ダンジョン・ドリフター ~退職金でキャンピングカーを買ったら、放置していたスキルが『SSSランク:完全複製(コピー)』だった件。最強スキルを拾い集めて全米横断の旅に出る~   作:パラレル・ゲーマー

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第10話 完璧なソロ用ビルドは退屈だ

 キャンピングトレーラーのエアコンが発する低い駆動音が、外から聞こえるブラックホロウの喧騒と混ざり合っていた。

 

 夜の9時。

 マットはG-214の中の小さな折りたたみデスクに座り、ノートPCの横にマグカップを置き、ステータス画面の隅に表示されている『手付かずのパッシブポイント:6』を見つめていた。

 

 画面の中では、すでにルークが話し始めていた。

 

「世間の連中は、これを『完璧なソロ・ウォリアー』と呼ぶ」

 画面の中の傷だらけの男は、その言葉を言い終える前からすでに「その呼び名にうんざりしている」という顔をしていた。

「完璧ではない。これは『初心者向けビルド』だ。そんな大げさな名前が生き残っているのは、インターネットという存在そのものが間違いだからだ」

 

 マットはコーヒーを一口飲み、少し冷めすぎていると判断し、『完璧な温度』で修正した。

 

 ルークは背後の画面に、簡略化されたパッシブツリーを表示した。

「このビルドは、お前を『賢い人間』にするわけじゃない。『特別な存在』にするわけでもない。ただ、お前を『殺されにくく』し、そこそこ『物を殴るのが上手い』状態にするだけだ」

 

 彼はハイライトされたルートを指差した。

「最初の10レベルなら、それで十分だ」

 

 マットは画面に顔を近づけた。

「それに反論するのは難しいな」

 

 そのビルドは、意図的に『汎用的(ジェネリック)』に作られていた。剣、斧、メイスなどの武器特化はない。盾や両手武器への投資もない。クリティカル特化、出血特化、スタン特化といった、「新米ウォリアーが20レベル後も同じ武器を使い続けている」ことを前提にしたパッケージも一切含まれていない。

 

 代わりに、最初の6ポイントは、ほぼすべての物理ウォリアーが恩恵を受けられるものに振られていた。

 物理ダメージ、ライフ、アーマー(物理防御)、回避(エバジョン)、STR(筋力)、近接リーチ、そしてライフ自動回復(リジェネレーション)。

 

 ルークはそのクラスター(ポイント群)を叩いた。

「後になってから、これを剣ビルドに変えるのは自由だ。斧でもいい。メイスでもいい。剣盾でも、両手武器でもいい。あるいは、コメント欄の連中が勧めてくる約6000通りの『クソみたいなアイデア』のどれかにしてもいい」

 

 マットは微笑んだ。

「その通りだろうな」

 

「重要なのは、この最初の6ポイントが『将来の選択肢を縛らない』ということだ」

 ルークはカメラに向かって身を乗り出した。

「初心者の探索者(デルバー)は、『まだ存在してもいない問題』を解決しようとするのが大好きだ。お前はレベル7だ。レベル80のエンドゲーム(最終盤)ツリーの心配なんかしてる場合じゃない」

 

 マットは手元にある「未使用の6ポイント」を見た。

 

「お前に今必要なのは、『レベル7を生き延びること』だ」

「なんか個人的に怒られてる気分になるな」

 

 過去のどこかの時点で録画されたルークは、それでもマットを攻撃し続けた。

 

「もし来週、お前が使う武器を変えたとしても、このビルドは機能する。もっと良いスキルジェムを見つけた? 機能する。お前の『ユニークスキル』が戦い方を変えた? それでも機能する」

 

 マットは動きを止めた。

 そこが一番重要だった。

 

 ルークは当然『COPY(完全複製)』のことを言っているわけではないが、それこそがマットが「6つのユニークスキルと、たった10日間の経験を元に独自のパッシブツリーを構築する」ことを避け、証明された土台(ファウンデーション)に落ち着こうとした理由そのものだった。

 

『COPY』は、彼に「絞り込まれた道」ではなく「無限の方向性」を与える。

 彼の土台は、その方向性がコロコロ変わっても耐えられるものでなければならない。

 

 ルークがスライドを変えた。

 

『リセットには金がかかる』

 

 マットはすでに知っている。

 それでもまだ心は痛む。

 

「だから、自分の装備に書いてある言葉の意味すら理解していないうちに、オリジナリティを出そうとするのはやめろ」

 

 実際のルートが表示された。

 6ポイント。

 ぴったり6ポイント。

 都合がいい。

 

 マットは自分のパッシブ・インターフェースに意識を向けた。

 

 パッシブポイント:6

 

 コンパクトなパネルが消えた。

 ツリーが展開された。

 さらに展開された。

 まだ広がり続けている。

 

 マットは見つめた。

「絶対に無理」

 

 それはツリー(樹)ではなかった。

 それをツリーと呼ぶのは、そこに「幹」があり、認識可能な「構造」があり、普通の人間が理解できる「方向性」に成長していくという前提があるからだ。

 

 目の前のそれは、誰かが「銀河」を引っ張ってきて、すべての星を「決断(ポイント)」に置き換え、それらすべてを光る線で結びつけたような代物だった。

 

 クラスターは四方八方へ広がっていた。物理と属性ダメージ、アーマー、回避、ライフ、マナ、クリティカル、攻撃速度、移動速度、盾、片手武器と両手武器、出血、スタン、マナ保留効率、属性変換、投射物。

 そして、マットが「意味がわからない」か、「個別の意味はわかるが、なぜそれを組み合わせる人がいるのか見当もつかない」ような項目の数々。

 

 中には、ヘヴィメタルのアルバムのタイトルのような名前のノードもあった。

 

 彼はズームアウトした。

 さらに多くが現れた。

 

 マットはゆっくりと背もたれに寄りかかった。

「これは『スキルツリーのフリをした確定申告書』だ」

 

 ありがたいことに、ルークはその問題を予想していた。

 彼の動画では、ツリーのほぼ全体が暗転し、出発点の近くにある「ちょうど6つのノード」だけがハイライトされた。

 

「ズームアウトするな」

 マットはウォリアーの初期エリア以外をすべて閉じた。

「良いアドバイスだ」

 

「最初のポイント」とルーク。「創造性はゼロだ」

 一番近くのハイライトされたノードが拡大表示された。

 

【物理攻撃ダメージとライフ】

 物理攻撃ダメージ 14% 増加

 最大ライフ +14

 

 割り当てますか? 

 [ YES ] / [ NO ]

 

 マットはそれを二度読んだ。

「1ポイントで、ダメージ14%とライフ14だと?」

 

 彼はこれまで、パッシブポイントというものを「小さな最適化ボーナス」のように脳内で処理していた。こっちで1%、あっちで2%、というように。

 これは全然「小さく」ない。

 

「これが基礎工事(ファウンデーション)だ」とルークが言った。「ダメージが上がれば戦闘は早く終わる。ライフが増えればミスの代償は軽くなる。もしこの二つのどちらも役に立たないと思うなら、俺にはお前を救えない」

 

 マットは『YES』を選択した。

 ノードが点灯した。

 

 温かい感覚が彼を通り抜けた。痛みも、劇的な変化もない。ただ、自分の肉体的な存在感がほんのわずかに『濃く』なったような感覚。

 

 パッシブポイント:6 → 5

 

 ルークのルートは、そこから連続する2つの『物理攻撃ダメージ』ノードへと続いていた。それぞれがさらに12%の増加をもたらす。

 

 マットはあまり躊躇せずに最初の1つを取った。

 

 パッシブポイント:5 → 4

 

 2つ目で、彼は手を止めた。

 ボーナスが悪いからではない。

 その光るボタンの背後のどこかに、「理論上500ドル(約7万5,000円)の取り消し手数料」が座っていることを思い出したからだ。

 

 それから、彼はなぜこの動画を見ているのかを思い出した。

 彼はそれを選択した。

 

 パッシブポイント:4 → 3

 

 3ポイント消費。

 すでに物理攻撃ダメージが38%も増加している。

 

 マットはハイライトされたルートを見つめた。

「上がり幅がエグいな」

 

「そうだろう」ルークが疑わしいほど絶妙なタイミングで言った。「だから、頭の中にある『レベル80の最高傑作』のためにポイントを貯め込むのはやめて、今すぐレベル7を生き延びるために使えと言ってるんだ」

 

 マットは少しだけ攻撃されたような気分になった。

 またしても。

 

 次のノードのペアは、防御側にあった。

 

【アーマー、回避、ライフ】

 アーマー 6% 増加

 回避 6% 増加

 最大ライフ 4% 増加

 

 まったく同じノードが2つ。

 

 マットは眉をひそめた。

「アーマーと回避?」

「そうだ、両方だ」とルークが言った。

 

 マットは疑わしげに画面を見た。

「『どちらの数字も大したことないじゃないか』って? ああ、それは意図的だ。お前はレベル7だ。不死身になろうとするのはやめろ」

 

 マットは次の2ポイントを消費した。

 

 パッシブポイント:3 → 1

 

 このペアで、アーマーが12%、回避が12%、そして最大ライフが8%増加した。

 

 ルークは、二人の初心者ウォリアーの映像を映し出した。

「これは純粋なアーマー特化ビルドでもなければ、純粋な回避特化ビルドでもない。半年後に自分が何を着ているかも決まっていない奴のための、『ベースラインの保護』だ」

 

 彼は映像を消した。

「後でアーマーに特化する? 結構。こいつはそれでも役に立つ。回避に特化する? 結構。来週、計画を全部ひっくり返すようなユニークの胸当てを拾った? それでもこいつらは『死にポイント』にはならない」

 

 マットは頷いた。

 それがテーマなのだ。

 賢ぶらない。

 爆発力もない。

 ただ、機能し続ける(ワークする)ものだけを選ぶ。

 

 パッシブポイントは残り1つ。

 最後のハイライトされたノードは、他のものより大きかった。

 マットはそれを開いた。

 

【アリーナの達人(マスター・オブ・ジ・アリーナ)】

 毎秒、最大ライフの1%を自動回復

 近接物理ダメージ 10% 増加

 近接攻撃の射程(リーチ) +0.3メートル

 STR(筋力) +20

 

 マットは動きを止めた。

 もう一度読んだ。

 

「……これが1ポイント?」

「そうだ」ルークが言った。

「マジか」

「『裏に何か隠されたデメリットがあるんじゃないか?』って? ない」

「オッケー」

「取れ」

「取るよ」

 

 マットは『YES』を選択した。

 

 パッシブポイント:1 → 0

 

 ノードが点火(イグナイト)した。

 今回ばかりは、物理的な感覚は即座にやってきた。

 

 彼の肩がわずかに動き、背筋がほとんど無意識のうちにピンと伸びた。ノートPCの横にあるコーヒーのマグカップが、突然、奇妙に軽く見えた。視覚的に軽くなったわけではなく、マットの脳が「それを持ち上げるために必要だと予想する労力」が激減したのだ。

 

 筋肉が倍になったわけでも、目に見えて隆起したわけでもない。

 STR(筋力)は単なる筋肉の量ではないのだ。

 システムが、彼がすでに持っている肉体の上に、何か『超常的なもの』を上乗せしている。

 

 マットは立ち上がった。

 彼が座っていた椅子が、予想以上に勢いよく後ろへ滑った。

 彼はそれを掴んで止めた。

「……なるほどな」

 

 彼はベッドの脇からロングソードを拾い上げた。

 STR 23の時点で、この武器はすでに快適に扱えるようになっていた。

 今、彼はそれを片手で持ち上げ、手首を返し、刃の動きを止め、そして昨日よりもはるかに少ない労力で方向を変えた。

 

「おお」

 マットは慎重に、一度だけ水平に素振りをしてみた。

 剣は予想よりもはるかに速く加速した。

 

 彼は即座に動きを止めた。

 20フィート(約6メートル)のキャンピングトレーラーの内部は、新しい『筋力』の上限を試すのに適した場所ではない。

 

 マットは武器を置き、6ポイントが実際に自分に何をもたらしたのかを確認した。

 

 STRは23から43に上昇した。最大ライフは137に跳ね上がった。今や彼は毎秒1.37のライフを自動回復し、アーマーと回避が12%増え、近接攻撃の射程がわずかに伸び、汎用と近接特化のボーナスを合わせて物理近接ダメージが50%近く増加した。

 

「たった6ポイントで、か」

 

 彼の中で何かがカチリと音を立てた。

 パッシブツリーは、キャラクターの上に被せる『装飾的なレイヤー』ではない。

 それ自体が『キャラクターの一部』なのだ。

 マットはここ10日間、自分のビルドの主要な部分を『未使用のまま』放置して戦っていたことになる。

 

 その時、一つの考えが浮かんだ。

 おそらく、非常に無責任な考えが。

 

 マットは『COPY』を開き、『完璧な温度』を外し、代わりに『過剰筋力』をセットした。

 Cランクのスキルがアクティブスロットに収まる。

 

 彼はそれを起動した。

 

 STR:43 → 63

 

 マットは息を飲んだ。

 その感覚は、初めて『過剰筋力』を試した時よりもはるかに強烈だった。

 スキルが変わったわけではない。

 その下にある『土台』が変わったのだ。

 

 彼は本能的に、デスクの端を強く握りしめた。

 ミシッ。

 木が軋む音がした。

 マットは即座に手を離した。

 

「……よし」

 何も壊れていない。

 よかった。

 

 彼は『過剰筋力』を解除した。

 

 STR:63 → 43

 

 ネット上で最も一般的なビルドをなぞっただけの、完全に平凡な新米ウォリアーが、レベル7の時点でSTR 43に到達できる。

 そしてマットは、『COPY』の1枠を割きさえすれば、それをいつでも『STR 63』に化けさせることができるのだ。

 しかも、『過剰筋力』はたかがCランクのスキルに過ぎない。

 

「いずれ、これは本当に馬鹿げたことになるぞ」

 

 彼は『COPY』を閉じた。

 今夜はもういい。

 レベル7の段階で『COPY』がもたらす全ての可能性を解明しようとするのは、ルークが動画の中で罵倒していた「初心者の間違い」そのものだ。

 

 マットは再生を再開した。

 ルークはまとめに入っていた。

 

「おめでとう」

 彼の声には、祝福する意図など微塵も含まれていなかった。

「これで、お前は他の何万というウォリアーと『まったく同じ』最初の6パッシブを手に入れたわけだ」

 

 マットは頷いた。

「励みになるね」

 

「それは『仕様(フィーチャー)』であって、『欠陥(バグ)』ではない」

 ルークが指を一本立てた。

「明日、誰かが『こっちの方がダメージが12%出る!』と約束するサムネイルの動画をアップロードしたからといって、このポイントをリセットするな」

 二本目の指。

「配信者がお前より3秒早くFランクのボスを殺したからといって、新しい武器を買いに走るな」

 三本目。

「コメント欄の誰かが『回避なんて死にステだぞ』と言ったからといって、自分のビルドが台無しになったと絶望するな」

 

 マットは微笑んだ。

 ルークは手を下ろした。

「そして、もしこのビルドが『退屈(ボーリング)』だと感じるなら——結構なことだ」

 彼はカメラに向かって身を乗り出した。

 

「退屈なものは、生き残る(サバイブする)」

 

 動画が終わった。

 

 マットは数秒間、静かに座っていた。

「よし」

 彼は再び剣を手に取った。

「さっそく何か殴りに行こう」

 

 それから、彼は時計を見た。

 午後9時47分。

 

 マットは暗い窓の外を見て、それから武器を見直した。

「……明日にしよう」

 

 彼はもう、立派な探索者だ。

「動画を見て興奮したから」というだけの理由で、夜の10時に慣れない戦闘ボーナスを単独で試しにダンジョンへ潜る行為が、「死亡事故の教訓ビデオの冒頭」そのものであることに気づける程度には。

 

 マットは剣をしまい、完璧な温度のコーヒーを飲み干し、ベッドに入った。

 

 ◆

 翌朝、ブラックホロウはまったく同じ姿をしていた。

 それは当然のことだ。

 変わったのはマットの方であって、キャンプ場ではない。

 

 彼はラスト・フラスコで一人朝食をとった。

 向かいのボックス席は空っぽのままだ。「フライドポテトは朝食のポテトに分類される」と強弁するイーサンも、二人を静かに品定めするクロエもいない。

 

 マットは食事が運ばれてくるのを待つ間、グループチャットを確認した。

 

【ブラックホロウ・グループ】

 **イーサン:**ペンシルベニアのコーヒー、クソまずい。

 **クロエ:**あなたがガソリンスタンドでコーヒーなんか頼むからよ。

 **イーサン:**コーヒーはコーヒーだろ。

 

 マットはタイプした。

 

 **マット:**不正解。

 

 即座に「……」の入力中アイコンが現れた。

 

 **イーサン:**裏切り者。

 

 マットは微笑み、スマホをしまった。

 

 朝食後、彼はG-214に戻り、通常のダンジョン装備を身につけ、物資を確認し、『COPY』を戦闘用ロードアウトに戻した。

 

 今日が彼の最後のブラックホロウ探索(ラン)になる。

 

 ボスも、宝箱も、パーティーも探していない。

 彼は『比較テスト』がしたかった。

 あの6つのポイントは、地下で実際に何を変えたのか? 

 

 30分後、マットはゲート端末の前に立っていた。

 グループボードは無視した。この1週間、毎回の探索をイーサンやクロエと一緒に始めていたため、ついつい確認したくなる本能が驚くほど強かったが。

 今日は違う。

 

 新鮮なインスタンスが表示された。

 ボス生存中。

 

 マットは即座にそれをスキップした。

「ノーだ」

 ビルドのテストを、また別のボスレースに変えるつもりはない。

 

 次の選択肢はずっと良さそうだった。

 

 インスタンス112 — 41/64 — ボス討伐済

 

 標準的な人口密度。

 ボスはすでに不在。

 完璧だ。

 

 マットはそれを選択した。

 青いゲートが彼を飲み込む。

 

 見慣れた圧迫感が体を洗い流し、ブラックホロウが彼の周囲に形成される。ブーツの下の湿った石、青いクリスタルの光、木製の支柱、遠くの水滴の音、そして奥のトンネルから時折響いてくる戦闘の反響音。

 

 40人の他の探索者が、このインスタンスのどこかにいる。

 だが、マットのすぐ周りには誰もいなかった。

 

 防具に擦れる盾の音もない。

 ルートを確認するクロエの声もない。

 バカなことを言うイーサンもいない。

 

 マットはロングソードを抜いた。

「……よし」

 彼は肩を回した。

「ソロだ」

 

 最初のケイブラットは2分と経たずに現れた。

 岩の隙間から、体よりも先に赤く光る目が姿を見せる。それはトンネルへ這い出し、マットを見つけると、姿勢を低くして突撃の構えに入った。

 

 1週間前なら、その姿勢はマットに「距離」「角度」「タイミング」「剣の位置」の計算を強要していた。

 しかし今日、マットはただ歩き続けた。

 

 ネズミが飛びかかる。

 マットは剣を振った。

 クリーブではない。

 コピーした戦闘用ユニークも使っていない。

 ただの通常攻撃。

 

 ロングソードがクリーチャーの体を横切った。

 ケイブラットは、床に触れる前に灰となって消滅した。

 

 ケイブラットを討伐しました

 

 マットは立ち止まった。

 何もない空間を見つめる。

 それから、自分の剣を見た。

「……はえ?」

 

 手応えがほとんどなかった。

 特別に鋭いスイングをしたわけでも、体重を乗せたわけでもない。

 彼はただ、攻撃した。

 そして、戦闘は終わった。

 

 マットはトンネルのさらに奥を見た。

「もう一回」

 

 次のモンスターはゴブリンマイナーだった。

 壁際から振り返り、ボロボロのツルハシを振り上げ、突撃してくる。

 マットはそれが射程に入るまで待った。

 斜めへの一太刀。

 灰。

 

 次のカーブの向こうから別のゴブリンが現れた。

 マットは意図的に相手を近づけさせ、ツルハシが振り下ろされる前に叩き斬った。

 灰。

 

「……オッケー」

 ゴブリンマイナーは決してボスモンスターではないが、マットが探索を始めた最初の数日間は、どんな戦いでも相応の集中力を要求されていた。

 それが今では、彼らが『脆く』感じられる。

 

 モンスターは変わっていない。

 彼の剣も変わっていない。

 変わったのは彼自身だ。

 

 低品質の魔石がトンネルを転がってきた。

 マットはそれを拾い上げた。

 お金はお金だ。

 彼は、魔石を無視するほど自分の強さに酔いしれるバカにはなっていなかった。

 

 さらにいくつかの低レベルモンスターが同じように簡単に死んだため、マットはもう少しタフな相手を探し始めた。

 ストーンビートルだ。

 

 ブラックホロウの通常モンスターはすべて初心者向けの敵だが、ビートルだけは少なくとも耐久力があった。

 彼はむき出しのクリスタルの鉱脈のそばでそれを見つけた。

 

 装甲に覆われた体が向き直る。

 脚が石を擦る音。

 マットはトンネルの中央に立った。

 

 ビートルが突撃してくる。

 1週間前なら、衝撃を避けられないと判断して『不動の歩み』を使っていたかもしれない。

 だが今日、彼はただ横へステップした。

 

 DEX 23という数値が、一晩で劇的に変化したわけではない。

 彼の『経験』が変わったのだ。

 ビートルが轟音とともに彼の横を通り過ぎる。

 マットは体を回転させ、その側面に剣を振り下ろした。

 

 パキッ。

 甲殻が割れる。

 モンスターが消滅する。

 一撃(ワンパン)。

 

 マットはまだフォロースルー(振り抜いた姿勢)のままだった。

 彼は何もない床を見つめた。

「おお」

 ゆっくりと笑顔が広がった。

「なるほど、みんなどいつもこいつも『ビルド』について語りたがるわけだ」

 

 昨日、彼は「6つの理論上の決断」を保留したままのレベル7ウォリアーだった。

 今日、彼は「ビルドを持った」レベル7ウォリアーだ。

 その違いは計り知れなかった。

 

 マットはさらに奥へ進んだ。

 次の通路に、4匹のケイブラットが雪崩れ込んできた。

 彼の体は自動的に、イーサンとクロエに叩き込まれた習慣に従って動いた。

 

 位置取り。

 待つ。

 群れを圧縮させる。

 4匹が射角に入るなら、2匹だけのためにマナを無駄遣いしない。

 

 1匹目のネズミが射程に入る。

 2匹目。

 3匹目。

 マットは4匹目を捉えるためにわずかにシフトした。

 

 そこで、彼は手を止めた。

 本当にそこまでする必要があるのか? 

 すでに3匹が彼の目の前にいる。

 

 クリーブ。

 マナ:53 → 49

 

 赤い弧が閃いた。

 3匹のネズミが消滅した。

 4匹目が突っ込んでくる。

 マットは向きを変え、通常の一振りでそれを殺した。

 

「この方が格段に楽だ」

 先週学んだ教訓が無駄になったわけではない。より良い位置取りは、依然としてより効率的な攻撃を生む。

 しかし、「完璧な実行(エグゼキューション)を逃した時の代償」が変化したのだ。

 クリーブの弧からネズミを1匹逃したところで、もはやそれは「問題(ピンチ)」ではなくなっていた。

 ただ「剣をもう一回振る手間」が増えるだけだ。

 

 力が技術(スキル)を無意味にするわけではない。

 力は『余裕(マージン)』を生み出す。

 そしてそれは、ある意味で技術以上に価値のあるものかもしれない。

 

 トンネルの奥で、4人組のパーティーが彼とすれ違った。ウォリアー2人、ローグ1人、そして短い杖を持った誰か。

 一人のウォリアーがマットの剣をちらりと見た。

「ボスは死んでるぞ」

「ああ。ビルドのテスト中なんだ」

 男は『それですべて納得した』というように頷いた。

「幸運を」

「そっちもな」

 

 彼らは反対方向へと進んでいった。

 マットは薄く微笑んだ。

 初日なら、彼らに聞きたい質問が山ほどあっただろう。

 今の彼は、トンネルの中にいるただの探索者の一人に過ぎない。

 

 次の群れは大きかった。ゴブリンマイナー3匹、ケイブラット2匹、その後ろにストーンビートル1匹。

 マットは『過剰筋力』を使うことを考えた。

 しかし、思いとどまった。

 それでは目的から外れてしまう。

 彼はあくまで『公開(パブリック)ビルド』をテストしたいのだ。

 SSSの優位性なし。

 コピーした戦闘スキルもなし。

 ただのウォリアーとして。

 

 最初のネズミが素早く突っ込んできた。

 マットはそれを斬る。

 ゴブリンが続く。

 クリーブ。

 ゴブリン2匹と2匹目のネズミが消滅。

 

 ストーンビートルが突撃してくる。

 マットはそれを回り込んで避ける。

 最後のゴブリンのツルハシが、彼の死角(ブラインドサイド)から振り下ろされた。

 

 気づくのが遅れた。

 激突。

 彼のライフによる保護がその一撃を吸収する。

 

 ライフ:129 / 137

 

 マットはステップで距離を取り、1回の攻撃でゴブリンを殺し、それからビートルにトドメを刺した。

 静寂が戻る。

 

 彼は2つの魔石を拾うためにしゃがみ込んだ。

 そうしている間にも、彼のライフは着実に満タンへと向かって上昇していた。

 

 129 → 132 → 135 → 137

 

 マットは最後の1ポイントが戻るのを見届けた。

「……おお」

 光の柱も、ドラマチックな回復エフェクトもない。

 彼が戦利品を拾っている間に、8ポイントの偶発的なダメージが「ただ消え去った」のだ。

 

「これはマジで快適だな」

 毎秒1.37ライフの回復では、『アリーナの達人』が深刻な一撃の後のライフ・フラスコの代わりになることはない。しかし、小さなミスが「永遠に蓄積し続ける」ことはなくなったのだ。

 

 マットはライフ満タンのまま歩き続けた。

「この自動回復が一番気に入ったかもしれないな」

 彼は追加のSTR 20について考えた。

 それから、ダメージボーナスについて。

「いや」

 彼は考え直した。

「二番目にお気に入りだ」

 

 次のテストは、より奇妙なものだった。

 

 近接攻撃の射程 +0.3メートル

 

 30センチ。

 ステータス画面上では、ほとんど些細な数字に見える。

 しかし、この1週間で何百回と剣を振ってきたマットにとって、自分の剣の「物理的なリーチ」は考えるまでもなく体が覚えているものだった。

 

 彼は孤立したゴブリンマイナーを見つけ、その「馴染みのある距離」のわずか外側で立ち止まった。

 ゴブリンが前に出る。

 マットは剣を振った。

 彼の脳は「この刃は届かない(スカる)」と予想していた。

 

 攻撃は命中(コネクト)した。

 ゴブリンが消滅する。

 

 マットは見つめた。

「……気持ち悪い感覚だな」

 

 次にケイブラットを見つけ、「物理的な刃が余裕で届くはずの距離のわずか外側」から同じ実験を繰り返した。

 マットは振った。

 システムが『近接攻撃(メレーストライク)』として認識した。

 ネズミは、噛みつきの射程に入る前に灰となった。

 

 光る剣の延長エフェクトも、目に見える空間の歪みもない。剣自体が長くなったわけでもない。

 ただ、彼の近接攻撃を支配する『ルール』が「届く」と定めたため、攻撃がより遠くまで到達しただけなのだ。

 

「とてつもなく奇妙だ」

 そして、とてつもなく有用だ。

 

 30センチというのは、パッシブの説明文では小さく見える。

 しかし実際の戦闘において、それは「敵の射程内にあと一歩踏み込むことなく攻撃できる」ことを意味するのだ。

 

 マットはテストを続けた。

 ネズミもゴブリンも、通常の攻撃1回で死んだ。ストーンビートルも同じ。小さな群れはクリーブ一発で消し飛び、残ってもせいぜい掃除(クリーンアップ)の通常攻撃が1回必要なだけだった。

 

 奥へ進めば進むほど、その違いは明白になった。

 マットが突然「止められない高ランク探索者」になったからではない。

 ここはまだブラックホロウ。

 Fランク。

 初心者エリアだ。

 しかしだからこそ、この『比較』は完璧に機能した。

 彼はこのモンスターたちを知っている。

 以前はこれらを倒すのにどれだけの労力が必要だったかを覚えている。

 

 放棄されたトロッコの陰からストーンビートルが現れた。

 マットはそれが突撃の態勢に入る前に叩き斬った。

 灰。

 

 彼は笑った。

 本当に、声を出して笑った。

 その音がトンネルの奥へと反響する。

「全部ワンパン(一撃)じゃないか」

 

 マットはロングソードを肩に休ませた。

「強え」

 

 彼は依然として角を警戒し、マナを確認し、戦利品を回収し、不必要に巨大な群れを避け、死んだボスを無視した。

 だが、今のブラックホロウは明らかに違って感じられた。

『簡単(イージー)』だ。

 

 やがてマットは乾燥したトンネルの区画を見つけ、古い木製支柱の横にある岩の上に座った。

『完璧な温度』をスロットに入れ、生ぬるい水のボトルを冷やして飲んだ。

 

 ライフもマナも満タンだ。防具には意味のあるダメージは一つもなく、ライフ・フラスコには手もつけていない。

 

 マットは青く光るトンネルを見つめた。

 一つの考えが浮かぶ。

「今の俺なら、Eランクでもやれるんじゃないか?」

 

 彼は即座にそれを打ち消すことはしなかった。

 ブラックホロウの通常モンスターは、もはや彼の脅威(チャレンジ)にはなっていない。

 Eランクはその次のステップに過ぎない。

 初めて、「そこに入ることは不可能ではない」と感じられた。

 

 マットはスマホを取り出し、ダンジョン検索データベースのフィルターを変更した。

 

 ランク:E

 

 周辺に新しいマーカーのセットが現れた。

 マットはそれらを見つめた。

 

 これは危険だ。

 物理的にではない。

 心理的に。

 

 推奨レベルの数字は、到達可能(アチーバブル)に見えた。

 あるリストの推奨レベルは、彼自身のレベルより少し上なだけだった。別のレビューには、「経験豊富なパーティーが低レベルのメンバーを連れてきている」と書かれていた。

 

 その時、動画のサムネイルが表示された。

 

『最初のちゃんとしたビルドが完成した後もFランクに留まるのが「時間の無駄」である理由』

 

 マットは見つめた。

「……ダメだ」

 彼はスクロールしてそれを飛ばした。

 

 次のガイドの方が有用だった。

 

『Eランクへ移行すべき適切なタイミングとは?』

 

 その答えは、先ほどより刺激的ではなかった。

『普遍的なルールはない。パーティー構成、ビルド、装備、ユニークスキル、そしてダンジョンの種類すべてが関係する。アグレッシブなグループや特化した探索者は早めに移行できるが、ソロの初心者は安全マージンを保つことが一般的に推奨される。

 保守的な目安としては、「ダンジョンの推奨初心者レンジの上限から、おおよそ5レベル上回った状態」であれば、次のランクをルーティンのソロコンテンツとして扱えるようになる』

 

 ブラックホロウの推奨レベルは1–10だ。

 マットはレベル7。

 まだ10にすら届いていない。

 ましてや15なんて遠い未来だ。

 

 彼はこの推奨を無視することもできる。

 無視している連中は山ほどいる。

 

 だが、それは本当の『問い』ではない。

 

 ルークの声が蘇る。

『退屈なものは、生き残る(サバイブする)』

 

 マットはスマホをロックした。

「やれるか? (Could I?)」

 彼はトンネルの奥を見た。

「たぶんな(Probably)」

 

 少しの間。

「やるべきか? (Should I?)」

 もう少しの間。

「いいや(No)」

 

 その答えは、彼にさらなる安堵感を与えた。

 マットは誰とも競争(レース)をしていない。リーダーボードもなければ、期限もなく、より速い進捗を要求する雇用主もいない。

 彼が探索者になったのは、「国中をドライブし、ダンジョンを探索し、戦利品を見つけ、キャラクターをビルドするのが『楽しそうだったから』」だ。

 

 彼がまだ見たことのないFランクダンジョンは、それこそ何十個もある。

 それをスキップする理由がどこにある? 

 

 マットは立ち上がった。

「俺はせっかくトラックを買ったんだ」

 

 それで決まりだ。

 Eランクのフィルターが消え、Fランクが戻ってきた。

「あいつ(トラック)を使ってやろう」

 

 彼はポータル・スクロールを取り出した。

 鉱山が消え去った。

 

 ◆

 正午少し前、マットはブラックホロウでの最後の戦利品を売却した。

 数個の魔石、いくつかの低価値なクラフト素材、そして一生使わないであろうマジックアイテムが1つ。

 素晴らしいものは何もない。

 

 マットは気にしなかった。

 本当の報酬(ペイアウト)はすでに得ている。

 ビルドが機能することを確信できた。

 そして、「もうブラックホロウに時間を費やす必要はない」ということも。

 

 G-214に戻ると、マットはダンジョン装備を脱ぎ、昼食を作り、再び全米マップを開いた。

 昨日のブックマークはまだ残っている。

 

 エンバーグラス採石場 — F

 火 / 岩石

 

 フロストパインの巣穴 — F

 氷 / 獣

 

 レッドクリーク遺跡 — F

 アンデッド / 遺跡

 

 ホロウ・レイク — F

 水 / 獣

 

 ペンシルベニア州は北にある。

 アカデミーはその方向へ向かった。

 マットが後を追ってはいけない理由はどこにもない。

 イーサンもクロエも気にしないだろう。そもそも彼らが同じダンジョンにいる保証さえない。ペンシルベニアは一つの州(ステート)なのだから。

 

 マットはマーカーの上にカーソルを合わせた。

 そして、それを遠ざけた。

「いや」

 

 彼は考えた。

「さっき別れを告げたばっかりだぞ」

 

 24時間も経たないうちに彼らのルートを後追いするのは、なんだか——

 マットは適切な言葉を探した。

「未練たらしい(ニーディー)」

 

 彼はマップを西へドラッグした。

 オハイオ州。

 

 さらに多くのFランクのマーカーが現れた。

 数時間の距離にあるものもあれば、トレーラーを牽いてほぼ一日がかりになるものもある。

 

 マットはそれらのタブを開き始めた。

 

【アイアンバークの森】

 ランク:F

 テーマ:森 / 構築物(コンストラクト)

 キャンプ施設:基本フックアップのみ

 初心者評価:4.1 / 5

 

 マットはレビューを確認した。

 ★★★☆☆

『ダンジョンは良い。キャンプのシャワーは最悪』

 

 次:

 ★★☆☆☆

『1週間に2回も電源が落ちた』

 

 マットはタブを閉じた。

「却下」

 放浪探索(ダンジョン・ドリフティング)をするために、わざわざ水回りの悪い場所を自ら選ぶ必要はない。

 

 次。

 

【ミラー・クリーク】

 ランク:F

 テーマ:水 / 幻術

 キャンプ施設:フルフックアップ

 初心者評価:4.3 / 5

 

 面白そうだ。

 しかし、マットは説明文を読んだ。

『インスタンスの大部分は、膝丈までの水の中を歩いて進む必要がある』。

 

 彼は自分のブーツを見下ろした。

「却下」

 いつかは行くかもしれない。

 だが、乾いた鉱山で10日間過ごした直後に行く場所ではない。

 

 次。

 

【バーント・ミル(焼けた水車小屋)】

 ランク:F

 テーマ:火 / 構築物

 キャンプ施設:限定的

 初心者評価:3.9 / 5

 

 かつては人気だった初心者向けダンジョン。キャンプ場は狭く、ボス競争が激しく、「メインルートが狭すぎる」という文句のレビューが目立つ。

 マットは閉じた。

 トンネルの中にはもう10日間もいた。

 彼が求めているのは『空間』だ。

 

 次。

 

【アッシュフィールド果樹園】

 場所:オハイオ州

 ランク:F

 推奨レベル:4–10

 テーマ:火 / 植物 / オープンフィールド

 キャンプ施設:フルフックアップ

 初心者評価:4.5 / 5

 

 マットは手を止めた。

「オープンフィールド」

 それだけで魅力的だった。

 公開されている概要によれば、果てしない果樹園の風景を模した巨大な屋外型のインスタンスゾーンで、木々の列、低い石垣、農場風の建造物、広い道、そして『人工の空』があるという。

 

 ブラックホロウには天井があった。

 アッシュフィールドには、どうやら『地平線』があるらしい。

 

 マットは読み進めた。

 

 主なダメージタイプ:物理 / 火

 

 彼の「31%の火耐性」がついに役に立つ時が来た。

 公開されているドロップ傾向には、火関連の素材、植物系素材、物理装備、そして初心者向けスキルジェムの幅広いミックスが含まれていた。

 十分だ。

 

 そしてレビュー。

 

 ★★★★★

『2つ目か3つ目の初心者ダンジョンとして最高。火耐性は必須。開けた地形のおかげで、トラブルが近づいてくるのが見えやすくて助かる』

 

 理想的に思えた。

 次:

 

 ★★★★☆

『美しいダンジョン。キャンプも良い。

 ただ、鳥がウザい』

 

 マットは眉をひそめた。

「鳥?」

 次のレビュー:

 

 ★★★★☆

『遠距離系の敵を警戒する訓練には最適。鳥に気をつけろ』

 

 マットは画面に顔を近づけた。

「なんでみんな鳥の話ばっかりしてるんだ?」

 

 さらにスクロールする。

 

 ★★☆☆☆

『何かにバッグからリンゴを盗まれた。

 追記:あれはリンゴじゃなかった(※マジックアイテムの赤玉等を誤認したと思われる)』

 

 マットは見つめた。

「……参考になるな」

 

 最後のレビューはシンプルにこう書かれていた。

 

 ★★★★★

『羽音が聞こえたら、動け』

 

 マットはスクロールを止めた。

 ネットで調べるのはこのくらいにしておこう。

 

 アッシュフィールドのレベル帯は彼に合っており、純粋に異なる地形と敵の挙動があり、彼の属性防御をテストする機会があり、フルフックアップがあり、距離も数時間しか離れていない。

 

 マットはルートプランナーを開いた。

 ブラックホロウから通常の交通状況で『約4時間15分』。

 旅行気分を味わうには十分な長さ。

 トレーラーを牽引して一日がかりになるほど長くはない。

 

 マットはオハイオに行ったことがなかった。

 それも立派な理由の一つだ。

「オハイオ、ね」

 彼はもう1秒考えた。

「よし、決まりだ」

 

 アッシュフィールド果樹園の探索者キャンプはブラックホロウよりも小規模だったが、フルフックアップ、店舗、魔石買取所、クリニック、フード屋台、シャワー、コインランドリーと、マットが実際に必要とするものはすべて揃っていた。

 ラグジュアリーなものは何もない。

 それで十分だ。

 

 マットはサイトを1ヶ月間予約した。

 

 予約完了

 アッシュフィールド果樹園デルバー・キャンプ

 オハイオ州

 

 小さな興奮が彼の中を駆け抜けた。

 ウェブサイト自体がエキサイティングだったわけではない。それは「美学を憎む人間がデザインした、世の中のすべてのRV予約システム」と同じような退屈な見た目をしていた。

 

 だが、この「確定(コンファメーション)」には意味がある。

 ブラックホロウはあくまで一時的な場所だった。

 今、マットは実際にトレーラーを次のダンジョンへ『移動(ムーブ)』させようとしているのだ。

 

 彼は画面を見つめた。

「ロードトリップの始まりだ」

 

 スマホが振動した。

 ブラックホロウ・グループだ。

 マットはまだ彼らには教えないことにした。

 実際に移動を始めてから教えるつもりだ。

 

 今は、G-214の中を見回すのが先だ。

 トレーラーの室内には、明日「宙を舞ってはいけない物体」が驚くほど大量に存在していた。

 

「よし」

 荷造り(パッキング)だ。

 

 ◆

 ブラックホロウの管理事務所は朝早くから開いていた。

 翌朝、マットは片手にコーヒー、もう片手にスマホのサイト情報を持ち、事務所に到着した。

 

 カウンターの奥の年配の男がG-214の情報を呼び出した。

「ヘイズさんだな」

「俺です」

 彼はマットの到着日とレベルを確認した。

「もう発つのかい?」

「レベル7になったんで」

 

 管理人は驚く様子もなく頷いた。

「次へ? それとも家へ?」

「次へ行きます」

「どこだい?」

「オハイオ」

 

 それには少し興味を惹かれたようだった。

「どこのダンジョンだ?」

「アッシュフィールド果樹園」

 男はくすくす笑った。

「鳥には気をつけるこったな」

 

 マットはじっと彼を見た。

「……あんたもか?」

「なんだい?」

「いや、こっちの話です」

 

 出発手続きは驚くほど平凡だった。ユーティリティ(電気水道)のメーター、出発日、キャンプのアクセス権、サイトの利用許可、宅配の受け取り、オークションのステータス、そしてサービス料の精算がすべて確認され、クローズされた。

 マットは1ヶ月分払ったが、それよりもはるかに短い期間しか滞在しなかった。

 短期契約の規約は、未使用の日数に対する払い戻しには優しくない。

 それでも構わない。

 950ドル(約14万円)のサイト料金は、探索者になるための費用の中で最も安い部類だ。

 

 管理人がレシートを印刷した。

「出発する前に、サイトは完全に空(カラ)にしといてくれよ」

「当然でしょう」

「みんなそう言うんだよ」

 男は顔を上げた。

「あんたが車を出す時に、キャンプ場の備品に何かがくっついたままだと、高くつくからな」

 

 マットは続きを待った。

 明らかに「逸話」がある顔だ。

 管理人はため息をついた。

「水道ホース。電源ケーブル。下水ライン。一番ひどかった奴は、片側のタイヤの下にレベリングブロック(水平調整板)を敷いたまま発進しようとしたぜ」

 

 マットはその物理的な挙動を想像した。

「どうやって?」

「こっちが聞きたかったよ」

「そいつ、何か言い訳は?」

「何も」

 

 マットはレシートを受け取った。

「チェックリストを使いますよ」

 男の表情が明るくなった。

「あんたみたいなお客さんが一番好きだね」

 

 マットはG-214に向かって歩き出した。

 キャンプ場はすでに目を覚ましている。ゲートに向かう探索者たち、トレーニングウェアでジョギングする誰か、朝食トラックの客、そして巨大な盾が荷台に乗るかどうかで言い争っているピックアップトラックの横の二人組。

 

 彼はラスト・フラスコを通り過ぎた。

 そして、ギア&ジェム。

 青いメッシュの店員が、外のディスプレイの鍵を開けているところだった。

 

 彼女はマットの手にある書類に気づいた。

「出発?」

「オハイオへ」

「アッシュフィールド?」

 マットは立ち止まった。

「なんでみんな知ってるんだよ」

 

 彼女は微笑んだ。

「鳥には気をつけてね」

 マットは彼女を指差した。

「頼むからやめてくれ」

 彼女は笑った。

 

 マットはG-214への道を急いだ。

 サイトは昨日とまったく同じように見えた。

 そして、完全に違って見えた。

 初めて、そこが『仮住まい(テンポラリー)』のように見えたのだ。

 

 彼はトレーラーの鍵を開けた。

 荷造りは昨日の午後から始めていたが、マットは朝のために「最終チェックリスト」を残しておいた。

 

 ノートPCと電子機器の固定。食器とバスルームの収納のロック。キャビネットと冷蔵庫のラッチの確認。ロングソードと防具の固定。ライフ・フラスコが「ガラスの投射物」にならない場所への収納。ポータル・スクロールのコンテナ収納。

 

 マットはあるキャビネットを開けた。

 中にはコーヒーマグが一つ、固定されずに転がっていた。

 彼はそれを見つめた。

「こいつが飛んできたら最悪だったな」

 

 彼はそれをしまった。

 そして、前の方からもう一度チェックをやり直した。

 物流の仕事で学んだ重要な教訓がある。

『何かを見落とす一番簡単な方法は、自分がそれをチェックしたはずだと思い込むことだ』

 

 満足いくまで確認を終え、マットは外に出た。

 オーニング(日除け)を巻き取り、電源ケーブルと水道ラインを外して収納し、次に下水接続へと移った。

 

 マットは手袋をはめた。

「これがダンジョン探索で一番魔法っぽくない作業だな」

 誰も答えない。

 よかった。

 観客(オーディエンス)が必要ない経験もあるのだ。

 

 すべての接続を外し、キャップを締め、収納し、水洗いし終えると、マットはスタビライザージャッキ(固定用足)を上げ、トレーラーの周りを歩いてタイヤ、外部収納、窓を確認した。

 

 そして、ヒッチ(牽引接続)だ。

 マットはピックアップに乗り込み、ミラーを覗いた。

 彼はまだこの作業が嫌いだった。

 

 ブラックホロウで最初にトレーラーを停めようとした時は、完全に「公開パフォーマンス(見世物)」になっていた。

 あれから彼は学んだ。

 しかし、まだ十分ではない。

 

 マットはギアをリバース(後進)に入れた。

 ゆっくりと。

 ミラー。

 修正。

 リバース。

 ストップ。

 

 彼は車を降りた。

 4インチ(約10センチ)ずれている。

 

 マットはヒッチを睨んだ。

「惜しい」

 

 トラックに戻る。

 一度修正。

 再びリバース。

 マシになった。

 最後の微調整。

 カプラー(連結器)がヒッチボールの上にガチャンと収まった。

 

 マットは息を吐き出した。

「やっぱりこの作業は嫌いだ」

 だが、到着時の有様に比べれば、3回の挑戦で済んだのは劇的な進歩だ。

 プログレス(前進)。

 

 マットはカプラーをロックし、安全チェーンを交差させてかけ、ブレイクアウェイ・ケーブル(緊急ブレーキワイヤー)と電気コネクタを接続し、ブレーキランプを確認し、車輪止めを外し、最後に出発チェックリストをもう一度頭の中で確認した。

 

 ヒッチロック — 確認よし。

 チェーン固定 — 確認よし。

 ブレイクアウェイ・ケーブル — 確認よし。

 電気系統 — 確認よし。

 ジャッキ収納 — 確認よし。

 車輪止め除去 — 確認よし。

 外部収納ロック — 確認よし。

 ドアロック — 確認よし。

 

 マットは頷いた。

「完璧だ」

 

 近くのサイトから声がした。

「出発かい?」

 マットは振り返った。

 二つ隣のサイトにいる年配の探索者が、マグカップを片手に自分のRVのそばに立っていた。

 彼とはこの11日間で5回ほど言葉を交わしただけだ。大抵はフックアップの設備について、一度は天気について、そしてもう一度は「入り口の階段を格納せずにトレーラーを牽引しようとしたバカな男」についての話。

 

「ああ」

「どこへ?」

「オハイオだ」

 男はまるで、マットがスーパーに買い物に行くとでも聞いたかのように頷いた。

「楽しんでな」

「そのつもりだよ」

「慣れすぎるなよ」

 マットは片眉を上げた。

「何に?」

 

 男は一口飲んだ。

「『移動する』ことにさ。最初の数回は『一大イベント』みたいに感じる。でもしばらくすると、ただの『火曜日の日常』になっちまうんだ」

 

 マットはそのリグ(車両)を見た。

 それが良いことなのか悪いことなのか、彼にはわからなかった。

 おそらく、良いことなのだろう。

 

「忠告どうも」

 男はマグカップを掲げた。

 

 マットはピックアップに乗り込み、パーキングブレーキを解除し、ギアをドライブに入れ、ゆっくりと前進した。

 トレーラーがついてくる。

 ケーブルが引きちぎられる音はしない。

 水道ホースが弾け飛ぶ音もない。

 恐ろしい金属の摩擦音もしない。

 

 マットは微笑んだ。

「成功だ」

 

 彼はG-214から車を出した。

 ミラーの中で、そのサイトはただの『四角い砂利の空き地』へと変わっていった。

 

 11日間。

 G-214が「家」のように感じられ始めるには十分な長さだった。

 そこを離れることにまだ奇妙な寂しさを覚えるには、短すぎる時間だったが。

 

 マットは一度だけ後ろを振り返った。

「悪くなかったよ」

 

 そして、彼は車を進めた。

 

 キャンプ内を抜けるルートは、他の誰もそんな風には扱っていなかったが、マットにとってはどこか「儀式的」なものに感じられた。

 ラスト・フラスコ、ギア&ジェム、魔石換金所、そして最後にゲートの前を通り過ぎる。

 

 入り口の近くには、いかにも真新しい初心者用装備を着た新人探索者たちのグループが立っていた。

 そのうちの一人は、マットの最初の剣とほぼ同じものを握りしめている。

 彼は緊張しているように見えた。

 

 マットはその感覚を覚えていた。

 あの青いゲートが、不可能の象徴のように見えた感覚を。

 今や、ブラックホロウは「普通のモンスターなら一撃で死ぬ場所」だ。

 

 道路脇を歩いていた凹んだ防具の男が、マットに向けて手を挙げた。

 マットはハンドルから指を二本立ててそれに応えた。

 

 やがて、キャンプの建物がまばらになった。

 砂利道が舗装路に変わる。

 警備員の詰め所が近づいてくる。

 彼のキャンプパスが、最後に一度だけ自動で読み取られた。

 遮断機が上がる。

 

 マットはそこを通り抜けた。

 ブラックホロウが彼の背後へと消えていく。

 

 GPSがチャイムを鳴らした。

 

 ルート案内開始:アッシュフィールド果樹園 — オハイオ州

 到着予想時間:4時間15分

 

 マットはミラーを調整した。

 トレーラーは安定している。

 交通量は少ない。

 天気もいい。

 

「よし」

 彼はラジオをつけた。

 そして即座にボリュームを絞った。

 

 ピックアップトラックが幹線道路へと加速し、トレーラーがその後ろで安定した牽引(プル)に入った。

 ウェストバージニアの風景——緑の丘、樹々に覆われた斜面、そしてその間に折りたたまれた長い道路——が窓の外を流れていく。

 

 ブラックホロウへ向かう道のりは、神経過敏な緊張感に支配されていた。どんな振動も「高くつきそう」な音に聞こえた。カーブを曲がるたびに、マットは何かを忘れていないか不安になった。

 

 今日は違う。

 彼はトレーラーが後ろでどう動いているか、停止するためにどれだけ余分な距離が必要か、そして「後ろにいる短気なドライバー」よりも「ミラー」の方がはるかに重要だということを理解していた。

 

 彼はエキスパートではない。

 だが、もう恐怖に震えてはいない。

 

 長い直線の区間で、マットは『完璧な温度』をスロットに入れ、トラベルマグのコーヒーを適温に修正し、一口飲み、それから通常の戦闘セットアップに戻した。

 

 完璧だ。

『完璧な温度』は、彼のアーカイブの中で最強のユニークスキルになることは永遠にないだろう。

 それでも、間違いなく最も高い使用率を誇っている。

 

 道が前へと開けていく。

 仕事を辞めて以来初めて、マットには「個人的に選んだ場所」以外の「行くべき場所」がなかった。

 オフィスも、管理スケジュールも、朝のミーティングもない。誰かが3週間遅れで注文してきたくせに「明日届かないか?」と無茶ぶりしてくる物流の緊急事態もない。

 

 ただ、オハイオがあるだけだ。

 ダンジョン。

 そして、その後に起こるであろう出来事のすべて。

 

 ◆

 マウントされたスマホが振動した。

 マットは休憩所(レストエリア)に着くまでそれを無視した。

 

 トレーラーには大型用の駐車スペースが必要だったが、マットはすぐに見つけた。

 周囲に停まっている車の驚くほど多くが、探索者用の車両(リグ)だった。トレーラー付きのピックアップ、改造バン、武器収納用のデカールが貼られた巨大なクラスAモーターホーム、そして小さなキャンピングトレーラーを牽くボロボロのSUV。

 

 一台の車が、マットの目を釘付けにした。

 高級なピックアップトラック。

 外観は普通の寸法だ。

 後部のドアが開く。

 中から、タオルを持った男が出てきた。

 

 マットはあの動画を思い出した。

『空間拡張ピックアップ』。

 トラックの着ぐるみを着たアパート。

 

 非合理的なことに、マットは一秒間だけ「やっぱり欲しい」と思った。

 そして、その値段を思い出した。

 

「ダメだ」

 

 いつかな。

 たぶんな。

 今は普通のトレーラーで十分に機能している。

 

 マットはスマホを確認した。

 

【ブラックホロウ・グループ】

 **マット:**ブラックホロウを出たよ。

 **イーサン:**やっとか。

 **クロエ:**どこへ? 

 **マット:**オハイオ。

 **イーサン:**臆病者。

 

 マットは見つめた。

 そしてタイプした。

 

 **マット:**オハイオに行くことのどこが臆病なんだよ。

 **イーサン:**わからん。

 **クロエ:**無視して。どこのダンジョン? 

 **マット:**アッシュフィールド果樹園。

 

 少し沈黙があった。

 クロエが先に返信した。

 

 **クロエ:**良い初心者向けダンジョンね。

 

 次にイーサン。

 

 **イーサン:**鳥。

 **マット:**それがどうした。

 **イーサン:**行けばわかる。

 

 マットは画面を見つめた。

「……その言い方、すごく嫌な予感がするな」

 

 クロエがタイプした。

 

 **クロエ:**火耐性がいるわよ。

 **マット:**31%ある。

 **クロエ:**なら大丈夫ね。

 **イーサン:**鳥。

 **クロエ:**いい加減にしなさい。

 

 マットはスマホをしまった。

 トイレを済ませ、トレーラーの周りを歩いてヒッチとタイヤを確認し、サンドイッチを買って外のピクニックテーブルで食べた。

 

 1週間前なら、彼はこれを「無駄な待機時間(ダウンタイム)」だと考えていただろう。

 今では、これが「旅の一部」だと感じられる。

 

 彼は「面白いことが始まるまでの移動部分」を早く終わらせようとしているわけではない。

 この「移動部分」こそが、彼がこのライフスタイルを選んだ理由の一つなのだから。

 

 マットはピックアップトラック、トレーラー、そして駐車場の向こうに続く道路を見た。

「やっぱり、これは最高のアイデアだったな」

 

 彼は静かに笑った。

 数週間前、彼の平日はスプレッドシート、メール、配達時間の調整、倉庫のトラブル、そして「どんなに急いでいようと、2つの物体を同時に同じトラックのスペースに押し込むことは物理的に不可能だ」と顧客に説明することで埋め尽くされていた。

 

 今、彼の家は車のバンパーに繋がっている。

 彼は魔法の果樹園に向かって運転し、剣でモンスターを殴ろうとしている。

 

 ああ。

 間違いなく、こっちの方がずっといい。

 

 マットはピックアップに戻った。

 道は続く。

 場所によっては交通量が増えてきた。

 大型トレーラーが彼を追い越し、その風圧(ウェイク)でマットのトレーラーがわずかに揺れる。

 マットはパニックになることなく、自然にハンドルを修正した。

 

 その後、彼はバックせずに通り抜けられる(プルスルー)十分なスペースがあるガソリンスタンドで給油した。

 マットはそれをスピリチュアルなレベルで深く感謝した。

 

 タンクを満たしている間、彼はアッシュフィールドの予約とルートがまだ有効であることを確認した。

 すべて順調だ。

 

 隣のレーンに別のピックアップトラックが入ってきた。荷台には鞘に収められた2本のポールアーム(長柄武器)と、鍵のついた装備ボックスが積まれていた。

 運転手がマットのトレーラーに気づいた。

 

「ダンジョンかい?」

 マットは頷いた。

「アッシュフィールド」

 男は笑った。

「鳥には気をつけな」

 

 マットは目を閉じた。

「なんでみんなそればっかり言うんだ?」

 見知らぬ男はニヤリとした。

「行けばわかるさ」

 

 男は店の中へ入っていった。

 マットはその背中を見送った。

「そろそろハラスメントの領域に入ってきたな」

 

 彼はトラックに戻った。

 オハイオが近づいている。

 地形は劇的にではなく、徐々に変化していった。山道は緩やかになり、丘の間に広い視界が開け、農地が増えてきた。

 

 GPSがカウントダウンする。

 1時間。

 40分。

 20分。

 

 そして、道路は幅の広い橋に差し掛かった。

 眼下に水面が広がっている。

 オハイオ川だ。

 

 マットは助手席側の窓の外をちらりと見た。

 州境(ステートライン)は、この水の上のどこかにあるはずだ。

 

 ピックアップが橋を登るにつれ、トレーラーが安定してついてくる。

 前方に緑色の道路標識が現れた。

 

『オハイオ州へようこそ』

 

 マットは微笑んだ。

「ウェストバージニア、コンプリートだな」

 そして、考え直した。

 実際には、ウェストバージニアをコンプリートしたわけではない。彼が訪れたことのないダンジョンが州内にまだ何十個もあるはずだし、そもそもブラックホロウは彼にとっての「目的地」というより「出発点」に過ぎなかった。

 

 彼は言い直した。

「よし」

 標識が後ろへ過ぎ去る。

「初めての州越えだ」

 こっちの方がしっくりくる。

 

 GPSが更新された。

 アッシュフィールド果樹園はまだ前方にある。

 

 ブラックホロウは、マットに「もう自分は無力ではない」と思わせるだけのものを教えてくれた。

 オハイオは、それが他の場所でも通用するかどうかをテストする場になる。

 

 違うダンジョン、違うキャンプ、違う敵。

 そして、前衛を張ってくれるイーサンも、ペースをコントロールしてくれるクロエもいない。

 マット、彼のビルド、彼の装備、そして『COPY』だけだ。

 

 それこそが、彼が実際に求めていたテストだった。

「俺は、一人でもこれをやれるのか?」

 

 単に生き残るだけでなく。

 このライフスタイルで生きていけるのか。

 ダンジョンからダンジョンへ移動し、それぞれの仕組みを学び、強くなり、戦利品を見つけ、荷物をまとめ、また車を走らせる。

 

 マウントされたスマホが振動した。

 マットは交通状況が落ち着くまで待ち、ロック画面のプレビューをちらりと見た。

 

 **イーサン:**マジで鳥には気をつけろよ

 

 マットは見つめた。

「……一体あの鳥の何がそんなにヤバいんだよ?」




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裏社会のジョーカー、現代ダンジョンで成り上がる ~世界最大の賭場に人生を賭ける~(作者:パラレル・ゲーマー)(オリジナル現代/冒険・バトル)

 十年前、世界各地に突如としてダンジョンが出現した現代日本。▼ 神崎隼人、二十二歳。▼ 裏社会で《JOKER》と呼ばれる彼は、依頼人に代わって大勝負に挑む凄腕の代打ちギャンブラーだった。▼ すべては、難病《環境魔素不適合症》を患う妹・美咲を救うため。▼ だが三年に及ぶ治療で借金は四億円近くまで膨れ上がり、一晩で一千万円を稼げるようになった今でさえ、仕事も報酬…


総合評価:314/評価:7.67/連載:15話/更新日時:2026年09月16日(水) 17:15 小説情報

冴えない中年平社員、見た技と異能をコピーして企業代理戦で成り上がる(作者:パラレル・ゲーマー)(オリジナル現代/冒険・バトル)

冴えない中年平社員・佐伯直人は、会社で面倒な仕事を押しつけられ、誰からも必要とされない日々を送っていた。▼そんなある夜、立ち寄ったコンビニで、異能を使う強盗事件に遭遇する。▼人質となった店員を助けようとした直人の前に現れたのは、目の前で見た異能や技能をコピーし、保存できる能力――《ライブラリ》。▼強盗が使った《身体能力強化》と《アイテムボックス》、さらに格闘…


総合評価:277/評価:6.46/連載:47話/更新日時:2026年08月14日(金) 22:16 小説情報

自宅に届いた『惑星開発キット』で、社畜SEは異世界工場の管理者になる ―United States Route―(作者:パラレル・ゲーマー)(オリジナル現代/冒険・バトル)

アメリカ西海岸で働く三十代半ばのシステムエンジニア、工藤創一。▼十数年前に日本から渡米し、それなりに充実した生活を送っていた彼のもとへ、ある夜、謎の銀色のキューブが届く。▼それは未知の惑星《テラ・ノヴァ》へ繋がるゲートと、採掘・製錬・発電・自動化・兵器開発を可能にする《惑星開発キット》だった。▼鉄、石炭、銅、石油――地球では国家を揺るがすほどの資源が眠る異星…


総合評価:4396/評価:8.82/連載:25話/更新日時:2026年09月16日(水) 16:38 小説情報


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