カードの精霊が見えるプレイヤー相手に、『コントロール奪取』戦法をヤッたら絵面が酷すぎる件について 作:コイントスは先行が良い
「……え?」
――間の抜けた声が溢れる。私はその少女が口にした言葉の意味を理解するのに、短くない時間を要した。端的に言えば、私は彼女に拒絶されたのだろう。
何故だと考えるも、その答えは簡単だ。少女にカードの『精霊』が見えているかどうか分からないが、昨日少し会っただけの人間にいきなりカードを渡せと言われても承諾しないのは自然な反応だ。
見えていなかった場合は、私は単なる不審者に過ぎない。
……もしかしたら一応は手順を踏んでいるだけ、アンティルールでカードを奪っている九条院さんの方がマシだと思われている可能性すらある。
流石にそれはないと信じたいけど……。
だが、逆に少女が自身の『精霊』を認識していた場合。この反応をするということは、『精霊』――《魔女》にとって都合の良い話を刷り込まれ、信じ切っていることを意味する。
だとしたら、状況は最悪だ。あの《魔女》の危険性は、同じ『精霊』である《セレナ》のお墨付きである。このまま少女を放っておけば、《魔女》に散々に弄ばれた後、あっさりと捨てられる。碌な結末は待っていない。
どっちのパターンであったとしても、私がしなければいけないことは決まった。
破滅へと向かおうとしている少女に、まずは『納得』してもらう。そして、《魔女》のカードから彼女を遠ざける。それが私のすべきことだ。
(……だけど、どうやって『説得』しようかな?)
その方法について小声で《セレナ》と相談しようとした直前、先回りするように少女が煩わしげに口を開く。
「……どういうつもりの発言か分からないけど、どうでも良いや」
「い、いや……別に私は貴女のカードを盗ったりはしないよ? そこは勘違いしないで私の話を――」
焦りから両手を慌ただしく振り、誤解を解こうと言葉を重ねようとする。だが、それすらも少女に遮られた。
「――だから言ったよね? お姉さんの目論みは興味ないって。……でもね、ボクはどんな理由があっても、本人が望んでいないのに大切なカードから引き離すような行為は、すっごく嫌いなの。
――もしもボクの身近な人がそんなことをしたら、すぐにでも一緒に返して謝りに行くつもりがあるぐらいには」
少女が忌避するような視線を私に向けてくる。
「結果はどうあれ、昨日は他人のカードを取り返そうとする立派な人だと思ったけど、ボクの勘違いだったみたい」
苛立ちや失望を隠しもせずに、少女は言葉を続ける。
「――だけど、ここで振り切ってまた絡まれたら面倒くさいから、一回だけボクとバトルをしよう? ボクが勝ったら、二度とボクに関わらない。反対にお姉さんが勝てば、その『問題』のカードを持って行けば良い……っていう条件付きで。どう、やる?」
少女が首を傾げながら、私に選択を迫ってくる。それまで静観していた《セレナ》が、もう堪え切れないといった声色で私に語りかけてくる。
『……マスター。流石にここまでです。彼女は確実に《魔女》に魅入られています。これ以上の深入りはすべきではありません。あの様子であれば、彼女や《魔女》も私達に積極的に手を出してこないはずです』
「……いや、《セレナ》。これは逆にチャンスだよ」
『……チャンス?』
これだけ酷く拒絶されるのは想定外ではあったが、少女の方から『問題』を解決する為の手段を提示してくれるとは僥倖だ。
『何を言っているんですかっ!? 昨夜も言いましたよね、あの《魔女》は本当に危険だと――』
「――ねえ、お姉さん。
少女の発言に違和感を抱きかけるが、すぐにそれは解消される。その切っかけとなったのは、昨日の《セレナ》との会話の中にあった。
『てっきり『精霊』同士はテレパシーか何かで会話できるのかなって』
『……残念ながらできません。『精霊』としての力や格が低ければ。主人に才能がなければ、肝心の主人どころか『
私にしか《セレナ》の声は聞こえていない。さらに、さっきの言動からして、私が『精霊』を保有していることは知らないようだ。
自らの《魔女》が教えていれば、その限りではなく、もっと会話はスムーズにでき、誤解も解けていただろう。
けれど、現状はそうなっていない。まだ確定はしていないが、《魔女》が自らの所有者に限定的な情報しか与えていない可能性が大いに高まる。
「……でも、だからといって、あの子に『精霊』について知っているか直接の確認はできないよ」
『それは何故でしょうか?』
「自分のカードに意思が宿っていて、お話できるかも――そんな夢や魔法のようなことを言われて、はいそうですかと素直に渡す人はいないよ。……少なくとも、私には無理。
それに、そんなことを直接尋ねれば《魔女》を刺激しかねない。今の均衡状態が崩れれば、あの子まで危険に晒されるかもしれないよ」
『……分かりました』
私と《セレナ》が小声でやり取りをする中、一人置いていかれている少女は両腕を前で組みながら、貧乏ゆすりが徐々に激しくなる。
その音で、私は少女を待たせていたことを思い出す。ただでさえ彼女の私に対する好感度が下がっているのに、これ以上機嫌を損ねる訳にはいかない。
私は慌てて首を縦に振った。彼女の提案に乗るという意思を伝える為に。
しかし、少女は落胆の表情を浮かべた。
「――ああ、結局バトルはするんだね」
その声色にも、酷く呆れの感情が含まれていた。その少女の反応を見た瞬間に、私は悟った。
その手つきは素早く、止める間もなく私の『レゾナンス・ギア』にバトルの申請の受諾を求めるメッセージが届く。
『……マスター』
またもや一瞬だけ逡巡するも、私は送られてきたメッセージに対して、『はい』の欄を静かに押した。互いの合意を以て、バトルの成立。
周囲の景色が歪んでいく――『レゾナンス・ギア』の機能により、『バトルフィールド』が展開されていった。その最中に、朝のホームルームの予鈴が微かに遠くから聞こえてくる。
また遅刻した事実に気づくも、今目の前の『問題』に比べれば些細なことだ。――過去の過ちを繰り返さない為にも、私は他者を救い続けねばならない。
正面に出現した半透明の台の所定の位置に、デッキを置く。初期手札である五枚を一番上から確保する。お互いにその作業が終わったタイミングで、『レゾナンス・ギア』によって先行か後攻が決められる――今回は私が先行であった。
先行は取ったものの、私は行動を決めあぐねていた。昨日の九条院さんとのバトルで、少女が見せたのは相手の切り札の支配権を奪い取る《魔女》を主体とした『コントロール奪取』戦法。
先行で強力な盤面を築けば築く程に、却って自らの首を絞めることに繋がりかねない。とはいえ、最低限の展開をしなければ別のカードによって
当たり前だが、彼女が使うデッキはあの《魔女》以外のカードでも構成されている。《魔女》の召喚条件も、
それらの点を踏まえて、私は慎重にプレイを始めた。
「――まずは私のターンからね。『
私の傍に、小さな少女が姿を現す。彼女は簡素な造りの白色の法衣を纏い、自分の背丈ほどの木製の杖を両手で握りしめている。
いかにも『見習い』といった感じの風貌だ。一見それが頼りなく見えてしまうが、私のデッキでの縁の下の力持ちであり、基本的な初動の展開要員である。
「――《白魔導の見習いリリア》の効果発動。このユニットが召喚に成功した時、《白魔導》と名称の付いた『マジック』カードを一枚デッキから選び、手札に加える。私が選ぶのは、《白魔導・祝福の祈り》」
見習い魔導士のリリアが、両手に持った杖を高く掲げる。すると、その先端には温かな光が宿り、それに呼応するように私のデッキの一枚のカードに淡く輝いた。
その一枚を私は迷わずに手札へと加え、そのまま発動する。
「――続けて、『共鳴力』を二点消費し、さっき手札に加えたコスト二の『マジック』カード《白魔導・祝福の祈り》を発動。その効果により、フィールド上の《白魔導》と名称の付いたユニットを一体指定し、対象よりも一〜二コストの高いユニットを手札より特殊召喚する。
私は《白魔導の見習いリリア》を選ぶ。よって、最大コスト三までのユニットの召喚が可能となる」
『マジック』カードをフィールドに置くと、《見習い魔導士》はそれまで掲げていた杖を降ろし、両手を胸の前で合わせる。
神聖にして、無垢なる少女の祈り。それは確かに聞き届けられ、彼女の仲間を呼び出す。
「――私は手札より、『共鳴力』を一点消費し、コスト一の《聖羽の使い魔ピピ》を特殊召喚」
遠い天から羽ばたく音が聞こえてくる。そして、その音の正体はすぐに飛来する――一匹の小型のフクロウであった。その体毛は白く美しく、夜行性とは思えない程に明るい印象だ。
フクロウは迷うことなく、《見習い魔導士》の右肩へと羽を降ろす。彼女はフクロウに視線をやり、愛おしげに軽く触れる。
その後再び杖を構え、表情を引き締め直した。
様子見としては、悪くない盤面を築けたはずだ。《聖羽の使い魔ピピ》には、自分以外の《白魔導》のユニットが相手の効果や攻撃対象になった際に、一度だけ身代わりになれる効果がある。
そして、万が一にも《魔女》による『コントロール奪取』が成功されても、今フィールド上に並んでいるユニット達の
そう自分に言い聞かせ、心を落ち着け不安を和らげる。
「ターンエンド」
ターンの終了を宣言し、少女の方を油断なく見据える。彼女はそんな私の警戒を気にした様子はなく、淡々とドローフェイズから、メインフェイズへと移行する。
本作品をここまでお読み下さり、ありがとうございます。
もしも面白いと思った方は、お気に入り登録・高評価の方をお願いします。
執筆の励みになります。