講義が終わり焔は京都の山奥にあるカムラの第一研究所に帰投し今日の出来事(事故の詳細は伏せて)空義に報告した。
【焔】
「という事があったんだ。」
【空義】
「プッ!アハハハハハ!さすが焔君!期待を裏切らないねぇ!」
空義は書類を持った手を自分のデスクにバンバンと叩き書類を撒き散らしながら左手をお腹に添えて文字通り腹を抱えて大笑いする。
【焔】
「笑いすぎだ博士。それで、俺はいつまで学園生活を続ければ良いんだ?まさか彼女達の卒業まで見なきゃいけないなんて言わないよな?」
焔は空義を訝しげに睨む
【空義】
「そうだねぇ…当分はそうなるだろうね。コアユニットがようやく安定してこれから武装の製作に取り掛かる段階だから、急ピッチで進めても大体一年半くらいかな?」
【焔】
「そんなに掛かるのか…」
焔は歯がゆい気持ちで苦い顔になる
【空義】
「そりゃあ人類の希望たる『殲滅機』だ!四大研究機関の最優先事項でありBETA殲滅を掲げるアンオルタの象徴でなければいけないからね。結成から17年以上、ようやく軌道にのってきたんだ。それにね、第四研究所からの観測で2001年のクリスマスがタイムリミットだと結果が出たんだ。ラーヴァの予測も同じ結果を指してる、僕たちにはもう時間がないんだ。なんとしても禍津鬼を完成させるさ!」
空義は普段のあっけらかんとした態度とは違い真剣な面持ちで己の覚悟を語る。
ラーヴァとはアンオルタが開発した量子演算処理システムである。世界中の情報を集約し各国の動向を監視、起こりうる出来事を予測するアンオルタの最高機密の結晶である。
そして第四研究所はこことは異なる世界を観測する装置を造り、自分達の世界に起こりうる可能性を模索する研究所である。
【空義】
「それはそうと、焔君ハイコレ!」
空義は焔に国連軍の制服とはデザインの違う制服を渡す。
【焔】
「?。博士これは?」
焔は受け取った制服を見せ空義に聞く。
【空義】
「フッフッフ、遂にアンオルタは国連軍との差別化を図ることになってね、アンオルタ専用の制服が支給されたんだよ!それだけじゃないよ!アンオルタの最新技術のナノテクノロジーが搭載されていてね、服を着ると内側からナノマシンが展開されて衛士強化装備に着装してくれるんだよ!ああそうそう!わざわざ全裸にならずに普通に服を着るようにインナーと下着の上から着て良いんだよ、ナノマシンが装備と肌の間にコーティングしてくれるから着替えの手間も省けて常時肉体を保護してくれるんだ、すごいだろ!!」
さも自分の手柄のようにフフンと鼻をならし説明する空義、だが焔はそれよりも気になることがある
【焔】
「確かに凄いが、なんでこんな派手な色なんだ?オレンジて目立ちすぎだろ?」
渡された軍服はオレンジ色を基準に緑の装飾が施されていた。
【空義】
「それはね焔君、アンオルタは国連軍と差別化したけど更にワールドセイバーとファデュイに蛇(シェン)、そしてカムラと四つの国に支部兼研究所の組織が存在するのに一緒くたにするのはどうかと話し合ったんだ。そしてアンオルタ本隊は白を基準にした黒の装飾でワールドセイバーは星条旗をそのまま柄にし、ファデュイは薄紫色で蛇は灰色の蛇柄になったんだ。そして我らがカムラはオレンジだッ!」
【焔】
「だからなんで?!」
【空義】
「いやね、イギリスの御伽話に忠義の騎士ジェレミア・ゴットバルトの話があってね。彼は国の金を着服してオレンジ農園を経営していると冤罪を掛けられるんだ。だが彼はなんやかんやあって忠義を貫き英雄となったんだ。そんな彼の武勇にあやかってオレンジ色にして人類への忠誠を誓うってわけさ」
【焔】
「………………本音は?」
【空義】
「オレンジの方派手で良い!」
【焔】
「私情じゃねぇか!!」
焔はアンオルタの軍服を床に叩きつけた。
【空義】
「そう言うなよぉ~第二研究所の所長はピンクを勧めてたし第五研究所の所長は自分の履いてる下着からヒョウ柄を選んできたんだよ?!それに比べたら僕のオレンジの方がまだマシだろ?」
【焔】
「いや、どっこいどっこいだよ。」
呆れ顔でコイツら准将連中はなんで変人揃いなんだと焔は嘆く
【空義】
「まぁこの話は置いといて、学校のグラウンドの一角を借り受けたから、明日からそこに仮設住宅を建てて生活してくれ焔君」
【焔】
「は?なんで?」
【空義】
「だってこの山奥の研究所から学校まで車で二時間だよ?金と時間がもったいないだろ?学校に住み着いちゃえば見学も楽だし一石二鳥だろう!」
【焔】
「…まぁ、利にかなってはいるか…(ん?住宅を建てる?)」
何の気なしに頷いたこの返事に焔は後で後悔する。
【空義】
「ところで焔君。学校で気になる子はいたかい?」
【焔】
「気になる子とは?」
【空義】
「今日を振り返ってすぐ頭に思い浮かぶ人物みたいな?そんな子がいるかい?」
焔はそうだなと唸り今日の出来事を思い返していく。講義でのトラブルに校舎裏での事故、その他諸々思い出していくと一番印象に残ったのは人形のように綺麗な山城さんと言う女性だがそれ以上に自分と多くしゃべっていた篁さんの顔が浮かんだ。
【焔】
「……まぁ、いると言えばいるか?」
【空義】
「…そうか。それなら良かった。」
焔の曖昧な返答に空義満足したように微笑むのだった。
翌日、学校に向かう唯依の足取りは重かった
【唯依】
(はぁ…昨日は災難だった。武家の者がみっともなく叫んで情けない姿を晒すなどあってはいけないと言うのに…)
もうあんな失態は犯さないと気合いを入れヨシッ!と意気込むと上空を派手なオレンジ色の撃震が第一世代機とは思えない凄まじい速度で通りすぎ、学校のグラウンドに向けて降り立っていく。
何事かと駆け足でグラウンドに向かうと国連軍のとは異なるデザインのオレンジ色の制服を着た軍人達が建材を載せたトラックを運転し、綺麗に整列して荷台を切り離していた。その一人が撃震に向かい走り出す。
撃震は膝を折りもう片方の脚の膝を地に付けて座らせる。
コックピットが開きそこから彼等と同じオレンジの制服を着た焔が現れる。
【唯依】
(武鬼さん!?)
衛士強化装備を着ていないのに焔は平然と撃震の腕から膝と飛び移り地面に着地する。
【カムラ構成員】
「焔様、こちらにサインを。」
焔に掛けよった兵士は焔に建材の受け取り確認の書類を渡す
【焔】
「ああ、すまないな。」
焔は書類を受け取りサインをする。そして運ばれた建材を見て怪訝そうな顔をする
【焔】
「……なぁ、俺の気のせいだろうか?俺にはあの建材が一般の素材で出来てるように見えるが?」
【カムラ構成員】
「……いえ、その見解で間違いないかと。空義所長から絶対この建材を運ぶよう言われたので故意に選んだものかと」
カムラ構成員はも仕分けなさそうに焔に説明する。上官の命令である以上断ることも出来ず彼等も苦労してるなと焔も同情を禁じ得ない。
【焔】
「あの野郎…」
【カムラ構成員】
「では焔様、我々はこれで。」
【焔】
「ああ、苦労を掛けるな」
建材の搬入が終わり、構成員達は焔に敬礼をしトラックを引き上げていく。
焔はさてとと撃震に向き直り、軽々と膝から腕へと飛びのっていきコックピットに戻り撃震を起動する。
そしてマニピュレーターを絶妙な力加減で建材を仕分けをし、土台を両腕で担ぎ建設を始める。
【女生徒1】
「せ、戦術機で家を造ってる?」
【女生徒2】
「あんなのいいの!?貴重な戦術機を完全に私物化してるじゃない!」
候補生達は焔の行動を奇行ととらえ口々に文句を垂れるなか一部の者の見方は違っていた。
【山城上総】
(……建材を壊さないように指先1本1本を的確に動かして掴んでいる。あれ程の緻密な操作、いったいどのような訓練を受けたら身に付くのかしら?)
【唯依】
(信じられない!鈍重な撃震とは思えない滑らかな動きに正確な反応、見た目は撃震なのに中身はまるで別物ね。いったいどんなパーツを積んだらああなるの?)
上総は焔の衛士としての操縦技術を、唯依はカムラの最新技術のパーツとOSにより中身が第3世代機並みに性能を引き上げられている撃震に興味を示す。
一方焔は…
【焔】
「ああ、緊張する!なんで俺は戦術機で家建ててんだ!?しかも一般建築の建材だし力加減間違えたら壊れるぞコレ!?ああくそッ!指先に集中して操作するの神経使ってイライラするッ!まるでボトルシップを組み立ててるみたいだ、いや違うこりゃ型抜きだな!ちょっと力加減間違えたら土台ごとバキンッて壊れる奴だこれ!!博士の野郎…!こんなことに戦術機を使わせるなんて見学でなまらせない為なのか知らんが帰ったらマニピュレーターでトマトみたいに叩き潰してやる!いやここに住み込むんだから帰れないんだった畜生ぉぉぉ!大体さぁ夜の学校て心霊物の定番だろうが!?そんなところに仮設住宅建てて寝るとか新手のホラー番組か何かか!?あのくそ博士!いつか絶対ブッコロシテヤル!!」
盛大に怒っていた。彼の怨み言はコックピット内に留まり外に届くことはなかった。
唯依達は講義の時間が近づき教官達に呼ばれ教室に向かうのだった
数時間後
焔は家の建設と生活必需品を詰め込み、ようやく仮設住宅の組み立てが終わる。
仮設住宅の横にある戦術機収容コンテナに撃震を格納し降りる、そして撃震のかかとにあるカバーを外すとコンセントが内蔵されている。それを引っ張り仮設住宅に差し込む。カムラ仕様の撃震には太陽光発電システムが搭載されており送受信装置も完備している。第一研究所から伸びるソーラータワーから得られる電力を常に受信し電力供給を可能にしている。その電力を仮設住宅の電気設備を動かす為に利用する。
【焔】
「これでヨシッと。」
ようやく一連の作業が終わり授業の見学に戻る。グラウンドでは唯依達が装甲剣道の訓練を受けていた
焔視点
これは、多分戦術機での近接格闘戦と部隊連携を意識した訓練か?斯衛は近接格闘戦を主体にしてるとは聞いていたが人の身で感覚を覚えるのか?
制限時間が8分に設けているのは死の8分と言うことか、徹底してるな。にしても真田教官と斉藤助教のコンビは強いな未熟な候補生相手に容赦なく叩きのめしている。元軍人だけに気迫が違うな。
【審判】
「次、開始線へ!」
お?次のチームは篁さん達か、さて、彼女達はどうやってあの教官等に挑むのか?
唯依達が円陣を組み、唯依が「おかっちませッ!」叫ぶと他三人(確か石見安芸と能登和泉と甲斐志摩子だったか)が「かしこわッ!」と叫び横一列に並ぶ。教官達と礼をし木刀でも竹刀でもない戦術機の長刀を模した模造刀を構える
【審判】
「始め!」
審判の号令で安芸と和泉が教官等に回り込むように走り出す。ありきたりな挟撃だな、だが相手は実戦経験のある二人、4体2の戦力差なんて意味はないだろうな。
あ、四人が一斉に同時に切りかかった。斉藤助教が和泉の刀を受け止めて返り討ちにし速脱落した、その隙に安芸が真田教官の方に駆け出し3体1の状況を作り出す。あの動き、おそらくここまでが当初の予定なんだろうな、だがあの教官はそう簡単には倒せないだろうな、逆に助教の方にやれば一本とれただろうが…
あぁやっぱり駄目そうだ、教官が篁さんたちの攻撃を躱し、背後にまわった安芸を切り返しで転倒させる。次は志摩子に切りかかり刀を吹っ飛ばす、そして続けざまに篁さんに上段から切り伏せる。篁さんは咄嗟に刀で受け止め、なんとかいなし体勢を立て直す。
さてこれからどうする?次の作戦くらいは立ててるんだろう?
ん?どうした?なんで篁さん達動かないんだ?それになんで指示だしとかしないんだ?まさか作戦がばれるの恐れてしゃべらない気か!?お前ら味方がどう動くのかよく知らないだろうにどうやってリカバリーすんだよ?
あぁ安芸と志摩子が単調な動きで突撃してる!あ、だけど教官が志摩子の相手をしたお陰で篁さんが教官の死角をとった!よし、そのままいけば一本とれーーーえ?
【焔】
「……なんで…躊躇した?」
千載一遇のチャンスだった。敗北前提の訓練で教官から1本取る、そんな快挙を篁さんは何故か躊躇し、その隙をつかれ斉藤助教に倒された。何故切らなかった?
篁さんが開始線に戻る途中、教官がなにか言っている。あの口の動きだと…「その下らん美学は、多くの戦友を殺すぞ」か、やはり教官も気付いていたか。
お互いに礼をし篁さん達が観戦場にさがっていく。どうしても彼女が切らなかったのか気になり彼女達の元に歩き出す。
【安芸】
「くっそぉぉぉ!教官の野郎大人げなさ過ぎるだろう!こっちは初心者だぞ!!」
【志摩子】
「しょうがないよ軍事教練なんだから手を抜くわけにはいかないんだし」
【安芸】
「それにしたって手心ってもんがあってもいいだろ!」
【和泉】
「文句を言わないの、そんなことよりさっきの反省会を…あら?」
唯依達の元に焔がやって来た。不満たっぷりに顔をしかめて
【安芸】
「な、なんだよッなんか文句でもあるのか!」
【和泉】
「ちょッやめなさいよ馬鹿!」
和泉が安芸の口を塞ぎ下がらせる。
【唯依】
「どうかされましたか武鬼さん?」
【焔】
「……お前ら、酷すぎるぞ」
【唯依】
「え?」
【志摩子】
「酷すぎるてどういう事ですか?」
【焔】
「どうもこうも、これ部隊の連携を意識させる訓練だろ?なんで初期対応の後から指示だしとかしなかった?」
【安芸】
「そ、それは、作戦がバレる恐れがあるし…」
【焔】
「だからなにも言わず行き当たりばったりか?仲間がどう動くかもわからず臨機応変が出きる程の実力も無しに無理があんだろ?」
【安芸】
「う、うぐぅ…」
【焔】
「一番の問題は君だ篁さん。」
【唯依】
「ッ!」
【焔】
「なんであの時教官への攻撃をやめた?」
【唯依】
「それは…」
【焔】
「……まさか相手が人間だからとか言わないよな?」
【唯依】
「ッ!?」
核心を突かれて目を見開く唯依
【焔】
「確かに俺達の戦う相手はBETAだ、訓練とはいえ生身の人を切るのには抵抗もあるだろう。だけどな、もし相手が敵軍の兵士や殺人鬼だったらどうする?その時も躊躇するのか?そんなことしたらすぐ殺されるぞ?君自信が一人で勝手に死ぬのは構わないが、君の実力なら仮に衛士になったらいずれ部隊を預かる身になるんだぞ。君のその判断で部隊の皆まで死なせる気か?」
【唯依】
「あ、あぁ……」
【志摩子】
「ちょっと!いい加減にしてよッ!一度失敗しただけでそこまで言う必要ないじゃない!!」
【焔】
「それだけの問題じゃないんだ!もしもこの部隊の誰かがBETAに喰われてる時、介錯もしてやれないんだぞ!!」
【唯依達】
「「「「…ッ!!」」」」
喰われると言う単語を聞いた途端、皆の体が強ばる
【焔】
「知ってるだろうがBETAは人間を食べる。生きたまま骨を噛み砕き、肉を引きちぎられ、死ぬまで地獄の激痛に襲われる。そんな時生きてる者がそれ以上苦しませずにするために即死させなければいけないんだ。これは戦争なんだよ。衛士になると言うなら誰かを殺す覚悟を常に持たなければいけない。それが無理だと言うなら、衛士になる資格は無いぞ。」
そこまで言われ彼女達は口をつぐみ何も言い返せないのだった
【焔】
「……すまない言いすぎた」
【唯依】
「え?」
【焔】
「見学の身が出すぎた事を言った。忘れてくれ」
焔は踵を返し距離を置く
【安芸】
「なんだよあいつ、好き勝手言いやがって。」
【和泉】
「あんたまたそんなこと言って、気持ちはわからなくもないけど…」
【志摩子】
「だからってあの物言いはないでしょ?私達だって頑張ってるのに」
【唯依】
「皆そのくらいにして。」
【志摩子】
「唯依?」
【唯依】
「武鬼さんの言うことは正しい、あの時躊躇しなければ教官から1本取れてたのは事実だし、私に覚悟がなかったから皆を危険に晒してしまった。彼の発言は衛士として当然の指摘だった、今の私ではいつか皆を死なせる事になる……本当にごめんなさい。」
唯依は志摩子達に深々と頭を下げ謝罪する。その真摯な態度に、彼女達はそれ以上は何も言えなくなってしまった。
その頃試合場では山城上総が斉藤助教から1本取り外野が騒ぐ。
焔は「へぇ、上手いなあの娘」と興味深く上総を観察し、それを見た唯依は胸がつっかえるようなモヤモヤした気分を抱くのだった
装甲剣道が終わり、教室で次の講義が始まる頃、唯依達と焔の間に微妙な重苦しい空気に包まれていた。
【唯依】
「……あ、あの、武鬼さん。さっきは」
唯依が小さな声で隣の焔に声を掛ける
【焔】
「気にしなくていいと言った筈だ。カムラと斯衛の在り方は違う、俺個人のお仕着せでお前達の戦い方を歪めるつもりはない。」
【唯依】
「そんなことは……」
【斉藤助教】
「そこッ!講義中の私語は慎まんか!」
斉藤助教に叱咤されそれ以上喋られなかった。
数分後、講義が終わり唯依が話の続きをしようと声をかけようとした瞬間
【山城上総】
「ちょっと、よろしいかしら?」
最後列の席にいた山城上総が焔の元に歩みより声をかけた。
【焔】
「なにかようか?」
【山城】
「貴方に聞きたいことがありまして、お時間よろしいですか?」
焔は構わないと返事をし山城の席の最後列へ移動する。
【志摩子】
「以外だね、あの山城さんが声を掛けるなんて。」
【和泉】
「そうね、誰とも関わらなさそうな人なのに…」
【安芸】
「どうでもいいよあんな奴らのことなんて」
【唯依】
「……」
焔は山城に向かい合う
【焔】
「それで、聞きたい事って?」
【山城】
「単刀直入で聞きますが、貴方の操縦技術はどのように培ったのですか?」
山城の質問に焔はう~んと唸り悩む。
【焔】
「質問の意図がわからないな?君はとても優秀な子だ、このままいけば戦術機を用いた実習訓練も受けられる筈だが、わざわざ俺の経験を聞く必要がないように見えるが?」
【山城】
「そう言っていただけるのは有り難いのですが、学校で行われる教練は基本的な事ばかりで貴方のように指先まで戦術機を自分の手足のように思い通りに動かす程の領域には至らないでしょう。」
嗚呼なる程と焔は頷く
【焔】
「そういうことか。確かに学校の実習では大体6時間くらいだろうな。結論から言えば俺のあれは確かに練度の問題だ、カムラでは技術向上プログラムとして一ヶ月間、戦術機のコックピットの中で生活させられた。」
【山城】
「い、一ヶ月ですか!?」
山城が驚愕し声をあげる。
【焔】
「さすがに食事、風呂、トイレの時だけは外に出してもらったが、それ以外の時間はすべてシートの上だ。寝る時も機体の中。その状態で、カムラの施設拡張のための資材運搬に土木建設、そして周囲の森林の伐採作業をすべて戦術機で行わされた」
【山城】
「せ、戦術機で土木建設や林業ですか…」
【焔】
「あぁ、戦術機て見方を変えれば大きな人だろ?どんな地形もしっかり踏みしめる脚に木々や鉄骨を軽々持ち上げられるマニピュレーターと施設作業にうってつけなんだ。通常の重機で一ヶ月掛かる作業を戦術機でなら一週間程で短縮ができる。だが所詮は戦闘用の機体だ、力加減を一つ間違えれば、建材は砕け、大木はあらぬ方向へ倒れて機体を損壊する。一日の殆どを機体の中で生活し機体の可動域を体に叩き込み、レバーをミリ単位で指になじませる。それを1ヶ月も続ければ嫌でも繊細な操作ができる。そのせいで銃の組み立て訓練の様に戦術機で突撃砲を一から組み立てるのをやらされたよハハハ…」
遠い目をして枯れた笑いをする焔にうわぁ…と引き気味に同情した
【山城】
「なる程と、貴方の操縦技術の高さは良く解りました。それ程の時間を費やすことであれほどの境地にたどり着けるのですね。」
【焔】
「俺からも質問いいか?」
【山城】
「えぇ構いませんわよ?」
【焔】
「君は篁さんになにか言いたいことでもあるのか?昨日から見ていたが他の生徒のような不快なものとは違う対抗意識か?もしくは呆れの様なものを感じたが」
【山城】
「…良く見ていますわね。」
山城はフッと笑う
【山城】
「確かに篁さんには言いたいことはありますわ。彼女、昔の自分を見てるようで…ですが、それはこれからの武で競いあってみようと思いますの。彼女が本当に私と同じなのか見極めてみたいですし。」
【焔】
「そうか、余計なことを聞いてしまったな。」
【山城】
「フフお気になさらず…貴方から見て篁さんはどう見えますの?」
自分の事を良く見ている焔の観察眼に山城は興味を抱く
【焔】
「そうだな…この生徒達の中で最も秀でているのにその才を発揮できてない、と言ったところか」
【山城】
「へぇ~どうしてそう見えますの?」
山城は焔の答えを面白そうに、そして興味深くにやけながら問う
【焔】
「彼女は俺から見ても君より高い才能があるのだがどういうわけなのか無意識に自分の力を抑えている節がある。まるで見えない鎖で自分を縛り付けているようなそんな感じだ。なんと言うか、勿体ないと思う」
【山城】
「なる程、とても興味深い見解ね。それは恐らく篁家ゆえの問題でしょうね。」
【焔】
「?どういう意味だ?」
【山城】
「家の家訓みたいなものでしょうか?そう言う他者にはない決まりと言うのがあるのでしょう。それが貴方には鎖で縛り付けているように見えたのでしょう。なんにしても篁さんの問題は篁さん自信がどうにかするしかないですわね。」
【焔】
「そう言うものか。武家と言うのは複雑なのだな」
【山城】
「えぇ、いろいろと厄介ですのよ?ところで気になっていたのですが、早朝の時、撃震で登校してましたが、貴方が撃震から降りた時今の軍服のままでしたが強化装備も無しにお身体は大丈夫ですの?」
【焔】
「ん?強化装備なら着ているぞ?ほら、アンオルタの制服はナノテクノロジーを搭載していてな、服の内側から専用の強化装備が自動展開されているんだ。日本で言うなら正装の中に鎧を着込んでる状態だ」
焔が服の襟を引っ張り、首から胸板を見せる。メタリックな保護膜のようなアンオルタ仕様の強化装備が焔の肉体を完全にフィットさせている。鍛えられた男の強化装備越しの胸板を見て山城は顔を赤らめる。
【山城】
「ちょっ!?みだりに肌を見せるなんて破廉恥ですわ!!」
【焔】
「そうか?彫刻の様な綺麗な君がそのように驚くのは以外だな。」
【山城】
「き、綺麗って貴方ねぇッ!!」
【焔】
「ハハハ、凛とした娘だと思ったが年相応な反応で安心したよ。声をかけられた時より親近感が持てる」
【山城】
「それはこちらの台詞ですわ。初日の時は毅然とした軍人だと思っていましたのに、こうして話してみれば思っていたより子供ですわね。」
【焔】
「あぁ、否定はしないさ。幻滅したか?」
【山城】
「えぇ少しは。でも、今の方が私は好きですわ、無駄に敬意を示さずに済みますので。」
【焔】
「それは酷いなw、だがこちらも変に壁を感じずに済む。ハハッ。」
【山城】
「えぇ、そうですわね。フフッ。」
お互いに笑い合い穏やかな雰囲気になる
【安芸】
「……なんか、あの二人仲良くない?」
【和泉】
「そう、ね。山城さんがあんな風に笑うの初めて見たかも」
安芸達だけでなく他の生徒も二人の様子を遠目に見て静かに驚いていた。
結局その後、唯依は装甲剣道での件について焔に話す事は出来ず本日の講義は終了した。
放課後、見学生である焔は誰より先に学校の玄関を出てグラウンドの仮説住居に向けて帰路に着く。筈だったが。
グラウンドの入口に黒いリムジンが鎮座し、助手席のドアの前に立つ男は焔もよく知る火群空義准将その人である。
【空義】
「あ!お~い!ほ~む~ら~くぅ~「おらぁぁぁぁぁ!!」げぼばぁぁぁぁ!?」
焔を見つけた空義は手を振って呼び掛けるが焔はそんな空義の腹目掛けて跳び膝蹴りをくらわす。
空義は腹を押えのたうちまわる
【空義】
「ぐおおおおぉぉぉぉぉぉ!?なんで!?なんで跳び膝蹴りをお見舞いしたの?!」
【焔】
「胸に手を当てて良く考えてみろ」
空義は言われた通りに胸に手を当て考える
【空義】
「うぅ~ん?はッ!駄目だ!思い当たる節しかなくて解んない!!」
ブチッと堪忍袋の緒が切れる音がした。焔は転がってる空義をゲシゲシと踏んづける
【空義】
「ギャアァァァァァァァ!!顔は止めてッ!せっかくのイケメンフェイスがあぁぁぁぁ!!」
【焔】
「あぁ止めてやるよ、但しそこでじっとしてろよ?今から撃震のマニピュレーターで叩き潰してやるから!」
【空義】
「なんちゅう殺し方考えてるんだ!?やめなさいよミオリネさんが泣くぞ!!」
【焔】
「誰だよミオリネってどっから出た!?」
【唯依】
「…………なにを、しているのですか?」
焔と空義の茶番劇(馴れ合い)は思いの外時間が掛かっており下校してきた唯依達が追い付くほどであった
【焔】
「なにって、馬鹿を踏んづけてるんだが?」
【空義】
「今馬鹿って言った!!僕准将だよ!?」
【焔】
「階級でしか自分を誇れないのか?情けない奴!!」
【空義】
「うわぁぁぁん酷い言われようだぁ!!」
空義はオヨヨと泣く仕草をする
【唯依】
「あ、あの、流石に准将にその物言いは駄目なのでは?」
【焔】
「いいんだよ別に、それにカムラの組織上、俺の方が立場が上なんだし。」
【空義】
「そうなんだよねぇ。焔君は特別だから、准将の僕を足蹴にするし」
空義は砂を払いニョキッと起き上がる
【焔】
「いや、お前は蹴られて当然だろ?というかなにしに来た?」
【空義】
「なにって君を迎えに来たんだよ。丁度大きな商談があってね、篁屋敷に用があるんだ。ああそうだ!唯依ちゃんも一緒に乗るといい!送ってあげるよ」
【唯依】
「ゆ、唯依ちゃん!?」
【焔】
「おい、勝手に話を進める「えい!」アババババババババババババッ!!」
焔が静止させようとした所、空義がスタンガンを取り出し焔を感電させる。鎮圧用の高電圧スタンガンの為、焔の体からぶすぶすと煙がたちこめる
【空義】
「ふふん♪どうだい焔君、兵士級すら昏倒する強力なスタンガンの味は?」
【焔】
「ケホッ。オマ、フザケ、ンナ。ゼッタ、、ブッコロス……」
ガクッと崩れ落ちる焔を空義が受け止め脇に抱える。
【空義】
「ハハハぶっ殺すなんて三流の台詞だよぉ?真の殺し屋はぶっ殺したて言うんだよ。」
【焔】
(知るかボケェ!てか殺し屋じゃねぇし!!)
空義が身動きできない焔を後部座席に詰め込む
【空義】
「ふぅ、それじゃあ行こうか、唯依ちゃん?」
【唯依】
「あ、ハイ…」
唯依はこれは断れないなと考えるのを辞め、焔と同じ後部座席に座るのだった