STAR WARS: STAR DESTROYER   作:あーくわいてんず

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日常回


アール・ヴェロス

 通商連合の戦列に、穴が開こうとしていた。

 

 ルクレハルクの左舷で、最後のシールドが砕けた。

 

 青白い光の膜が環状船体に沿って波打ち、集中した砲撃を受け止めたところから薄れていく。次の斉射は、その奥へ突き抜けた。貨物区画の外板がめくれ上がり、装甲の隙間から火炎と破片が噴き出す。三キロメートルを超える船体の各所に開いた傷口が、内側の火災を赤く透かしていた。

 

 それでも、巨艦の砲火は止まらなかった。

 

 生き残った砲座が一斉に向きを変えた。緑の閃光が司法軍の戦列へ殺到する。前へ出ていた小型艦のシールドが白く燃え、その後方では、既に艦首を失った別の艦が船体を回転させながら流れていた。共和国の標章が残る外板を、次の砲撃が打ち抜いた。

 

『敵母艦、左舷シールド消失』

 

 艦隊回線へ報告が入った。

 

『攻撃隊、進入せよ』

 

 司法軍の艦列から、Z-95の一隊が飛び出した。

 

 その前方へヴァルチャー・ドロイドが降りてくる。二つの群れが交差し、後尾のZ-95が火球に変わった。別の機体から翼がもぎ取られ、回転する残骸が後続機の間を抜けていく。編隊は崩れたが、進路は変わらなかった。生き残った機体は、燃える環状船体へ機首を向けたまま加速した。

 

 ドレッドノート級の対空砲火が、その後ろを横切った。

 

 追撃していたヴァルチャーが散った。逃げ遅れた一機が砕け、別の一機は姿勢を崩して砲火の中へ消える。Z-95はその隙間を抜けた。前方を塞いでいたのは、今度はルクレハルク自身の対空砲だった。

 

 環状船体の内縁から、無数の光が伸びてくる。

 

 船腹へ降りた一機のすぐ横で、外板が爆ぜた。噴き上がる破片を避けた機体が上へ逃げ、僚機は逆に高度を下げる。見上げるほど巨大だった環状船体が、いつの間にか進路の先を覆う壁になっていた。輸送船何隻分もの貨物を収められる区画が、今は口を開けたまま燃えている。

 

 その裂け目へ、照準が重なった。

 

『雷撃開始』

 

 Z-95の機体から、青白い光点が離れた。

 

 プロトン魚雷。先頭の二発が傷ついた装甲へ命中し、せり上がった外板を押し広げた。後続の魚雷は、その下へ飛び込んだ。船腹の奥で、白い光が膨らむ。一瞬遅れて別の区画も明るくなり、隔壁を隔てたはずの場所から、次々に炎が噴き出した。

 

 まだ射撃を続けていた砲座が、土台ごと持ち上がった。

 

 環状船体を横切る亀裂が伸びていく。格納庫の開口部から火柱が噴き出し、そこから発進しようとしていたヴァルチャーが、炎の中へ押し戻された。巨大な外板が一枚、ゆっくり剥がれる。その下には、もう船の内部とは思えないほどの光があった。

 

『離脱!』

 

 Z-95が一斉に機首を上げた。

 

 背後で、ルクレハルクの左舷が裂けた。船体をつないでいた構造材が折れ、環の一角が中央の球形コアから離れていく。だが、完全に分離するより先に、亀裂の奥から噴き出した光が接続部を呑み込んだ。球形コアの表面を新たな爆発が走る。

 

 次の瞬間、艦全体が白く消えた。

 

 逃げる戦闘機の輪郭が黒く浮かび、通信へ警報が重なった。爆発の中心から飛び出した破片が、周囲の艦のシールドに次々と閃光を散らす。数秒前まで通商連合の戦列を支えていた巨艦は、膨張する火球と、ばらばらの金属へ変わっていた。

 

 ルクレハルクは爆沈した。

 

 随伴するミュニファスント級が離脱へ移った。エンジンの噴射が伸び、細長い船体が反転する。その動きを、司法軍のドレッドノート級が捉えていた。

 

 両艦の間で、砲口が一斉に光った。

 

 ミュニファスントの反撃がドレッドノートの前部シールドを叩く。青白い光が艦首を包んだが、側面に並ぶ砲塔は照準を外さなかった。回頭中の敵艦へ、ターボレーザーの斉射が続けて吸い込まれていく。

 

 一射目で、側面の防御が光に埋まった。

 

 二射目は、その光を押し潰した。

 

 船体中央が裂け、露出した構造の間を炎が走った。エンジンの噴射が一つ消える。ミュニファスントは旋回を終えないまま傾き、その周囲へ破片を吐き出しながら流れ始めた。

 

 ドレッドノート級は、そこで初めて艦首を巡らせた。

 

 前進する灰色の船体が、ルクレハルクの残骸の中へ入っていく。崩れた環の向こうには、退き始めた通商連合の艦影があった。司法軍の砲塔が、新たな目標へ向き直る。

 

「……今の、出目が良すぎるだろ」

 

 カッシオ・タッグは、納得のいかない表情でダイスを見下ろしていた。

 

 ルクレハルクを呑み込んだ爆炎が薄れ、その中心から、傷一つない艦艇模型が現れた。外れたはずの環状船体も、砕けたはずの球形コアも、ちゃんとつながっている。周囲の残骸は光の粒へ変わり、小さな台座の上へ戻ったZ-95と一緒に消えた。

 

 星空は、テーブル一枚分のプレイマットだった。

 

 端には艦艇カードと命令ダイヤルが並び、たった今動かし終えたドレッドノート級の横には、マニューバ・ツールが置かれている。艦隊回線の声も、火災警報も、卓上投影機が流していたものだった。直前までの判定をつなぎ合わせた戦闘演出が終わると、コモンルームの話し声が戻ってきた。

 

「でも、沈んだね」

 

 シーアは笑みを隠そうともせず、ルクレハルクの模型を見た。カッシオはダイスをもう一度確かめ、それから諦めたように艦艇カードを裏返した。

 

「さっきまで、あそこへ戦闘機が来るとは思ってなかった」

 

「だから、行かせたんだよ」

 

 勝ち誇った返事に、周りで見ていた上級生が笑った。コモンルームの時計は、閉室時刻まであと十分を示していた。

 

 《アルマダ》の卓を挟んでカッシオと言い合うのも、この頃には珍しいことではなくなっていた。

 

* * *

 

 C.R.C. 7945.226 コルサント、ロイヤル・アカデミー

 

 そこから四十五日前。シーアがロイヤル・アカデミーの寄宿舎へ移ったのは、入学から六日後だった。

 

 本来なら他の新入生と同じく初日から入寮する予定だったのだが、公王家の第三公子を普通の寄宿舎へ入れるとなると、本人の知らないところで確認することが多かったらしい。警護員をどこまで学院内へ入れるのか。緊急時の初動は学院が担うとして、公王家には誰が連絡するのか。外出や医療情報、公務による欠席をどう扱うのか。

 

 帰国前のアルドレンは、できる限り他の学生と同じ扱いにするよう求め、学院側も同意していた。父がサーティネイニアンへ戻ったあと、コルサントで実際の取り決めを詰めたのはアウレリアンだった。元老院議員としての仕事の合間に、学院と公王家の警護責任者との協議が入っていたらしい。

 

 その「できる限り」の範囲が決まるまで、シーアはヴァラリアン邸から通学した。授業には困らなかったが、夕方になると同級生の大半が当然のように寄宿舎へ向かい、自分だけ迎えの車両に乗るのは少し妙だった。翌朝には、昨夜コモンルームで起きたことを皆が話している。聞けば教えてくれる。それでも、自分が帰った後にも学院の一日は続いていた。

 

 入学から数えて七日目の午後、ようやく荷物と一緒に入寮することになった。

 

 朝、アウレリアンには、困ったら邸宅へ連絡するようもう一度言われた。週末には帰ってきてもいい。ただし、学院への外出申請は自分ですること。その説明を聞いたあと、シーアは、兄のところへ帰るのにも申請が要るのかと少し考えた。

 

 寄宿舎の玄関ホールで手続きを終えると、付き添ってきたセレナに呼び止められた。

 

「襟が曲がっています」

 

「寮に入るだけだよ」

 

「じっとしていてください」

 

 セレナは襟元を直し、淡い銀髪にも一度指を通した。シーアが身を引こうとすると、まだですと言われた。

 

「髪まで?」

 

「朝から何度触りました?」

 

「覚えてない」

 

「でしょうね」

 

 ようやく手が離れた。邸宅なら、そのあとも近くにいる人だった。今日はここまでで、この先は学生の生活区域になる。

 

「本当に帰るの?」

 

「寮生活とは、そういうものです」

 

「知ってる」

 

 セレナはシーアの顔を見た。何か言おうとしたようだったが、口にしたのは朝にも聞いた確認だった。

 

「具合が悪くなったら?」

 

「医務室。夜なら当直の先生か生活職員」

 

「何か困ったら?」

 

「プリフェクトかハウスマスター」

 

「必要なものが見つからなかったら?」

 

「まず自分で探す」

 

「よろしい」

 

「試験みたい」

 

 彼女は少し笑い、最後に制服の肩を軽く払った。直すところは、もうなかったらしい。

 

「楽しんできてください」

 

「住むだけだよ」

 

「そういうものを楽しむんです」

 

 シーアには、まだよく分からなかった。受付の向こうでカッシオが手を上げたので、そちらへ歩き出す。振り返ると、セレナはまだ玄関に立っていた。

 

* * *

 

 ロイヤル・アカデミーには複数のハウスがあった。基礎課程の一年生から三年生までが同じ建物で暮らし、担当教員であるハウスマスターと生活職員、最上級生から選ばれたプリフェクトが生活を見ている。食堂もコモンルームも学習室もあり、授業時間外の学院生活は、かなりの部分がハウス単位で動いていた。

 

 受付にいた上級生は、シーアが名乗ると端末から顔を上げた。

 

「ああ、ヴァラリア――」

 

 名前の途中で声が途切れた。淡い銀髪から顔へ視線が移り、一度名簿へ戻ってから、もう一度こちらを見る。

 

 初めて会う人には、時々こういう間ができる。自分の外見が目を引くことは分かっていたし、そのたびに理由を尋ねるほど珍しいことでもなかった。シーアは相手が話を続けるのを待った。

 

「……ごめん。二階の二〇七号室だ」

 

「ありがとうございます」

 

 受領欄へ署名している間に、カッシオが部屋までの案内を引き受けた。上級生は少し照れたように笑い、荷物は既に運んであると教えてくれた。

 

 階段へ向かう途中、シーアは部屋番号を端末に残した。

 

「カッシオの部屋も二階?」

 

「すぐ分かる」

 

 廊下の中ほどで、カッシオが扉を開けた。中にはベッドが二つ、机と本棚が二つずつあり、窓際の机には見覚えのある端末が置かれていた。

 

「同じ部屋?」

 

「そう。昨日、正式に決まったって」

 

「先に言えばいいのに」

 

「今言った」

 

 シーアは中へ入り、空いているベッドの脇に立った。壁際の収納を開けると、そこもきれいに二つに分かれている。扉を閉めてもう一度室内を見回しても、先ほど見えなかった場所が増えるわけではなかった。

 

「二人でここ?」

 

「二人部屋だからな」

 

「思ったより小さい」

 

 カッシオも部屋を見た。

 

「普通じゃないか?」

 

「これが?」

 

「これが。お前の家と比べるなよ」

 

 タッグ家の屋敷も広いはずだが、カッシオは既に六晩ここで寝ている。その分だけ、自分より慣れているらしかった。

 

 学院側からは個室も提案されていた。特別な理由がないなら二人部屋でよい、という父の方針に、シーアも賛成した。兄から最終確認を受けた時にも、答えは変えなかった。今になって、その個室がどれくらいの広さだったのかだけ、少し気になった。

 

 荷物は机の脇へまとめられていた。制服と私服、本、端末。それから、小さな艦艇模型のケースが三つ。シーアが最後の箱を開くと、カッシオが横から覗き込んだ。

 

「持ってきたのか」

 

「少しだけ」

 

「三つあるけど」

 

「同じシリーズだから、一組」

 

「場所は三つ分使うだろ」

 

 シーアが返事を考えている間に、開いたままの扉が二度叩かれた。十五歳くらいの少年が立っている。制服の胸に、小さな銀色の徽章が付いていた。

 

「レオン・メレル。三年。この階のプリフェクトだ」

 

 レオンはカッシオへ頷き、それからシーアへ視線を向けた。

 

「アレクシアール・ヴァラリアンです。シーアでいいです」

 

「分かった、シーア。荷物は全部届いたか?」

 

 シーアが頷くと、レオンは生活時間の説明を始めた。夕食は十八時半、十九時半からプレップ、コモンルームは二十二時までで、消灯は二十二時半。平日の無断外出は禁止、休日は申請制。洗濯物を出す日は決まっていて、部屋の整理は自分たちで行う。

 

 シーアは端末へ予定を入れながら顔を上げた。

 

「プレップは自習ですよね」

 

「一年は学習室。課題が済んでいるなら予習でも読書でもいい」

 

「ハウス対抗戦は何をするんですか?」

 

「競技、討論、学力戦。あとは年による。去年は食堂から中庭まで卵を割らずに運んだ」

 

「何の能力を見るの?」

 

「少なくとも俺にはなかった」

 

 カッシオが笑った。レオンも少し口元を緩め、廊下へ出かけてから振り返った。

 

「それと、学院では式典でもない限り称号は使わない。公王家でも議員の家でも企業家でも、一年生は一年生だ」

 

「助かります」

 

 すぐに答えたシーアを、レオンは少し意外そうに見た。

 

「そんなに嫌なのか?」

 

「嫌じゃないです。でも、毎回『殿下』から始まると、話し始めるまでが長いので」

 

「じゃあ、ここでは短く済むな。同室で揉めたら、まず二人で話せ。それで駄目なら俺かハウスマスターのところへ来い。最初に決めておいた方が楽なこともある」

 

 扉が閉まると、カッシオはシーアの机を指した。模型のケースが一つ、隣の机にはみ出している。

 

「まず、それ」

 

「まだ置いただけだよ」

 

「置く場所を決めるんだろ」

 

 シーアは三つのケースを自分の机へ戻した。横に並べると端末を置く場所がなくなるので、一つだけ本棚へ移した。

 

* * *

 

 授業についていくことには、それほど困らなかった。三年早く入学する以上、必要な学力は入学前から何度も確認されている。ただし、読むだけで済む課題ばかりではなかった。何を根拠にそう考えたのかを書き、別の説明と比べる。最初の日に選んだ救難の課題も、教員へ質問し、扱う事故の場所と条件を絞り直して、ようやく先へ進んだ。

 

 カッシオも課題をため込む方ではなく、二人とも大抵はプレップの間に翌日の準備まで済ませていた。

 

 むしろ、シーアが思いがけず引っかかったのは生活の方だった。

 

 ある朝、共同冷蔵庫から菓子の箱を取り出すと、カッシオに名前がないと言われた。シーアは箱を裏返し、表へ戻してから彼を見た。

 

「僕のだよ」

 

「俺は知ってる。でも、ほかのやつは知らないだろ」

 

「自分のじゃないことは分かるでしょう」

 

「皆で食べていいものも入ってる」

 

 冷蔵庫の別の段には、上級生が置いていった果物があった。シーアは少し考え、近くのペンを取った。

 

「分けて置けばいいのに」

 

「それもいいけど、まず名前」

 

 洗濯物にも名前が必要だった。棚は荷物に合わせて増えず、朝食の時間を過ぎても誰かが部屋へ持ってきてはくれない。制服を椅子へ掛けたまま寝れば、翌朝もそのままだった。

 

 最初のシーツ交換の日には、カッシオが寝具を外し始めたのを見て、自分もやるのかと訊いてしまった。シーツが替わることは知っていたが、外したものをどこへ出し、新しいものをどこから持ってくるかまでは知らなかった。

 

「端を引っ張る。そっち」

 

「引っ張ってる」

 

「角が一つずれてないか?」

 

 やり直すと、今度は反対側が外れた。カッシオは自分のベッドへ腰を下ろして笑い、しばらくしてから片方を押さえてくれた。

 

「お前、やったことないの?」

 

「見たことはある」

 

「俺も最初はそうだった」

 

 数週間もすれば、大抵のことには慣れた。洗濯物を出す日も、外出申請の締切も覚えた。夕食後すぐなら浴室が空いていることも、プレップ直前には階段が混むことも分かった。そうしたことは、案内を読むより上級生に訊く方が早かった。

 

「図書館なら東側がいい」

 

 夕食の席で、二年生が教えてくれた。

 

「西側じゃなくて?」

 

「西は静かすぎる。三時間いると、自分まで蔵書になった気がする」

 

「お前、先週そこで寝てただろ」

 

 向かいのレオンが口を挟んだ。二年生は考えていただけだと答えたが、目を閉じていたことまで指摘され、食卓に笑いが広がった。

 

 年上の人間と食事をすること自体は珍しくない。だが、サーティネイニアンで身近にいた年長者の多くは、父の臣下であり、侍従であり、家庭教師だった。試験の点や食堂の菓子に文句を言い、図書館で居眠りをして叱られる十五歳ではなかった。

 

 シーアも笑いながらパンへ手を伸ばした。向かいにいた、初めて同じ卓につく上級生がこちらを見た。

 

「ヴァラリアンって君か。姫王子って呼ばれてる」

 

 シーアは籠に掛けた手を止めた。顔を見られることより、その呼び名まで伝わっていることの方が気になった。

 

「誰から聞いたんですか、それ」

 

「もう結構広まってるぞ。サーティネイニアンではそう呼ばれてるんだろ?」

 

「そうですけど」

 

 上級生がパンの籠を指したので、シーアはそちらへ回した。相手が礼を言ってパンを取る間に、隣のカッシオを見る。彼はすぐに首を振った。

 

「俺じゃない」

 

「まだ何も言ってない」

 

「言いそうだった」

 

 後でレオンに、本気で嫌なら止めるぞと言われた。呼び名そのものは昔から聞いているし、嫌というほどではない。ただ、学院で使われると、いつもの愛称が自分より先に知らないところを歩いているようで、少し落ち着かなかった。

 

 そう説明すると、レオンは頷いた。

 

「困ったら言え。名前で呼べば済む話だからな」

 

 一か月も経つ頃には、ハウスの中でシーアの姿は日常になっていた。最初は顔を見て言葉を止めた上級生も、今では挨拶をしながらパンの籠を受け取っていく。別のハウスの学生を紹介されれば、しばらく見つめられることもあった。それでも部屋へ戻ると、カッシオが気にするのは、シーアの本が自分の机へはみ出していないかということだった。

 

* * *

 

 その一か月を、生活の作法だけ覚えて過ごしたわけではなかった。

 

 《アルマダ》を見つけたのは、入寮して三日目、プレップを終えた夜のコモンルームだった。

 

 奥の大きなテーブルを上級生たちが囲んでいた。星空のプレイマットには艦艇模型と戦闘機を示す小さな台座が並び、その脇にカード、ダイヤル、射程定規、関節の付いた長い道具が置かれている。シーアが足を止めた時、ちょうど一隻の艦が攻撃を始めた。

 

 卓上の投影機から細いターボレーザーの光が走り、相手の模型の周囲に青白いシールドが膨らんだ。続いて小さな台座の上からホログラムの戦闘機が飛び出し、盤面の低いところで絡み合う。絞られた音量で、攻撃開始を告げる声が流れた。

 

「何これ」

 

「《アルマダ》。艦隊戦のゲームだ」

 

 卓の端にいたレオンが答えた。シーアは空いている椅子へ手を掛け、隣へ来たカッシオと一緒に盤面を覗き込んだ。

 

 判定に使うのはダイスとカードで、位置を決めるのは模型だった。映像と音声は、その結果に合わせて投影機が作っている。派手に飛び交う戦闘機が、勝手に別の艦を攻撃してくれるわけではない。

 

「どう動かすんです?」

 

 カッシオが訊くと、レオンは関節の付いた道具を持ち上げた。

 

「これ。速度と艦ごとの旋回性能に合わせて曲げる。命令は先にダイヤルで決めて、積んでおく」

 

 航行、戦闘機の指揮、修理、火力の集中。艦によって先に決める命令の数が違い、大型艦ほど何手も先を考えなければならなかった。

 

「敵が違う方へ行ったら?」

 

「困る」

 

 シーアは積まれたダイヤルを見た。上級生の大型艦は正面に強い火力を持っていたが、その正面には、さっきまでいた敵艦がもういなかった。

 

「動いてから撃てないの?」

 

「普通は攻撃してから移動。順番を変えられる特別な能力がなければ、その艦が次に動くまで、相手にも手番がある」

 

「来てほしいところへ来てくれないね」

 

「だから、こっちを取る」

 

 カッシオが目標の印を指した。レオンは頷き、今はその取り合いをしているのだと説明した。

 

「ただし、あそこへ着く前に横から撃たれる。そっちの巡洋艦が邪魔なんだ」

 

 昼休みには端末の上で簡単に動かしていた艦が、この卓では思った場所へすぐには行けない。相手にも手番があり、船の向きがあり、既に決めてしまった命令があった。

 

 シーアは椅子を引いた。

 

「終わったら、一回やっていいですか?」

 

 数日後には、二人ともひと通りのルールを覚えた。プレップと翌日の準備を済ませ、卓が空いている夜には上級生に艦を借りて対戦した。

 

 最初の頃、シーアは艦を分けすぎた。片方で相手を引きつけ、もう片方で目標へ向かうつもりが、離れた味方は間に合わず、引きつけるはずの艦だけが沈んだ。

 

「三隻ずつにしたのに」

 

「こっちは四隻で撃ったからな」

 

 カッシオは勝ち誇るより先に射程定規を置き、残った艦への攻撃を確かめた。シーアは次の対戦では艦同士の間隔を狭めたが、今度は互いの進路を塞いでしまった。

 

 カッシオも、集めればいつも勝てるわけではなかった。大型艦を仕留めようと追いすぎて目標を失い、火力を揃えた正面を避けられて、十分に撃てないまま終わる夜もあった。

 

「そこを通ると思った」

 

「通ったら沈むでしょう」

 

「じゃあ、こっちへ来ると思った」

 

「それも沈む」

 

 カッシオは盤面を眺め、次の配置では主力の位置を少し変えた。

 

 二人はときどき艦隊を交換した。同じ船を使っても、相手と同じようには動かせない。シーアは大型艦を深く曲げたい手番に修理命令を公開し、必要な旋回を増やせなかった。カッシオは小型艦の一隻を遠くへ回しすぎ、戻す前に試合を終わらせてしまった。

 

 観戦していたレオンが笑った。

 

「船を替えただけじゃ、相手の勝ち方までは付いてこないぞ」

 

 その夜から、負けた後にもう一度盤面を並べる時間が増えた。やり直せば勝てると言い合っているうちに、片づける時間だと注意されることもあった。

 

* * *

 

 C.R.C. 7945.271 コルサント、ウスクル・ディストリクト

 

 外出を許された休業日、シーアとカッシオは学院正門でリヴィア、セリアと合流した。二人はシーアたちとは別のハウスだったが、授業や昼食だけでなく、休日も一緒に過ごすことが増えていた。

 

 少し離れたところには、私服姿の警護員が二人いる。学院側との調整でも、外出時の警護まではなくならなかった。申請した行程の範囲なら、四人がどの店を先に見るかに口を挟むことはなく、シーアも今ではいちいち振り返らなかった。

 

 最初に向かったのは、ウスクルにある古いホテルだった。高い吹き抜けのラウンジには淡い音楽が流れ、窓の向こうでは幾重ものエアレーンを車両が行き交っている。四人は制服のまま席に着き、リヴィアが勧めたアフタヌーンティーを頼んだ。

 

 窓の光が銀髪を透かし、白い頬を照らしていた。シーアは眩しさに目を細め、メニューへ落ちた光を手で遮った。セリアが卓上の花器を動かしてくれたので、その陰へ茶の欄を寄せる。

 

「もう決まった?」

 

 リヴィアに訊かれ、シーアは頷いた。

 

「決まってる。名前を確かめてただけ」

 

 給仕が注文用の端末を開いた。

 

「お茶はいかがなさいますか?」

 

「アール・ヴェロス」

 

 決めていた名前を答え、メニューを閉じた。リヴィアがそちらへ顔を向ける。

 

「また?」

 

「好きだから」

 

「ヴェロスって産地?」

 

 カッシオがメニューを覗き、リヴィアは人名だと答えた。今度はシーアまで顔を上げる。

 

「人なの?」

 

「昔のヴェロス伯爵。だからアール」

 

「ああ、そっち」

 

 爵位だと言われれば分かる。けれど、いつも茶の名前として聞いていたので、そこまで考えたことがなかった。

 

「何をした人?」

 

「このブレンドを好んだとか、作らせたとか。そこまでは覚えてない」

 

「じゃあ、お茶の人だ」

 

「ほかにも何かしたかもしれないでしょう」

 

 アール・ヴェロスは、濃い黒茶に香りの強い柑橘皮を合わせた古いブレンドだった。シーアは何も入れず、リヴィアは少量のミルクを加えて飲む。セリアはジェダリンを選び、カッシオは少し迷った末にシーアと同じものを頼んだ。

 

 三段のスタンドが運ばれてくると、テーブルは急に狭くなった。小さなサンドイッチに温かい焼き菓子、クリームと果実の保存食。その上には、一口ずつ形の違う菓子が並んでいる。

 

「下から食べるの?」

 

 セリアが訊いた。

 

「一応ね」

 

「絶対?」

 

「上から食べても司法軍は来ないよ」

 

「じゃあ、これ」

 

 セリアはいちばん上の菓子を取った。シーアがそのやり取りを聞きながら窓へ目を向けると、ビルの間を貨物船が横切っていった。

 

「また船を見てる」

 

「見てない」

 

「じゃあ、今の何級?」

 

「コレリアンの――」

 

 言いかけて止まったが、遅かった。三人に笑われ、シーアはカップを持ち上げた。

 

「通ったから」

 

「うん。通ったね」

 

 リヴィアはそれ以上追及せず、サンドイッチの皿を寄せてくれた。

 

* * *

 

 ホテルを出てから書店へ寄り、服飾店を覗き、セリアが入りたがった雑貨店を回った。模型とゲームの専門店に着いた時には、カッシオとシーアの歩調が揃って速くなった。

 

「十分だけ」

 

 カッシオが言った。

 

「本当に?」

 

 リヴィアに訊かれ、シーアも頷いた。二人とも、その時は嘘をついているつもりではなかった。

 

 入口近くにいた店員へ《アルマダ》の売り場を尋ねると、奥の右側だと教えられた。

 

「新製品も入っていますよ」

 

 その言葉で、カッシオが先に棚の方を見た。シーアもそちらへ向き直り、二人で店の奥へ進んだ。

 

 二十五分後、別の棚を見ていたカッシオを、シーアが呼んだ。

 

 通常の《アルマダ》拡張箱が並ぶ棚の最下段に、一つだけ横幅の大きな箱が平置きされていた。巨大な環状船体と球形のコア、その周囲を飛ぶヴァルチャー・ドロイド。箱の上には《TRADE FEDERATION SECURITY FLEET》と印刷されている。

 

 横には《MUNIFICENT-CLASS STAR FRIGATE》の箱が二つ、販売セットとして固定されていた。

 

「ルクレハルク」

 

 シーアの声が弾んだ。カッシオはもう箱の裏側を読んでいる。

 

「ヴァルチャーのスコードロンも付いてる。ミュニファスント二隻は、この店のセットだな」

 

「銀行の船も一緒に使えるの?」

 

「企業警備艦隊の編成なら。ほら、ここ」

 

 示された欄を見る。エリアドゥで見たミュニファスントは、銀行グループの所属だった。ゲームでは、別々の企業の艦を同じ艦隊へ入れられるらしい。シーアが街で買った展示用の模型とは違い、こちらには艦艇カードと専用の台座も付いていた。

 

 隣の試遊卓で、店員が命令ダイヤルを公開した。スコードロンの印に投影機が反応し、環状船体の模型から何本もの光が走る。次の瞬間、ハンガーから数十機のヴァルチャー・ドロイドが飛び出した。

 

 戦闘機を示す台座の上に、いくつもの機影が投影されていた。ヴァルチャーの群れが迎撃機と交差し、その下ではミュニファスント級から伸びた緑の砲火が、相手艦のシールドを青白く揺らしていた。

 

 ナブー危機の間、ホロネットで何度も見た環状船体だった。シーアは黙って眺め、攻撃が終わると箱へ目を戻した。

 

「欲しい」

 

 先に言ったのはカッシオだった。

 

「僕も」

 

「一緒に買うか」

 

「うん」

 

 二人が決める間に、リヴィアは販売札を確かめていた。セリアが新製品なのかと訊くと、発売したばかりらしいと答え、箱絵へ視線を戻す。

 

「今なら、この絵だけで何の艦隊か分かるものね」

 

「去年でも分かったよ」

 

「シーアはそうでしょうけど。私なら、通商連合の船って言われても、こんなふうには思い浮かばなかった」

 

 リヴィアは、箱の周囲を埋めるヴァルチャーを指した。

 

「ナブーのニュースで、毎日見たから」

 

 セリアは模型を見ていた。しばらくして、父はこの箱を見たらどんな顔をするだろうと言った。シーアも、クラクドアVIIでの話を思い出した。

 

「……これで遊んでるって聞いたら、嫌かな」

 

「分からない。でも、船はよくできてるね」

 

 セリアは身を屈め、ケースの中の環状船体を覗いた。カッシオは手にした箱を少し持ち直した。

 

「有名になり方は、あんまり良くないけどな」

 

「うん。でも、これで欲しくなった人もいると思う」

 

 リヴィアの視線の先では、別の客が同じ箱を会計へ運んでいた。棚には既にいくつか空きがある。

 

 シーアは隣にある、もう一組のセットを見た。ルクレハルク二隻にミュニファスント四隻なら、組み方も増やせる。

 

「二組買う?」

 

 カッシオが振り向いた。今度は即答せず、箱裏の内容を確かめる。その横から、セリアが口を挟んだ。

 

「部屋に置ける?」

 

 二人は黙った。シーアは両手で箱の幅を測るように持ち、寄宿舎の机を思い浮かべた。買うことに決めた一箱だけでも、模型のケース三つとは訳が違う。

 

「……一組でいいか」

 

「そうだな」

 

 リヴィアが笑い、セリアは持っていた買い物袋を持ち替えた。二人は代金を半分ずつ払い、三つの箱をまとめてもらった。結局、購入を制限したのは値札より先に、二〇七号室の広さだった。

 

* * *

 

 帰寮した時、受付の近くにいたレオンは、二人が抱えてきた荷物を見て足を止めた。

 

「でかいな」

 

「ルクレハルクです」

 

「名前の話じゃない。置くところは?」

 

 シーアとカッシオは顔を見合わせた。一組に減らした時点で、その問題を解決した気になっていた。

 

「二組買うのはやめました」

 

「危なかったな」

 

 レオンは大きい方の箱の底を支え、階段の手前まで運ぶのを手伝ってくれた。

 

 夕食までの間に二人は部屋で箱を開け、説明書とカードに目を通した。大きな環状船体を台座へ載せると、シーアの机には、ほとんどほかのものを置けなくなった。

 

 対戦は、プレップと翌日の準備を済ませてからだった。コモンルームへ新しい艦隊を運び込むと、近くの上級生も覗きに来た。初めて使う艦も多いので、二人は説明書に載っている編成例をもとに、同じ持ち点で艦隊を組んだ。

 

 最初はカッシオが企業艦隊を使うことになった。シーアは上級生から借りた司法軍の艦艇を並べた。ドレッドノート級を中心に小型艦を置き、魚雷装備のカードを付けたZ-95のスコードロンを脇へ寄せる。

 

 向こうの大きなルクレハルクの正面を通れば、随伴するミュニファスントにも撃たれる配置だった。

 

「また横へ回るのか」

 

「まだ置いてるだけだよ」

 

「顔に書いてある」

 

 対戦が始まると、カッシオはスコードロン命令を公開した。ルクレハルクの周囲へ光が広がり、ヴァルチャーが一斉に飛び立つ。ホログラムの機影に見とれていたシーアは、実際の台座が自分の小型艦の進路近くへ置かれたところで、慌てて射程を確かめた。

 

「そこまで来るの?」

 

「カード見せただろ」

 

「読んだ」

 

「じゃあ知ってるだろ」

 

 数字は読んでいた。ただ、その距離だけ進んだ台座が、ちょうどどこへ来るかを見ていなかった。

 

 横へ回すつもりだった小型艦は集中攻撃を受け、続くミュニファスントの砲撃で損傷した。シーアはドレッドノートの進路を内側へ変え、次の手番には対空射撃が届く位置へ寄せた。その周囲へZ-95も集める。

 

 前に失敗した時のように、味方を全部離しておいたら間に合わなかった。

 

 それでも、小型艦一隻は救えなかった。追撃してきたミュニファスントの砲撃で艦艇カードに最後の損傷が入り、模型を盤面から外すことになった。Z-95も、迎撃に回した一隊をヴァルチャーとの戦闘で失った。

 

 代わりに、ドレッドノートの対空射撃が追撃側を削った。母艦から離れたヴァルチャーが減り、シーアの手元には、まだ攻撃していない戦闘機隊が残った。

 

 艦同士の撃ち合いも続いていた。ルクレハルクのシールドダイヤルは一つずつ小さな数字へ変わり、船体の損傷を示すカードも増えた。カッシオは一度、母艦を守るために戦闘機指揮のトークンを使い、それ以上傷を増やさないよう位置を調整した。

 

 最後のラウンドで、カッシオはルクレハルクを先に動かした。

 

 公開したのは修理命令だった。数手前には、傷つく母艦を立て直すために必要だと思った命令だ。実際に修理はできた。だが、盤面の向こうへ出していたヴァルチャーを、その場で呼び戻すことはできなかった。予備の指揮トークンも、もう残っていない。

 

「戦闘機の手番で戻す」

 

 カッシオが言った。シーアはルクレハルクの左舷に残ったシールドを見てから、自分の戦闘機へ視線を移した。

 

「その前に届くかも」

 

 母艦の手番で行われた砲撃を処理し、移動が終わるのを待つ。シーアは生き残った護衛艦を選んだ。射程定規を置くと、ルクレハルクの左舷がまだ範囲に入っていた。

 

 ダイスを振る。修理で持ち直した分も含めて、残り少ないシールドを削り切れた。

 

 カッシオはミュニファスントを動かした。護衛艦へ反撃し、そのあとでルクレハルクの近くから離脱させる。だが、その艦の砲火を、ドレッドノートの周りに残るZ-95へ向けることはできなかった。

 

 シーアは自分の手番になると、ドレッドノートの命令ダイヤルを公開した。

 

 スコードロン。

 

「やっぱり、それか」

 

 カッシオが自分の戦闘機を見た。艦艇の手番が全部終わるまで待てば、ヴァルチャーも動かせる。だが、この命令で動くZ-95は、その前に移動と攻撃を行える。

 

 シーアは、敵戦闘機に足止めされていない隊の台座を一つずつ動かした。全部が無傷ではない。さっきまでの迎撃と対空射撃で、耐久力の減っている隊もあった。それでも、ルクレハルクの左舷へ届く分は残っていた。

 

「足りるか?」

 

 カッシオが、母艦の損傷カードを数えた。

 

「分かんない」

 

 シーアは素直に答えた。

 

 ここへ戦闘機を持ってくるところまでは、自分で決めた。どれだけ当たるかまでは、決められない。

 

 ダイスが転がった。

 

 一隊目。損傷。二隊目でも、ルクレハルクの船体値が減った。カッシオが残っている防御手段を確かめ、処理を終える。まだ、ほんの少し足りなかった。

 

 最後の攻撃で、シーアはダイスを手の中で一度振った。

 

 出目を見た上級生が、後ろで声を上げた。

 

「入った」

 

 カッシオはルクレハルクのカードへ手を置き、足された損傷をもう一度数えた。シーアも数えた。同じところで止まる。

 

 撃沈だった。

 

 けれど、ドレッドノートの手番はまだ終わっていない。シーアは戦闘機の攻撃を処理し終えると、艦自身の側面から射程を測った。離脱へ移ったミュニファスントの一隻が、射界の中に残っていた。

 

 カッシオが顔をしかめた。

 

「そっちもか」

 

 斉射のダイスもよかった。ミュニファスントには大きな損傷が入り、シーアは攻撃を終えたドレッドノートを、マニューバ・ツールに沿って前へ進めた。

 

 卓上で、それまでの撃ち合いをまとめた映像が流れた。

 

 シールドが砕け、Z-95が炎上する環状船体へ飛び込んでいく。ルクレハルクが白い閃光に消えると、続いてミュニファスントの側面から火炎が噴き出した。

 

 カッシオは爆発が終わるまで、ダイスを見ていた。

 

「……今の、出目が良すぎるだろ」

 

* * *

 

 残っていた手番を終え、目標の得点まで数え終える頃には、周りの上級生が片づけを始めていた。

 

 シーアの勝ちだった。カッシオは盤面の端へ移したルクレハルクに手を伸ばし、しばらく台座を回した。

 

「戦闘機を出しすぎたな」

 

「でも、こっちの船は沈んだよ。ドレッドノートを戻さなかったら、もっとやられてた」

 

「戻したから、戦闘機もあそこへ届いたんだろ」

 

「そうだね」

 

 カッシオが顔をしかめると、シーアはまた少し笑った。ルクレハルクを収めるため、箱の中の仕切りを広げる。

 

「次は僕が使う」

 

「いいよ。今度は俺がZ-95を使う」

 

「ヴァルチャーで止める」

 

「俺もそうするつもりだった」

 

 部屋へ戻ってから、ようやく箱を置く場所の問題が残っていることを思い出した。ミュニファスントの箱は棚へ収まった。問題はルクレハルクだった。

 

 机の下には入らず、棚にも収まらない。シーアはベッドの下に入れていたプレイマットと小さなゲーム箱を出し、カッシオと相談して収納を入れ替えた。

 

 空いたところへ大箱を滑り込ませると、環状船体の絵が半分だけ隠れた。

 

「二組買わなくてよかった」

 

「セリアが正しかったね」

 

「次は先に測ろう」

 

 カッシオが言い、シーアは端末へ箱の寸法を残した。模型の数を一組と数えても、使う場所は減らなかった。

 

 消灯すると、窓からコルサントの光が差し込んだ。夜間交通は途切れずに流れ、時折、天井を淡い光が横切った。

 

 コルサント邸なら一人の部屋だった。サーティネイニアンならもっと広く、必要なものがあれば、呼ぶと誰かが持ってきてくれた。ここでは自分で起き、食堂へ行き、洗濯物を出す。机の境界を越えればカッシオに言われ、片づける時間になればレオンが呼びに来る。

 

 明日は、セリアに箱が収まったことを伝えよう。リヴィアには、十分では済まなかったとまた言われるだろう。シーアが横を向いたところで、隣のベッドから声がした。

 

「シーア」

 

「何?」

 

「次、同じ配置でもう一回やろう」

 

「僕がルクレハルクを使うんでしょう?」

 

「その前に。どこで戦闘機を戻せば間に合ったか見たい」

 

 シーアは盤面を思い浮かべた。カッシオの言う最後の手番より、その前に変えた方がいいところがあった気がする。

 

「たぶん、二つ前の命令から」

 

「そう思う。だから――」

 

 廊下から足音が近づき、扉の向こうで止まった。

 

「続きは明日」

 

 レオンの声だった。二人は返事をして黙り、足音が遠ざかるのを聞いてから、小さく笑った。

 

「おやすみ」

 

「おやすみ」

 

 ロイヤル・アカデミーへ入って五十二日目。シーアは翌朝のアラームを確かめ、端末を伏せた。朝食に遅れなければ、授業の前に少しだけ、今夜の配置を並べ直せるはずだった。

 




『Star Wars: Armada(スター・ウォーズ:アルマダ)』は、スター・ウォーズの宇宙艦隊戦を再現するテーブルトップ・ミニチュアゲーム
プレイヤーは数隻の大型艦と戦闘機中隊で艦隊を編成し、テーブル上で実際に模型を動かして戦う
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