ドラクエⅤ〜リュカの親友に転生した男の生存戦略〜 作:M1tarash1
町のガキ大将たちにいじめられているベビーパンサーを助ける条件は、あまりにも荒唐無稽なものだった。
『アルカパの北のある「レヌール城」のオバケを退治してくること』
普通の子供ならば怯えて逃げ出すだろう。
だが、正義感の強いリュカは「約束だからね!」と頷き、お転婆なビアンカも「私が2人を引っ張ってあげるわ!」と息巻いていた。
そして俺ーーアレンはと言えば、宿屋のベッドの中でニヤリと不敵に笑っていた。
(レヌール城……。幼少期における最大の経験値稼ぎスポットであり、最初のダンジョンだ。大人たちが寝静まっている時こそ、攻略のベストタイミングだな)
時計の針が深夜の十二時を回った頃。俺は気配を殺してベッドから抜け出した。
すでに服はは着替えてあり、腰には研ぎ澄まされた短剣、そして昼間に買い込んでおいたせいすいの袋を携えている。
隣のベッドを見ると、リュカはすでに起きていて、小さな体を震わせまがらこちらを見ていた。
「ア、アレン……本当に今から行くの?お父さんを起こした方が……」
「馬鹿言え。パパスの旦那は風邪を引いているんだぞ。それに大人にバレたら危ないからってこの宿屋で監視されて外に出づらくなるぞ。しかも、夜のダンジョンこそモンスターが活発になるんだよ。つまり、経験値を効率よく稼ぐチャンスなんだよ。」
「けいけんち……?」
「強くなるための糧だよ。行くぞ、リュカ。お前に買ったブーメランの真価を見せてやる」
部屋の扉をそっと開けると、廊下にはすでにランタンを持った金髪の少女が待っていた。ビアンカだ。
彼女は俺たちを見ると、ふふんと得意げに胸を張った。
「遅いじゃない、あんたたち。男のくせに怖気付いたのかと思ったわ。」
「まさか。ビアンカこそ、途中で泣いて逃げ出さないでよ?」
「なっ……!言うじゃない。行くわよ!」
こうして俺たち三人と一匹の隠密作戦が始まった。
アルカパの町を抜け、北へ進むこと数十分。
暗雲が立ち込める夜空の下に、その城は不気味にそびえ立っていた。
かつては立派な城だったろうが、今はツタが絡まり、窓ガラスは割れ、完全に廃墟と化している。
原作知識を活用し、城の裏から侵入したその瞬間だった。
ーーガラガラガラッ!ドンッ!!
激しい音を立てて、俺たちが通ってきた扉が完全に閉まり、内側から鍵がかかるような不気味な音が響いた。
「ひゃうっ!?閉まっちゃった……!」
「う、嘘でしょ……?開かないわ!」
リュカが悲鳴を上げ、ビアンカが慌てて扉を叩く。
典型的なホラー演出だ。普通の子供ならパニックになるところだが、原作知識のある俺は冷静に周囲の状況を観察していた。
「落ち着け二人とも。これはただの『退路遮断ギミック』だ。焦らなくていい。来るぞ。」
冷たい床から、ゆらゆらと青白い炎が立ち上る。
現れたのは、頭の上にローソクの火を灯した奇妙な魔物ーー『おばけキャンドル』が三匹。こちらを威嚇するように、ジリジリと距離を詰めてくる。
「見たことないこの魔物……!アレン、どうしよう!?」
「慌てるなリュカ!昼間に教えた通りだ。背中のブーレランを構えろ!」
「う、うん……!やあああ!」
リュカが意を決して、背中のブーメランを力任せに投げつけた。
シュルシュルシュルと鋭い風切り音を立てて飛んだそれは、一匹目のおばけキャンドルの胴体を切り裂き、その勢いのまま二匹目、三匹目の身体をも的確に捉えた。
ジジッ!ギャッ!と魔物が悲鳴を上げる。
「すごい……!一回投げただけなのに、みんなに当たった!」
「そうだ!それが全体攻撃の威力だ!ビアンカ、左のやつを頼む!おれは右を仕留める!」
「わ、分かったわ!燃え上がれ!メラ!」
ビアンカの放った小さな火球がおばけキャンドルの一匹を焼き尽くし、同時に俺は地を這うような低い姿勢で鋭く踏み込み、右側の個体の核を短剣で一突きした。
残る一匹は、戻ってきたブーメランをキャッチしたリュカが、今度は手元でたたき伏せる。
戦闘時間、わずか数十秒。完璧な連携だった。
魔物たちが光の粒子となって消え去ると同時に『経験値が蓄積される感覚』が心地よく伝わってきた。
「ふぅ……。思った通り、ここの敵は今の俺たちのレベルなら、作戦通りに動けば恐るるに足らないな」
「アレン、あんた本当に七歳? なんでそんなに冷静なのよ……」
ビアンカがあんぐりと口を開けて俺を見つめている。
リュカも、自分の手の中のブーメランを見つめながら、驚きを隠せない様子だ。
「言っただろ、効率的な仕込みをしてきたんだ。
さあ、ここからは俺の指示に従ってもらうぞ。
この城に巣食うオバケどもを、一匹残らず俺たちの経験値に変えてやる」
不気味に響く風の音を余所に、俺は短剣の血を払うように一振りし、暗い廊下の奥へと歩みを進めた。
運命を変えるための最初のレベリングが、今ここに始まったのだ。