堀北さんは諦めない! 作:BM-13
順次返していきますね。
今回ちょっと長いかも。ごめんなさいー。
読みにくいとかあったら教えてください、進行最優先でいきやす。
では、どうぞ。
胸元を覗かせるスーツ、しなやかな身体のライン、ポニーテールから揺れるうなじ。男子の妄想を体現したような、色香を纏う茶柱佐枝先生。…なお、夜はネコ。なんてね?
知性の欠けた下ネタにも動じず、「ポイントが振り込まれていない」と不満を漏らす不良品たちを、冷ややかな瞳で見下ろしている。
そして1ヶ月間、溜めに溜めた不穏な情熱を爆発させるべく、静かに口を開く。そう、
「―――本当に愚かだな、お前たちは」
はい、生(ナマ)本当に愚か、いただきました〜!!
…こんなところかしら。早くも4月が終わり、5月。つまり入学して1か月が経った。
その間に起こったことを、確認していきましょう。…もちろん、目の前で茶柱先生が今月どころか今年のハイライトをしているのは理解しているのだけれど、
もう擦り切れるほど見聞きしたので、なんというかこう…時報?みたいに思ってしまって。…綾小路くんがチラッと見てきたのが分かる。いいえ、ほかにも何人もの視線が私に向くのを感じて、私は努めて冷静に振る舞い、腕を組んでそれを受け止める。
まるで予期していたように、覚悟していたように、そしてこれからを見据えるように。
…それが私の、この周回での役割なのだから。
◇
4月。あの日から私は積極的に綾小路くんと友誼を深めた。お昼を共にしたり、放課後に散策したり。部活説明会にも誘ったら一緒に行けた。あ、生徒会長カンペ忘れ事件の時だけはお喋りをやめて「(兄さん…!)」ムーブをしておいたわ。来月、必要になるし。
もちろん、それだけでなく他にも手は打つ。クラス内外問わず友人()になろうとしている桔梗とも「久しぶりね、桔梗」と声をかけてあげた。
「え…」
「あら、中学ではクラスが違ったから、忘れられてしまったかしら?…少し、寂しいわ」
「あ、あはは…そんなわけないよ、えーっと」
「堀北、鈴音。もう、一番に声をかけてくれると期待していたのに…ふふっ」
「っ!、ひ、久しぶりだね、堀北さ「あら、また昔みたいに鈴音って呼んで?」あ、あはは…そうだね、鈴音…」
流石のアドリブ。まあこんな感じで知り合いアピールを敢行。朝に挨拶をする程度の関係を持つことはできたし、クラスでもある程度のカーストは担保できた。
それとは別に、早めに実力のある生徒と一言、二言ほのめかすようなこともした。
「幸村くん、この前の参考書、役に立ったわ。ありがとう」
「ああ、なら良かった。もういいのか?」
「十分よ。…ところで気になったのだけれど、来月のポイントって――」
あとは桔梗はもちろん、平田くんや松下さんにもそれとなく伝えて(周りの子たちは本気にしていなかった。期待もしてなかったけれど)おいて、
来月から私がクラスでの主導権を握れるように地固めをしておく。無論、ここまでのすべては綾小路くんと織り込み済みでしている。彼には、
「来月のお小遣いが減ったら困るわね。放課後制服デートもできなくなるし(意訳)」
といったら、二つ返事で了と言ってくれた。大昔のようにコンパスなんて向けない。ポッキーを口元へ向けたら、手で受け取ってくれたから良しとする。
一之瀬さんとも接触できた。珍しくクラスメイトと一緒でないタイミングで(計画通りに)声をかけた。
「――あら、この学校には犯罪者が入学できたのかしら?」
「…え……?」
「
「はっ……あ……あぁ…!」
一瞬で凍り付いて、泣き出しそうな彼女を連れて人目のつかないカラオケルームへ。ろくな抵抗もなく、あったばかりの相手と二人きりの個室へ招待してあげる。震える彼女を逃げられないよう、ソファーへと押し倒す。
「過去は変えられない」「どんなことをしても犯罪者は犯罪者」と追い詰めるようなことを何度もささやく。言い訳を、懺悔を、懇願をすべて理詰めで刺し続ける。彼女の心をズタズタにして、耳を塞いだら手首を掴んでささやいてあげる。目を閉じれば無理やり開いて合わせ続ける。
「許して…もう、……」
「………そうね」
あとほんのひと押しで、自主退学でも自殺でも、体を売らせることもできる(実際できた*1)程度に心を苛み、眼の光が消えたのを確認してから抱きしめる。
そこからは背中をさすり、「守ってあげる」「私の言うことだけ聞いて」「私は見捨てない」とささやいてあげる。
「…ぐすっ、ほん、とう…?」
「ええ。…本当よ、帆波?」
本番なんてまだしない。まだまだ初心な彼女程度、少しからかう程度で強く心を縛ることができるのだから。キスをして、うなじに舌を這わせ、ちょっとだけ敏感なところをくすぐる。
それだけでさっきまでの絶望顔から、頬を赤らめた姿に。本当、悪い相手に騙されそうな女子ランキングで上位三位は固い一之瀬帆波。
…ちなみにほかの候補は2年の先輩*2とクラスメイト*3だ。閑話休題。
その後は適当に満足させてから、「クラスメイトと一緒にいたあなたはどこかで折れてしまいそうに見えた」とか「本当のあなたを知っているのは私だけ」とかこう、薄暗い部屋の雰囲気に合ったセリフに加えて都合が悪くなりそうなときはキスをして黙らせれば完成だ。
「その…鈴音…さん」
「さんは要らないわ、帆波」
「あぅ…す…鈴、音…っ、んっ…!」
「ん…、よくできました」
もじもじしている彼女に、ご褒美代わりにキス…は、さすがに外ではしない。頭を撫でてあげれば、どこか拗ねたような、それでもなすがままにされている美少女の出来上がり。
連絡先を交換して、何かあればいつでも連絡してほしいこと、こちらからも朝昼晩に必ずメールすると言ってその日は別れた。
…5月になると、クラス対抗戦の情報がオープンになるから4月中に関係を持ててよかった。警戒が高い状態だと、上手くいかないときもあったのよね。またどうせ、早漏気味なCクラスの王(笑)がBクラスにちょっかいをかけて始める。一之瀬さんへのストレスは、彼と
「嫌がらせを受けていて」「どうしよう一之瀬さん」「助けて委員長」…そんな言葉を素直に聞き入れて、また精神的に弱った頃に仲のいい友達(女)からの告白イベント。その後も試験ではいい結果を残せず、利用され、先輩に騙され、遊んだ相手に嵌められ、落ち目も落ち目になったら2年生の終盤ではクラスメイトに責められる。
「……(考えてみればみるほど、この学校は彼女へ厳しいわね)」
一之瀬さんのことを近くで見るようになって、よく最後までリーダーを降りなかったと本気で感動を覚えたわ。前回の周では特に。少なくとも、近くにいて何もしていなかった、支えもしない、成し遂げてもいない、スカスカの頭を下げるしか出来なかった神崎くんに、クラス運営についてとやかくいう権利はなかったと今でも思う。
…まあどんなことをしてでもAクラスを目指しているっていう意味では貪欲だとは思うけれど、残り1年ちょいになるまでそれに気が付かなかった(気が付いていても行動しなかった?)のは手遅れも良いところ…って、そんなことはまあ良いわ。
5月になってからも、彼女にはどんどん心をすり減らしていって貰おう。それを聞いて、寄り添って、傷ついた心と体を癒す。
「本当の
…そういうところよ、一之瀬さん。
◇
その他のクラス…AとCへはまだ干渉はしていない。今の時点で会っても特に得るものはないし、喧嘩ならこっちから売る予定はない。個人的にも、クラスとしても
積極的に関係を持った周がない訳ではないけれど、あんまり女性関係で身を崩す男子って私の学年では多くないのよね。女子がリーダー格として多かったり、まあ生徒会とかのスキャンダルで沈むポジションには男子がいるから効果はあるんだけれど。綾小路くんや龍園くんなんて、別に誰に抱かれてても気にせず体を求めて来たし、女子のほうがどちらかというと…いえ、思い出すのはやめましょう。
次に私がとった行動は、クラスの不要な連中へのヘイト管理。…まあ内政パートってところね。平田くんや櫛田さんを利用して、
都合がいいことに、彼ら、彼女らの民度は2年生終わりになっても全く(当社比で)成長しないのだから、管理はしやすくて助かる。
「はぁ~!?ポイントは来月も10万貰えるって聞いてなかったのかよ!」
「別に先生が言ってこないからいいだろー?他のやつだってやってるじゃん!」
「ちょっと堀北さんて空気読めない感じー?」
これである。…いやほんと、助かるんだけれど、本当にひどいわね。
そういう発言にひとまず、なにも言い返さずにおく。言っておくことに意味があり、それを周囲が見ていることが肝要。このやり取りの結果、来月には彼らの発言権は無いに等しくなる。
「………っ」
ちなみに須藤くんは遅刻せずに黙って教室にいる。たまに寝ているけど、とりあえずは起きている間はノートを取ってもらっている。理由は綾小路くんと一緒にバスケ部に乗り込んで、「勝ったらひとつ言うことを聞いてほしい」という勝負を持ち掛けて勝ったからだ。
難色を示す彼に、スポーツ用品のカタログを見せて好きなものを買ってあげると挑発気味に言えば、ニヤリと勝負に乗ってくれた。
5本先取のワン・オン・ワンを、制服姿で参加すれば健全な男子の視線がどこに向くかなんて考えるまでもない。油断もあったのか、コチラが2本先取した後にさも気が付いたようにスカートをおさえて、顔を赤らめて一言。
「…エッチ」
「なっ!ちが、それにお前がそのカッコでやるからだろ!?」
「…綾小路くん、選手交代よ」
「なぜオレが…「見たでしょ?」…はい」
そのための白、なんてね?思春期男子二人をからかいながら、交代のためにコートから抜ける。すれ違う時に、「応援してるわ」と言うと一瞬固まってから、彼はコートへと向かっていった。
結果は、5:3での勝利。序盤はストレートで3本決められていたけど、その後3本決め返して無事に勝利した。その甲斐あって、多少は心を許してくれた彼と3人で夕食を共にする。ついでとばかりに、ポイントが来月10万貰えない可能性について説明をした。
「たまにはこういうのも悪くないわね」
「次は絶対に俺が勝つからな!」
「あら、なら次はもっと魅力的なのを履いてこないといけないかしら?」
「ぶっ…!ごほっ」
「堀北…」
むせる須藤くんをからかい、綾小路くんにも水を向けてあげる。多少なりとも、同性の友人もいたほうが彼の経験になる。その後にバスケ部に誘われて目で助けを求めていた綾小路くんの手を引いて、その日は解散した。
次の日の通学路。あいさつもそこそこに、昨日の件に触れてみる。
「そういえば、昨日は勝ってくれてありがとう」
「…堀北が応援してくれたからな」
「あら、嬉しいわ。なら私があなたの命令を聞いてあげましょうか?」
「っと」
あ、転びかけた。私をからかうなんて、XXX年早いわね。気を取り直した彼は咳払いをすると、じっと私の顔を見て…ふふ、甘いわね。そういうのは先手必勝よ。
「そうだな…「エッチなこと?」いや、しないぞ…!」
「しないの?」
「しない。…いや、朝からどんな会話をしてるんだ、オレたち」
周囲の目を気にしてキョロキョロする彼に、あと半歩踏み込んでみる。この反応で、ある程度の好感度はわかる。肩が触れそうな距離から、肩が触れ合う距離まで。
「ふうん…?そんなに私は魅力に欠けるのかしら?」
「いや、そんなことは…」
「あら、なら…触ってみる?」
「…冗談だろ?」
「どっちだと思う?」
そう言いながらも、腕を組んで胸を強調して上目遣いにのぞき込む。視線の先を外す彼にジーっと視線を向けながらスカートの裾やジャケットのボタンに手をかけると、降参とばかりに両手をあげられる。…よし、勝った。
「貸しひとつ、ということでよろしい?」という言葉への返事は、相変わらず了と、二つ返事だった。
◇
そして4月の終盤まで、須藤くんと綾小路くんを誘ってお昼に行ったり、廊下ですれ違った一之瀬さんに流し目をして、そっと触れるだけの手を差し出してみたり。
あとは佐倉さんに「どこかでみたことがあるのだけれど、芸能関係で活躍していた?」と牽制したりもした。あわあわと身ぶり手ぶりで慌てる彼女へ悪戯に笑いかけ、誰にも言わないことを約束する。彼女の趣味についてはライトなものから、ヘビーな部分も知り尽くしてる。一週間もすれば、挨拶を交わすくらいの友人関係は直ぐだったわ。
「佐倉さん、こちら綾小路くん。表情の変化がとぼしいけれど、人間と仲良くしたいだけの悲しきモンスターだから、仲良くしてあげてね?」
「は、はい…!…えっと…えっと…?」
「…どんな友人紹介なんだ、それは」
「いいじゃない、私とあなたの仲なのだから。…ダメだった?」
「…まあ、かまわな「なら良かったわ。チョロいわね」…前言撤回したくなったぞ…」
「あ、あはは「それとこちら、グラビアアイドルのしず」わ、わー!わー!!」
「…グラビアアイドル?」
「の、そっくりさんって言おうとしたのだけれど、…ふふっ」
「あ、あう……」
そんなこんなで、佐倉さんとも綾小路くんと仲良くなれた。よしよし、順調ね。4月にできる関係値は、こんなところかしら。なら今度は、私の周回知識と経験を悪用するターン。
綾小路くんとは別行動で、ある部室を目指す。目的は賭け試合を受けてくれるテーブルゲーム部。そこで野良試合をすることで、今後に使う予算を荒稼ぎするつもりだ。
「お邪魔します」
「あれ?体験入部を希望の子かな?えーっとクラスは…」
「1-Dクラスの堀北と申します」
「Dクラス…」
出迎えてくれた先輩に、早速用件を伝える。手持ちの6万と少しのポイントを提示すれば、「カモが来た」とばかりに席へと案内された。
実は私、テーブルゲーム全般は自信がある。なんなら何度も繰り返した経験のごり押しで、油断をしていれば坂柳さんや綾小路くんにも勝てると思う。…でも、それは初回だけ。それ以降は対策されて、二度と勝つことはできないだろう。だからこそ、癖や実力を隠す意味でもあの二人に知られないように気を付ける。少なくとも、今は。
というか、そこまでしても負ける可能性があるのはあの2人がズルいと本気で思うわね。
そうこうしている内に、目の前には将棋盤が置かれ、軽い説明と確認を挟む。部室には5,6人の先輩がいて、すべて男子生徒。みんながこちらを、興味深い視線を向けている。
「では、お互いに5万ポイントを賭けるってことで良いかい?」
「ええ、お願いします。先輩?」
「っ…よ、よろしく…」
ニコリと笑いかければ、顔を赤くしてさっと盤面へ視線を落とした。将棋の駒を置く音だけが部屋に満ちて、十数分後。勝負はあっさりとついた。…私の惜敗で。
「はあっ…」と溜め息を漏らし、がっくりと肩を落として上目遣いに負けを認めれば、先輩の表情には勝利の喜びと余裕がにじみ出ている。
「負けました…」
「っはは、まあ1年にしては強かったよ」
「気を落とさない方が良いよ、こいつアマ3段だし」
「残念です。…次は、きっと勝ちますからっ」
掴みは上々。こちらがしおらしくなった途端に、彼らはあからさまに鼻の下を伸ばし始めた。新入生に良いところを見せられて、随分と鼻高々のようね。
上機嫌になった先輩へ悔しそうな表情でポイントを受け渡すと、案の定、再戦を催促してきた。
「じゃ、またやるかい?」
「是非っ…と言いたいのですが、あいにくポイントが…」
「あっ…そっか…」
「…また来月、ポイントが入ったら来てもいいですか?」
そう言って身を乗り出すと、先輩たちの視線が私の首元や太ももへ吸い寄せられる。
それに気づかないふりをして片付けようと基盤の駒へ手を伸ばすと、先輩にすかさず手首を掴まれた。
「あの…?」
「ねえ、約束してくれるなら、今からもう一度勝負してやろうか?」
「え?いいんですか?」
「もちろん。…ああ、でもキチンと書面に残そう。大丈夫、来月にはポイント支給日だろ?」
「…そう、ですね…ん……」
相手が提示してきたのは案の定、未熟な1年生を思い通りにできると思い込んだ借用契約。私が「来月のポイント支給日に払う」という約束を餌に、払えなければーーーね?
乗せられたフリをして第2戦を開始。…そして結果は、私の辛勝。
ギリギリの攻防を演じ、一か八かの無理な指し手が奇跡的に通ったように見せかけて、ほっと胸を撫でおろしてみせる。
「え…!や、やったっ…!私の勝ち……ですよねっ!?」
「くっ…!……そうだね、おめでとう」
計画通り。偶然の勝利と思わせることで、男たちのプライドと欲は一気に加熱する。負けを認められない先輩は熱を帯びた眼光で「次は倍賭けだ」と食いついてきた。
「ぐ、ぐぐ…参りました…」
「も、もう一回だ…!」
3戦目、4戦目。接戦を演じつつも確実に勝利を重ねていく。負けが込み、周囲の部員からポイントを借り集める先輩の顔は真っ赤に上気していた。
もう完全に熱に浮かされて引くに引けない状態…なんといったかしら?*4
今…冷静になられると、困るのだけれど。あともう一度、熱くなってもらいましょうか。
「おい、もう160万だぞ!?止めとけって…!」
「あら、なら飛車か角を落としましょうか?」
「っ……本気か…!?」
「もちろん。…皆さんと協力しても構いませんよ?」
挑発しながらゆっくりとスカートの裾を少しだけ持ち上げ、組んでいた脚を反対へと組み替えてみせる。滑らかなタイツ越しに見える脚の曲線に、部室内の男子全員が息をのむ音が響いた。
いつの間にか部室にいた面々対、私となった最終戦。結果は44分の熱戦の結果の勝利……なのだけれど、終盤はヒヤヒヤものだったわ。
対局相手の後ろにいた部員が背中越しに指示を出していたのだけれど、レスの速さから多分、端末の将棋アプリかなにかを操作していたみたい。
機械的な終盤力に冷や汗をかきつつも、なんとか意地で打ち破って7連勝を飾った。……本気で勝ちすぎて、もう二度と勝負してくれなくなるかしら?
項垂れる先輩に、少しだけ勝った場合のサービス(体験版)を仄めかしておく。ちょうど冷や汗で気持ち悪くなっていたし、布切れの1枚や2枚、かまわない。それを放ってあげて、「また今度、ポイントが貯まったら」と約束する。
返事? 決まり切っていたわね。
一人での帰り道。増えに増えたポイントに満足しながら、寮へと向かう。…ジャケットは着たから、痴女なんかじゃないわ。ええ。
こうして5月に向けて、できる限りの準備を終えた私は、桔梗と中学の頃の話(捏造)をしてドキドキさせたり、小テストで綾小路くんと勝負したりと充実した学校生活の序盤を過ごせていたと思うわ。
―――さて、ここからが本番。私は再び意識を現実へと向ける。
◇
「おいどうするんだよっ!もうポイント残ってねえよ!」「アンタたちが授業中も馬鹿騒ぎしてるからでしょ!?」「はあ!?お前らだって、グループチャットで下らない話をしてただろーが!」「こっちはアンタみたいに遅刻なんてしてないんですけどー!?」
そうしてざわ、ざわ…いいえ、がやがや…かしら。周囲を委縮させるほど、不安をまき散らすのは我らがクラスの鉄砲玉たち。お客様気分が払拭されたこの教室は、まさに無秩序という言葉がふさわしい。
桔梗や平田くんが落ち着かせようとしているけれど、桔梗は慰めることしかできず、平田くんでは反目する男子が出る。事前に教えていたからか、須藤くんはあまり感情的ではないけれど、不安そうに腕を組んでいる。…あまり時間をかけるのもよろしくはない。私はあえて音を立てて、席を立つ。
驚き、興味、怯え、期待。様々な視線を感じながら教壇へと立つと、一度ぱん、と手を叩いてこちらに注目を集めて口を開く。
「そろそろ落ち着きなさい」
「ほ、堀北さん…」
「堀北…」
「意見があるなら後で聞くわ。まず、私の話を聞くこと。いいわね?」
じっとクラスへ視線を回す。高円寺くんに噛みついていた幸村くん、冷や汗をかいていた松下さん、少しだけ頭を上げて、また俯く佐倉さん。
心配そうな(内心は歯ぎしりしているのかしら?)桔梗、ニヒルな笑いを浮かべる高円寺くん、こちらを敵視している篠原さんや、居心地が悪そうに視線をズラす鉄…池くんや山内くん。
そして綾小路くんがこれからの私の発言に興味を持ってくれているのを確認して、私は続ける。
まずは、自分たちのDクラスが最初にすべきことについて。ポイントの責任云々はしっかりと指摘した上で、責任はしっかり果たしてもらうと明言する。顔を赤くしたり、青くする半数は差し置いて、真面目に授業を受けていた組の支持はこれで得られる。
次に、態度はともかく小テストで点数が不味い層へも指示を出す。テストと聞くと嫌な印象を持つけれど、自分ひとりじゃなく集団でやれば否応なしで勉強するだろう。普段からしていない連中には、必要な環境になる。
そのための勉強会を実施すること。メインは平田くん、桔梗に任せる。仲の良い生徒が多い二人には、教わる側の生徒の取りまとめを頼んだ。また学力上位の生徒…王さんや幸村くんへは試験の講師役・模擬問題作成を指示する。
前者の2人はすぐに頷いてくれたけれど、後半の2人は多少抵抗があった。それぞれに「報酬を支払う」ことと、「あなたの作業の手伝いは平田くんへさせる」ことを契機に頷かせた。耳元で周囲に聞こえないように話したので、二人とも別の意味で顔を赤くしたけど効果はてきめんだったわね。
「テ、テストなんて余裕だってのっ!」
「勝手に俺たちを巻き込むなよな!」
「ずいぶん余裕ね。…まあ今日は良いわ。好きにして。でも…」
「な…なんだよっ…」
また感情的な否定…赤点組の、「一夜漬けでどうにかなる」発言については、構わないけれどその場合は何があっても救済しない旨を明言する。救済について平田くんが聞いてきたので、ポイントによる赤点回避の説明。安堵する生徒がチラホラいたけれど、費用についてはとりあえず伝えない。
一部の赤点組(須藤くんを除く)が教室を去って、第二波が到来する。偉そうに(まあ当然かしら)指示をする私に「ていうかさー、堀北さんがもっと最初に言ってくれれば〜」なんて口にした篠原さんを3分間クッキングで号泣させて女子トイレ送りにした後、今度は飴を提示する。
「桔梗、あなたクラスの人たちの連絡先はみんな持っているわよね?」
「え…!?う、うん…あるけど…」
「重畳。ならコレを、今クラスにいる人たちに配ってあげて」
「え…ええっ…!?」
「参考書代*5よ」
「参考…え?いや「参考書代よ。良いわね?」……あ、うん」
そういって、とりあえず100万ポイント送っておく。私の所持ポイントからすれば、まだまだ余裕があるけれど。ひとまず小うるさい連中ももらうものをもらえば静かになる。私は詳しいのよ。
一人2万ポイント。余った分はとりあえずあなたへの手間賃だと言えば、目には好意2:敵視:6驚愕:2の混じった怪しい色で「わかった!ありがとうね!」と手を握るサービスを返してくれる。
「………」
ちょっと痛かったわ。彼女はギリギリ赤くならない程度の力で握ってきた。…今月中にわからせてあげないといけないわね。
彼女経由で配られるポイントに、クラス中がとりあえず私を認める流れとなった。…まあ現状がゼロポイントなのだから、今より悪くなることはない。お手並み拝見とばかりの表情を浮かべる高円寺くんに、私も軽く視線を返しておく。
「堀北さん、みんなに配ったよ!えっと…全員には、まだだけど…」
「ありがとう桔梗。…ああ、この場にいない人たちにはとりあえず送らなくていいわよ」
「え…?どうして?」
「それは、この場にいないのがすべてよ」
泣いていた篠原さんを追いかけた一部の女子、赤点候補や平田くんの手を払った男子生徒。10人には届かないくらいの生徒が、各々の理由でここにいない。それはクラスに協力するつもりがないということだ。
点数に危機感を持って残ってくれている須藤くん(内通済み)と、点数に余裕があるにも関わらずクラスのことを気にかけてくれている高円寺くん(何でいるのかしら)。そのあたりの生徒の名前を出して、いかにこの場にいないことが度し難いことか、徹底的に落とし込んでいく。
「で、でも彼らも明日になったら」
「そういう連中は明日も同じことを言うわよ、平田くん」
「…っ」
途中で平田くんがフォローするような発言をしたけれど、半端な優しさは持ってほしくない。彼が闇堕ちすると、クラスの女子の半数が能力ダウンを起こすのだ。彼にはいち早く、2年生の頃の覚醒を果たしてほしい。
「あなたの言うことはわかるわ。別に高飛車な態度で上から物を言うつもりはない。でも、この先にもし、勉強やそれ以外でも非協力的な誰かと、この場に残ったみんなを天秤にかけるときがくるとしたら?」
「そんな…いや、でも…「自分が犠牲になれば?」っ!?」
「論外よ。…あなたや櫛田さんは、クラスの要よ。絶対に欠けることは許されない。それを信じて、勉強会を手伝ってくれると約束してくれた王さんや幸村くん、苦手なことからも逃げないでいる須藤くんや佐倉さん。あなたを慕う子たちも、たくさんいる」
「………」
「平田くん…」
周囲の心配そうな目を、彼は振り払えない。あまり強く言い負かせば、女子からのヘイトを買うから優しく言いくるめましょう。
「なにも、私だって積極的に彼らに退学になってほしいわけじゃないわ。彼らに今、必要なのは危機感と、自分の過ちを認められる人間性。…それがないなら、この先の成長なんて望めないでしょう?」
「それは…」
そう言って、項垂れる平田くんの肩に手を置く。…雨の日の子犬みたいな顔をしないでほしい。思わず、蹴飛ばしたくなってしまう。そんな気持ちをぐっと堪えて、まずは連中よりも周囲の平田チームの女子たちの勉強会を優先するようにと告げておく。あとは彼女たちが彼を引き留めてくれるだろう。
それに桔梗にも、耳元で「あなたの裁量でポイントは好きに配っていいわ。任せます」と言えば、ブルリと体を震わせて、コクコクとうなずき返してくる。…そういえばこの頃は、割と初心だったわね。気をつけないと。
「堀北…」
「綾小路くん、ちょっと今日は忙しいからごめんなさい」
「そ、そうか…」
「本当にごめんなさい。埋め合わせは必ずするから」
「大丈夫だ、急ぎじゃないからな」
謝罪代わりに持っていたお菓子を押し付けて、教室を出る。この後も私は多忙なのだ。向かうは職員室。茶柱先生へ面談の予定を取り付ける。
授業の合間に平田くんや桔梗と勉強会のすり合わせをして、昼休みには心配してくれた帆波と密談だ。
「す、鈴音…!」
「帆波。…心配してくれたの?嬉しいわ」
「と、当然だよっ。その…鈴音とは違うクラスだけど…その…」
「ありがとう。でも、平気よ。…みんなには内緒よ?」
「え…!?」
階段の踊り場で少しだけ可愛がってあげて、ポイントの残高を見せてあげる。「どうやって…」と驚く彼女の脇をくすぐって、いつでも貸してあげると伝える。別れ際に耳元で「返済は、体でも構わない」と言えば顔を真っ赤にして走り去っていく。…そういうところよ、一之瀬さん。
それを見送って、午後の授業、すぐに放課後。他のクラスをチラッとチェックする。今日はうちのクラス以外、どこも作戦会議で教室に残っている。記憶と相違がないか確かめながらいると、すぐ予定の時間となった。
「失礼します」
「来たか、堀北」
茶柱先生(ネコ)と茶番をしていると、隣室から野生の最高傑作が登場する。
テストの点数を論う先生に白い目(綾小路くんにはバレた)を向けながら、一緒に退室する。
二人してため息が重なり、思わずクスリと笑いがこぼれる。
「なんと言うか…全教科50点はやりすぎじゃないかしら?」
「…そうか」
「ええ。今度は適度に散らしなさい。…そうね、数学は得意で他はそこそこ、理科は苦手、こんな感じで10点ずつ散らせば問題ないと思う」
「…。わかった」
そう言って、一緒に帰路につく。道中に会話はない。彼からも理由は口にしないし、私もそれを聞き出そうとはしない。それでも肩が触れるような距離で歩く私たちの間に、悪い雰囲気はない。
4月からの関係の賜物と内心でガッツポーズを取って、寮で別れを告げた。
明日からは勉強会のメンバーをすり合わせる必要がある。
最終的には私抜きでも回るようにしたいけれど、ひとまずは教師役として参加せざるを得ないでしょう。須藤くんに連絡して、赤点候補の2人を参加させるように指示を出す。
「声はかけてみるけどよ…」
「ありがとう、今回だけで良いわ。…それに秘策があるの」
当然、難色を示す2人だけど、桔梗を餌にすればすぐにでも飛びついてくれた。単純なのはいいことだけど、絶対に桔梗のストレスゲージが溜まるだろう。彼女へはさっきのポイント以外に、なにか用意してあげるべきかしら?
そうして始まった勉強会は、案の定というか、私のことはブツブツと文句を零し、逆に櫛田さんには何でもないことを聞く。事前に伝えていたことが功をなしたのか、計算通り須藤くんが我慢の限界を迎えた。
「てめえら、いい加減にしろよ…?」
「な、なんだよ…健」
「いま俺たちは、赤点を取ったら退学になっちまうんだぞ?…こんな1年の初めに、退学になったらヤベえことぐらい、わかんだろ…!」
「な、なんだよー、冗談だってー。そ、それに俺、試験なんて一夜漬けで余裕だって…」
「だから俺らの勉強の邪魔して良いってのか!?」
その怒声(正論)に、2人は飛び出すように大慌てで席を立つ。周囲の視線も声を荒げた須藤くんより、バタバタと逃げ去る彼らに非難が向いているようでなによりだった。
改めて座る彼に「言いにくいことを言わせてごめんなさい」と言えば、彼はバツの悪そうな顔で「いや…俺も悪ぃ。勉強できない俺が一番ダメだってのによ…」と漏らす。その日は早めに切り上げて、勉強会を散会させた。
◇
―――さて、待ちに待ったイベントが訪れる。
夜、寮の裏。人目に付かないところへ呼び出された私へ、兄である堀北学が口を開く。
「鈴音…ここまで来たのか」
「兄さん…私は………」
その後の流れは、可能な限り最初の頃の兄に憧れた妹ロールを意識して立ち回った。腕を掴まれ、投げられそうになった所を綾小路くんが助けに入って、
「…生徒会長だからって、暴力を振って良いのか」
「………部外者には関係ない」
…?綾小路くんの様子が、前と違うような?…いえ、今は気にするところじゃないわね。「やめて…綾小路くん」と弱弱しく漏らす。掴んだ兄の手を綾小路くんが放し、そして兄がこぶしを振るう。一度、避ける、驚く、二度、防ぐ、…まだ。
「ふっ…!」
「あぶねっ…」
「っ…」
彼が手を弾き、避けたところに兄が驚き、腰を落とし、追撃の足刀を薙ぐ。…今!
「やめて、兄さ、きゃっ!」
「っ堀北!」
「っ」
視界外から突然、綾小路くんを庇いに入る。当然、硬い革靴が私を襲う。左腕から肩にかけて、鈍い痛みが走る。そのまま受け身も取らず地面に転べば、派手に転がり背中や頭にも衝撃を受けた。
「…っ」
痛みからじわりと浮かぶ涙のまま、兄を見上げればどこか後悔したような色の目をしてた。その後は、腕を庇いながら寄り添ってくれる綾小路くんに体を支えられていると、
「死に物狂いで足掻け」と言い残し、兄はこの場を去っていった。
「大丈夫か、堀北」
「…ええと、強かったのね、綾小路くん」
「…ピアノと書道をやっていたんだ」
「そう…」
そういって誤魔化す綾小路くんに、近くの自動販売機を指差す。
「綾小路くん…お願いがあるの…そこの」
「なんだ、水でも欲しいのか?よし、ちょっと待っててくれ」
「そこの…自動販売機の隙間…撮影中の端末を取ってきて欲しいの」
「ちょっと待ってくれ、堀北」
どこかニュアンスが違う言葉を繰り返す綾小路くん。
重ねて頼むと、撮影中のライトがついた端末。無事に撮影されていて良かったと、映像を保存する。
「良かった…」
「俺は良くなかったんだが…その、兄…なんだよな?」
「ええ、もともとDV気質だったの。きっとこうなると思っていたわ」
「そ、そうなのか…」
若干引き気味な綾小路くんに、痛くて立てない怪我人ムーブをすれば、肩を貸してくれる。…まだお姫様抱っこまでは至って居ないようね。仕方ないわ。
規則的には危ないけれど、怪我をしている様子は道中の監視カメラにも撮られている。私は彼に自室まで運んでもらうと、するすると胸元のを緩めて、その中からこれまた録音中のボイスレコーダーを取り出す。
「………」
「あら、少し刺激的だったかしら?」
「…かなりな。というか、正気か?堀北」
今日だけで、彼の中の堀北鈴音像が随分と変化をしているみたいね。…まあ毒を食らわば皿までという言葉もあるし、もともと彼には手伝ってもらう予定だ。
私はほのかに温かいそれを彼に手渡し、明日の予定について相談をした。
「さて、綾小路くん。明日の予定だけれど…空いてるかしら?」
「…空いてるが、何かあるのか?」
「ええ。明日、それ(ボイスレコーダー)を生徒会室へ売りに行きましょう」
「…正気か?堀北」
またオウム返しされる。
当然、正気なんてとっくに無いわ!!
読了感謝。次で1巻部分は終わらせたいかな。
お楽しみに。