堀北さんは諦めない! 作:BM-13
また長くなった、ごめんなさい。
ちょっと、最後にアンケートを。
元気だったらお願いします。
では、どうぞー。
生徒会室。前の周では、私が生徒会長になった際によく来ていたこの場所で、今の私は来客として歓迎されずにいる。
「お茶も出ないのかしら…」と零せば、いつもより居心地の悪そうな綾小路くんに肘で突かれる。…仕返しに私もツンツンと、彼の脇腹を責めてあげるわ。さて、現実逃避はここまでにしましょう。
「いい加減にして!!これは、私たちと彼女の問題です!!」
「いやいや、そういう訳にはいかないですって。わかるでしょう?」
「………っ」
目の前で言い争う先輩たち、生徒会役員の表情は、額縁に飾ってあげたいほど三者三様だった。
普段の優しい笑顔は欠片もなく、怒りと絶望を露わにしている橘先輩。
そして余裕たっぷりに、まるでネズミをいたぶるような猫に似た態度のホモ…じゃない、南雲パイセン。違う、先輩。
最後の一人は何も口を開かず、情勢を見極めようと冷静に…いえ、キレてるわね。手が震えている。あ、立った。怖い…、綾小路くんが前に出てくれた。流石ね。…ため息を吐くと幸せが逃げるわよ?
「っ…お前はっ…!」
「あれあれ?堀北会長も参加ですが?…鈴音っていったか?どうする?誰に売るんだ?」
「そうですね…。出来るだけ、高く買ってくれる相手が良いです。…3年生にそういう方、知りませんか?」
「クク、いいぜ、呼んでやるよ。ただし、その
「…応相談ですね。でも安心してください、悪いようにはしませんから」
電話をかけようとする南雲パイセン、それを止めようと声を荒げる橘先輩と、こちらから視線を逸らさないDV加害者。
「はあ…」
再び、綾小路くんのため息が聞こえる。ジト目を向ける彼の背中に、「ごめん」と指で書いてあげれば、またため息をつく。…いえ、悪いとは思っているのよ?
私は生徒会室の喧騒をよそに、ここに至るまでの経緯に思いをはせるのだった。
◇
あの寮の裏の一件のあと、すぐに私は病院へ予約を取った。せっかくの週末だったのに、寮で偶然(…よね?)一之瀬さんに見つかって、庇っていた腕に気が付いて病院に付き添ってくれることに。
目からハイライトが消えていたけど、きっと気のせいね。優しい彼女は、朝から泣きそうな(というか一回泣いた)顔をさらに曇らせている。なんとか雰囲気を変えようと、Cクラスからのちょっかいとかの影響がどの程度出ているか聞いても「今は自分の身体のことが優先だよ…」と正論パンチで即KOされる。ぐぬぬ、ね。
診察の結果は、骨は折れていないけれど痣が残ってしまい、しばらく安静ということだった。ギプスはつけてもつけなくてもという事だったので、欲しいと言ってつけてもらう。
お医者様に診断書も欲しいとゴネれば、ため息交じりに書いてくれた。…こんな学校だから、よくあるのだろう。早かった。
彼女も週末の都合はあったろうに、甲斐甲斐しく私の身の回りの世話をしてくれた。気持ちはありがたいけれど、お互い多忙の身だ。「治ったらまた遊んであげるから、ね?」…そういって、土曜日の夜にお別れをする。
名残惜しそうな彼女の首やお尻の
そして日曜日があっという間におわり、月曜日。登校中には周囲の目線はバシバシと突き刺さり、すれ違うクラスメイトから心配の声を何度もかけられる
それもそのはず。黒いギプスを肩から掛けて、頬や首の擦り傷にも痛々しいガーゼや包帯、ジャケットは肩からかけてもらえば、
「おはよう」
「ほ、堀北さん…!?」
「どうしたの、その怪我!?」
「………」
はい、重症患者の一丁出来上がり。当然、痛みを我慢して気丈に振る舞う演技も忘れない。こういう細かいところに気が回るかどうかで、周囲に与える印象はガラッと変わるもの。…ダメ押しに首元のネクタイを解いて、包帯を緩める。ほんの少し赤い痕が首筋に残って、そこからうなじや肩までを露出する。私の白い肌と綺麗に映えている。同じ女子でも、顔を赤くしているほど煽情的な美少女アピールってところね。
周囲の態度が気に入らなかったのか、手早く(そしてキツく)桔梗が制服を直してくれる。近くにいた平田くんにも問題ないことと、この件でちょっと勉強会を外れることの謝罪。そしてその間の私の受け持ち(須藤くんとか)を任せたい旨を伝える。
「須藤くんを…うん、わかったよ」
「ごめんなさいね。…
「今の彼なら、大丈夫。みんなも平気だと思うよ。…もちろん、僕も気にかけるから任せてほしい」
意図はキチンと伝わったみたいね。男子の、特に入学してしばらくは粗暴なヤンキーだった彼だけれど、ここ数日は休憩時間まで机に齧りついて、幸村くんや王さんにまで分からない問題を聞きに行っている。そんな様子を、クラスのみんなが目にしているのだ。あと半年も経てば、彼女の一人もできているかもしれないわね。
「…なんだよ、健のやつ」
「ほっとこうぜー、どーせポイントなんて増えねーんだし」
まあそんな中でも、依然として冷たい目を向ける連中もいる。自主的に変われない、ごく一部のごくつぶしだけ。篠原さんとか、あの場にいなかった女子はもう、他のグループに迎合されて勉強会に参加している。
このままでは赤点、というよりクラスから爪弾きにされるのを危惧したのだと思う。この私にも、桔梗を介して形だけの謝罪に来た。
「許してあげてくれないかなー?」なんて、目は言っていなかったけれど、「…桔梗に感謝することね、次は無いわ」と冷たく言い放ってあげた。
彼女たちと仲良くなるメリットはほとんど皆無なので、せいぜい桔梗の承認欲求を満たす薪にでもなってもらうわ。
ほどほどに燃えて、いらなくなったら捨てるだけよ。
◇
そして放課後。勉強会を始める面々を尻目に、私は綾小路くんへ声をかける。
「さあ、行くわよ綾小路くん」
「…本気で行くのか?かなり嫌なんだが…」
「後で私と桔梗の胸を好きにしていいから行くわよ」
「良くないよっ!?」
「…本気よ「そこは冗談にしておけよ…」もう…仕方ないわね。じゃあ平田君、桔梗。少しの間、お願いね」
「あはは…わかったよ、任せてほしい」
「もう…行ってらっしゃい!」
(私にしか見えない)中指を立てている桔梗に手を振り返し、向かうは生徒会室。本当は土曜日に片付けたかったのだけれど、一之瀬さんに見つかって今日になってしまった。
短いノックとともに、返事を待たずに部屋へと足を踏み入れる。不躾な来客へ向ける、訝し気な視線が3つ。都合よく主要な面々が揃っている(膨大な周回の経験則における)幸運に感謝し、失礼を咎める橘先輩へと自己紹介を始める。
堀北と名乗れば、はたとなって私と兄に視線が行き来する。用向きを尋ねる橘先輩を遮り、兄が「俺に何の用だ、鈴音」と声をかけてくる。…まあ残念ながら、あなたにもう用はないのよ。
「いいえ、私たちは橘先輩に用があるんです」
「なに…?」「え…?私に、ですか?」
「はい。…あるものを、買っていただきたくて」
そういって、私は綾小路くんに視線を向ける。彼はボイスレコーダーを取り出すと、手招きして彼女以外には聞こえぬよう、絞った音で再生する。金曜日の寮の裏での出来事の一部始終。みるみる顔色が悪くなり、音声の半ばでもう意味が理解できた様子だ。
顔を青くしていくらか聞いてくる。さすが先輩、話が早いわね。…褒めていないわよ?値段は、先輩の持っているポイント全てと答える。
「あなた…会長の妹さんでしょう…!?」
「兄は妹へこういうことをしても良い、生徒会の先輩はそう判断されるのですか?」
「っ…!!」
…あ~、っぱ、相変わらずいい顔するわね、この先輩。また機会があったら…いえ、今日のところは我慢しましょう。それに近々、桔梗を教育する予定もあることだし。
その後に「他を当たりましょうか、綾小路くん」「…ソウダナ」と帰るような雰囲気を出せば、慌てて端末を取り出す。送られてきたのは100万には少し届かないくらい、ただ個人としては十分過ぎるポイント。さすがAクラス、溜め込んでいるわね。私はそれに謝意を伝えて、差し出されたボイスレコーダーを引ったくるように受け取る先輩。
「もう、用は済みましたよね。なら、早く退室してくださいっ。…あなたたち1年生も、もうすぐテストでしょう」
「ご心配なく。それに、もうひとり用事があるんです。…よろしいでしょうか?」
「ん?…俺、か?」
そう言って、ニヤニヤしながら先ほどまでの様子を見ていた男ーー南雲雅副会長へ声をかける。不思議そうな顔の先輩に、先ほどまでの様子を聞けばふんわりと理解はしてくれている。それを空々しい言葉で褒めて、本題を切り出す。当然、
「先ほどお売りした音声データの画像付き…まあ動画ですね。端末ごと、買ってくれる方を仲介してくれませんか?」
「は……?」
「………っ…!!」
「くはっ…!」
そうして、場面は冒頭へと戻る。出来ればここで話が終われば良いのだけれど、南雲パイセンとは来年も付き合いを継続する予定だ。せいぜい、今の内に(血縁上の)兄を高く売って恩を売ろうとしよう。
◇
結論として、最愛のクラスのリーダー(DV加害者)堀北学の身を救うために覚醒を果たした橘先輩の尽力の結果、売却先は3年Aクラスとなった。受け取るポイントについてはクラスの持つ全額…の、7割で許すことにした。
南雲先輩へは、「堀北学への挑戦権」をプレゼントする。「仕方ねえな…」と口では言うものの、その目には喜色が隠せていない。
あとはオプションとして、ヘイトが向くことを避けるために売却相手については匿名とする契約を結ばせる。こちらもこれで証拠データは打ち止めであることを約束し、
「じゃ、約束ですよ?堀北会長。…次の体育祭と、俺の指定する試験で勝負ってことで」
「…ああ、約束は違えない」
「ええ。…鈴音にも礼を言っておくぜ。この場で会えた
「あ、ならお願い良いですか?」
その後、「何でも言ってみろよ」と上機嫌な南雲パイセンに1年生で確定2人、最大4名の生徒会への推薦権を頂いた。「俺の目に適うなら良いぜ」と言っているけど、赤点組のような論外じゃなければほぼフリーパスなのは経験済みだ。
そこで久しぶりに私に目を向けた貯金箱①が「どういうことだ、鈴音」と言ってきたのでバッサリと名前で呼ぶなと言っておく。意気消沈(私視点)するのは勝手だけど、あなたが適当な理由で落とした結果、1年生たちは来年苦労することになるのよ。
というか、本当にこの血縁上の兄である堀北学は、歴代最高の生徒会長なのだろうか。私への暴力行為は1歩譲って身内のゴタゴタだと目を瞑るにしても、警戒していた後輩*1の教育に失敗。目にかける対抗馬の後輩*2選びに失敗し、果てはポッと出の人間一年生*3を隠れ蓑にする形で
その方法も頭を下げるでもなし、唐突に呼び出してせいぜいポイントで買収する程度。もっと早くから出来ることがあったろうと思うし、綾小路くんが訳ありで表に出たがらない、協力せざるを得ないほど敵が多いなんて特異なポジションでも無ければ論外のぐだぐだ交渉術。
あげく、この生徒会長、綾小路くんが茶柱先生に脅されていることにも、保護者が退学のために乗り込んできたことにも全く気が付いていない。入学直後に新入生の点数を気に掛けるなら、もっとこう…あるだろう。綾小路くんの生徒会勧誘を継続するとか、女性問題を提言して南雲パイセンを生徒会から排除するとか、こう…!
本当に私たちが2年生になって、ほぼ常に孤立無援で凌ぎ続けた彼は化け物だと思う。1年生には特別試験の景品にされたり、学校上層部は敵だったり、クラスメイトの私たちは彼に頼り切りだったし、3年の先輩からは変に目をつけられて、様々なトラブルに見舞われたり…よく病まなかったわね。閑話休題。
まあ結論として、堀北学が最高の生徒会長っていうならもう少しこう…ないのか、と思う次第なのよ。なんなら南雲副会長はOAAの基礎作りを学校に働きかけたり、試験の内容を学年全体を巻き込む、よく言えば実力主義、悪く結えば弱者は淘汰される新しい風をこの学校に吹かせてみせた。
…それもこれも、憧れていた先輩に最後まで相手にされなかった抑圧から、その守った伝統とやらを破壊したかっただけなのかもしれないわね。さて、それじゃあ…
「帰るわよ、綾小路くん。今日は私のおごりで焼肉ね」
「お前…よくこの場でそれが言えたな」
「またな、鈴音」
「ええ、またお願いします、南雲先輩」
「………」
「っ……」
綺麗に礼をして、生徒会室を去る。その日の焼肉は、一等美味しかったわ。
その後は、みんな大嫌いな茶柱先生の『ああ、すまない。テスト範囲の変更を伝え忘れていた』イベントが待っていたのだけれど、今回はちょっと一ひねりを加えていた。
本来、生徒会室オークションの一週間後には発生していたソレが、今回は起こっていない。赤点組、今回では須藤くんを別にしているため、そもそも図書室での勉強会・Cクラスとの揉め事&Bクラス一之瀬さん仲裁イベントが発生していないのだ。
すなわち、Dクラスの誰もそのことに気が付くことがない。本気で試験の一週間前どころか、週明けになんでもないようにホームルームで公表された。たかが3日と思うなかれ、Dクラスの面々の大半(3/4以上)はその間違った範囲を必死に週末も勉強していたのだ。それに関して怒りと嘆きを漏らすクラスメイトを差し置き、私は席を立って教室を飛び出す。
「おい、どうした堀――」
「え?堀北さ――」
私の背中に声をかける茶柱先生やクラスメイトを差し置き、私が向かうのは隣の教室――そう、1年Cクラスだ。
がらりと音を立ててHR中の教室へ乱入した私を、40と1つの視線が無遠慮に貫く。驚いたように、しかし冷静に口を開くのは1年の担任の中、1,2を争う常識人*4坂上 数馬先生だ。
「…突然、なんですか。…Dクラスの、堀北さん?」
「ええ、突然申し訳ありません。Cクラスのみなさんも、邪魔をして申し訳ありません」
「Dクラスが何の用だよっ」
当然、歓迎されていないのは百も承知だ。私はつい先ほどの茶柱先生の発言を坂上先生に
…当然だ。学校が予め設定した、テスト範囲の変更。それが故意に遅れていたなんて一担任に認められる訳がない。それに、ルールの裏側を知る教師からすれば、これは露骨な誘導に他ならない。
期末テストにおける絶対のルール、
つまり、ここまでテスト範囲について引っ張った茶柱先生の行動は生徒としては最低の教師だが、同僚からすれば露骨なヒントへの誘導に他ならない。
事実、何も知らないCクラスの生徒は私を嘲笑うような視線を向けている。…ただ残念ながら、私の目的は他にある。
過去問?…
隠していた実力を少し発揮したら、今度は「もっと頑張れ」「本気を出せ」だ。…そんなだから、私たちのクラスは烏合の衆だというのに。
その後、Cクラスの面々にお邪魔したことをお詫びし、今度はBクラスへ。同じこと(星之宮先生の表情は印象的だったけど)を伝え、最後にはAクラス。その頃には茶柱先生が追いついたのか、若干カオスなことになったけど、これで終わりではないわ。
私は各クラスで聞いた内容を録音したデータを職員室へ持ち込み、出来るだけ地位が高い先生へ
「――ということで、Dクラスとしてはテスト範囲の告知が遅延した分、2週間のテスト延長を求めます」
「いや…それは平等の観点から「それこそ知ったことではありません」っな…」
「別にすべての試験やテストについて、平等である必要はありません。抜き打ちテストなど、今回の範囲の変更も突発的な対応能力を問う目的なのは理解しています」
「なら…「ですがっ…!」う…」
バン、と机を叩いて反論を封じる。今や職員室の雰囲気は、「やれやれ、また今年のDクラスは…」みたいな視線は「おい、どうするんだ茶柱…」みたいなものに変化している。
「平等である必要はありませんし、理不尽に憤っているわけでもありません。ただ、少なくとも公平感がなければ、私たちDクラスは納得できません。…先ほど、Cクラスの担任の坂上先生はおっしゃいましたね?」
「わ、私ですか?」
「ええ、しかと「そちらの担任のミスでは?」と口にしていました。
「………んん…」
坂上先生は眼鏡を直しながら、口を噤む。余計なことをといった視線を向ける真嶋先生にも、発言の粗を指摘すれば同じ表情を浮かべた。星之宮先生?…彼女は放っておいても、茶柱先生の味方はしないから平気よ。
その後の結論としては、「学校は試験の延期は認めないものの、今回の試験において1年全クラスから赤点での退学処分の免除」を勝ち取った。…まあ、いい落としどころかしら。
その結果を持って帰ったときの、Dクラスからの歓声はAクラスまで聞こえるほどだったみたい。
これで良い。案の定、一夜漬けで行けるなんて言っていた面々や一部の生徒はちらほらボーダーを落とし、本来なら4名の赤点生徒が出るところだった。尻に火が付いた彼らが今後は多少マシになるのに期待しましょう。
あとは、私にとっては意外でもなんでもないけれど、須藤くんが自力での赤点回避(平均点が低かったことは事実だけど)したのにはクラスが沸いた。勉強会を主導した平田くんや、手伝った幸村くんも笑みを浮かべている。王さんも、最初は恐る恐るだったけれど、手を叩いて「良かった…」と声を漏らして須藤くんの健闘を讃えていた。
こうして最初の期末試験は、退学者ゼロという形で決着する。
…ああ、そういえば言っていなかったけど、今月も来月もDクラスのポイントが増える予定はないわ。赤点生徒が出たんだもの、ボーナスなんてあるわけないじゃない。きっとDクラスは来月もポイントに困ることになるわね。
…つまり?
◇
試験が終わり、ささやかなお疲れ様会もすでに終えた。
本来なら綾小路くんの部屋で行うことの多いそれを、この周では私の部屋で行う。赤点組も須藤くんのみの参加だし、小規模なものだから片付けもすぐ終わった。
そしていつも通りにスマホを忘れていったうっかりさんを追いかける。目的?…決まっている。
私は予定通りに荷物を持ち、キレてフェンス蹴り選手権の夜練をしている彼女に追いつく。スマホを忘れているといいつつ、私の手には録画中の自分の端末。
感傷的に飛びついてくる彼女を、怪我をしない角度で地面に転がしてやる。…片腕でも勝てるけれど、怪我をしている私からなら取り戻せると思ったのかしら? 演技もいらないし、ぶちぶちとギプスを外してやると、彼女は悔しそうに顔を歪ませた。
「…やっぱり大した事なかったんだ。そんなにちやほや心配されたかったの?キモッ…」
「ええ、あなたには通じなかったみたいだけれど」
「ウザ…マジでキモイんだけど。…絶対許さないから…!」
力で敵わないと察したら、次は罵詈雑言を垂れ流す。もちろん予測済みよ。持ってきた黒い布で、両腕を後ろに回して拘束する。割と乱暴に結んだあと、無理やり服を脱がせる。ボタンなんて外してやらない。ジャケットを、ワイシャツを、その下の下着も含めズタズタに引き裂いてやる。
「き、きゃあああぁっ!!」
「っ…!」
まさに絹を裂くような、という悲鳴をあげられて、この周では無いはずの
このまま騒がれ続けるのも萎えるので、太ももあたりに引っかかるだけの布の残骸を口に突っ込む。夜風に震える彼女を適当に弄って静かにさせ、ルールの説明を始める。
・これからあなたに電話がかかってきたら私が出て耳に当てる。
・あなたは今、何をされているかをバレないように応対すること。不審がられたらペナルティ。5分以内に電話が切られてもペナルティ。こちらから電話を切ることはしない。
・どうしても声が出そうなときは、仕方ないから私が口で塞いであげるから可愛くおねだりをすること。
顔を赤くしたり、青くしている彼女の口を自由にしてあげれば、「冗談…だよね?」なんて本心と演技が7:3くらいの作った怯え顔を見せてくれる。当然、冗談なんかじゃない。怯える桔梗へ、私の端末でクラスのグループチャット画面を表示する。
【勉強会を主導した平田くんや櫛田さんにキチンとお礼を言っておきなさい】と打って、「やめ、」と言いかけた彼女の前で送信してあげる。
【了解!】【当然じゃん!】【私、電話してみようかな!】
直ぐにつく無数の既読、10秒もかからない内に、彼女の端末には着信を知らせる振動音。
「流石、人気者ね」
「あ…あぁ…嘘、…無理、無理だって…っ!?」
そう言っている最中、電話が鳴る。さあ、ゲームスタートよ。
・
・・
「うん…っ、あり、がと…!ううんっ、ちょっと…はあっ…、運動してて…声、が……!っんん…」
「ん…っ」
その後の彼女の奮闘は、XXX回の周回をしている私をもってしても感動を禁じ得ないものだったわ。
「足をぶつけちゃって」「ちょっとむせちゃって…」「風邪気味で…」「疲れちゃったのかな…」etc.
自由でしなやかな発想を持って、幾度のペナルティを受けても私への反抗的な眼には陰りがない。最初は嫌々おねだりをしていたキスだって、もう彼女から求めるように舌を出している。
「…ふふっ」
「っん…!うぅん?なん、でもない…から、っあ…!平、…気っ…だから…!」
人は慣れる生き物とはいえ、ここまで早く適応できるのは彼女の才能に違いないわね。それはそれとして、いいようにされてはわからせの意味がない。
私は通話が切れた合間に彼女を立たせ、肩にかかっただけの「やめ、やめて、今は…!」して、フェンスの「痛い…ほんとに、痛いんだってっ!このっ…」すれば、男子が一目見たら「噛むっ……なぁっ……やぁっ…!」に違いない。当然、ボロボロになっている制服は彼女の汗ばんだ「縛らないで!無理…やめ」を隠すことも満足にできず、張り付いたワイシャツの隙間からは「…ほんと、さいってー。このくそレズ女…!」が覗いている。
「さて、ようやく鳴りやんだわね、人気者の桔梗さん?」
「……死ね」
時間は今、22時を回ったくらい。あと1時間くらいとゴールを伝えると、安堵した表情を浮かべる。…甘いわね、桔梗。ポケットから取り出したものに、凍りつく。
「アンタ…それ…!」
「あら、分かるの?茶柱先生に買ってもらったのだけれど、もしかして持っていたかしら?」
「む…無理、無理だって、絶対に音でバレるっ…!」
「頑張って。応援している。あなたなら出来るわ」
「やめ、っひ…!」
「暴れないで。うまく入らないでしょ?」
ケーブルの先はうまくソックスに入れてあげる。「落としたら放置して帰るわよ?」と伝えれば、私が本気なのが伝わったみたいね。おまけに目隠しもしてあげる。…充電が足りなかったのかしら?端末にはバッテリーが切れたマークが浮かんでいて、もう鳴ることはないけれど…今の彼女にはわからないでしょうね。
私は彼女が茶柱先生のおもちゃを落とすまでを動画に撮影して、さも失敗したように責め立てる。体が汚れるのをいとわず頭を地面につける様は、哀れに同情を誘うもの。…まあ、いつかの周の私たちと立場が真逆で感慨深いのだけれど、私とは違って彼女はこれでもまだ余裕も余裕。
夏休み明けには元気100倍、まだまだ私を退学させようとしてくる。それでこそ桔梗。だからこそ彼女には頑張ってもらわないと。
その一歩としてため息交じりに「仕方ないわね…」と漏らせば、期待を滲ませて「あ、ありがとう…ありがとう、堀北さんっ…!」なんて涙声をあげている。
そんな彼女の痴態を1枚、パシャリ。呆然とする彼女に、送信一歩手前の画面を見せてあげた。宛先は指で隠したけれど、効果はてきめん。首を千切れんばかりに振って「ダメ、ダメダメ、だめぇー!!」なんて、もう手遅れなんだけど、やっぱり桔梗は良い声で鳴くわね。ぽちりと、送信ボタンをタップした。
「あ…あああぁぁぁあぁぁ…!!」
「…あら、折り返し早いわね。起きてたのかしら?」
彼女の絶望や悲哀が心地よく響く中、すぐに揺れる私の端末に耳を当てれば、つながった相手は、どこか訝し気な様子。当然ね。
『あの、鈴音…?さっきの写真だけれど…その…』
「夜分にごめんなさいね?驚かせたかしら?」
『う、ううんっ!?別に良いんだけれど、…櫛田さん、だよね?あれって』
「ええ、櫛田さんよ?…彼女なんだけど、ちょっとアブノーマルな性癖をしていて…」
『そ、そうなんだ…てっきり、私…』
「なにかしら?…って……」
『どうしたの、鈴音…?』
思わず彼女から一歩引く。気が抜けたのかしら?…いえ、今まで我慢していたならよく持った方ね。
「あ…あぁ、あは、は…」
…ちょっと初回からやりすぎたかしら?まあ、良いわよね。一之瀬さんにはまた事情は説明する旨を伝えて電話を切る。放心気味な桔梗に、服を持ってくると伝えて部屋へ。予備の制服とワイシャツを1枚拝借し、彼女の元へ戻る。
「戻ったわよ、…あら?」
「………」
「返事がないわね?」
「っぎぅ…!」
俯いた彼女の耳を引っ張れば、怒りを滲ませた表情を浮かべる桔梗。…うん、まだ遊べそうね。
その後にあれを送ったのは一人だけで、秘密にはしてもらうけど私の邪魔をしたらその限りじゃないこと。
「
…気のせいか、副音声が聞こえた気がしたので着たばかりの制服のスカートを引っ張ってカメラを向ける。
「や、止めっ!」
「逆らわないんじゃなかったのかしら?…ほら、手を放しなさい」
「………っ…!うぅぅ………」
そう強く視線で訴えれば、ギリギリと歯を食いしばりながら言う通りにする桔梗。普段より風通しが良い分、震えているのは寒いからか、それとも羞恥なのか。…どちらにしろ、やることは決まっている。
「最初の命令よ、桔梗」
「………っ」
「
…あぁ、本当に彼女は良い。何回しても、あの表情に飽きなんて来ない。
私は端末を向けて、真っ赤な表情の彼女をレンズいっぱいに収めるのだった。
◇
鞭の後は、きちんと飴を与えてあげる。それが、教育における正しい工程だ。
桔梗には今後、私からクラスに与えるポイントの管理を一任する。最初は面倒くさそうに聞いていたけれど、「裁量はあなたの好きにすればいい」「何を言われても私の名前を出していい」「余った分は好きにしていい」と順を追って伝えれば、5月の初めにクラスメイトから向けられた感謝を思い出したのか、嫌々(口元を緩ませながら)やってくれるようだ。…チョロい。
あとは当然、実益もかねて私が部屋に行くときは一人でいることと、常に新しい私服と下着を着用して待っていることを約束される。私好みの顔色で、「なんでわざわざ新しい服?」なんて言ってきたから、その場で理由を実践してあげた。…え?もう着れない?…仕方ないわね。現物かポイントで清算してあげるから、それで良いでしょう?
荒い息で部屋から追い出そうとする彼女を押し倒して、再び上下関係を教え込む。…彼女の
「ん……」
「……ふふっ」
白い素肌にいっぱいの独占欲の朱を残して、眠る彼女の頬を撫でる。彼女は無理やり体を落としても、心が折れない。秘密についてばらしても、今度は無敵の人となってしまう。度し難いほど、思い通りにならない桔梗。…ゆっくりじっくり、この周でも
■堀北 鈴音(Dクラス所属)
・本作主人公。
XXX回繰り返したよう実ガチ勢(まだギリ)一般女子。
身体能力は引き継げない為、運動部や天才の域には達していないが対人競技なら文武問わず経験値によるメタが張れるため勝率は非常に高い。
イベントもほとんど網羅している為、立ち回りに余念がなくその周回の目標に向かって全力を尽くしている。なおうまく行っているようにみえるが、うまくいかなかったら即リセットしているのでそう見えているだけ。内心、ダメならリセットと考えているあたり洞察力が高い相手にはどこか読み切れず、警戒されがち。
・余談だが、男女問わず肉体関係を持ったり、周によって親しくなった某コレクトガール*5や不真面目女教師*6の影響で飲酒喫煙も可。捨て回確定(主要人物が居ない、明らかに無理筋な世界観など)では酒池肉林に耽ったり、最速生徒会長就任RTAをして校則を変えて何処まで変えられるかとテスト兼、ネタに走るくらいには精神的に参っている。最近の性癖(トレンド)は着衣ビリビリプレイ。
好きなタイプはプライドが高く*7、自分に反抗的で*8、いわゆる屈服させがいのある相手。当然、リバ可*9。無理やりするのも、させるのも嫌いではない。
嫌いなタイプは裏切り者全般。実力不足なのは仕方なくとも、利敵行為は許さない系主人公。Aクラスの蝙蝠は蛇蝎のごとく嫌うし、自クラスの実力隠し系女子*10にはどこかで強めの圧をかけるつもりでいる。
■綾小路 清隆(Dクラス所属)
・本作における堀北の被害者筆頭。当初は彼が想像した通りの平穏な青春を過ごし、クラスメイトの友人にも恵まれた。今は(まだ)美味しい空気を吸えているが、いずれ苦労人ポジションになっていくのが確定している。ただ破天荒な堀北と一緒にいることは彼にとっては刺激的で、口ではダウナー系な態度をとっていても内心では目をキラキラさせている人間一年生。これからも堀北プロデュースで学生らしいアオハル体験をたくさんしていく。
・他の世界線(周回)では何度も恋人(または肉体)関係となっており、迫られたら堀北的には二つ返事で体を許す構え。普段のちょっとエッチなからかいも、以前の恋人時代の経験を流用したもの。大きさ、持久力共に満点。
■一之瀬 帆波(Bクラス所属)
・4月に食われ…味見(救済?)された被害者ポジション。基本的に内罰的でM気質なため、本作の堀北にイイように利用されてしまう。本格的なBクラスへの干渉はだいぶ先になる予定だが、他クラスが手を送ってきても助けを求められるまでは見捨てる程度の存在。しばらくは幸せな模様。
・1話で匂わせた“ツいてる”発言の答え合わせ。過去の周回では堀北や一之瀬にナニがツいていたこともあり、その際には本当に酷い扱いをしたり、(誘い受けで)されたりもした。良くも悪くも、存在がエッチなみんなの委員長。この度、櫛田のアブノーマルな性癖(誤解)を知って悶々とした夜を過ごすことに。
■櫛田 桔梗(Dクラス所属)
・堀北の被害者筆頭(裏)。突然フレンドリーに話しかけてきたと思ったら距離感がバグっており、過去の話まで仕掛けられて発狂。ポイントをくれたのは嬉しかったが、裏があるんじゃないかとビクビクしていたところ、勉強会の打ち上げ後に無事にわからせられた。極限の体験により、間違いなく性癖が歪んだ。これから裏切ろうとするたびに、不思議な力(周回記憶)で察知されておしおきされ続ける運命。制服を予備含めダメにされ、一足早く夏服を着てクラスを沸かせる予定。ほぼ確定で、すぐに破かれて買い替えることになる。
・過去の周回中、悪乗りした堀北が徹底的に弱みを見せた回では凌辱モノの成人ゲーム並みの目に遭わせたりしたことも。その結果、なにをしても(あの時の周よりは優しいわよね?)と堀北のブレーキが効かない貴重な人材。ほぼ全ての周で堀北を退学させるために邁進したが、成功したことは数える程度で基本は詰めが甘い。ちなみに堀北が退学になった原因の生徒トップ3は綾小路、龍園、坂柳。
■Dクラス(1年Dクラス所属)
・ 美人だけど、黙っていると冷たそうで怖い。でも話してみるとよく笑い、冗談も言ってくれる。クラスポイントがゼロになったのにポイントを配ったり勉強会を手配してくれたりと、堀北をリーダーとして受け入れる空気に。ただ1/4ほどは気に食わないのか、男子は反目し女子は内心で嫌っている。
・堀北視点では、期待している能力の高い生徒へは全ツッパで投資を躊躇わない。逆に、生徒たちの限界値をほぼ正確に理解しているため、口先だけの“心を入れ替える”発言には何の価値も感じていない。基本「やらない、裏切る、使えない」存在として認識しているため表面上はともかく内心ではだいぶ見下している節がある。
・ちなみに、堀北とごく一部*11だけがツいていて他の生徒が全員女子の回や、逆に他の女子生徒が全員ツいていて堀北と一部だけがそのままというレアな周回もあったが、大抵ひどいことになって1年終わりにリセットとなっている。なお、その両方の回で綾小路は入学していない。
■茶柱 佐枝(1年Dクラス担任)
・1学期のハイライト(Sシステム説明)後はやらかしまくり、生徒からの信頼も同僚からの信用も完全に失った。残念ながら株が回復する予定は相当、未来になる。生徒指導室での一幕も録音されており、大人のおもちゃを教え子にプレゼント(継続)することになった。ちゃんと未使用。
・担任教師懐柔脅迫籠絡ルートでは、ほぼ最初に毒牙にかかる“理想の女教師”で、ほとんどネコ。味方につけるルートによっては心を取り戻した優秀な担任にも、悪事に手を染める不良教師にもなり得る。ちなみにどちらのルートでも、夜はネコ(重要)。
■堀北 学(3年Aクラス所属・生徒会長)
・兄北。この度、妹の渾身の自爆テロ(スイッチを押したのは自身のため残当)により、クラスのポイントを大量に吹き飛ばす大失態を犯した。1番ショックだったのは「名前で呼ばないで」と妹にバッサリ断言されたことで、妹がいるクラスメイトにフォローされる珍しい光景も。しばらくは生徒会長が山菜定食を食べる異例の光景を後輩に見せつけ、この学校の厳しさを身をもって知らしめていく。目の前でからかいつつも、おかずを恵んでくれる副会長へは、先の件で複雑な気持ちを抱きつつ、ちょっとだけ距離が縮まった。
・本作主人公にとっては「貯金箱その①」。周回が2桁前半の頃には、すでに人として愛想を尽かされていた。数回ほど、捨て回の嫌がらせで彼の目の前で手首を切ったり、校舎から遺書を残して飛び降りたりもした。妹が心配で仕方ないシスコンDVお兄ちゃんの目は完全に死んだ。ちなみにここまでやられても、まだ妹のことは大切に思っている。
読了感謝。
高評価と、感想。励みになってます。
次は原作2巻、お楽しみに〜!
原作の進行の部分と、堀北の茶番部分と、ちょっとエッチな部分。割合について悩みながら執筆してます。どー思いますかねー?
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今のままで!(4:3:3)
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進行優先!(6:2:2)
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番外編でやれ!(5:4:1)
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もっとしていけ!(3:2:5)