ダンジョン・ドリフター ~退職金でキャンピングカーを買ったら、放置していたスキルが『SSSランク:完全複製(コピー)』だった件。最強スキルを拾い集めて全米横断の旅に出る~   作:パラレル・ゲーマー

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第7話 俺の初めてのボスドロップはツルハシだった

 彼らの背後で、巨大な鉄の扉が重々しい音を立てて閉まった。

 

 空洞の中では、ブラックホロウ特有の環境光である青い輝きがさらに薄暗く感じられた。空気は淀み、埃っぽく、金属の匂いがする。そして、広大な地下採掘場の中心には『オールド・フォアマン』が立っていた。

 

 マットは、自分の人生初のボスが『モンスターらしい』見た目をしていることを期待していた。

 ドラゴンとか、巨大な蜘蛛とか、あるいは黒い装甲に身を包んだ巨大な悪魔とか。

 

 しかし実際のそれは、「ゴブリンマイナーを身長8フィート(約2.4メートル)まで巨大化させ、産業用の安全装備を支給し、未払い残業代への怒りで極度にブチギレさせた姿」をしていた。

 

 肌の色は、マットがここ3日間戦ってきたゴブリンマイナーと同じまだらな緑色だ。しかし、それ以外はすべてが過剰だった。樽のような胸板、丸太のような腕、暗色の金属板で補強された煤まみれの作業着、そして顔を隠すように深く被られたボロボロの黄色い現場監督用ヘルメット。

 

 両手は、その頭部だけでマットの胴体全体を叩き潰せそうなほど巨大なスレッジハンマーの柄を握りしめている。

 

 彼のARインターフェースがフラッシュした。

 

【オールド・フォアマン】

 ブラックホロウ鉱山 — インスタンスボス

 ライフ:100%

 

 マットはロングソードの柄を握り直した。

「あれってゴブリンなのか?」

「厳密に言えばね」と、盾を構えながらイーサンが答えた。

 クロエは8フィートの巨体とそのハンマーを値踏みするように見た。「『あくまで厳密には』だけど」

「すごく安心したよ」

 

 オールド・フォアマンが彼らに気づいた。

 ヘルメットの縁の下に、2つの赤い光が灯る。

 それは咆哮を上げるわけでもなく、まるでサボっている従業員3人を見つけた現場監督のように、低く苛立ったうなり声を上げ——スレッジハンマーを振り上げた。

 

 イーサンが前に踏み出す。

「待って」

 

 クロエの声が空間に鋭く響いた。

 イーサンが止まる。

 

「あいつら、後ろにいるわ」

 マットにも、外の回廊から微かな声と金属音が聞こえた。もう一つのパーティーはすぐそこまで来ている。

 

「わかってる」とイーサン。

「彼らがボスが死ぬ前に入ってきて戦闘に参加すれば、戦利品の権利は彼らにも拡大されるわ。でも、私たちが急いで死んだところで何の解決にもならない」

 

 イーサンは鼻から息を吐いた。

「わかったよ」

 

 クロエの視線はボスから一瞬たりとも外れなかった。

「フォアマン戦の基本(スタンダード)で行くわ。イーサンが前衛(フロント)をキープ。私が側面(フランク)に回る。マットは取り巻き(アッズ)の処理ね」

「ネズミか?」とマットが確認する。

「ネズミよ」

 

 それは実際のところ、非常に心強かった。ケイブラットなら知っている。

 

 クロエは早口で続けた。「ボスのライフが75%、50%、25%のタイミングで閾値(スレッショルド)があるわ。それぞれ4匹、6匹、8匹のネズミが出る。各閾値の手前で攻撃のペースを落とし、ダメージを与えるのをやめ、ウェーブ(群れ)を処理してから、またボスへの攻撃を再開する」

 

 マットはボスのライフバーをちらりと見た。

「もし、最初のウェーブを倒し切る前に2つ目の閾値まで削っちゃったら?」

「そしたら、どっちの群れもあんたが処理しなきゃならなくなる」とイーサンが答えた。

 

 マットはもう一度巨大なハンマーを見た。

「それはやめておこう」

「その通り」

 

 クロエがショートソードを握り直した。

「私がフェーズの指示(コール)を出すわ。『スロー』と言ったら手を緩める。『ストップ』と言ったら止める。『アッズ(取り巻き)』はネズミが出た合図。『クリア』は全滅したという意味。『リジューム(再開)』と言ったらまたボスを殴る」

 

 マットは頷いた。

「シンプルでいい」

「誰かが興奮して突っ走り出さなければね」

 

 イーサンが盾を掲げた。

「準備は?」

 マットはロングソードを構える。

「いつでも」

 

 クロエが一回だけ深呼吸をした。

「行くわよ」

 

 ◆

 イーサンが最初に動いた。

 

『過剰筋力』が彼の腕と肩に紅い閃光を走らせる。彼は盾を掲げたまま突撃した。

 オールド・フォアマンが即座に反応する。

 スレッジハンマーが頭上に振り上げられた。

 そして、振り下ろされる。

 

『ドガァン!!』

 

 イーサンは盾でその一撃を受け止め、石の床の上を数フィート(約1メートル)後ろへ滑らされた。

 マットは顔をしかめた。

「生きてるか!?」

「問題ない!」

 

 イーサンは体勢を立て直した。彼のライフは減っていたが、致命的ではなかった。Fランクのボスからの強烈な一撃であって、処刑(エクスキューション)ではない。

 

「後ろに回って!」クロエが叫んだ。

『瞬動』が淡い緑色に揺らめき、彼女がフォアマンの左側へと滑り込む。マットは右へ回った。

 

 ボスの脚の横に隙が見え、マットは本能的にクリーブの詠唱を始めようとした。

「基本攻撃!」

 マットは発動をキャンセルした。

 

 そうだ。

 クリーブは群れ用だ。そして、彼に割り当てられた役割(ジョブ)は、もうすぐ現れるその『群れ』をさばくことだ。

 彼はスキルを通常の斬撃に切り替えた。

 

 鋼が補強された作業着を叩き、ボスのライフをほんのわずかだけ削り取る。クロエも反対側から攻撃を加え、その間、イーサンはフォアマンを正面に釘付けにし続けた。

 

 突然、ハンマーが横へ薙ぎ払われた。

「下がれ!」

 

 マットは動いたが、ほんの一瞬遅れた。ハンマーの外縁が彼の肩の装甲をかすめ、彼の体を半回転させた。彼が体勢を立て直す。

 

 ライフ:101 / 113

 

 彼は自分の肩を確認した。

 負傷はない。

「よし」

 

 そして、彼は再びポジションに戻った。

 戦闘は一つのリズムに落ち着いた。イーサンが前衛を張り、クロエとマットが反対側の側面から攻撃する。フォアマンの攻撃は読みやすかった。回避か防御を強要する頭上からの叩きつけ、欲張った者を罰するリーチの長い水平の薙ぎ払い、そしてイーサンが近づきすぎた時に時折放たれる突き飛ばしや蹴り。

 

 魔法はない。

 奇をてらったギミックもない。

 これは、『基本』を教えるためにデザインされたボスだった。

 

 マットはそれに感謝した。

 大抵においては。

 

 ボスライフ:94%

 

 ハンマーが再び振り上げられる。マットはそれが落ちる前に後退し、イーサンが衝撃を受け止め、クロエがリカバリー(硬直時間)の間に飛び込んで素早く2回斬りつけた。マットも自分の攻撃を1発加え、彼女と一緒に後退する。

 

 ボスライフ:89%

 

 次の広範囲の薙ぎ払いはマットを完全に逸れた。

 

 84%

 

「俺たち、結構いい感じじゃないか」とマットが言った。

「Fランクだからな」とイーサンが返す。

「調子に乗らないで」とクロエが警告する。

 マットは巨大なハンマーを見た。

「そのつもりはないよ」

 

 イーサンが片側に寄りすぎたため、フォアマンがクロエの方へ向き直り始めた。

「イーサン」

「わかってる」

「なら直して」

 

 彼は左に下がり、ボスの正面が再び自分に向くように意図的に引きずり回した。

 マットはそれを注意深く観察した。

 タンク(前衛職)の役割は、ただ攻撃に耐えるだけではない。ボスの『危険な側』がどこを向くかをコントロールすることなのだ。

 

 フォアマンが再び定位置に落ち着く。

 クリーンだ。

 

 ボスライフ:79%

 

「スロー」

 クロエのコールが、即座にペースを変化させた。

 イーサンはブロックの後の反撃をやめた。マットは安全な隙を見逃し、クロエでさえ、パーセンテージを慎重に微調整する必要がある時にだけ飛び込んで攻撃した。

 

 巨大なハンマーが自分たちに向かって振り回されているのに、意図的に攻撃を控えるというのは、どうにも奇妙な感覚だった。

 

 77%

 

 クロエが1発叩き込む。

 

 76%

 

「ストップ!」

 3人全員が攻撃を停止した。

 イーサンは防御しながら、ボスを壁際から部屋の中央へと誘導していく。

 

 マットは彼が何をしているのかに気づいた。

「ウェーブ(群れ)が湧く場所を選んでるのか」

「その通り。スペースが必要だからな」

 

 フォアマンが再び頭上からの叩きつけモーションに入った。

 クロエは硬直時間を待ち、踏み込み、1発だけ突いた。

 

 ボスライフ:75%

 

 オールド・フォアマンが動きを止めた。

 彼はハンマーの柄の底を床に叩きつけた。

 

『ガァン!!』

 

 アリーナの端で、4組の赤い目が光った。

 狭い壁の隙間から、ケイブラットが雪崩れ込んでくる。

 

「アッズ(取り巻き)!」

 

 3匹がマットへ真っ直ぐに向かい、4匹目がクロエの方へ角度を変えた。

 マットは足を固定し、『不動の歩み』を起動した。1匹目のネズミが彼の胸に激突したが、彼を動かすことはできない。続く2匹も、その後ろの同じスペースに積み重なるようにぶつかった。

 

 完璧だ。

 クリーブ。

 マナ:53 → 49

 

 赤い弧が3匹すべてを捉えた。2匹が即座に溶け、残る1匹も致命傷を負って生き残った。マットは無駄にもう一回マナを使うのを避け、通常の上段振り下ろしでトドメを刺した。

 部屋の反対側では、クロエが4匹目を仕留めていた。

 

 イーサンはボスへの攻撃を完全にやめ、ただオールド・フォアマンの気を引き続けることだけに集中していた。

 

 マットはアリーナを見渡した。

 ボス以外に動いているものは何もない。

 

「クリア!」

「リジューム(再開)!」

 

 彼らは再びオールド・フォアマンへと崩れ込むように攻撃を再開した。

 マットはようやく、クロエの言っていた意味を完全に理解した。この戦いは「ダメージを最大化すること」が目的ではない。「ダメージが発生するタイミングを制御(コントロール)すること」が目的なのだ。

 

 ◆

 第2フェーズは、より安定したリズムに落ち着いた。

 

 68%の時、イーサンがもう一度頭上からの叩きつけを吸収しようとし、盾を持つ腕が沈み込んだ。

 クロエが即座に気づく。

「全部の攻撃を受けないで」

「わかってる」

「なら1回は回避(ドッジ)して」

 

 次のハンマーが振り下ろされる。

 イーサンはブロックする代わりに横へステップし、スレッジハンマーは虚しく石を叩いた。マットとクロエがその隙を突き、薙ぎ払いが来る前に二人とも後退する。

 

 ボスライフ:63%

 

 フォアマンがイーサンを蹴り飛ばし、彼のポジションを崩した。ボスがマットの側へと向き直り始める。

 

「回して!」

「やってる!」

 

 イーサンが体勢を立て直し、盾で殴りつけ、フォアマンを強引に引き戻した。

 攻撃してくるボスを数分間同じ方向へ向け続けるというのは、「タンクがボスの注意(ヘイト)を引く」という言葉の響きよりもはるかに難しい作業だった。

 

 その時、鉄の扉の外から声が反響した。

 さっきより近い。

 マットはそちらをちらりと見た。

「あいつら、近づいてきてるぞ」

「ならもっと強く殴れ」とイーサン。

「強く殴りすぎないでよ」とクロエがピシャリと言った。

 

 マットは一度だけ笑った。

 どうやら、この戦いのすべてがそこにあるらしい。

 

 ボスライフ:59%

 

 ハンマーが薙ぎ払う。マットは早めに動き、ダメージを受けなかった。

 

 56%

 

 彼らの後ろの扉が微かに振動した。

 誰かが外の回廊に到達したのだ。

「ボスから目を離さないで」クロエは振り返らずに言った。

 

 イーサンが再び攻撃する。

 

 54%

 

「スロー」

 外からのプレッシャーがある中での減速は、先ほどよりも精神的にキツかったが、彼らは従った。

 

 52%

 

 扉がわずかに軋んだ。

 イーサンが本能的に反撃を始めそうになる。

「急がないで。51パーセント」

 彼は剣を止めた。

 

 マットはマナを確認する。

 ほぼ満タンだ。

 よし。

 

 クロエがポジションに入った。

「準備はいい?」

「いつでも」

「オーケーだ」

 彼女が1発叩き込む。

 

 ボスライフ:50%

 

『ガァン!!』

 

 2つの開口部から、6匹のケイブラットが噴出した。

 4匹がマットの側から。2匹がクロエの近くから現れる。

 クリーンなクリーブ一発に巻き込むには、散らばりすぎていた。

 

 マットが下がる。

「そっちのを連れてこい!」

 クロエは即座に理解した。彼女の体を『瞬動』の揺らめきが包み込み、彼女は自分側の2匹の背後へと回り込み、自ら殺す代わりにネズミたちを中央へと追い立てた。

 

 他の4匹はマットに向かって突撃を続けている。

 近づく。

 さらに近づく。

 

 中央でフォアマンのハンマーを受けながら、イーサンが叫んだ。

「焦るなよ!」

 イーサンが衝撃で片膝を突く。

「言うのは簡単だな!」

「実際簡単じゃねえよ!」

 

 ついにネズミたちが圧縮された。

 マットは足を固定し、振り抜いた。

 マナ:53 → 49

 

 4匹が巻き込まれる。3匹が消滅した。

 マットは即座に再攻撃するのではなく、生き残ったネズミたちが手負いの1匹の進路と交差する位置まで移動した。

 

 2発目のクリーブ。

 マナ:49 → 45

 灰。

 6匹すべてが消滅した。

 

「クリア!」

「リジューム(再開)!」

 

 今やマットは、クロエがパーセンテージを毎秒叫ばなくてもボスのライフを見極められるようになっていた。

 

 47%

 

「ハンマー来るぞ」とイーサンが警告する。

 マットが後退し、クロエが反対側に移動する。

 広範囲の薙ぎ払いが3人全員を逸れた。

 彼らは即座に元の位置に戻る。

 

 彼らを繋ぐシステム上の共有HUDはない。どこに立つべきか、あるいは誰かがピンチに陥っているかを教えてくれる自動システムもない。

 ただ3人の人間が、自分たちの見たものを声に出しているだけだ。

 

 そして、なぜかそれが上手く機能していた。

 

 ◆

 40%を切ると、オールド・フォアマンはより攻撃的になった。

 新しい魔法を覚えたり、隠された超常的なトリックを披露したりしたわけではない。単に攻撃速度が上がり、振り下ろしの間隔が短くなり、イーサンへのプレッシャーが増したのだ。

 

 彼は頭上からの叩きつけをブロックし、続く薙ぎ払いをギリギリでかわしたが、体勢を完全に立て直す前に蹴りを食らった。

 イーサンが床を滑る。

 

 フォアマンがマットの方へ向いた。

「おっと」

 マットは動いた。

 だが、ハンマーの端が彼の装甲をかすめ、ライフのチャンクがさらに削り取られた。

 

 彼は即座にライフ・フラスコを使用し、温かさが保護レイヤーを回復させる間、後退した。

 余分に増加しているライフのおかげで、パニックに陥ることなくリカバリーするだけの余裕があった。

 

 イーサンがボスの制御(ヘイト)を取り戻す。

 

 ボスライフ:35%

 

 ライバルパーティーが扉の外にいるのは、もはや疑いようがなかった。

 声。

 足音。

 鉄の扉が揺れる。

 

 イーサンがそれをちらりと見た。

「頼むぜ……」

「ボスよ」とクロエ。

「わかってる」

「ならボスを見なさい」

 

 彼らはフォアマンを33%、そして31%まで押し込んだ。

 

「スロー」

 最後の閾値(スレッショルド)だ。

 全員が疲労しており、別のチームが数秒先まで迫っている。だからこそ、「ペースを落とす」という正解が、今まで以上に苦痛に感じられた。

 

 29%

 クロエが1発攻撃する。

 

 28%

 イーサンがブロックし、焦りから本能的に反撃を始めそうになる。

 

「ダメージ・ストップ!」

 クロエの声が洞窟に鋭く響いた。

 イーサンが物理的に剣を引き戻した。

「わかってる」

 マットも武器を完全に下げた。

 

 26%

 オールド・フォアマンは攻撃を続ける。

 誰も反撃しない。

 

 マットは、他のパーティーの声をはっきりと聞き取った。

「ボスはまだ生きてる!」

「急げ!」

 

 イーサンにも聞こえていた。

「26だ」マットが叫ぶ。

「わかってる」

 クロエがボスを再び中央へと誘導する。

 

 最後のウェーブまで、あと1パーセント。

 他のチームは数秒先。

 それでも、正解は「待つこと」だった。

 

 フォアマンがハンマーを振り上げた。

 攻撃モーションに入った(コミットした)。

 よし。

 

「準備よし」とマットが言った。

 イーサンが最初に応えた。

「オーケーだ」

 クロエが息を吸い込む。

「25パーセント」

 

 彼女が飛び込んだ。

 

 ボスライフ:25%

 

 ハンマーの柄が地面に叩きつけられた。

『ガァン!!』

 

 8匹のネズミが3方向から雪崩れ込んでくる。

 マットは心拍の半分だけ、それを見つめた。

「さっきより多いな」

「素晴らしい観察眼だな!」イーサンが叫んだ。

「マット!」

「任せろ!」

 

 最も大きなグループは、すでに綺麗にヒットさせられるくらい密集していた。

 マットは正面から迎え撃ち、足を固定し、4匹の群れにクリーブを放った。

 マナ:53 → 49

 3匹が消滅する。

 

 クロエが、前のウェーブとまったく同じように、自分で殺す代わりに残りの2匹をマットの方へ誘導してくる。

 マットはそれらを迎撃するために動いた。

 手負いのネズミがそのペアに合流する。

 ターゲットは3匹。

 クリーブ。

 マナ:49 → 45

 消え去った。

 5匹ダウン。

 残り3匹。

 

 その2匹はイーサンの近くに湧いていた。

 最悪だ。

 オールド・フォアマンはまだ攻撃を続けており、イーサンはネズミたちが足元の装甲に噛みついている間も、安全に振り向くことができない。

 彼のライフが急速に削られ始めた。

 

「イーサン!」

「手が離せない!」

 ハンマーが盾に激突し、彼のスタンスが崩れかける。

 

 マットは走った。

『瞬動』は装備していない。通常の足で部屋を横断しなければならない。

 ネズミの1匹がイーサンの脚をよじ登っていく。

 

 マットは到達し、基本攻撃でそれを仕留め、2匹目をイーサンから蹴り離した。

 3匹目が側面からマットに向かってくる。

 2つのターゲットが重なる。

 クリーブ。

 マナ:45 → 41

 両方が消滅した。

 

 マットはアリーナを見渡した。

 もう何もいない。

「クリア!!」

「ボス!」

 

 クロエはすでに動いていた。

 オールド・フォアマンのライフは25%のままだ。

 もう閾値はない。

 

 イーサンがボスを押し返す。

「これで全力(バーン)できるぜ!」

 マットは剣を構えた。

「やっとバカみたいに殴れるってことか?」

「常識の範囲内でな!」

 

 この戦いで初めて、彼らは手加減をやめた。

 ターゲットが1体しかいなくても、マットはマナを消費してクリーブを放った。クロエは『瞬動』の速度で容赦なく攻撃を叩き込み、イーサンもただ盾の後ろで生き残るためではなく、攻勢に出るために『過剰筋力』を使った。

 

 ボスライフ:20%

 

 ハンマーが振り下ろされる。

 マットは回避した。

 

 17%

 

 クロエが隙を突いて刺す。

 

 14%

 

 彼らの後ろの鉄の扉が動き始めた。

 声が通り抜けてくる。

「あいつら、まだ戦ってるぞ!」

「このまま行け!」イーサンが叫んだ。

 

 11%

 マットが攻撃する。

 

 9%

 

 オールド・フォアマンが、この戦闘で初めて真の咆哮を上げ、ハンマーで部屋を大きく薙ぎ払った。

 クロエはクリーンに離脱する。イーサンはブロックした。マットは刃の軌道の下に潜り込んだ。

 

 7%

 マットがクリーブを使う。

 

 4%

 扉が開き始めた。

 イーサンがブロードソードを突き出す。

 

 2%

 

 オールド・フォアマンが、最後の頭上叩きつけのためにスレッジハンマーを振り上げた。

「散開!」

 3人全員が散る。

 

『ドガァン!!』

 

 石が砕け、床に土煙が爆発した。ハンマーが0.5秒間、床にめり込んだ。

 それで十分だった。

 

 クロエが最初に動いた。『瞬動』が彼女をボスの背後へ運び、彼女のショートソードがその首の付け根に突き刺さった。

 イーサンが正面から攻撃する。

 マットが側面から迫る。

 3つの打撃がほぼ同時に着弾した。

 

 ボスライフ:0%

 

 オールド・フォアマンの動きが止まった。

 そのハンマーが、両手から滑り落ちる。

 ズシン。

 

 そして、ボスは崩れ落ち、青い粒子の嵐となって溶けていった。

 

 少しの間、誰も口を開かなかった。

 マットは剣を構えたまま、肩で息をして立っていた。

 イーサンが彼を見た。

 それからクロエを見た。

 

「……倒したぞ」

 クロエはようやく息を吐き出した。

「倒したわね」

 マットはニヤリと笑った。

「俺たちの勝ちだ」

 

 イーサンが両腕を宙に突き上げた。

「っしゃあ!!」

 マットは笑い声を上げた。

「よし!!」

 

 イーサンは痛いほどの勢いでマットとハイタッチし、クロエの方を向いた。

 彼女は目を丸くした。

 それでも、ハイタッチには応じた。

 

 マットのインターフェースがフラッシュした。

 

【ボスを討伐しました】

 オールド・フォアマン

 

 続いて:

 

【レベルアップ】

 マシュー・ヘイズがレベル4に到達しました。

 

 そして直後に:

 

【レベルアップ】

 マシュー・ヘイズがレベル5に到達しました。

 

 マットは見つめた。

「……レベル5だ」

 イーサンが覗き込む。

「2つ上がった?」

「ボスの経験値よ」とクロエ。

 

 マットは通知を消した。

「俺、ボス戦好きかも」

「昨日はパーティーが好きって言ってたじゃないか」とイーサン。

「好きなものは複数あってもいいだろ」

 

 そして、戦利品が現れた。

 

 ◆

 まず魔石が具現化し、続いて重い革のブーツ、鉄のバックラー(小盾)、そしてマットには見覚えのないいくつかの鉱山系クラフト素材が現れた。

 

 それから、中央に『別のもの』が現れた。

 違う輝き。

 違う存在感。

 

 イーサンが動きを止めた。

 クロエも止まった。

 

 アイテムそのものに気づく前に、マットは二人の反応に気づいた。

「何だ?」

 イーサンがそれを見つめる。

「……マジかよ」

 

 クロエの表情が変わった。

「あら」

 彼女はイーサンを見た。

「引いたわね」

 

 マットはようやく視線を落とした。

「何を引いたんだ?」

 

 石の床の上に、一本の『ツルハシ(ピッケル)』が置かれていた。

 バトルアクスではない。採掘道具のフリをした精巧な両手武器でもない。

 正真正銘のツルハシだ。

 重厚で、実用的で、補強されている。

 

 マットはそれを見つめた。

「……ツルハシだな」

「ユニークだぞ」とイーサン。

「それでもツルハシだろ」

「読んでみなさいよ」とクロエが促した。

 

 彼のコンタクトがアイテムを識別する。

 

【鉱脈の反響(ヴェインズ・エコー)】

 **アイテムタイプ:**ツルハシ

 **レアリティ:**ユニーク

 

【効果】

 このアイテムを使用して鉱脈を採掘した際、産出される各鉱物は25%の確率で複製(デュプリケート)される。

※複製の判定は、他の採掘量モディファイア(増加効果)が適用された後に計算される。

※複製された鉱物は、元の素材と完全に同一のものとなる。

 

【フレーバーテキスト】

 良い鉱夫は鉱脈を見つける。

 偉大な鉱夫は、鉱脈に「二倍支払え」と説得する。

 

 マットはその効果を読み込んだ。

「25パーセントの追加産出」

「平均すればね」とクロエ。

「それで、お前ら二人がそんな顔になるほど凄いのか?」

 

 イーサンがニヤリとした。

「大体2万ドル(約300万円)くらいの凄さだな」

 マットはゆっくりと顔を上げた。

「……このツルハシが?」

「このツルハシが、だ」

 

 クロエがそのそばにしゃがみ込んだ。「『ヴェインズ・エコー』は、鉱山系ダンジョンでドロップする標準的なジャックポットの一つよ。これ自体が世界に一つしかないわけじゃない——ブラックホロウでは平均して週に一本くらいは出るわ——でも、プロの採掘屋(マイナー)が喉から手が出るほど欲しがるの。生産量が直結するからね」

 

 マットは効果の2行目をもう一度見た。

「複製の判定は、他のモディファイアが適用された後」。

「つまり、採掘特化の優秀なビルドが使えば使うほど、この効果の価値は跳ね上がるってことか」

「その通り」

 

 それで十分だった。

 このアイテムが伝説の武器である必要も、唯一無二である必要もない。これは、所有者が使うたびに『毎日お金を生み出してくれる』装備なのだ。

 2万ドルという価格が、突然それほど異常なものには聞こえなくなった。

 

 マットは頷いた。

「良いドロップだな」

 クロエは微笑んだ。

「最高(ベリーグッド)のドロップよ」

 イーサンが片手を挙げた。

「俺たちの勝ちだ」

 

 マットはツルハシを見つめ、それから残りの戦利品を見た。

「俺たちの勝ちだ」

 今度はクロエも心から微笑んだ。

「ええ」

 

 その祝賀ムードは5秒ほど続いたが、マットがアイテムを指差したことで終わった。

「戦利品のルールだ」

 イーサンが即座に真顔に戻る。

「そうだった」

「誰か、将来プロの採掘屋になる予定の奴はいるか?」

 二人は即座に「ノー」と答えた。

 マットも自分自身に問いかけた。

 絶対にノーだ。

 

「オークションか?」

「オークションね」とクロエが同意した。

「オークションだ」とイーサンも反芻した。

 

 ボス部屋の扉が完全に開いた。

 疲労困憊の探索者4人が、武器を構えて外に立っていた。

 しかし、彼らの目に映ったのは、もぬけの殻となった部屋の中央だった。

 そして、戦利品。

 

 リーダー格の男が剣を下ろした。

「クソッ」

 イーサンが申し訳なさそうに肩をすくめた。

「悪いな」

 男は手を振ってそれに応えた。

「早い者勝ちだからな」

 怒りはない。

 彼らは単に遅かっただけだ。

 

 そのうちの一人がツルハシに気づいた。

 彼は凍りついた。

「待て。それ、『エコー』か?」

 クロエが頷いた。

「『ヴェインズ・エコー』よ」

 

 ライバルパーティー全員がそれを見つめた。

「……マジかよ」

 イーサンは最高に満足そうな声を出した。

「マジだぜ」

 

 リーダーが長い息を吐き出し、それから笑った。

「いいね。おめでとう」

「ありがとう」

 

 マットがツルハシを拾い上げた。

 もう一つのパーティーはがっかりしていた。

 当然だ。

 しかしルールはシンプルだ。マットたちのグループが最初に到着し、他の誰かが戦闘に参加する前にボスを殺した。

 それだけのことだ。

 

 クロエが出口の方を見た。

「帰るわよ」

 彼らは残りの戦利品を集め、ポータル・スクロールを開いた。

 

 青い光。

 そして、太陽の光。

 

 ◆

 マットは『ヴェインズ・エコー』を持ったまま、ブラックホロウの出撃広場へと戻ってきた。実物大のツルハシをイーサンの戦利品バッグに無理やり押し込むより、手で持っている方がはるかに楽だったからだ。

 

 どうやら、それだけで十分な広告効果があったらしい。

 

 通りすがりの探索者が歩みを緩めた。

「フォアマンがエコーを落としたのか?」

 マットが答える前にイーサンが返した。

「その通り」

「すげえ。おめでとう」

 

 別の男も振り返る。

「マジで?」

「マジだぜ」

 

 マットはクロエの方へ身を乗り出した。

「みんなこのツルハシのこと知ってるんだな」

「だから言ったでしょ」

 

 近くにいた重装備の男がそれを見てうめき声を上げた。

「ああ、最悪だ」

 マットは彼を見た。

「何が?」

「いや、ただこれで明日はエコーが出ない確率が高くなったなって」

 彼の友人が軽く彼の肩を殴った。

「確率はそういう仕組みじゃねえよ」

「わかってる」

「今日1個落ちたからって、明日落ちない理由にはならないだろ」

「わかってるよ」

 それでも男はツルハシを見つめ続けた。

「でも気分的に萎えるんだよ」

 

 友人は笑った。

「今週分のエコーが飛んでったな」

 

 マットはクロエを見た。

「完全に非合理的(イラショナル)だな」

「その通りよ」

 イーサンも厳粛に頷いた。

「感情的に大ダメージだ」

 

 マットは笑った。

 超常的な次元の裂け目、魔法の武器、レベル、そして超人的なステータスが現れて15年——それでも人々は、相変わらず架空の「ドロップのジンクス」をでっち上げているのだ。

 どんな技術革命が起きようと、変わらないものもあるらしい。

 

 ◆

『ヴェインズ・エコー』は、通常の魔石換金所(マナストーン・エクスチェンジ)には回されなかった。

 ブラックホロウのオークションハウスは、キャンプの商業の中心近くに位置し、セキュリティも厳重で、ガラス張りの面積も多く、ユニーク装備、レアギア、スキルジェム、クラフト素材などの特殊なドロップ品を扱う専用カウンターを備えていた。

 

 鑑定士は、マットがツルハシをカウンターに置いてもほとんど反応しなかった。

「ヴェインズ・エコー?」

「ああ」

「いいね」

 彼はそれをスキャンし、最近の同等品の売却データを表示した。

 

 最近の売却価格 — ヴェインズ・エコー

 $18,700

 $19,900

 $21,200

 $20,400

 

 マットはクロエを見た。

「2万ドルってのは、本当に正確だったんだな」

「適当に言ったわけじゃないもの」

 

 鑑定士は短期のオークションを勧めた。このアイテムには買い手が山ほどいるため、何日も出品(エクスポージャー)しておく必要はないのだという。

 短い話し合いの後、3人はそれに同意した。

 

 オークション出品完了

 ヴェインズ・エコー — ユニークツルハシ

 開始価格:$16,000

 **出品期間:**3時間

 

 マットは確認画面を見つめた。

「誰かが今から、Fランクのツルハシに2万ドル(約300万円)を払おうとしてるんだな」

 鑑定士は肩をすくめた。

「彼らにとっては、それ以上の金を生む道具ですからね」

 マットは頷いた。

 なるほど、その通りだ。

 

 ◆

 3時間後、マットはイーサンとクロエと一緒にタコス・トラックの外のピクニックテーブルに座っていた。

 

 イーサンは食べ物を注文しすぎた。

 クロエは「私はそんなに頼んでない」と主張した。

 マットは、両方とも嘘をついていると疑っていた。

 

 彼らはすでに、魔石、ブーツ、バックラー、そして雑多な鉱山素材など、通常のボスドロップを売却していた。飛び抜けた額ではないが、それでもお金だ。

 

 昼食の時間のほとんどは、ボス戦のリプレイ(反省会)に費やされた。

 イーサンは「一度も心配してなかった」と主張した。

 クロエは「最後の閾値の前に攻撃をやめさせるために怒鳴らなきゃならなかった」ことを指摘した。

 イーサンはそれを『戦術的アグレッシブさ』と呼んだ。

 マットはそれを『ギミック忘れ』と呼んだ。

 

 その時、彼のスマホが振動した。

 

 オークション終了

 ヴェインズ・エコー — ユニークツルハシ

 落札価格:$20,000.00

 

 マットはスマホをテーブル越しに滑らせた。

「ぴったり2万(約300万円)だ」

 イーサンがニヤリとする。

「いいね」

 クロエも頷いた。

「5パーセントの税金を引いて、1万9000(約285万円)ね」

 

 マットがそれを割る。

「一人当たり、6,333ドルと33セント(約95万円)だ」

 イーサンが彼を指差した。

「あんたの物流のキャリアが、ついに役立ったな」

「この時を待ってたんだよ」

 

 残りのボスドロップを合わせると、一人当たりの取り分はさらに150ドルほど増えた。

 

 マットは背もたれに寄りかかり、探索者としての最初の3日間を振り返った。

 

 1日目:約50ドル(約7,500円)。

 2日目:約2,000ドル(約30万円)。

 3日目:約6,500ドル(約97万円)。

 

 彼は中空を見つめた。

「これは、俺の将来に対する期待値を、ひどく非現実的なレベルで狂わせそうだな」

「ええ」クロエが即答した。

「完全にそうだ」イーサンも同意した。

 マットは頷いた。

「よかった」

 

 昨日は宝箱。

 今日は2万ドルのユニークアイテム。

 

 これが通常の収入の伸び方であるはずがない。

 もしこのままのペースで増え続けたら、来月にはウェストバージニア州を丸ごと買えそうな勢いだ。

 たぶん、そうはならないだろうが。

 

 ◆

 その夜、マットはG-214に戻り、トレーラーの鍵をかけ、椅子に崩れ落ちた。

 

 彼はようやく、もう一度その数字を確認した。

 

 レベル:5

 

 初めてのボスで、レベルが2つ上がった。

 レベル5になったことで他に何がアンロックされたのかは、明日のお楽しみにしておこう。

 今はただ、疲れている。

 そして、満足している。

 

 マットはビルドノートを開いた。

 

【ボス戦メモ】

 ・閾値(スレッショルド)を尊重しろ。

 ・押し込む前に取り巻き(アッズ)を処理しろ。

 ・移動スキルを手に入れろ。

 

 彼は少しの間画面を見つめ、それから最後の一行を書き加えた。

 

 ・ボスの戦利品は、どうやらツルハシになることもあるらしい。

 

 マットは静かに笑った。

 彼は自分の初めてのボスが、剣か、ドラマチックに光り輝く防具か、あるいはビルドを決定づけるようなスキルジェムを落とすものだとばかり思っていた。

 

 代わりに落ちたのは、採掘道具だった。

 

 マットはスマホを手にした。

 オークションのレシートには、まだこう表示されている。

 

 $20,000.00

 

 彼の最初のボスはツルハシを落とした。

 そしてそれは、2万ドル(約300万円)で売れた。

 

 マットは、それも悪くない結末だと決めた。




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