ダンジョン・ドリフター ~退職金でキャンピングカーを買ったら、放置していたスキルが『SSSランク:完全複製(コピー)』だった件。最強スキルを拾い集めて全米横断の旅に出る~ 作:パラレル・ゲーマー
午後の半ば。
マットはC-87サイトのトレーラー内の折りたたみテーブルに座り、オーチャード・キーパーの戦利品の「残り物」を見つめていた。
その山は小さくなっていた。
劇的にではないが。
より優秀だった6つのベース装備は、もはや無地の「白いドロップ品」として床に転がってはいない。マットが現在それらを身につけている。『最大ライフ』と『有用な属性耐性』を備えた『レア装備』に生まれ変わって。
当面の防御力の再構築(リビルド)は完了した。
さらに重要なのは、コピーした両方のクラフトスキルのキャパシティがまだ残っているということだ。
生命の刻印 — 4 / 10
元素の守護 — 4 / 10
マットは背もたれに寄りかかった。
「奇跡の在庫がまだ8回分も残ってるな」
彼はその言葉の響きを吟味した。
「……なんか不健康(アンヘルシー)な響きだな」
残されたノーマル装備は、彼が自分用に選んだものと比べると魅力に欠けていた。ただのレベル8ベース。魅力的な暗黙プロパティ(インプリシット)もない。異常に高い初期防御力もない。数日前なら、マットが何のためらいもなく店売りしていたであろう「白い装備」そのものだ。
装備の山の横には、クラフト通貨が二つのラベル付きコンテナに分けられて置かれている。
『コモン — 実験しても安全』
そして:
『高価 — バカな真似はするな』
今のところ、このシステムのおかげで彼が「ノー・マネー・ヘイズ」に転落する事態は防がれていた。
彼はこの無敗記録を維持するつもりだった。
マットはノートPCを開いた。
先ほど、彼は一つの優先順位を確立していた。
『自分の装備(セルフギア)を最優先』。
彼の装備は完成した。
永久に完成したわけではない。どうやらこの世界にその概念は存在しないらしい。
彼の手袋はまだ『攻撃速度』を求めている。ブーツは『移動速度』を求めている。カオス耐性は依然として美学的に許しがたい『ゼロ』のままだ。
だが、緊急の作業は終わった。
つまり——
「技術的には……」
マットは全米装備市場(ナショナル・マーケット)を開いた。
彼は手を止めた。
「別に起業するわけじゃないぞ」
マーケットが読み込まれる。
「アイテムは4つだけだ」
マットは指を1本立てた。
「4つじゃビジネスとは呼ばない」
2本目の指を立てる。
「これは『サンプル調査』だ」
よし、しっくりきた。
◆
マットは「現在出品中(アクティブ)」のリストから調べ始めたりはしなかった。
出品中のリストは、「売り手がこれくらいで売れたらいいなと妄想している価格」を示しているに過ぎない。
彼が知りたいのは、「買い手が実際にいくら払ったか」だ。
だから彼は『最近の取引(Recently Sold)』タブに切り替え、レベル8以下のレア装備で『最大ライフ』と『属性耐性』が一つずつついているものでフィルターをかけた。
市場は十分な数の実例を提示してくれた。
【最近の類似取引】
ヘルメット — +24 ライフ / +7% 火耐性 — $335
手袋 — +29 ライフ / +9% 氷耐性 — $510
ベルト — +27 ライフ / +8% 雷耐性 — $420
ブーツ — +28 ライフ / +9% 火耐性 — $475
マットはスクロールを続けた。
300ドル(約4万5,000円)を下回るものもある。500ドル(約7万5,000円)を超えるものもある。優れたベースに強力な数値(ロール)がついたものは、時折700ドルや800ドルに達していた。
ホワイトベースが見せた「800ドルの初心者装備の例」は確かに存在した。
ただ、適当な装備に「ライフ」と「耐性」をつけたからといって、自動的にその値段になるわけではないというだけだ。
マットは検索条件をさらに絞り込み、異なるベースや異なる耐性タイプで似たようなロールの価格を比較した。
価格は変動し続けた。
良いベースであること。
正確な数値ロール。
現在のダンジョンの需要。
それらがすべて価格に影響する。
マットはペンでテーブルをトントンと叩いた。
「つまり、このスキルが『固定額の紙幣を印刷する』わけじゃないんだな」
彼は『生命の刻印』の表示を見た。
「このスキルは『有用な部分』を確定させるだけだ。その結果にどれだけの価値があるかは、市場(マーケット)が決める」
その方が正確だ。
マットは『生命の刻印』が「+24」を出すか「+30」を出すかを選ぶことはできない。
彼が選べるのは、「結果にライフが含まれる」ということだけだ。
ギャンブルではなく、製造(マニュファクチャリング)。
彼はスプレッドシートを開いた。
当然だ。
【クラフト・テスト】
・ベースの市場価値
・通貨の市場価値
・総投入価値(インプット・バリュー)
・クラフト結果
・推定完成価値
・実際の売却価格
・付加価値(バリューアッド)
マットはその表を見た。
「正常(ノーマル)だな」
彼は残りのボス戦利品の中から、使い捨て用のベースを4つ選んだ。
ヘルメット。
手袋。
ベルト。
ブーツ。
どれも特別な暗黙プロパティはない。プレミアムなベースタイプでもない。使って後悔するような代物ではない。
マットはそれらが無改造(クリーン)の状態でいくらで売れるかを確認し、消費する予定のコモン通貨についても同じように計算した。
完成品のレア装備に比べれば、投入(インプット)価値は低い。
しかし、「低い」は「ゼロ」ではない。
マットがクレジットカードを切って買わなかったからといって、材料が「無料」なわけではないのだ。
代わりに売ることもできたのだから(機会費用)。
マットはおおよその機会費用をスプレッドシートに入力し、ヘルメットを手元に引き寄せた。
「もしこれをゴミにしたら、俺は何かを『学ぶ』」
彼は通貨を手に取った。
それから『最近の取引』タブをちらりと見た。
「もしこれを改良できたら……」
マットは微笑んだ。
「俺は『利益の出る何か』を学ぶ」
◆
最初はヘルメットだ。
マットは安価な低レベル通貨でノーマル・ベースを準備し、『生命の刻印』と『元素の守護』を使って彼が望む二つのモディファイアを追加した。
結果はこう落ち着いた:
最大ライフ +25
火耐性 +8%
推定価値:
≈ $340
「400ドルには届かないな」
それでも、材料費に比べれば非常にポジティブな結果だ。
手袋の結果はより良かった。
最大ライフ +29
氷耐性 +9%
推定価値:≈ $525
マットはその差額を見つめた。
同じプロセス。
同じクラフトスキル。
より良いロール(数値)。
二つの完成品の間には、推定価値で約200ドルの差が出た。
「なるほどな」
ランダム性(RNG)が消滅したわけではない。
『狭められた』だけなのだ。
ベルトは『+26 ライフ』と『+10% 雷耐性』で、約410ドル。
ブーツは『+28 ライフ』と『+9% 火耐性』で、推定460ドル。
4つの完成品がテーブルの上に並んだ。
マットは『COPY』を確認した。
生命の刻印 — 0 / 10
元素の守護 — 0 / 10
彼はそのゼロを見つめた。
マットは疲れていない。
マナは満タンだ。
彼がこれ以上作業を続けるのを物理的に妨げるものは何もない。
ただ、「奇跡」そのものが、本日の生産キャパシティを使い切っただけだ。
「俺の工場は本日の営業を終了しました」
マットはトレーラーの中を見回した。
キッチン。
ベッド。
バスルーム。
ノートPC。
クラフト通貨。
ダンジョンの戦利品の箱。
「……どうやら俺のトレーラーは工場だったらしいな」
それは憂慮すべき事態の進展だった。
◆
マットは、最近の類似取引の価格帯に近い設定で、4つすべてをマーケットに出品した。
ヘルメット — $345
手袋 — $525
ベルト — $420
ブーツ — $475
合計希望額:$1,765(約26万5000円)
マットはその数字を見つめた。
「売上(レベニュー)だな」
頭の中で、即座にホワイトベースが答えた。
『はいはい、画面の向こうで「それは売上だ!」って叫んでるお前』
マットはノートPCに向かって顔をしかめた。
「……あの動画、嫌いだわ」
粗利益の数字は見事なものだった。
だが、その1,765ドルが無から湧いてきたわけではない。
ベースには価値がある。通貨にも価値がある。市場の取引手数料(マーケットプレイス・コスト)も存在する。そして、定期的なクラフト収入にどのような税金がかかるのか——うっかり「第二のキャリア」を発見してしまう前に、調査しておかなければならない。
それでも。
4つの平凡なベース。
それぞれのクラフトスキルの残り4回分。
夕食を作るよりも短い時間で、これだけの意味ある付加価値(バリューアッド)を生み出せる可能性があるのだ。
無視するのは難しい。
マットはマーケットの画面を閉じた。
更新(リフレッシュ)ボタンは押さない。
「売れるまで出品画面を見つめ続けるようになったら、俺は『オフィスワーク』を再構築したことになる」
絶対に嫌だ。
外にはモンスターがいる。
現在のところ、そっちの方が健全な選択肢だ。
マットは立ち上がり、戦闘用の装備を整えた。
ロングソード。
ライフ・フラスコ。
マナ・フラスコ。
ポータル・スクロール。
そして『COPY』。
『生命の刻印』と『元素の守護』はすでに使用回数が尽きている。
両方を外す。
『不動の歩み』と『瞬動』を戻す。
マットは二度確認した。
「よし」
レベル9になりたかった。
できれば、いくつかの戦利品付きで。
◆
ゲートへ向かう道の半ばで、マットの思考はC-87に残してきた「残りのノーマル装備」へと戻っていった。
数日前まで、白いテキストは彼にとってこう読めていた。
『たぶん店売り用(ベンダー・フォダー)』。
今や、すべてのノーマル・ドロップが第二の質問を投げかけてくる。
『ベース自体は良いものか?』
それは不運なことに、「作業が増えること」を意味した。
マットはキャンプを歩きながらスマホを取り出し、ホワイトベースのチャンネルを検索した。
短い動画が即座に見つかった。
『色で白いアイテムをフィルター(非表示)するのはやめろ』
「……当然、こういう動画も作ってるよな」
マットは再生を押した。
ホワイトベースが、完全に無地の剣を持ってガレージに立っていた。
「白いアイテムは、お前に『一つ』のことを教えてくれる」
彼は識別(アイデンティファイ)パネルを指差した。
レアリティ:ノーマル
「それは、『そのアイテムに何がなされたか』を教えてくれる」
間を置く。
「『何もなされていない』、とな」
ホワイトベースは剣を掲げた。
「それは、『そのアイテムに何かをする価値があったかどうか』までは教えてくれない」
2つ目のパネルが表示された。
ベースタイプ
「レアリティは『現在の状態』だ。ベースは『基礎(ファウンデーション)』だ」
6つの輝くモディファイアがついた、最悪な剣のベースが表示された。
「ゴミみたいなベースだ」
ホワイトベースは肩をすくめた。
「レアだけどな」
彼はそれをゴミ箱に投げ捨てた。
「ゴミはゴミだ」
次に、完全にノーマルの剣が現れた。
より優れた初期特性。
より高いアイテムレベル。
強力な暗黙プロパティ(インプリシット)。
「良いベースだ。クリーン。有用。価値がある」
ホワイトベースはカメラを指差した。
「レアリティは、アイテムに『何が起きたか』を教える。ベースは、それが『気にする価値があるものか』を教える」
マットは歩くのを止めた。
「……なるほどな」
ウザいくらい簡潔だ。
「白い装備を調べる時は、ベースタイプ、要求レベル、アイテムレベル、暗黙プロパティ、そして『市場が実際にそれを求めているか』を確認しろ」
ホワイトベースが画面に身を乗り出した。
「すべての白い剣を拾うな」
間を置く。
「ゴミ収集業者になるぞ」
マットは自分のトレーラーの方向を振り返った。
「……耳が痛いな」
「最高級のキャンバスだけを拾え」
ホワイトベースはもう一本の価値のない剣をゴミ箱に投げ捨てた。
「ゴミは置いてけ」
動画が終わった。
マットはスマホをしまった。
「それなら管理(マネージ)できそうだ」
たぶん。
前方にゲートが見えてきた。
マットは、人がそこそこいて、ボスがすでに死んでいるインスタンスを選択した。
インスタンス126 — 27/64 — ボス討伐済
競争(レース)なし。
ボスのプレッシャーもなし。
今日は「狩り(ファーミング)」の日だ。
経験値。
戦利品。
練習。
マットは足を踏み入れた。
◆
永遠のアッシュフィールドの夕日が、ありえない色合いのオレンジと紫で地平線に広がっていた。
マットはロングソードを抜いた。
「レベル9へ」
草が動いた。
アッシュ・ラビットが道脇から飛び出し、一度フェイント(ジューク)を入れ、さらにもう一度フェイントを入れた。
マットは追いかけなかった。
リープ・スラムが彼をウサギの進路の先へ運び、クリーチャーの『新しい進行方向』に正確に着地した。
ウサギがブレーキをかける。
マットが振る。
灰。
「マシになった」
頭上からシンダー・クロウが鳴いた。
マットが見上げる。
すでにくちばしに火が形成され始めている。
彼は今日、すでに十分すぎるほど「科学的実験」をこなしていた。
ブレード・プロジェクション。
マナで形成された剣が、火の玉が放たれる前にカラスに命中した。
灰。
マットは動き続けた。
灌漑用の溝の近くからブライアー・ハスクが現れる。
ヘビーストライク。
木が砕ける。
戦利品が現れた。
魔石。
植物素材。
ノーマルの剣。
マットはそれを見た。
白。
一日前なら、無意識に拾い上げていただろう。
今日、彼はまずスキャンした。
平凡なベース。
特筆すべき暗黙プロパティなし。
何も面白くない。
「ノーだ」
彼はそれを置いていった。
戦利品を地面に残していくのは、最初は奇妙な感覚だった。
そして、すぐに満足感に変わった。
少し後で、マジックの手袋がドロップした。
青。
マットの古い本能が即座に囁いた。
『白よりマシだぞ』。
彼はスキャンした。
弱いマナ回復。
微々たる雷耐性。
平凡なベース。
推定価値:$12(約1,800円)
マットは見つめた。
「……青いな」
間を置く。
「そしてゴミだ」
彼はそれも置いていった。
これは「再訓練(リトレーニング)」が必要だ。
『色』は『価値』ではない。
『色』は『情報』だ。
それも、不完全な情報に過ぎない。
◆
XPバーは順調に上昇していた。
最初の数レベルのような爆発的な上がり方ではないが、マットは依然としてアッシュフィールドの推奨レベル範囲内に快適に収まっていた。
レベルが上がれば、単により多くの「作業」が必要になるだけだ。
彼はさらにウサギの群れを処理し、2匹のカラス、そしてブライアー・ハスクを倒した。
さらにXPが入る。
魔石。
植物素材。
そして、混合パックからレア・ヘルメットがドロップした。
黄色。
マットは馴染みのある「小さな興奮」を感じた。
そして、自分を制止した。
「よし」
彼はスキャンした。
最大ライフなし。
弱い耐性。
平凡なアーマー・ベース。
一見有用そうに見えた一つのモディファイアも、数値を調べると最低ランク(ボトムロール)だった。
推定価値:$70(約1万500円)
マットは見つめた。
昨日なら、反応はこうだった。
「レアだ!」
今日:
「70ドルか」
彼はそれでもそれを拾った。
70ドルは「無(ゼロ)」ではない。
だが、「黄色」という色自体が彼を感動させることはもうなかった。
その気づきは、少しばかり落ち着かない(アンセトリング)ものだった。
彼は探索者になってから、まだ2週間も経っていないのだ。
なのに、彼はすでに「戦利品のスノブ(選民意識の塊)」になりつつあった。
「展開が早すぎるな」
◆
約30分後、マットは果樹園に半分飲み込まれた古い石垣に到達した。
崩れた部分の近くを3体のブライアー・ハスクが徘徊し、その間を4匹のアッシュ・ラビットが動いている。
対処可能(マネージャブル)。
マットは近づいた。
最初のウサギが反応する。
その後ろに2匹目が重なる。
よし。
クリーブ。
赤い弧が3匹のウサギを同時に捉えた。
灰。
生き残った1匹が散開する。
最初のブライアー・ハスクが腕を振る。
マットは内側に踏み込み、ヘビーストライクで答えた。
『ドガァン!』
1体ダウン。
2体目が両手を土に叩きつけた。
根が噴出する。
『不動の歩み』がその引っ張りを受け止める。
マットは拘束のセットアップが完了した瞬間にそれを解除し、リープ・スラムを使ってハスクを飛び越え、その背後に着地した。
ヘビーストライク。
2体目ダウン。
3体目のハスクが振り返り、同時に生き残っていたウサギが彼に近づきすぎた。
マットは再びクリーブを使い、ハスクを削りながら同じ弧でウサギを消し去った。
通常の素振りを2回重ねて、最後のモンスターを沈める。
空き地が静かになった。
戦利品が現れる。
魔石。
エンバー(残り火)の樹皮。
小さなクラフト通貨が1つ。
そして、無地のブーツ。
白。
マットは2歩離れた。
そして止まった。
「……ブーツ」
バスティオン。
移動速度(ムーブメント・スピード)。
マットは振り返った。
ブーツは石垣のそばに、まったく何の変哲もない顔をして鎮座していた。
茶色い革。
小さな鋼の補強。
白いシステムのテキスト。
彼はARコンタクトに焦点を合わせた。
ウィンドランナー・ブーツ
レアリティ:ノーマル
要求レベル:9
暗黙(インプリシット):+8% 移動速度
マットは見つめた。
「……おお」
彼はしゃがみ込み、最後の一行をもう一度読んだ。
暗黙(インプリシット):+8% 移動速度
追加効果(アフィックス)ではない。
誰かのクラフト結果でもない。
ベース『そのもの』だ。
最初から組み込まれている(ビルトイン)。
マットはそれを拾い上げた。
「誰の手垢もついてないのに、こいつはすでに『速い』のか」
彼の現在のブーツも、強力なベースの暗黙プロパティを持っている。『+25 最大ライフ』だ。その上に、マットはさらに『+28 ライフ』と『雷耐性』をクラフトした。
見事な防衛特化ブーツだ。
だが、このウィンドランナーは「別のもの」を提供している。
速度(スピード)。
バスティオンの説明が蘇る。
『移動速度は防御だ』
『移動速度はダメージだ』
『移動速度は金だ』
マットは果樹園の道を見渡した。
彼は何時間もダンジョンの中を『移動』して過ごしている。
群れと群れの間をジョギングする。
距離を詰める。
位置を取り直す(リポジショニング)。
入り口からボスまでの距離を走る。
移動スキルは助けになる。
しかし、マナを消費する。
移動速度(ムーブメント・スピード)は消費しない。
「常に8%」
マットは「1時間の探索(ラン)」について考えた。
「10時間」について。
「数ヶ月」について。
「……それはデカいな」
彼は市場の推定価格(エスティメイト)を確認した。
推定市場価値:正確な特定不能
「役に立たないな」
マットはスマホを取り出し、全米装備市場を開いた。
完全に一致するベース。
ウィンドランナー・ブーツ。
ノーマル。
低レベル。
最近の取引(Recently Sold)。
結果がロードされる。
+8% ウィンドランナー・ブーツ — $1,100
+8% ウィンドランナー・ブーツ — $1,275
+8% ウィンドランナー・ブーツ — $1,180
マットはゆっくりとスマホを下ろし、手の中にある「完全に白いアイテム」を見た。
「……これ、白だぞ」
およそ1,200ドル(約18万円)。
彼の戦利品バッグに入っている「レア・ヘルメット」の価値は70ドルだ。
この無地の白いブーツは、1,000ドル以上の価値がある。
「オッケー」
そしてマットは、ベースの情報を開いた。
ウィンドランナー・ブーツ
暗黙プロパティの変動幅(レンジ):+5% — +8% 移動速度
彼は凍りついた。
彼の一足:
『+8%』。
最大値(マックスロール)。
「……当然そう来るよな」
彼は「完璧な暗黙プロパティ」を拾ったのだ。
彼が高ランクの探索者たちを「細かい数字に固執しすぎだ」と笑っていた、まさにその『執着の対象』が、今や彼自身の問題になったのだ。
マットは暗黙プロパティの数値ごとに最近の取引を検索した。
その差は微妙(サトル)なものではなかった。
+5%は底値に張り付いている。
+6%は少し高くなる。
+7%は、アイテムレベルや他のベースの詳細によってさらに高くなる。
そして、+8%には明確な『プレミアム』が乗っていた。
マットは見つめた。
「たった1パーセント」
またしてもだ。
高レベル帯におけるライフの1ポイント。
ここでの移動速度の1パーセント。
完璧は、完璧(パーフェクト)なのだ。
市場はそれを知っている。
「わかったよ」
マットは敗北を認めた。
「あの狂った連中の気持ちが、今なら理解できる」
その時、彼はさらに奇妙な事実に気づいた。
最近の『マジック』装備の取引履歴に、まったく同じ「+8% ウィンドランナー」ベースが使われていた。
売却価格:$680
マットは眉をひそめた。
「なんでこっちの方が安いんだ?」
彼は出品履歴を開いた。
既存のモディファイアが1つある。
マナ関連の平凡なアフィックスだ。
絶望的なハズレではない。
だが、有用でもない。
別の最近の取引は『レア』だった。
同じく完璧な「+8%」の暗黙プロパティ。
いくつかの平凡なモディファイア。
弱い火耐性。
低い属性ロール。
些細なマナボーナス。
売却価格:$390
マットは見つめた。
「……誰かが、こいつを『改悪』したのか」
そこだ。
欠けていたピース。
ノーマルバージョンが価値を持つのは、「未完成であるにもかかわらず」ではない。
「未完成である『からこそ』」価値があるのだ。
クリーン(白紙)。
取り除くべきものがない。
修復(リペア)すべきものがない。
前の所有者の「下手くそなクラフトの決断」が、スタート地点を汚染していない。
クラフターは、完璧な「+8%の移動速度インプリシット」から始め、そこから意図的にビルドを構築できる。
ライフ。
耐性。
ベースがサポートするその他の何かを。
清掃(クリーンアップ)の工程が不要。
無駄な通貨(カレンシー)の消費もない。
マットはブーツを見た。
「最高級の『原材料』ってわけだ」
まさに。
ホワイトベースの言葉が蘇る。
『レアリティは、アイテムに「何が起きたか」を教える。ベースは、それが「気にする価値があるものか」を教える』
マットは微笑んだ。
「……今ならわかるぞ」
このブーツは『完成品(プロダクト)』ではない。
これは、『最高の始まり』なのだ。
◆
マットはさらに数分間、高額で取引されたウィンドランナーを巡る市場の議論(ディスカッション)をチェックした。
買い手たちは通常、それを「今すぐ履くため」に買っているわけではなかった。
投稿はクラフト用語で溢れていた。
『クリーン』。
『完璧なインプリシット』。
『良好なアイテムレベル』。
『ライフ狙い(ターゲット)』。
『耐性狙い』。
『移動特化ビルド』。
買い手の一部はプロのクラフターだ。
他の買い手は、理想的な『土台(ファウンデーション)』を購入し、それを完成させるためにスペシャリストに金を払う探索者たちだ。
ある買い取り注文(バイ・オーダー)にはシンプルにこう書かれていた。
クリーンな+8にプレミアム払います。+7ならメッセージを送ってこないでください。
マットは見つめた。
「……本当にお前らみたいな奴がいっぱいいるんだな」
パーフェクトロール信者。
どこにでもいる。
彼はウィンドランナーと現在の自分のブーツを比較した。
現在のペア:
+25 最大ライフ 暗黙プロパティ
+28 最大ライフ
+8% 雷耐性
ウィンドランナー:
+8% 移動速度 暗黙プロパティ
クリーン(無改造)
もしマットが新しいペアを今すぐ履けば、彼は意味のあるレベルで「速く」なるだろう。
と同時に、かなりの量の生存能力(サバイバビリティ)を捨てることになる。
割に合わない。
今のところは(Not yet)。
だが、クラフトスキルがリセットされた後はどうだ?
ライフ。
耐性。
それをつけてから、もう一度比較する。
片方はより硬い(タンキー)。
もう片方はより速い(ファスター)。
マットは微笑んだ。
「これが俺にとって初めての、本当の意味での『装備のトレードオフ(取捨選択)』だな」
「初めてのビルド選択」ではない。
それはすでに山ほどやってきた。
パッシブ。
スキルジェム。
『COPY』のロードアウト。
だが、装備の選択は今までもっとシンプルだった。
より良いか。
より悪いか。
今回は違う。
これは『自分が何を重視するか(バリューするか)』に依存する。
「最高だな」
マットはブーツを見た。
「俺は今、靴に対して『強い意見』を持つようになったぞ」
彼はそれを装備しようとしてみた。
システムが拒否した。
要件を満たしていません
要求レベル:9
マットは自身のステータスを確認した。
レベル8。
「そりゃそうか」
バスティオンの講義が丸ごと蘇ってくる。
お金は要件をバイパスしない。
どうやら、「1,200ドルのベースを自力で拾うこと」もバイパスさせてはくれないらしい。
マットはウィンドランナー・ブーツを慎重に戦利品バッグの中に固定した。
それから、XPバーを確認した。
「まずはレベル9だ」
単に数字が上がるのを見る以上の理由ができた。
あのブーツを履きたい。
その方が、はるかにモチベーションが上がる。
◆
その後の探索(ラン)は一変した。
マットがすべての白いアイテムを拾い始めたからではない。
ホワイトベースは明確に「それはやめろ」と警告していた。
代わりに、マットはそれらを『チェック』し始めた。
貧弱なベースの白い剣?
放置(リーブ)。
有用な暗黙プロパティのない白い手袋?
放置。
平均的な白いヘルメット?
放置。
ベースが悪く、2つのハズレモディファイアがついたマジック武器?
これも放置。
マットはため息をついた。
「自分の仕事を増やしちまったな」
戦利品探し(ルートハンティング)が、『分析(アナリシス)』になってしまった。
かつて彼は、価値のある装備を見つけることは「正しい色がドロップするのを待つこと」だと思っていた。
今や、すべてのドロップには『レイヤー(階層)』がある。レアリティ、ベースタイプ、アイテムレベル、要求ステータス、暗黙プロパティ、既存のアフィックス、市場の需要、そして潜在的なクラフト価値。
時には、「まだ誰もそのアイテムに触れていないこと」自体が、そのアイテムの価値そのものになることもある。
マットは『@DelverMetrics(デルバー・メトリクス)』を開いた。
ウィンドランナー・ブーツ。
移動の暗黙プロパティ。
初心者市場。
詳細な分析ページが表示された。
価格履歴。
報告されたドロップ。
人気のアイテムレベル。
取引量(トレード・ボリューム)。
平均販売期間。
最も需要の高い暗黙プロパティの数値。
マットはスクロールし、ある項目を見つけた。
【トップ・クリーン・ベース — 初心者市場】
そのリストには、気味が悪いほど「白いテキスト」が含まれていた。
ノーマル・ブーツ。
ノーマル・ベルト。
ノーマル武器ベース。
そして、特に需要の高いモディファイアが『一つだけ』ついた、いくつかのマジックアイテム。
マットは見つめた。
「……こいつら、白いアイテムのデータまで追跡(トラック)してるのか」
当然だ。
金になるものには、いずれ必ず『スプレッドシート』が与えられる。
それはどうやら、文明の基本法則らしい。
「+8% ウィンドランナー」は、プレミアムな初心者向けブーツ・ベースとしてリストアップされていた。
エンドゲーム用ではない。
そのアイテムレベルでは、将来の装備に比べて「クラフトできる内容」がいずれ制限されるからだ。
だが、序盤の進行(プログレッション)においては?
最高峰(エクセレント)だ。
マットは頷いた。
クリーンなプレミアムベースは、それ自体が完全に独立した市場なのだ。
クラフターには『原材料』が必要だ。
ダンジョンがそれを供給する。
「当然だ。工場には原材料が必要だからな」
彼はデルバー・メトリクスを閉じた。
経済の勉強はここまでだ。
レベル9が先だ。
◆
10分後、その高く鋭い羽音(バズ)が始まった。
マットは立ち止まった。
カラスの羽音ではない。
ウサギの足音でもない。
別の何かだ。
濃厚な機械的な羽音が、果樹園の中を漂ってくる。
「……お初にお目にかかるな」
彼は剣を抜いた。
ノイズが大きくなる。
木々の間から、5つのシルエットが降りてきた。
巨大な昆虫。
それぞれがラグビーボールほどの大きさで、長い黒い羽がブレて見えるほどの速度で振動している。節くれだった体は内側から微かにオレンジ色に発光し、尾の先には気味が悪いほど長い毒針(スティンガー)がついていた。
マットのARがそれらを識別した。
エンバー・ワスプ(残り火の蜂)
アッシュフィールド果樹園 — Fランク
マットは見つめた。
「なるほどね」
アッシュフィールドの公開モンスターリストには、4種のモンスターが記載されていた。
マットはどうやら、3種類目まで読んで満足してしまったらしい。
ワスプ(蜂)たちは決して静止しない。ホバリングし、急発進し、高度を変え、絶え間なく散開し続ける。
シンダー・クロウは、少なくとも時折枝に止まる程度の礼儀は持ち合わせていた。
「このダンジョンは、本気で近接(メレー)ビルドを憎んでるな」
1匹のワスプが彼に真っ直ぐ加速してきた。
マットは横にステップした。
毒針が彼の腕をかすめるほど近くを通過し、刺突の圧力と熱の微かなコンビネーションをもたらした。
物理+火ダメージ。
ウザい。
2匹目のワスプが反対方向から来る。
マットは剣を掲げた。
ブレード・プロジェクション。
外れ。
投射された刃が到達する前に、ワスプが横へシフトした。
「……そう来るか」
動きが速いターゲット。
マットは『瞬動』を起動した。
群れが文字通りスローモーションになるわけではないが、その軌道が解析(パース)しやすくなる。
彼は1匹目のワスプの旋回を追い、その進行方向が確定(コミット)した瞬間を待ってから撃った。
ブレード・プロジェクション命中。
灰。
「1匹」
残りの4匹がさらに広く散開した。
マットには1つの遠距離スキルと、4つの空飛ぶターゲットがある。
理想的とは言えない。
2匹目のワスプが急降下(ダイブ)してくる。
マットは物理的に移動して避けた。
3匹目が後ろから攻撃してきた。
彼の回避(エバジョン)レイヤーが作動する。
EVADED(回避)
毒針がダメージを与えずに滑り落ちる。
マットは振り向いて剣を振ったが、ワスプはすでに剣の射程外へと上昇していた。
「行儀が悪いぞ」
4匹目が彼の肩に命中した。
アーマーが物理的衝撃をやわらげる。
火耐性が燃焼要素に対処する。
彼のライフはほんのわずかに落ちただけで、即座に自動回復がそれを埋め合わせ始めた。
「問題ない」
だが、すべてのワスプに個別にブレード・プロジェクションを撃ち込んでいけば、マナを消費し、時間もかかる。
マットは代わりに、彼らの行動パターン(ビヘイビア)を観察した。
何度も急降下する。
上昇する。
位置を変える。
また急降下する。
彼らは「射程(レンジ)に入ること」を望んでいるのだ。
面白い。
マットはわずかに剣を下げ、少し後退(グラウンドを譲る)した。
2匹のワスプが一緒に近づいてきて、3匹目がその後ろについてきた。
彼は待った。
もっと低く。
もっと近く。
1匹目が彼の胸に向かって急降下した。
2匹目が続く。
マットは1匹目の下を潜り抜け、2匹目に向かって体を回転させた。
クリーブ。
赤い弧が両方を捉えた。
1匹は即座に消滅した。
もう1匹は、マットが通常スイングでトドメを刺せる高さまで落下した。
灰。
「3匹」
最後のペアが再び分離した。
『瞬動』がマットに次の旋回を予測させる。
ブレード・プロジェクションが1匹を排除した。
最後のワスプが頭上を旋回し、一度フェイントをかけ、それから急降下した。
マットは待った。
「まだだ」
もっと近く。
今だ。
ブレード・プロジェクションがそれを真っ向から迎え撃った。
永遠の夕暮れの中に灰が弾け飛ぶ。
マットは剣を下ろした。
「……こいつら、嫌いだわ」
システムは彼の個人的な感想など気にしない。
戦利品が落ちる。
魔石。
小さな素材ドロップ。
そして、目に見える量のXP。
マットは微笑んだ。
「まあ、許す」
財務的に見合うなら我慢できる。
その時、再び羽音が戻ってきた。
別のパック(群れ)。
マットは上を見た。
「……もう次かよ」
2つ目のグループはさらに大きかった。
今回は、マットは彼らにエンゲージ(交戦の主導権)を握らせなかった。
彼らが囲い込んでくる前に、リープ・スラムで自らの位置を変える。果樹園の木々を利用して、彼らの接近角度を強制する。ブレード・プロジェクションで遠距離から1匹を排除し、『瞬動』でもう1匹をトラッキングし、低く集まったところにクリーブを叩き込む。
残りは個別に処理した。
依然として戦いにくい相手だ。
だが、それは有用な事実を証明してくれた。
彼の4つのスキルジェムは「冗長(リダンダント)」ではなかった。
クリーブは「群れ」を解決する。
ヘビーストライクは「硬い標的」を解決する。
リープ・スラムは「位置取り」を解決する。
ブレード・プロジェクションは「文明的なモンスターのように地面に立つことを拒否する敵」を解決する。
マットはため息をついた。
「ルークの言う通りだったな」
またしてもだ。
だんだん腹が立ってきた。
◆
マットはさらに1時間、狩りを続けた。
ウサギ。
ハスク。
カラス。
エンバー・ワスプの群れがさらに2つ。
ワスプのダイブのタイミングを覚えるにつれ、彼らはそれほどウザい相手ではなくなってきた。
「簡単(イージー)」になったわけではない。
「慣れた(ファミリア)」のだ。
その二つには違いがある。
同時に、彼は戦利品バッグの中に確保されたウィンドランナー・ブーツの存在を、ますます強く意識するようになっていた。
群れと群れの間をジョギングするたびに、マットは考えた。
『8パーセント』。
マナを使わずに距離を詰めるたびに:
『8パーセント』。
物理的に位置を変えるたびに:
『8パーセント』。
マットは顔をしかめた。
「最悪だ」
誰も彼の『実際の移動速度』を変えたわけではない。
彼は単に、「自分がもっと速くなれること」を知ってしまっただけだ。
どうやら、それだけで現在の自分の速度が「間違っている」ように感じられるらしい。
「こうやって、人は沼にハマっていくんだな」
別のブライアー・ハスクが死んだ。
XPバーはもうすぐだ。
マットは進み続けた。
ウサギ2匹。
カラス1匹。
そして、焼け焦げた納屋の近くにエンバー・ワスプの集団。
マットは戦闘に入った。
ブレード・プロジェクションで最初の1匹を落とす。
『瞬動』が2匹目の狙いを定めるのを助ける。
3匹目がクリーブの射程内まで降りてくる。
4匹目が側面から刺してきた。
回避は失敗したが、アーマーと火耐性のおかげで、気にするほどのダメージにはならなかった。
マットは向き直る。
ブレード・プロジェクション。
最後のキル。
システムチャイムが鳴った。
マットは動きを止めた。
【レベルアップ】
マシュー・ヘイズがレベル9に到達しました。
彼は息を吐き出した。
「……来たか」
別の更新が続く。
パッシブポイント:1 → 2
2つの未使用ポイント。
魅力的だ。
ルークの初心者ツリーには、最初の6つの先に明らかな続きの選択肢が用意されていた。
ライフの追加。
ダメージ。
アーマー。
あるいは他の何か。
マットは即興(インプロバイズ)でポイントを振ってしまう前に、パッシブツリーを閉じた。
「ガイドが先だ」
その教訓はすでに学んでいる。
それから、彼の意識は戦利品バッグの中のウィンドランナー・ブーツへ一直線に向かった。
ウィンドランナー・ブーツ
レアリティ:ノーマル
要求レベル:9
暗黙(インプリシット):+8% 移動速度
要求レベルの警告が消えていた。
マットは微笑んだ。
「……ようこそ」
彼はそれを装備することができる。
しかし、しなかった。
彼の現在のブーツは、暗黙プロパティとクラフトしたモディファイアを合わせて53の最大ライフを提供し、さらに雷耐性を持っている。
ウィンドランナーは現在、8%の移動速度以外は『何も提供しない』。
ダンジョンの真ん中で履き替えるということは、「新しいおもちゃが使えるようになったから」というだけの理由で、大量の防御力を捨てることを意味する。
2週間前なら、マットはおそらくやっていただろう。
今は?
「ノーだ」
彼はそれを慎重に戦利品バッグに戻した。
「クラフトが先だ」
比較はその後。
プログレス(進歩)。
マットはその答えが気に入った。
彼はポータル・スクロールを引き抜いた。
◆
アッシュフィールドの永遠の夕暮れが、現実のオハイオの夕方に置き換わった。
実際の太陽は沈み始めており、午後の探索者たちが戻ってくるにつれてキャンプの交通量が増加していた。
マットはゲートから歩き出した。
スマホが再接続される。
ブーッ。
彼は視線を落とした。
【アイテム売却】
クラフトされたヘルメット — $345
マットは立ち止まった。
「……おお」
市場での実験。
そうだった。
彼は歩き直した。
10秒後:
ブーッ。
【アイテム売却】
クラフトされた手袋 — $525
マットはその通知を見つめた。
「……おお」
これまでとは違う種類の満足感だった。
ボス戦ではない。
宝物庫を見つけたわけでもない。
レアなユニークが落ちたわけでもない。
彼はトレーラーの中に数分間座り、2つのコピーしたプロの特化能力を使っただけだ。
今、お金が「出現」している。
ベルトとブーツはまだ売れていなかった。
その方が信憑性がある。
4つ中2つが売れただけでも、需要を証明するには十分だ。
C-87に到着すると、マットは剣をしまい、今日の素材を下ろし、ウィンドランナー・ブーツをテーブルの上に慎重に置いた。
それから市場を確認した。
2つ売却済み。
2つ出品中。
完了した総売上:$870(約13万円)
「売上(レベニュー)」
ホワイトベースの幻聴は、他の誰かのところへ行けばいい。
マットは夕食の準備を始めた。
食べ物を温めている間——
ブーッ。
【アイテム売却】
クラフトされたベルト — $420
マットはスマホを見た。
「3つ」
彼はスプレッドシートを更新した。
素材の機会費用。
売却価格。
付加価値(バリューアッド)。
数字は依然として非常に良好だった。
ブーツはまだ出品中だ。
構わない。
マットは食事をとった。
◆
その後、マットはウィンドランナー・ブーツの写真を撮り、ブラックホロウ・グループを開いた。
マット:[画像] いくらだと思う?
**イーサン:**14ドル。
**クロエ:**暗黙プロパティ(インプリシット)の数値は?
マットは微笑んだ。
さすがクロエだ。即座に「正しい質問」をしてくる。
**マット:**移動 8。
少しの間。
**クロエ:**ああ。
**イーサン:**80ドル?
**クロエ:**もっとずっと上よ。
**マット:**大体1,200ドル(約18万円)。
入力中インジケータが爆発したように現れた。
**イーサン:**はあ!?
**イーサン:**それ白いぞ!?
**マット:**どうやらそれは関係ないらしい。
**クロエ:**関係あるわよ。
**クロエ:**あなたが思ってた意味と違うってだけで。
マットは頷いた。
妥当だ。
**マット:**俺も学習してるからな。
**クロエ:**ウィンドランナー?
**マット:**ああ。
**クロエ:**インプリシットの変動幅(レンジ)は?
**マット:**5–8
一時停止。
**クロエ:**つまり完璧(パーフェクト)を引いたのね。
**マット:**どうやらな。
**イーサン:**金持ちの豪運め!
**マット:**そんなものはない。
**イーサン:**金持ちがいかにも言いそうなセリフだ。
クロエが続けた。
**クロエ:**それはキープしなさい。
**マット:**そのつもりだ。
**クロエ:**そのレベル帯でクリーンな「+8」のウィンドランナーは、非常に優れたベースよ。
**クロエ:**クラフトの回数がリセットされたらそれにライフをつけてみて。それから、「今のブーツのライフの暗黙プロパティを捨ててでも、速度(スピード)を取る価値があるか」を判断しなさい。
まさにその通りだ。
**マット:**これ、すごく悩ましいな。
**クロエ:**おめでとう。
**クロエ:**あなたは『装備の選択(ギア・チョイス)』を発見したのよ。
**マット:**装備の選択肢が存在することくらい、前から知ってる。
クロエ:「それが存在することを知っていること」と、「2足のブーツを前にして20分間睨み合うこと」は別のことよ。
マットは時計を見た。
彼女の言う通りだ。
彼は返信しないことにした。
イーサンが彼に代わって返信した。
**イーサン:**彼はもう『靴マニア(シュー・ガイ)』になっちまった。
**マット:**ブロック。
◆
マットは全米ダンジョンマップを開いた。
レベル9。
アッシュフィールド果樹園の推奨はレベル4から10。
彼は今、その上限近くにいる。
超えてはいない。
まだ。
しかし、「ここを離れるべきか」が現実的な問い(クエスチョン)になるくらいには近づいている。
当初、マットは「レベル10まで留まる」と想定していた。
それはわかりやすい数字だ。
キリがいい。
丸い(ラウンド)。
推奨範囲のトップ。
今、彼の装備は到着した時よりも格段に強くなっている。彼の『コア4スキル』は、アッシュフィールドが彼に突きつけてきた主要な戦闘問題をカバーしている。モンスターの動きにも慣れた。ボスもクリアした。地元の戦利品のこともわかってきた。
そして、レベル9はウィンドランナー・ブーツを解放した。
他にもダンジョンはある。
他のドロッププールがある。
他のキャンプがある。
マットはフィルターを開いた。
**推奨レベル:**およそ 8–15
**トレーラーアクセス:**必須
**フルフックアップ:**推奨
**キャンプ評価:**4.0以上
そして彼は追加した:
**ローカル・クラフトサービスの有無:**推奨
マットは見つめた。
「どうやら、クラフターがいるかどうかがフィルターの条件になっちまったらしい」
バスティオンのカオス耐性の講義が蘇る。
マットはもう一つ追加した。
**重度のカオス環境:**除外
彼は厳粛に頷いた。
「戦略的(ストラテジック)だな」
インディアナ、ケンタッキー、ペンシルベニア、そしてさらに西の州の選択肢が表示された。
オープンフィールドのダンジョン。
洞窟。
工業地帯。
河川系。
寒冷地。
雷属性が強い場所。
マットはどれにも決定(コミット)しなかった。
今夜はまだ。
しかし、彼はタブを開き始めた。
CampToCampのレビュー。
DelverMetricsのページ。
クリア統計。
現地のクラフト事情。
あるキャンプはフックアップが素晴らしいが、戦利品が平凡だった。
あるキャンプは市場が強いが、RVのアクセスが最悪だった。
あるキャンプは魅力的に見えたが、次の文言で除外された:
『重度のカオスダメージ』
タブを閉じる。
「ノー」
別のキャンプは、近くにクラフターのグループがあった。
面白い。
それからマットは、「移動(ムーブメント)」に特化したスペシャリストが週に2回訪問するという報告がある場所を見つけた。
彼は手を止めた。
「……非常に興味深い」
ブックマーク。
クラフターの有無は、正式に「戦利品テーブル」「推奨レベル」「フックアップ」「キャンプのアクセス」と並んで、目的地を選ぶ基準(クライテリオン)の仲間入りを果たした。
マットは微笑んだ。
「これは『バカンス』のはずだったんだけどな」
依然としてバカンスではある。
ただ、ひどく「財務的に複雑なバカンス」になっただけだ。
◆
スマホが振動した。
マットは画面を見た。
【アイテム売却】
クラフトされたブーツ — $475
彼は背もたれに寄りかかった。
4つすべて。
売れた。
マットはサマリー(要約)を開いた。
【クラフト・テスト — 売上】
ヘルメット — $345 — SOLD
手袋 — $525 — SOLD
ベルト — $420 — SOLD
ブーツ — $475 — SOLD
総売上(グロス):$1,765(約26万5,000円)
マットは見つめた。
「売上(レベニュー)」
それから、彼はタイムスタンプを確認した。
4つのアイテムすべてが数時間以内に売れていた。
2つはほぼ即売れだった。
この速すぎる回転率(セルスルー)は、マットが「少し安く売りすぎた(テーブルに金を残した)」可能性を示唆している。
証拠ではないが。
次回テストするには十分な理由だ。
彼はメモを残した。
『次のサンプル:少し高めに出品。売却までの時間を測定する』
それからマットは、自分がすでに特定できているベース、通貨、および市場コストの推定機会費用を計算に追加した。
税制上の扱いがリサーチできていない部分については、適当な数字をでっち上げるのではなく、「後で調べる」とメモを残した。
それでも、結果は依然として魅力的だった。
あの4つのピースは、それぞれのクラフトスキルの残り4回分を消費しただけだ。
ホワイトベースの主張は本物だった。
クラフターの金(クラフター・マネー)。
マットは「明日20個のアイテムを作るぞ」と決意したりはしなかった。
それはバカのやることだ。
ウィンドランナー・ブーツにはライフが必要だ。
おそらく耐性も。
自分の装備が最優先だ。
しかし、未使用の「1日のクラフトキャパシティ」には価値がある。
本物の価値が。
マットは書いた:
【1日のクラフト優先順位】
個人の装備(パーソナルギア)
実験 / 学習
やる価値があるなら、残りのキャパシティを売却に回す
よし。
ビジネス帝国を築くわけじゃない。
倉庫(ウェアハウス)もいらない。
カスタマーサポートもいらない。
ただ、「有用な1日の生産力」を無駄にしないだけ。
それは合理的に思えた。
たぶん。
◆
マットはウィンドランナー・ブーツを再びテーブルの上に置いた。
リセット後:
生命の刻印。
元素の守護。
それから比較する。
現在の防御ブーツ 対 ウィンドランナー。
より硬い(タンキー)か、より速い(ファスター)か。
普遍的な「たった一つの正解」など存在しないのかもしれない。
ボス・ラッシュ?
おそらく速度の方が重要だ。
未知の危険なボス?
ライフかもしれない。
長時間の狩り(ロングファーム)?
移動速度は、1時間あたりのエンカウント数に直接変換(トランスレート)できる。
マットはため息をついた。
「これ、条件付き書式(コンディショナル・フォーマッティング)が必要だな」
彼はスプレッドシートに新しい列を開いた。
【ブーツ比較】
現在のペア
暗黙:+25 最大ライフ
最大ライフ:+28
雷耐性:+8%
強み:生存能力(サバイバビリティ)
ウィンドランナー・ベース
暗黙:+8% 移動速度
アフィックス:なし
強み:速度 / 将来のクラフト可能性
マットは追加した:
リセット後にクラフト
それから:
絶対に売るな(DO NOT SELL)
下線を引いた。
二重で。
◆
トレーラーの外では、アッシュフィールド・キャンプが夜へと移行していた。
発電機が唸る。フードトラックが看板に明かりを灯す。近くの誰かが肉を焼き、午後の探索者たちがバックパックや武器、戦利品のコンテナを抱えて戻ってくる。
トラックのドアが閉まる音。
人々の笑い声。
誰かが、特定のベルトのベースをキープする価値があるかどうかで大声で言い争っている。
マットはその音の方をちらりと見た。
1週間前なら、その会話は彼にとって無意味なノイズだった。
今では、彼も外に出て「暗黙プロパティの数値はいくつだ?」と聞きたいくらいだった。
「危険だな」
彼は室内に留まった。
ノートPCの画面の片側には全米ダンジョンマップ。
もう片側にはウィンドランナー・ブーツ。
マットはレベル9だ。
アッシュフィールドの推奨レベルは10まで。
彼はここに残ることもできる。
もう1レベル狩りをする。
オーチャード・キーパーともう一度戦う。
また別の面白いベースを見つけるかもしれない。
また別の有用な地元クラフターを見つけるかもしれない。
あるいは、早めに去ることもできる。
きっちり上限のレベル10まで待たなければならないルールなどどこにもない。
それがこのロードトリップの真髄なのだから。
マットは全米マップを見た。
何百ものマーカー。
異なるテーマ。
異なるモンスター。
異なる戦利品。
異なる市場。
異なるクラフター。
そしておそらく、もっとマシなビーチ。
彼はイーサンのことを考えた。
「間違いなく、もっとマシなビーチ」
スマホが振動した。
当然だ。
イーサン。
写真。
青い海。
白い砂。
**イーサン:**ダンジョンの生活ってツラいよなー。
マットは写真を見た。
それから、トレーラーの窓の外を見た。
オハイオ。
砂利。
遠くに見える、焼け焦げた魔法の果樹園。
「……死ねばいいのに」
彼はスマホを裏返して置いた。
それから、ウィンドランナー・ブーツを手に取った。
完全に無改造。
完璧な移動速度の暗黙プロパティ。
誰かが『最高のもの』に生まれ変わらせることのできる、クリーンなベース。
数日前、白(ノーマル)は「ゴミ」を意味していた。
今日は?
それは「チェックしろ」を意味する。
マットはもう一度、最近の市場価値を確認した。
およそ1,200ドル(約18万円)。
白で。
彼は笑った。
「どうやら、白いアイテムが高く売れることもあるらしいな」