ダンジョン・ドリフター ~退職金でキャンピングカーを買ったら、放置していたスキルが『SSSランク:完全複製(コピー)』だった件。最強スキルを拾い集めて全米横断の旅に出る~   作:パラレル・ゲーマー

14 / 48
第14話 どうやら、クラフターはお金を印刷しているらしい

 午前9時半を少し回ったところだった。

 

 マットはC-87サイトのトレーラー内の折りたたみデスクに座り、膝の上に『完全に無地の鉄のロングソード』を乗せていた。

 

 光るモディファイア(追加効果)はない。

 追加ダメージもない。

 有用な耐性もない。

 ただの剣だ。

 

 椅子の横には、彼が楽観的にラベルを貼ったプラスチックの収納箱が置かれていた。

『クラフト — 後で調べる』

 

 箱の中には、今朝オーチャード・キーパーが落とした破片、オーブ、トークン、その他もろもろの魔法の通貨(カレンシー)が詰まっている。

 ノートPCの画面には、『初心者向け装備クラフトガイド』の検索結果が数百万件表示されていた。

 

 マットはマウスに手を置いた。

「さあ、完璧な良品をゴミにする作業を始めようか」

 

 彼は一番上の動画をクリックした。

 クリエイターは、これまで見たことのない人物だった。

『@WhiteBase(ホワイトベース)』。

 

 ルークの丁寧に編集された解説動画や、マットが今まで見てきた高品質なダンジョンチャンネルとは違い、ホワイトベースは薄暗いガレージの中でウェブカメラに向かって話しているように見えた。

 

 背後の壁は金属製の棚で埋め尽くされている。装備のパーツが入ったプラスチックのタブが床を覆い、キャビネットには半ダースものノーマル武器が立てかけられていた。

 男自身は30代半ばくらいに見え、油汚れのついたTシャツを着ていた。その佇まいは、「なぜガソリンエンジンに軽油を入れてはいけないか」を何年間も説明し続けてきた整備士のような、独特の疲労感を漂わせていた。

 

 サムネイルには、無地の白い剣、燃えている札束の山、そして巨大な一言が表示されていた。

 

『やめとけ(STOP)』

 

 マットは頷いた。

「……期待できそうだ」

 

 彼は再生ボタンを押した。

 ホワイトベースがカメラに向かって身を乗り出した。

 

「クラフトがしたいか?」

 彼は待った。

「お前は『クラフト系のユニークスキル』を持っているか?」

 また沈黙。

「持ってない?」

 彼の表情は完全にフラットなままだった。

「なら、やめとけ」

 

 マットは瞬きした。

「……おお」

 

「通貨(カレンシー)を売れ。金を受け取れ。マーケットを開け。お前が本当に必要としている装備を『買え』」

 ホワイトベースはカメラを真っ直ぐに指差した。

「おめでとう。俺はたった今、お前の大金を救ってやった」

 彼は背もたれに寄りかかった。

「どういたしまして」

 

 マットは再生バー(シークバー)を確認した。

 まだ15秒しか経っていない。

「これが初心者向けのクラフトガイドか?」

 彼は笑った。

 

 一瞬、別の動画をクリックしようかと考えた。

 それから、隣の箱を見た。

 いや。

 たとえアドバイスが「やるな」であっても、「なぜやってはいけないのか」を理解する必要がある。

 

 彼は動画を再開した。

 

「そうだな」ホワイトベースは続けた。「『誰でも』クラフトはできる。通貨を使うために、システム上でユニークスキルが必須なわけじゃない。適合する通貨を装備に適用すれば、システムは喜んでお前のお金を溶かさせてくれる」

 

 彼は作業台から無地の剣を手に取った。

「だが、『誰でも』スロットマシンのレバーを引くことはできるからな」

 

 マットはゆっくりと頷いた。

「なるほど」

 

 ホワイトベースの横にグラフィックが表示された。

 

 希望するモディファイア:物理ダメージ

 

 その下に、考え得る『外れ』の選択肢がずらりと並ぶ。

 マナ。

 耐性。

 属性(ステータス)。

 ユーティリティ。

 

「希望のものがつくかもしれないし、つかないかもしれない。どっちにしろ、通貨は消費された」

 ホワイトベースはオーブをテーブルに落とした。

「誰も欲しがらないゴミが出来上がった。おめでとう。お前は50ドルを『失望』に変換することに成功した」

 

 マットは自分のクラフト箱を見た。

 それはあまりにも危険なほど現実味があった。

 

 ホワイトベースの表情が鋭くなった。

「俺たちはギャンブルはしない」

 彼は背後に積まれた装備の山を指差した。

「俺たちは『製造(マニュファクチュア)』するんだ」

 

 その言葉がマットの注意を引いた。

 

「ここに『クラフター』を加えよう」

 光る人間のシルエットが画面に現れた。

「クラフト系のユニークスキルには様々な形がある。極端に狭いもの、奇妙なもの、特定の装備にしか機能しないもの、特定のモディファイア・ファミリーにしか影響しないもの」

 

 ホワイトベースは片手を挙げた。

「そして、誰かに聞かれる前に言っておく。『ユニーク』というのは、地球上でたった一人の人間しかそのスキルを持てないという意味ではない。それはシステムにおける『個人的な能力』のカテゴリー名に過ぎない。低ランクのユニークスキルは、複数の人間の間で重複することがあるし、実際に重複している」

 

 マットは0.5秒間動画を一時停止した。

 いい情報だ。

 

 ホワイトベースは続けた。

「Cランクあたりから、経済的に『ぶっ壊れ』始めるクラフトスキルがある」

 彼はニヤリとした。

「『確定(ギャランティ)』スキルだ」

 

 マットはコーヒーに伸ばしかけた手を空中で止めた。

「Cランク?」

 現在の『COPY』の上限はCランクだ。

 まさに、C。

「……面白くなってきた」

 

 一枚のカードが表示された。

 

【生命の刻印(バイタル・インプリント)】 — C

 ユニークスキル

 クラフト / アクティブ

 

 効果

 使用者が適合するクラフト通貨を装備に適用する際、1日最大10回まで、追加されるモディファイアを『最大ライフ』ファミリーに確定させることができる。

※正確な数値は、そのアイテムのモディファイア範囲に依存する。

 

【フレーバーテキスト】

 刃は折れるかもしれない。

 鎧は砕けるかもしれない。

 肉体に必要なのは、もう一度生き残るためのわずかな強さだけだ。

 

 マットはその効果を二度読んだ。

 1日10回。

 制限(リストリクション)がある。

 一人のクラフターが作業台に座って、ライフ確定の装備を無限に生み出し続けることはできないのだ。

 

 ホワイトベースが効果テキストをトントンと叩いた。

「注意して読め。『ライフ・ファミリー(系統)』であって、『最大ライフの数値』ではない」

 

 高レベルの例が表示された。

 

【最大ライフの付与可能範囲】

 +115 — +129 最大ライフ

 

 その下に、考え得る結果がいくつか循環(サイクル)して表示される。

 +116。

 +124。

 +129。

 

「スキルが確定させるのは『ライフがつくこと』だけだ。数値のロール(ランダム幅)は依然として存在する」

 

 マットは頷いた。

 モディファイアの種類を確定できるだけでもすでに莫大な価値がある。その上、最大数値まで確定できたら、それはまったく別の次元の話になっていただろう。

 

 ホワイトベースは高レベルの例を消した。

「だが、エンドゲーム(最終盤)の装備のことは今は忘れろ。この動画を見ているお前らの大半は、レベル100の防具なんて買ってないはずだ」

 

 画面が切り替わった。

 

【初心者市場の例】

 ノーマルベース:$10

 適合するクラフトオーブ:$50

 材料費:$60

 

 ホワイトベースは無地の手袋をオーブの隣に置いた。

「もしお前がクラフターで、ベースと通貨を自分で調達したとしよう。材料費は60ドルだ」

『生命の刻印』のカードが再び現れる。

「一日の使用権を1回消費する」

 

 グラフィックが変わる。

 

【結果】

 最大ライフ・モディファイア確定

 推定市場価値:≈ $400

 

「今、お前の手元には、初心者探索者の大半が探し求めている『まさにそのモディファイア』がついた低レベル装備がある」

 

 マットは動画を一時停止した。

 10ドルのベース。

 50ドルの通貨。

 60ドルの材料費。

 400ドルのアイテム。

 

「……バカげてるだろ」

 

 彼は即座に別のタブを開いた。

 ホワイトベースの話は面白いかもしれない。

 だが、ネットの経済論を裏付けなしで鵜呑みにするつもりはない。

 

 全米装備市場(ナショナル・マーケット)。

 低レベル防具。

 最大ライフ。

 リストが読み込まれる。

 

 $347。

 $375。

 $389。

 $410。

 $438。

 

 ベースの種類や実際のライフの数値によっては、さらに高いものも、低いものもあった。

 

 マットはフィルターを「ライフ+有用な耐性」に変更した。

 価格が跳ね上がった。

 

 $694。

 $735。

 $799。

 $825。

 

 特に数値の高い結果の一つは、900ドルを超えていた。

 

 マットは動画に戻った。

「作り話じゃないってことか」

 

 ホワイトベースは初心者の例を指差した。

「1日10回。自分で調達して自分で売れば、限られた数の『確定された結果』を、非常に健全な利益率(マージン)に変換できる」

 

 彼は意図的に簡略化された計算式を表示した。

 

 10個の完成品 × $400 = $4,000(粗収益)

 材料費:$600

 

「もちろん、ここから手数料、売れ残り在庫、数値のハズレ、税金、そして現実のビジネスを面倒にするその他すべての要素が引かれる」

 ホワイトベースはため息をついた。

「はいはい、画面の向こうで『それは売上であって利益じゃない!』って叫んでるそこのお前。わかってるよ」

 

 マットは固まり。

 それから笑った。

「いいキャラしてるな」

 

 正確な年間収益なんてどうでもいい。仮定が多すぎる。

 1日単位の経済性がすでに明白なのだ。

 有用なCランクのクラフトスキル一つで、極めて裕福な生活を支えることができる。

 

 ホワイトベースはカメラに向かって身を乗り出した。

「さて、ここで当然の疑問が浮かぶはずだ。なぜ誰もが、60ドルの材料でできるものに400ドルも払うのか?」

 

 背景に一つの単語が大きく表示された。

 

 希少性(スカーシティ)

 

「なぜなら、この取引において『希少』なのは通貨(カレンシー)じゃないからだ。『確定された結果』が希少なんだよ」

 

『生命の刻印』のカードが画面に残り続けている。

『1日10回』。

 

「世の中には、『有用な装備を探している探索者』の数が、『1日の確定クラフト能力に上限があるスペシャリスト』の数を圧倒的に上回っているんだ」

 

 マットは理解した。

 国レベルの巨大なダンジョン経済を、「1日10回」のペースで飽和させることは不可能なのだ。

 

 ホワイトベースはスライドを変えた。

「それに、良いモディファイア1つは、大抵の場合『始まり』に過ぎない」

 

 初心者用防具

 最大ライフ

 推定価値:≈ $400

 

 続いて、2つ目のスキルカードが表示された。

 

【元素の守護(エレメンタル・ウォード)】 — C

 ユニークスキル

 クラフト / アクティブ

 

 効果

 適合するクラフト通貨を適用する際、1日最大10回まで、追加されるモディファイアを『使用者が選択した属性耐性』ファミリーに確定させることができる。

※正確な数値は、そのアイテムのモディファイア範囲に依存する。

 

【フレーバーテキスト】

 炎と、氷と、嵐が同じ問いを投げかける。

 彼らが通り過ぎた後、お前のどれだけが残っているだろうか? 

 

 マットは静かに笑った。

「おいおい」

 

 ホワイトベースは先ほどの『ライフ付き装備』を再び画面に戻した。

「さて、ここで別のスペシャリストが『耐性モディファイア』を追加する」

 

 グラフィックが更新される。

 

 最大ライフ

 属性耐性

 推定市場価値:≈ $800

 

「もしお前が公共のサービスを利用しているなら、この2人目のクラフターは『自分自身の限られたキャパシティ』に対して手数料を請求する。もしお前が『半分完成した在庫』を買い取ってクラフトする業者なら、その労働プレミアムはお前の原価(インプットコスト)の一部になる」

 

 そして、フローチャートが表示された。

 

【クラフターのサプライチェーン】

 

 ベース供給者

 ↓

 ライフ担当クラフター

 ↓

 耐性担当クラフター

 ↓

 特殊効果(スペシャリスト)クラフター

 ↓

 最終的な探索者(エンドユーザー)

 

 マットの目から「魔法」のフィルターが消え去った。

「……ただのサプライチェーン(供給網)じゃないか」

 

 当然だ。

 これは「製造プロセス」なのだ。

 工場(マシン)の役割を、たまたま「人間」が担っているだけ。

 

 ノーマル装備が一方の端から入ってくる。

 異なるスペシャリストが付加価値をつける。

 完成した装備が反対側から出てくる。

 

 ホワイトベースは再びグラフィックを変更した。

 ベースが州をまたいで移動する。

 通貨がクラフトの拠点(ハブ)へと集まる。

 半分完成した装備が、あるスペシャリストから別のスペシャリストへとルーティング(転送)される。

 

「クラフターは、ダンジョン経済における『製造業(マニュファクチャリング・セクター)』の一部だ」ホワイトベースが言った。「素晴らしい生活を送るために、Sランクの奇跡なんて必要ない」

 

『生命の刻印』がもう一度表示された。

「もしお前のユニークスキルが、『1日10回、ライフがつくべき場所にライフを置ける』と言っているなら?」

 彼はカメラを指差した。

「おめでとう」

 間を置く。

「お前は金持ちだ」

 

 マットは見つめた。

「……すげえな」

 

「それに、お前自身がビジネスを運営する必要すら無い」

 動画は、近代的なクラフト施設の映像に切り替わった。

 ずらりと並ぶワークステーション。

 装備スキャナー。

 作業員たちがアイテムを処理し、タブレットに結果を記録している。

 

「大手ダンジョン企業はクラフターを雇用している。装備メーカーもクラフターを雇用している。クラフト専門業者もクラフターを雇用している。もしお前が、ベースの買い付けも、商品の出品も、顧客のメッセージ対応もしたくないなら——ただタイムカードを押し、1日のキャパシティを使い切り、書類を提出して、家に帰ればいい」

 

 マットは自分の昔のオフィスを思い出した。

「それは完全に『仕事(ジョブ)』だな」

 おそらく、極めて割のいい仕事だ。

 

 ホワイトベースはまだ終わっていなかった。

「そして、もしお前が完成品の装備を小売価格(リテール)で買いたくないなら、大抵のまともなキャンプ場には『もう一つの選択肢』がある」

 

 画面が公共のクラフトベンチ(作業台)に切り替わった。

 

「ベースを持っていけ。適合する通貨を持っていけ。サービス料(手数料)を払え。そして、『クラフターが目の前でそれを作るのを観察(ウォッチ)しろ』」

 

 マットの動きが止まった。

 その後の言葉は、彼の耳を通り過ぎていった。

 彼は巻き戻した。

 

 ホワイトベースがそれを繰り返した。

「サービス料を払い、『彼らが目の前でそれを作るのを観察(ウォッチ)しろ』」

 

 一時停止。

 

 トレーラーの中が、ひどく静かになった。

 マットはフリーズした動画の画面を見つめていた。

 

『彼らが目の前でそれを作るのを観察しろ』。

 

 彼の視線が、『COPY』の方へと動いた。

 他の誰かが、ユニークスキルを発動しなければならない。

 マットは、その発動を『直接目撃』しなければならない。

 そのスキルは、彼の現在の『Cランク』の上限に収まっていなければならない。

 そして、彼はそれをコピーすることを『選択』しなければならない。

 

 彼は『生命の刻印』を見た。

 Cランク。

『元素の守護』。

 Cランク。

 

「……おお」

 

 マットはゆっくりと背もたれに寄りかかった。

「俺はクラフト系のユニークスキルを持っていない」

 

 事実だ。

 彼のアーカイブに入っているのは、移動、身体強化、ユーティリティ、そして戦闘系のアビリティだけだ。

 クラフトは一つもない。

 

 マットは微笑んだ。

「今のところは(Yet)、な」

 

 初心者チュートリアルのカテゴリーが変わった。

 今のマットにとって、これはチュートリアルではない。

『買い物リスト(ショッピング・リスト)』だ。

 

 ◆

 ホワイトベースの解説が、高レベルのライフの例に戻った。

 

【最大ライフ】

 付与可能ロール幅:+115 — +129

 

 いくつかの結果が表示される。

 +115。

 +121。

 +127。

 そして:

 +129。

 

 ホワイトベースは最後の数字を指差した。

「そしてここからが、市場が『狂い始める』部分だ」

 マットは眉をひそめた。

「高ランクの探索者の中には、『+128』を喜んで買う連中がいる」

 間を置く。

「そして、『+129が出るまで二度と俺に連絡してくるな』と突き返してくる連中がいる」

 

 マットは見つめた。

「……ライフたった『1』で?」

「そうだ」

 ホワイトベースはカメラを真っ直ぐに見た。

「たった『1』だ」

 

 動画が短く切り替わり、高ランクのダンジョン施設の外でインタビューを受ける重装備の探索者が映し出された。

「最大値が129なら、なんで128なんか買わなきゃいけないんだ?」

 彼は本気で混乱しているように聞こえた。

 マットは思わず笑いそうになった。

 

 ホワイトベースの画面に戻る。

「好きに笑えばいい。それから、そのステータスの『名前』を思い出せ」

 

 画面いっぱいに文字が表示された。

 

 最大ライフ

 

「奴らの『命(ライフ)』だ」

 彼のトーンが少し静かになった。

「文字通り、な」

 

 マットの顔から笑みが消えた。

「それがゼロになれば、ダンジョンの中で『ただの肉体』を『ただの肉体』にならないように守ってくれているシステムの保護が消え去る。ゼロになった瞬間に即死するわけではないが、お前の一日は確実に、劇的に最悪なものになる」

 

 控えめな表現(アンダーステートメント)だ。

 

「高ランクの探索者たちが、小さな『差(マージン)』を最適化するために莫大な金を注ぎ込むのは、その小さな差が『積み重なる(スタックする)』からだ。ここでライフが1増える。あそこで耐性が1増える。もし『間違った一撃』を食らった時、そのたった1の差が『保護が残るか、消え去るか』の境界線になるとしたら?」

 

 ホワイトベースは+129を指差した。

「誰かがその129を買う」

 

 マットはゆっくりと頷いた。

 依然として馬鹿げているようには見える。

 だが今や、それは『合理的に馬鹿げている(ラショナリー・リディキュラス)』ように見えた。

 

「そして覚えておけ。『10回のライフ確定クラフト』は、『10個の完璧なライフ装備』を意味しない。1個も完璧(パーフェクト)にならないかもしれない。1個だけなるかもしれない。完璧な数値(ロール)は、希少性の『もう一つのレイヤー』を作り出す」

 彼は背もたれに寄りかかった。

「それが『クラフターの金』だ」

 

 動画が終わった。

 

 マットは手帳を開いた。

 

 生命の刻印 — C — 10回/日

 元素の守護 — C — 10回/日

 

 普通のスペシャリストなら、良いクラフトユニークを1つ持っているだけで一生のキャリアを築ける。

 

 マットが持っているのは違う。

『COPY』。

 保存可能なスキル数は無制限。

 アクティブなコピー枠は2つ。

 

 彼はペンでテーブルをトントンと叩いた。

「たった2つ、か」

 戦闘において、それは深刻な制限だった。

 アクティブな選択肢を一つ選べば、別の何かを諦めなければならないからだ。

 

 しかし、クラフトは「ボスが自分の首を吹き飛ばそうとしている最中」に行うものではない。

 今のところ、2つのアクティブスロットがあれば、『生命の刻印』と『元素の守護』を同時に装備するには十分だ。

 もしマットが3つ目のクラフト特化スキルを集め、4つ目を集め、10個目を集めたら? 

 安全な作業台(ワークベンチ)の前なら、それらを自由に入れ替えるだけの「時間」がある。

 

 彼はもう一度、ホワイトベースのサプライチェーンの図を見た。

 通常、異なるスペシャリストが異なる工程を担当する。

『COPY』があれば、マットはその特化能力のいくつかを『自分一人で』アーカイブに持ち歩けるかもしれないのだ。

 

「垂直統合(バーティカル・インテグレーション)か」

 

 マットは目を閉じた。

 なんて恐ろしいほど『企業的(コーポレート)』な響きだろう。

 元・物流コーディネーターがSSSスキルを手に入れた結果、即座に「人間の奇跡を垂直統合する方法」を考え始めるなんて、できすぎている。

 

 だが、まだいくつか未知の要素があった。

 コピーしたクラフトスキルは、それぞれ「独自の1日の制限カウンター」を保持するのか? 

 2つのアクティブなクラフトスキルが、同じ「通貨の適用」に同時に影響を与えることはできるのか? 

 スキルを切り替えたら、何かがリセットされたりしないか? 

 

 彼はその理論の下に一言書き加えた。

 

『仮説(ハイポセシス)』

 

 これは重要だ。

 マットはまだ、実際にクラフターをコピーしたことはないのだから。

 

 彼はキャンプの案内アプリを開き直した。

 検索:

『クラフト』

 

 一つの結果が即座に表示された。

 

【アッシュフィールド・クラフター共同組合(コオペラティブ)】

 ・飛び込み(ウォークイン)サービス

 ・装備クラフト

 ・顧客持ち込みのベース受付

 ・顧客持ち込みの通貨受付

 ・サービス料はクラフターおよびモディファイアにより異なります

 

 マットは見つめた。

 C-87からの徒歩時間:

 5分。

 

「……冗談だろ」

 

 彼は共同組合のページを開いた。

 

【本日のクラフトサービス】

 最大ライフ

 属性耐性

 物理武器アフィックス

 防御ユーティリティ

 追加スペシャリスト — 限定受付

 

 そしてFAQ(よくある質問)。

 

 Q:自分の装備がクラフトされるのを見学(オブザーブ)できますか? 

 

 A:はい。顧客持ち込みのアイテムは、プライベートサービスを要求されない限り、通常『公開ベンチ』で処理されます。

 

 マットは微笑んだ。

「……完璧だ」

 

 0.5秒ほど、手持ちのベースと適当な通貨を即座に持ち込むことを考えた。

 そして、やめた。

 彼はまだ『アイテムレベル』すらまともに理解していない。

 自分のコンテナの中にある通貨のどれが一般的で、どれが「数百ドルをゴミにする前にベテランクラフターにタックルされるレベル」のものかもわからない。

 

『まずはリサーチ』の原則は依然として有効だ。

 

 だからマットは立ち上がった。

 防具なし。

 剣なし。

 ただ財布と、スマホと、鍵——

 

 そして『COPY』だけを持って。

 

 ◆

 アッシュフィールド・クラフター共同組合は、装備屋の裏手にある長いプレハブ風の建物にあった。マットが以前は「ただの倉庫」だと勘違いしていた場所だ。

 入り口の上の看板には、円の中に様式化された白い金床(アンビル)が描かれている。

 

 駐車場は驚くほど混み合っていた。

 マットは歩みを緩めた。

「ニッチな職業とか言ってこれか」

 

 中に入る。

 その内部は「ファンタジー世界の鍛冶屋」というより、「家電修理センター」と「FedExのカウンター」と「小さな銀行」を掛け合わせたような見た目だった。

 待合用の椅子、デジタルの整理番号、サービスデスク、透明なパーティションの向こうにある作業台(ワークベンチ)、装備スキャナー、保管トレイ、マナ格納フィールド、そして自動販売機。

 

 アメリカで最も魔法的な製造業の現場であっても、どうやら「クソまずいコーヒー」は必須らしい。

 

 数人の探索者が受付の近くで待っていた。

 一人はヘルメットを持っている。

 別の一人はブーツ。

 三人目はパッド入りのケースの中に盾を持っていた。

 

 メインデスクの上にはこう表示されていた。

 

 アッシュフィールド・クラフター共同組合

 本日の受付枠(アベイラビリティ)

 

 最大ライフ — 残り 7 回

 火耐性 — 残り 4 回

 氷耐性 — SOLD OUT

 雷耐性 — 残り 6 回

 防御ユーティリティ — 残り 5 回

 物理武器スペシャリスト — 限定 / 予約制

 

 マットは立ち止まった。

「……売り切れ(SOLD OUT)?」

 

 受付の女性が顔を上げた。

「氷(コールド)ですか?」

「いや、ただ見てるだけです」

「氷なら7時40分には売り切れましたよ」

 マットは時計をちらりと見た。

「7時40分に」

「今週は忙しいんですよ」

 彼女は端末に向き直った。

 

 ホワイトベースの説明が、急に理論上の話ではなくなった。

 クラフターが提供できる「確定枠」には限りがある。

 顧客たちは、それをすべて買い占めるために朝早くから並んでいるのだ。

 

 待合用の椅子の横に、価格表が掛けられていた。

 

【低レベル向け 飛び込みサービス】

 ライフ確定 — サービス料 $50

 属性耐性確定 — $50

 基本防御モディファイア — $60〜

 物理武器スペシャリスト — 市場価格(時価)

 

※ベースおよび適合通貨はお客様でご用意ください。

※該当する場合、モディファイア・ファミリーのみを確定します。

※数値のロールは保証されません。

 

 マットは一番下の項目に注目した。

「市場価格(時価)」

 値段が書かれていない。

 

 近くに座っていた男が、マットが読んでいるものに気づいた。

「武器ベンチか?」

「ただの興味本位ですよ」

 男は鼻を鳴らした。

「金、たんまり持っていきな」

 

 マットは建物内で一番長い列ができている方を見た。

 だろうな。

 

 チャイムが鳴った。

 ライフを待っていた顧客の一人が立ち上がる。

 マットは公開ワークベンチの方へ向き直った。

 

「最も重要な質問」の答え合わせの時だ。

 

 ◆

 重いキャンバス地のエプロンを着た女性が、ライフ用のベンチの後ろに立っていた。

 20代後半。

 茶髪を後ろで結んでいる。

 ローブは着ていない。

 伝説の鍛冶屋のような厳かな雰囲気もない。

 

 彼女のネームバッジにはこう書かれていた。

『ダナ・ブルックス』

 

 顧客が作業エリアにノーマルの革手袋を置き、その横に小さなクラフト・オーブを置いた。

 

 ダナが手袋をスキャンする。

「アイテムレベルの確認は済んでる?」

「はい」

「モディファイアの『系統(ファミリー)』が確定するだけで、数値(ロール)は確定しないことは理解してるわね?」

「はい」

 彼女はオーブを確認した。

「適合(コンパチブル)ね」

 

 そのやり取りは自動音声のように聞こえた。

 彼女がこれまでに何千回と繰り返してきたであろう言葉。

 顧客は頷いた。

「ライフでお願いします」

 

 ダナが装備の上に片手をかざした。

 マットは注意深く見つめた。

 何かドラマチックなことが起きるのを期待していた。

 何も起きなかった。

 

 ダナの指の周りに、微かな光の脈動が現れた。

 それだけだった。

 

 マットのインターフェースが即座に反応した。

 

【ユニークスキルを観測しました】

 生命の刻印(バイタル・インプリント) — C

 コピー条件を満たしています

 

 コピーしますか? 

 [ YES ] / [ NO ]

 

 マットは見つめた。

 機能した(イット・ワークス)。

 理論上の話でも、可能性(メイビー)の話でもない。

 

 ダナがオーブを手袋に押し付けた。

 通貨が溶け込む。

 革の表面に光が走る。

 モディファイアが現れた。

 

「最大ライフね」ダナが言った。

 顧客が身を乗り出す。

「数値(ロール)は?」

「真ん中(ミドル)くらい」

 

 男の肩が少しだけ落ちた。

「まあ、いいか」

 大喜びではない。

 文句を言うほど絶望的でもない。

「まあ、いいか」だ。

 

 彼はサービス料を払った。

 ダナが自分のステーションの横にある小さなディスプレイをちらりと見る。

 

『本日の確定クラフト残り:6』

 

 マットは『YES』を選択した。

 

【コピー完了】

 生命の刻印 — C

 **保存済みユニークスキル:**7

 

 マットは顔を無表情(ニュートラル)に保った。

 あるいは、保とうと努力した。

 

 2人目の顧客がヘルメットを持ってダナに近づく。

 同じ手順が繰り返される。

 アイテムレベル。

 通貨の適合確認。

 数値ロールに関する警告。

 発動。

 

 2度目の『COPY』プロンプトは出なかった。

 すでに保存済みだからだ。

 クラフトが完了した。

 

 ダナが結果を確認する。

 彼女の眉が上がった。

「あら」

 顧客が即座に身を乗り出す。

「何です!?」

「高い(ハイ)わ」

「どれくらい!?」

 

 ダナがディスプレイを彼の方へ向けた。

 男の顔がパッと明るくなった。

「よっしゃ!!」

 近くにいた誰かが「いいね」と呟いた。

 

 マットは顧客が去っていくのを見送った。

 同じクラフター。

 同じ『確定(ギャランティ)』。

 違う数値結果(ロール)。

 

 ホワイトベースの説明が、たった二人の顧客の間に圧縮されて証明された。

 これ以上の講義は不要だ。

 マットは受付のボードを振り返った。

 ライフの残り回数がまた減っていた。

 市場は実在しているのだ。

 

 ◆

 火耐性のベンチは二つ隣のステーションだった。

 マットは、「産業スパイをやっている人間」に見えないように気をつけながら位置を移動した。

 

 軽量防具を着た女性が、ヘルメットをベンチに置いた。

「火(ファイア)で」

 クラフターが頷き、装備と通貨をスキャンし、自分のユニークスキルを発動させた。

 

 マットのインターフェースがフラッシュする。

 

【ユニークスキルを観測しました】

 元素の守護(エレメンタル・ウォード) — C

 コピー条件を満たしています

 

 コピーしますか? 

 [ YES ] / [ NO ]

 

 マットは『YES』を選択した。

 

【コピー完了】

 元素の守護 — C

 **保存済みユニークスキル:**8

 

「やばいな」マットは囁いた。

 前に並んでいた女性が振り返った。

 マットは即座に自分のスマホを見た。

 何も怪しいことはしていませんよ。

 誰かの職業(プロフェッション)を音もなく複製している男なんかじゃありませんよ。

 

 クラフトが完了した。

 火耐性。

 顧客が支払いをして去っていく。

 

 マットは無意識のうちに『純粋なる元素』に触れていた。

 なるほど、こうやって最終的に「補助輪(初心者セット)」が外れていくわけだ。

 より高い個別の耐性ロールが、初心者セットが現在担っている仕事の一部を置き換えていくのだ。

 面白い。

 

 マットは一つの質問に答えるためにここへ来た。

『COPY』はクラフト系のユニークスキルを取得できるのか? 

 

 答え:

 イエス。

 

 おそらく、彼はもうここを離れるべきだろう。

 しかし、彼は離れなかった。

 まだ他のワークベンチがある。

 

 ◆

 自分が「何を見ているのか」を理解してからは、共同組合の観察は格段に面白くなった。

 

 一人のクラフターは、マットがまだ理解していない『防御モディファイア・ファミリー』を専門にしていた。別の者は『属性(ステータス)』を。三人目はほぼ『ブーツ専用』に作業しているように見えた。

 

 マットが見ている間に、すべてのスキルが発動されたわけではない。選択肢について相談しただけで帰る顧客もいた。適合する通貨を持っていない者もいた。

 ある顧客は、「自分が付けたいモディファイアに対して、アイテムレベルが低すぎる装備」を持ち込んでいた。

 

 クラフターはそれをスキャンし、突き返した。

「アイテムレベルが低すぎる」

 顧客はうめき声を上げた。

「昨日買ったばっかりなのに」

「返品できるならしてきな」

 

 マットはスマホにメモを入力した。

『ベースが先。クラフトは後』

 よし。

 

 ライフ用のベンチの近くでチャイムが鳴った。

 ダナがまた一つアイテムを完成させた。

 受付の空き状況ディスプレイはほぼ空っぽになっていた。

 

 待っていた顧客が立ち上がる。

 別の顧客が受付の方を見た。

「ちょっと待って、次って私の番じゃなかったの?」

 受付嬢が確認した。

「別のライフ・クラフターが午後のシフトに入らない限り、明日の1番目になりますね」

 男が顔をしかめた。

「マジで?」

「申し訳ありません」

「もう一つのキャンプ場の方は?」

「あちらは2時間待ちです」

 

 マットはそのやり取りを見ていた。

 ホワイトベースが説明していた「希少性(スカーシティ)」がそこにあった。

 抽象的なものではない。

 特化された人間の能力には、1日の処理能力(スループット)の限界があるのだ。

 

 ダナが最後の顧客を受け入れた。

 ブーツ。

 オーブ。

 警告。

 発動。

 クラフト完了。

 

 ボードが切り替わった。

 

 最大ライフ — SOLD OUT

 

 マットは時間を確認した。

 午前10時56分。

「……まだ11時にもなってないぞ」

 

 受付の女性がそれを聞きつけた。

「ボス直行(ボス・ラッシュ)組が早くに抜けてきたからね」

「ライフはいつも売り切れるのか?」

「大抵の日はね。日によっては朝食の前に売り切れることもあるわよ」

 

 ホワイトベースは誇張などしていなかったのだ。

 出口の近くのコルクボードに、公開の買い取り要求(バイ・リクエスト)が掲示されていた。

 

【買取】レベル40以上 手袋

 最大ライフ

 トップロール(最高値)のみ

 プレミアム価格出します

 

 別の一枚:

 

【求む】

 高ライフ / 火耐性

 低ロール(外れ値)お断り

 

 さらにもう一枚:

 

【探しています】+129 ライフ

 +128なら連絡してこないでください

 

 マットは見つめた。

「……こいつら、本気(マジ)だ」

 

 ホワイトベースのインタビュー動画はジョークではなかったのだ。

 誰かが、ライフの「たった1ポイント」を指定して公開の買い取り注文を出す価値があると、本気で考えているのだ。

 

 マットは、高ランクダンジョンの内部でライフがゼロになる瞬間のことを想像した。

 超常的な保護が消え去る。

 その下にある、ただの生身の肉体。

 その掲示板を見て笑う気にはなれなかった。

 

 ◆

 物理武器の列は依然として長かった。

 やがてマットは少し近づいた。

 

 専用のサービスボードにはこう書かれていた。

 

【物理武器スペシャリスト】

 サービス料:$300〜

 予約優先

※飛び込みは1日のキャパシティに空きがある場合のみ

 

 初心者用ライフ・サービスの6倍の値段だ。

 マットは「なぜなのか」を知りたかった。

 

 彼の前にいる男が、高価そうな両手斧を持っていた。

 クラフターがそれを調べる。

「同じモディファイア・ファミリーで?」

「物理で」

「了解した」

 

 通貨。

 発動。

 マットは見つめた。

 

 彼のインターフェースが琥珀色にフラッシュした。

 

【ユニークスキルを観測しました】

 鍛え抜かれた刃(テンパード・エッジ) — B

【コピー失敗】

 理由:対象のユニークスキルが現在の最大コピー可能ランクを超過しています。

 現在の最大コピー可能ランク:C

 

 マットは見つめた。

「……そうだった」

 そこにある。

『壁』が。

 

 SSSランクだからといって、「無制限」を意味するわけではない。

 少なくとも、今はまだ。

 Bランクは依然として彼の手の届かない場所にある。

 

 クラフトが完了した。

 顧客は最高に満足そうな顔をしていた。

 マットはその結果と、サービス料を交互に見た。

 

 より希少なスペシャリスト。

 より高いランク。

 高い需要。

 それで十分説明がつく。

 

 彼の短いフラストレーションは、ほぼ即座に消え去った。

『まだ(Not yet)』。

 それは『永遠に無理(Never)』とは違う。

 

 彼はレベル8だ。

『COPY』にはまだ成長の余地がある。

 目標(ゴール)があるのはいいことだ。

 

 マットは、この場所の全体像を理解するのに十分な時間留まったが、だからといってすべてのワークベンチを「収集しなければならないコレクション」のように扱うのはやめた。

 すべてのCランクスキルに興味があるわけではない。

 彼が見ている時に都合よく発動されるとも限らない。

 

 ライフと属性耐性は、基礎(ファウンデーション)としては十分すぎる。

 1日の朝の収穫として、2つの新しいスキルは多すぎるくらいだ。

 

 帰る前に、彼は受付に戻った。

「一つ質問」

 受付の女性が顔を上げた。

「今日、ここで何人のクラフターが働いてるんだ?」

 彼女はスケジュールを確認した。

「現在9人が現場に。後で予約限定の人がもう2人来ますね」

 マットはワークベンチの方を見た。

「普通か?」

「アッシュフィールドの規模なら? まあ普通ね」

 

 マットは頷いた。

 比較的控えめなFランクキャンプで、9人のスペシャリスト。

 採掘(マイニング)が盛んな場所なら、おそらく違う種類のクラフターが集まるだろう。

 主要な拠点(メジャーハブ)なら、もっとはるかに多いはずだ。

 

 彼は礼を言い、外へ出た。

 蛍光灯の室内から出ると、オハイオの太陽が眩しく感じられた。

 

 マットはスマホを取り出し、『@WhiteBase』をフォローした。

 彼の情報フィードには今や、探索者の仕事の「ほぼすべての分野」で役に立つ人間が揃っていた。

 

 彼はイーサンとクロエにメッセージを送ろうかと考えた。

 そして、その返信を想像した。

 

『お前、何をコピーしたって!?』

 

 やめた。

『COPY』の正確なメカニズムは、「面白い朝を過ごしたから」といって気楽に放送(ブロードキャスト)していいような情報ではない。

 彼らを信用していないわけではない。

 ただ、「SSSランクのユニークスキルについて、グループチャットで議論すべきではない」というだけだ。

 

 マットはスマホをポケットにしまった。

「こいつは、俺だけの秘密にしておこう」

 

 ◆

 トレーラーC-87に戻ると、マットはドアに鍵をかけた。

 そして、『COPY』を開いた。

 

『生命の刻印』と『元素の守護』が、現在アーカイブに収まっている。

 彼はカウンターを確認した。

 

 生命の刻印

 本日の残り使用回数:10 / 10

 

 元素の守護

 本日の残り使用回数:10 / 10

 

 別々のカウンター。

 期待できそう(プロミシング)だ。

 だが、あくまで「期待できそう」なだけだ。

 

 マットは今朝、「『仮説(ハイポセシス)』を『ルール(法則)』と勘違いするな」と自分に何度も言い聞かせたばかりだ。

 だから、テストする。

 今日、今から。

 

 彼は次の1時間を費やして、初心者向けクラフトガイド、アイテムレベルの早見表、通貨の説明、そして全米市場(ナショナル・マーケット)の出品リストに目を通した。

 

 彼が持っているプラスチック箱の中の山が、徐々に「区別のつかない魔法のガラクタ」には見えなくなっていった。

 実験に使ってもいいくらいありふれた通貨もある。

 どう見てもそうでないものもある。

 

 マットは、「自分が理解していないもの」を物理的に箱の一角にまとめ、ラベルを貼った。

 

『まだ触るな(DO NOT TOUCH YET)』

 

「完璧だ」

 ひどく責任ある大人の行動に思えた。

 

 彼はオーチャード・キーパーの戦利品の中から、使い捨て用のノーマル・ベースを2つ選んだ。

 ベースタイプやアイテムレベルが特に魅力的には見えないもの。

 壊れても腹が立たないもの。

 

 それから、実験に適した一般的な通貨を選んだ。

 マットは『COPY』を見た。

 彼の現在の戦闘用ロードアウトは『不動の歩み』と『瞬動』だ。

 彼は鍵のかかったトレーラーの中にいる。

 誰も彼を殺そうとしていない。

 2つの戦闘スキルを外す。

『生命の刻印』と『元素の守護』を入れる。

 

【アクティブコピースロット】

 生命の刻印 — C

 元素の守護 — C

 

 2つのスロット。

 2つのクラフトスキル。

 まだ入れ替える必要はない。

 

 マットは最初のベースをテーブルに置き、通貨を準備した。

 その時、システムプロンプトが表示された。

 

 複数の適合するクラフト・ユニークスキルがアクティブです

 

 この通貨適用に対するクラフト・ガイダンスを選択してください:

 

 ・生命の刻印

 ・元素の守護

 ・ユニークスキルによるガイダンスなし

 

 その下に、小さな一行が表示されていた。

 

※明確に別の指定がない限り、1回のクラフト通貨適用を誘導できるクラフト・ユニークスキルは1つのみです。

 

 マットは動きを止めた。

「答え合わせが一つ終わったな」

 

 よし。

 たまたま両方のアビリティを装備しているからといって、1つのオーブに「ライフ」と「耐性」の確定を重ねがけ(スタック)することはできない。

 

『COPY』の強みは「連続的な特化(シーケンシャル・スペシャライゼーション)」にあるということだ。

 すべての奇跡を1クリックに合成できるわけではない。

 

 マットは選択した:

 

 生命の刻印

 

 彼は通貨を適用した。

 スペクタクルな鍛冶屋のエフェクトなどは一切ない。

 通貨が装備に溶け込み、システムがモディファイアを確定させた。

 

 新しい行が表示された。

 

 最大ライフ

 

 マットは即座に『COPY』を確認した。

 

 生命の刻印

 本日の残り使用回数:9 / 10

 

 元素の守護

 本日の残り使用回数:10 / 10

 

 彼は見つめた。

 片方を使っても、もう片方には触れていない。

 別々のスキル。

 別々の一日の状態管理。

 素晴らしい。

 

 マットは2つ目の使い捨てベースに移った。

 両方のクラフトスキルはまだアクティブなままだ。

 通貨を準備すると、同じガイダンスプロンプトが現れた。

 

 今度は選択した:

 

 元素の守護

 

 対象となる属性耐性ファミリーを選択し、通貨を適用する。

 アイテムが変化した。

 耐性モディファイアが現れた。

 

 マットはもう一度カウンターを確認した。

 

 生命の刻印

 本日の残り使用回数:9 / 10

 

 元素の守護

 本日の残り使用回数:9 / 10

 

 マットはゆっくりと椅子の背もたれに寄りかかった。

「確認完了(コンファームド)」

 

 コピーされたそれぞれのクラフトユニークは、独自の「1日使用回数プール」を維持する。

 片方を使っても、もう片方のキャパシティは消費されない。

 同時に装備することは可能。

 ただし、1回の通貨適用につき受けられる『確定(ギャランティ)』は1つだけ。

 

 彼はそれを書き留めた。

 

【クラフト・テスト】

 ・生命の刻印:10/10 → 9/10

 ・元素の守護:10/10 → 9/10

 ・カウンターは独立している:確認済

 ・複数のクラフトスキルを同時に装備可能

 ・1回の通貨適用を誘導できるクラフトユニークは1つのみ

 

 それから、マットはもう一行書き加えた。

 

『これはあまりにも馬鹿げている』

 

 彼はその下に下線を引いた。

 

 ◆

 どちらのテストアイテムも、結果自体は目を見張るようなものではなかった。

 だが、重要なのはそこではない。

『それがそこに存在している』ということだ。

 

 今朝、マットはダナ・ブルックスがCランクのプロフェッショナルな特化能力を使うのを見た。

 今、まったく同じ能力(ケイパビリティ)が彼のアーカイブの中に存在している。

 

 彼は別のクラフターが属性耐性を確定させるのを見た。

 今、彼にもそれができる。

 

 オリジナルのクラフターたちは何も失っていない。

『COPY』は、その取引における「最も希少な部分」だけを複製したのだ。

『特化能力(スペシャライゼーション)』そのものを。

 

 もちろん、素材は依然として重要だ。

 ボスドロップのベースは、マットが現金で買わなかったからといって「無料(フリー)」なわけではない。彼はそれを売ることもできた(機会費用)。

 通貨にも市場価値がある。

 機会費用の概念は依然としてリアルだ。

 

 しかし、限られた人間の『確定(ギャランティ)』——人々が行列を作り、サービス料を支払うその部分——を、マットは今や『自分自身で供給できる』ようになったのだ。

 

 そこが馬鹿げている部分だった。

 通常の装備メーカーは、複数のスペシャリストを調整(コーディネート)することで多段階のクラフトプロセスを解決している。

 マットは、そのスペシャリストたちを一つのアーカイブの中にまとめて『収集(コレクション)』できる可能性があるのだ。

 

「アクティブコピー枠が2つ」という制限は依然として重要だ。

 今日はたまたま、『生命の刻印』と『元素の守護』が同時に枠に収まった。

 もし彼がいずれ有用なクラフトスキルを5つ集めたとしても、5つ同時に装備(ホールド)することはできない。

 

 だが、作業台(ワークベンチ)の前であれば、その制限は戦闘中ほど痛手にはならない。

 

 1つの工程(ステージ)を終える。

 安全にスキルを入れ替える(スワップ)。

 続ける。

 

 マットは微笑んだ。

 共同組合での「Bランクの失敗(コピー拒否)」には、いまだに意味がある。

 彼はすべてを集められるわけではない。

 今はまだ。

『鍛え抜かれた刃(テンパード・エッジ)』がそれを証明してくれた。

 

 しかし、Cランクのクラフト特化スキルが2つあるだけでも、その原則を証明するには十分だった。

 マットはトレーラー内に散らばった無地の装備を見た。

 それから、通貨の箱を見た。

 それから、『COPY』を見た。

 

「ああ、これはマズいな」

 彼は言葉を切った。

「経済にとって」

 

 国家経済(ナショナル・エコノミクス)の話ではない。

 彼は一人だ。国レベルの巨大な装備市場の希少性を彼一人で消し去ることなどできない。

 

 だが、『マシュー・ヘイズ個人』の経済にとっては? 

 これは完全にぶっ壊れている。

 

 外部のクラフターへの依存度を下げることができる。

 自分自身のビルドに特化した装備を自分で構築できる。

 後のスペシャリストのために、半分完成したアイテムを下準備しておくことすら可能かもしれない。

 そのうち、有用な完成品を売ることもできるだろう。

 

 そして何より、彼はすでにキャンプからキャンプへと旅をしているのだ。必然的に、新しい職業(プロフェッション)を持った新しい探索者たちに出会い続けることになる。

 

 このロードトリップに、もう一つのレイヤーが追加された瞬間だった。

 

 ◆

 マットはホワイトベースのチャンネルに戻った。

 実際にアイテムを2つクラフトしてみた今、すべての初心者向け動画がまったく違って見えた。

 

 ベースタイプは重要だ。

 アイテムレベルは重要だ。

 モディファイアのスロット数は重要だ。

 通貨の選択は重要だ。

 何が追加できるか。

 何が変更できるか。

 そして、『その価値を完全に理解するまでは、絶対に手をつけてはいけないもの』はどれか。

 

 彼はプラスチックの箱をちらりと見た。

 ラベルに書かれた文字:

 

『クラフト — 後で調べる』

 

 すでに時代遅れに感じられた。

 マットはマーカーを手に取り、付け加えた。

 

『現在調査中(フィギュアリング・アウト)』

 

 よし。

 

 彼は別のガイドを開いた。

 サムネイルには、ノーマルアイテムとマジックアイテムが並んでいる。

 巨大な文字:

 

『白いベースを店売りするのは今すぐやめろ』

 

 マットはクリックした。

「わかったよ」

 

 正式に「沼(ラビットホール)」が始まった。

 

 ◆

 マットが再び時計を見た時、時刻は正午に近づいていた。

 ボスクリアと魔石の高額配当が、いつの間にか「今朝のそこまで面白くない方の出来事」に成り下がっていた。

 

 彼は『COPY』に目を向けた。

 生命の刻印。

 元素の守護。

 どちらもCランク。

 

 どちらも、公共のクラフト共同組合に立ち、人々が仕事をしているのを「観察」しただけで手に入れたものだ。

 

 今日まで、マットは『COPY』を主に『戦闘スキル』だと考えていた。

 誰かが戦うのを見る。

 彼らの奇跡をコピーする。

 自分が強くなる。

 

 その解釈はあまりにも狭すぎた。

 クラフターの奇跡もカウントされる。

 労働者の奇跡もカウントされる。

 経済的な奇跡もカウントされる。

 

 マットが目撃した「不可能なこと」が、モンスターを殺すためのものであろうと、手袋に最大ライフを確定させるためのものであろうと、『COPY』には関係ないのだ。

 

 彼はテーブルの上の2つのテストクラフト品を見た。

 1つは今やライフを持っている。

 もう1つは耐性を持っている。

 それぞれの特化能力(スペシャライゼーション)を1回見ただけで、彼自身がそれをやってのけたのだ。

 

 マットは手帳を開いた。

 

【現在のクラフト用コピー】

 生命の刻印 — C — 残り 9/10

 元素の守護 — C — 残り 9/10

 

 優先事項:自分の装備(セルフ・ギア)を最優先

 

 金稼ぎは後でいい。

 マットにはすでに、旅をし、装備を買い、いくつか間違った決断をしても生き延びられるだけの金がある。

 彼が持っていないのは『最適化された装備(オプティマイズド・ギア)』だ。

 

 もし『COPY』が、「自分のビルドに完全にフィットする装備を自作する」ための助けになるなら、それは初心者用のヘルメットを10個売るよりもはるかに面白い。

 

「まずは、死なないための装備から始めよう」

 良い優先順位だ。

 

 そして、もしその装備がたまたま利益を生むようなものになったら——

 マットは全米市場(ナショナル・マーケット)のタブをちらりと見た。

 

 まあ。

 別に反対はしない。

 

 Bランクの壁があるため、すべての職業を収集できるわけではない。

 まだ。

 

 だが、Cランクだけでも、すでに2つの「完全なクラフト特化能力」を与えてくれた。

 そして、他にもキャンプはある。

 他のクラフターがいる。

 他の州がある。

 

 マットの視線が、『COPY』の横にある『SSS』のマークに落ちた。

 

 昨日、彼はこのスキルを「戦闘の問題に対する回答(アンサー)を集められるからチートだ」と思っていた。

 

 今日、彼はそれが『一つの産業(インダストリー)の断片を集めることができる』と発見した。

 

 マットは『生命の刻印』を見た。

 それから『元素の守護』。

 それから、テーブルの上にある2つの成功したクラフト品。

 最後に、クラフトガイドで埋め尽くされたブラウザを見た。

 

「俺のユニークスキル、完全にぶっ壊れてるな(コンプリートリー・ブルシット)」




ここまで読んでいただきありがとうございます! もし「面白い」「続きが気になる」と思っていただけましたら、ページ下部より【お気に入り登録】や【評価】、感想などをいただけると執筆の励みになります。 作者のモチベーション上昇に直結しますので、是非ともよろしくお願いします!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。