STAR WARS: STAR DESTROYER   作:あーくわいてんず

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ネイビー・ギャップ

C.R.C. 7951.334 コルサント、共和国司法軍本部運用局

 

「タッグ委員長に、話をしてもらえないか」

 

 着任して五日目だった。シーアは書きかけの照会文から顔を上げ、隣の席にいるニール・ヴァントを見た。上級士官は、冗談を言ったつもりではないらしい。卓上へ広げていた人員配置表を、こちらから読める向きへ回した。

 

「正式な説明資料は、局から出す。ただ、委員会で扱ってもらえるのが、早くても次の会期だという返事だった」

 

「教育要員の件ですか」

 

「そう。演習で君たちが調べたものだ」

 

 《アシュアランス》の次の任務について照合していくと、足りない熟練者の行き先が分かった。新設部隊に付ける教育支援班だった。艦から抜いた者で新しい部隊を教え、元の艦は別の誰かを借りて任務へ出る。演習中には期限付きで済んだ助勤が、次の配置案でも繰り返されようとしていた。

 

 人員を増やす予算はあった。しかし教育支援班を独立した常設の枠にする手続きは、艦艇の増員とは別に進められていた。担当部署の提出した案は委員会へ届いている。その案に添える運用上の説明が、今度は本部運用局へ求められていた。

 

「査閲局からも、もう出ていますよね」

 

「事故の調査と練成の報告は出ている。こちらは、来年の部隊配置にどう影響するかの話だ。君の表が使えると思う」

 

 シーアは提出予定の資料を読んだ。説明する内容には異論がなかった。既存艦からの助勤をいつまで続け、その間、元の艦にどの任務を付けられるのか。新設部隊の数だけを足した表より、ずっと現状に近い。

 

 それでも、ヴァントが自分へ頼んだ理由は、表を作ったことだけではなかった。

 

「委員長とは、個人的に連絡を取っています」

 

「知っている」

 

「それでいいんですか」

 

 ヴァントは椅子を寄せ、資料の送付先を示した。

 

「局長には説明した。委員会側が話を聞くと言えば、担当者が出向く。君に予算を決めてこいと言っているわけではない」

 

 シーアは端末を手に取った。ハロルドへ私用の挨拶を送る時には、いつも短い文で済んでいた。今回はそれを消し、所属と案件を先に書いた。面会の予定を尋ねるだけなのに、文章は普段の三倍になった。

 

 送信してから、ヴァントへ画面を見せる。

 

「返事が来たら、委員会の担当者につなぎます」

 

「頼む」

 

 返事は昼食前に来た。

 

 翌日の十六時。司法委員会の執務区画。説明担当者を伴って来ること。最後に、ハロルド自身の短い文が付いていた。

 

 《カッシオから、帰ってきたとは聞いている。今度は仕事で会うわけだな》

 

 シーアは時刻を予定表へ入れた。ヴァントが、まだ返事のなかった正式照会の欄を開き、面会予定ありと書き加える。その手元を見ているうちに、シーアは自分の端末を伏せた。

 

「随分早かったな」

 

「空いていたんでしょう」

 

 答えてから、そうではないかもしれないと思った。ハロルドの予定表は見ていない。空いていたところへ入ったのか、誰かとの面会を動かしたのかは、返事には書かれていなかった。

 

 翌日の説明では、教育支援班の整備を先行して検討することになった。ハロルドはシーアの表を褒めるより先に、既存艦へどれだけの不利益が出ているかを訊き、ヴァントが示した配置案から二つの任務を拾って追加資料を求めた。

 

 それを持ち帰った夜、シーアは机に座る前に、自分から通信先を開いた。

 

 コマンダー・トーリン。続いて、キャプテン・ハーヴェル。

 

 今度は、誰かに頼まれるまで待たなかった。

 

 *

 

C.R.C. 7951.337 共和国司法軍本部運用局

 

 教育支援班の表を直しているうちに、シーアは別の表を作り始めていた。

 

 ヴァントが見つけた時、画面の上には艦名よりも港の名前が多かった。巡察艦が任務の途中で戻る港。故障した搭載艇を降ろせる場所。司法官を乗せるために寄る星系。長距離通信の中継所。救難用の医療班を借りる基地。それらが、同じ航路に沿って別々に並んでいる。

 

「展開案は?」

 

「二案とも共有しました。これは、その後です」

 

 シーアは銀河図を開いた。候補となる星系を一つ選び、艦の往復を示す線を重ねる。補給のための往復と、人員を受け取るための往復が、途中まで同じ方向へ伸びていた。

 

「ここに、まとめられませんか」

 

 ヴァントはしばらく表示を見てから、隣の端末で文書番号を検索した。出てきたのは、五年前の前進補給拠点案だった。その次には、司法省が提出した地方連絡所の拡充案。さらに、救難拠点の整備要望が二つ続いた。

 

「似た話はある」

 

「全部、別の計画なんですね」

 

「所管も予算も違う」

 

 シーアは四つの文書を並べた。建物の必要床面積を読んでいると、補給拠点と司法連絡所が、それぞれ別に通信設備を要求していることが分かった。医療区画は救難計画にあり、司法軍側には艦上の設備を使うと書かれていた。

 

 それぞれの案だけなら、間違ってはいない。だが、補給のために入港した艦へ救難任務が入れば、医療班を迎えに出なければならない。拿捕した船を連れて戻った時には、司法官が別の星系にいる。

 

 シーアは四つの必要設備を、一つの空欄へ移した。

 

「基地の建物を一つにするだけでは足りないだろう」

 

 ヴァントが言った。

 

「はい。担当する航路も決めたいです。補給する艦の数だけでなく、その区域でどんな仕事を受け持つかまで」

 

 小型艦の即応部隊。修理と部品の保管。救難艇と医療区画。常駐する司法官、通信中継、現地政府との連絡担当。シーアが項目を足すと、ヴァントは予算の欄も作るように言った。

 

「共同の当直窓口を置く。ただし、司法官の判断まで基地司令が命じる形にはしない方がいいですね」

 

「それは司法省と相談しろ。ここで決めたら、最初の一頁で返される」

 

「相談する相手は分かりますか」

 

「連絡は付けられる」

 

 そう答えた後、ヴァントはシーアの顔を見た。

 

「そちらまで知り合いがいるのか?」

 

「全員を知っているわけじゃありません」

 

「少し安心した」

 

 シーアは笑い、白紙の表の上へ計画名を入れた。

 

 領域ステーション。

 

 DOMAIN STATION。

 

 略号はDSとした。基地を一つ増やす計画と区別するため、担当域の任務をまとめる図を表紙に置いた。最初から銀河全域へ並べるには、金も人も足りない。それでも、一か所で実施できれば、次の候補地を同じ項目で調べられる。

 

 第一実証拠点の候補欄に、ヴァントが星系名を一つ入れた。

 

 スカリフ。

 

「前の補給案で、現地との調査が進んでいる。港湾の資料もある」

 

 シーアは候補地の情報を開いた。アウター・リム。銀河図を引くと、コルサントのあるコアは遠くへ退き、スカリフの周辺を結ぶ航路が残った。青い海と島々の映像に、既存の港と補給船の運航記録が重なる。古い補給案の書類には、既に何人もの署名があった。現地政府、港湾当局、司法軍の担当者。それぞれが別の理由で、この場所に拠点を必要としていた。

 

「ここに置けば、周りの星系からは近くなる」

 

「使う航路による。部品を送る側からは遠くなるぞ」

 

 ヴァントは、コア側の整備拠点から届く便を表示した。故障してから注文する部品と、先に置いておく部品を分けなければならない。シーアは保管区画の欄を開き直した。

 

「ここからにしましょう」

 

「まずは比較表だ。場所を決めてから、都合のいい数字を集めるな」

 

「分かっています」

 

 シーアは隣へ二つの候補地を追加した。どちらにも利点があり、どちらにも既に反対意見が付いている。スカリフの欄へ戻ると、未調整の項目が、まだ画面の半分近くを占めていた。

 

 その日の帰り、シーアは兄へ連絡した。

 

「明日の朝、少し時間をもらえますか」

 

『食事なら一緒に取れる』

 

「見てほしいものがあります」

 

『宿題ではなさそうだな』

 

 シーアは端末の表紙を見た。

 

「前に出された宿題の、続きみたいなものです」

 

 *

 

C.R.C. 7951.338 コルサント、ヴァラリアン邸

 

 アウレリアンは、朝食の皿の横へ置かれた資料を、パンを食べ終えるまで開かなかった。

 

 シーアはその間に茶を二度飲み、兄の予定を確かめ、もう一度表紙へ目を落とした。セレナがカップに手を伸ばした時には、まだ半分以上残っていると伝えてしまった。

 

「分かっています。そちらの下の書類を退けていただきたいだけです」

 

「ああ。ごめん」

 

 紙の資料を寄せる。アウレリアンがようやく端末を開き、最初の図を読んだ。

 

「これは、局の案か?」

 

「まだ作業案です。局内で検討しています」

 

「では、私の名前で関係者を集める段階ではないな」

 

 シーアは返事をする前に、兄を見た。そう頼もうと思っていたわけではない。少なくとも、最初からそのつもりではなかった。

 

「どこが難しいか、聞きたかったんです」

 

 アウレリアンは続きを読み、現地政府との協定案へ指を置いた。

 

「補給施設として受け入れることと、周辺星系へ司法軍を出す拠点として認めることは、別に説明した方がいい。ここは一緒になっている」

 

「どちらも同じ施設を使います」

 

「使われる側は、同じとは思わないかもしれない」

 

 兄は資料を戻さず、公開して説明できる箇所を訊いた。シーアが示すと、複製を求めた。

 

「三日後に、基地の費用分担について小さな会合がある。地元へ基地を持って帰りたい議員も来る。局の了解が取れるなら、説明担当者として出席できるように話そう」

 

「今、関係者を集める段階ではないって」

 

「私が集める会合ではない。既にある会合へ、議題を一つ加える」

 

 シーアは兄の顔を見てから、端末へ予定を入れた。

 

「それで、話が早くなりますか」

 

「早くなるだろう。反対も早く聞ける」

 

 アウレリアンは、弟が着ている司法軍の制服へ視線を移した。朝食の間も上着を脱いでいない。今日はこのまま本部へ行き、昼には関係部署との打ち合わせが入っていた。

 

「シーア。そこで話す時には、私はお前の上官ではない」

 

「分かっています」

 

「私が反対することもある」

 

 シーアは表紙を閉じかけた手を止めた。兄が冗談を言っていないことは分かった。

 

「反対なら、理由を聞きます」

 

「それならいい」

 

 アウレリアンが立ち上がったので、シーアも席を離れた。玄関へ向かう途中、兄は別の予定を思い出したように振り返った。

 

「カース理事にも説明するのか」

 

「必要になると思います。整備区画の件で」

 

「では、先に装備を決めてしまわないように。司法委員会へ弟を送り、その足でKDYへ発注したと言われれば、私の方にも質問が来る」

 

 シーアは頷いた。言われたことを忘れないように、資料の最初へ注意を書き足す。

 

 ただ、カースへの連絡をやめるつもりはなかった。むしろ、質問される前に何を説明できればよいかが分かったので、聞くことが増えた。

 

 *

 

C.R.C. 7951.354 コルサント、クアット・ドライブ・ヤーズ支社

 

 三四一日の議員会合では、施設を共用するところまでは話が進んだ。予算を出す機関ごとに別の建物を造る必要はない。しかし、その中へ何を置き、維持にいくら掛かるかは、技術側の回答がなければ詰められなかった。

 

 それから十三日、施設部との打ち合わせを三度行った。シーアが最初に並べた設備のうち、同じ電源系統へつなげないものが二つあり、司法省が使う通信機器には別の保管条件があった。費用の欄を直すたび、見積もりを頼む相手も増えた。カースとの面会へ持ってきたのは、その質問をまとめた資料だった。

 

 カースは、シーアが持ってきた図を一度最後まで送り、ステーション本体の調達欄へ戻った。

 

「ゴランM3185ですか」

 

 カースが開いたのは、シールドゲート・ステーションの図面だった。船舶を通す開口部と、その周囲に置かれた管制設備。惑星シールドを運用する際には、地表と宇宙を結ぶ出入口になる施設である。

 

「既存の一基を回せるか、施設部が確認しています。まずこれを運び、基地の管制と作業拠点を置く。その後、整備設備や地上側の施設をつないでいきます」

 

「ゲート一基に、計画の機能を全部詰めるわけではないのですね」

 

「入りません。補給施設も、艦を直す設備も、別に要ります」

 

 シーアは、段階ごとに分けた配置図を出した。最初の搬入対象だけが明るく表示されている。M3185は領域ステーション計画の出発点であり、それが届くだけで基地網が働き始めるわけではなかった。

 

「惑星シールドは?」

 

「今回の実証には含めていません。ゲートは開放したままです。将来、基地の防護設備を加える場合の接続は残します」

 

「弊社へ、新型ステーションを注文しにいらしたのではないのですね」

 

 隣に座っていた施設部の技師が、わずかに姿勢を変えた。シーアは笑いそうになったが、技師の方を見てから声を整えた。

 

「今日は、整備設備の接続について相談に来ました」

 

「残念です」

 

 カースはそう言いながら、修理対象となる艦と搭載艇の一覧を開いた。プロクラメイター級の名を見つけると、そこで表示を止める。

 

「この設備なら、艦全体を入れるドックは要りません。ただ、交換した機器を艦から降ろして検査する区画が必要です。人員だけ派遣しても、積んでいく器材が足りなくなる」

 

 技師が図を拡大し、予定している作業区画を示した。カースは自社の技術担当者を呼び、通信の向こうで短い相談をした。その間、シーアは窓際に置かれた艦艇模型を眺めた。

 

 子供の頃なら、最初にあちらへ行っていたはずだった。今も、模型の細い艦橋は気になった。けれど、手元で埋まっていない区画の方が先だった。

 

「仮設の整備ユニットなら、試験用のものがあります」

 

 カースが通信を切った。

 

「司法軍の施設へ貸与し、適合を調べることはできます。正式な調達とは別です。責任範囲と、試験に必要なデータを決めていただきたい」

 

「いつから使えますか」

 

「来年の一八〇日頃です。先に入っている試験を終え、点検してからお渡しする予定になります」

 

 シーアは工程表を開いた。スカリフへの搬入は、早くても翌年の一二〇日前後を見込んでいた。シールドゲートを搬入した後、付属区画へ仮の作業場所を置き、外部の整備ユニットを接続する。整備担当者だけを先に送り、機材を六十日ほど待たせるなら、人員の配置から組み直さなければならない。

 

「前倒しできませんか」

 

 カースは即答しなかった。施設部の技師が、必要な設備は別の構成でも組めると説明した。しかし、その場合には現地での接続作業が増える。演習から戻ったばかりの部隊を、もう一度借りる必要があった。

 

 シーアは技師の説明が終わるのを待ち、カースへ向き直った。

 

「カースさん。試験の順番を替えてもらえませんか」

 

 いつもの呼び方になった。

 

 カースは、その声を聞いてから椅子へ背を預けた。

 

「条件があります。前に入っている予定を動かせるか、先方と相談します。そのための費用を、今回の試験費へ含めることになりますよ」

 

「見積もりを出してください。費用が増える理由も」

 

「承認されるとは限りません」

 

「説明します」

 

 カースはシーアを見ていた。以前、艦橋の大きさについて遠慮なく文句を言っていた時と、話す勢いはあまり変わらない。変わったのは、相手が今持っている資料と、その続きを引き受けるという返事だった。

 

「承知しました。明日までに、可能な案を用意させます」

 

 会議室を出てから、施設部の技師が訊いた。

 

「理事とは、ずっとあのように?」

 

「小さい頃から知っているので」

 

 答えてから、シーアは、何を訊かれたのかを考え直した。

 

「お願いすれば、全部やってくれるわけではありません」

 

「ええ。ただ、こちらから出していた仕様の質問は、担当部署を三つ回っていました」

 

 技師の端末に、新しい担当者の名前が届いていた。さっき通信の向こうにいた者だった。

 

 昇降機を待つ間、シーアは予算の修正欄へ費用を足した。技師が横から数字を確かめている。誰かの順番が後ろへ動く。その分の金も掛かる。

 

 それでも、ここで止めるよりは進めたかった。

 

「この追加分は、僕から説明します」

 

 言うと、技師は頷き、シーアの名前を説明担当者の欄へ加えた。

 

 *

 

C.R.C. 7952.018 コルサント、共和国元老院

 

 年末に出した資料は、年が明けてから戻ってきた。司法省は通信設備の共用を認め、財務の担当者は、救難に使った電力をどの予算へ付けるかの説明を求めた。現地の港湾局からは、配置図に潮汐と地上輸送の条件を書き加えた返答が届いた。

 

 カースの事務所は約束通り翌日に試案を送ってきたが、それで貸与が決まったわけではない。試験先の変更、整備員の派遣期間、事故が起きた場合の費用。シーアは回答を集めてはヴァントへ渡し、承認された部分から工程表を埋めていった。

 

 ハロルドの執務区画へ向かう回廊で、シーアは呼び止められた。

 

「ヴァラリアン」

 

 振り向くと、ブレンドル・ハックスがいた。その隣にラックスが立っている。二人とも候補生の標章を外し、司法軍の士官服を着ていた。

 

「久しぶり」

 

「演習の説明か?」

 

 ハックスが、シーアの持っている端末を見た。

 

「今日は配置の話。そっちは?」

 

「教育関係の説明補助だ。朝から待っている」

 

 ラックスは、回廊の先にある扉へ目を向けた。シーアがさっき受付で名前を告げると、職員は資料を確かめる前に通していた。それを見ていたらしい。

 

「君は待たずに済むようだね」

 

「時間を決めてあるから」

 

「こちらも決めてあった」

 

 シーアは時計を見た。二人の面会は、既に予定から四十分遅れていた。

 

 委員長室の職員がこちらへ来て、シーアへ中に入るように言った。その後ろでは、別の担当者がハックスたちに、もうしばらく待ってほしいと伝えている。

 

「後で話せる?」

 

 シーアが訊くと、ハックスは頷いた。ラックスは何も言わず、壁際へ戻った。

 

 説明には、ヴァントと施設部の担当者も来ていた。シーアだけが入るわけではない。司法委員会が求めた資料も、全て局の名で提出されている。

 

 それでも、シーアが扉を通る時、ラックスは彼だけを見ていた。

 

 その日の午後、領域ステーション案は、関係議員への説明資料に加えられた。

 

 新しい大規模予算を、その場で作ったわけではなかった。先に承認されていた前進補給拠点の試験枠と、司法省の地方連絡機能の整備費を組み合わせる。施設を共用して減らせる費用もあれば、増えるものもある。各部署が別々に出していた予定を、一つの実証工程へ合わせるための案だった。

 

 ハロルドは、最初の一拠点と、その後の全域展開を分けて扱うよう求めた。広い図を表紙へ置けば、議員はその全てに金が掛かると考える。試すことに賛成しても、次の十か所にまで同意したつもりにはならない。

 

「まず一か所で、何を確かめるかだ」

 

「はい」

 

「それから、今までの計画を持っていた担当者の名を消すな。君がまとめたからといって、全部が新しい案になったわけではない」

 

 シーアは表紙を開き、共同の説明担当者を確認した。既に何人も並んでいる。それでも会議中、質問は何度も彼の方へ来た。

 

 修理設備は技師へ、司法官の配置は司法省の担当者へ回した。分からないことを知っているふりはしなかった。一方、誰に答えてもらえばよいかは、前より早く分かるようになっていた。

 

 終わる頃には、委員会の書記が、次の説明会の出席者をシーアへ確かめていた。

 

「ヴァラリアン案の資料は、この版でよろしいですね」

 

「領域ステーション案です」

 

 シーアが訂正すると、書記はすぐに頷いた。

 

 その二時間後に届いた予定表の備考欄には、まだ《ヴァラリアン案》と残っていた。

 

 部屋を出ると、赤褐色の上着を着た男が、補佐官との話を切り上げてこちらへ来た。広い肩幅と大きな襟留めには、見覚えがあった。

 

「今度は、傍聴席ではありませんな」

 

 ヴァディム・ロジン。ダルヴァン・セクター代表。通商連合軍縮法案の審議で、共和国の船を明日寄越せと迫っていた議員だった。モスマの就任祝いでは、いずれ元老院でも話してほしいと言われたことがある。

 

「お約束したわけではありませんよ」

 

「ええ。約束せずに来てくださった。なお結構です」

 

 ロジンは声を上げて笑い、補佐官から受け取った端末をシーアへ向けた。そこには、基地の設置を求める星系からの共同要望が並んでいた。

 

「スカリフで試すことには賛成します。ただ、その先も見せていただきたい。アウター・リムに一か所できたからといって、私の選挙区の護衛が明日から増えるわけではない。次はいつか、と聞かれるのです」

 

「次の候補地を比べる項目は作っています。ダルヴァンの資料も、同じ条件で確認できます」

 

「造ると約束してくれとは言っていません。何を満たせば順番が来るのか、それを知りたいのです」

 

 ロジンは次の頁を開いた。要望を出した議員の名前に、面会可能な時間が添えられている。

 

「ここへ説明に来ませんか。独立した教育要員を置く案も一緒に。船を造ったのに動かす者が足りないという話なら、皆、聞くはずです」

 

 シーアはヴァントを見た。上官が予定を確かめる間、ロジンは黙って待った。さっきまでの大きな声も、身振りも止まっている。

 

「整備と人員の費用まで、支持していただけますか」

 

「数字を見せてください。説明できる金額なら、私からも話す」

 

 シーアは共同要望を受け取った。ハロルドに説明の場を作ってもらうだけでは、その場で賛成する者までは揃わない。ロジンは、その名前を持ってきていた。

 

 同じ日、施設部から、転用候補のM3185の検査資料が届いた。完成済みのシールドゲート・ステーションを整備し直して使用できるという回答だった。一二〇日前後という見込みに、交換機器の納入日と曳航船の使用可能期間が重なった。搬入可能な日が絞られると、設営と人員配置の工程にも、具体的な日付が入った。

 

 *

 

C.R.C. 7952.032 共和国元老院、司法・通商合同聴聞

 

 その朝のホロネットでは、二つの艦艇一覧が並べられていた。

 

 一方は、共和国司法軍のドレッドノート級とプロクラメイター級。もう一方には、企業艦隊のレキューザント級、プロヴィデンス級、その大型タイプ、それにルクレハルク級が並ぶ。縮尺をそろえた艦影の上へ、全長一千メートルの線が引かれていた。

 

 司法軍の主力を占める二艦級は、どちらもその線へ届かない。企業側には、それを越える艦が多数あった。

 

 《ネイビー・ギャップ》

 

 最初は、ある解説者が使った言葉だった。それが別の局の特集名になり、工業星系の議員が発言で引用し、今朝はニュースの見出しになっていた。

 

 全長だけで戦力を比べるべきではない、という説明も付いている。しかし、画面を一度見ただけでも大小の違いは分かった。詳しい説明を聞く前に、共和国側の船が足りないという印象が残る図だった。

 

 聴聞室へ入ると、何人かの議員が同じ図を資料に加えていた。

 

 通商連合が提出した図には、スカリフの周囲に赤い円が描かれていた。

 

 シーアは説明補助者の席で、その円の大きさを確かめた。司法軍の資料にはない表示だった。補給を受けた艦が行動できる範囲を、連合側が独自に計算して重ねている。

 

『この拠点から派遣される武装艦は、複数の商業航路へ継続的に介入できることになります』

 

 ロット・ドッドは、赤い円に入った港を順に示した。

 

『補給と救難の拡充には、我々も反対しておりません。しかし、民間の航路保安を縮小させながら、その同じ航路へ中央政府の武装組織を置く。これは単なる施設の共用でしょうか』

 

 ロジンが発言を求めた。委員長に認められると、待ちかねたように身体を前へ出した。

 

『連合の船がいれば安全保障、共和国の船がいれば介入になるのですか。ナブーで何をしたか、もう忘れたとでも?』

 

『個別事件の司法手続きと、本日の議題を混同しないでいただきたい』

 

『貴方がたは軍縮法の審議でも、全く同じことを仰っていた!』

 

 傍聴席から声が上がった。委員長が静粛を求める間、ドッドは水を飲んでいた。応酬に巻き込まれたことを、特に困っているようには見えなかった。

 

 次に発言したミーナ・ボンテリは、通商連合の図ではなく、司法軍側の協定案を開かせた。

 

『試験施設の受け入れを認めた星系政府が、担当域全体での司法軍の活動まで承認したことになるのか。その点を確認したいのです』

 

 ヴァントが、既存の任務権限と現地協定に基づいて活動すると答えた。

 

『であれば、この「担当域の治安状況に応じた展開」という文言は、どこまでを含みますか。救難要請を受けた出動と、現地政府の意向に反する捜査への支援を、同じ条件で扱うのでしょうか』

 

『任務ごとに根拠は異なります。その範囲を、実施要領に記載します』

 

『要領は、誰が変更できるのですか』

 

 シーアは自分の資料を送った。法務担当者が説明する間に、質問の出た箇所へ印を付ける。兄に言われたところだった。文言は直してあったが、実際にどのような場合を想定しているかは、まだ十分に伝わっていなかった。

 

 ボンテリは、基地の建設そのものをやめろとは言わなかった。現地政府が承認する条件を、あとから中央だけで広げないこと。その確認を、試験を始める前に求めていた。

 

 コアの工業星系選出のダリオ・グレッシュが、共和国の法執行に加盟星系が毎回拒否権を持つのかと訊いた。今度はボンテリも、返事を急がなかった。

 

『拒否権の話をする前に、何を承認したことになるのかを明らかにしてください。それすら尋ねられないのであれば、協定へ署名する意味がありません』

 

 シーアは顔を上げた。彼女の後ろで、二人の議員が同じ条項を開いていた。別々の星系を代表する者たちが、今日のために質問を合わせてきたのだと分かった。

 

 アウレリアンが発言を求めた。

 

『試験拠点の設置と、常設の展開制度への移行は分けて審議すべきです。共同利用の条件、対象となる任務、変更時の協議手続きを、最初の協定へ明記する。その修正には賛成します』

 

 シーアは兄を見た。自分の案へ加えられた条件に、兄が賛成している。

 

 そのうえでアウレリアンは、司法軍側へ実施上の影響を説明するよう求めた。ヴァントが手元の表示を切り替え、シーアへ頷く。

 

 シーアは立ち上がった。

 

 正面のカメラが動いた。天井の照明を受けた銀髪が、濃い制服から白く浮いている。傍聴席で隣へ何か囁いていた者が、シーアと目が合うと口を閉じた。彼は相手が視線を戻すのを待ち、図を表示してから話し始めた。学院の講堂なら気になっていた沈黙を、今日は説明の始まりに使えた。

 

『本案は、出動の権限を拠点司令へ一括して与えるものではありません。最初の実証では、補給、修理、救難、それに既に認められている司法業務の支援を共用します』

 

 シーアは艦の往復経路を示した。拿捕した船から拘束者を移す場合。事故を起こした輸送船から重傷者を受け取る場合。部品を交換した艦が、次の任務へ出る場合。

 

 異なる三つの仕事に、同じ桟橋と通信設備を使える。

 

『それぞれの判断をする者を、同じ場所に置きます。法的な判断を省くためではなく、その判断を受けるための移動を減らす計画です』

 

『ですが、武装艦の行動能力は増すでしょう』

 

 ドッドが訊いた。

 

『増します』

 

 シーアは、そこだけは曖昧にしなかった。

 

『修理のために担当航路を離れる日数が減ります。補給の間も別の艦を残せるようになります。事故が起きれば救難へ、海賊の襲撃があれば、その対処へ使う能力です』

 

『海賊と認定するのも共和国だ』

 

『その認定と処分を司法手続きで争えるよう、司法官の配置も含めています』

 

 ドッドは何か言いかけ、隣の法務担当者へ顔を向けた。シーアは、次の質問が来るまで画面を動かさなかった。

 

 やがてモン・モスマが、常設化の際にも同じ範囲へ留めるつもりかと訊いた。

 

『実証の結果と、担当域に必要な任務によります。変更する時には、改めて説明する必要があると考えます』

 

『その時には、もうステーションがあり、部隊が勤務し、費用も支払われています。議会が変更を拒んだ場合、縮小や撤収はできるのですか』

 

 シーアは、施設部と詰めていた撤収費の表を開いた。黙って聞いていた技師が補足し、司法軍が所有する設備と、借りる設備を区別して説明する。

 

 モスマは資料を受け取った。しかし、それで納得したとは言わなかった。

 

『実施してから撤回する費用が大きくなるほど、最初の承認を越えた権限が認められやすくなります。その点は、別に検討が必要です』

 

 シーアは頷いた。反論するならできた。撤収できることを優先すれば、恒常的に残す設備ほど造りにくくなる。だが、今の質問は、設備の性能についてではなかった。

 

 席へ戻ると、ヴァントが小声で言った。

 

「次の資料には、変更できない条件も先に書こう」

 

「はい」

 

 シーアはメモを保存した。議場では、ボンテリらが共同修正を提出するという説明が始まっていた。代表団の職員が歩き、修正案の賛同者を確かめている。

 

 通商連合に賛成したつもりのない議員も、同じ修正へ名を連ねていた。

 

 *

 

 聴聞が休会に入ると、報道関係者が出口へ寄ってきた。

 

 以前は、シーアを見つけると公王家の話をする者が多かった。学院生活、婚約者、家族の近況。今もそうした質問はあったが、この日は最初から違っていた。

 

「ヴァラリアン士官。新しい基地網は、通商連合の保安能力に対抗するものですか」

 

 ヴァントが足を止めた。シーアは、公開した資料の範囲で答えてよいかと視線で確かめた。頷きが返ってくる。

 

「司法軍が受け持つ任務を続けるための拠点です。企業の護衛に頼っている航路についても、共和国側が何を引き継げるかを検討しています」

 

「企業側の新型デストロイヤー増備への対応でも?」

 

 質問した記者が、端末に別の映像を出した。レキューザント級の船体が建造区画に並び、その隣には大型のプロヴィデンス系艦艇を収めた構造物が見える。

 

「新型艦の保有状況と認証については、担当機関が確認しています。今回の説明は、基地の実証計画についてです」

 

「では、司法軍の側も、もっと大きな艦が必要だと? ネイビー・ギャップを認めるということですか」

 

 シーアは、相手の端末から目を離した。ここで一言足せば、その一言だけが見出しになるだろう。分かるようになっていた。

 

 それでも、何も答えずに去る必要はないと思った。

 

「必要な任務に対して、今の戦力で足りるかを調べています。足りない場合は、装備も含めて説明することになります」

 

「公王家としても、軍備拡張を支持される?」

 

「本日の説明は、司法軍の職務として行っています」

 

「なら、我々が政治の方を引き受けましょう」

 

 後ろから、ロジンの声がした。記者が振り向くと、彼は足を止め、撮影ドロイドが回り込めるだけの場所を空けた。

 

「司法軍の艦が一千メートルに届くかどうか、その横で企業はもっと大きな船を次々に並べている。ところが共和国が整備設備を一つ置こうとすると、まず企業の機嫌を伺えと言う。いつから元老院は、通商連合の出先機関になったのですか!」

 

「議員、連合側は契約上の権利を――」

 

「ニモーディアンに航路を預けるから、こうなるんだ。あの連中は、砲を向けられれば逃げるくせに、丸腰の相手からは通行料を取る。そんな種族に、共和国の動脈を握らせておけるか!」

 

 声が回廊へ響いた。通りかかった職員が足を止め、撮影ドロイドの一機が高度を下げた。ロジンはそのレンズへ顔を向けたまま、グラスもないのに片手を持ち上げていた。

 

「今のは、ニモーディアン全体についての発言ですか」

 

「通商連合を動かしている連中について話している!」

 

「『そんな種族』と仰いました。連合と関係のない市民も含めるのですか」

 

「善良な市民なら、共和国に安全な航路を取り戻すことに反対する理由はないでしょう」

 

 別の記者が、シーアへマイクを向けた。

 

「ヴァラリアン士官。この計画を支持する議員の発言ですが」

 

 ヴァントが、ここでは計画に関する質問に限ってほしいと言った。記者はマイクを下げなかった。シーアは上官へ一度目を向け、それからロジンを見た。

 

「今の、種族についての発言には賛成しません」

 

 ロジンの手が下がった。

 

「ニモーディアンの船員も、司法軍へ救難を求められます。今回の計画で、それを変えるつもりはありません」

 

「軍縮への対応を、差別だと批判する声もありますが」

 

「通商連合が何をしたか、どの艦に何をさせているかは調べる必要があります。その話と、生まれた種族で航路の仕事から排除することは別です」

 

 記者がロジンへ向き直った。二人が一つの画面へ収まるよう、撮影ドロイドが位置を変える。

 

「見解が違うようですが、計画への支持は?」

 

「変わりませんよ。この士官は、辺境へ実際に船と人を置こうとしている。だから私は支持する」

 

 ロジンは、シーアの肩の向こうからもう一度レンズを見た。

 

「違う意見を言われたら予算を引き揚げるような真似はしません。どこかの企業とは違ってね!」

 

 笑った記者もいた。その間に、ヴァントが次の予定を告げ、シーアを連れて回廊へ出た。

 

 ロジンの補佐官は、来週の説明会の時刻を確かめるために追ってきた。シーアは足を止め、予定通りだと答えた。差別発言に反対したことで、必要な教育要員の話までやめるつもりはなかった。

 

 角を曲がると、ラックスが待っていた。ハックスは少し離れた椅子で、ようやく受け取った説明資料を鞄へ収めている。

 

「随分、慣れたね」

 

「昔から、ああいうところには連れて行かれていたから」

 

「その話じゃない」

 

 ラックスは、さっきの出口へ目を向けた。記者の何人かは、もう別の議員を囲んでいる。

 

「今の質問に答える士官は、君でなくてもよかった。だが、皆、君に聞いた」

 

 シーアは返事をせず、ヴァントを見た。上官は二人へ挨拶し、先に戻ると言って歩いていった。

 

 ハックスが立ち上がる。三人で回廊の端へ寄ると、外の都市が見えた。議事堂の周囲を、中継艇と送迎車が異なる高さで流れている。

 

「タッグに予算を扱わせ、兄君に修正案を出させ、ロジンに賛同者を集めさせたのか」

 

「兄上の修正には、僕の案を制限するところもある」

 

「それで、議題から落ちずに済んだ。ロジンとも、さっきの一言で全部を切ることはしなかった」

 

「あの発言に賛成したわけじゃない」

 

「聞いていた。彼も、それで君を支持するのをやめなかった」

 

 ハックスは、公開された資料を読んでいた。シーアが答える前に、教育支援班の検討が先へ進んだ件にも触れた。

 

「こちらの部署にも通知が来た。委員会で扱うのは、まだ先だと言われていたんだがな」

 

「説明できる資料が揃ったから」

 

「資料が足りなかったことには、理由がある。それを誰が揃えさせた?」

 

 シーアは手すりへ片手を置いた。二人が何を言いたいかは分かった。学院で課題を囲んでいた時にも、似た話をした。

 

「一人が全部を決める方がいいとは、今も思っていないよ」

 

「知っている」

 

 ラックスの返事は、予想より穏やかだった。

 

「君がそう思ったまま、どこまでできるかを見ている」

 

 ハックスは窓の外へ目を向けた。先ほどまで質問に立っていた議員の一団が、下の乗降場へ出てきている。

 

「あの中には、君の説明を一度も読まなかった者もいる。だが、委員長が時間を取り、ヴァラリアン家が関わり、最高議長府が関心を持てば読む。自分の判断だけでは何も決めない者を、動く方へ向ける人間が要る」

 

「あの議員たちにも、聞くべき理由がある。今日の質問は、直さないといけないところだった」

 

「君は直せばいい」

 

 ラックスが言った。

 

「修正しても、最後まで案を持って歩く者は同じだ。委員会を出たところで、職員は誰に次の予定を尋ねた?」

 

 シーアは、手元の端末を鞄へ入れた。

 

 ハックスたちを説得できる答えを、今ここで作る気にはなれなかった。自分がいなければ進まなかった箇所がある。それを否定しても、今日の出来事は変わらない。

 

「次の打ち合わせがあるんだ」

 

「誰と?」

 

 ラックスが訊いた。

 

「最高議長府の担当者」

 

 ハックスが、そこで初めて笑った。

 

 *

 

C.R.C. 7952.041 コルサント、ホロネット放送局

 

「前髪は、もう少し上げていただけますか」

 

 シーアが鏡へ顔を向けると、化粧担当者は櫛を止めた。

 

「目が隠れない程度で。そのまま、こちらを」

 

 照明の位置が変わった。淡い銀髪の縁が白く浮き、頬から顎へ続く輪郭に、さっきまでなかった影が付く。候補生の頃の写真も控室へ用意されていたが、それより顔つきが細くなっていた。制服の襟を整えて姿勢を戻すと、後ろにいた制作担当者が満足そうに頷いた。

 

「いいですね。今日は制服で正解でした」

 

「公務なので」

 

「もちろんです。私服のお話は、また別の機会に」

 

 相手は悪びれずに笑い、進行表を渡した。

 

 演習の観閲映像が流れてから、出演依頼は何度か来ていた。今回は広報担当も同席し、司法軍の公開説明として出演が認められている。学院生活と家族の話に続いて、軍務について話す。依頼書には、そう書かれていた。

 

 表紙の仮題は、《姫王子が語る、共和国の未来》だった。

 

「基地の図は、どこで使いますか」

 

 シーアが訊くと、制作担当者は進行表の後半を指した。

 

「こちらです。ただ、図だけの時間は短めに。聴聞の映像では、お顔が映っている間は視聴者が残るんですが、組織図になると離れてしまうので」

 

「顔が映っていれば、説明は聞いてもらえるんですか」

 

「少なくとも、見てもらえます」

 

 シーアは進行表を見直した。艦隊の比較に三分。基地の説明に二分。子供の頃の写真と、学院の思い出には、その倍の時間が取ってあった。

 

「僕と図を、一緒に映せませんか。全部を切り替えなくても」

 

 制作担当者は、収録用の配置へ目を向けた。

 

「できますけど、こちらのカメラを見て話していただくことになりますよ」

 

「図を出す時も?」

 

「はい。そちらばかり向かれると、お顔が隠れるので」

 

「分かりました。その代わり、基地の説明をもう少し長くしてください。写真は一枚でいいです」

 

 広報担当が横から、技術上の説明範囲は確認済みだと付け加えた。制作担当者は時計を見て、舞台側の責任者を呼んだ。

 

 シーアは鏡から立ち上がった。顔を見せるために呼ばれたことには、最初から気づいていた。その顔が映っていれば途中で切られないのなら、話す内容は自分でも選べる。

 

 スタジオでは、ロジンが司会者と話していた。

 

 前日、彼が集めた議員たちへの説明は二時間続いた。今度は同じ番組のゲストである。制作側にとっては、先日の発言と若い士官の返答を、もう一度同じ画面へ並べる機会でもあった。

 

「先ほどの数字は、補佐官へ渡しましたよ」

 

 ロジンはシーアを見つけると、そう言った。

 

「教育要員と補修費を別々の要望にせず、まとめて出すという件です。三人から賛同の返事がありました」

 

「ありがとうございます。文案は局の担当者へも送ってください」

 

「送らせます。今日は、こちらを説得する番ですな」

 

 彼が示したのは、客席ではなく、レンズだった。

 

 番組が始まると、シーアの前に青い表示が点いた。名前の下には司法軍の所属と階級、その隣には公王家の第三公子という肩書が並んだ。

 

 司会者は制服がよく似合うと言い、学院時代にも艦艇模型を持ち込んでいたのかと訊いた。シーアは同室のカッシオから、置き場所だけは自分の机の中で考えろと言われた話をした。客席から笑いが起きる。司会者が次の写真を開こうとしたところで、彼は言葉を続けた。

 

「実際の艦でも、置く場所がないと困るんです。買った船をどこで直すか、部品をどこへ届けるかまで決めないと」

 

 目の前の小さな表示で、次に出す図が待っていた。シーアがそちらを示すと、司会者は一拍置き、端末へ指を滑らせた。

 

「では、こちらがその計画ですね」

 

 背後にスカリフの配置案が広がった。模型店で買い物袋を抱えた写真は、出なかった。

 

 シーアは管制、補給、修理、司法連絡の順に図を動かした。正面のレンズを見ながらでも、どこを指せばよいかは分かる。昼間、同じ説明をしてきたばかりだった。

 

「最初に運ぶのはシールドゲート・ステーションだそうですが。補給施設にしては、大きなものですね」

 

「既存の設備を使い、まず基地の管制と作業拠点を置きます。整備設備や地上側の施設は、その後です。ゲートを運べば全部使える、という計画ではありません」

 

「企業艦隊の出入りを制限することもできる?」

 

「今回の実証では、惑星シールドを稼働させません。航行の条件を変更する権限も、施設を置くだけで追加されるわけではありません」

 

 ロジンが身を乗り出した。

 

「そこを曖昧にする必要はありません。将来、共和国が自らの航路を守るために使う。そのための足場でしょう」

 

「守るための設備は必要です。だからこそ、何をする時に誰が決めるかも、一緒に作っています」

 

「その決定を待つ間に、企業の方は船を増やしている!」

 

 ロジンは卓上を叩いた。司会者が待っていたように、ネイビー・ギャップの図を出した。

 

 企業側の大きな艦影と、司法軍の主力艦。同じ比較が、今度はスタジオの壁いっぱいに並ぶ。

 

「先日の聴聞後、議員はニモーディアンに航路を預けるべきではないと発言されました。軍備の問題と、種族の問題を混同したのでは?」

 

「私が求めているのは、企業に対抗できる共和国の戦力です。善良な市民を攻撃するためではありません」

 

「では、発言は撤回される?」

 

「軍備の不足を指摘したことまで撤回しろというのなら、お断りする!」

 

 司会者は、そこまで求めてはいないと返した。二人の声が重なり、シーアの手元では、基地の図が小さな待機表示へ戻っていた。

 

「あの発言については、その場でも反対だと申し上げました」

 

 シーアが言うと、司会者がこちらを向いた。

 

「今ここで説明している拠点は、ニモーディアンの住民にも同じ条件で使ってもらうものです。司法官への相談も、救難もです。そのための配置案として、支持をお願いしています」

 

 ロジンは口を開きかけたが、シーアは待たずに図を戻した。

 

「この図には、小さい船しか描いていません。それでも、部品を取りに戻る時間を短くできれば、同じ船で受け持てる任務は増えます」

 

「大型艦の増備は必要ないということですか」

 

「必要です。企業側の大型艦に対処できる戦力が足りないという問題は、修理施設を造るだけでは埋まりません。ただ、大型艦を買うだけで、この配置図も完成するわけではありません」

 

「では、両方に金が掛かる」

 

「はい」

 

 シーアは頷いた。ここで安く済むと言えば、次に費用を説明する者が困る。

 

「今より多くの仕事をさせるなら、人も設備も必要です。どれを先に用意するかは議論できます。でも、船の購入費だけを出して、残りの仕事までできることにはしないでください」

 

 ロジンが、今度は卓を叩かなかった。

 

「その説明なら、私も支持します。先ほど、ほかの議員にも同じ話をしたところです」

 

 司会者は二人を見比べ、最初の費用はいつ決まるのかと訊いた。シーアは承認済みの試験枠と、これから予算を求める項目を分けて答えた。

 

 時間を知らせる表示が変わった。予定していた区切りを越えていたが、制作担当者は止めなかった。次の写真の代わりに、基地の費用を示す図が用意された。

 

 放送が終わると、ロジンは別の番組へ向かった。シーアが控室へ戻った時には、広報担当の端末に、映像の再使用と次の出演について照会が届いていた。

 

「次も、この図を使えますか」

 

 制作担当者が訊いた。

 

「更新したものなら。設備の担当者にも、出てもらえませんか」

 

「調整します。ただ、殿下にも来ていただきたいです」

 

 シーアは、次の候補日を受け取った。

 

 翌朝には、基地の説明を聞きたいという議員事務所が二つ増えていた。番組を見た秘書官が、これなら自分の議員にも話が通ると、局へ同じ図を求めてきた。

 

 シーアは資料を送り、次の出演にも応じたいと広報担当へ伝えた。

 

 *

 

C.R.C. 7952.048 コルサント、ウスクル・ディストリクト

 

 ホテルのラウンジに着くと、シーアの席だけ、まだカップが置かれていなかった。

 

「遅れるって連絡があったから」

 

 リヴィアが言った。

 

「冷めたものを飲むよりいいでしょう」

 

「ありがとう」

 

 シーアが座ると、給仕が近づき、いつもの茶を用意してよいかと訊いた。頷いて鞄を置く。今日は端末を出すつもりはなかったが、カッシオが既に公開資料を開いていた。

 

「先週の番組、見たぞ」

 

「全部?」

 

「全部は長い。艦のところを中心に」

 

「やっぱり」

 

 セリアは、別の画面に船会社の発表を出していた。新しい航路保安契約と、その契約に使用するとされる艦艇の一覧。通常型だけでなく、大型タイプも含めた提案になっている。

 

「通商連合の新しい船、護衛のためだけじゃなさそうね」

 

 シーアが言うと、カッシオが頷いた。

 

「レキューザントを増やせば、広い範囲へ置ける。大型のプロヴィデンスを混ぜれば、同じところへ艦載機も集められる。契約書では、どちらも航路保安だ」

 

「注文が増えてるのは、司法軍の方を見ているからでもあるでしょうね」

 

 リヴィアは、造船企業の発表日を並べた。司法軍の増員決定、その翌年の予算、プロクラメイター級の引き渡し。企業側の艦艇発注は、一つの出来事だけで決まったものではなかった。それでも、相手が増やす前から決めていたと、それぞれが説明している。

 

「新しい保安契約の説明にも、ロジンの発言が付いてる」

 

 セリアが、連合側の発表を示した。共和国の一部議員から、加盟企業とニモーディアン市民への敵意が示されている。保安体制の維持が必要だという文章だった。

 

「会社と市民を一緒にしてるな」

 

 カッシオが言った。

 

「でも、ロジンも一緒にしていたでしょう」

 

 リヴィアは別の声明を開いた。通商連合に加盟していないニモーディアンの事業者も、共和国側の説明を求めていた。

 

「この人たちまで、連合と同じ理由で言っているわけじゃないと思う」

 

 シーアは声明を保存した。基地を使う者へ何を保証するか。番組で話した一言を、次の説明資料にも書く必要があった。

 

「ネイビー・ギャップの図も、毎日違うな」

 

 カッシオが別の資料を開いた。

 

「今日は、クアットのマンデイターまで共和国側に足していた。あれなら大きさは勝てる」

 

「派遣してもらう交渉は、クアット政府から始めることになるよ」

 

 シーアは、自分のカップを手元へ寄せた。

 

「司法軍の艦として、明日の配置案へは入れられない」

 

「そこを一緒にすると、別の図になるわね」

 

 リヴィアは、各局が載せた集計条件を見比べていた。

 

「企業側も、発注した船まで足すところと、引き渡し済みだけを数えるところがある。千メートルで切れば、プロクラメイターは一隻も入らないし」

 

「でも、向こうに千メートルを越える船がたくさんあるのは、本当でしょう」

 

 セリアの言葉に、三人とも頷いた。

 

「本当だよ。配置と整備の状態を調べても、相手の船が小さくなるわけじゃない」

 

 シーアは言った。

 

「ただ、足りないものを確かめずに大きい船だけ増やしたら、また別のところで困る」

 

 カッシオは、二つの集計を保存した。同じ言葉が、中央政府の増強を求める側にも、地方の戦力を見落としていると批判する側にも使われ始めていた。

 

「新しい船が増えると、保険は安くなるの?」

 

 セリアが訊いた。

 

「同じ契約の護衛を受ける船は、下がる場合もあると思う。でも、そこで司法軍と揉める可能性が上がれば、別の危険として計算される」

 

「守る船を増やしたのに」

 

「誰が守るかで、条件が変わるの」

 

 シーアは運ばれてきた茶へ手を伸ばした。スカリフの補給案を作る時、地元の商業輸送を使う予定にしていた。新しい基地は荷物を必要とし、現地の港には仕事が増える。その利益だけなら、反対される理由は少ないと思っていた。

 

 リヴィアが出した別の発表には、長期契約の解除条件が書かれていた。

 

「今の輸送契約が、保安や融資と一緒になっていたら?」

 

 シーアが訊くと、彼女は頷いた。

 

「警備だけ切り離すには、ほかの条件も変える必要があるでしょうね。誰かが新しい拠点を造ると決めても、今ある契約が全部終わるわけじゃない」

 

「共和国に来てほしいと思っていても、すぐには替えられないんだ」

 

 セリアは発表文を保存した。

 

「父のところでも、似た話をしていた。港の設備を誰が持っているかで、使える会社が変わるって」

 

 シーアは鞄へ手を伸ばしかけ、やめた。ここで作業案を開いても、三人へ見せられる範囲は限られる。代わりに、公開されている港湾の利用条件だけを自分の端末へ保存した。

 

 カッシオが、最後の焼き菓子を二つに割った。

 

「大きい艦を造る方は、分かりやすいな。どこで直すかより、何に勝てるかの方が宣伝になる」

 

「でも、向こうが造るなら、こっちも考えないといけない」

 

 シーアが言うと、カッシオは半分を彼の皿へ置いた。

 

「だから、両方が造るんだろうな」

 

 窓の向こうで、商業広告が切り替わった。大型船の環状船体が現れ、幾つもの航路を守るという言葉が、透明な壁いっぱいに広がる。

 

 その下を、共和国の政府艇が通り過ぎた。

 

 ラウンジを出るところで、広報担当から連絡が来た。番組側が、基地計画を継続して扱いたいと言っている。次も出演できるかという照会だった。

 

 シーアは立ち止まり、返答欄を開いた。

 

「次も出るの?」

 

 リヴィアが訊いた。

 

「調整をお願いする。今度は、設備を説明できる人にも来てもらいたい」

 

 出演できることだけで返事を終えず、同席者と、必要な説明時間を書き添えた。送信すると、リヴィアは彼が端末をしまうのを待ってから歩き出した。

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