おせいそうすほそ系TSヒーラーは、生きているだけで偉いと思う 作:うすひら
――私には、水晶姫としてのパートナーがいるという話は前にした。
数少ない昔からの友人で、私に歌を教えてくれた恩人でもある。
んで、天才作曲家の異名にそぐわず変人だ。
「ふふーん♪」
その日、私は自宅でのんびり料理をしていた。
意外に思うかも知れないが、私はたまーに料理をする。
ケアラの街に来る前は、自分で作ったほうが美味しかったからだ。
今でこそ町中に美味しいものが溢れているものの、自分の食べたいものを死ぬほど食べたい時は、こうして作ったほうが早い。
今回の料理は、スパゲッティ。
十人前くらい一気にドバッと茹でた麺を、いろんな味付けで食べるのである。
うーん、循環がなかったらあとが怖い量。
――で、そんな時。
リビングに設置してある転移魔法陣が反応した。
これはある場所からある場所を結ぶ転移魔術を刻んだ魔法陣で、私の部屋にしいてあるカーペットから、ある人物の部屋の座布団に繋がっている。
転移魔術はそれはもうべらぼうに用意するための費用が莫大で、使っているのは王族くらいだという。
こいつを用意したのは、私と組んで水晶姫を売り出した天才作曲家にして友人――
「ふへ、ふへへ、き、来たぞー」
現れたのは、モサモサのすごい毛量を誇る黒髪に顔が片方覆われた”長耳”の女だった。
衣服も黒で統一しており、オカルトとか好きそうな見た目をしている。
言うまでもなく、こいつが天才作曲家にして”エルフ”の――
「フェリーシャ、お久しぶりです」
「お、おう。ひ、ひさしぶりー、クリス」
フェリーシャ。
まぁ、だいたい見た目通りのエルフであった。
「今日はどうしたんですか、新曲ができたんです?」
「そ、そそそ、それはまだ……出来てない。わ、わたしは……”降って”こないと……作れないから」
「ですか……スパゲティ祭りを開催するんですが、食べます?」
「た、食べる……」
フェリーシャは感覚派の天才なので、できる時は一瞬で複数曲を作って見せるのだが、できない時は一年くらいスランプに陥る。
私のところにやってくるのは、曲ができたか、まったく曲ができていないかのどちらか。
前回の曲が作られてからすでに数ヶ月が経過しているので、多分後者かなぁ。
「で、本題はどんなもんです? やっぱり曲ができないんです?」
「ん、んあ、えと……それもある……けど、一つ報告」
「と、いいますとー?」
ぐるぐると、大量に投入したパスタ麺をかき回しながら問い返す。
どうやら、数少ない例外にあたったらしい。
私に対して確認が必要なことが発生したら、フェリーシャはやってくるのだ。
だいたい月一でうちにやってくるのだけど、その中で報告があるのは年に一回くらいの頻度かな。
「北方のドォリナ王国で、兵士を鼓舞するための歌を作ってほしい……だって」
「なるほど、大きな案件ですかー。……でも、私としては別に反対する理由もないですよ? どっちかというと、フェリーシャの方がだいじょーぶなんですか、って話です」
「う……が、頑張って作る。最悪、発表せずにとってあるストックから……吐き出してもいいし」
フェリーシャは作ろうと思っても曲を作れないタイプなのに、こういう大きい案件は受けたがる。
理由は、とても単純だった。
「……こんな
「相変わらず、天才作曲家にあるまじき拝金主義ですねぇ」
「知ったことじゃ、ない。だって創作は――」
ふへ、と怪しい笑いを浮かべながらフェリーシャは断言する。
「
――あいも変わらず、極端すぎる。
フェリーシャは変人だ。
天才作曲家にして、圧倒的なまでの感覚派芸術家肌であるにも関わらず――とにかく自分の曲をお金を稼ぐための道具としか思っていないのである。
「い、いい? 創作は眼の前にいる相手へ届かなきゃ意味がない。ほ、本人の死後有名になるようじゃ、だ、ダメ。そういうのは、芸術。芸術は、いくらでも後世の人間が評価すれば、いい」
「だけど、眼の前の創作を評価してくれる人間は、今この瞬間にしか存在しない……ですよね?」
「う、うん。そして評価の軸は、個人の趣味嗜好や評論家の審美眼なんて……論外。金、だけ。どれだけ売れたか以外に、正しい評価軸なんて……ない」
ほんっとうに極端すぎる。
言っていることはまぁ、一理あるのかもしれない。
フェリーシャは自分の理想を追い求めるのが芸術、大衆の理想を追い求めるのを創作と区別しているそうだ。
このうち、創作は芸術になりうるが、芸術が創作になることはない、とも。
ち、違いがよくわからないー!
「……ま、また、違いがよくわからないって、顔……してる」
「違いがよくわからないと思っています……フェリーシャはチヤホヤされてお金を稼ぐために、作曲をしているのですかー?」
「チヤホヤされて……お金を稼ぐために……?」
私の問に、じいっとフェリーシャはこちらの顔を覗き込んでくる。
普通に考えれば、芸術家にとって侮辱とすら言える言葉。
思わず言ってしまったけど、ここまで直接的にフェリーシャのスタンスを聞くのはこれが初めてかもしれない。
少ししまったな……という思いもあった。
けど――
「……流石、クリス。よ、よ、よくわかってるね……うへへ」
――まぁ、ですよね。
言ってしまったのは”しまった”だけど、返って来る言葉は想定内だ。
とにもかくにも、このエルフは変なのである。
「じゃ、じゃじゃじゃ、じゃあえっと……報告は……終わり……が、頑張るから」
「はい、頑張ってくださいね」
「そ、それで……ええと……」
というわけで、フェリーシャの話はこれでおしまい。
もう少し話をちゃんと聞くべきじゃないか? 兵士を鼓舞する歌とか大丈夫? と思うかも知れないが、そこは問題ないのだ。
北方のドォリナで兵士たちが戦っているのは魔物である。
それも死灰狼を始めとした、繁殖以外の方法でポップしてくる害悪魔物たち。
北の方から、なんか時折大量に襲ってくるんだよね、連中。
その討伐部隊に私の曲を送ってほしいということだろう。
当然ながら私はこういう害悪魔物が大嫌いなので、むしろ歌うことに関しては大歓迎なのである。
で、それはそれとして。
「ふんふーん♪」
「え、ええと……あの……」
「なんでしょう、フェリーシャ」
私は話が終わったので、パスタのかき回しに集中する。
そろそろちょうどいい感じの時間なので、後は味をつけるだけだ。
諸々の準備は済んでおり、ナポリタンやらカルボナーラなら、多種多様なパスタを用意してある。
スパ祭り! スパ祭り!
うひょー! という感じ。
そんな私の側で、モジモジしているフェリーシャ。
はて、一体何をモジモジしているのだろう、という感じで視線を向ける私。
「……あ、あう……」
「んー? だいじょーぶですか、フェリーシャ。ゆっくり話してくれていいんですからね?」
そしてフェリーシャは――
「わ、私も……て、手伝わせて……ママぁ」
私のことをママと呼んだ。
「もちろん、お皿を運んでもらってもいーですか? あと、私はママではありません」
「うん、ママぁ」
「ママではないですよー」
というわけで、フェリーシャに食器棚から皿を持ってきてもらうよう頼む。
これがなにかといえば、フェリーシャが少しでも人付き合いができるようにするための特訓である。
私と出会うまでのだいたい五百年くらいを、ずっとエルフの里で引きこもり続け、現在でも面と向かっての人付き合いができないフェリーシャ。
手紙でのやり取りは非常に堂々としているから、その事を知っているのは私だけ。
だけども、果たして私がいなくなった後のフェリーシャは大丈夫なのだろうか……と考えると、こうしてついつい特訓に付き合ってしまいたくなる。
いやほんと、デカイ娘ができたかのようだ。
背丈も色んなところのムチムチさも、それから年齢だって圧倒的にフェリーシャの方が上なのにね。
というわけで、私たちは二人でスパ祭りを開催するべく準備をするのだった。
いやまぁ、ママではないんだけどさ。