カードの精霊が見えるプレイヤー相手に、『コントロール奪取』戦法をヤッたら絵面が酷すぎる件について 作:コイントスは先行が良い
想定外の
完璧な令嬢である『九条院レイカ』としての『仮面』に、大きなヒビが入ってしまいそうになる。
(……何故、彼女が私の所に? 《エリシア》に起きた『異変』について――いや、そもそも彼女が関与しているというのも、私の勝手な想像に過ぎません。……なら、昨日の一件を暴露や糾弾しに?)
……別にそれ自体は仕方がないことだと割り切っている。現に、もう元取り巻きであった少女達の口から広まり始めている。
人の口に戸は立てられぬ、と諺にもなるぐらいだ。多少早いか遅いかの違いぐらいだろう。だが、それ以外となると彼女の意図が一切読めない。
「……えっと、九条院さん。体調でも悪いの? さっきから顔真っ青だけど……もしかしてあの初等部の子と何かトラブルでもあった?」
あの少女の来訪を教えてくれたクラスメイトが、私の異様な様子に心配そうに声をかけてくるが、「……何でもありませんわ。ただの軽い目眩です」と片手で額を押さえつつ誤魔化す。
視線を教室の壁にかけられている時計にやった。朝のホームルームが開始するまでには、まだ二十分以上の猶予はある。
クラスメイトの少女に「呼んでくれて、ありがとうございますわ。……もしかしたら、少し遅れてしまうかもしれませんが、その際は先生に事情をお伝えいただけますかしら」と伝えると、席から立ち上がり、待ち人のもとへと向かう。
私が正面に立っても、少女は微笑みを絶やさない。……いや、よく見れば彼女の口角や頬は若干ぎこちなさを残している。『九条院レイカ』として社交界で培った観察眼から、目の前の彼女が緊張していることが窺えた。
歳上の人間ばかりがいる空間は、何かと気が張り詰めるものだ。私にも苦い覚えがある。
それに昨日の対戦時とのギャップが感じられる年相応な仕草に、不覚にも頬が緩みそうになるが、すぐに気を引き締め直した。
今の私にとって、彼女は間違いなく
「……おはようございます、ご存知だと思いますが、中等部二年の九条院レイカと申します。昨日ぶりですわね」
「そうですね……えーと、ボクは初等部五年の九十九ユイです。……変な質問かもしれませんが、何か困ったこととかありませんか? ――具体的には、
「――っ!?」
少女――九十九さんの最後の台詞に、今度こそ私は『仮面』が引きつるのを堪えることができなかった。それと同時に、胸の内で膨らんでいた疑念が、確かな形を取り始めた。
――彼女が、私の《エリシア》のカードを使えなくなった件に何か私の知らない情報を持っている。……最悪の場合、彼女自身が
頭の中から、昨日運転手の彼がくれた助言や、それを基にしたアンティルールでカードを奪ってしまった子達への謝罪と返却をしなければならないという思いが押し流されてしまいそうになる。
思わず自分の肌に爪を突き立てていた。頭が沸騰しそうになる程の葛藤に苛まれる。教室や廊下の喧騒から切り離された錯覚に陥った。
その末に、一つの決断を下す。
(……ごめんなさい。せっかく相談に乗っていただいて、今後の方針も決めたというのに……どれだけ綺麗事で取り繕っても、私は『お姉さん』のことを優先してしまうようですわ)
……もちろん後回しにするだけで、被害者達への贖罪は必ず行う。と言っても、やはり私は傲慢な人間なのだろう。
そんな自己嫌悪とは真逆に頭は冷えていき、ざわめいていた心の揺らぎもなくなっていく。九十九さんの緊張している様子も、擬態にしか見えなくなってしまう。
「……ちょっと場所を変えません?」
なるべく敵意を悟らせないようにと発した私の声は、その思いと裏腹に非常に冷たいものだった。しかし、流石に私の急な態度の変化に、何かを察した九十九さんは「……うん」と短く頷く。
人目を避けられる場所を求めて、私達は歩き出した。
私が先導するような形で、校舎を進んでいく。特に意図したものではないが、私達が向かった先は日が碌に当たらない校舎裏――つまりは昨日私達が戦った場所だ。
この場所に到着した瞬間、私は九十九さんの方にばっと勢い良く振り返る。
「……一つだけ質問をさせてください、九十九さん」
「
周囲の好奇な視線から解放されたからか、あるいは『本性』を露わにしたのか、九十九さんの敬語は崩れ口調は昨日のものになっていた。
張っていた両肩の力も抜けているようだ。
私は懐のデッキケースから一枚のカードを取り出し、徐にそれを――《エリシア》のカードを九十九さんに見せつける。
「――貴女とのバトルが終わった後、このカードは『レゾナンス・ギア』で読み込むことができず、エラーカードとして認識されました。何度試してみても結果は変わらず……その原因が何かを貴女は知っていますわね?」
言い逃れや虚言を許さない私の剣幕に、九十九さんは動じた様子を――見せることはなく、彼女は神妙そうな表情で曖昧に首を横に振る。
「……ボクがそのことについて知っていることは、ほとんどないよ。多分だけど、お姉さんと同じくらいかな?」
「嘘を言わないでくださいっ……!? そうであるなら、先ほどの教室での問いはどういう意味ですのっ!? あれこそが、貴女が何かを知っている証拠に――」
「――だったら、さあ……ボクとバトルしない?」
私の追求を遮るように、九十九さんは彼女の左腕に嵌められている『レゾナンス・ギア』を弄りながら口を挟む。操作するために顔を背けたせいで、彼女の表情を読むことができない。
「それは、何故……?」
震える声で問いかけるも、九十九さんは私の方に向き直る。……昨日も散々見た
「――デッキを持った人間が二人以上揃ったから。バトルをする理由はそのぐらいで充分でしょ? ……それに、そのカードに関する問題はボクを倒すことで解決できるかもよ? だって、とっても困っているんだよねえ?」
「……っ!?」
まるで私を煽るような、九十九さんの台詞。抑え込んでいた激情が、再び発露しそうになるが何とか呑み込む。
「なら良いでしょう……ですが、勝ったら貴女の知っていることを洗いざらい話していただきますわ」
九十九さんの提案に乗り、私も自分の『レゾナンス・ギア』の電源を入れる。
(……九十九さんとのバトルで負けたことが原因なら、逆に言えば彼女を倒せば問題は解決――《エリシア》は戻ってくる……可能性もなくはないですわ)
たとえ、それが精神的に追い詰められた私が幻視した形なき願望に過ぎないにしても、縋らずにはいられない。
互いの『レゾナンス・ギア』の立ち上がりが終わり、『バトル・フィールド』が展開され、私達を覆い隠していく。
正面に出現した半透明の対戦台。その所定の位置に、デッキをセット――する直前に、エラーカード扱いの《エリシア》を予備の汎用カード一枚と入れ替える。
本音を言えば、たとえゲームで使えなかったとしてもお守り代わりにデッキに入れておきたいのだが、それを実行した場合『レゾナンス・ギア』に不正と判断され、失格扱いになるだけだろうが――。
「――精々後悔しないように。昨日と違い、油断や慢心は一切しませんわ。初めから全力で行かせてもらいます」
「ふふっ、そう来なくちゃ」
バトルの先行、後攻は基本的に『レゾナンス・ギア』によってランダムに決められる。――昨日と同じで、先行は九十九さんの方であった。
「また先行か……」
九十九さんは軽くため息を吐きながら、初期手札と睨み合いを行い――これまた同様に何もすることなく「ターンエンド」と宣言した。
彼女の態度だけを見れば、完全にこちらを舐めているかと錯覚し、苛立ちに任せた雑なプレイングを披露することになり、
……だって、まさに昨日の私のことなのだから。
(……油断した相手が展開したエースカードのコントロールを奪う。もう、貴女の戦術は理解していますわ)
九十九さんの切り札である《魔女》。その召喚条件は、
決して容易とは言えないその制約は、序盤において致命的な隙となる。
(……ならば、昨日のようにちまちまと展開するのではなく、狙うのは大量展開による後攻ワンターンキル!)
ドローフェイズによって加わった一枚と初期手札の計六枚の手札を眺め、瞬時に脳内で
それと並行して、カードを盤面に配置し始める。
「――『共鳴力マナ』を一点消費し、コスト一の《白銀の従騎士》を召喚致します」
私のデッキ、騎士団において尖兵としての役割を持つ白銀の鎧姿の小柄な騎士が侍るように出現する。いつもであれば、ここから同じ低コストのユニットが並んでも精々が一、二体。とてもではないが、ワンショットキルなど叶うはずもない。
だが、運命はまるで私の背を押すかのように、手札は今までのバトルの中でも一番整っていた。
「――『共鳴力』三点消費、一体の《白銀の従騎士》をコストとして『
発動コストに指定された、場に登場した《白銀の従騎士》の姿が霞のように揺らぎ、緩やかに消えていく。しかし、それは無意味な犠牲ではなく、後に続く者達への灯でもあり、道標でもあった。
消滅した《白銀の従騎士》の代わりに、新たな三体の騎士達が現れる。その中で一番目を惹くのは、大柄な体躯を同一の鎧で覆う騎士――《白銀の騎士団長》の姿であった。
『彼』は《エリシア》に次ぐ、二番目の切り札とも言うべきユニット。私の指揮の下、戦乙女の隣に立ち、部下達を率いて数多の戦場を駆け抜けたものだ。
昨日の『あの瞬間』まで共にいた《エリシア》との過去を一瞬だけ振り返り、私は今回の作戦の要となる『彼』に指示を下す。
「――《白銀の騎士団長》の効果を発動。バトル中に一度、残りの手札を全て『残響領域』に捨て、自軍のユニット全てに二回攻撃を付与する。ただし、次の自分のターン、バトルフェイズをスキップしなければならない」
前回使うことのできなかった効果により、私は《白銀の騎士団長》を含めて計六回もの直接攻撃をする権利を得る。しかも、今のフィールド上に召喚されているユニットは高コストのもので、それに見合っただけの
ユニット全てで直接攻撃をすれば、LPが満タンで、たとえ相手側にユニットが存在したとしても、半端なユニットであればそれごと粉砕できる。
だが、油断はしないと決めたばかり。最後まで気を抜くつもりはない――その心持ちのまま、一体のユニットに直接攻撃を命じる。それを受諾した白銀の騎士が、がら空きの敵陣に突撃。無防備な《魔女》へと、その銀閃を叩き込む。
「あらあら」
特に動じた素振りも見せない。しかし、彼女のLPは大きく減少している。私は勝利を確信し、騎士に再び攻撃を指示しようとする直前――九十九さんの口角が大きく吊り上がる。
「――ははっ、やっぱりボクの弱点を突こうとしてくるよねえ。だけど、対策の一つや二つぐらい当然用意してるよ……今回は
――白銀の騎士の二撃目が、甲高い金属音とともに受け止められる。それを為した『乱入者』の正体は――。
「――自分のLPが一度に2000以上減った場合に、このカードを特殊召喚し、相手のバトルフェイズを強制的に終了させる。――コスト五の《黒銀の魔女騎士エリシア》を特殊召喚」
――瞳は虚ろで、白銀に輝いていた甲冑姿は赤黒く変色している変わり果てた戦乙女であった。
◆
――ふう……今回もようやくバトルにこぎ着けた。後は……お姉さんがああしてくれれば……それにしてもバトルしないと『エラー』は解消されないけど、あっち側の意思で誘いに乗ってくれないと無理なんだよねえ。何でだろう?
しかも、ただバトルするだけじゃいけないし。
……まあ、ある程度は『ホビーアニメあるある』で納得はできるし、バトル自体は嫌いじゃないし楽しいけど……
……本当に
――お話ししたいなあ……。
当然のように、『彼女』からの――『…………』――返事はない。
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次回の更新は、20日の19時頃になります。