STAR WARS: STAR DESTROYER   作:あーくわいてんず

11 / 30
陰謀の星

C.R.C. 7944.218

 

 最初に動いたのは、一体だけだった。

 

 防護フィールドの内側で、通商連合の取締役たちを十三体のセキュリティ・ドロイドが取り囲んでいた。最後に入ってきた一体が頭部を回し、外の襲撃者から、守るべき者たちへ向き直る。

 

 座席の隙間から見ていたシーアは、その動きに目を留めた。

 

「……何してるの?」

 

 誰に聞いたわけでもなかった。

 

 隣の一体が動いた。さらに、その隣も。合図は見えず、命令も聞こえない。それでも、何かが順に伝わっているように、銃口が同じ方向へ回っていった。

 

 取締役の一人が気づき、手を上げた。

 

「停止しろ!」

 

 ドロイドは動きを止めなかった。

 

「停止命令だ! 認証――」

 

 閃光が走り、男が倒れた。

 

 そばにいた者が身を屈める。その頭上を次の一発が通り、別の取締役が椅子ごと崩れた。叫び声が上がり、人々が区画の中央へ逃げようとする。

 

 だが、そこにも銃口が向いた。

 

 防護フィールドは、正常に作動していた。上からの射撃を防ぐために立ち上げた光の壁が、取締役たちとドロイドを一緒に包んでいる。外にいる警備員がブラスターを構えたが、撃たなかった。射線の先には、防護フィールドがある。

 

「フィールドを解除しろ!」

 

 エリアドゥ側の警備員が投射装置へ駆け寄った。操作盤に触れ、誰かへ怒鳴る。光の壁は消えない。

 

 一人の取締役が壁へ両手をつき、すぐ外の警備員へ何かを叫んだ。言葉は周囲の怒号にかき消された。その背後で、また銃口が光った。

 

「シーア」

 

 エレナの指が腕に食い込んだ。痛かった。それでも、シーアは顔を動かせなかった。

 

「なんで……」

 

 あの機械は、人を守るために置かれていた。

 

 港の警備員も、《タイラント》の兵士も、同じように武器を持っていた。何かあれば、その人たちの後ろへ行けばいい。少なくとも、シーアはそう思っていた。

 

 今、その後ろへ逃げ込んだ人が撃たれている。

 

「殿下、見ないでください」

 

 セレナが二人を抱えるように引き寄せた。シーアの顔が彼女の服へ押しつけられ、議場が見えなくなる。

 

「でも――」

 

「見なくていいです!」

 

 その声に、シーアは抵抗をやめた。

 

 音までは消えなかった。ブラスターと悲鳴の間に、解除コードを求める警備員の声が聞こえる。何度も同じ呼びかけが繰り返され、その間隔が分かるほど、区画の中から聞こえる人の声が少なくなっていった。

 

 

 アルドレンは、防護フィールドへ近づきかけて足を止めた。

 

 投射装置の周囲には、すでに警備要員が集まっていた。共和国側の警護員も加わり、通商連合の技術者を呼べと叫んでいる。誰かが操作を試すたびに、別の者が光の壁を見上げた。変化はなかった。

 

 公王の命令で、あの装置を止めることはできない。現場の警備員も、持ち込まれた機材も、アルドレンの指揮下にはなかった。さらに一人がそこへ割って入り、同じ命令を叫んでも、解除の方法が分かるわけではない。

 

 彼は北側へ向き直った。立ち上がった代表者たちに遮られ、傍聴席の中が見えない。

 

「ヴァレン、北側は?」

 

 護衛官が通信機から顔を上げた。

 

「セレナ侍従と連絡が取れました。お二人とも御無事です。退避通路の確認を待っています」

 

 アルドレンは短く息を吐いた。

 

「確認でき次第、連れ出せ。私の方は後でいい」

 

「承知しました」

 

 ヴァレンは別の護衛へ合図を送り、北側へ通じる通路へ向かった。アルドレンはその姿が人の間へ消えるまで見ていた。

 

 頭上では、まだ戦闘が続いていた。緑の光が梁の陰へ動き、別の方向で青い刃が閃く。どちらへ何人の襲撃者が逃げたのか、下からは分からない。

 

 近くでは、ターキンが開催地側の警備官から報告を受けていた。

 

「最高議長は?」

 

「共和国警護班が確保しています」

 

「南側通路は閉鎖しろ。確認が済むまで誰も通すな。外周も警戒を続けろ。侵入者が一人とは限らん」

 

 警備官が通信へ命令を流す間に、ターキンは別の担当者を呼んだ。声を張り上げることもなく、報告の途中で必要な点を確かめ、次にすべきことを告げている。

 

 軍艦を案内している時よりも、今の方が、この男の仕事ぶりはよく分かった。

 

 アルドレンは長く見ていなかった。防護フィールドの中で再び閃光が走り、そちらへ顔を戻した。

 

 

 最初の襲撃者が議場へ落ちる、わずか前。

 

 会場上層の保守歩廊では、クワイ=ガン・ジンが狙撃手を追っていた。

 

 狭い足場の先を、傷だらけのローディアンが走っている。ボイニーだった。つい先ほどまで敵だった男が、今は狙撃手へ迫ろうとしていた。

 

 前方の男が、肩越しに振り返る。

 

「伏せろ!」

 

 クワイ=ガンの声より、銃口の動きが早かった。

 

 閃光を受け、ボイニーの身体が揺れた。歩廊へ崩れ落ちる。その脇へ踏み込んだクワイ=ガンの刃が、次の一発を弾いた。

 

 狙撃手が後退する。手すりの向こうには、はるか下の大会議場が見えていた。

 

 男がもう一度撃った。クワイ=ガンが逸らす。そのまま距離を詰めると、男の足が歩廊の縁を外れた。

 

 身体が手すりへぶつかり、伸ばした手が滑る。次の瞬間には、姿が下へ消えていた。

 

 下の梁にぶつかる音がして、会場から悲鳴が上がった。

 

 クワイ=ガンは歩廊を戻り、ボイニーのそばへ膝をついた。

 

「ボイニー」

 

 肩へ手を置いて呼んだが、返事はなかった。通信機を取り、位置と救護の要請を伝える。

 

 その時、下から別の銃声が聞こえた。

 

 一発では終わらなかった。短い間隔で射撃が続いている。クワイ=ガンは手すりへ寄り、大会議場を見下ろした。

 

 通商連合の区画を、防護フィールドが包んでいた。その内側で、ブラスターが光っている。

 

 ヴァローラムのいる場所ではなかった。

 

 議長への狙撃はあった。自分たちは確かにそれを追ってきた。だが、その下で別の襲撃が始まっている。

 

 追跡の間、フォースの中に感じていた不穏さは、狙撃手が倒れても消えなかった。

 

 コールやハヴァックまでたどっても、まだ先があった。近づくたびに、その奥へ逃げていくものがある。誰が、何のために、ここまでをつなげているのか。

 

 フィールドの中で、また一発が光った。

 

 クワイ=ガンは通信機へ状況を告げ、議場へ下りる通路に向かって走り出した。

 

 

 銃声がやんでも、セレナは腕を緩めなかった。

 

 遠くで誰かが泣いていた。警備員の呼びかけと足音が続き、通路の方からは、まだ動くなという指示が聞こえる。

 

「……終わった?」

 

 エレナの声は小さかった。

 

「まだ、ここにいてください」

 

 シーアは顔を上げかけた。

 

「もう撃ってないよ」

 

「分かっています」

 

 セレナはシーアの頭へ手を添えた。今度は、強い声ではなかった。

 

「お願いします。まだ見ないでください」

 

 シーアは動くのをやめた。

 

 しばらくして、通路を重い機材が運ばれていく音がした。車輪が床の継ぎ目を越えるたびに、小さな振動が伝わってくる。通商連合の技術者が警備員に囲まれ、投射装置のそばへ進んだ。

 

 持ち込まれたのは、フィールド・ディスラプターだった。技術者たちが装置の出力を確かめ、防護フィールドの解除を試みる。

 

 光の壁が揺れた。座席の背に映っていた青白い光が薄れ、再び強くなる。

 

 そして、消えた。

 

 警備員が中へ入り、停止したドロイドから武器を離していく。後ろで待っていた医療班が続いた。

 

「殿下、通路が確保できました」

 

 ヴァレンが傍聴席の入口から呼びかけた。

 

 セレナが立ち上がり、二人を自分の前へ寄せる。その時、シーアには人の隙間から区画の中が見えた。

 

 倒れている人と、動かなくなったドロイド。医療班の一人が膝をつき、すぐに次の人のそばへ移る。別の隊員が顔を上げ、待っている者へ首を振った。

 

 シーアは目を逸らした。今度は、セレナに言われる前だった。

 

 入口まで歩いてから、ふと思い出した。

 

「……二人、出ていったよね」

 

 エレナがこちらを見た。

 

「シャトルのところへ」

 

「あ……」

 

 ヌート・ガンレイとロット・ドッド。エンジンのプラズマ漏れを確かめに行った二人は、フィールドの中にいなかった。

 

「だから――」

 

 助かったのだ、と言おうとして、シーアはやめた。

 

 閉じられていく会場の扉を見てから、セレナに促されるまま歩き出した。

 

 

 ガンレイとドッドがセスウェナ・ホールへ戻った時、入口はすでに封鎖されていた。

 

「通してもらいたい」

 

 ガンレイが入場証を示したが、警備官は道を空けなかった。

 

「現在、会場への出入りは制限されています」

 

「私は通商連合総裁だ。中には取締役会がいる」

 

 警備官が一瞬、そばの同僚を見た。その反応を、ドッドは見逃さなかった。

 

「何があった?」

 

 別の警備官が近づき、二人を人の流れから離れた場所へ案内した。

 

「説明します。こちらへ」

 

「ここで答えろ」

 

 ガンレイの声に、近くの者が振り返った。警備官は声を落とし、会場で起きたことを伝えた。

 

 二人とも、しばらく何も言わなかった。

 

「ドロイドが、取締役を撃ったのか?」

 

 ドッドが聞いた。

 

「そのように報告されています」

 

「我々の警備ドロイドが?」

 

「詳しい状況は調査中です」

 

 ドッドは会場の入口を見た。入場した時の列が、頭に浮かぶ。予定より多かった機体。最後尾で遅れて止まった一体。

 

「……十三体目」

 

 ガンレイが横を向いた。ドッドはそれ以上言わなかった。

 

 ほどなく、通商連合の技術者からも報告が入った。防護フィールドは解除され、ドロイドはエリアドゥの警備要員が管理しているという。機材の確認に引き続き協力を求められたが、その場で二人が異を唱えることはなかった。

 

 

 別区画へ退避したヴァローラムは、立ったまま報告を聞いていた。

 

「取締役会の区画に、生存者は?」

 

 担当者は一瞬言葉を切った。

 

「確認されていません」

 

 ヴァローラムは目を閉じた。開くまでの数秒、誰も続きを話さなかった。

 

 今日、合意を求めるはずだった相手が死んでいた。課税も企業武装も、修正案も、正式な協議に入る前だった。そのために各地から集まった代表団が、今は警護の下で退避している。

 

 セイ・タリアがそばへ来た。

 

「最高議長」

 

「サミットは中止する。全代表団へ通知を」

 

 声に迷いはなかった。

 

「帰還については、エリアドゥ側の安全確認を待つ。負傷者と、まだ所在を確認できていない者の報告もまとめてくれ」

 

「承知しました」

 

 彼女が指示を伝え始めたところへ、共和国司法部門の担当者が入ってきた。

 

「議長、現場の保全を開始します。ドロイドの回収についても――」

 

「その前に、手順を確認していただきたい」

 

 ターキンが口を挟んだ。

 

「現場の封鎖と第一次保全は、エリアドゥ当局が行います。すでに警備要員を配置しています」

 

「共和国最高議長を標的とした事件です。共和国司法部が捜査します」

 

「承知しています。同時に、エリアドゥで発生した大量殺人でもある」

 

 ターキンは担当者へ向き直った。

 

「別々の機関が、それぞれの判断で機材を動かしては証拠管理が混乱する。現場での保全はエリアドゥ側が取りまとめ、共和国側へ記録を提供します」

 

「記録だけで済む問題ではありません」

 

「共同でやれ」

 

 ヴァローラムが言った。二人が口を閉じる。

 

「共和国側から立会人を出す。エリアドゥ側は現場を動かす前に記録を共有する。回収するドロイドも機材も、双方で確認しろ」

 

 ターキンはすぐに頷いた。

 

「異論ありません」

 

 司法部門の担当者も了承し、立会人の手配に向かった。

 

 アルドレンは、そのやり取りを少し離れた場所で聞いていた。現場を保全する者を決め、別の機関が確認する。混乱した会場で、同じものを別々に持ち去られるよりはよい。

 

 この合意に、異を唱える理由はなかった。アルドレンは護衛からの連絡を受けると、息子たちのいる待機区画へ向かった。

 

 

 シーアたちは北側の出口を通り、そこから来た時とは違う連絡通路へ入っていた。

 

 窓はなかった。角を曲がるたびに警備員が立ち、ヴァレンが身分を示して通る。セレナは二人のすぐ後ろを歩き、立ち止まりかけると肩へ手を添えた。

 

「父上は?」

 

「御無事です。こちらへいらっしゃいます」

 

 セレナが答えた。シーアは頷き、前を歩く護衛の背中を見た。

 

 エレナは何も言わなかった。シーアの袖をつかんだまま歩いている。離してほしいとは思わなかった。

 

 頭の中には、銃口が回っていく光景が残っていた。忘れようとすると、その前に見た緑と青の光が浮かぶ。暗い部屋と四角い何かは、もううまく思い出せない。

 

 それよりも、光の壁へ手をついた人の姿が離れなかった。

 

「守るって、難しいね」

 

 シーアが呟くと、エレナがこちらを向いた。

 

「あのシールド。外から入れないから、安全だと思った」

 

「私も」

 

「助けに行く人も、入れなかった」

 

 エレナは返事をしなかった。二人とも、しばらく床を見て歩いた。

 

 通路の先には、大きな窓のある待機室が設けられていた。セレナは二人を椅子へ座らせ、水の入った容器を持ってきた。

 

 シーアは受け取ったが、すぐには飲めなかった。エレナも容器を両手で持ち、膝の上に置いている。

 

 窓の向こうを、エリアドゥ政府のシャトルが横切った。その音に顔を上げると、高空に大きな影があった。

 

 《タイラント》だった。

 

 

 軌道から高度を下げた巨艦は、雲の上にいた。

 

 四キロを超える船体が、灰色の空の中に長く伸びている。艦の下から小さな光が離れ、警備艇と合流した。別の一機は向きを変え、宇宙港の方へ降りていく。

 

「シーア」

 

 エレナが窓を指した。

 

「見てる」

 

 シーアは椅子の背から身体を起こした。セレナも外を見たが、今度は何も言わなかった。

 

 同じ船だった。一昨日はあの中を歩いた。古い隔壁と、新しく取り付けられた端末。補給庫に積まれた物資。DBY-817を動かすために更新された設備の説明も聞いた。

 

 今、目に留まったのは砲塔ではなく、艦から離れていく艇だった。

 

 入口のそばで、警備員が通信に答えていた。

 

「《タイラント》との回線は確保されています。軌道監視情報をこちらにも回してください。搬送艇の進入は地上管制と調整します」

 

 少し間があり、警備員が端末の表示を送る。

 

「受信しました。救護所へ伝えます」

 

 シーアは窓と、その端末を交互に見た。

 

 あの艦のどこかに、情報を送っている人がいる。格納庫では次の艇を出す準備をしているのかもしれない。見学した時に台車へ積まれていた医療物資も、今はどこかへ運ばれているのだろうか。

 

 艦に何を載せられるかは、考えてきた。戦闘機も、人も、救難艇も必要だと思っていた。そのための場所を見せてもらい、維持するのに大勢が働いていることも知った。

 

 今日は、そこから出てきたものを、この街の人が受け取っていた。

 

「見学した時と、少し違いますね」

 

 エレナが言った。

 

「同じ船なのに」

 

「艇がいっぱい出てる」

 

「それもですけど」

 

 エレナは入口の警備員へ目を向けた。その先では、別の職員が救護班に何かを伝えている。

 

「こっちにいる人も、あの船の情報を待っているんですね」

 

 シーアは頷いた。

 

 昨日見た宇宙港には、船を動かす人がいた。管制も警備も、別々の場所で仕事をしていた。今は、その一部が上空の艦とつながっている。

 

「エリアドゥが、船になってるみたいだ」

 

「街が、ですか?」

 

「中が街みたいなんじゃなくて。あそこから、こっちの街を動かしてる」

 

 うまく言えなかった。エリアドゥのすべてが、あの船の中にあるはずはない。ここにいる警備員も、救護班も、自分の仕事をしている。

 

 それでも、船が来たことで、その人たちが使えるものが増えていた。

 

 シーアは手にしていた容器を持ち直した。ようやく水を飲むと、口の中がひどく乾いていたことに気づいた。

 

 

 アルドレンが入ってくると、シーアは椅子から立ち上がった。

 

「父上」

 

 父はすぐにそばへ来て、息子の肩へ手を置いた。顔と服を確かめ、袖から出ている腕を見る。それからエレナにも身をかがめた。

 

「怪我はないな。二人とも」

 

「うん」

 

「はい」

 

 アルドレンは息を吐き、セレナを見た。

 

「ありがとう」

 

「仕事です」

 

 彼女はそれだけ答え、シーアの手から空の容器を受け取った。机へ置く時、小さな音がした。

 

 シーアは父の顔を見ていた。

 

「取締役の人たちは?」

 

 アルドレンはすぐには答えなかった。シーアの肩に置いた手を、そのままにしていた。

 

「助からなかった」

 

「全員?」

 

「あそこに残っていた者は」

 

 シーアは目を伏せた。

 

「警備のドロイドだったのに。どうして?」

 

「まだ分かっていない。なぜ撃ったのか、誰が何をしたのか。それを調べている」

 

「ネビュラ・フロント?」

 

「関係があるのかも含めて、調べる」

 

 シーアは言葉を探したが、それ以上、何を聞けばいいのか分からなくなった。

 

「怖かったか」

 

 父に聞かれ、少し間を置いてから頷いた。

 

「うん」

 

「そうか」

 

 アルドレンは息子を引き寄せた。シーアは抵抗せず、しばらくその服に額を当てていた。

 

 隣では、エレナが容器を机へ置き、何も持たなくなった手を膝の上で組み直していた。セレナがそのそばへ座る。

 

 誰も、すぐに次の話を始めなかった。

 

 やがてシーアが顔を上げた。窓の向こうに、まだ《タイラント》がいる。

 

「あの船、戦ってないよね」

 

 アルドレンも外を見た。

 

「今のところはな。警戒と、地上への支援をしている」

 

「いっぱい動いてる。艇が出て、通信も来てる」

 

「ああ」

 

 シーアは艦の下から離れていく光を追った。

 

「見学した時、最初に見たのは砲だった」

 

「お前の報告も、砲の話から始まったな」

 

「それは先に言うでしょう」

 

 隣で、エレナが小さく笑った。事件が起きてから初めて聞く笑い声だった。シーアも少し口元を緩め、それからまた空へ目を向けた。

 

「あの船が別の星に行ったら、今日していることも持っていける?」

 

 アルドレンは、息子の見ている方を確かめた。

 

「ある程度は。人も設備も運べる。ただ、今日も艦だけで仕事をしているわけではない」

 

 入口では、警備員が地上管制への連絡を続けていた。

 

 シーアは頷いた。そのことは、少し分かる気がした。船から来たものを使う人が、こちらにもいる。

 

 クアットでカースへ話した言葉を思い出した。

 

 共和国が、ちゃんとそこまで来られる船。

 

 あの時は、速く、遠くまで行けて、着いてからもいろいろな仕事のできる船を欲しがった。今日は、その仕事の一部を目の前で見ていた。

 

「じゃあ、船が来れば」

 

 シーアは一度言葉を切った。

 

「共和国も、来られる?」

 

 アルドレンはすぐには答えなかった。

 

 上空にいるのは、エリアドゥの艦だった。今ここで働いている人も、いくつもの組織に分かれている。そして、その下では共和国の代表者たちが、何も決められないまま会議を終えた。

 

「船だけでは足りない」

 

 シーアが振り向く。

 

「だが、船がなければ、できないことも多い」

 

 父はそれだけ言った。

 

 シーアはもう一度、窓の外を見た。

 

「そっか」

 

 まだ、分からないことの方が多かった。それでも、船が来れば何が始められるのかは、見学した時より少し具体的に考えられる気がした。

 

 

 夕方、ヌート・ガンレイとロット・ドッドは、共和国側の質問にほとんど答えなかった。

 

 ドッドは通商連合代表としての特権を主張し、正式な照会は文書で行うよう求めた。襲撃時に会場を離れていた理由については、二人とも同じ説明を繰り返した。

 

 シャトルのプラズマ漏れを知らせる連絡があり、確認のために宇宙港へ向かった。だが、現地に着いた時には、呼び出したはずの相手を見つけられなかった。

 

 連絡は誰から来たのか。従者は誰から話を受けたのか。担当官が問いを重ねても、二人の答えから全体は見えなかった。

 

「警備ドロイドが予定より多かったことには、気づいていましたか」

 

 ドッドは少し間を置いた。

 

「我々も不審には思っていました」

 

「誰に確認を?」

 

「開会の直前でした。警備部門が追加したものと考えていました」

 

 ガンレイも、それを否定しなかった。

 

 担当官は答えを記録した。二人を拘束する命令は出ず、やがて通商連合側は帰還の手配に入り始めた。

 

 それまで各地の企業の利害を持ち寄っていた取締役会は、この日、会場に残っていた構成員をすべて失っていた。

 

 

 夜になっても、セスウェナ・ホールの明かりは消えなかった。

 

 共和国司法部門とエリアドゥ当局が、通商連合の技術者を交えて現場を調べている。十三体のドロイド、投射装置、入場記録、警備映像。回収された襲撃者の遺体と、まだ所在の分からない関係者の名簿。

 

 記録は集まり始めていた。だが、それらを結びつける説明は、まだ出ていなかった。

 

 迎賓館の部屋で、シーアは端末に映る《タイラント》を見ていた。

 

 艦は軌道へ戻っていた。観測映像の中で、帰艦する艇の航行灯がゆっくりと動いている。大きな船体の一角に格納口の明かりが見え、その周囲にもいくつかの光点が待っていた。

 

 今日、あの主砲は一発も撃たなかった。

 

 それでも、見学した時よりずっと大きな船に見えた。

 

 シーアの目は砲塔を探さず、帰ってきた一隻の艇を追っていた。その光が格納口へ収まるまで、画面を閉じなかった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。