ダンジョン・ドリフター ~退職金でキャンピングカーを買ったら、放置していたスキルが『SSSランク:完全複製(コピー)』だった件。最強スキルを拾い集めて全米横断の旅に出る~ 作:パラレル・ゲーマー
午前7時15分。マットは肉体を覆う鈍い痛みに起こされた。
『ライフ』は昨日の探索中、実際の負傷からは彼を守ってくれた。しかし、システムは「筋肉痛」という概念までは廃止してくれなかったらしい。
防具を着込んで何時間もジョギングし、数えるのも嫌になるほどのネズミとゴブリンを斬り捨て、初めてのボスと戦った。オールド・フォアマン、オークションハウス、タコス、そして「2万ドル」という落札額の深く満足のいく光景までは、アドレナリンが彼を運んでくれた。
しかし、その翌朝の現実は、決して華やかなものではなかった。
マットはG-214の狭いベッドからゆっくりと体を起こした。
肩が抗議している。
太ももが抗議している。
腰に至っては、一晩のうちに何らかの政治的主張に目覚めたようだった。
「よし」
彼はストレッチをした。
「ボス戦の翌日は、最高に楽しいな」
着替えて、キッチンの小さなコーヒーメーカーのスイッチを入れる。
数分後、できあがったコーヒーを一口すする。
熱すぎる。
『完璧な温度』がそれを即座に修正した。
もう一口。
完璧だ。
この能力には、いまだに何の戦闘的価値もない。
それでも彼は、これを手放す気にはまったくなれなかった。
カウンターに置いたスマホが振動した。
【ブラックホロウ・グループ】
**イーサン:**先に朝飯食う?
**クロエ:**ええ。
**イーサン:**うわ。
**クロエ:**昨日ボスと戦ったんだから。
**イーサン:**君って時間の無駄が嫌いなんじゃなかったっけ。
**クロエ:**食事は時間の無駄じゃないわ。
**マット:**ラスト・フラスコ・ダイナーか?
**イーサン:**10分後。
**クロエ:**15分後ね。あなたまだ着替えてないでしょ。
**イーサン:**なんでわかる。
**クロエ:**あなたがあなただからよ。
マットは笑った。
彼は準備を済ませた。胸当て、腕当て、ブーツ、『初心者セット(ビギナーズ・セット)』、ロングソード、ライフ・フラスコ、ポータル・スクロール。朝食後に装備をつけるためだけに、わざわざこのトレーラーまで歩いて戻ってくる意味はない。
今日は昨日みたいなボスレースをする予定ではない。
だが、朝食後はブラックホロウに潜ることになっている。
マットはG-214に鍵をかけ、商業エリアに向かって歩き出した。
◆
朝のラスト・フラスコ・ダイナーは、昼間とは違う場所のようだった。
マットが初めてここを訪れたのは午後だった。客の半分はすでに探索を終え、もう半分がこれから潜るところだった。しかし7時半の今、客のほぼ全員が「これから地下へ向かう顔」をしていた。
鎖帷子(チェーンメイル)姿でパンケーキを食べる人々。軽量の防具を着た女性がカウンターでオレンジジュースを飲みながらインスタンスのリストをスクロールし、ベルトにポータル・スクロールを挿した男が、実際に印刷された紙の新聞を読みながらコーヒーを飲んでいる。
壁際の指定ラックには、ダンジョン産の巨大な剣や、規格外の武器がいくつも立てかけられていた。
マットは自分のロングソードを、ラミネート加工された看板の下に置いた。
『退店時、武器のお忘れ物にご注意ください』
その看板の下に魔法の剣を置くという行為には、何か奇妙な違和感があった。
さらに奇妙なのは、他の誰もそれを奇妙だと思っていないことだ。
イーサンとクロエはすでにボックス席に座っていた。
マットは彼らの向かいに滑り込んだ。
「腹減って死にそう」イーサンが宣言した。
「昨日タコスを3つも食べてたじゃない」とクロエ。
「それは昨日の話だろ」
「説得力あるわね」
ウェイトレスがやってきた。
マットは卵、ベーコン、ハッシュドポテト、ブラックコーヒーを頼んだ。イーサンは、「過剰筋力(オーバーマッスル)って基礎代謝も上げるのか?」とマットが疑いたくなるほどの量を頼み、クロエはずっと常識的なものを頼んだ。
「昨日は結構いい動きしてたじゃん」ウェイトレスが去ると、イーサンが言った。「初めてのボスにしちゃな」
「俺はネズミを殺してただけだぞ」
「それがあんたの仕事(ジョブ)だったんだからさ」
マットは厳粛に頷いた。
「俺、ネズミの処理にはかなり熟練してきてるな」
「実用的な専門技能だな」
「これでキャリアを築こうかと思ってる」
クロエがスマホから顔を上げた。
「お願いだからやめて」
「もう遅い」
イーサンが笑った。
「自分の持ち場をちゃんと守ってた。それが一番大事なことだろ」
マットは背もたれに寄りかかった。
「それでも、ボスのライフバーが目の前にあるのに『意図的に攻撃しない』っていうのが戦略の一部だったのは、まだ納得いかないけどな」
「それ、結構気にしてるな」
「いまだにしてる」
マットは子供の頃にそれなりにゲームをして育った。だから、ボスのライフバーが目の前にあるのに攻撃してはいけないというのは、彼にとって「個人的な侮辱」に近かった。
もっとも、オールド・フォアマン戦は、なぜそれが時には必要なのかを的確に証明してくれたわけだが。
「高ランクのボスになったら、もっと嫌になるわよ」とクロエが言った。
マットは彼女を見た。
「なんで?」
「もっと悪化するから」
「……最高だな」
「教えてあげるのはそこまでよ」
「ネタバレを頼んだ覚えはないぞ」
食事が運ばれてきた。
数分間、会話が途絶える。
ふと、イーサンがフォークを口元に運ぶ途中で動きを止めた。
「あ」
マットは彼を見た。
「何だ?」
「あんた、『パッシブポイント』使ってるか?」
マットのフォークも止まった。
「……使ってない」
「1ポイントも?」
「1ポイントもだ」
クロエが顔を上げた。
マットは肩をすくめた。
「自分が何をしたいか、まだ決まってなくてな」
それは事実だった。
彼は「パッシブ」のインターフェースには気づいていたし、レベルアップによってジョブやスキルジェムの選択以上に「長期的なキャラクターの育成」が可能になることも理解していた。
そして同時に、そのインターフェースが『間違った選択肢をクリックした人間を容赦なく罰するシステム』のような顔をしていることにも気づいていたのだ。
だから、何もしなかった。
「使った方がいいのか?」
イーサンは1秒考えた。
「場合による」
マットはじっと彼を見た。
「全く役に立たないな」
「残念ながら、それが正解なのよ」クロエがフォークを置いた。「パッシブは、あなたの長期的なビルドの『土台』になるものよ。武器の特化、防御、ライフ、リソース効率、属性(ステータス)、移動——あなたが実際に進みたい方向に合わせてね」
マットは頷いた。
「リセット(振り直し)はできるのか?」
「ええ」
彼の肩の力が少し抜けた。
「ああ、よかった」
「アイテムが必要よ」
抜けた力が戻ってきた。
「……出たよ」
イーサンが笑う。
「現在の相場で、パッシブポイント1ポイントにつき、大体500ドル(約7万5,000円)ね」とクロエが言った。
マットはゆっくりとフォークを下ろした。
「1ポイントにつき?」
「1ポイントにつき、よ」
3日前なら、スキルツリーのクリックミスを一つ取り消すために500ドルかかるなんて完全に正気の沙汰ではないと思えただろう。
昨日、マットは約6,500ドル(約97万円)を稼いだ。
それがなんだか、状況をさらに悪化させているように感じた。
「奇妙なのは」マットは言った。「今の俺が『払えるな』って考え始めちゃってることだ」
クロエは即座に首を振った。
「その感覚を普通(ノーマル)だと思わないで」
彼女はフォークでマットを指差した。
「500ドル払えるからといって、500ドルが安くなるわけじゃないわ。それに、もし実際のビルドの方向性を変えるためにパッシブを大幅に変更するなら、リセットアイテムの代金なんて、一番安い出費になるかもしれないわよ」
マットは眉をひそめた。
「他に何を買い替えるって?」
「武器、防具、スキルジェム、サポートジェム。それに、もう使わないスキルのために高い金を払って開けた『サポートソケット』とかね」
マットは噛むのをやめた。
「なるほど」
イーサンが頷く。
「出たな」
剣と盾を前提にパッシブと装備を投資し、サポートソケットを開け、サポートジェムを買い込み——その後に「やっぱり両手武器の方が楽しそうだな」と決断する姿を想像した。
1ポイント500ドルというのは、総コストではなく、単なる『入場料』に過ぎない。
「よし」
マットはコーヒーを再び手に取った。
「思ってたよりずっと最悪だ」
「だからアカデミーでは、Fランク巡回中の初心者に対して『自分が本当に作りたいビルドがわかるまでは、初期ポイントは保留しておけ』と教えるのがデフォルトなのよ」
マットは二人を交互に見た。
「使わずに放置するのか?」
「しばらくはね。Fランクは訓練用ダンジョンだから。ジョブ、基本的な装備、スキルジェム、そして実際の戦闘訓練だけで十分なの。ケイブラットを殺すのに最適化されたパッシブツリーなんて必要ないわ」
「それは同意できる」
「もっと難易度の高いコンテンツに進み始めると、ポイントを使わないこと自体がミスになるわ。でもその頃には、自分がどういう方向に進みたいか、少なくともわかっているはずよ」
マットは、自分にしか見えないパッシブのインターフェースの方へ目をやった。
ほとんどの初心者にとって、保留することは「間違ったユニークスキルや武器を前提にしたビルドを作ってしまうこと」への防衛策になる。
マットの抱える問題は、そのほぼ真逆だった。
『COPY』は、可能な「方向性」を延々と追加し続けるのだ。
『過剰筋力』はSTR(筋力)特化ビルドを後押しする。『瞬動』はDEX(敏捷)へ導く。『不動の歩み』は安定性を要求する。将来コピーするスキルが、メイジスタイルの進行を魅力的に見せるかもしれないし、あるいは全く別の何かかもしれない。
選択肢が多いからといって、盲目的にコミットするのが安全になるわけではない。
むしろ悪化する。
「じゃあ、ちゃんとした計画ができるまで放置しておくか」
「今のところはね」とクロエ。
イーサンは肩をすくめた。
「たぶんな」
マットは彼を見た。
「『たぶん』?」
「あんたが何を作るかによる」
「ウォリアーだ」
イーサンは首を振った。
「それはジョブだ」
マットは動きを止めた。
「……ビルドじゃない」
「その通り」
その違いは、マットが予想していたよりもずっと重く響いた。
ウォリアーはシステムが彼を配置した出発点に過ぎない。「どんなウォリアーになるつもりか」という問いへの答えではないのだ。
攻撃的な剣術か、盾を多用する防御型か、両手武器か、ライフ特化か、機動力か、範囲制圧か、単体火力か——マットがパッと思いつくだけでも、すでに快適な選択の域を超えた方向性が存在している。そして、彼はまだ探索者になって3日目なのだ。
「あんた、実際には何をするつもりなんだ?」イーサンが聞いた。
「パッシブポイントでか?」
「『探索(デルブ)』でだよ」
マットは背もたれに寄りかかった。
そっちの質問の方が難しい。
彼の当初の計画はシンプルだった。「一人で旅をして、面白そうなダンジョンを選び、戦利品を集め、また別の場所へ移動する」。理由があればパーティーも組むが、固定のチームを中心にして自分の生活を構築するつもりはなかった。
「正直に言うと? 基本はソロだ」
イーサンが片眉を上げた。
「『基本』は?」
「一人で旅をする。着いたダンジョンに潜る。理由があればパーティーを組む」
イーサンは昨日のことを考えた。
「昨日の『オールド・フォアマン』をソロでやるのは地獄だったと思うぜ」
マットは頷いた。
「ああ」
反論の余地はない。
クロエはより慎重だった。
「適切なビルドとレベルがあれば、最終的にはソロでもやれるわよ。昨日の時点だったら厳しかっただろうけど」
マットは最後のウェーブのことを思い出した。
ボスとあの数のネズミを同時に一人で処理する状況は、まったく楽しそうではなかった。
「だから、固定のパーティーは必要ない」
「ええ」とクロエ。「でも、一時的なパーティーを頑なに拒否したからといって、賞品がもらえるわけでもないわよ」
マットは微笑んだ。
「その通りだな」
それに、一時的なパーティーは『COPY』の餌場にもなる。
彼がイーサンとクロエと1日過ごしただけで、『過剰筋力』『瞬動』『荷重軽減』が彼のアーカイブに永久保存されたのだ。
『一人で旅をすること』が、『到着した後も一人で戦わなければならないこと』を意味するわけではない。
「もし私たちが今のペースで走り続けたら」クロエが言った。「私たちがブラックホロウを離れる前に、あなたはレベル7に到達するでしょうね」
マットは顔を上げた。
「今週中に?」
「たぶん」
「何も奇妙なことが起きなければな」イーサンが付け加えた。
マットは彼を見た。
「俺たち、昨日は『プレイヤーゼロのインスタンス』を引いて『2万ドルのツルハシ』を拾ったんだぞ」
「そうだった」
イーサンは言い直した。
「奇妙なことが『これ以上起きなければ』な」
クロエが続けた。
「つまり、そろそろ自分がどの方向に進みたいか、決断し始めるべきだってこと」
「ポイントを消費せずに、な」
「まずはリサーチよ」
マットはもう一口食べた。
「初心者はどうやって選べばいい?」
イーサンが即答した。
「ガイド動画」
マットは彼を見た。
「本気で?」
「大マジだ」
クロエが頷いた。
「うちのインストラクターの口癖があるの」
イーサンがうめいた。
「うわ、出たよ」
マットは興味を惹かれた。
「なんて口癖だ?」
クロエは、耳にタコができるほど聞かされた人間の正確さでそれを暗唱した。
「『オリジナルのビルドを発明するために金を無駄にするな』」
マットは笑った。
「それがアカデミーの公式な教育哲学か?」
「いや」とイーサン。「あの人は普段、もっと大声でそれを言うんだ」
「大抵は、誰かがオリジナルのビルドを発明して大金を無駄にした後にね」とクロエが補足する。
「実際にあったのか?」
「何度か」
マットは身を乗り出した。
「よし。実例を聞こう」
イーサンが笑う。
「別の1年グループにいた奴でさ、『ガイドなんて想像力のない奴が見るもんだ』って決断した奴がいたんだよ」
「それは素晴らしい結末が待ってそうだな」
「剣と盾でスタートして」とクロエ。「そのあと『やっぱり槍がいい』って言い出して。配信者(ストリーマー)を見た後に『二刀流にする』って言い出して。そのあと両手斧に変えたわ」
マットにはすでにオチが見えていた。
「いくらかかったんだ?」
「インストラクターがそいつのやってることに気づいた時には、同じレベル10のビルドの別バージョンを作るために、数千ドルが消し飛んでた」
マットは呆れた。
イーサンがニヤリとする。
「インストラクターはそいつの決済履歴を見てこう言ったよ。『おめでとう。お前は貧困を発明したな』って」
マットはコーヒーを吹き出しそうになった。
クロエはため息をついた。
「実際にそう言ったのよ」
「最高だな」
「言われた生徒にとっては最高じゃなかったけどね」
「だろうな」
マットはそれでも笑った。
「でも、記憶には残る」
「それが狙いよ」
マットはナプキンで口を拭いた。
「で、初心者は『証明済みのビルド』を使うと」
「証明済みの『構造』よ」クロエが訂正した。「ガイドは戒律(ルール)じゃない。テスト済みの『出発点』よ。なぜそのピースが噛み合っているのかを理解した上で、自分なりに調整するの」
マットは少し考えた。
「でも、ユニークスキルは人それぞれ違うだろ」
「その通り。ジョブ、パッシブ、装備、スキルジェム、一般的なプレイスタイル——そういう『共通部分』が骨格を作ってくれる。そして、自分のユニークスキルがその細部(ディテール)を変化させるのよ」
イーサンが自分を指差した。
「俺の『過剰筋力』は追加でSTRを20くれる。だから俺は、他のウォリアーよりも簡単に装備要件を満たせる。もし防御系のユニークを持ってる奴なら、また違う調整をするだろうな」
マットはゆっくりと頷いた。
普通の探索者にとって、ガイドは安定した骨格を提供し、彼らのユニークスキルがそれをパーソナルな方向へと曲げる。
『COPY』は、マットに「その骨格を曲げるための方法」を桁違いに多く提供してくれる。
だが、だからといってレベル5の段階で、彼がゼロからすべてを発明しなければならないわけではない。
彼には6つのコピースキルがある。
探索者になって3日目の朝に、システムのすべてを解明しようとする必要はない。
まずは、証明されたベース(土台)。
それから、『COPY』がそれで何を作れるかを見る。
他の人間がすでに文書化してくれている失敗を「再発見」するために数千ドルを払うよりも、はるかに安上がりに聞こえた。
マットはスマホを取り出した。
「よし。誰のガイドを見ればいい?」
イーサンが嬉しそうな顔をした。
「おお、やっとか」
クロエが即座に彼を指差した。
「こいつに配信者(ストリーマー)ばっかり紹介させちゃダメよ」
「配信者だって役に立つだろ」
「一部はね。大半はエンタメよ」
「エンタメだって教育的になり得る」
「タイトルが『リスナーが50ドル寄付したから全裸でボスと戦ってみた』の場合は違うわね」
マットはイーサンを見た。
「頼むから、それが実在する動画だとは言わないでくれ」
イーサンは少し言葉に詰まった。
マットはため息をついた。
「当然実在するわけだ」
◆
最初のおすすめはクロエからだった。
「『RookDelves(ルーク・デルブス)』よ」
マットは検索した。
プロフィール画像は、風化したような顔つきの年配の男が盾を持っているだけの、極めて地味なものだった。
最新の動画のタイトルはこうだ。
『初心者ウォリアーへ:賢ぶるのはやめろ』
マットはそれをタップした。
冒頭のカットは、音楽も、派手なイントロも、アニメーションロゴもなく、ベテラン探索者が訓練アリーナの前に立っているだけのものだった。
ルークはカメラを真っ直ぐに見た。
「もしお前がレベル5で、『俺の考案した“出血・クリティカル・ブロック・反射ビルド”は、標準的な初心者の剣ビルドより密かに優れてるんじゃないか?』と聞きたいなら、答えはノーだ」
マットは動画を一時停止した。
「この人、好きだわ」
イーサンが呆れたように言った。
「あんた、まだ9秒しか見てないぞ」
「この人は9秒で俺の金を節約してくれた」
クロエが満足げに頷く。
「その通りよ」
マットは再生を再開した。
「テスト済みのものを使え。なぜそれが機能するのかを学べ。変更を加えるのはそれからだ」
マットはクロエをちらりと見た。
「君んとこのインストラクター、絶対これパクってるだろ」
「たぶんね。ルークは何年も前からガイドを出してるし」
動画は、ウォリアーが盾と短く制御された攻撃を使ってEランクのモンスターと戦う映像に切り替わった。ドラマチックな要素は微塵もない。
「退屈だな」とイーサンが言った。
「極めてね」とクロエも同意した。「だからこそ、彼のビルドは機能するのよ」
マットはそのアカウントをフォローした。
「『退屈』を尊敬し始めてるよ」
「それが大人になるってことね」とクロエ。
19歳の小娘から「大人になるとは何か」を説教されたことに対して、マットはあえて反応しないことを選んだ。
イーサンがスマホを奪い取った。
「次は実用的なやつだ」
「お前、今ルークのことを実用的じゃないって言ったか」
「『退屈だ』って言ったんだよ」
彼は別のアカウントを検索した。
「『ClearSpeed(クリアスピード)』だ」
そのページは先ほどよりもはるかにアグレッシブだった。画面分割されたダンジョンマップ、移動スキルの比較、ルート図、タイマーのオーバーレイ表示。そして動画のタイトルは:
『あなたから数時間を奪っている「40秒のルート・ミス」』
『群れ(パック)をスキップすべきタイミング』
『Fランク移動スキル:実際のクリアタイムによる最強ランキング』
マットは見つめた。
「リックがこれ見たら大喜びするだろうな」
イーサンは眉をひそめた。
「あのビール男か」
「ああ」
「俺は会ったこともない男の情報を、不本意ながらどんどん学習させられてる気分だぜ」
マットはルート比較の動画を開いた。
クリエイターは、同じダンジョンでの2つのプレイルイを比較していた。一人のプレイヤーはほぼすべてのモンスターを殺し、もう一人は面倒な配置の群れをスキップし、群れと群れの間で移動スキルを使い、劇的に速くクリアしていた。
マットは昨日のボスラッシュを思い出した。
彼は安い魔石を無視し、モンスターの群れを丸ごとスキップしたが、それでもルート上に落ちていた『マジック・ショートソード』を拾うくらいの余裕はあった。
どうやら、「価値の低い戦利品を無視すること」と「目の前にある良い戦利品を拾わないこと」の間には明確な違いがあるらしい。
「この人、基本的にはリックの人格を丸ごとマネタイズしてるようなもんじゃん」
「リックは深く傷つくでしょうね」とクロエ。
彼女は別のリンクを送ってきた。
「『DelverMetrics(デルバー・メトリクス)』よ」
マットはそれを開いた。
プレゼンター(配信者)の姿は一切ない。ただのチャート、表、アイテムの価格履歴、報告されたユニークドロップ、投稿された潜行データから推測されるドロップ率、スキルジェムの使用率、クリア統計、過去の魔石の価格推移だけが並んでいた。
マットは数秒間それを見つめた。
「これだ」
イーサンが覗き込む。
「何が?」
「これが俺の好きなやつだ」
クロエがため息をついた。
「そりゃそうよね。物流の人間がスプレッドシートのアカウントを好きにならないわけないわ」
「地域別の価格比較まであるぞ」
「その言葉を聞いた瞬間、イーサンはもう話を聞くのをやめたわよ」
「完全にシャットアウトした」
マットはそれをフォローした。
次にイーサンが見せたのは『CampToCamp(キャンプ・トゥ・キャンプ)』だった。
マットには紹介すら不要だった。
「もうフォローしてる」
イーサンが驚いた顔をした。
「マジで?」
「このアカウントのおかげで、俺は今ここにいるんだからな」
このアカウントは、マットの現在の人生にある程度の責任を負っていた。トラックとトレーラーでダンジョンからダンジョンへ移動する生活を、「奇妙なキャリア選択」ではなく「戦利品付きのロードトリップ」に見せてくれたのが、この『CampToCamp』だったのだ。
「そりゃフォローしてるだろうな」
「良いコンテンツだ」
「『良いトラックのコンテンツ』ね」クロエが訂正する。
「同じことだ」
次に表示されたのは、有名な高ランク探索者たちのクリップ映像だった。巨大なモンスター、複雑な装備、ありえないほど速いスキル、そしてブラックホロウの長いトンネルなど意味を持たなくなるような移動アビリティ。
クロエが画面を指差した。
「こういうのは『エンターテインメント』として見なさい。ビルドの参考じゃなくて」
「了解」
「彼らのビルドをコピー(真似)しないでよ」
マットは表情を完全に中立に保った。
(言葉のチョイスが絶妙すぎるな)
「しないよ」
彼のフィードはすでに、ボス攻略ガイド、アイテム紹介、キャンプ場のレビュー、ビルドの議論、オークションのスクリーンショット、そして「安物のマジック装備がいかに高価なユニークより優れているか」という議論で埋め尽くされていた。
動画のタイトルが次々とスクロールされていく。
『このビルドを修正するのに40,000ドル使った結果』
『序盤で絶対に取るべきではない5つのパッシブ』
『6,000ドルのユニークに勝った220ドルの剣』
『レベル20になるまでこのジェムは買うな』
マットは見つめた。
「これは……ネット上に一つの『生態系』ができあがってるな」
クロエが頷く。
「15年間よ」
「当然そうなるわな」
「人類は魔法のダンジョンを手に入れた」とイーサンが言った。「そして、即座に『最強ティア(Tier)表』を作り始めたんだ」
「お前が今まで言った中で、一番説得力のある言葉かもな」
イーサンはニヤリとして、最後の動画を開いた。
サムネイルには、頭を抱える若い探索者の姿と、巨大な文字が表示されている。
『27個のパッシブをリセットして後悔した』
マットは見つめた。
「……27個」
「やめなさい」とクロエ。
それでもマットは計算した。
「1万3,500ドル(約200万円)」
「リセットアイテム代だけでな」イーサンが付け加える。
マットはスマホの画面をロックした。
「絶対にやらない」
「よろしい」
クロエが朝食の最後の一口を食べ終えた。
「当面は、楽しそうなウォリアーのビルドを3つピックアップすること。お金は使わない。ハイライト映像じゃなくて『通常の探索動画』を見て、それが実際にどうプレイされるかを確認してから絞り込むのよ」
マットは頷いた。
「なんか、ひどくまともで常識的な話だな」
「それが学校ってもんよ」
イーサンが不満そうな顔をした。
「学校ってのは大抵、楽しくてお金のかかることを『やるな』って言ってくる場所なんだよ」
「それはあなたが『お金のかかる失敗』を楽しむ人間だからでしょ」
「あくまで噂レベルの話だ」
◆
会話はそこで終わるはずだった。
しかし、イーサンがマットのスマホでまだ『CampToCamp』が開かれていることに気づいた。
彼はテーブル越しに身を乗り出した。
「ところでさ」
マットは即座に警戒した。
「何だ?」
「あんた、自分の車(セットアップ)を5年くらい早く買っちゃったって気づいてる?」
マットは目を細めた。
「……どういう意味だ?」
クロエが目を閉じた。
「始めないでよ」
イーサンはすでに検索を始めていた。
「新しい『空間拡張ピックアップ』、見たことあるか?」
マットはその言葉を慎重に反芻した。
「空間拡張……ピックアップ」
「ああ、あんた絶対これ見てキレるぜ」
「なんでだ?」
イーサンが動画を見つけ、スマホをテーブルの真ん中に置いた。
画面には、重厚なピックアップトラックが映っていた。ダークカラーのボディで高級そうだが、それでも一見してトラックだとわかる。
トレーラーは牽引していない。
カメラが車の周りを歩く。
マットは待った。
「で?」
「まあ見とけ」
後部のキャビンモジュールに組み込まれたドアが開いた。
カメラが中に入る。
マットは身を乗り出した。
その内部は、物理法則を無視していた。
ドアの先は、せいぜいトラックの荷台と同じくらいの広さしかないはずだ。
代わりに、それは『廊下』へと続いていた。
本物の、廊下だ。
カメラが左を向く。
ベッドルーム。
マットは動画を一時停止した。
「戻せ」
イーサンがニヤリとした。
「どこに?」
「その部屋だ」
「ベッドルームだろ」
「見りゃわかる」
そのベッドルームには、キングサイズのベッド、収納キャビネット、外光をシミュレートする巨大な窓型ディスプレイがあり、歩き回るのに十分な床面積があった。
マットはイーサンを見た。
「俺の寝室より広いぞ」
「トレーラーの?」
「ああ」
「まだ続きがあるぞ」
カメラが進む。
バスルーム。
マットは再び一時停止した。
「嘘だろ」
イーサンが笑い出す。
「何がだよ」
マットはシャワーを指差した。
「俺のトレーラーのシャワーよりデカいぞ」
クロエがちらりと見た。
「あなたのシャワーは20フィートのトレーラーの中にあるんでしょ」
「何の慰めにもなってない」
動画は続いた。フルサイズのバスルーム、本物のカウンタースペースがあるキッチン、冷蔵庫、ダイニングブース、ワークステーション、物置、補強された装備エリア、そして最後にラウンジ。
マットはまた動画を止めた。
「これ、ピックアップトラックなんだよな」
「建前上はな」
マットは画面を指差した。
「これは『ピックアップトラックの着ぐるみを着たアパート』だ」
クロエが頷く。
「正確な表現ね」
「トレーラーなし?」
「なし」
「ヒッチ(牽引装置)もなし?」
「なし」
「3人の見知らぬ他人に駐車の失敗を眺められながら、20フィートの箱をバックでサイトに入れる必要もなし?」
「その通り」
マットは画面を見つめた。
「俺、この車大嫌いだわ」
イーサンが笑う。
「まだ値段を聞いてないぜ」
マットは即座に背もたれに寄りかかった。
「少し嫌いじゃなくなった」
「トップエンドのモデルは余裕で6桁(10万ドル / 約1500万円以上)に乗る。カスタムすればさらに跳ね上がるぜ」
「出たよ」
これ以上イーサンが高いものを見つける前に、クロエがスマホを取り上げた。
「空間拡張のハードウェア、認定メンテナンス、部品、そして保険。すべてにお金がかかるわ。それに何かが壊れた時、その辺の空いてる地元の修理屋に持っていくわけにはいかないのよ」
マットはため息をついた。
「また出たよ」
「初心者の探索者には、あなたのセットアップの方が向いてるわ」とクロエ。「普通のトラック、普通のトレーラー、大半が普通の部品。どちらかが修理になっても、もう片方は使える」
イーサンも頷いた。
「空間拡張ピックアップが専門の修理工場に入っちまったら、あんたは『足』と『家』を同時に失うことになるからな」
マットはそれを考慮した。
「……それは確かに説得力があるな」
「だろ?」
イーサンがスマホを取り返した。
「でもカッコいいだろ」
マットは、あのありえない広さのキッチンをもう一度見た。
「最高にカッコいいな」
次のクリップは、有名な探索者が所有するカスタムモデルだった。外から見ればただのピックアップ。
しかし中は、高級ホテルだった。巨大なベッドルーム、独立したオフィス、装備の手入れ用ワークショップ、そして拡張ラックを備えた専用の戦利品(ルート)ルーム。
棚が自動で展開されるのをマットは見ていた。
「よし。あの部分は実用的だ」
「いつかそう言うと思ってたぜ」
「買うとは言ってないぞ」
「金持ちになったらな」
マットは背もたれに寄りかかった。
「俺は昨日、6,000ドル(約90万円)稼いだけどな」
クロエが即答した。
「あなたは金持ちじゃないわ」
「どうも」
「6,000ドルは『良い一日』の稼ぎよ。『空間拡張の高級ピックアップが買えるお金』じゃないわ」
「それも正論だ」
イーサンがマットを指差した。
「1年待ってみなよ」
クロエが彼に向き直る。
「彼にファイナンシャル・アドバイスをするのはやめて」
「俺、まだ損したことないぜ」
「あなたまだ19歳でしょ」
「だからだよ」
「何の言い訳にもなってないわ」
マットは笑った。
「いつかな」
それは本心だった。
あのトラックは馬鹿げていて、まったく必要なくて、そして牽引のストレスを完全にゼロにしてくれる。
彼は間違いなく、向こう数週間はこの車のことを考え続けるだろう。
もしかしたら、もっと長く。
◆
朝食は、さらに30分ほど「役に立たない会話」へと脱線し続けた。
マットは、自分がそういう時間を楽しんでいることに気づいた。
イーサンには「ほぼ食事の質だけに基づいたダンジョン・キャンプ場の個人的なランキング」があった。
マットがそれを知ったのは、イーサンが次に移動するペンシルベニアについて語り始めた時だった。
「お前、レストランでダンジョンを評価してるのか?」
「キャンプ場(キャンプ)をな」
「何か違うのか?」
「全然違うだろ」
クロエが口を挟む。
「彼には評価カテゴリがあるのよ」
マットは彼女を見た。
「是非聞かせてほしいな」
「聞かなくていいわよ」
イーサンはすでにスマホのメモを開いていた。
「朝食、深夜飯、コーヒー、フードトラックの種類、価格、そして『ダンジョン後の食事の質』だ」
マットは呆れた。
「『ダンジョン後の食事の質』って何だよ」
「モンスターに6時間殴られ続けた後に食うと、より美味く感じる飯があるんだよ」
「それは測定可能なカテゴリじゃないだろ」
「絶対に測定可能だね」
クロエは首を振った。
「こいつ、あるキャンプ場には『ハンバーガー屋が夜中の2時まで開いてるから』って理由でボーナスポイントつけてたのよ」
「それは重要だろ」
マットは少し考えた。
「……確かに、それは重要だな」
「だろ?」
クロエは裏切られたような顔をした。
会話は、アカデミーの次の目的地についての話題に移った。ペンシルベニアにある別のFランクダンジョン。違う環境、違うモンスター、違うレッスン。
「学期中ずっとこれをやるのか?」
「大体はね」とクロエ。「最初はFランクを巡業して、後でもっと専門的な訓練に移るの」
マットは頷いた。
「卒業後は?」
イーサンは肩をすくめた。
「企業チームや固定パーティーに入る奴もいる。地元に帰る奴もいる。あんたみたいなことをする奴もいる」
「トラックとトレーラーで?」
「ロード・デルビング(放浪探索)だな」
マットは興味を示した。
「よくあるのか?」
「結構いるぜ」
クロエがダイナーの窓の外へ顎をしゃくった。
「キャンプを見ればわかるでしょ。一つのダンジョンを終えたら、また移動していく人たちはたくさんいるわ」
全員がトレーラーを使っているわけではない。家具付きのキャンプ用住宅を借りる者、モーテルに泊まる者、バンで生活する者、そしてどうやら『6桁ドルの空間拡張ピックアップトラック』で旅をする者もいるらしい。
しかし、その基本的なライフスタイルは、まさにマットが望んでいたものだった。
どこかに滞在する。
狩る(ファーム)。
レベルを上げる。
次へ移動する。
イーサンが最後の一口を飲み込んだ。
「ちなみに、今日はみんな俺たちのこと大嫌いだと思うぜ」
マットは顔を上げた。
「なんで?」
「エコー(ツルハシ)。それに誰も入ってないインスタンス」
「ああ」
「あんた、両方引いたからな」
クロエが訂正した。
「『私たち』が引いたのよ」
「そうだった」
マットは微笑んだ。
「その恨み妬みから生き残れるように頑張るよ」
「大半は『おめでとう』って言ってから、確率の不公平さについて愚痴ってくるだけよ」
「昨日すでに経験済みだ」
「でしょ」
ウェイトレスが伝票を置いていった。
マットはスマホに戻り、メモを開いた。
【ビルド・リサーチ】
・剣 / 範囲処理(エリアクリア) — 現在のセットアップに最も近く、群れの処理(ファーム)に最適。
・剣+盾 / ソロ安定型 — ボスのコントロールが容易。一人で旅する時に安全。
・重物理特化 — より単体(シングルターゲット)への火力にフォーカス。要調査。
そして、大文字で:
まだパッシブポイントは使うな
リセット代 ≈ 1ポイント500ドル
マットは2行目を見つめた。
いまだに腹が立つ金額だ。
しかし、彼には方向性ができた。この3つのビルドをリサーチし、ハイライト動画ではなく通常のプレイ動画を見て、ツリーにポイントを突っ込む前に自分が本当に何をしたいのかを決断する。
マットは朝食の代金を払った。
普通の食事。
普通の金額。
500ドル(約7万5,000円)は決して安くはない。
奇妙なのは、それがもはや「不可能」な金額には感じられなくなっていたことだ。
その二つの間には、重要な違いがある。
彼は立ち上がり、武器ラックからロングソードを回収し、ライフ・フラスコとポータル・スクロールを確認した。
準備完了だ。
彼のパッシブポイントは、完全に手付かずのまま残されている。
今回ばかりは、「決断を先延ばしにすること」が最も財務的に責任ある選択だった。
◆
彼らはラスト・フラスコを出て、朝の陽射しの中へ踏み出した。
ブラックホロウ・キャンプは今や完全に目を覚ましており、探索者たちが広場を行き交い、遠くでゲートが青く輝いていた。
イーサンが盾の位置を調整する。
「通常のラン(探索)でいいか?」
「通常のランよ」とクロエが確認した。
マットはインスタンス端末の方を見た。
「ボスレースはなし?」
「また『0/64』みたいな奇跡のインスタンスが出ない限りはね」
マットは即座にイーサンを見た。
「そういうフラグを立てるな」
「出たら絶対行くくせに」
マットは昨日の手付かずのインスタンス、初めてのボス、レベル5への到達、そして銀行口座に眠る『2万ドルのツルハシの売り上げの自分の取り分』を思い出した。
彼は少し躊躇し——。
「……たぶんな」
クロエがため息をついた。
「やっぱりね」
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