STAR WARS: STAR DESTROYER   作:あーくわいてんず

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停戦

.R.C. 7948.207.05/二六分 共和国司法軍巡察基地

 

 出動先が変更された時、ギラッド・ペレオンは、まだ積み終わっていない物資の一覧を見ていた。

 

 プロクラメイター級《コンコーダンス》の次の任務は、定例の巡察だった。航路沿いの拠点を回り、何件かの船舶検査を行い、最後に救難設備の更新状況を確かめる。格納庫へ運び込まれているコンテナのうち、三つはその最後の仕事で使うものだった。

 

 新しい命令には、その拠点の名がなかった。

 

「キャプテン。艦長がお呼びです」

 

 入口に立った当直士官へ頷き、ペレオンは未処理の項目を保存した。司法上級士官として本艦の作戦主任を務めて以来、出港直前の変更には慣れている。ただ、添付された地表図の古さには、少し眉を寄せた。

 

 カルネリオンIV。航法記録には載っていたが、近年の寄港実績はない。別の資料を開くと、人口の欄まで空白になった。

 

 艦橋では、司法佐官の階級章を付けた艦長が通信卓の前に立っていた。その肩越しに、現地で孤立したジェダイ二名の救援要請が見える。認証は確認済み。複数の武装勢力が交戦中。使用できる通信設備は限られ、地表の状況については不明な点が多かった。

 

 その下に、大気中のティバナ資源に関する報告が添えられていた。

 

「コマンダー。調査班も同行するのですか」

 

「そうだ。本艦と巡察仕様のコンスラー級五隻。指揮は私が執る」

 

「六隻で、ジェダイ二名の収容ですか」

 

「収容して帰るだけの案もあった。今回承認されたのは、停戦措置と救護、それに連絡拠点の設置までだ」

 

 艦長が命令書を送った。予算番号は、通常の救難任務とは違っていた。資源調査に伴う保安措置。その実施事項として、負傷者の収容や現地勢力との協議が並んでいる。

 

 ペレオンは、ティバナの項目へ戻った。

 

「濃度も採取地点もありませんが」

 

「それを確かめるための調査班だ」

 

「承知しました」

 

 それ以上、そこを読んでも分かることは増えなかった。救援要請には認証があり、派遣命令には実施できることが書かれている。彼は地表図を横へ寄せ、警備要員と医療班の編成を開いた。

 

「現地の施設は、あてにしない方がよいでしょう。仮設の救護所を設営できる装備を載せます」

 

「浄水設備も入れろ。飲める水があるとは限らん」

 

「補給主任に手配させます。コンスラー級の準備は?」

 

「二隻は基地外縁。残りも近い。乗員の招集を急がせている」

 

 《コンコーダンス》だけなら、先に出られた。クラス0.6のハイパードライブはこういう時に役立つ。ただし、各艦がそれぞれ最短の経路で向かえば、到着時刻は揃わない。

 

 ペレオンは航法主任へ編成表を送り、本艦の先行と随伴艦の合流地点を詰めるよう指示した。基地の前へ全艦を並べてから出る必要はなかったが、現地へ一隻ずつ入っていくつもりもなかった。

 

 通信を終えたところへ、調査班の機材目録が届いた。

 

 大気採取装置。分析器。補助電源。試料容器。担当部署が優先搭載を求めている区画は、仮設病床の収納場所と重なっていた。

 

「これは全部、第一陣に載せる予定か」

 

「先方からは、そのように」

 

 若い士官が答えた。ペレオンは積載図を一度見てから、調査班長への回線を開かせた。

 

 画面に現れた男は、まだ上着の前を留めているところだった。

 

『大型分析器を降ろせなければ、現地では採取だけになります』

 

「携行できる器材で、最初の試料を取れますか」

 

『それは可能です。ただ、分析のたびに船へ戻すことになります』

 

「負傷者を収容する便を使えます。空いた輸送枠へ載せてください」

 

『こちらにも調査期限があります』

 

「地上は交戦中です。降ろした装置を守るために救護の要員を割くことはできません。着陸地点を確保するまでは、携行器材だけでお願いします」

 

 班長は少し黙り、画面の外にある何かを確かめた。

 

『では、試料容器だけは予定数を。あと、電源を借りることになります』

 

「それは手配します。必要な規格を補給主任へ送ってください」

 

 回線が切れると、若い士官が目録を書き換え始めた。ペレオンは、巡察先へ運ぶはずだった三つのコンテナにも印を付けた。

 

「これは基地へ戻す。予定を変更した旨を、先方へ連絡しておけ」

 

「設備の交換日も延期になります」

 

「代わりに運べる艦がないか、基地へ照会してくれ」

 

 出港準備の一覧へ戻ると、先ほどの三つのコンテナだけが、引き取り艦未定の欄に残っていた。

 

 *

 

 格納庫へ下りると、医療ドロイドが搭載艇の前で止まっていた。

 

 予定では四体が入るはずだった。実際の艇内には警備要員の装具が積まれ、中央通路が狭くなっている。衛生要員がドロイドの肩幅を測るように手を当て、その横で補給主任が積載図を開いていた。

 

「容積では収まっています」

 

「搭乗口から通る幅も、その容積に入っているのか」

 

 ペレオンが訊くと、補給主任は艇内へ顔を向けた。

 

「入っていません」

 

「だろうな」

 

 装具の一部を隣の艇へ移すと、通路は空いた。医療ドロイドが一列に入り、その後ろへ折り畳んだ担架を抱えた要員が続く。仮設病床のコンテナも、到着後すぐに降ろせる位置へ積み直されていた。

 

「乗員の食事は?」

 

「交代で取らせています。搭載艇の組は携行食です」

 

「到着前に済ませるように。地上へ出てからでは、時間が取れん」

 

「キャプテンは」

 

「私も、後で取る」

 

 補給主任は何も言わなかった。

 

 作戦区画へ戻ると、机の端に包みとカップがあった。ペレオンが周囲を見るより先に、当直士官が各艦の出港予定を送ってきた。

 

「補給主任からです。後で、とおっしゃったので」

 

 包みの中には、温かいパンが二つ入っていた。

 

 ペレオンは一つを取り、もう一方を机の端へ残した。次に誰かが通りかかった時には、カップと一緒に返せるだろうと思ったが、最後には自分で両方食べた。

 

 *

 

同日 カルネリオンIV上空

 

 雲の切れ目に見えた最初の構造物を、ペレオンは建物だと思った。

 

 輪郭を補正した映像の中で、それはゆっくり動いていた。継ぎ足された外板。船体から張り出した砲座。煙を引く機関部。巨大な飛行船が、山地に残る建築物の周囲で別の船と撃ち合っている。その下を、小さな機影が何度も横切った。

 

 都市だったらしい場所には、屋根より高く瓦礫が積もっていた。古い地図では広場になっているところを、砲撃の煙が覆っている。

 

「誘導信号、受信。ジェダイ側との通話が成立します」

 

 通信士が知らせた。雑音の向こうから、落ち着いた男の声が届いた。

 

『オビ=ワン・ケノービです。こちらの位置は確認できますか』

 

「確認しています。共和国司法軍《コンコーダンス》、作戦主任ペレオンです。負傷者を収容できる場所を指定してください」

 

『東側の低い建物が使えます。ただし、そこへ近づく前に、双方の射撃を止めていただきたい』

 

「双方の指揮官へ、連絡は取れますか」

 

『取れます。互いの射撃が止まれば従うと、両方が言っています』

 

 ペレオンは地表の表示を見た。砲撃は、まだどちらからも続いている。

 

「では、両方へ同じ時刻を伝えてください。本艦からも通告します」

 

 艦橋の正面で、雲が左右へ流れた。

 

 幅の広い楔形の艦首が、その下へ現れた。全長約八百九十メートルの船体が進むにつれ、飛行船の周囲から陽光が失われていく。現地の艦も小さくはなかったが、《コンコーダンス》の船腹の下では、その砲座や機関が一つずつ見分けられるほど近かった。

 

 上空にはコンスラー級が続いた。二隻が左右へ分かれ、残る三隻も指定された位置へ向かっていく。船体には司法軍の識別標識があり、巡察用の兵装架が地表へ向きを変えた。

 

「全周波数へ送れ」

 

 艦長が命じた。

 

「こちらは共和国司法軍。交戦中の全勢力に告げる。直ちに射撃を中止し、現在位置からの攻撃行動を停止せよ。救護艇の進入を妨害してはならない」

 

 通告が繰り返された。翻訳を加えた同じ文が、別の帯域へも送られる。

 

 近くの飛行船が針路を変えた。その舷側に並ぶ砲が、一門ずつ共和国艦へ向いた。砲術員の報告に、艦長は正面へ顔を上げた。

 

「追尾は維持。発砲は待て」

 

 《コンコーダンス》の砲塔が旋回した。大きな砲身が止まると、相手の船体のどこを狙っているかは、ペレオンにも分かった。

 

 飛行船の砲は、動きを止めたまま撃たなかった。

 

「空中の射撃、減少」

 

「地上は継続。東側、三か所」

 

 ペレオンは接近中の搭載艇へ待機を命じた。通信卓では、現地から届く声が重なっている。自分たちは停止した。敵がまだ撃っている。このままでは一方的に攻撃される。

 

「発砲地点を両方へ送れ。こちらで確認していると伝えるんだ」

 

 ケノービの回線が開いた。背後では、近くの誰かに指示する声が聞こえた。

 

『東側へ命令を伝えています。上空からは見えない位置に、射撃を続けている者がいる』

 

「確認しています。救護艇は待たせます」

 

 砲声の間隔が開き、やがて最後の一角も静かになった。ペレオンはすぐには進入を許可せず、監視担当とケノービ、両方の報告を待った。

 

『こちらも止まりました。負傷者を動かし始めます』

 

「救護艇を入れます。双方に見える場所で誘導してください」

 

 艦長の頷きを受け、ペレオンは命令を送った。

 

 先ほどまでまとまっていた小さな印が、地表の数か所へ分かれていく。最初の艇が着陸するまで、《コンコーダンス》の砲塔は地上へ向いたままだった。

 

 *

 

 本艦を降ろすために指定された広場は、使えなかった。

 

 地表の下に空洞があり、かつての地下構造物が残っている。事前に降ろした調査艇の断面図を見ると、広い平地だと思っていた場所のかなりの部分が、崩れかけた屋根の上だった。

 

「補強すれば使えますか」

 

 地上連絡の士官が訊いた。工務担当者は、降着装置の接地位置を重ねてから首を振った。

 

「この船を降ろすための補強工事になります。救護所を造るより大仕事ですよ」

 

 ペレオンは降着計画を閉じた。艦は上空に留め、地上との輸送には搭載艇を使う。着陸できないこと自体より、往復回数が増える方が厄介だった。

 

 地上へ降りると、東側の建物の前で救護所の設営が進んでいた。外壁には風雨に削られた模様が残り、その下へ新しい共和国の標識が立てられている。衛生要員は砕けた石を寄せ、担架の車輪が通れる幅を作っていた。

 

「キャプテン。入口で止まっています」

 

 先着した士官が言った。

 

 建物の前には、離れて二つの集団ができていた。一方が担架を持ち上げると、もう一方から声が上がる。通訳の端末には、オープン、クローズドという呼び名が表示されていた。

 

「先に敵を入れた、と言っています」

 

「重傷者です」

 

 医務主任が入口から顔を出した。

 

「早く処置しなければ死にます。どちらの勢力かは、診察の後で聞きました」

 

 通訳が説明を始めたが、外の声はなかなか小さくならなかった。ペレオンは治療区画を覗き、反対側の壁にある扉へ目を向けた。

 

「向こうも開けられるか」

 

「瓦礫を除けば使えます。ただし、治療は分けませんよ。人も機材も足りません」

 

「待機場所だけ分けよう。中の順序は君たちで決めてくれ」

 

 作業員が向こうの扉へ回った。入口を二つにするだけで停戦が進むとは思わなかったが、今は少なくとも、担架を持ったまま言い争う者を減らせた。

 

 背後から、茶色いローブの男が近づいてきた。連れている少年の袖には、油のような汚れが付いている。

 

「ケノービです」

 

「キャプテン・ペレオンです、ナイト・ケノービ。ご無事で何よりです」

 

 握手を交わすと、ケノービは救護所へ目を向けた。

 

「救援に感謝します。あの船が現れてから、こちらの話を最後まで聞いてもらえるようになりました」

 

「最初から聞いていた」

 

 少年が口を挟み、すぐに付け足した。

 

「でも、また撃ち始めたんです」

 

「そうだな、アナキン」

 

 ケノービは少年を見てから、ペレオンへ向き直った。

 

「両方の代表が来ています。同じ部屋へ入ることには同意しました」

 

「指示を出せる人物でしょうか」

 

「少なくとも、来ている部隊の一部は従います」

 

「では、その範囲から始めましょう」

 

 代表者の一方は、焼け焦げた外套を着た女だった。もう一方の男は胸にいくつもの徽章を並べていたが、椅子へ座る時には、脚が折れないかを先に確かめた。どちらも、随員を後ろへ立たせたままだった。

 

 机上の地図を開くと、男がすぐに北側の建物を指した。

 

「まず、ここから撤退させてほしい。そこは我々のものだ」

 

「あなた方が倉庫を焼く前の話でしょう」

 

 女が答えた。男は、焼いたのは倉庫ではなく砲兵の陣地だと言い返す。

 

「倉庫へ砲を置けば、倉庫ではなくなるのか」

 

「撃ってきたのなら、そうだ!」

 

 ケノービが二人の間へ手を差し入れた。

 

「今、負傷者を運んでいる道がここです。その間だけでも、両側からの射撃を止めたい」

 

「我々が止めれば、向こうが進んでくる」

 

「同じ条件を両方へ出しています」

 

 ペレオンは地図へ線を引いた。互いの占有地を認める線ではない。現時点の位置を記録し、救護の間に部隊を動かさない範囲だった。

 

「この取り決めで、建物の所有者は決めません。今夜、誰もそこを取りに行かないと決めます」

 

 女は地図から目を上げた。

 

「相手が動いたら?」

 

「連絡先を一本にします。こちらで監視して、両方へ確認します」

 

「確認している間に、撃たれたらどうする」

 

「だから、今ここで連絡役を決めていただきたい。前線へ指示が届かないまま、署名だけをもらっても意味がありません」

 

 男は後ろの随員を振り返った。その一人が、自分では東の部隊へ命令できないと小声で言った。

 

 ペレオンは通訳の表示を確かめた。

 

「東の部隊には、誰が命令するのですか」

 

 返事が出るまで、少し時間が掛かった。

 

 そこから先は、地図より名簿の方がよく使われた。飛行艦の指揮官。地上の連絡員。救護所までの案内役。誰に伝えれば、どこまで届くのか。ケノービが知っている名を挙げ、代表者たちが訂正する。

 

 少年は話の間に一度外へ出て、動かなくなった通信端末を抱えて戻ってきた。机の端で筐体を開け始めたので、ペレオンはそこにあった水の容器を、少し遠ざけた。

 

「これは誰のものだ」

 

「連絡に使えるようにしてほしいって、外の人に頼まれました」

 

「直せるのか」

 

「電源の接点だけなら」

 

 ケノービがこちらを見て、頷いた。ペレオンは机の半分を空け、協議の記録へ戻った。

 

 最初に合意できたのは、負傷者を運ぶ二本の道と、次の夜明けまでの射撃停止だった。戦争を始めた理由について、両者の説明は一つも揃わなかった。

 

 それでも、外へ出た時には担架が動いていた。

 

 アナキンは手を拭きながら上空を見上げていた。雲の下に留まる《コンコーダンス》の船腹を、端から端まで目で追っている。

 

 ペレオンの端末へ、調査班から問い合わせが届いた。試料を艦へ送る便と、追加の器材を降ろす便についてだった。

 

 彼は救護の輸送予定を開き、帰路の空いている枠を一つ指定した。その後、艦長へ送る報告を作った。

 

 射撃停止を確認。救護所、稼働。現地代表者との暫定合意成立。

 

 対象区域の欄には、地図の一部だけを付けた。

 

 *

 

C.R.C. 7948.208 コルサント、ウスクル・ディストリクト

 

 シーアが端末を開くと、向かいのリヴィアが皿を見た。

 

「今日は、船の話をする前に一つ食べたね」

 

「食べながらでも見られるよ」

 

「見られるのは知ってる。食べる方が止まるんでしょう」

 

 シーアは残った半分を口へ運び、それからニュースを開いた。古いホテルのラウンジは、卒業を控えた学院生でいつもより賑わっていた。給仕は四人の注文を確かめるより先に、シーアの前へミルクの入っていないカップを置いていった。

 

 画面には、灰色の雲を背にしたプロクラメイター級が映っていた。

 

 《カルネリオンIVで司法軍が停戦措置》

 

「コンコーダンスだって」

 

 シーアが言うと、隣のカッシオが身を寄せた。

 

「ほかに五隻出ているな」

 

「コンスラー級。こっちは搭載艇だよ」

 

「そこは分かる」

 

 カッシオは映像より先に、派遣部隊の説明を読んだ。現地で孤立していたジェダイ二名を救援し、交戦中の勢力に停戦を求めたという。記事に二人の名前はなく、写真も艦と救護所ばかりだった。

 

 シーアは映像を少し戻した。艇の搭乗口から医療ドロイドが降り、その次には、担架を載せた台車が同じ場所へ戻ってきた。格納庫の開口部も、船腹の形も知っている。だが、カタログで眺めていた時には、その中を通る人間まで考えたことはなかった。

 

「船ごと降りなかったんだね」

 

 セリアが言った。

 

「降りられる地面じゃなかったのかも」

 

「地面まで写ってない?」

 

 シーアが表示を動かすと、セリアは荒れた市街地の方を拡大した。

 

「こんなに人が住んでたんだ」

 

「知ってる惑星?」

 

「名前も知らなかった。ここの説明だと、ほとんど誰もいないところみたいなのに」

 

 冒頭には、古い観測記録と長期の紛争について短く書かれていた。現時点の人口は確認中。その下にあるティバナ資源の説明の方が、ずっと長かった。

 

 リヴィアは自分の端末を開き、隣へ並べた。

 

「経済欄にも出てる。画像は同じだね」

 

 そちらの見出しでは、停戦より資源調査が先に来ていた。まだ調査結果は出ていない。それでも、採掘事業者は輸送経路や設備投資について話している。

 

「同じ場所なのに、こっちだと工事の前みたいだ」

 

 シーアは二つを見比べた。

 

「調査の次に何があるかを知りたい人が読むからでしょう」

 

「救護所の次は?」

 

 セリアが訊いた。リヴィアは記事を下まで送った。

 

「……こっちには書いてない」

 

 ラウンジの壁面では、元老院議事堂前の取材映像が流れていた。シーアは聞き覚えのある大声に顔を上げた。

 

『司法軍が到着した。それは評価します! 次に聞きたいのは、資源が見つからなかった場合にも、共和国はそこへ残るのかということです!』

 

 ヴァディム・ロジンだった。去年の委員会より静かな話し方、というわけにはいかないらしい。

 

『旗を立てる時には盛大に発表し、予算が切れたら小さな文字で撤収通知を出す。そういう仕事を繰り返してはならない!』

 

「またあの人だ」

 

 カッシオが言った。

 

「残ってほしいかどうか、あそこの人にも聞くのかな」

 

 セリアが画面を見たまま訊いた。ちょうど記者も駐留期間について質問したが、ロジンが答え始める前に、給仕が卓の横へ来た。

 

 新しい湯のために端末を寄せる。リヴィアが礼を言い、シーアは画面の音を切った。

 

「六隻とも、ずっといるわけにはいかないだろうな」

 

 カッシオが言った。

 

「ほかの巡察もあるし。小さい艦だけ残すか、交代を出すか」

 

「大きいのが帰ったら、また撃ち始めるかもしれないよ」

 

「だったら、帰る前に何か決めないとな」

 

 シーアはもう一度、停戦の記事を読んだ。本文では、合意した地域も、期間も限られていた。画面いっぱいに映った《コンコーダンス》を見るだけでは分からないことだった。

 

「船が着いたところで、終わりじゃないんだね」

 

「記事も続くでしょう」

 

 リヴィアは言って、シーアの皿へ小さな焼き菓子を置いた。

 

「その前に、こっちは終わらせてね」

 

 シーアは端末を少し遠ざけた。

 

 しばらくは食事の話をしていた。セリアが頼んだ茶をカッシオが気に入り、次はそれにすると言う。シーアはアール・ヴェロスを変えるつもりはなかったが、リヴィアは、次の注文を覚えるより先に次の予定を決めようと言った。

 

「卒業式の後は?」

 

「家族と食事。それから荷物を運ぶ」

 

「模型も?」

 

「模型も」

 

「コモンルームへ寄付してくれないかって、一年生に頼まれたよ」

 

 シーアはカップを持ったまま彼女を見た。

 

「自分で言えばいいのに」

 

「あなたには断られそうだから、私から頼んでほしいんだって」

 

「それ、君が頼んでも同じじゃない?」

 

「まだ断ってないでしょう」

 

 カッシオが笑った。シーアは彼の方を見た。二人で買った艦もあれば、後からそれぞれ買い足したものもある。自分だけで決められる話でもなかった。

 

「帰ったら数えよう。台座とカードも一緒じゃないと、使えないし」

 

「同じ艦が余ってる。あれなら、一組作れるんじゃないか」

 

「ルクレハルクは?」

 

「残すに決まってるだろ」

 

 今度はシーアも笑った。

 

 入学した頃には、二〇七号室へ一箱置くだけで相談が必要だった。三年間で模型は増え、収納も増やしたが、部屋が広くなったわけではない。結局、最後には全部を運び出すことになった。

 

「次のところにも持っていくの?」

 

 セリアが訊いた。

 

「全部は無理。最初は一隻だけにしようと思う」

 

「どれ?」

 

「まだ決めてない」

 

「マンデイター」

 

 リヴィアとカッシオが、ほとんど同時に言った。

 

「……まだ決めてないって」

 

「じゃあ、決まったら教えて」

 

 リヴィアは笑い、次に四人で会えそうな日をいくつか挙げた。これからは学校が違い、時間割も違う。空いている日を照らし合わせなければ、お茶を飲むだけでも今までほど簡単ではなくなる。

 

 それでも、連絡欄を新しく作る必要はなかった。いつもの四人の画面に、次の予定を入れる空欄が増えただけだった。

 

 席を立った時、入口に近い卓から二人の女子生徒が顔を上げた。一人が端末を持って近づきかけると、リヴィアが軽く手を振った。

 

「その話は、また学院で聞くね。式の日のことも決めておくから」

 

 少女は頷いて端末を下ろした。シーアが会釈すると、二人とも笑顔で返してくれたが、それ以上は近づいてこなかった。

 

「何の相談?」

 

 外へ出てから尋ねると、リヴィアは卒業式の後に少し時間が欲しいと言った。

 

「家族と出かける前にね。長くはかからないと思う」

 

「思う?」

 

「人数によるから」

 

 シーアは少し首を傾げ、それでもセレナに伝えておくと答えた。

 

 *

 

C.R.C. 7948.211 コルサント、司法部門庁舎

 

 父との待ち合わせまで、まだ少し時間があった。

 

 アルドレンはシーアの卒業と進学に合わせて、コルサントへ来ていた。もっとも、到着してから毎日邸宅にいるわけではない。この日も公王として司法部門との協議に出ており、同じ庁舎で進学の手続きを終えたシーアと、昼食前に合流することになっていた。

 

 シーアは中央回廊の長椅子に腰を下ろした。隣ではセレナが、提出した書類を確認している。

 

「次の採寸は明後日です」

 

「まだ何も聞いてない」

 

「予定を開こうとなさっていたので」

 

「ニュースかもしれないでしょう」

 

「でしたら、その前に明後日の欄を御覧ください」

 

 言われるままに開くと、時刻まで入っていた。

 

 司法アカデミーの制服は、既製のものが合わなかった。肩を合わせると袖が余り、袖を合わせると別のところが合わない。十三歳なのだから仕方がないと言われても、入学する本人にはあまり慰めにならなかった。

 

「大きくなったと思ったんだけど」

 

「大きくなられましたよ」

 

「服は合わない」

 

「もう一度採寸していただきますから、肩を落とさないでください」

 

 シーアが何か言い返そうとした時、回廊の向こうに茶色いローブが見えた。

 

 何人かの職員と話しながら歩いてくる男の顔に、見覚えがあった。髪は記憶にある時より伸びていたが、相手が話す間、わずかに顔を傾けて聞く仕草は同じだった。

 

 シーアは立ち上がった。

 

「ナイト・ケノービ」

 

 男がこちらを向いた。淡い銀髪に視線を留め、それから顔を確かめるように歩調を緩める。

 

「アレクシアール殿下。これは、お久しぶりですね」

 

「シーアで構いません。エリアドゥ以来ですね」

 

「では、シーア。ずいぶん大きくなったね」

 

「それでも、制服はまだ合わないんですけど」

 

 言ってから、初めに話すことではなかったと思った。ケノービは少し笑い、彼の学院服へ目を向けた。

 

「ロイヤル・アカデミーか」

 

「もうすぐ卒業です。その後は司法アカデミーへ。今日は手続きに来ました」

 

「それは、おめでとう」

 

 ケノービが隣へ目を向けた。半歩後ろに、シーアと同じくらいの年頃の少年が立っていた。明るい髪と少し日に焼けた顔。耳のそばから細い編み髪が垂れている。少年はシーアを見ていたが、二人の話が途切れるのを待っていた。

 

「私のパダワンを紹介しよう。アナキン・スカイウォーカーだ」

 

「アレクシアール・ヴァラリアン。シーアでいいよ」

 

 差し出した手を、アナキンが取った。

 

「アナキンでいいよ」

 

 手を離すと、彼はすぐに学院服の徽章へ目を向けた。

 

「司法アカデミーに行くんだよね。船を操縦するの?」

 

「航法もやるし、乗艦実習もある。最初から操艦させてもらえるわけじゃないけど」

 

「操縦はしたことある?」

 

「実機では、まだあまり。シミュレーターなら」

 

 どんな機種かと尋ねる声で、社交のために聞いているのではないと分かった。シーアが学院の設備を説明すると、アナキンは画面の表示より、操縦桿や推力の設定を気にした。

 

「操作してから反応するまでの遅れも変えられる?」

 

「故障を入れる訓練なら。僕たちは、まだそこまでやってないけど」

 

「故障してなくても、古い船だと違うよ。機関を替えたばかりの時も」

 

「自分で替えるの?」

 

「手伝う。小さいものなら、自分でやるけど」

 

 アナキンは当然のことのように言った。

 

 シーアは仕様表を見ることには慣れていた。だが、そこに書いてある機関を自分の手で外したことはない。そのことを言うと、アナキンは難しいことではないという顔をした。

 

「部品があれば、大抵は直せるよ。なければ、使えるものを探す方が大変だけど」

 

「この前も、随分探していたな」

 

 ケノービが口を挟んだ。

 

「同じ規格のものがなかったんです、マスター。繋がるだけじゃ駄目だから」

 

「どこの話?」

 

 シーアが訊くと、ケノービが答えた。

 

「カルネリオンIVでね。彼が通信を回復してくれた。あれがなければ、司法軍を呼べなかった」

 

 シーアは二人を見比べた。

 

「あのニュースの、ジェダイ二人って」

 

「そう、私たちだ」

 

「《コンコーダンス》が行ったところですよね」

 

 アナキンの顔が明るくなった。

 

「そうだよ。すごく大きかった。真下から見ると、艦首の先がずっと向こうにあるんだ」

 

「プロクラメイター。僕、最初に納品された時、基地へ降りるところを見に行ったんだよ」

 

「あれが降りたの?」

 

「その時はね。脚が出て、船体が少し沈んで。地面まで揺れた」

 

「あそこじゃ、ずっと浮いてた。地面の下が空洞になっていて、降りられないんだって」

 

 シーアはカタログの降着条件を思い出した。図の横に小さく書かれた制限だった。アナキンは、その制限に引っかかった場所から帰ってきたらしい。

 

「それで、艇で運んだんだ」

 

「うん。最初に医療ドロイドが来た。僕たちのそばにいた人も、運んでもらえたよ」

 

 シーアはニュースの映像を思い浮かべた。担架に乗っていた者の名前は知らない。アナキンは、そのうちの何人かと話していたのだろう。

 

「今は、戦っていないんですか」

 

 ケノービへ向き直ると、彼は少し表情を改めた。

 

「私たちが発った時には止まっていた。今も司法軍が残っている」

 

「ずっとですか」

 

「いつまでも艦を置いておくわけにはいかない。今のうちに、彼ら自身で話し合ってもらわなければね」

 

「船が来たら、話すようになった?」

 

 アナキンが頷いた。

 

「さっきまで撃ってたのに、座って話し始めた。あの船には勝てないって、両方とも分かったから」

 

「それで、今度は話す相手が誰なのかを確かめるところからだった」

 

 ケノービが付け加えた。アナキンは少し考え、また頷いた。

 

「一人と約束しても、別の人にはまだ伝わってないんだ」

 

 シーアは、アナキンが直したという通信機を見てみたいと思った。艦を呼ぶためだけでなく、呼んだ後にも必要だったらしい。

 

「通信を直してる時は、来るか分からなかった?」

 

「来るって、マスターが言ってた。だから、とにかく動かそうと思って。何度も電源が落ちるから、回路を一つずつ調べたんだ」

 

「僕なら、焦って余計なところを触りそう」

 

「だったら、一緒にやってみようよ。実物を見れば分かるって」

 

 アナキンは、もう使えそうな通信機を思い浮かべているようだった。何を外せば中が見えるか、両手を動かしながら説明し始める。

 

「まず、持ち主の許可を取るんだぞ」

 

 ケノービが言った。

 

「もちろんです、マスター」

 

「元に戻すところまでだ」

 

「それは、直すんですから」

 

 シーアが笑うと、アナキンも笑った。その間に職員がケノービへ端末を返し、次の報告先を示していた。

 

 回廊の向こうでは、アルドレンが会議室から出てきた。ケノービがその姿を認め、短く挨拶を交わす。父が以前の任務について一言尋ね、ケノービが答えている間に、少年たちは連絡先の話を済ませた。

 

「聖堂に連絡していいの?」

 

「うん。僕に繋いでもらえばいいよ。シミュレーターの話も、今度聞かせて」

 

「実機じゃなくても?」

 

「どんなふうに動くのか、見たいから」

 

 ケノービが少年の肩へ軽く手を添えた。

 

「来なさい、アナキン。まだ報告が残っている」

 

「はい、マスター」

 

 アナキンはもう一度手を振り、師の後を追った。シーアも同じように返し、二人が角を曲がってから端末へ新しい名前を入れた。

 

「待たせたな」

 

 父が言った。

 

「それほどでも。話してたから」

 

「船の話か」

 

「通信機も」

 

 アルドレンは、それは失礼したと言った。謝っている顔ではなかった。

 

 シーアは端末を閉じ、父の横へ並んだ。

 

 *

 

C.R.C. 7948.219 カルネリオンIV、司法軍連絡拠点

 

 停戦線の図は、到着した日に作ったものより細かくなっていた。

 

 ペレオンは朝の報告を読み、夜間に起きた一件を開いた。物資を運ぶ車両が、取り決めた時刻を過ぎて監視所へ来た。相手側が通過を拒み、運転手が抗議し、双方の連絡員が呼び出された。

 

 撃たれた者はいなかった。そのため、朝まで詳しい報告が上がってこなかった。

 

「輸送は?」

 

「今朝、通しました」

 

「遅れた理由は」

 

「運転手は、指定された時刻に来たと言っています」

 

 連絡士官が二つの記録を並べた。一方には修正後の通行時間があり、もう一方には、変更前の数字が残っている。

 

 ペレオンは車両の積荷を確かめた。穀物と救護所の燃料だった。

 

「どちらへ訂正を送った?」

 

「連絡所には両方へ。ただ、監視所へ渡した写しが古いままでした」

 

「では、次の便が来る前に、そちらも確かめろ。受け取った者の名を残すように」

 

 少し後、監視所の責任者が連絡拠点へ来た。背の低い男で、右手の二本の指に包帯を巻いていた。

 

「決めた通りにした。勝手に通せば、今度は私が違反したことになる」

 

「記録はそのように残す。あなたの許可証に訂正が届いていなかった」

 

「では、なぜ我々が妨害したと書かれている」

 

 男が出した端末には、相手側の報告があった。

 

 ペレオンは連絡士官を見た。

 

「こちらから訂正を送れ。通行拒否は記録するが、原因も一緒に書く。双方の確認を取ってくれ」

 

 男はまだ何か言いたそうだったが、端末を引き取った。扉のところで振り返り、今夜の便は同じ時刻なのかと訊いた。

 

 連絡士官が、更新した予定表を見せに行った。

 

 艦長との定時連絡が始まった時、ペレオンはちょうど次の輸送計画を開いていた。

 

『夜間の異常は』

 

「輸送路で足止めが一件。通行許可の写しが一致しておらず、現在訂正させています。発砲はありません」

 

『監視所の交代は』

 

「影響ありません。ただ、現地側への引き継ぎは、記録の受け渡しまで確認が必要です」

 

 艦長が頷いた。次に交代要員の手配状況と、当初予定していた巡察先について短く話した。延期した設備の更新は、別の艦が引き受けることになっていた。

 

『医療物資の追加が明日着く。次の輸送に載せるものは、今日中にまとめろ』

 

「浄水器の交換部品も併せて手配します」

 

『調査班からは』

 

「採取は続いています。追加の器材も届きました」

 

『結果は』

 

「担当部署へ送っているそうです。こちらへは、まだ正式な報告は来ていません」

 

 連絡を終えると、外で車輪の音がした。

 

 救護所から運び出した空の容器を、現地の者が台車へ積んでいる。最初は入口を分けなければ近づこうともしなかった者たちが、今は同じ荷下ろし場で順番を待っていた。

 

 監視員は、まだ必要だった。隣の台車を先に通した理由で声が上がることもある。それでも、毎回通訳を呼ばずに済む仕事は増えていた。

 

 ペレオンは浄水器の部品番号を確かめ、補給要求へ追加した。資源調査の結果を待ってからでは、明日の便に間に合わなかった。

 

 机上の端末には、停戦措置の報告欄が開いている。

 

 彼は前日分を複製し、変更のあった箇所を書き換えた。発砲なし。監視継続。協議継続。

 

 送信した後も、窓の外では台車が動いていた。

 

 

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