生達に移して観察する
【焔】
(死の8分を乗り越えられて初めて人類に貢献出来る。か、研究所で見た教本とまんま同じだな)
既に知ってることを聞かされてこの見学が本当に意味があるのかと疑問に思っていると焔の左後ろの席の生徒達がこそこそと話し出した。
【焔】
(講義中なのにどこへ行くとか彼氏がどうとか講義と関係ない話をして何がしたいんだ?)
学生経験のない焔には安芸や和泉のたわいのない会話の意味が全く理解できなかった
【唯依】
「あなた達、今は講義中よ。ちゃんと集中して」
そんな2人を隣の席の唯依が注意するが安芸は聞き入れずムダ話を続ける
【唯依】
「あなた達──」
【真田教官】
「──席次番号19番ッ!」
もう一度注意しようとした唯依に運悪く教官が声をあげる
【唯依】
「は、はい教官殿ッ!」
慌てて起立する唯依を焔は横目で見る
【真田教官】
「…篁か、ほう…篁候補生、譜代の名門出に、平民である俺の講義はいささか退屈過ぎたか…あ?聞く価値はないと?」
【唯依】
「いえ、教官殿!」
【真田教官】
「だったら続きを言ってみろ。当然、俺の質問も聞いてくれていたのだろう?」
そんなことはないと即答したが安芸達のほうに注意が行ってしまって教官の話を聞けなかった唯依には答えられるわけなどない
【唯依】
「は、教官殿!そ、それは…」
【焔】
「BETAの正式名称…」
どう答えれば良いかわからず困っているその時、焔がボソッと問題を口にする
【唯依】
「ッ!Beings of the Extra-Terrestrial origin which is Adversary of human race。人類に敵対的な異星起源種と言う国連呼称です」
【真田教官】
「……ふん、まぁいいだろう。座れ!」
教官の許しがでて唯依は安堵しながら着席し助けてくれた焔にたいし御礼をしようと顔を向けるが
【焔】
「教官殿、少しよろしいかな?」
焔は挙手し教官に意を唱える
【真田教官】
「……武鬼少尉、貴様は見学の身であることの自覚がないのか?」
【焔】
「存じています。が、それを踏まえた上で言わせていただきたい。
………無駄なことをしないでいただきたい。」
戦術鬼と恐れられる教官に対し『無駄なこと』と発言する焔に候補生達が騒然とする
【真田教官】
「なんだと?」
【焔】
「ここにいる者は衛士となるべく己の命とも言うべき時間をかけて赴いているというのに、それを今のような時間を無駄にするような意味のないことしないでいただきたい。
只でさえ人類は敗北を重ね後退に後退を続け遂にはこの日本にまでその戦火が届こうとしているというのに貴君は何をしている?
国連軍、いやカムラはこの日本を人類存亡の命運がかかっている要所と判断しあらゆる準備を講じているのに帝国軍の教官殿は衛士候補生をイビることに精を出していると?それはとても褒められたものではないですな。
………貴君は己の立場と言うのを理解しておられるのですか?」
焔は目を細め教官を睨みつける。教官もまた鬼の形相で焔を睨み返す。
両者はにらみ合い、重苦しい沈黙が教室を覆いつくしそれが永遠に続くのではないかと思われたその時
【真田教官】
「…はぁ、それは失礼した。以後気をつけるよう努力しよう。講義を続ける!」
先に折れたのは教官のほうであった。焔は目を閉じそれ以上何も言わなかった。
講義終了後
【唯依】
「武鬼少尉殿!」
【焔】
「ん?」
講義が終わり教官が退室した矢先、唯依が焔に話しかけた
【唯依】
「先程はありがとうございました!」
深く頭を下げ感謝の意を示す、だが焔には理解できなかった。何故なら焔本人は唯依を見ていただけのつもりで、唯依に問題を教えたのは無自覚の行動だったからだ
【焔】
「…なんのことだ?」
【唯依】
「先程教官の問いに答えられなかった時に少尉殿が教えてもらったから答えられました。そのお礼を伝えたく...」
【焔】
「教えた?俺が?なにかの間違いではないか?俺は何も言っていないが…」
自覚のない焔は唯依の言うことに混乱する。身に覚えのないことで礼を言われたことと、違うと言われ困惑する彼女にどう答えれば良いのかわからず話題を変えることで誤魔化そうとした
【焔】
「それよりも君に聞きたいことがある。」
【唯依】
「聞きたいことですか?」
【焔】
「何故彼らを庇うようなことをした?」
【唯依】
「ッ!?」
教官の時と同じ目で睨み唯依に問いかける。睨まれた唯依は心臓を握り潰されたのではないかと錯覚し息を飲む。事の発端である安芸達も焔の圧に押されただ見てることしか出来ない
【焔】
「彼らは講義中に無駄話するほど講義に関心がなく衛士に成ろうという意欲が薄いように見えた、そんな者に君は注意をし講義に集中するよう促した。やる気のない者など放っておけば良いのに何故君は自分の不利益になる事をしたんだ?」
【唯依】
「……確かに彼女達は講義に不真面目に見えたかもしれません。ですが決して衛士になる意欲がないわけではありません!それは彼女達だけでなく此処にいる候補生全員も同じです、私が彼女達を注意したのは同じ目標を持つ仲間であり武家の者として当然の責務だからです。」
唯依の返答に焔は納得いかない様子で続いて質問する
【焔】
「武家の…者か…なおのこと理解できない、何故武家の者が講義に集中できない?」
【唯依】
「それは、その…講義だけでは辛いから、です」
【焔】
「ツラ、イ?」
焔は本当に理解できず首をかしげる
【唯依】
「講義が必要なのは理解しているのですが、それだけだと疲れやストレスが溜まっていき今後の行動に支障をきたす恐れがあります。ですので『息抜き』をして気分をリフレッシュする必要があるんです」
【焔】
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
唯依自信も理解できないがもっともらしい説明をすると焔は信じられないモノを見たかの様に目を見開き硬直した
【焔】
「それが、普通…なの…か?」
【唯依】
「え…」
焔は額に手を当てう~んとうなりながら悩む
【焔】
「…すまない、あまりのことに理解が追いつかずどう言えばいいか…これが井の中の蛙大海を知らずて奴か」
【唯依】
「いや違うと思いますよ」
ボケなのではないかと言える発言に流石の唯依もツッコまずはいられなかった
【焔】
「そうかぁ、衛士候補生はそんな苦労があって衛士に成っていくのか…君達は、凄いな」
【唯依達】
(なんか同情された!?)
【唯依】
「えっと、今回のはたまたまで普段はちゃんと講義を受けているので誤解しないで下さい!」
【焔】
「あ、嗚呼…そうだよな。うん?」
視線を感じた焔はその方向に振り向くと最後列の席に黒い長髪の女性が焔達を見ていることに気付く
【焔】
(…綺麗だな)
【唯依】
「山城さん…」
唯依が複雑そうな表情をしているのを見て焔は「知り合いか?」と聞こうとしたが次の講義が始まり質問することを止め見学することに集中した
昼休み校舎中庭
唯依達はシートを広げ持参した弁当を食べながら先刻の出来事を思い出す
【安芸】
「いやぁ緊張したぁ~!あの戦術鬼の顔、とんでもない形相だったな!少尉殿もよくあいつに意見出来るよな」
【和泉】
「なに他人事みたいに言ってるのよ?そもそもあんたが講義に集中しないからああなったんじゃない」
【安芸】
「そう言うなよぉ、あたしだってあんなことになるなんて思わないじゃん!?」
【志摩子】
「それにしても既に衛士なのに見学て変な話だよね」
【安芸】
「そもそも国連軍がなんで
彼女達の言うことはもっともだ。国連軍所属の研究機関がわざわざ日本の武家主体で構成されている斯衛軍の育成模様を見学する意味がわからない。
…だが
【唯依】
「きっと、私達と同じなんだよ」
【志摩子】
「唯依?」
【和泉】
「同じてどういうこと?」
【唯依】
「帝国軍と斯衛軍て日本の軍だけど少し違うでしょ?それと同じで国連軍とカムラもそうなんじゃないかな?国連や帝国ではなく斯衛じゃないといけない理由がカムラにはあるんだと思う」
その話を聞いて一行はしばし考え込む
【安芸】
「にしても少尉殿、変な人だったな。なんというか…世間知らずというか…」
【和泉】
「確かにどこか浮世離れしてる所があったね、どんな生活したらああなるんだろ?」
【志摩子】
「あ、噂をすれば」
皆が志摩子の目線をたどると中庭を横切る焔がいた、だがその姿は先の講義中の毅然とした態度とは違っていた。
ただでさえ白い肌が血の抜けたような生気の無い程白くなり顔面蒼白で足取りもおぼつかずふらふらとしていた。
そんな状態で歩いていると腕に付けていた腕章がずるりと滑り落ちたが焔は気付かずそのまま歩き続ける
【唯依】
「あ…」
唯依はすぐさま立ち上がり腕章を取りに駆け出す。
腕章を拾い上げ焔に知らせようとしたときには既に中庭を出たところであった
【唯依】
「少尉殿!」
【志摩子】
「ちょっと唯依!?」
駆け出す唯依を志摩子らが呼び止めようとするが唯依は止まらず焔の後を追うのであった
中庭を出ると校舎裏に向かって歩いていく焔を見つけた
【唯依】
(少尉殿は何故校舎裏に?それにさっきの尋常じゃない様子も気になる)
校舎裏に差し掛かり様子を伺う為に顔を覗かせるとそこには…
【焔】
「コーホー…コーホー…はぁ…シンドッ!」
ビニール袋を口に当て必死に呼吸を繰り返す焔の姿があった。どうやら過呼吸のようだ
その光景に落とし物を届けに追いかけてきた唯依は声をかけることを忘れただただ静観するしかなかった
【焔】
「人と話すのってこんなにキツいの!?ちょっとしか話してないのに疲労感が半端ないんだが!?研究所の奴らと違ってなに考えてるかわかんないしどう対応すりゃあ良いんだよ!」
誰もいないと思ってか声を荒げ不満をぶちまける、既に顔色は正常に戻り興奮で赤みがかっているくらいだ
不満を吐き出して冷静になったのか急に弱々しい態度になりだした
【焔】
「はぁ、情けないな。カムラの者がこの程度で弱音を吐くなんて…こんなことではまた博士に笑われるな、アイツ隙あらば俺をおちょくるからなぁ娘に相手されない父親かよ(笑)」
独り言を言うことで体調取り戻した焔は唯依達には見せなかった素の状態をさらけだす
【唯依】
(あの人、あんな風に笑うんだ…)
講義の時の厚を感じない屈託のない笑顔を唯依は不思議な親近感を覚えた
【焔】
「さて!博士の特別である俺がいつまでもウダウダしてちゃいけないな。大丈夫だ、俺ならちゃんと使命をやり遂げれる!よ~しやる---」
【唯依】
「あ」
やる気を取り戻し教室に戻ろうと踵を返すと顔を覗かせていた唯依と目があった。
見てはいけないものを見てしまった唯依と見られた焔、沈黙が続きお互い気まずい空気のまま慎重に言葉を選ぶ
【焔】
「…いつから見ていた?」
【唯依】
「あの、しょ、少尉、殿•••」
【焔】
「まさか…最初から、か?」
【唯依】
「…はい」
唯依の返事を聞いた焔はこの世の終わりみたいな顔をし膝から崩れ落ち項垂れる
それを見た唯依は慌てて駆け寄る
【唯依】
「少尉殿!?大丈夫ですか!?」
【焔】
「………………れてくれ」
消え入りそうな声で焔が口を開く
【唯依】
「え?」
【焔】
「忘れてくれぇぇぇぇ!!」
唯依の制服に掴み掛かり必死の懇願しだした
【唯依】
「きゃあ!?」
【焔】
「マジで頼む!今見たものは全部忘れてくれ後生だから!!カムラに属する奴が弱気な態度を取ったなんて知れたら組織の恥になっちまう!!
そんなことになったら俺は使命を果たせなくなる、それだけは絶対に駄目なんだ!!」
制服を握る力が増し生地が切れる音がし出す、このままでは服が裂けると感じた唯依はなんとか落ち着かせようと語り掛ける
【唯依】
「落ち着いてください少尉殿!先のことは誰かに言うつもりはありませんから、だから服を引っ張るのを辞め―う、うわぁあぁ!!」
焔の手を外そうと手をのばした時、バランスを崩し唯依を押し倒す形で倒れ込んだ
【焔】
「うッ!痛ぅ…すまない。怪我はしてないk―」
プニュ
【唯依】
「あッ///!?」
焔の指先に柔らかい感触がしたのと同時に唯依から艶っぽい声が漏れる
先程バランスを崩して倒れた際に焔の指がスカートのウエスト部分に引っ掛かっておりそれだけでなくその下にまで入っていたのだ
つまり下着と一緒にスカートを降ろした状態で唯依の太股の間に焔の顔がある状況になっている
それを知るわけもない焔は上体を起こし唯依の下半身に触れていた自身の左手をのけると眼前に見えるモノを直視する
【焔】
「…アワ、ビ?」
【唯依】
「%¥#^_@*:"_/////」
唯依だけでなく全女性にとって大事なところを見られた彼女は声にならない悲鳴を上げ、右足を引き…
【唯依】
「い、嫌あああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
【焔】
「ぶべらッ!?」
勢いよく焔の顔面に蹴りつけるのであった。
数分後、騒ぎを聞き付けた生徒の報告により焔と唯依は真田教官に呼び出しをくらっていた
【真田教官】
「…武鬼少尉、なにか異論はあるか?」
【焔】
「いえありません。如何なる理由があろうとも俺が篁候補生の下半身を露出させた事実に変わりませんので―――」
【唯依】
「少尉は黙ってください!」
潔いのではなく淡々と事実を述べる焔に青筋を浮かべる唯依を見て教官は頭を抱える
【真田教官】
「来て早々問題を起こすとは…ハァ」
【唯依】
「それは誤解です教官殿!!」
騒ぎを起こした焔に対し教官は呆れていたが被害者である唯依が弁明をする
【真田教官】
「ほう誤解とな、篁候補生、何が誤解なんだ?」
【唯依】
「少尉殿は落とし物を受け取ろうとした時に足を滑らせ、わたしの方に倒れ込んだのです」
【焔】
「落とし物?あ痛てッ!」
焔は苦悶の表情を浮かべながら顔を押さえる
唯依に蹴られた顔面にはくっきりと靴跡が残りそれが鈍い痛みを発していた
【唯依】
「すみません、少尉殿は顔を蹴られた衝撃で記憶が曖昧になっているようです。少尉殿、渡しそびれてしまいましたがどうぞこちらを」
そう言いスカートのポケットからカムラの腕章を取り出し焔に差し出す。腕章を見た焔は慌てて自身の左腕を確認し腕章が無いことに酷く動揺した
【焔】
「一体…いつから…」
【唯依】
「中庭を通っていった最に落としていきました」
【焔】
「あのときかぁ…嫌、それでも君に危害を加えた事に変わりはない。教官、俺の処遇を教えてくれ」
腕章を落とした事に気付かなかった自身を不甲斐ないと責めたもののすぐ調子を取り戻し自身の罪を問おうとする
【真田教官】
「はぁ、その前にもう一度確認するが、篁は落とし物を受けとる最に起きた事故であり武鬼少尉に罪はない、少尉はどんな処罰でも問題ないと、それで合っているか?」
【唯依】
「はいその通りであります!」
【焔】
「…ええ」
唯依達の顔色を交互に確認した教官は深い深呼吸をしたのち口を開く
【真田教官】
「篁の申し出により今回の件は不問とする。報告は以上だ、早々に教室に戻れ。」
【唯依】
「はッ!教官殿!少尉殿行きましょう」
【焔】
「………ああ、わかった」
唯依に施されながらも判決に納得がいかず終始不服そうな顔をしながら焔はその場を後にした
【斉藤助教】
「よろしかったのですか?」
焔達が退室した後、同席していた
【真田教官】
「放っておくしかないさ。上の連中からカムラに失礼のないようにと圧をかけられた。ご丁寧に皇帝陛下の
【斎藤助教】
「なっ!?それは本当ですか!?」
斎藤助教が驚くのも無理はない。政治の全件を担う征夷大将軍よりも上の日本の最高権力者である皇帝陛下が直々の書状を出すなど本来あり得ないのだ。
だが
【真田教官】
「間違いなく陛下の書状だ。再三調べつくしたが偽装もなにもない正真正銘の本物だ。…はぁ、各国を動かすほどの力があるって噂、まさか本当だったとは。どんな手を使ってでも人類の勝利を求める組織••••『勝利の悪魔』とはよくも言ったもんだ」
圧倒的な権力を振りかざされ真田教官は忌々しげに焔が去った扉を睨み付けるのであった
教官の部屋を後、焔は唯依の後を追いながら先の唯依の発言に疑問を感じていた。
【焔】
「何故、あんな嘘をついた」
【唯依】
「…嘘とは?」
【焔】
「あの時、落とし物の事など一切言わなかっただろ。嘘をついてまで君になんのメリットがある?」
自分に危害を加えた相手を助けたことに焔に疑問を持ち訝しげに唯依を見る
【唯依】
「メリットですか、確かにありますよ?あの場で少尉を助けなければ少尉の上司から抗議などが来る恐れがあり講義に遅れが出ると思ったのです。私は1日でも早く衛士となり篁の者としての責務を果たしたいのです」
それは決して焔を助けたわけではなくあくまでも自分の為、そういう意図であると唯依は宣言した
それを聞いた焔は感心したように考え込む
【焔】
「ふむ成る程、確かにそうか。俺一人責任を取ればいいと思っていたが…そうか、確かに博士が動くよな!そんなこと考えもつかなかったのに君はそこまで考えていたのか!凄いな君は!!」
焔は目を輝かせながら褒め出した。まさか褒められるとは思わず唯依はたじろいでしまう
【唯依】
「と、とにかくそう言うことですのでこの件はもう終わったことですので失礼します。」
唯依は踵を返し教室に向かい歩き出す。
【焔】
「…篁唯依!」
【唯依】
(!?)
いきなりフルネームで尚且つ呼び捨てで呼ばれ驚く唯依。
慌てて振り向くと焔は深々と頭を下げていた
【焔】
「改めて謝罪と礼を。今後あのようなことが起きないよう気を付ける、すまなかった。そして、助けてくれてありがとう。」
顔を上げ屈託のない笑顔でそう言う。
【焔】
「それとすまないんだが、少尉呼びは辞めてもらえないか?」
【唯依】
「はい?」
【焔】
「俺はまだ実戦に参加してない正規の衛士ではない、形式上は少尉だが実際は君達とそう違いはないんだ。」
【唯依】
「いえ、そう言うわけにはーーー」
【焔】
「なにより!同年代に畏まられるのは、正直ツラい。」
焔がしょぼくれた顔で言うのを唯依はポカンとして見ていた
【唯依】
「(この人あれだけ厳格な軍人みたいなことやってたのに、そんな子供っぽいこと言うんだ…)はぁ、解りました。武鬼しょ…武鬼さん。これでいいですか?」
【焔】
「ああ、ありがとう篁さん」
焔は初めて友達っぽいことが出来てにこやかに唯依に答えるがすぐ軍人の顔に戻り唯依と共に教室に向かうのだった。
教室の扉前で唯依は焔に念押ししていた。
【唯依】
「いいですか武鬼さん、今後はあのようなことが起きないようお願いしますね。」
【焔】
「ああ大丈夫だ、人酔いにはだいぶ慣れた。もうあんな失態は侵さない、だからあの醜態のことはどうか!」
【唯依】
「ご心配なく、私にそのような趣味はありません」
そう言い教室の扉を開く、すると教室の女生徒達が一斉に焔に冷たい視線を向ける。その目には軽蔑と嫌悪が混じっている。
【焔】
(う~ん、これは、噂が広まるのが速すぎるな)
【志摩子】
「ッ!貴方ッ!!」
唯依の幼馴染みの甲斐志摩子が焔に向かってズカズカ近づき右手を大きく振りかぶる。
焔はそれを後ろにさがり避ける。急にビンタを繰り出してきて驚く焔。
【焔】
「危ないじゃないか?」
【志摩子】
「避けるな変態!よくも唯依を穢したわね!!」
【唯依】
「ちょ、ちょっと志摩子落ち着いて!」
鬼の形相で焔を睨む志摩子に何を言ってるんだ?と思いながらため息を吐く
【焔】
「意味が解らない。変な言いがかりは止めてくれ」
【志摩子】
「なにが言いがかりよ!貴方が唯依のスカートを奪って下着を見て楽しんでたのを見た子がいるのよ!」
【唯依】
「志摩子ッ!?」
どんな見間違いをしたらそんな風に写るんだと呆れながら弁明をする
【焔】
「ますます意味が解らない。何故下着を見たら変態になるんだ?そもそも俺が見たのは篁さんのアワーーー」
【唯依】
「ぬわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
【焔】
「もがッ!?」
焔がとんでもないことを口走ろうとしたところ唯依が両手で焔の口を塞ぎ、部屋の入り口で皆に聞こえない小声で話す。
【唯依】
「いいですか武鬼さん、皆の前でアワビの話は無しでお願いします!」
【焔】
「…もしかしてアワビて口にしちゃいけないものなのか?」
【唯依】
「ええそうですよ!絶対に!良いですね!!」
唯依は顔を赤らめ念押しする。話がまとまり志摩子らの元に戻り話を続ける。
【焔】
「オホン。え~…なにも…見なかったZ」
【志摩子】
「いや嘘ですよね!?明らかになにか見たでしょ!」
【唯依】
「志摩子、少尉がこう言ってるんですから勘違いなんですよ」
【志摩子】
「唯依!?なんでこんな男を庇うの!コイツはーーー」
【唯依】
「志摩子ぉ~?」
唯依はドスの入った低い声で志摩子に凄む。
【唯依】
「それ以上この話を続けるなら私は断固たる意思で付き合いを改める所存だ。この意味が解るか?」
真顔で志摩子にそう言い渡し志摩子はええぇと声を漏らしどうすることも出来なかった。
【唯依】
「はい、この話は終わり!次の講義があるのだから時間を無駄にしない!」
唯依がパンッと手を叩き話を打ち切って席に戻る。焔も唯依の隣の席に座るが何故かムスッと不機嫌そうな顔をしていた。
【唯依】
「?武鬼少尉どうかされましたか?」
【焔】
「…また少尉呼び。」
ぶつぶつとそう答える焔に唯依はポカンとしフフと小さく笑う
「フフ、本当に子供っぽいこと言うのですね武鬼さんは。」
唯依は珍しく晴れやかな笑顔を向けそう言うのだった。