ダンジョン・ドリフター ~退職金でキャンピングカーを買ったら、放置していたスキルが『SSSランク:完全複製(コピー)』だった件。最強スキルを拾い集めて全米横断の旅に出る~ 作:パラレル・ゲーマー
午前5時10分。マットのスマホのアラームが鳴り響いた。
それは心地よい目覚めのメロディなどではない。耳障りなデジタル警報音——かつて「午前3時のスプレッドシートの緊急事態」に叩き起こされる必要があった物流コーディネーターのために設計された、あの忌まわしいアラームだ。
マットはC-87サイトの暗いトレーラーの中で目を開けた。
「……これで骨折り損だったら泣くぞ」
スマホを叩いて黙らせ、数秒間、完全に静止したまま横たわっていた。
朝の5時10分。
自発的に。
自営業になるということには、誰も語らない「結果(コンセクエンス)」が伴うらしい。
マットはベッドから転がり出て、キッチンの明かりをつけ、コーヒーメーカーのスイッチを入れた。
今日は普通の「狩り(ファーミング)」の日ではない。
今日は『目標(オブジェクティブ)』がある。
『果樹園の番人(オーチャード・キーパー)』。
コーヒーを淹れる間にプロテインバーの封を切り、ノートPCでアッシュフィールド果樹園の公開インスタンス情報を開いた。
もしマットがアッシュフィールド果樹園での『初パーソナル・クリア』を望むなら、「ボスが生存しているインスタンス」と「先行スタート(ヘッドスタート)」が必要だ。一番乗りしたからといってボスを予約できるわけではないが、他の誰かが戦闘に参加する前に『果樹園の番人』に到達できれば、彼が望む『ソロでのクリア』の可能性が最も高くなる。
ブラックホロウで、彼は「生存中のボス」について一つのことを学んでいた。
競争相手(コンペティション)は、驚くほど早くやってくるということだ。
マットはコーヒーを『完璧な温度』で修正し、シンクの上の小さな窓から外を見た。
アッシュフィールドのキャンプは、琥珀色の街灯の下でまだ大半が暗闇に包まれていたが、すでに動きは始まっていた。軽装の探索者が二人、足早にゲートへ向かって歩いている。さらに三人目が、戦利品用のストレージをほとんど持たない身軽な格好で小走りに通り過ぎていった。
マットは彼らが消えていくのを見ていた。
「……どうやら俺だけが天才ってわけじゃないらしいな」
当然だ。
ボス・ランナー(ボス直行組)たちはすでに目覚めている。
彼はプロテインバーを飲み込み、装備を身につけ始めた。防具、ロングソード、『純粋なる元素』、『元素の指輪』、そしてポータル・スクロール。
昨日のテストで、「リープ・スラムを連続使用すると、53しかないマナがあっという間に燃え尽きる」ことが判明していた。そのため、彼は今まで持ち歩く理由がなかったものを追加した。
『初心者用マナ・フラスコ』。
保護ケースの中で、2本のボトルがエレクトリックブルーに光っている。普通の飲み物とは違い、これは数回に分けて少しずつ(メジャード・プル)消費することができる。
マットはベルトの片側に赤いライフ・フラスコを3本、反対側にマナ・フラスコを2本クリップし、残りのチェックリストを確認した。
剣。よし。
ポータル・スクロール。よし。
ヘビーストライク。よし。
クリーブ。よし。
リープ・スラム。よし。
そして、第4スロット。
マットは一瞬だけ手を止めた。
「対・鳥用兵器(バード・マーダー)」
ブレード・プロジェクション。
よし。
次に『COPY』。
【アクティブコピースロット】
スロット1:不動の歩み — C
スロット2:瞬動 — C
ボスのガイドには「根っこ」の記述があったし、アッシュフィールドといえば「シンダー・クロウ」だ。
『不動の歩み』と『瞬動』は固定でいい。
『過剰筋力』によるSTR +20の追加は魅力的だったが、パッシブを振った今のマットの通常STRはすでに43ある。
「いくらダメージが上がっても、足を固定されて顔面を殴られたら意味がない」
彼はロードアウトをロックした。
昨日の探索が、すでに彼の『COPY』に対する考え方を変えていた。
いい傾向だ。
◆
5時45分、マットはゲートに向かって歩いていた。
この時間帯のアッシュフィールドは、ほとんど平和だった。
ほとんど。
一台のフードトラックが早くから開いており、ブラックコーヒーと朝食用サンドイッチ、そして暴力的なまでにベーコンの匂いがするホイル包みを提供していた。キャンプ場の大半はまだ眠っている。
やがてマットはゲート広場に到達した。
彼は立ち止まった。
「……おお」
端末の近くには、およそ20人ほどの人だかりができていた。
彼らは真昼の普通の客層とは違って見えた。グループの規模は小さく、装備は軽く、流線型の防具を着ている。何人かはストレッチをしており、一人の男は広場の脇の空き地で短距離の移動スキルを何度もテストし、近くの女性はベルトにある3本のマナ・フラスコを確認していた。
彼らは『エンバー(残り火)の樹皮』を採集しに来たわけではない。
リラックスした3時間の「狩り」を計画しているわけでもない。
彼らはボス・ランナーだ。
マットもその集団に加わった。
端末のロックが解除された。
インスタンスのリストが表示される。
インスタンス102 — 42/64 — ボス討伐済
インスタンス103 — 28/64 — ボス討伐済
インスタンス104 — 9/64 — ボス生存
インスタンス105 — 3/64 — ボス生存
マットは即座に一番下の項目に焦点を合わせた。
プレイヤー3人。
ボス生存中。
彼の横では、ゲートに向かって歩いていた二人組の探索者が別の端末を使っていた。
片方が指差す。
「あれだ」
マットは横目でちらりと見た。
全員がそれを見た。
まだ誰のものでもない。
彼はインスタンス105を選択した。
インスタンス105に進入しますか?
探索者:3/64
ボス:生存
[ YES ]
マットは確定(コンファーム)した。
彼の周囲で、何人かの人間がほぼ同時に動き出した。
彼がゲートに向き直る。
二人組が彼の横でジョギングを始めた。
別のソロ・ランナーが後ろから加速してくる。
二人組の片方がマットに向かってニヤリと笑った。
「中央で会おうぜ」
マットは走り続けた。
「会わないことを祈るよ」
男は笑った。
彼らは数秒の差でゲートに突入した。
青い光がすべてを飲み込む。
◆
マットのブーツの下に、土の感触が現れた。
暖かい空気。
乾いた草。
永遠に続くオレンジと紫のアッシュフィールドの空。
現実のオハイオでは、まだ日の出すら始まっていない。
ダンジョンの中では、永遠の夕暮れだ。
「……やっぱり奇妙な気分だ」
マットは立ち止まらなかった。
彼のARインターフェースが現在地を確定する。『果樹園の番人』の闘技場(アリーナ)は、インスタンスのほぼ中央に位置している。壁、果樹の列、小川、農家風の建物の正確な配置は昨日とは違っていたが、目的はシンプルだ。
中央(センター)へ。
マットはロングソードを抜き、ジョギングを始めた。
草がガサガサと鳴る。
アッシュ・ラビットが道に飛び出し、攻撃の姿勢をとった。
ブラックホロウでの初日以来、彼のデフォルトの論理は自動化されていた。
モンスターは『XP』だ。
『戦利品』だ。
殺せ。
マットは減速した。
そして、自分がなぜここにいるのかを思い出した。
今は「狩り(ファーミング)」じゃない。
「ボス」だ。
彼はソロだ。後ろにいて「ルートを片付けてほしい」と頼んでくるパーティーメンバーはいない。たった1匹のウサギの不確かなドロップ品のために、レースでのポジションを譲る価値はない。
マットはウサギを見た。
「なんで俺はお前と戦おうとしてるんだ?」
マナが動く。
リープ・スラム。
マットはウサギの頭上を跳躍した。
彼が通り過ぎた後の空の空間に向かってクリーチャーが噛みつく中、マットはさらに先の道へ着地し、即座にジョギングを再開した。
彼は振り返らなかった。
ゆっくりと、笑みが浮かんでくる。
「なんか『間違ってる』感じがするな」
次の一歩。
「でも、効率的だ」
100ヤード(約90メートル)ほど進むと、トゲのある植物の分厚い茂みがメインルートを塞いでいた。その中からブライアー・ハスクが姿を現す。
マットはそのクリーチャーの『向こう側』を見た。
障害物の先には開けた道がある。
リープ・スラム。
彼はモンスターと障害物をまとめて飛び越えた。
その瞬間、彼の頭の中で「ルート構築」の概念が変わり始めた。
さらに続く長い直線。
リープ・スラム。
低い石垣の後ろで4匹のアッシュ・ラビットが休んでいる。
リープ・スラム。
石垣が彼のブーツの下を通過し、ウサギたちは彼の背後で散り散りになった。
マットは動き続けた。
何年も前。モニターの前に座りながら、彼は高レベルのARPGプレイヤーたちがこうやってマップを横断していくのを見たことがあった。
テレポート。
ダッシュ。
跳躍(リープ)。
突進(チャージ)。
移動スキルから移動スキルへ。まるで「自らの足で歩くこと」そのものが倒すべき敵であるかのように。
マットは常に、それが「なんだか馬鹿げて見える」と思っていた。
またしても不必要なランニング区間が目の前に広がる。
リープ・スラム。
一瞬だけ世界が下に落ちる。
彼は中央に向かって劇的に距離を縮めて着地した。
「なるほど」
マットは再び走り出す。
「あのゲームの連中も、完全に間違ってたわけじゃないな」
見た目は相変わらず馬鹿げている。
だが、だからといってそれが「遅い」わけではない。
左側の並行する果樹の列の向こうで、動きの気配がした。
別のボス・ランナー。
広場にいたあのソロの探索者だ。
男は高速の「ダッシュ」系のスキルを使っており、全力疾走と超常的な急加速のバーストを交互に繰り返すたびに、足元で青いマナが閃いていた。
マットは彼を横目で見ながら走った。
「間違いなく、俺だけが天才ってわけじゃないな」
頭上で耳障りな鳴き声がした。
マットが一瞬だけ見上げると、シンダー・クロウがくちばしに火を形成しているところだった。
昨日なら、彼はそれを殺していただろう。
今日は?
ノーだ。
火の玉が飛んでくる。
マットはリープ・スラムを起動し、前方に跳躍した。
攻撃は彼の背後の土を叩いた。
「今日は付き合ってられない」
彼は着地し、即座にもう一度跳躍しようとした。
何も起きなかった。
足が曲がる。
マナの反応が鈍い。
発動しない。
マットはよろけ、ただのジョギングに戻った。
「……そうだった」
彼はリソースバーを確認した。
マナ:7 / 53。
地形をスキップすることに快感を覚えすぎて、コストをまったく見ていなかったのだ。
移動スキルの連続発動は、彼がすでに知っていた通りの結果をもたらした。
マナの枯渇。
彼の足は元気だ。物理的に走ることはまだできる。
しかし、彼のスキルツールキットの大部分もまた、作動するためにマナを要求するのだ。
彼の背後で青い閃光が走った。
ダッシュ・ランナーが木々の間を抜けて飛び出してきた。
彼は普通にジョギングしているマットを見つけた。
「おっはよー!」
男は残像を残して通り過ぎていった。
マットはその後ろ姿を見つめた。
「……ムカつく奴」
彼はマナ・フラスコを外し、計算された量をゴクリと飲んだ。
その液体は、「柑橘系のスポーツドリンクに電池を溶かした」ような味がした。
マットは顔をしかめた。
「死ぬほどマズいな」
ジョギングを続けるうちに、冷たくピリピリとした圧力が胸の中に広がり、マナが戻り始めた。
一瞬で全回復するわけではない。
しかし、十分だ。
マットはボトルのキャップを閉めた。
まだたっぷり残っている。
「飲む価値はある」
彼はマナが安全なラインまで回復するのを待ち、再びリープ・スラムを起動した。
ダッシュ・ランナーは依然として前方にいる。
道が古い木立を避けるように大きくカーブしていた。
もう一人の探索者は、その道に沿って走っていった。
マットはARを確認した。
ボス部屋のある中央の方向はカーブしていない。
彼はカーブの内側を見た。
鬱蒼とした茂み。
木製の柵。
その向こうには開けた地面。
マットは道を外れた。
リープ・スラムが彼を柵の向こうへ運ぶ。
浅い小川が果樹園を横切っている。
もう一回の跳躍でそれを越える。
さらに2つ目の茂みの帯を飛び越え、彼はカーブの反対側へと飛び出した。
数秒後、ダッシュ・ランナーが道を回って現れた。
マットの方が前に出ていた。
男はマットを見るために、ダッシュを一瞬止めた。
「おい、マジかよ!」
マットはニヤリとした。
「おっはよー!」
そして、再び跳躍した。
◆
果樹園の景色が徐々に変わり始めた。
整然とした列が乱れ始める。木々はより古く、太く、ねじ曲がっている。地面のあちこちに焼け焦げた痕跡が見られた。
マットの前方から、何かの音が聞こえ始めた。
木だ。
巨大な木材が、圧力できしむ音。
ボスのマーカーが近い。
マットは減速した。
疲れたからではない。
彼がバカではないからだ。
マナは再び枯渇しかかっていた。レースに勝って一番乗りしたところで、マナが空っぽの状態でボス・アリーナに突入するのは本末転倒だ。
マットは太い木の陰に入り、自分の状態を確認した。
ライフは満タン。
マナは低下。
1本目のマナ・フラスコは半分消費。
2本目は未使用。
彼は1本目を飲み干し、2本目から少しだけ口に含み、リソースプールが回復するのを待った。
足音はまだ遠い。
十分間に合う。
マットは3本のライフ・フラスコ、残りのマナ・フラスコ、ポータル・スクロール、剣、スキルジェム、そして『COPY』のロードアウトを再確認した。
マナが全回復した。
彼はボトルを固定した。
「ボスの前でマナ切れで棒立ちになるのだけは勘弁だからな」
マットはゆっくりと一呼吸おいた。
「行くぞ」
◆
木々の列が途切れた。
マットは、すべてが焼け焦げた広大な円形の空き地へと足を踏み入れた。
草はない。
生きている果樹もない。
ひび割れた黒い土と、古い木製の境界柵があるだけだ。
その中央に、『果樹園の番人(オーチャード・キーパー)』が立っていた。
身長10フィート(約3メートル)近いそのボスは、焼け焦げた木材、藁、鎖、そして太い黒い蔓で作られた「怪物のようなカカシ」に見えた。
頭部は空洞になった木の切り株で、顔があるべき場所の奥深くで炎が燃え盛っている。
ボスは、長く錆びた大鎌(サイス)を持っていた。
その刃の部分だけで、マットの上半身を丸ごと切断できそうなほど巨大だ。
彼のインターフェースが反応した。
【果樹園の番人(オーチャード・キーパー)】
アッシュフィールド果樹園 — インスタンスボス
**ライフ:**100%
マットは空き地を見渡した。
他の探索者はいない。
まだ。
「一番乗りだ」
オーチャード・キーパーの燃える頭部が彼の方へ回転した。
炎が明るさを増す。
大鎌が振り上げられた。
マットは走り出した。
待つ理由はない。
ボスは武器を水平に、巨大な弧を描いて薙ぎ払った。
わかりやすい。
マットはその下に潜り込み、相手の硬直時間(リカバリーウィンドウ)に踏み込み、ヘビーストライクを起動した。
『ドガァン!』
木が砕ける。
オーチャード・キーパーが後ろによろめいた。
そのライフが90%台前半まで落ちる。
一撃で。
「よし」
キーパーは体勢を立て直し、武器の柄の底を地面に叩きつけた。
マットはブーツの下の土が動くのを感じた。
「根っこか」
『不動の歩み』。
太い黒い蔓が噴出し、彼の足首に絡みつき、強く引っ張った。
彼のブーツは焦げた土の上を数インチ削ったが、『不動の歩み』は彼を直立状態に保った。
オーチャード・キーパーは明らかに、この根の攻撃が隙(オープニング)を作ると予想していた。
大鎌が残忍な頭上からの叩きつけの軌道で振り下ろされる。
マットは刃が迫ってくるのを見ていた。
根はまだ彼を掴んでいる。
彼は『不動の歩み』を解除し、リープ・スラムを起動した。
蔓が再び締め付ける前に、跳躍の運動エネルギーが彼を引き剥がした。
マットはボスの肩越しを飛び越えた。
大鎌は、彼の背後の土を粉砕した。
彼は着地し、振り返り、キーパーの背中にもう一発ヘビーストライクを叩き込んだ。
『ドガァン!』
反撃が来る前に、マットは距離を取った。
「だから装備を整えてきたんだよ」
『不動の歩み』が根のギミックにコントロールされるのを防ぐ。
『リープ・スラム』が追撃が来る前に彼を脱出させる。
キーパーが咆哮した。
燃えている丸太の山が一気に崩れ落ちたような音だった。
一本の木製の手が、自身の胸の炎の中に突っ込まれ、拳大の火の玉を3つ引きずり出した。
マットはガイドの記述を思い出した。
「エンバー・トス(残り火投げ)」
ボスがそれを投擲した。
マットは左にシフトし、最初の2発を何もない地面に着弾させた。
3発目が彼の肩をかすめる。
『エレメンタル・シールド』が彼の周囲でフラッシュした。
ライフ:137 → 125
12ライフ。
意識はする。
だが制御下(コントロール)だ。
『アリーナの達人』が即座に回復を始める。
ボスが前進してくる。
マットは剣を構えた。
オーチャード・キーパーは危険だ。
言うまでもない。
あの大鎌は飾りではない。
棒立ちでダメージ交換(トレード)をするのは最悪のアイデアだ。
しかし、このボスは『読みやすい(リーダブル)』。
マットはパターンに入った。巨大な大鎌を回避し、硬直をヘビーストライクで咎め、根にはアンカーで耐え、追撃の前に位置を変え、エンバー・トスを避けて再び間合いを詰める。
ボスのバーが着実に減っていく。
75%
オーチャード・キーパーが突然動きを止めた。
大鎌を地面に突き立て、両腕を広げる。
頭蓋と胸の中の炎が燃え上がった。
闘技場の外側の木々が揺れる。
マットは、予想していたその音を聞いた。
『カーッ』
そしてもう一つ。
『カーッ』
「当然来るよな」
3匹のシンダー・クロウが樹冠(キャノピー)から飛び出してきた。
頭上を旋回する。
マットは即座にロングソードを掲げた。
ブレード・プロジェクション。
半透明の刃が上空へ射出される。
1匹目のカラスが消滅。
2匹目が鋭く旋回(バンク)し、マットの2発目の投射を外させ、急降下に入った。
『瞬動』。
鳥の軌道がマットの知覚の中で鋭利になる。
彼がコミットするまで待つ。
通常スイングを一振り。
灰。
3匹目。
ブレード・プロジェクション。
命中。
消滅。
10秒もかからなかった。
マットは空っぽの空を短く見つめた。
「昨日なら、これだけで永遠に時間がかかってたな」
オーチャード・キーパーは礼儀正しく待ってはくれなかった。
その大鎌はすでに動いている。
マットは弧の外側へと後方へ跳んだ。
仕事に戻る時間だ。
◆
ボスのライフは60%台を抜け、順調に半分へと向かっていった。
マットは『オールド・フォアマン』の時よりもはるかに速いペースでマナを消費していたが、今回はそれを計画に組み込んでいる。
リソースバーが無視できないレベルまで低下した時、キーパーが巨大な水平薙ぎ払い(リーピング・スイング)の予備動作を見せた。
マットは単にその射程外へと後退した。
刃が通り過ぎる。
ボスが体勢を立て直す時間が必要になる。
マットは残りのマナ・フラスコを外し、素早く一口飲んだ。
バーが満タンになるまでは待たない。
「十分な量」でいい。
それから、彼は再び間合いに入った。
「こいつがライフ・フラスコの横で売られてる理由がよくわかったよ」
ボスが50%に到達した。
炎がうねる。
さらなる鳴き声。
再び3匹のシンダー・クロウ。
今回、キーパーは動きを止めなかった。
「フリーフェーズ(無防備状態)はなしか」
いい情報だ。
ボスが『エンバー・トス』を投げつけると同時に、1匹のカラスが上空から攻撃を仕掛けてきた。
マットはアリーナの端にある黒焦げの切り株の後ろへ移動した。その木が火の玉を1つ防いでくれ、最も近いカラスへの一瞬の射線(アングル)を提供した。
ブレード・プロジェクション。
1匹ダウン。
もう1匹が頭上を横切る。
マットは撃った。
外れ。
オーチャード・キーパーが切り株を回り込んで迫ってくる。
マットは鳥を放棄し、目の前の問題に対処した。
大鎌。
移動。
カラスの火の玉が彼の脚に直撃する。
ライフがわずかに落ちる。
自動回復(リジェネ)が働き始める。
2匹目の鳥が急降下(スウープ)に入る。
『瞬動』。
マットはそのダイブを捉え、基本攻撃で切り捨てた。
最後のカラスは高高度を保ったまま、ボスが次のエンバー・トスを放つ。
マットは2つの火の玉を避けた。
1つが脇腹をかすめる。
彼のライフが110台に落ちた。
まだ制御下だ。
彼は距離を作った。
ブレード・プロジェクション。
最後のカラスが消滅した。
マットはキーパーを見た。
「お前の番だ」
リープ・スラムが、彼をボスの武器側の横を通り抜けさせた。
彼はその背後に着地した。
ヘビーストライク。
『ドガァン!』
ボスがよろめく。
マットは微笑んだ。
「こいつ、すごくいいな」
『一つのものを非常に強く殴る』ことだけを目的として存在するスキルには、何か深く満足させるものがあった。
◆
40%を下回ると、オーチャード・キーパーは加速した。
劇的ではない。
だが、十分だ。
硬直時間が短くなり、大鎌のコンビネーションが先ほどより悠長ではなくなった。
マットは適応した。
『瞬動』はいつでも使える状態だが、タイミングがどうしても追加の「敏捷性」を要求する瞬間にだけトグルをオンにした。
ボスが新たなシークエンスを始める。
大振り。
マットは動く。
根。
不動の歩み。
攻撃。
それから、キーパーは上段へフェイント(牽制)をかけた。
マットは踏み込むのが早すぎた。
大鎌が逆転する。
彼はミスに気づいた。
遅すぎた。
『バキィッ!!』
武器がマットの胸を真っ直ぐに叩き据えた。
超常的な『ライフ』の保護が、実際の肉体の負傷を防ぐ。
だが、物理的な衝撃そのものが消え去るわけではない。
マットは後方へ吹き飛び、地面に叩きつけられ、転がり、頭上でオレンジ色の空が回転するのを見ながらようやく止まった。
UIがダメージを記録する。
ライフ:98 / 137
マットは見つめた。
「……これは痛い」
約40ライフ。
一撃で。
メッセージとしては十分すぎる。
マットは即座に起き上がり、ライフ・フラスコを抜いた。
フラスコと『アリーナの達人』が同時に働き、温かさが体中に広がる。
キーパーが近づいてくる。
マットは満タンになるまで待たなかった。
彼は動いた。
大鎌が何もない地面を叩く。
「よし」
マットはスタンスをリセットした。
「ボスをリスペクト(尊重)しろ」
一度のタイミング判断のミスが罰せられた。
修正完了。
◆
25%の時、果樹園が揺れた。
複数の方向から羽音が聞こえた。
マットは見上げる。
4匹のシンダー・クロウ。
「イーサンの言った通りだったな」
火の玉が一つ落ちてくる。
マットは移動した。
「あいつには絶対教えてやらないけどな」
ブレード・プロジェクションが最初のカラスを消し去る。
2匹目が横へ移動する間にオーチャード・キーパーが攻撃を仕掛けてきて、マットは次の射撃の前に大鎌への対応を優先せざるを得なかった。
2匹目ダウン。
残りのペアは高度を下げ、ボスの近くで旋回を始め、複合的な炎の一斉射撃の準備に入った。
マットは片方に狙いを定めかけた。
そして、やめた。
鳥が2匹。
ボス。
同じ空間。
回答(アンサー)が違う。
クリーブ。
赤い弧が外側に向かって爆発した。
それはオーチャード・キーパーの胴体を横切る。
低空を飛んでいた2匹のカラスも一緒に消滅した。
ボスもライフを減らした。
マットは瞬きした。
「おお」
彼は位置を調整した。
「こいつは便利だ」
ルークはクリーブを『範囲処理(エリア・クリア)スキル』と呼んでいた。
役割(ロール)は優先順位であって。
牢獄(プリズン)ではない。
もし3つの有効なターゲットがたまたま同じ弧の中にいるなら、戦場はマットのスプレッドシートがそのスキルをどのカテゴリーに分類しているかなんて気にしないのだ。
ボスのライフが10%台前半に落ちた。
闘技場は再び静かになった。
カラスはいない。
他の取り巻きもいない。
マットとオーチャード・キーパーだけだ。
その時、マットは速い足音を聞いた。
彼は入り口の方をちらりと見た。
ダッシュ・ランナーが木々の間に姿を現した。
さらにその後ろから、端末にいた二人組がやってくる。
まだ攻撃範囲には入っていない。
だが、彼らはここ(ヒア)にいる。
マットの視線がボスに戻る。
もし彼らが戦闘に到達し、一撃でも加えれば、このクリアは『ソロ』ではなくなる。
公平なルールだ。
そして同時に、ひどく不都合(インコンビニエント)でもある。
ダッシュ・ランナーがボスのバーを見た。
「おい、マジかよ!」
マットは思わず笑いそうになった。
「悪いな!」
オーチャード・キーパーが、最後の一掃のために大鎌を振り上げた。
マットには、もう一つのシークエンスをこなすだけのマナが残っている。
彼は待った。
ボスが攻撃にコミットした。
リープ・スラム。
マットは薙ぎ払われる武器の上を飛び越え、キーパーの背後に着地した。
ダッシュ・ランナーが空き地に入り込む。
まだ遠い。
まだ届かない。
マットはロングソードを両手で握りしめた。
ターゲットは一つ。
回答(アンサー)も一つ。
ヘビーストライク。
『ドガァン!!』
刃が焼け焦げた木枠に食い込む。
燃え盛るコアを真っ直ぐに貫く。
オーチャード・キーパーの内部の炎が亀裂を生じた。
オレンジ色の光がその胸を割ってあふれ出す。
巨大なカカシ全体が凍りついた。
そして、黒い木材、鎖、燃える藁、そして最後には灰となって崩れ落ちた。
システムチャイムが鳴った。
【果樹園の番人を討伐しました】
2つ目の通知が続く。
【レベルアップ】
マシュー・ヘイズがレベル8に到達しました。
そして、もう一つ。
【ダンジョンクリア記録】
アッシュフィールド果樹園 — Fランク
『初パーソナル・クリア達成』
そして、インターフェースの端に小さな変化が一つ。
パッシブポイント:0 → 1
マットはロングソードを下ろし、息を吐き出した。
「……最高だ」
その満足感は、レベルアップの通知よりも重く響いた。
彼がビルドに加えた変更は機能し、それを見事に『ソロクリア』へと変換してみせた。
完璧だったわけではない。
ライフバーから欠け落ちたチャンクが、それを明確に証明している。
しかし、成功した。
十分にクリーンな形で。
ダッシュ・ランナーは数ヤード先で歩みまで減速し、ボスの灰とマットを交互に見た。
「クソッ」
その数秒後、二人組も彼らの後ろに到着した。
マットは片手を挙げた。
「悪いな」
ダッシュ・ランナーはそれを手で制した。
「あんたの勝ちだ」
彼の目がボスの残骸へと動く。
「触れる距離まで近づけもしなかったよ」
二人組の片方がマットを見た。
「ソロか?」
「ああ」
「見事なクリアだ」
敵意(ホスティリティ)はない。
文句(コンプレイント)もない。
彼らはレースをした。
今回はマットが勝った。
明日は他の誰かが勝つかもしれない。
ダッシュ・ランナーがため息をついた。
「さてと、また別の生存インスタンスでも探すとするか」
それから、彼はボスの残骸に集まりつつある青い光をちらりと見た。
「もし『白(ノーマル装備)』の山が出たら、あんた全部持って帰るのか?」
マットは眉をひそめた。
「たぶんな」
「クラフト(製作)か?」
マットは間を置いた。
「それが現在の俺のセオリーだ」
男は笑った。
馬鹿にするような笑いではない。
「知っている者」の笑いだ。
「楽しんでな」
マットは目を細めた。
「なんか脅迫に聞こえたんだが」
「そんなつもりはねえよ」
ランナーは他の二人と一緒にゲートへのルートの方へ向き直った。
そして、立ち止まった。
「大体においては、な(モーストリー)」
彼らは木々の間へと消えていった。
マットは彼らの後姿を見つめた。
「全然安心できないぞ」
その時、オーチャード・キーパーの残骸の中の光が脈動した。
マットの意識が即座に引き戻される。
戦利品(ルート)だ。
◆
まず魔石が現れた。
1つではない。
3つでもない。
山ほどだ。
高密度の青い石がボスの灰を突き抜けて溢れ出し、焼け焦げた地面に散らばった。
マットのARコンタクトが、その市場価値の推定を開始する。
数字が上がる。
さらに上がる。
そして、安定した。
推定総魔石市場価値:≈ $3,000
マットは見つめた。
「おお」
彼はもう一度確認した。
まだそこにある。
「……おお」
魔石だけで3,000ドル(約45万円)。
そして、他の誰も参加していないため——
すべて彼のものである。
マットは、他のボス・ランナーたちが消えていった方向を見た。
「みんなが朝の5時に起きる理由がよくわかったよ」
マナ・フラスコを燃やし、無関係なモンスターを無視し、中央へ競争(レース)する。
一回のボス戦は、レアアイテムが出なくても極めて割のいい仕事になるのだ。
システムの光が再び脈動した。
装備が現れ始める。
剣。
斧。
盾、ヘルメット、ブーツ、手袋、胸当て。
さらに武器と防具が続き、マットは「整理整頓されていない中世のスポーツ用品店の在庫」のような山に囲まれて立っていた。
彼はゆっくりと周囲を見回した。
「……多すぎるだろ」
彼のARコンタクトが一番近い武器を識別した。
鉄のロングソード
レアリティ:ノーマル(白)
近くのものをスキャンする。
補強されたバックラー
レアリティ:ノーマル
革の手袋
レアリティ:ノーマル
マットはさらにいくつかスキャンした。
すべて『白』だ。
ユニークの輝きはない。
レアもない。
マジック装備すらない。
ただの無地の装備(プレーンギア)。
それが山のように。
マットは辺りを見回した。
「俺はボスを殺したのか? それともスポーツ用品店を強盗したのか?」
これまでは、ノーマル装備は基本的に『店売り用(ベンダーフォダー)』として扱ってきた。もし今すぐ身につけたいものがあるなら、何も補正のない無地の装備は特に魅力的ではない。
その時、ボスの残骸が3度目のフラッシュを放った。
装備の隙間に、より小さな物体が散らばった。ギザギザのクリスタルの破片、滑らかな金属の球体、ルーンが刻まれた平らなトークン(硬貨)、いくつかの半透明の素材。
さらに続く。
もっとたくさん。
マットはしゃがみ込んだ。
ARコンタクトがその一つに焦点を合わせる。
アイテム・カテゴリー:クラフト通貨(カレンシー)
別のもの。
同じカテゴリー。
異なる物体。
数種類ある。
ただ見つめているだけでは、それがどう機能するのか絶対に教えてくれないレベルの種類だ。
マットはルーンが刻まれたトークンを手に取った。
説明文には見慣れない用語がいくつか並んでいる。
彼はそのほとんどを読み飛ばした。
重要な部分はシンプルだ。
『装備のクラフト(製作)に使用される』
マットは動きを止めた。
彼の目が通貨から、ブーツの横にあるノーマルのロングソードへ、そして一切手が加えられていない装備の山へと動いた。
彼の昔のゲーマーとしての本能が目を覚ます。
「……なるほどな」
マットは『鉄のロングソード』を手に取った。
ノーマル。
追加効果(アフィックス)なし。
特殊なモディファイアなし。
クリーン(白紙)だ。
彼はもう一度周囲を見回した。
「これは『ベース(土台)』なんだ」
ノーマルアイテムは、必ずしも『価値のない完成品』ではない。
それは『出発点』になり得るのだ。
もちろん、どの特定のピースが良い出発点になるかは別の問題だ。
マットは2本のノーマルの剣を比較した。
ベース名が違う。
装備要件が違う。
ARコンタクトを通して表示される『アイテムレベル』が違う。
つまり、「白いアイテム」でさえ互換性があるわけではないのだ。
そしてマットは、どのアイテムにクラフト通貨を使う価値があるのか、『まったく見当もつかない』状態だった。
それは、正しい決断がただ一つしかないことを意味する。
彼は慎重に剣を地面に戻した。
「ダメだ」
それから通貨を拾い上げた。
「まずはリサーチだ」
彼は「よくわからないリソースを盲目的に消費しないこと」を学んでいた。
ダンジョンシステムは、『無知』を『損失』に変換することに関して驚くほど優秀なのだ。
ゲーマーとしての本能が「その剣にその光る石を使ってみろ」と囁いたからといって、マットがホイホイとクラフト通貨を燃やし始めるわけがない。
◆
次に、あまり華やかではない問題がやってきた。
これを全部持ち帰らなければならない。
マットはコンパクトで高価なアイテムから始めた。魔石はクッション付きのポーチと補強された戦利品バッグへ。クラフト通貨は、後で焦げた草の隙間から奇妙な小さなオーブを探し回る羽目にならないよう、別の安全なコンパートメントへ。
装備は別の問題だ。
剣。
防具。
ブーツ。
手袋。
盾。
すべて物理的な質量がある。
すべてかさばる。
マットは腕いっぱいに抱え上げ、即座に「ゲートまでの帰り道」を想像した。
「……絶対無理」
彼は『COPY』を開いた。
ボスは死んだ。
『瞬動』は仕事を終えた。
マットはそれを入れ替えた。
【COPY ロードアウト変更】
瞬動 — C → アーカイブへ
荷重軽減 — E → アクティブへ
彼は『荷重軽減』を起動し、再び同じ束を持ち上げた。
違いは即座にわかった。
防具は依然として同じだけの空間を占有している。
剣の形がいびつなのも変わらない。
しかし、実効重量(エフェクティブ・ウェイト)が劇的に低下した。
マットは微笑んだ。
「お前を待ってたんだ」
『荷重軽減』は重量(ウェイト)の問題を解決した。
しかし、体積(ボリューム)の問題は解決しない。
依然としてストラップが必要であり、頑丈な戦利品バッグが必要であり、歩いている最中に剣が脚に刺さらないよう、武器を配置する数分間の作業が必要だった。
マットは束ねながら各アイテムをスキャンした。
ベース名が違う。
アイテムレベルが違う。
要件が違う。
彼は、価値のある『クラフトベース』と平凡なものを区別できるだけの知識を持っていなかった。
したがって、現在の分類方針(ソート・ポリシー)は極めて洗練されたものになった。
「キープ(保留)」
「キープ」
「これもキープ」
「リサーチが終わるまで絶対にキープ」
マットは別のロングソードに手を伸ばした。
「お前もだ」
やがて、ボスの残骸の周囲の地面は空っぽになった。
マットは、パンパンになった戦利品バッグ、装備を束ねた山、そして不格好だが安全に縛られた追加のピースの束を持って立っていた。
『荷重軽減』のおかげで重さはどうにかなる。
残りは単に「不便」なだけだ。
マットは最後のストラップを締めた。
「俺はトレーラーを買ったんだ」
彼は束を肩に担ぎ上げた。
「せっかくだから活用しないとな」
出発する前に、彼は本当に重要な二つの通知を確認した。
レベル:8
パッシブポイント:1
それからダンジョン記録。
アッシュフィールド果樹園 — 初クリア完了
マットは微笑んだ。
レベル8は素晴らしい。
初クリアも素晴らしい。
約3,000ドル(約45万円)の魔石の収穫は非常に素晴らしい。
しかし、あに見慣れないクラフト通貨は?
あれは新しい。
だからこそ、面白い。
マットはポータル・スクロールを引き抜いた。
アッシュフィールドの永遠の夕暮れが消え去った。
◆
現実のオハイオの朝がそれに置き換わった。
マットはゲートから太陽の光の中へ足を踏み出した。
太陽はまだ低く、キャンプ場の道路はようやく人で埋まり始めたばかりだ。
彼は永遠の夕方に足を踏み入れ。
ボスを殺し。
朝食の時間に帰還した。
マットは現実の空を見上げた。
「……やっぱり頭がバグるな」
彼はかさばる装備の束を調整し(『荷重軽減』がまだ大部分の仕事をしてくれている)、魔石換金所へと向かった。
店員はマットを見た。
それから、武器と防具の山を見た。
それから、マットが安全ポーチから出し始めた青い石の量を見た。
「キーパー(ボス)ランか?」
「ああ」
「ソロで?」
「ああ」
店員は彼に短く「承認(アプルーバル)」の視線を送った。
ドラマチックなものではない。
新しめの探索者にしては印象的だ。
だが、前代未聞というわけでもない。
魔石が査定プラットフォームに載せられた。
魔石売却
総売却額:$3,000
必須戦利品税:-$150
純支払額:$2,850
お金が振り込まれる。
マットは残高の通知を見た。
「俺、朝の時間が好きになってきたよ」
店員が白い装備品をちらりと見た。
「それも売るのか?」
「いいや」
即答だった。
店員は片眉を上げた。
「クラフト(製作)か?」
マットは装備を見下ろした。
「……それが現在の俺のセオリーだ」
「幸運を」
マットは彼をじっと見た。
「また出たよ」
「何がだ?」
「みんな、『クラフト』が俺個人に危害を加えにくるみたいな言い方をする」
店員は微笑んだ。
「そんなこと言ってないだろ」
「そういうニュアンス(含み)だったぞ」
マットは装備をまとめ、店を出た。
◆
すべてをC-87の中に運び込む作業は、ダンジョンから持ち出す時よりもドラマに欠けていた。
それでも鬱陶しいことには変わりない。
『荷重軽減』は、マットが「物理的な物体をキャンピングトレーラーの狭いドアから無理やり通さなければならない瞬間」までは重量問題を解決してくれた。
彼はまず戦利品バッグを運び込んだ。
次に武器の束。
次に防具。
それから残り。
作業が終わる頃には、剣、斧、盾、防具、ヘルメット、ブーツ、手袋が床の大部分を覆い尽くし、トレーラーが目に見えて狭く感じられた。
マットは狭い通路に立ち。
下を見下ろした。
「……俺、体積(ボリューム)ってものを過小評価してたかもな」
開いたドアの枠を誰かが軽くノックした。
マットは外を見た。
C-88の隣人がいつもの芝生用チェアに座っていた。ビールが朝のコーヒーに変わっている以外はいつも通りだ。
「引っ越しでもするのか?」
マットは装備の山を見た。
「どうやらそうらしい」
男はマグカップを掲げ、読んでいる何かに視線を戻した。
マットはドアを閉めた。
それから、その惨状を見つめた。
混ざり合った装備のランダムな山が、彼の居住スペースを埋め尽くしている。
マットがそれに耐えられたのは約30秒だった。
「無理」
彼はノートPCを開いた。
物流業界での数年間は、彼に傷跡を残していた。
そのうちの一つが、「整理されていない在庫(インベントリ)を許容できない病的なまでの無能さ」である。
新しいスプレッドシート。
【ボス・クラフトベース — アッシュフィールド】
アイテムタイプ|ベース名|アイテムレベル|要求ステータス|レアリティ|メモ
マットは最初の剣を手に取った。
スキャン。
タイプ。
次のアイテム。
ヘルメット。
手袋。
ブーツ。
別の剣。
「白(ノーマル)」というレアリティは、明らかに物語のすべてを語ってはいない。似たような見た目のアイテムでも、ベース名、装備要件、ダメージ値、アイテムレベルが異なる場合があるのだ。
マットはそのすべてを追加した。
彼がその意味を知っているからではない。
知らないからだ。
「何が良いのか、まだわからない」
彼は別の行をタイプした。
「だが、『在庫管理』のやり方なら知っている」
武器は片側へ、防具は別の方へ、盾、ブーツ、手袋はそれぞれ独自のグループに分けられた。
マットは新しく整理された床を見た。
「なんか怖いほど快適だな」
次に、クラフト通貨。
こっちはさらに厄介だ。
マットは戦利品バッグの安全コンパートメントの中身をテーブルの上に空けた。
破片(シャード)、球体(オーブ)、トークン、結晶片、金属片。
複数の種類。
複数の数量。
マットには、どれが一般的で、どれが高価で、どれが無駄にすると危険で、どれがただの「小銭」なのかまったく見当もつかなかった。
あるいは、「レベル8の剣に使おうとしたら、クロエがオハイオまで直接殴りに来るような代物」がどれなのかも。
彼は空のプラスチックの収納ビンを見つけ、すべてをその中に入れた。
それからマスキングテープを取った。
彼はこう書いた。
『クラフト』
マットはそれを見つめた。
そして、もう一行書き加えた。
『後で調べる(フィギュア・アウト・レイター)』
彼は頷いた。
「正確だ」
ビンはデスクの横に置かれた。
奥深くのストレージにしまい込むわけではない。
マットは、これが未開封のまま長く置かれることはないだろうという予感があった。
◆
彼はスマホを取り出した。
【ブラックホロウ・グループ】
**マット:**ボス倒したぞ。
**イーサン:**鳥は?
**マット:**死んだ。
**イーサン:**よくやった俺の兄弟!!
**クロエ:**レベルは?
**マット:**8
**クロエ:**いいわね。
**マット:**魔石だけで大体3,000ドル(約45万円)。
**イーサン:**マネー・ヘイズ!!
**マット:**やめろ。
マットは周囲を見回した。
それから写真を撮った。
トレーラーの床。
完全に無地のノーマル装備が、綺麗に分類されて積まれた山。
奇妙なダンジョン通貨が詰まったプラスチックのビン。
彼はそれを送信した。
**マット:**あとこれ。
沈黙。
それから:
**イーサン:**ボスがウォルマートでも爆発させたのか?
**マット:**大体そんな感じだ。
**クロエ:**ノーマルベース?
**マット:**大半は。
**クロエ:**通貨(カレンシー)も?
**マット:**山ほど。
**クロエ:**キープしなさい。
**マット:**もうしてる。
少しの間。
**イーサン:**おい待てよ。
**マット:**何だ。
**イーサン:**あんた、まさかクラフトする気じゃないだろうな。
マットは下を見た。
クリーンな『ノーマル・鉄のロングソード』が彼の膝の上に乗っている。
ビンの箱がノートPCの横にある。
**マット:**かもな。
**イーサン:**マネー・ヘイズが「ノー・マネー・ヘイズ」になっちまう!!
マットは顔をしかめた。
「全然励みにならないな」
別のメッセージが現れた。
**クロエ:**通貨を使う前にちゃんとリサーチしなさい。
**マット:**そのつもりだ。
**クロエ:**特にレアなやつはね。
**マット:**どれがレアかなんてどうやってわかるんだ?
入力中インジケータが現れた。
それから:
**クロエ:**だからリサーチしろって言ってるの。
マットは見つめた。
「……正論だ」
まったくもって素晴らしい指摘だった。
彼はクラフトについて「危険だ」と認識できる程度の知識は持っている。
「どのボタンが高くつくか」を知っているわけではない。
まずはリサーチだ。
◆
マットは時間を確認した。
午前9時30分。
彼はそれを見つめた。
「……なんかソワソワするな」
マットはもう一杯コーヒーを淹れ、温度を修正し、腰を下ろした。
彼のインターフェースの隅で、1つの新しいパッシブポイントが待機している。
ルークの初心者ビルドには、最初の6つの先にさらに多くの方向性が用意されていた。
マットはそれを即座にリサーチすることもできた。
しなかった。
『ボス・ラッシュ』が、彼に別の「先に考えるべき問題」を与えていたからだ。
昨日までの最適化の問い(クエスチョン)はこうだった。
『どうすればアッシュフィールドのモンスターをもっと速く殺せるか?』
今朝、彼が飛び越えたウサギが、もう一つの回答(アンサー)を提供してくれた。
『無関係なモンスターを最速で処理する方法は——』
『何もしない(戦わない)ことだ』。
マットはスプレッドシートの新しいタブを開いた。
【探索タイプ(ラン・タイプ)】
狩り(ファーム・ラン)
・群れを殺す
・戦利品を集める
・素材を採集する
・モンスターの密度を最適化する
・討伐速度とマナの消費バランスをとる
ボス直行(ボス・ラッシュ)
・無関係なモンスターは無視する
・最速でボスに到達する
・地形のショートカットを使う
・ボスのためにマナとフラスコを温存する
・競争相手(他のランナー)より先に目的に到達する
マットはその二つの列を見た。
同じダンジョン。
同じキャラクター。
同じスキル。
違う目標(オブジェクティブ)。
違う最適行動(オプティマル・ビヘイビア)。
「『戦闘』を最適化するんじゃないんだ」
彼は言葉を切った。
正確ではない。
「『目標』を最適化するんだ」
こっちの方がいい。
ゲームでいつも馬鹿げて見えた『移動スキルの連打』が、なぜ実際に機能するのか。その理由もこれだ。
マットはため息をついた。
「移動スキルの連打は、残念ながら『正しい(コレクト)』らしい」
おそらく、今朝の最も不快な教訓だ。
彼のカーソルがパッシブツリーに向かった。
そして止まった。
「まずはガイドからだ」
彼はそれを閉じた。
ボス戦に1回勝ったからといって、適当にポイントを振るような真似はしない。
ルークが別の州からその気配を察知して怒り出しそうだからだ。
◆
マットは代わりに、自身のダンジョン記録を開いた。
2つのエントリが重要だ。
ブラックホロウ鉱山 — Fランク
初クリア完了
アッシュフィールド果樹園 — Fランク
初クリア完了
マットはそれらを見つめた。
「2つか」
ちっぽけな数字だ。
全米ダンジョンマップには、彼がまともに処理できないほどのマーカーが存在している。
Fランク。
Eランク。
Dランク。
それ以上。
すべての州。
すべての方向。
彼は2つクリアした。
ウェストバージニアで1つ。
オハイオで1つ。
悪くない。
だが、終わってもいない。
アッシュフィールド果樹園の推奨レベルは4から10だ。
マットはレベル8。
ボスを倒したからといって、今日の午後にトレーラーを連結してここを去らなければならないわけではない。
まだ狩るべきモンスターがいる、見つけるべき戦利品がある、練習すべきスキルがある、稼ぐべき経験値がある——
そして、今や『クラフト』もある。
マットはプラスチックのビンの方を見た。
ブラックホロウのボスは、彼に「非常に価値のある完成された道具」を与えてくれた。
アッシュフィールドのボスは、彼に「無地の装備」と、「その一部をより良いものに変えるかもしれない資源」を与えてくれた。
マットは鉄のロングソードを手に取った。
鉄のロングソード
レアリティ:ノーマル
追加効果なし。
ボーナスなし。
光るテキストもなし。
昨日なら、マットは一瞥して次に進んでいただろう。
今、彼は『違う質問』を投げかけられるだけの知識を持っていた。
どのベースタイプが良いのか?
アイテムレベルは何を変えるのか?
どの通貨(カレンシー)がどのレアリティに機能するのか?
ノーマルアイテムのクラフトを始めたら何が起きるのか?
そのプロセスはどれくらい高額になり得るのか?
ただの無地の剣が、マジックのドロップ品よりも強くなることはあるのか?
レアよりも?
どれくらいが確定(デターミニスティック)で、どれくらいが運(ラック)なのか?
マットはゆっくりと微笑んだ。
「ああ、こいつはとんでもない沼(プロブレム)になりそうだな」
彼は新しいブラウザのタブを開き、タイプした。
『初心者向け装備クラフトガイド』
検索結果は即座に表示された。
数十。
数百。
動画、記事、フォーラムの投稿、ビルドサイト。
マットは最初のいくつかのタイトルを読んだ。
『初心者クラフト:良いベースをゴミにするのはやめろ』
『ノーマルアイテムはどれも同じではない』
『ツールチップを読むのが嫌いな人のための「アイテムレベル」解説』
『初めての武器クラフト』
『君たちがやらなくて済むように、俺がレベル12の剣のクラフトに10,000ドル使ってみた』
マットは最後のタイトルの上で止まった。
「……やめとこ」
彼はその上でホバリングした。
それから、意図的にカーソルを遠ざけた。
一歩ずつだ。
マットはビンから見慣れないクラフト通貨を1つ取り出した。
白い剣を見た。
ほんの短い間、その誘惑は圧倒的だった。
使ってみろ。
何が起こるか見てみろ。
ゲームとはそういうものだ。
クリックしろ。
学べ。
ただ一つ違うのは、これはセーブデータをリロードできるゲームではないということだ。
通貨は本物(リアル)だ。
アイテムも本物だ。
お金も本物だ。
マットは通貨を元に戻した。
「まずはリサーチだ」
彼は初心者ガイドを開き直した。
『果樹園の番人』は、3,000ドルの魔石をドロップした。
そのお金はすでに「解決済み」だ。
安全に彼の口座に収まっている。
無地の白いロングソードが彼の膝の上に乗っている。
クラフト通貨の箱がノートPCの横にある。
こちらはまだ「未解決」だ。
そして、はるかに面白い。
マットは最初のガイドをクリックした。
「よし」
彼は手の中の無改造の剣をひっくり返した。
「完璧な良品を、ゴミに変える作業を始めようか」
ここまで読んでいただきありがとうございます! もし「面白い」「続きが気になる」と思っていただけましたら、ページ下部より【お気に入り登録】や【評価】、感想などをいただけると執筆の励みになります。 作者のモチベーション上昇に直結しますので、是非ともよろしくお願いします!