死霊術師(ネクロ)ちゃんピンチ! 作:段々剃刀
・レナータ・ハーカー
女死霊術師。倫理観に問題がある。
死体細工を作っている。
・アネモネ・リターナー
女勇者。倫理観がふわっとしている。
死体細工にされた。
・アナスタシア・カンバック
女魔法使い。倫理観は商売でよく使っている。
死体細工にされた。
・グレナデン・ド・レジュレクシオン
女騎士。倫理観は状況判断による。
死体細工になった。
・ルネー・ルネサンス
女神官。倫理観に自信がある。
最後の説得対象。
説得()相手は残り一人。
ナチュラルに人間に値段を付けていて死霊術の可能性に捕らぬ狸の皮算用する魔法使い。
君を妹にしたいしなんなら自分も妹になりたいから死体にしてくれとのたまう騎士。
色濃い面子をなんとか説得()したいまならいけるのではなかろうか。
次なる相手は上から目線性善説でレナータを救わんとしているクソガキ。
なんとかイカサマして誤魔化せんかなと現実逃避している、というところ。
「いい加減学習するのですよこのゴリラがァーッ!」
「はは(笑)」
「おま、おまーッ、ルネーの堪忍袋の緒にも耐久限度があるのですよ!」
騎士グレナデンはその後も暴走した。
神官ルネーはそのたびに小休止を取って結界を張り直す羽目になり大層ご機嫌斜めであった。斜めになりすぎて転倒しそうだった。してないのはひとえに意地である。
とはいえ、グレナデンの暴れ方は落ち着いてきたし、他の面々もこのご機嫌バーサーカーゴリラの運用法を手探りながらも確立しつつあり、いくらか安定しつつあった。
休憩の数は増えつつも、進行速度も上がっており、予定期間よりマイナスで進捗良好である。
あまり進み過ぎるというのもよくないが、休憩をはさむので過度ではない。まだ。
あふれ出る気力を抑えきれないグレナデンを制御しつつ、キレ散らかすルネーをなだめるために一行が用いたのは投げ餌である。
レナータ以外の面子にとって多少行軍速度が速まる程度は問題なくついていける範囲であり、要はグレナデンのガス欠が問題なのだ。ぶっ倒れて要らん休憩を取るたびに、時間はともかく結界を張り直すルネーの負担が増えるのがよくないのだ。
なのでグレナデンを長持ちさせるために、隙を見てはパンや干し肉、あるいはぶち殺したての魔物の肉を魔法であぶったやつとかを都度食わせるのである。
当初は本人に食料を持たせて自分で食べさせていたのだが、いくら絶好調とはいえ片手がふさがるとさすがに戦闘が怪しくなってくる。咄嗟に骨付き肉で殴りつける姿は完全に蛮族である。知性のないゴリラだ。
そのため、兜を取らせて、アネモネが口元めがけて正確に投擲することで、反射的に食いつかせて補給させることとなった。
要は戦闘機等の空中給油めいた曲芸である。サファリパークでライオンに生肉を投げるショーだ。どちらもこの世界にはないが。
本来必要ない無駄に洗練された無駄のない無駄な給餌が、アネモネ隊の間で確立していた。
この給餌により行軍速度はさらに上昇したものの、打ち捨てられた廃神殿を発見したところで本日の業務は終了となった。まだ日は高く、普段よりも早いが、隊の消耗的にこれ以上は厳しかった。
以外にも、消耗が最もひどかったのはレナータではなかった。確かについていくので精いっぱいで、よたよたとはしていたが、それでも機械的に足を進ませてなんとかついてきた。
では休憩のたびに結界を張り直し、猛進するゴリラに付与をかけ続けたルネーかといえばこれも違った。陽光の降り注ぐ限り、この英才神官はかなりの省エネで済むのだ。
ではアナスタシア、あるいはアネモネ……いや、実際のところ、それはグレナデンであった。
燃費の悪さは曲芸給餌でなんとか解決した。上がりすぎたテンションも落ち着いてはきた。しかし本人も自覚していなかった弱点が浮き上がってきたのである。
「あ、あつい……」
「うーわ、なにこいつ加湿器?」
「もう鎧ぜんぶ脱がすのです。鎧下も脱がして水ぶっかけるのです」
「うわ湯気えぐ……」
それは放熱が間に合わないという構造的欠陥だった。
グレナデンの鎧は装甲という防御力だけでなく、攻撃に重量を加算できる攻防一体の破壊兵器である。時には体当たりも辞さないこの全身鎧は、当然のように、蒸れる。
敵の攻撃を防ぐようにできているのだから、余計な隙間はないのである。ある程度の通気性はあるが、ある程度でしかない。限度がある。
加えてグレナデン自身が熱を作りやすい。何しろ筋肉の密度が常人の数倍ある。消化速度も人の数倍ある。新陳代謝がハチャメチャにいい。こうなるともともと体温が高くなりやすい。冬でもぽかぽかだ。
普段はたいていの魔物を一撃か、数合打ち合ううちに仕留めるし、その後はクーリングタイムもあった。激しい乱戦後などは特にしっかりと休憩を取っていたので、放熱する時間があった。
しかしプラシーボ効果で絶好調となったグレナデンが暴走し、常時移動しながら連戦を続け、一戦一戦でも激しく体を動かし続けた結果、熱が逃げるだけの時間が稼げなくなったのである。
何度か休憩を取りもしたが、そのときにも飯を食う。戦いながらも飯を食う。そのように常に燃料が投下され続けたため、放熱より蓄熱が進んでしまい、ついにはダウンしたのである。
まともな運用をしていればそうそう明らかにはならなかったであろう、パワーゴリラの弱点であった。
(これ、疑似体液でどうにかなんないの?)
(放熱を助けようとはしてるんですけど……疑似体液がまだ少なすぎて、体温に負けちゃってます)
(つまり一から十までこの女が自力で発熱して自分で熱に負けてるだけ……?)
(疑似体液が助けになってないどころか、疑似体液がばてちゃってます……)
レナータもげんなりである。
せっかくデータ取りできると思ったのに、グレナデンの運用に対して疑似体液がついていけていないのである。
身体能力では劣るところのある魔法使いアナスタシアが疑似体液の恩恵でかなり運動性能を向上させ、もともとかなり動ける方であるアネモネも如実に強化されているというのに、グレナデンは本体の方が強すぎてお話になっていない。
暴れ回っている肉体が活発すぎるせいか、疑似体液の浸透も全然進んでおらず、一応血流にのって全身には回っているはずなのだが、細胞はまったく置換できていない。
数少ない浸透部位ががんばって水分を揮発させて体温を発散させているが、疑似体液にとっても水分は必要であり、これは身を削っているようなものだ。
おかげでグレナデンは湯気を全身からむわッと立ち上らせる人間加湿器と成り果てていた。
アナスタシアが急いで魔法で水を生成し、グレナデンを冷やしつつ洗い流していくと、かすかに花の香りがした。疑似体液の必死の頑張りの証明である。死にかけの証明といってもいいかもしれない。
「う、うーむ……すまないなアナスタシア」
「水ぶっかけた端から湯気になるのは人間の体温じゃないと思うわ」
「鍛えているからな。しかし自慢の鎧にこのような欠点があるとは……あるいは私は全裸で戦った方が強いのではないか?」
「お前がそのような蛮行に出た瞬間、ルネーは官憲に通報するのです」
「官憲より私の方が強いが?」
「腕力でも権力でも強いのが手に負えねーのです……」
「ふー……よし、だいぶ落ち着いてきた。助かった」
「これで熱中症になってないのがあたしは不思議でならないわよ」
「なに、レジュレクシオン家の騎士は神経も鍛えているからな」
「神経を鍛えるってなによ」
「ガッツだ」
ガッツで熱中症は克服できない。
一般読者諸君は、誤った認識をされないよう気を付けていただきたい。
この女は特殊な訓練を受けた特殊なゴリラであり、人類に互換性はない。
真似をすれば重篤な後遺症を引きずる羽目になるか、栄えあるダーウィン賞を受賞することになる。
一応念のために、アナスタシアは医療知識を持ち、人体に詳しく、ある種の専門家であるレナータをチラ見したが、そのレナータはクリップボードを手になに言ってんだこいつという目で硬直していた。参考にならなすぎるご意見であったためメモには何も書かれなかった。
さらに一応、太陽神の神官でありヒーラーでもあるルネーをチラ見したが、この幼げな少女は黙って肩をすくめてかぶりを振り、指先で側頭部を何度か叩いて見せた。既知の外の精神であるという端的なジェスチャーであった。処置なし。
魔法で水を出したついでに一行は手早く汗を流し、ようやく人心地ついた。
もうこのまま横になりたいと思いつつも、一行は本日の振り返りを通して危険作業をあらためて確認し、翌日以降の労働災害防止を宣言した。一連のぐだぐだした会話はレナータによって書き留められ、必要とあれば後日見返されることもある。そのようなことは今までに一度もなく、過去の記録は順次保管期限を過ぎてただ破棄されてきたが。
さいわいにも宿坊は比較的良好な状態で、軽く掃除すればそのまま使えそうだった。厨房もあり、積まれた薪もそのまま残されていた。
生活にも便利な魔法を使えるアナスタシアが率先してこれらの掃除に取り掛かり、なんだかんだ手際のよいアネモネがそれについていった。
力仕事に駆り出されそうなグレナデンはこういうとき呼ばれるまでは手を出さない。騎士だから、貴族だからというわけではない。この怪物の繊細さに欠ける腕力は自他ともに把握しているので、「更地にしろ」とかいう意味での掃除でもなければお呼びではないのである。
妹相手には繊細極まる取り扱いをしてきたので、あるいは建築物に妹を見出せば完璧な掃除も可能なのかもしれないが、あらゆる意味でお勧めできない。私たちはまだ人間でいたい。
現場監督めいて後方腕組みをして掃除を見守る女騎士の堂々たる佇まいは、じっとしていてくれるのがいちばんであるという切実な祈りと願いの結果なのだった。
その
別に望んで連れ立ったわけではなく、ルネーがしれっと「行くのですよ」とか当たり前のように言ってくるので、断る暇もなく少し俯いてなんかもっちゃりした半笑いを浮かべてついていくことしかできなかったのである。
腕の中では
ルネーはまず神殿のぐるりをひとめぐりし、角々で聖句を唱えた。簡易的ではあるが、魔物除けである。太陽神に己らを見守ってくださるよう願い奉り、不安定な現実を確定させていくのだ。
人里離れて現実が不安定になっているこのような未踏領域じみた土地でも、かつて人が住み、神殿を建ててくさびを打っていたのだから、勇者隊が安定化処置を行うのは難しくない。
要は神々が見ている間は、その現実は確定しているのである。なぜなら現実とは神々の見る世界であり、ひとびとはそれを世界の土台として生きているからである。
不安定で異なる現実に支配された未踏領域、瘴気源たる魔王現象によって不安定化された領域を、強い力で圧し潰して確定化させる。力技なのだ。
なお
国家資格である
なんか取れたから取った程度の知識でものを言うのははばかられるので口には出さないが、普通は、少なくとも歩きながら聖句を唱えてぽんぽんと結界として成立させられるものではない。
もっと年かさの偉そうな司教とかでも、もっと大掛かりな儀式めいた大事になるだろう。
まあ、見栄えも必要なお偉いさんと、現場の作業としての仕事の違いはあるだろうにせよ、ルネーは手際もよく、効果も高い。
これは才能と言っていいだろう。神官の仕事はテキストを暗記すればいいというものでもない。手順を正確にこなせばいいというわけでもない。神の覚えがよい、神から見られているからこそ、速やかに確実な効果が得られているのだ。
要は推しはちょくちょくチェックしてるからこまめに反応してくれる、みたいなものだ。推し活。才能がなくても頑張らなければならないお偉いさんは大掛かりな儀式などで気を引く、つまりスパチャしてファンサ返してもらっているわけだ。ちょっと立ち位置が入り乱れている。
ルネーは扉の前で一礼してから礼拝堂に入った。レナータも続く。
頑丈なつくりの礼拝堂は打ち捨てられた後も変わらぬ姿であり、整然と並ぶ長机に痛みは少なく、奥に掲げられた太陽神の聖痕と女神像は差し込む西日に照らされて輝いて見えた。
(苦手なんだよなあ……)
太陽神であるとされる女神像は、にかっと歯を見せて笑っていた。全国的にそういうデザインなのだ。威厳がないと思うかもしれないが、太陽神とは生命の神、すべてを肯定する神、ゆえに笑顔なのである。快活で朗らかで天地のすべてを照らす光なのである。
つまり陽キャであった。レナータはこの笑顔が心底苦手である。顔がうるさいからだ。不敬にもほどがある。
ルネーは女神像の前でひざまずき、祈りを捧げた。
あどけない美少女が清廉な祈りを捧げる姿は絵になった。レナータも素直にそう思う。好事家に売れそうな絵面だと。
祈りは天に届き、太陽神の奇跡か、光り輝く黄金の風が礼拝堂を吹き抜けていく。重みはなく、形はなく、髪の毛一すじも揺らすことなく、しかし何かが通り抜けていったことを感じる。
測定器具が欲しいなとレナータは思った。奇跡は奇跡であるがゆえに奇跡であるが、しかし基底現実に現れる諸々の物理現象は観測可能な事実に過ぎない。
輝く風が通り抜けた礼拝堂は、心なし輝いて見えた。明り取りの窓から差し込む西日ばかりではない、不思議な明るさのようなものが室内を照らしていた。これが事実として照度を持つ明るさなのか、人間の知覚に作用しているのか、レナータには判別がつかない。
この明るさはただ見た目の問題ではなく、太陽神がこの場を認め、見つめた結果である。
現実性は太陽のもとに確定され、不安定で異常な現実は吹き払われた。人類圏の橋頭保として認められたのである。すくなくとも、いまこのときは。
魔物はまず入ってくることはできず、生まれ出ることもない。
外部から攻めてくることがあっても、その意力は削がれ、魔力は萎え、現実にそぐわない身体構造が自らの命を締め付ける。
要は、安全になったということだ。
普段の休憩に用いる簡易の結界よりも、はるかに強固な守りだ。
それとても、アネモネ隊が旅立ち、観測者がいなくなれば、またすぐにその守りを失うだろうが。
ルネーは一息ついて、長椅子にちょこなんと腰を下ろした。
レナータは「いまだ!」と思いそれじゃあこれでとこそこそ礼拝堂を出ようとしたが、傍若無人な奇跡ゴリラが当たり前のような顔をして自分の隣の席をポンポン叩くのを見てしまったので、少し俯いてなんかもっちゃりした半笑いを浮かべてそれに従うほかになかった。
レナータは察しが悪いわけではないのである。ただ察しが悪い方が都合がいいので積極的に目をそらしているだけだ。気づいてしまったからには、ないがしろにしづらいのである。
ルネーの隣、ひと一人と半分ほどの間を空けてレナータは腰を下ろした。その足元には死体細工ガブが控え、手の中では
レナータは手持無沙汰に意味もなくえへへと半笑いを浮かべてルネーの方をちらっと見た。
できれば視線など向けたくなかったが、なんかまた察して案件が来ると面倒だから仕方がないのである。
一方でルネーは、穏やかに微笑み返した。
普段グレナデンにキレ散らかし、アネモネに舌打ちし、アナスタシアに真顔で対応しているクソ生意気なクソガキの、珍しく素直な微笑みである。
なぜならルネーには、この陰キャのにっちゃりした笑みが、気弱で内気で小動物みたいな女の子が自分にだけ見せてくれるはにかんだ笑顔として認知されていたからだった。認知の歪み方が画像加工じみている。セルフ認識改変だ。催眠アプリを手鏡代わりにしてる怪異か?
レナータにとっては市中引き回しめいた刑罰でしかなかった同行も、ルネーの中では「パーティ内に居場所のないかわいそうなレナータが、口には出せないまでも自分を頼って愛らしくもいじらしく子犬めいてちょこちょこついてきた」と言う風に変換されているのだ。なにを言ってるんだ?
なにを考えているのかわからないしわかりたくもない、なぜかこっちを見てにやついているクソガキに対してレナータが感じていたのはシンプルに恐怖でしかないのだが、ルネーには伝わらない。レナータも伝える気はない。なぜならその恐怖は遠目に見る災害とか、こっちにまだ気づいていないクソキショイ毒害虫とかに対する恐怖なのだ。気づかれたらこっちに来るかもしれないと思っている。
しかし目をそらすことはできない。見てても怖いが、見てないうちに動かれるのはもっと怖いからである。レナータはゴキブリは平気だったが、人間は厳しかった。
ルネーはいまも、自分からはなかなか言い出せない内気なレナータをスマートに誘ってやって隣に座らせてあげたという高度な自己欺瞞を働かせている。1.5人分ほどの距離も、露骨な拒否感の表れではなく奥ゆかしさとして自動的に変換されている。人は見たいものしか見ないのだ。本当にそんなものが見たいのか?
レナータが半笑いで黙り込んだまま虚空とルネーの間くらいをおっかなびっくり眺めているのを、この聖少女は口下手な少女がうまくお話しできない恥じらいとして受け止め、自ら話題を要してやった。
「グレナデンと話をしたそうなのですね」
「え、あ、はい……」
「あれほど暴走したということは、交渉はよい方向に進んだということなのですか?」
「あー、え、いや、どう……なんでしょうね……」
「フムン。あの異様な高揚に心当たりはないのですか?」
「あ……るような、ないような……」
まるで詰問しているようだ。
レナータは実際、熱した釘を手にした尋問官に爪をチラ見されているような気分なのだが、ルネーは楽しくお話しできていると思っているのだ。表情が薄く淡々とした喋り口なのもよろしくない。本人は大人ぶった振る舞いのつもりなのだが、普通に不愛想に見える。
「なにかあったのですか?」
「えー……その……守秘義務と言いますか……」
「話せる範囲で構わないのですよ」
「そのォ……施術ぅ……といいますか……いえあの軽いマッサージ程度の……」
「マッサージ?」
グイ、と乗り出してきたルネーに、レナータは反射的に倍以上身を引いた。だから生きている人間は嫌なのだ。意味が分からない。
ルネーはなぜか過剰に反応して問いを重ねる。
「マッサージをしたのですか?」
「いゃあの……そのような感じのなにかしらを……」
「グレナデンがあのように発奮するほど良いものだったのですか?」
「どう……なんでしょう、ねえ……ちょっとわかりかねますぅ……」
「ルネーにもしてもらえないですか?」
「いやぁ……厳しいかなあ……ちょっと厳しいですねえ……」
ルネーの激詰めに、レナータは現場を把握していない営業めいてのらりくらりと曖昧な言葉を繰り返した。無責任に気軽なオーケーを出さないのは、もちろんその現場がレナータ自身だからである。なにを言っても危うい違法危険施術に関してはなにも言うことはできないのである。なにも言うことができないからだ。
ひたすらに逃げに徹するレナータの不審すぎる様子を、しかしルネーは優しく見守った。その目は慈母の如くである。曇り切っている。フィルターがえぐい。
そしてその慈悲深き眼差しを向けながら柔らかく問いかけた。
「
レナータの指先が
反射的に毒ガスの瓶に手をかけながら、レナータは青ざめた顔で聖少女ルネーの顔を初めてまっすぐに見つめる。
返ってきたのは、ほとんど慈しむような微笑みであった。
こわすぎる。