ドラクエⅤ〜リュカの親友に転生した男の生存戦略〜 作:M1tarash1
サンタローズの村を出発してから、パパスの旦那の後ろを歩くこと数日。
道中、スライムやおおねずみといった魔物が何度か襲ってきたが、それらはすべてパパスの旦那が一太刀で叩き伏せてくれた。
大人の戦士の強さを間近で見たリュカは「お父さん凄い!」と目を輝かせていたが、俺の視点は少し違った。
(やっぱり、パパスの旦那の攻撃力は文字通り桁違いだ。数値にするなら、今の俺たちの十倍以上はある。……だけど、ゲマたちの呪詛や搦め手に対して、単発の物理火力がどこまで通用するか。それを補うのが俺の役目だ)
そんなことを考えているうちに、俺たちは目的地の宿場町「アルカパ」へと到着した。
サンタローズよりも二回りは大きいその町は、行き交う旅人や商人たちで活気に満ち溢れていた。
石畳の道を歩くだけで、リュカはキョロキョロと周囲を見回して落ち着かない様子だ。
「ははは、リュカもアレンも、そう焦るな」
パパスの旦那は大きな手で俺たちの頭をポンと叩くと、馴染みの宿屋へと向かった。
この宿屋の主人であるダンカンさんは、パパスの旦那の古い友人だ。
今回は彼が風邪で伏せっていると聞き、サンタローズ特産の薬草を届けるためにやってきたのである。
「よし、私はダンカン殿の様子を見てくる。お前たちは、夕方までこの町で自由に過ごしなさい。ただし、町の外には絶対に出てはならんぞ」
「はーい! 行こう、アレン!」
パパスの旦那が宿屋の奥へと消えた瞬間、リュカが俺の手を引っ張った。
普通の子どもなら、まずは賑やかな市場や、美味そうな匂いを漂わせている屋台へ向かうところだろう。
だが、前世がゲーマーであり、この先の地獄を知っている俺の目的地は決まっていた。
「待てリュカ。まずは武器屋と道具屋だ」
「ええっ? お買い物? 僕はもっと町を見て回りたいな……」
「ダメだ。冒険の基本は装備を整えることからだろ。お前、サンタローズでパパスの旦那が戦う姿を見て、何も思わなかったのか?」
「う……強くて格好いいなって……」
「だろ? 俺たちが少しでも旦那の足手まといにならないためには、今持っているゴールドを最高効率で投資しなきゃいけないんだよ」
半分は本音で、半分はリュカを言いくるめるための建前だ。
俺たちはまず武器屋の門を叩いた。カウンターの向こうで頑固そうな親父が、子どもの乱入に眉をひそめる。
俺は懐から、サンタローズの洞窟で命懸けで稼いだゴールドの袋を取り出した。
「親父さん、そこの『ブーメラン』を一つ。それから『かわのたて』を二つくれ」
「あん? 坊主、ガキの玩具にしちゃ随分と物騒なもんを選ぶな。金はあるんだろうな?」
「ほらよ。ぴったりだ」
ジャラリと硬貨の音を響かせると、親父は驚いたように目を見張り、注文通りの品を差し出してきた。
俺は新調した革の盾を自分の腕に馴染ませ、もう一つの盾とブーメランをリュカに押し付けた。
「リュカ、これを持て。お前は今日から剣じゃなく、そのブーメランをメイン武器にするんだ」
「えっ、ブーメラン? 僕は、お父さんみたいに格好いい剣が使いたいんだけどな……」
「分かってないな。剣は単体を攻撃する武器だ。だけど、この先もしモンスターが五匹、六匹と群れで襲ってきたらどうする? 一匹ずつ斬っていたら、囲まれて袋叩きだ。だが、このブーメランなら、一振りで敵の群れ全体をなぎ払える。子供の俺たちにとって、これ以上の神武器はないんだよ」
「ぜんたい、こうげき……?」
「そうだ。全体攻撃だ。騙されたと思って装備しておけ」
ゲームの仕様を現実の理屈っぽく言い換えると、リュカは「アレンが言うなら……」と納得してブーメランを背中に背負った。
よし、これで雑魚戦の処理速度は格段に上がる。
続いて向かったのは道具屋だ。
俺はここで、さらに奇妙な買い物を敢行する。
「店主、この『せいすい』の瓶を、持てるだけ売ってくれ。そうだな、まずは十本だ」
「おいおい坊主、聖水なんてそんなに買い込んでどうするんだ? 体に塗って清めるにしても多すぎるぞ」
「まあ、ちょっとしたお守りみたいなもんだよ」
怪訝な顔をする店主から、聖水の瓶が詰まった袋を受け取る。
それを見ていたリュカが、不思議そうに小瓶を覗き込んできた。
「ねえ、アレン。聖水って、悪い呪いを解いたり、魔除けに使うやつでしょ? なんでそんなにたくさん必要なの?」
「リュカ、これはただの魔除けじゃない。特定の魔物に対して、恐ろしい攻撃アイテムになるんだ。言わば、投擲武器さ」
「ええっ!? これがお水が武器になるの!?」
「ああ。特に、今夜これから行くことになる場所ではな……」
「今夜!? 僕たち、どこかに行くの!?」
しまっと、少し口が滑った。俺が慌ててリュカの口を手で塞いだ、その時だった。
「ちょっとあんたたち! そこでこそこそ何企んでるのよ!」
背後から、鈴を転がしたような、しかしどこか勝気な少女の声が響いた。
振り返ると、そこにいたのは鮮やかな金髪を二つのツインテールに結い上げ、腰に手を当てて仁王立ちしている少女だった。
年齢は俺たちより二歳ほど上。
大人びたサロペットに身を包んだその少女――ビアンカが、疑り深い目で俺たちを睨みつけていた。
「あ、ビアンカ!」
「リュカ、久しぶりね! 相変わらずのんびりしてるんだから。パパスのおじさんが来てるって聞いて宿屋に行ったのに、あんたたちがいないから探してたのよ」
ビアンカはふん、と鼻を鳴らすと、リュカの隣にいる俺に視線を移した。
「で? そっちの黒髪の男の子は誰? リュカの新しい子分?」
「誰が子分だ。俺はアレン。サンタローズの住人で、リュカの『対等な親友』だ。よろしくな、お姉さん」
「な、何よお姉さんって! まぁ、私の方が二つも年上なんだから、当然なんだけど……アレン、ね。よろしく。でも、さっき『今夜どこかに行く』なんて言ってたわよね? あんたたち、まさか私の知らないところで面白いことしようとしてるんじゃないでしょうね?」
さすがは幼少期から凄まじい行動力を持つビアンカだ。地獄耳すぎる。
俺は苦笑しながら、これから起こるであろう『あのイベント』の発生源――町の広場へと視線を向けた。
「面白いこと、か。……いや、面白いっていうよりは、ちょっと胸糞悪いイベントが、あそこで始まってるみたいだぜ」
俺の言葉に誘われるように、リュカとビアンカも広場の中心へと目を向けた。
そこには、町のガキ大将たちが、小さな、本当に小さな薄紫色の仔猫のような魔物――ベビーパンサーを取り囲み、棒切れでいたぶっている姿があった。
(よし……役者は揃った。原作の歯車を、俺の手で回してやる)
俺は腰の短剣をそっと確かめ、怒りに顔をしかめ始めたリュカとビアンカの後に続くように、広場へと歩き出した。