カードの精霊が見えるプレイヤー相手に、『コントロール奪取』戦法をヤッたら絵面が酷すぎる件について 作:コイントスは先行が良い
『――エラー、エラー。エラーカードを検知しました。直ちにバトルを強制終了します。繰り返します。エラーカードを――』
(一体どういうことですの……!?)
未遂とはいえ違反行為に手を染めようとした
私は耳を塞ぐことも忘れ、その元凶たる彼女を見やる。だが、当の本人はさほど驚いていた様子も見せない。まるで、始めから何が起きるのかを分かっていたかのような落ち着きぶりだ。
……いや、よく見れば彼女は先ほど教室に訪れた際とはまた別種の緊張感に包まれている。この『レゾナンス・ギア』による警告内容と何か関係があるのだろうか。
『バトルフィールド』が崩れていき、辺りの景色が元通りに――薄暗い校舎裏へのものへと戻る。それに伴い、《魔女》を始めとしたユニット達や私が手にしていた《聖剣》も幻のように溶けて消えていく。
『破邪の聖剣エクソシア』の追加効果――破壊したユニットと同コストのユニットを手札から特殊召喚する効果処理に呼応するかのように、輝いていた懐のカードの光も何事もなかった風に収まっていた。
白昼夢を見ていたかのような気分だ。
「あーあ、終わっちゃったか」
思考の整理が追いつかない中、九十九さんの声が耳元に届いてきた。彼女はその場で立ち止まったまま、片手で髪を弄りながら問いかけてきた。
「えーと……九条院さん。そのバトル前に言ってたエラーカード、『レゾナンス・ギア』に読み込んでみてもらえる?」
思わぬ提案に戸惑う。発言の主は、私から《エリシア》を奪い、あのような姿を無理やりに使役していた《魔女》なのだ。素直に従って良いのだろうか。
「え、ええ……分かりましたわ」
だが最終的に私は件のカード――《エリシア》のカードを取り出し、スリープモードに入りかけていた『レゾナンス・ギア』を再起動。そして『ソリティアモード』を選択し、読み込みを行おうとして……また躊躇してしまう。
「……っ」
口の中が乾いていく。昨日の、『レゾナンス・ギア』に《エリシア》がエラーカードと無慈悲に断じられたトラウマが嫌でも蘇る。
しかし、いつまでもこのままという訳にはいかない。中断していた作業を再開……結果が出るまでの数秒間が永遠のように感じられた。
ついに、その結果が出力される。警告音が鳴ることはなかった――要するに、何の異常もなしに《エリシア》のカードの読み込みが完了したのだ。
視界が歪み、熱い液体が勝手に目から溢れ落ち、頬を伝わっていく。私は静かに声を押し殺したまま、《エリシア》のカードを……『お姉さん』との大切な思い出の欠片を取り戻せたことの安堵に浸っていた。
どのくらいの時間が経過したのだろうか。この場には自分以外の人間――九十九さんがいたことをしばしの間失念していた。
顔をばっと上げる。けれど、その時には彼女の姿はどこにもない。燃え上がっていた《魔女》への怒りや憎悪。《エリシア》が戻ってきた喜び、再び湧き上がってきた九十九さんへの疑念。
それらが複雑に絡み合った言いようのない感情は、どこにもやる場はなかった。
『――助けてくれてありがとう、レイカ。立派になったわね』
「……え? 『お姉さん』?」
――懐かしい『声』に導かれるように、私はさっと『声』の方に振り返る。その先にいたのは――。
◆
私――桜井カナデには、一人の大切な友達がいた。その名前は、■■■■。彼女は私なんかと友達になってくれる程に優しく、クラスメイト全員……は大袈裟にしても、彼女を嫌うような人間は少なかった。
私にとっての彼女はただの友達ではなく、日だまりにも等しい人物だった。
そんな人格者の■■に対して、私は卑怯者だ。臆病者だ。ゴミくずだ。
だって、私は我が身かわいさに彼女を――。
――だから、私は醜悪な罪悪感を見て見ぬ振りをする為に、困っている人達を助けようとする。本当に贖罪すべき相手は、もうどこにもいないのに。
◆
――最悪な夢の余韻を引きずったまま目覚めてしまい、それが抜け切らない内に学校に登校する羽目になってしまう。しかも成り行きで、昨日新しく友達となったシオリと通学路の途中で待ち合わせ。
その時にこんな情けない顔を見られて、彼女を心配させる訳にはいかない。出かける直前の身だしなみ――特に鏡の前での顔面チェックは念入りに。
――■■の時と同じ轍は絶対に踏まない。
そんな信念を掲げる私を、鏡の中の私が嘲笑う。
――一度過ちを犯したお前が? どうせ口先ばっかり。『彼女』も、シオリも、あの女の子も。まだ顔も知らないたくさんの人達も。お前はまた――。
「何かおかしい所はない?」
その幻聴を振り払い、私は頭だけを右に向けて、そう尋ねる。その相手は家族ではない――が、同じくらいに大事な■■の忘れ形見である『彼女』。
『――何も問題はありませんよ、マスター。今日もバッチリです!』
鈴の音を転がすような『少女』――カードの『精霊』を名乗る《セレナ》の『声』であった。昨日の一件で言葉を交わせるようになり、今日も起きてから暇があれば私の方から話しかけていた。
今まで意思疎通が叶わなかった分の空白を埋める為に。そんな私の意図を知っているのか、それとも知らないのか、《セレナ》も嬉しそうに声を弾ませながら応えてくれている。
ちなみに、《セレナ》との会話は基本的に私との間でしか成り立たず。傍から見れば、独り言を呟いている痛い人間でしかない。発言の際には、気をつけないと。
「ありがとうね、《セレナ》」
『いえいえ、全然大したことじゃないですよ』
そんなやり取りを小声でしながら、身支度を整え終わり私は家を早足で飛び出し、通学路でシオリと落ち合う。私よりも一足先に気づいてくれた彼女は、笑顔で控えめながらも片手を振ってくれる。
そんな些細なことではあるが、私の胸は温かくなる。ふっと口元が緩み、シオリに負けない程に手を振り返した。
学校までの道中での会話。主な話題は、やはり昨日の一件に関連したもの――九条院さんの体調がどうなったのか、シオリのカードを取り戻してくれた少女へのお礼。
――思い出すのは、別れ際に一瞬だけ垣間見えた寂しげな少女の横顔。《セレナ》が言っていた『あの禁忌の力は所有者や周囲の人間を巻き込んで不幸をもたらすでしょう』という台詞。
……《セレナ》には昨晩止められたが、その子に話す機会を窺って《魔女》のカードを
というか彼女が困っていて、その原因が《魔女》のカードにあるのなら、取り除いて助けてあげないと。それが罪深い私がやるべき、正しい贖罪だ。
登校中にシオリと話している間、《セレナ》はずっと黙っていた。人前だからだろうか。
学校に着き、それぞれの教室に自分の荷物を置いた後、私達は再び合流。九条院さんの教室へと向かった。だけど――。
「え? いない?」
九条院さんのクラスメイトである少女に聞いてみたのだが、学校には来ていたけど、入れ違いになってしまったらしい。
「どこに行ったか分かりませんか?」
私の横から、シオリが質問を重ねる。クラスメイトの少女は顎に手を添え、首を傾けながら困った風に口を開く。
「えーと……確か尋ねに来た初等部の女の子と一緒にあっちの方に行ったかな?」
「……!」
彼女が言った、初等部の女の子という言葉に思わず反応してしまう。
「……カナデさん。もしかして……」
小声でシオリがそっと耳打ちしてくるが、それは私の耳には届いていなかった。
――初等部の女の子は、恐らく昨日のあの少女のことだろう。だけど、何故彼女が九条院さんにどんな用が? いや、そもそも
九条院家としての名家、九条院さん本人の社会的地位や権力を考えれば、どちらが呼び出したのかは考えるまでもないだろう。
一瞬の内に、様々な考えが私の頭の内を過ぎる。結論が出た瞬間に、一緒にいたシオリや少女を置き去りにして私の足は駆け出していた。
九条院さん達が向かったという先に。
◆
各々の教室へと向かう生徒達の流れに逆らいながら、廊下を駆け足で進んでいく。小中高一貫校で巨大な校舎や敷地、転校してきたばかりという二点も合わさり、初めの内はただ闇雲に走っていただけだった。
そんな私の姿を見かねたのか、人影が疎らになったタイミングでそれまで一言も口を挟まなかった《セレナ》が声をかけてきた。
『――マスター。向かうのでしたら、昨日もやり合ったあの場所の方に。そこから、僅かにですがあの《魔女》の気配がします』
「意外……《セレナ》のことだから、むしろ行くなって注意されるかと思ってた」
『……自覚があるのでしたら、自重してほしかったのですが。……まあ何度言った所で、マスターは止まらないでしょうし。それだったら、『精霊』としてマスターの力に少しでもなれるようにと考えただけです』
「……ありがとうね、《セレナ》」
『……そういう所が卑怯ですよ、マスターは』
走りながら喋るのは結構しんどいけれど、お礼を言わずにはいられなかった。姿は見えないはずなのに、私には照れて顔を逸らす『彼女』の表情が簡単に想像できた。
やがて私達は、あの校舎裏へとたどり着く。念の為に足音を殺しながら近づく――そこには想定通りに二人の少女の姿があった。
九条院さんと、あの初等部の女の子だ。彼女達は『バトルフィールド』を展開し、バトルの真っ最中のようだ。
……しかし、どちらかと言えば九条院さんの方が追い詰められているような表情をしている。
『……どうしますか、マスター?』
「……私も『レゾナンス・ギア』を使えば、『バトルフィールド』に入れて観戦はできるけど、一応隠れて様子見しよう。もしもバトルが終わった後、何か問題があったら止められるように」
『……』
私達が着いた時点で戦況は佳境だったのか、身を潜めてから数分間も経たずに『バトルフィールド』は決壊した――耳障りな警告音とともに。
(え、何が起こっているの――!?)
混乱している私を置き去りにして事態は進んでいく。二人は何かしらのやり取りの後、九条院さんが一枚のカードを『レゾナンス・ギア』に読み込ませようと躊躇し、最終的には実行した。
そうしたら九条院さんは突然涙を流し始め、心ここにあらずといった状態に陥る。そんな彼女を放置して、あの初等部の少女は
――ここで、私には二つの選択肢を迫られていた。明らかに何かが起きた九条院さんの介抱に回るか、自己満足の衝動に身を任せてあの少女の後を追うか。
私が取った行動は――。
「――ねえ!」
「ん? 誰……ああ、昨日のお姉さんか。どうかしたの? ボクに何か用でもあるの?」
少女が黒髪を揺らしながら振り返り、小さな笑みを浮かべる。小首を傾けてきた。
彼女を《魔女》の呪縛から解放する為に、私は――。
「――何か困っていることとかない? ……例えば、変なカードのせいで奇妙なことが起きたとか。もしも心当たりがあるんだったら、お姉さんがそのカードを引き取ってあげようか?」
「――は?」
◆
――せっかく人が善行(?)をして、良い気分に浸っていたというのに……それを台無しにするようなことを。ボクから《パンドーラー》を奪う? そんなの許せないよ。
当然のように、『彼女』からの――『『私』も同感ですねぇ。こっちの事情を知らないとはいえ、『私』達の地雷を的確に踏み抜いてくれるとは……少し教育をしてあげましょう』――返事はない。
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