STAR WARS: STAR DESTROYER   作:あーくわいてんず

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幕間:エリアドゥの夜

C.R.C. 7944.218

 

 夜になっても、セスウェナ・ホールの明かりは消えなかった。

 

 封鎖された大会議場を、共和国司法部門とエリアドゥ当局の捜査員が行き交っている。呼び戻された通商連合の技術者が、その間に混じっていた。十三体のセキュリティ・ドロイドは、一体ずつ位置と状態を記録され、制御系統の解析を待っていた。

 

 開会式の装飾は取り外されていない。代表団の席も、倒れた椅子も、そのまま残されている。

 

 通商連合の区画には、取締役たちの名を記した席札が並んでいた。

 

 

 アルドレンがターキンを見つけたのは、ホールから少し離れた行政棟の一室だった。

 

 壁面の端末に現場の見取り図が映っている。ターキンはその前に立ち、二人の捜査官から報告を受けていた。

 

「公王殿下」

 

 先に気づいた捜査官が姿勢を正す。ターキンも振り返った。

 

「ご子息はいかがですか」

 

「宿舎へ戻した。エレナも一緒だ」

 

「それは何よりです」

 

「ウィルハフ。二人で話したい」

 

 捜査官たちが上司を見た。ターキンは短く頷いた。

 

「続きは後で聞く。新しい報告が入ったら知らせろ」

 

 二人が退出し、扉が閉じる。アルドレンは、その音が消えるのを待った。

 

「どういうつもりだ」

 

「何についてでしょう」

 

「共和国司法部へ、記録だけ渡して済ませようとしたことだ」

 

「第一次保全をこちらで行うと申し上げました。捜査を拒んではいません」

 

「最高議長が殺されかけた現場だぞ」

 

「同時に、エリアドゥで起きた大量殺人でもあります」

 

 昼間と同じ答えだった。

 

 あの時、アルドレンは納得していた。現場を取りまとめる者を決め、共和国側が立ち会う。混乱の中では妥当な手順に思えたし、今も共同保全そのものに異論はない。

 

 だが、息子たちを送り届け、届いた報告に目を通してから、最初のやり取りが気になり始めていた。共和国側を現場へ入れると決めたのは、ターキンではない。ヴァローラムだった。

 

「管轄の説明を聞きに来たんじゃない。君たち自身の警備が破られた。その調査を、まず君の手元へ置こうとした理由を聞いている」

 

 ターキンは端末を消した。

 

「複数の機関が別々に証拠を扱えば、後から照合することさえ難しくなる。現場を維持できる者が管理するのは当然です」

 

「管理する者と、何を渡すか決める者が同じでは困る」

 

「現在は共同で行っています」

 

「議長がそう命じたからだ」

 

 返事はなかった。アルドレンは一歩近づく。

 

「ジェダイから事前に警告を受けていた。それでも襲撃者は入り込んだ。取締役会を守るはずのドロイドには、予定にない一体まで混じっていた。全部、君の警備の中で起きたことだ」

 

「承知しています。だからこそ調べている」

 

「なら、君の警備を調べる人間にも、同じものを見せろ」

 

 ターキンの目がわずかに細くなった。

 

「何を疑っているのです」

 

「君だ」

 

 アルドレンは視線を逸らさなかった。

 

「事件への関与を疑っているわけではない。少なくとも、今はな。君が、どこまで他人に調べさせるつもりでいるのかを疑っている」

 

「責任を隠すために捜査を握った、と?」

 

「握っていれば、隠せる」

 

 廊下を誰かが足早に通り過ぎた。二人とも扉を見なかった。

 

 ターキンは落ち着いたままだった。二日前、シーアの質問に付き合っていた時も、今日、会場で命令を出していた時も、この男はそうだった。今は、その変わらなさがアルドレンを苛立たせた。

 

「殿下も、自国の現場であれば指揮を引き渡すことには慎重になるでしょう」

 

「私ならどうするかという話にするな」

 

「無関係ではありません」

 

「今日は、あそこにシーアがいた」

 

 初めて、ターキンの表情が動いた。

 

「エレナもだ。二人の席を北側へ移す手配をしてくれたことには、礼を言う」

 

「警備上、必要な措置でした」

 

「分かっている。だが、君の星で、君の警備の中で、息子は人が殺されるところを見た」

 

 最後の言葉だけが、少し低くなった。

 

 ターキンはしばらく黙っていた。視線が一度、消えた端末へ動く。

 

「……その点について、申し開きはありません」

 

 アルドレンは彼を見た。

 

「君が謝るとはな」

 

「謝罪とは申し上げていません」

 

「そういうところだぞ」

 

 どちらも笑わなかった。それでも、アルドレンはようやく一歩退いた。

 

「ウィルハフ。証拠を消すな」

 

 ターキンはまっすぐ彼を見返した。

 

「消す理由がありません。私も犯人を見つけたい」

 

「なら、邪魔をするな。君にとって不都合なものが出てきてもだ」

 

 アルドレンは扉へ向かった。背後から呼び止められたのは、手を伸ばしかけた時だった。

 

「殿下。シーア殿下は、今日のことを長く覚えておられるでしょう」

 

「そうだろうな」

 

 振り返ると、ターキンは先ほどと同じ場所に立っていた。

 

「忘れさせられるとは思っていない」

 

「私も、そう思います」

 

「君ならどうする」

 

 ターキンは少し間を置いた。

 

「覚えているなら、使わせます。次に同じことが起きた時、死なないために」

 

 アルドレンはすぐには答えなかった。

 

 必要なことだとは分かる。いつかは、自分も息子にそう教えるのかもしれない。だが、今夜のシーアに何を学んだかと問う気にはなれなかった。

 

「君らしい答えだ」

 

「殿下も、似たようなものでしょう」

 

「一緒にするな」

 

 今度こそ部屋を出た。

 

 扉が閉じるまで、ターキンは何も言わなかった。アルドレンは廊下を歩きながら、自分の言葉のどれがあの男へ届いたのかを考えた。

 

 答えは出なかった。

 

 

 クワイ=ガンとオビ=ワンが落ち着いて話せたのは、それからしばらく後だった。

 

 セスウェナ・ホールの屋上には、地上ほどの人影はなかった。警備艇の航行灯が夜空を横切り、低い機関音がしばらく残る。オビ=ワンは手すりのそばに立ち、下の街を見ていた。

 

 師が近づくと、顔を上げる。

 

「ボイニーは?」

 

「助からなかった」

 

 オビ=ワンは目を伏せた。

 

「最後は、私たちを助けようとしていた」

 

 クワイ=ガンは隣へ立った。しばらく、二人とも話さなかった。

 

「遅すぎたのでしょうか」

 

 やがて、オビ=ワンが言った。

 

「ボイニーのことか」

 

「彼も。会場へ戻るのも」

 

 クワイ=ガンは手すりへ目を落とした。そこから見えるはずのない、階下の議場を思うような仕草だった。

 

 夜風が二人のローブを揺らした。

 

「ハヴァックの消息は?」

 

 クワイ=ガンが尋ねると、オビ=ワンは首を振った。

 

「確認された遺体の中にはいません。捕らえたという報告も」

 

「逃れた可能性はあるな」

 

「まだ終わっていないということですね」

 

「私たちが追っていたものだけでは、今日のことを説明できん」

 

 オビ=ワンが師を見る。

 

「ヴァローラム暗殺は、本物だった」

 

 クワイ=ガンは続けた。

 

「あの狙撃を止めなければ、議長は死んでいたかもしれない。だが、計画が失敗しても、別の場所では目的が果たされた」

 

「通商連合の取締役会」

 

「そうだ」

 

「そのために、最高議長を狙ったのですか。警備を引きつけるために」

 

「そこまでは分からない。二つがどう結びついていたのかも、まだな」

 

 ガンレイとドッドを会場から呼び出した、存在しないプラズマ漏れ。予定より一体多かった警備ドロイド。そして、外からの救援を阻んだ防護フィールド。

 

 偶然が重なったと言うには、揃いすぎていた。

 

「誰が得をするかを考えれば、候補は絞れます」

 

 オビ=ワンが言った。

 

「考えるべきだろう。ただし、得をした者が命じたとは限らない」

 

「調べる手がかりにはなるでしょう」

 

「なる。だから調べる。結論を確かめるためだけに、証拠を集めるのではない」

 

 オビ=ワンは小さく息を吐いた。

 

「最近、その話をよく聞きます」

 

「最近か?」

 

「……師匠といると、ずっとでした」

 

 クワイ=ガンの口元がわずかに緩んだ。

 

 警備艇が一隻、ホールの向こうへ回っていった。光を追っていたオビ=ワンが、ふと思い出したように口を開く。

 

「もう一つ、気になっていることがあります。ヴァラリアン公子のことです」

 

「シーアか」

 

「我々が梁の上で戦っていた時、こちらを見ていました」

 

「昨日も、ずいぶん熱心に見ていたな」

 

「昨日とは違う気がしたのです」

 

 オビ=ワンは言葉を探した。

 

「北側へ目を向けた時、一瞬だけ見えました。驚いて動けないのだと思ったのですが……何かを思い出そうとしているようにも見えた」

 

「顔を見て、そう思ったのか」

 

「それだけではありません。あの子の意識が、急に別のものへ向いたように感じました」

 

「フォースを通して?」

 

 オビ=ワンは頷きかけ、途中でやめた。

 

「そうだと思います。ですが、確信はありません。あの時は、会場中で大勢が怯えていました」

 

 クワイ=ガンは黙って続きを待った。

 

「昨日初めて会ったはずなのに、今日になって、我々の何を思い出しかけたのでしょう」

 

「私たちのことだとは限らん。あの光景が、以前見た何かに似ていたのかもしれない」

 

「記憶ですか」

 

「そうかもしれない」

 

「未来の何かを見た可能性は?」

 

「否定はできない。だが、君が感じたものを、今ここでどちらかに決めることはできんよ」

 

 オビ=ワンは手すりから離れた。

 

「師匠にも分からないのですか」

 

「分からないものを、分かったふりをする必要はない」

 

 穏やかな答えだった。

 

「評議会へ報告すべきでしょうか」

 

「公子が何かを思い出しかけたように見えた、と?」

 

「それだけではありますが」

 

「今は、気にかけておけばいい。あの子が何を見たのか、私たちは知らない」

 

 オビ=ワンは頷いた。納得しきった様子ではなかったが、それ以上を付け加えることもできなかった。

 

 少しして、彼が言った。

 

「ただ、昨日のことなら、一つはっきり分かります」

 

「何だね」

 

「ライトセイバーを見る目は、欲しがっている子供の目でした」

 

 クワイ=ガンが弟子を見る。オビ=ワンは真面目な顔だった。

 

「そこは疑わないのだな」

 

「ええ。触らせませんよと言った時、実に残念そうでした」

 

 クワイ=ガンが小さく笑った。

 

「九歳らしいな」

 

「また会えば、今度こそ聞かれるでしょう。触っていいかと」

 

「そうかもしれん。君の返事まで、覚えているだろう」

 

 師が屋上の入口へ歩き出す。オビ=ワンも後を追った。

 

「師匠は、横で余計なことをおっしゃらないでください」

 

「まだ何も言っていないぞ」

 

「だから、今のうちに」

 

 二人が扉をくぐる頃には、その声にも少しだけ、普段の調子が戻っていた。

 

 

 同じ頃、エリアドゥ宇宙港の通商連合専用区画では、ヌート・ガンレイとロット・ドッドが向かい合っていた。

 

 窓の外に、彼らのシャトルがある。整備区画の照明の下で、点検用のパネルが開かれていた。プラズマ漏れは見つかっていない。整備員は何度も確認し、そのたびに同じ報告を送ってきた。

 

「連絡を取り次いだ従者は、まだ見つからないのですか」

 

 ドッドが尋ねた。

 

「分からん」

 

「港側には、呼び出しを頼んだ者などいないと言われました」

 

「その報告は読んだ」

 

 ガンレイは椅子の肘掛けを指で叩いていた。一定の間隔ではない。止まり、また始まる。

 

 ドッドは手元の端末へ目を落とした。

 

「追加されたドロイドも、警備部門の予定にはありません。誰が入れたのか、記録の確認を待っています」

 

「なら、待てばいい」

 

 それきり、部屋が静かになった。

 

 今日の朝まで、取締役会にはいくつもの意見があった。出身の種族も、背後の企業も、守りたい利益も違う。総裁であるガンレイも、その一つ一つを無視しては決められなかった。

 

 今は、彼らの返答を待つ必要がない。

 

「取締役会で、あなたに反対していた者はいなくなりましたね」

 

 ドッドの声に、肘掛けを叩く指が止まった。

 

「何が言いたい」

 

「そのままです。我々が席を外している間に、残っていた者が全員殺された」

 

「偶然だ」

 

「プラズマ漏れも、ですか」

 

 ガンレイが顔を上げた。

 

「では、誰がやったと言う」

 

「分かりません。だから――」

 

「なら、今ここで言い合っても始まらん」

 

 ガンレイはドッドを見据えた。

 

「ロット。今日、我々も死ぬところだった」

 

 ドッドは口を閉じた。

 

「だが、生きている。まずは、ここを離れることを考えろ」

 

 ガンレイは椅子の背へ体を預けた。目を閉じても、ドッドがこちらを見ているのが分かった。

 

 彼は、あの声を知らない。

 

 取締役会に縛られず、通商連合を思うままに動かせる立場。そう約束されたことを、ガンレイは誰にも話していなかった。

 

 いずれは実現する。そう思っていた。だが、いつ、どのような形でとは聞かされていない。まして、自分が席を外したわずかな間に、すべてが片づくなどとは。

 

 余計な一体。存在しなかったプラズマ漏れ。戻った時には、もう誰も生きていなかった区画。

 

 背筋に冷たいものが這った。

 

 机の上で、通信端末が鳴った。

 

 ガンレイは目を開ける。

 

 通常の着信ではなかった。通商連合の公式回線を示す標章もない。暗号化された通信の接続要求だけが、送信元を伏せたまま表示されている。

 

 誰からなのか、確かめる必要はなかった。

 

「お出になりますか」

 

 ドッドが画面を見ている。

 

「ロット。外してくれ」

 

「今ですか?」

 

「今だ」

 

 ドッドの目が、画面からガンレイへ移った。何かを聞きかけ、やめる。端末を持って立ち上がると、無言で部屋を出ていった。

 

 ガンレイは扉が閉じたことを確かめた。しばらく待ってから、回線を開く。

 

 投影が乱れた。雑音の中に、フードをかぶった人影が形を取っていく。

 

 顔は見えない。

 

「あれは……」

 

 声がかすれた。ガンレイは唾を飲み込む。

 

「あなたが、なさったのですか」

 

 人影はすぐには答えなかった。フードの奥から、自分が見られている。それだけが分かった。

 

「約束は果たした、ヴィセロイ」

 

 投影が消えた。

 

 ガンレイは口を開きかけたまま、暗くなった画面を見ていた。

 

 感謝する暇もなかった。何をしたのか、どうやったのか、それを尋ねることさえできなかった。

 

 だが、約束が果たされたことだけは知っている。明日からは、決定を下すたびに、あの取締役たちの顔色をうかがわずに済む。そのために求めていた力が、今や手の届くところにあった。

 

 喜ぶべきだった。

 

 それなのに、議場へ戻った時の警備官の顔が離れない。もし呼び出しが来なかったら、自分もあの中にいた。あの男は、誰を残すかまで決めていた。

 

 ガンレイは通信端末から手を引いた。

 

 外へ出たドッドを、まだ呼び戻す気にはなれなかった。

 

 

 エリアドゥの夜空では、船が動き続けていた。

 

 共和国司法軍の巡洋艦。エリアドゥ政府の警備艇。通商連合の貨物船。帰還の手続きを待つ各世界の政府船。軌道上では、《タイラント》が搭載艇を収容していた。

 

 艦隊同士が撃ち合ったわけではない。占領された星も、奪われた航路もなかった。

 

 それでも、ヴァローラムのサミットは終わった。通商連合は取締役会の中枢を失った。ネビュラ・フロントには死者が出て、なお行方を追われる者がいた。

 

 共和国がコルサントへ持ち帰るものは、合意文書から事件の報告書に変わった。

 

 星図の上では、何も変わっていない。

 

 ただ、そこを行く船へ命令を出す者が、変わろうとしていた。

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