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斎賀一……もとい、かつての姓———廻狂———の文字りで決めたプレイヤーネーム「スリーピー・ハジメ」は、現在進行形でかなり危うい立場にある。
此処はシャングリラ・フロンティアの世界———今この世界で最も注目を集めているVRゲームであり、所謂「神ゲー」に分類される代物の空想世界だ。
シャンフロの通称で愛されるその神ゲー、そこに存在する巨大クランの内の一つ———シャンフロを代表する最強のユニークモンスター、『七つの最強種』の一角を担う『夜襲のリュカオーン』の討伐を掲げるクラン【
「ふぅ……それでは、もう一度、聞く。誰が、誰を、連れて来ると……?」
「もう一度と言うかこれで3度目なんだよね。仏の顔も三度までだよ? まぁ二人からすれば仏っつーか毘沙門天に見えるんだろうけども」
———んー、困ったね! まさかシャンフロでもトップクラスの実力者プレイヤー二人に囲まれるなんて思いもしなかったなー!
うん、いやまぁ、そらそうなるよね。だって二人からしてみればほぼ死刑宣告同然だもん。特にサイガ-100……
だがしかし、仙ちゃんの夫として、そして百ちゃんと
「多分来週辺りから仙ちゃんがログインするよ☆」
「もうだめだ、おしまいだぁ……りゅかおーんたおせないよぉ」
「お、落ち着いて姉さん! まだ決まってないから! まだ……うん、まだ…大丈夫、な筈だから…………」
武骨な純白の鎧に身を包んだ巨躯から、まぁ随分と可愛らしい声が響く。
俺の目の前で遠い目して溶けちゃったのが【黒狼】のリーダー、サイガ-100こと斎賀百ちゃん。で、その隣で百ちゃんを励まそうしながらも遂には自信喪失しちゃったのが、末っ子の斎賀玲ちゃん。とても可愛い義妹達です。
あぁ、なんて可哀想に……いつもはリュカオーン討伐に躍起になってる百ちゃんが、こんなにも溶け切って! まだ夏には速い…あ、もう夏休みのシーズン入ってるのか。じゃ良いや。
これはあれだ、『動いてないのに暑いよ〜!』ってやつだね。俺は詳しいんだ。
「大丈夫な訳あるか! 仙姉さんが来るんだぞっ!? 絶対に尋問&説教のフルコースに決まってるじゃないか!!!! というか
「深夜帯にスヴァブラの夢見て起きちゃったから仙ちゃんの国宝の如きご尊顔を眺めてたら視線で起きちゃって、ちょっと仙ちゃんがバグった後に俺が仙ちゃんが『VRゲームに興味持ってるなら一緒にやらない?』って誘った結果ですね」
うんうん、誰も悪くないね。これはそういう流れ、もう変えようのない運命というやつだ。
だからそんな目で俺見るのやめて? 俺、善良なPKkillerだから。普通のPKプレイヤーじゃないから。ぼくはわるいぴーけーきらーじゃないよ!
「玲、判決は?」
「
「宜しい、では死刑を執行する」
「うせやん。いやいや、流石に早計だって義妹達よ。まだ分かんないじゃん? 百ちゃんと玲ちゃんだって気付かないかもしれないじゃん?」
「私と玲の
「サイガ-100とサイガ-0だね」
うーん、改めて見ても普通に危ないよなこれ。もうほぼ本名じゃないか。こんな名前にしてるから京ちゃんとかにも速攻で身バレするんだよ?
まぁ、京ちゃんはある意味で身内みたいなもんだから問題無いんだけどもさ。ちなみに俺のPNのスリーピーは元の姓の文字りです。廻を寝ってね。
「これでも気付かないと言えます?」
「うーん……仙ちゃんならわりとありそうじゃない? 未だ横文字とか苦手だし。そこが可愛いし」
「流石にそれは……いや、仙姉さんならもしかして…?」
「嘘だろ!? 玲、呑み込まれるな!」
チッ、ダメだったか。2人共仙ちゃんに弱いからいけると思ったんだけどな。
うーん、そんなに怖いかな? やっぱ夫と姉妹じゃ視点が違ったりするものなのだろうか。俺からすれば、寧ろその凛とした花の如き姿勢から垣間見えるギャップが堪らなく愛おしいのだけれども。
「まぁまぁ、そう心配しなくていいって。ちゃんとゲームっていう前提は教えるし、ゲーム内におけるルールとかも言っておくから。ゲーム内におけるリアルはの追求はマナー違反だよーって教えれば、仙ちゃんも過干渉はしないって」
「むぅ……まぁ、確かに。貴方の言う事なら、仙姉さんは高確率で聞き入れてくれるか…」
「そんなバッチ足りなくて言う事聞いてくれないモンスターみたいに……」
もうここまで行くと、よくもまぁそこまでビビれるもんだ。何処に恐怖があるというのか。あんなにも可愛い所が沢山……というか可愛い所しかないというのに。
「結論。どう足掻いても顔合わせは必ずするんだから覚悟決めとこう!」
「他人事の様に…! こっちはリュカオーン討伐という巨大目標が潰えるかもしれない恐怖に怯えてるんだが!?」
「申し訳ないとは思ってる……けど嫁さんと一緒に好きなこと出来るならそっちを優先する、これ夫の基本ね。これが出来る人を探しましょう」
「絶妙に納得できる助言が余計に腹立つ……」
円満な夫婦仲の秘訣? そりゃ趣味の共通ってやつですよ。自分の好きなものが一緒なら、自然とそれが会話にも上がる。そうすればマンネリは無くなっていくってね。
俺の場合は自分から積極的に仙ちゃんに絡みに行ってるし、時と場合でそれも変えるのでマンネリは皆無なのですが。
まぁ、それはそれとして……この二人も仙ちゃんの例に漏れず恋愛力が没収されてるからなー。
「百ちゃんはねぇ……まず私生活からどうにかしようか? 流石にだらしないが過ぎるとハジメくん思うな」
「うぐっ」
「ついでに玲ちゃんははよ想い人を誘いなさい。いつまで受けの姿勢で居るのさ」
「はうっ」
百ちゃんの方は単純に完璧超人で隙見せない所為で高嶺の花になってるお陰っていう、分かりやすいアレなんだけど……玲ちゃんの方はもうヘタレとかそういうレベルじゃないんだよな。
この子、中学生の時から想い人が居るのに高校生になった今ですら接点持ててないんだよ? マジで何してんの? 俺結構男側としてのアドバイスしてた筈なんだけどなぁ???
いやまぁ、分かるよ? 想い人に話し掛けるの恥ずかしいっていうのはさ、まだ理解が示せるんだよ? けどそれを年単位で拗らせるのはもうやべぇって。しかもストーカー紛いな事してんのはもっとヤベェって。やだよ俺身内が犯罪者になるの。
「……あれ? なんで俺が二人に説教してんの?」
「私が聞きたいがっ!?」
「まぁ兎も角! 仙ちゃんか来るのは確定なんだから、ちゃんと腹括っててね! 一応フォローはするけど、説教に入ったらすんませんって感じでよろです」
はい、これにて終わり!
さーて———そんじゃ、
◇
スリーピー・ハジメ。その名をシャンフロで知らぬ者は存在しないと言っていいだろう。
端的に言えば、スリーピー・ハジメ———斎賀一は、重度の
スヴァブラを始めとし、PvP要素のあるゲームはとにかく沢山触れてやり込み続けたハジメだが、しかしこのシャンフロに至っては些かそれが異なった。
『これは神ゲー……つまり初心者にオススメ出来る代物。あれ? これ俺がレッドネームだった場合、仙ちゃん誘った時にめっちゃ迷惑掛けるくね?』
闘技場やクラン同士の対戦においてはPKによるペナルティは発生しないが、しかしこの男、PvPの為なら平気で他プレイヤーを辻斬りする類の名誉レッドネームであった。
だが、しかし。斎賀仙という嫁を得た彼としては、もしかしたら嫁と一緒に遊べるかもしれないゲームで自分が危険人物だった場合、それ嫁に被害行くのでは? という理性が、シャンフロにおける彼を引き止めた。
しかしPvPはやりたい。このグラフィック、この世界観、この自由度の世界で、対人戦をやりまくりたい欲は決して衰えない。
であればどうするか? 話は実に単純だ———PKをしてもPK判定にならない、
俺は何も悪くねぇ! だって悪いのは
「幸せは歩いて来ない。だから俺は全力疾走で
「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
ぐるんっ! と、明らかに人間がしちゃいけない様な軌道を描いた首に対して、暗殺者風の格好に身を包んだ女———PN「ヒイラギ」は、女らしくも何とも不快感を煽る綺麗な悲鳴を叩き出した。
基本的にオンラインゲームにおいて、PKとは忌避されるものだ。それはプレイヤー間で成立している暗黙の了解という訳ではなく、運営としても過度なそれはゲームの楽しみを根本的に害するものとして認識している。
故に、PKK———
敢えて自分の情報を流し、余裕ぶっこいてる所を狙ってくる奴を狙い撃つその作戦に、その女はまんまと引っ掛かってしまった訳であった。
「なんでっ!? なんで分かったの!?」
「こちとらテメェがシャンフロやる前から朝昼晩繰り越してさらに朝昼晩続けてPvPやり込んでた廃人だぞゴラァ! プレイヤーの意識を汲み取る程度の
絶対に仙には見せられないし見せる気もないであろう、瞳孔ガン開きの凶悪な顔面にヒイラギは恐怖を煽られる。
逃げ出す様に距離を離そうとするのを察知していたのか、すかさず抜刀。
スキル発動時に範囲内にプレイヤー、或いはエネミーが存在する場合にのみ対象への瞬間移動を可能とする、最上位職業「剣客」のスキル「
「逃げ出すのが遅せぇんだよクソガキが! ほらお兄さんと楽しく
「嫌だよ!!! なんでそんな酷いことするのっ!?」
「なんでも何もテメェがPKだからだよ! PKは悪! PKKは正義! つまり俺の辻斬りも正義これにてQ.E.Dってなァ!!!!!」
対人狂に対話など不可能。スヴァブラに鯖癌、幕末にネフホロetc…PvP要素があるゲームを尽く遊び尽くしたこの対人狂が剣を手に取った瞬間に、その結果は収束される。
PKだ! この刃の錆になるまで何度でも打ち合おうぜぶち殺すぞゴラァ!!!!
「恨むんなら自分を恨みな! お前が悪いんだよお前が! お前が何言おうが誰責めようが何しようが兎にも角にも悪いのはお前! お前お前お前お前お前お前お前お前ぇぇぇぇ!!!!!!!!!!!」
「う———うぅぅぅぅぅ!!!! ひぐっ、なっんで、」
「あぁ、涙を流してしまうなんて可哀想に! 泣くのって辛いだろ!? だからその首斬り落とすね!」
「頭おかしいんじゃないの!?」
さもありなん。だが貴様にだけは言われたくない台詞ナンバーワンである。
一応、決して弱い訳ではない証明か、ヒイラギは対人狂の斬撃を何とか躱しながら、全力疾走で退避を実行する。
とは言え、遊び心に溢れた剣を捌く程度ならば彼女でなくとも出来る事だろう。そもそもが刀とナイフ、武器のリーチとそれを扱う者の経験値の差は決して埋まらない。
回避が成功しても二の刃、三の刃がヒイラギの行動を予知しているかの様に四肢の素肌を斬り裂いていく。
「ほら動け! 右か!? 左か!? それとも後ろか或いは前進!? 出来れば前進してくれれば嬉しいなハグの代わりに打首で出迎えてやるよ!!!! さすれば行くぜ『虚断ち』抜刀ォ!」
「まって! ねぇお願いまって!?」
「3秒だけ待ってやるよ! はい123ゼロお疲れぇ!!!」
戦士系の最上位職業『剣客』———それが限界だと思っていたが、ハジメはいつの間にかその隠れた分岐へと辿り着いていた。
メイン職業が『剣客』で、尚且つ100人以上のプレイヤーをキルする事。
同じく職業が『剣客』で、抜刀術スキルを1000回以上使用する事。
この二つを全くの同時に成し遂げ、ハジメは一気に二つの隠し職業を解放した。
『剣鬼』、そして『抜刀斎』。ハジメはこの『剣鬼』をメインに添え、数多のPKをその手でぶち殺してきた。
このシャンフロというゲームにおいて、抜刀術はぶっちゃけ攻撃スキルとしては大変微妙だ。抜刀術という字面だけで見ればカッコよく映るのだが、その内容は対人ではあまり使えたもんではない。
だが———『剣鬼』と『抜刀斎』は例外だ。
いずれかの職業にメインに添えている際にの、剣術系のスキルに対する補正が掛かるという特性があれば———パッとしないスキルは、もう卒業だ。
「また会いに来てくれよ遠慮なくぶった斬ってやるからよ!」
「二度とやるかこんなクソゲー」
残念、君はまたこの世界に降り立つよ。そして天誅せれるんだよ、良かったね!
・スリーピー・ハジメ
シャンフロにおける斎賀一のPNでありアバター。浪漫と実用性を両立した技量系物理アタッカーであり、ゴリゴリの前衛職。メインジョブは『剣鬼』、サブジョブは『愚者』。
『PvPは好きだけどレッドになると嫁さんに迷惑掛けちゃうからなぁ……ん? じゃあPK狩れば良くね?』の理論で旧大陸全土を駆け巡って阿修羅会とかのPK集団をぶち殺しまくってたら、金とアイテムがいつの間にかたんまりになった上に隠し最上位職業まで解放しちゃった悪に立ち向かう悪。その途中でレアエネミーとも何匹か遭遇したのでレベルも99 Extendまで到達しているなんちゃってガチ勢。