胡蝶蘭の慕情   作:弟子にさせられたネクパイ


原作:ウマ娘プリティーダービー
タグ:R-15 オリ主 ファレノプシス
 お前もクーデレ歳下師匠兼隠れギャル属性武士ウマ娘の弟子になるが良い。

1 / 1
すれ違い、のち睦まじく

 

 

 

 

「──、起──」

 

 

 

 凛とした声と、優しく揺さぶられる感覚が、まどろみを覚ましていく。

 しかし、それがあまりにも心地良くて、“彼”は目覚めるのを惜しく思ってしまう。

 

 

 

「お─、もう──る時間だぞ」

 

 

 

 再びの声。

 ポンポンと肩を叩かれ、そのリズムが眠気を更に助長する。

 もう、ずっとこうしていたい……。

 

 

 

「うう……あと、五分……」

「……ふう」

 

 

 

 溜め息。

 側にあった気配が少し遠ざかるのを感じ、次の瞬間、鼻が摘まれた。

 当然、息は出来なくなり、沈もうとしていた意識が強制的に浮上し始める。

 

 

 

「っ、ん、ぐ……ふが……?」

「やっと起きたか」

 

 

 

 呆れ笑いと同時に、つん、と額を突つかれ……。

 そこまでされて、ようやく“彼”は目を開ける。

 見上げる視界に居たのは、花のように美しい女性。

 夕暮れの空を思わせる色合いの瞳を持ち、艶やかな黒髪をサイドポニーにまとめる彼女の名は、ファレノプシス。胡蝶蘭の名を持つウマ娘だった。

 

 

 

「おはよう。今日もそなたは寝坊助だな」

「……おはよう」

 

 

 

 “彼”は寝起きが悪い。

 遅刻常習犯になる程ではないけれども、どうにも朝はボーッとしてしまう性質である。

 そんな“彼”の頭上で主張する寝癖を撫でつけ、ファレノは布団の脇から腰を上げた。

 

 

 

「もう朝餉は出来ている。早く顔を洗って来なさい。仕事に遅れてしまうぞ」

 

 

 

 そう言い残し、居間へと向かうファレノを見送って十数秒。

 “彼”はやっと布団から抜け出す事に成功したのだった。

 

 “彼”とファレノがトゥインクルシリーズを駆け抜けたのは、もう過去の話。

 トレセン学園を卒業と同時に、ファレノは現役を引退。幼い自分を導いてくれたウマ娘育成倶楽部で、後進を育てる道に進む。

 そして二人は、そうするのが当たり前であるかのように、互いを人生のパートナーとして定めた。

 結婚式こそまだだが、一年ほど前に入籍は済ませ、こうして同棲生活を送っている。

 

 ……少し補足しよう。

 幸せな同棲生活を、送っている。

 

 

 

「頂きます」

 

 

 

 顔を洗い、身嗜みを整え、食卓について、純和風な朝食を前に手を合わせる。

 二人で住むために引越した一軒家は、いわゆる古民家であり、少し修復に手間はかかったものの、その分、比較的安価で入居できた。

 家事は分担……するはずだったのだが、前述の通り“彼”は朝が弱く、トレーナーという仕事上、帰りが遅くなる事もしばしばあるため、定時に帰れるファレノの負担が多めとなってしまっている。

 けれども、彼女は文句を言うどころか、どこか楽しそうに、甲斐甲斐しく世話を焼いてくれるのであった。

 

 

 

「うん、今日も美味しい」

「そうか。それは重畳。夕餉に食べたい物はあるか? なんでもとは言えぬが、善処するぞ」

「そうだなぁ……」

 

 

 

 塩鮭と白米に、油揚げとワカメの味噌汁という鉄板メニューに舌鼓を打ちながら、早くも夕飯の献立を考える。

 武芸十八般に加えて、家事全般にも通じるファレノは、料理に関しても和食を得意とするが、和食しか作れない訳ではない。いわゆる日本の家庭料理ならOKだ。

 昨日は肉じゃが、一昨日は具沢山豚汁と筑前煮……。和食が続いているし、今日は違うジャンルが良いかも知れない。

 

 

 

「ハンバーグ、とか。前に作ってくれた、粗挽きの挽肉使った豆腐ハンバーグ、美味しかったしまた食べたいな」

「ハンバーグか。うむ、あい分かった。腕によりを掛けて作ろう」

 

 

 

 ファレノが柔らかく微笑み、髪を纏めている花飾りが小さく揺れる。

 何気ない仕草ですら、まさに胡蝶蘭が風に揺れるような優雅さで、思わず見惚れてしまう。

 それを悟られるのが妙に恥ずかしく感じ、“彼”は箸を動かす速度を早めた。

 

 そんなこんながあり、数十分後には家を出なければ時間となった。

 ネクタイを締め、ジャケットを羽織り、鞄を確認して……。準備万端、のはず。

 

 

 

「さて。そろそろ私も出る。忘れ物はないか? ……そのまま。ネクタイが少し……よし、これで良い」

 

 

 

 同じように支度を終えたファレノが隣に立ち、慣れた手付きで首元を整えてくれる。

 今日こそは完璧だと思ったのだが、ちょっと悔しい。でも、こうしてネクタイを直してもらうのも嬉しいので、一生ネクタイを結ぶのは上達しなさそうだ。

 加えて、愛する女性の存在を間近に感じた事で、とある欲求がムクムクと湧き上がってきて……。

 

 

 

「一つだけ、忘れ物したかも」

「うん? なんだ、なら早く……」

「……ファ、ファレノ成分の摂取を、忘れてたなー! ……なんて」

「は?」

 

 

 

 半目になり、ジロリと睨みあげるファレノ。

 引き攣った笑みを浮かべる“彼”。

 玄関の引き戸の向こう側で、野良猫やら犬やらの声が虚しく響いていた。

 

 ヤバい。滑った。

 仕事前にちょっとスキンシップしたかっただけなのに……!

 

 

 

「何を言うかと思えば、全く……」

 

 

 

 はあぁぁ……とクソでか溜め息をつき、ファレノが額を抑える。

 あー、これは怒られるなー。調子乗るんじゃなかった……と“彼”が後悔していたら。

 

 

 

「少しだけ、だぞ」

 

 

 

 ファレノは両腕を広げ、“彼”を受け止める体勢に。

 思わぬ形で願いが叶い、少し戸惑う“彼”だったが、抱きしめたい欲には抗えず、ファレノの背中に腕を回した。

 

 頭一つ分強の身長差があるせいか、すっぽりと腕の中に収まる、小柄な体。

 その体温を感じると、落ち着くのに心臓が跳ね回るという、矛盾した状態に。

 入籍はしたけれど、夫婦という自覚に乏しく、どちらかと言えば、やっと恋人同士になれたような感覚だ。

 

 初めて肌を重ねたのも……うまぴょい(隠語)したのもつい最近、それだってまだ数えるほど。

 もっと触れ合いたいと思うのは、自然な事であると思いたい。

 

 

 

「……まだ足りぬのか?」

「もうちょっとだけ……」

 

 

 

 腕の力を強めると、ほんのりと、シャンプーの香りが鼻をくすぐる。

 嗅ぎ慣れた匂い。いつまでも感じていたい匂い。

 ああ、いっそこのまま、仕事をサボってしまえたら……。

 

 

 

「こら」

「あでっ」

 

 

 

 いつの間にか、するりと腕の中から逃げ出したファレノが、“彼”の額を指で弾く。

 かなり強めに抱きしめていたはずだが、彼女にとっては意味のない拘束だったらしい。

 

 

 

「そなた、最近弛んでおるぞ。その様な振る舞いでは、後進に示しがつかぬ。しっかりしなさい」

「う……それは……申し訳ない……」

 

 

 

 ピシャリと叱られ、“彼”は意気消沈。思いっきり肩を落とす。

 弛んでいる。そう、弛んでいる。

 

 元よりファレノの在り方、精神性に惹かれ、相手が年下のウマ娘にも関わらず、弟子入りを志願したほどに惚れ込んでいた。

 それが同棲を始めて、いっそう強くなった。

 現役時代は意識して無視していた分、女性としての魅力を強烈に意識するようになってしまった。

 要するに、ぞっこんなのだ。

 

 そんなファレノにワガママを言って、ちょっと強引に抱きしめさせて貰った挙句、苦言を呈された。

 何やっているんだろう、と自己嫌悪を覚える“彼”だった。

 

 

 

「……そんな顔をするでない。ほら、遅刻してしまう。もう行くぞ」

「そう、だな。今日も頑張らないと」

 

 

 

 情けない顔でもしていたのだろうか。

 ファレノが、ぽん、と背中に手を置き、のっぴきならない現実に向き合う勇気をくれる。

 こうして“彼”は気を取り直し、けれども、ちょっとヘコんだ状態で出勤する事になったのである。

 

 

 

「なぁるほど。それでしょげてる訳だ」

 

 

 

 数時間後。

 トレーナー寮のラウンジにて、“彼”は先輩の男性トレーナーと共に昼食を摂っていた。

 何を食べているのか? もちろん、ファレノ特製の愛妻弁当である。

 だし巻き玉子がとてつもなく美味しい。

 

 

 

「ま、気持ちは分かるよ。誰でも最初は加減なんて分からないもんさ。ましてや、お前さん達は恋人期間をすっ飛ばして入籍しちまったんだから」

「そんなもの、でしょうか……」

 

 

 

 先輩トレーナーは既婚者……。それも、“彼”と同じく、過去の担当ウマ娘と結婚した。

 以前から知人ではあったが、同じ身の上になったという事もあり、何かにつけて相談に乗ってくれている。

 誰かと恋愛関係になったのすら初めての未熟な男にとって、実にありがたい相談相手だった。

 

 

 

「不安なら、立場を逆転させて考えるといい」

「逆転ですか……?」

 

 

 

 先輩トレーナーもまた、愛妻弁当を食しながら言う。

 箸で摘んだ卵焼きが少々焦げているのは……見なかった事にしよう。

 結構な確率で焦げている気がするけれど、きっと気のせいだ。うん。

 

 

 

「例えば、お前が早めに出勤したい朝に、嫁さんが珍しくスキンシップを求めてきたとする」

「……ファレノがそんな事するかなぁ」

「例え話だ、突っ込むなって」

 

 

 

 言われて、“彼”は想像力を働かせてみる。

 忙しい朝。

 ファレノが出掛けに“彼”を呼び止め、恥ずかしそうな顔で「行ってきます」のハグを求め……。

 やっぱり似合わない気がしてならないが、この際、違和感は捨て置こう。

 

 

 

「どうしても仕事を優先しなくちゃいけなくて断ったら、嫁さんはしょげてしまった。お前はどう思う?」

「……申し訳ない気持ちで、いっぱいですかね。後で埋め合わせしないと……」

「お前がそう思うなら、嫁さんもそう思っている可能性はあるだろう? そんな気にしなくても大丈夫さ」

 

 

 

 実際に求められたら何時間でもハグする所だけれど、断腸の思いで断る。すると、「仕方ないな」と苦笑いして、残念そうにするファレノ。

 ……想像しただけなのに、胸が痛い。

 今すぐにでも愛妻を抱きしめたい衝動に駆られるが、果たしてファレノは、どうなのだろうか。

 同じように思ってくれているのなら……少しは安心、できるのだが。

 

 いまいち、ファレノに似つかわしくない行動を想像したせいで、説得力を感じられない。

 しかし、先輩トレーナーのお気楽で豪快な笑みは、不思議とそれを信じたくなるような、朗らかさに満ちていた。

 

 

 

「ありがとうございます。ちょっとだけ、気が楽になりました」

「良いって事よ。お礼は……そうだな。そのやたら美味そうな卵焼きでどうだ」

「絶対ダメです。後でコーヒー奢りますから」

「ははは、ダメかー。んじゃそれで良いや。午後は気張っていけよ」

「はい!」

 

 

 

 例え恩義ある相手でも、愛妻弁当のおかずは譲れない。

 分かっていて言ったのだろう先輩トレーナーは、ちょっと苦いだろう卵焼きを、それでも満足げに完食するのだった。

 

 そして、同時刻。

 “彼”と同様に、ファレノもまた思い悩んでいた。

 

 

 

「むう……」

 

 

 

 既に昼食を終えたファレノは、育成倶楽部で午後の指導の準備を進めつつ、今朝の出来事を思い出す。

 愛しい男性の温もりと、寂しそうな顔を。

 

 

 

(やはり、厳しくし過ぎただろうか)

 

 

 

 弛んでいる、と思ったのは嘘ではない。ただし、それにはファレノ自身も含まれている。

 あのまま……。あのまま“彼”の腕の中に居れば、きっとファレノの方が我慢できなくなっていた。

 

 弛んでいる。弛みきっている。

 夫に抱擁を求められ、妻として応えるまでは良い。

 だが、実はあの時、ずっとこうしていたいとファレノも思っていたのだ。

 

 仕事前にも関わらず、なんという惰弱。

 自分に喝を入れるため、断腸の思いで抱擁から抜け出し、誤魔化すように夫を叱りつけて……そして、寂しそうな顔をさせてしまった。

 本意では、なかった。

 

 

 

「一人で考えていても、堂々巡りか……。知恵を借りるべき、だな」

 

 

 

 このままでは指導に集中を欠くかも知れないし、まだ休憩時間は残っている。

 懸念は早々に払拭すべきと考え、ファレノは、同期であり人生の先輩でもある友人に、助言を求める事にした。

 その友人とは……。

 

 

 

『はーい、もしもし。ファレノさん?』

「ああ、スペ。久しぶりだな」

『お久しぶりですー! どうしたんですか? 急に電話なんて』

 

 

 

 かつて、黄金世代とも呼ばれたウマ娘達の筆頭にして、一児の母(第二子も妊娠中)の、スペシャルウィークであった。

 彼女もトレセン学園を卒業後、自らのトレーナーを実家のある北海道へと攫げふんげふん連れ帰り、そのまま結婚。幸せな結婚生活を送っているようだ。

 夫婦生活の相談相手として、これ以上に相応しい友人は居ないだろう。

 

 なお、その他の黄金世代の同期達の現状は以下の通りである。

 グラスワンダー。担当トレーナーと結婚。日本の永住権を取得して、現在は妊活中。

 エルコンドルパサー。担当トレーナーを寝技(意味深)で堕とし結婚。しばらくは世界を走り回っていたが、現在は祖国に腰を落ち着けて子育てに奔走している。

 ツルマルツヨシ。担当トレーナーと体質改善を続ける中で既成事実が積み上がり、授かり婚。今は悪阻と戦っている。

 キングヘイロー。卒業後に担当トレーナーと恋仲となり、「私達は恋人同士としても一流よ!」と豪語していたが、思いがけないタイミングで子供を授かってしまい、こちらも授かり婚。母親との関係も、少しは改善したようだ。

 セイウンスカイ。察してあげて下さい。

 

 

 

『なるほどー。つまり、旦那さんが悲しんでないか、嫌われたりしてないか、不安なんですね』

「……まぁ、そうとも言える、かも知れない……」

 

 

 

 閑話休題。

 事情を説明したファレノが、珍しく言葉尻を濁す。

 気丈に振る舞っているけれど、まだ19歳の幼妻。色恋沙汰に心が揺れる事だってあるのである。

 

 

 

『うーん。まず最初に、旦那さんはそこまで悲しんだりしてないと思いますよ? ちょっと残念、くらいには思ってるでしょうけど』

「……そう、だろうか」

『はい、絶対です! 嫌いになる事もあり得ないです。ファレノさんの旦那さんって、ファレノさんにぞっこんですし』

「だ、断言したな。根拠でもあるのか?」

『根拠って……。え? 現役時代から、見てるだけで分かりましたけど』

「…………そ、そうか」

『それに、ファレノさんの方だってそうですよね? 前にみんなで集まった時とか、旦那さんをすっごく褒めまくって──』

「ゔっゔん! 分かった、分かったから、もう堪忍して欲しい……」

『ふふふ、はぁーい』

 

 

 

 それを感じ取ったスペは、不安なんか消し飛ばそうと、明るい声で断言する。

 不思議なもので、他の誰かから言って貰えたというだけで、暗澹とした気分は霧散してしまった。

 げに頼もしきは同期の絆、であろうか。

 

 

 

「しかし、それが事実だとして、落胆させてしまったのも確か。何か埋め合わせをせねば……」

『あ! だったら良いアイディアがありますよっ。私のトレーナーさ……じゃなかった、夫も大満足のやつが!』

「ほう。スペがそこまで言うとはな。して、如何様なものなのだ?」

『それはですねぇ……。ごにょごにょごにょ……』

「……なっ!? い、いやしかし……う、むう……それはまことか……?」

 

 

 

 加えて、何やらスペから入れ知恵されたらしいファレノは、驚いたり、顔を赤くして悩んだり。

 終いにはドン引きすらしてしまったが、休憩時間ギリギリまで、友人との通話は続いたのだった。

 

 

 

 時は過ぎ去り、同日の夜。

 帰宅した“彼”が「ただいま」と玄関を開けると、聞き慣れたスリッパの音がパタパタと近づいてきた。

 出迎えてくれるのは勿論、ファレノ。割烹着姿の幼妻だ。

 

 

 

「おかえり。もう夕餉の下拵えは済んでいる。すぐに食べるか? それとも風呂を先にするか?」

「……ご飯を先に食べたいかな。お腹が空いちゃって」

「分かった。準備をしておくから、手を洗って来なさい」

 

 

 

 鞄とジャケットを預けつつ、“彼”は思う。

 ここで「それとも、私か?」っていつか言って欲しいなぁ、と。男としては、一度は聞いてみたいセリフだ。

 ……普通にお願いすれば言ってくれるだろうか? 今朝のことがあるからしばらくは無理かも知れないけれど、いつか頼んでみるとしよう。

 

 それはともかく、言われた通りに手洗い・うがいをして居間に。

 肉の焼ける音と香ばしい匂いが、これでもかと空きっ腹を刺激した。

 ワクワクしながら食器などを準備して待っていると、程なく食卓にハンバーグを始めとしたおかずが並ぶ。

 

 

 

「では。頂きます」

 

 

 

 いつものように手を合わせ、さっそくハンバーグを一口。

 ごく普通の粗挽きハンバーグに豆腐を混ぜ込んだものだが、パサついたりせず、醤油ベースのソースが良く合い、箸が止まらない。

 みるみる内に白米は減っていき、副菜も含め、気が付いた時にはもう完食だ。

 

 

 

「ご馳走様でした。美味しかったよ。やっぱりファレノの料理は絶品だ」

「ふふ、そうか。お粗末様でした。……さて、今日は先に湯を頂いても良いだろうか」

 

 

 

 食後にお茶を一服していると、ファレノは湯呑みを傾けながらそう言った。

 何故だか、妙にソワソワしているようにも見えるが、異を唱える理由もない。“彼”は頷き返した。

 

 

 

「構わないよ。ゆっくりと温まって」

「うむ。ならば、お先に失礼させて貰おう。私が上がったら、湯が冷めぬ内にそなたも入るのだぞ」

 

 

 

 お茶を飲み終え、風呂場に向かうファレノを見送る。

 彼女は寝巻きに襦袢を使っていて、風呂上がりには火照ったうなじが色っぽい。

 今日もそれを拝める……とホクホクしながらくつろいでいたら、意外にも早めにファレノが戻ってきた。

 

 

 

「あれ、早かったね。何かあ──」

「……寝床で待っている」

「っ!?」

 

 

 

 すれ違い様に、耳元で囁かれた一言。

 思わずギョッとして振り向くが、見えたのは尻尾の先だけ。

 

 同じ家に住み、入籍も済ませている二人だが、その寝室は別だ。

 理由はただ一つ。一緒の部屋で寝たりしたら、絶対に歯止めが効かなくなるからである。お互い、今は後進を育てる事を優先しようと、話し合って決めた。

 だと言うのに、寝床で待っている? こんなの、どう考えてもOKが出たとしか考えられない。

 

 しばし“彼”は呆然とし、ハッと気を取り直して、大急ぎで風呂場へ。

 ささっと体を洗い、湯船の中で「どうして突然?」「もしかして今朝のアレが原因か?」「先輩大当たりじゃん凄え」などと考えながら温まり、なんとなく、もう一度体を洗ってから上がる。

 ファレノが用意しておいてくれた、寝巻き代わりの作務衣に袖を通すと、急ぎ足で彼女が待っているはずの部屋の前に。

 暴れ回る心臓を深呼吸で落ち着かせて、「入るよ」と声をかけてから襖を開ければ……。

 

 

 

「ファレノ!? そ、その格好は……!?」

「う、うむ……」

 

 

 

 そこには、現役時代に幾度となく目にした、勝負服姿のファレノが、布団の上で正座して待っていた。

 着物に甲冑の部品をあつらえた和装で、現代風にアレンジされているが、その佇まいは正しく武家の姫君。

 風呂上がりだというのに、しっかりと化粧までしてくれているらしく、戦支度は万全のようだった。

 

 

 

「え、ええと……。今日は、それで……?」

「……まあ、その、あれだ。……皆まで言わせるな。恥ずかしい」

 

 

 

 念のため確認すると、流石に照れてしまったのか、俯き加減に頬を染めるファレノ。

 そう。スペの入れ知恵とは、「昔の勝負服でコスプレぴょいがオススメです!」という、なんとも安直かつド直球なものだったのだ。

 曰く、「現役時代はそんな対象じゃなかったのに、結婚してから着てもらうと凄く滾る……って悦んでました!」だとか。

 実際、“彼”も視線が釘付けなので、男は単純である。

 

 

 

「今朝は嫌がられたから、てっきり、しばらくは触れさせてもらえないのかと……」

「それは無い。そんなはずがあろうものか。……よいか? 一度しか言わぬから、心して聴くように」

 

 

 

 言いながら、ファレノは布団をポンポン。そこに座れ、という事だろう。

 求められるまま、“彼”が側で膝を揃えると、真正面に向き直り、ジッと瞳を見つめ……。

 

 

 

「愛しい(おのこ)に求められて、嬉しく思わない女は居ない。私も、そうだ。……今朝は自制しただけであって、本当は……嬉しかったのだぞ」

 

 

 

 優しく、雅に、微笑んだ。

 膝に乗せていた手へと、ファレノの手が重なって。

 “彼”は思った。

 

 我慢できるか、こんなもの……!

 

 

 

「ファレノ……!」

「あっ、こ、こら、がっつくでない! まだ慣れていないのだ、もっとゆっくり……こら!」

 

 

 

 勢いよく抱きしめられ、ファレノは戸惑うものの、抵抗らしい抵抗をしない。

 そうこうしている内に、二人の影は絡み合ったまま布団へ倒れ……朝まで離れる事はなかったという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ファレノさん達、そろそろ頑張ってる頃かなぁ? むふふ、よぉーし! 私達も、けっぱるべー!」

「……なぁスペ。お腹に赤ちゃん居るんだし、なんなら昨日も六回くらいしたし、ちょっと今日は休憩しても……聞いてる? な、なんでにじり寄って来るんだ……?」

「 い た だ き ま す 」

 

 

 

 

 







Q:別名義の連載はどうしたネクパイ野郎。
A:ファレノさんの割烹着姿が見たくなったんだから仕方ねぇべさ。

 正直に言いましょう。最初は引く気ありませんでした。
 石回収の為だけにキャラストを読んだら、何故かガチャチケと石が消し飛んでたんですわ。属性ごった煮恐るべし。
 という訳で、またirirし始めたtntnを鎮めるためのダイレクトマーケティングでした。ほら引けよ。「愛いやつめ」ってしてくれるぞ。

 余談ですが、先輩トレーナーの奥さんは飯マズではないです。
 普段はだし巻き玉子派で、リクエストされて甘い卵焼きを作ると、火加減を間違えてちょっと焦がしちゃう事が多いだけなんです。
 それを奥さんが謝り、先輩トレーナーが慰めて、最終的にラブラブするというルーティーンなのです。もげろ。
 あ、スペの旦那さんは文字通りの搾取され枠です。愛してるのは間違いないけど、もう少し加減して欲しいなぁ……と悩んでいるそうですよ。もげて爆ぜろ。

 さてさて。スッキリして賢者タイムに入った故、続きはありません。が、気分転換したくなったら違うネタを更新するかも?
 その時は読んでやって頂けると、作者がうまぴょい伝説を踊るくらい喜びます。
 ではまたいつか。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。