STAR WARS: STAR DESTROYER 作:あーくわいてんず
C.R.C. 7952.060 共和国司法軍本部、装備計画説明室
整備ユニットの貸与条件が、ようやくまとまった。前年末に受け取った試案から、接続部の仕様が一度、派遣される整備員の勤務案が二度変わっている。先行していた試験は分割して実施し、その間の空いた期間を司法軍が借りることになった。移送と再検査の費用は増えたが、スカリフの予定には間に合う。
その説明を受けた日の午後、シーアはカースともう一度会った。
今回は司法軍側の建物だった。施設部だけでなく、装備計画を担当する者たちが席を占め、ヴァントも出席している。領域ステーションの修理区画を検討するため、今後の艦艇計画をどこまで見込むかを確認する会合だった。
最初に映ったのは、プロクラメイター級ではなかった。
長い船体の上へ、航空運用のための大きな区画が取られている。シーアは上面図を見てから、側面へ回した。艦載機が出入りする場所と、艦隊の中で使う指揮設備。それらが主船体の構成を決めていた。
VENATOR-CLASS。
「ヴェネター」
声にすると、カースが頷いた。
「次世代スター・デストロイヤーの計画です。航空運用を、従来より大きな比重で扱います」
「プロクラメイターとは、使い方が変わりますね」
「一隻で受け持つ仕事を増やすだけでは、艦隊として使う航空戦力が追いつきません。既存の設計検討を、今回の要求に合わせて進めています」
装備担当者が、企業側の大型艦増備について資料を出した。レキューザント級とプロヴィデンス級、その大型タイプ。造船所の区画、発注された主要機器、搭載機の運用試験。すべての数量が確定しているわけではなかったが、机上の案だけではなくなっていた。
「これが、ネイビー・ギャップへの対応案ですか」
同席する士官の一人が訊いた。カースは、三つの艦影が載った表を開いた。
「その言葉が使われる前から検討していた案です。ただ、説明する機会は増えました」
シーアは資料の端へ目を向けた。以前の検討日が残っている。その後ろに加えられた説明の表題には、今朝のニュースと同じ言葉が使われていた。
カースは、次の艦を表示した。
MAELSTROM-CLASS。
マエルストローム級バトルクルーザー。
ヴェネターの図が脇へ残っていたので、二つの大きさの違いが分かりやすかった。シーアは縮尺を確かめ、もう一度主船体を見た。通常のデストロイヤーより重い戦力を、艦隊の機動に組み込むための案だった。
「企業側が大型タイプをまとめて運用した場合、小型艦を増やすだけで対応するのは難しくなります」
装備担当者は、相手の艦を一隻ずつ同じ大きさで追う必要はないと付け加えた。それでも、ある宙域に集中された戦力へ対処するには、こちらにも集められる主力が要る。
最後に現れた名前には、見覚えがあった。
MANDATOR II。
シーアは思わず身体を前へ寄せた。マンデイター級の系列を発展させる大型主力艦。クアットで見た艦の印象が、図面の輪郭に残っている。だが、要求されている任務は、あの時に説明された地域防衛だけではなかった。
「既存系列からの発展です。艦隊行動へ適合させるための検討も含めています」
カースは言った。
「三案とも、すぐ配備できる艦ではありません。今ある試験契約で進められるところと、新たな発注が必要なところを分けてあります」
シーアは、図面より先に工程表を開いた。主機、構造材、艦載機の運用試験、乗員の教育。名前を発表する日と、任務へ出せる日は、長く離れている。
「調査が終わってから全部を始めたら、向こうの大型艦の方が先になりますね」
「その可能性はあります」
「まだ必要数を決められなくても、共通して必要になる機器の試験は進められませんか」
装備担当者が、先行費用の欄を示した。そこは既に要求に入っていた。しかし、三つの艦級を並べて出したため、予算側からは、どれか一つを選べないのかという質問が来ている。
シーアは各艦の任務欄を開き、三つを並べ直した。
「同じ仕事をする三隻から選ぶ表に見えます」
「主力艦の計画として、一括していますから」
「航空戦力を運ぶ艦と、重い打撃力を集める艦と、さらに大きい主力艦でしょう。どれを選んでも同じなら、一つでいいと聞かれます」
ヴァントが、任務別の比較も付けるように言った。担当者は頷き、シーアへ元の説明資料を送った。
「運用側の所見をもらえるか」
「作ります。基地の側へ必要になるものも、一緒に」
カースが、マンデイターIIの図を見たまま言った。
「以前なら、最初に艦橋の話をされたでしょうに」
「好きですよ。今も」
シーアは顔を上げた。
「でも、ここへ置くと言っても、まだ置けないんですよね」
「はい」
「それなら、先に計画を通さないと」
カースは、しばらく彼を見ていた。それから装備担当者へ、先行試験に必要な資料をKDY側でも追加すると伝えた。
その夜、シーアはハロルドの事務所へ、次の説明に必要な項目を問い合わせた。軍側の所見は局を通して提出する。その前に、委員会が何を比べようとしているのかを知っておきたかった。
最初に作った表題は、《次世代艦艇の任務別比較》だった。
シーアはそれを見つめ、上に一行を加えた。
《ネイビー・ギャップへの対応》
カッシオたちと確かめた集計条件は、本文へ残した。司法軍と地方防衛戦力は分け、企業側の保有艦と未引き渡しの発注分も分ける。数字は変えなかった。
それでも、最初に読まれる言葉は変えた。
ヴァントへ見せると、上級士官は表題で指を止めた。
「君も、これを使うのか」
「今、委員会が説明を求めている問題です。その中で、何が不足しているかを示します」
ヴァントは本文を読んでから、配布先を確かめた。表題を戻すようには言わなかった。
返事を待つ間に、アウレリアンへも連絡した。
ロジンの事務所からは、教育要員の共同要望を提出したという知らせが来た。差別発言の撤回を求める声明に署名した議員のうち、二人は、その要望にも名を連ねていた。
シーアは資料を受け取り、艦艇の設計試験についても説明の時間を求めた。今度は、誰がどの費用に賛成できるかを、先に確かめてもらうつもりだった。
*
C.R.C. 7952.068 共和国司法軍本部、運用局長室
「次の番組は、キャプテンとして出てもらう」
局長が言った。
シーアは、隣のヴァントを見た。上官も出るという意味かと思ったが、局長はシーアの名前が入った出演依頼を、こちらへ向けていた。
「僕が、ですか」
「司法上級士官への特別昇任を推薦する。人事局には、既に話をしてある」
シーアは書類を受け取った。今の階級は司法士官、ルテナント。一つ上がればキャプテンになる。それでも、任官してから、一年も経っていなかった。
「通常の選考では、次の期にも入っていません」
ヴァントが言った。
「承知している。だから特別枠を使う」
局長は広報から来た資料を開いた。先日の番組の視聴状況が、時間ごとの曲線で表示されている。シーアが図を指した箇所に印があり、その後には基地計画についての問い合わせ件数が並んでいた。
「若い王子が船の話をするだけなら、ルテナントでもよかった。だが、今は元老院議員やメーカーの理事と並べて出している。こちらの説明役にも、相応の箔を付けておきたい」
「番組のために?」
シーアが訊くと、局長は推薦書の方を示した。
「それだけを理由には書かん。演習での働きがあり、教育支援班の調整があり、基地計画の立案がある。評価する材料には困らない」
功績欄には、《全司法軍演習の統裁及び新たな展開構想の立案》とあった。
「演習を統裁したのは、僕ではありません」
「表現は直そう。統裁業務への貢献なら、間違いはないな」
「はい。ただ、同じ仕事をした人はほかにもいます」
「その者たちには、それぞれの推薦がある」
局長は言い終えると、広報担当から届いた日程へ戻った。次の出演予定日が強調され、その二日前までに肩書きの確認を求める文が付いていた。
ヴァントが推薦書の下段を読んだ。
「査閲局の勤務評価を、差し替えるわけではないのですね」
「元の評定はそのままだ。今回の貢献を特別功績として加える。人事局へ回す前に、日付と担当した範囲を確認してくれ」
局長は、既に決まっている作業を渡すように言った。
シーアの端末には、まだ空欄の発令日と、決まっている放送日が並んでいた。演習から戻った者たちの通常選考より先に、番組の進行表が置かれている。
「受けられない理由があるか」
局長に訊かれ、シーアは書類から顔を上げた。
あった。少なくとも、同じ勤務をした同期へ、この順番を公平だと説明することはできそうになかった。
しかし、一階級上がれば、部隊から資料を求める時にも、関係者への説明を担当する時にも違いが出る。今は王子として顔を覚えている者が多い。その相手に、司法軍の担当者としても扱ってもらえるなら、使えることは増える。
「……担当した範囲は、正確に書いてください」
「そうさせる」
局長は返事を待った。
「推薦は、お受けします」
言うと、局長は頷き、広報の連絡先へ承認の印を付けた。まだ人事局から発令されたわけではなかったが、番組側へは、肩書きの変更を予定してほしいと伝えるらしかった。
退出後、ヴァントは推薦書を自分の端末へ移した。
「共同で担当した者の名も、添付へ残しておく」
「お願いします」
上官は頷いた。祝いの言葉はなかった。二人はそのまま、スカリフの説明資料を直すために執務区画へ戻った。
*
C.R.C. 7952.078 コルサント、最高議長府
ターキンは、シーアが持ってきた資料の束を見て、最初の頁を開く前に訊いた。
「今日は、どれを先に決めさせたい」
シーアは、一番上の資料を自分の方へ引き寄せた。
「スカリフの実証です。艦艇の設計試験は、その次に」
「全部同じ席へ出せば、大きい数字の方が話題になる」
「分けて説明します」
ヴァントが、軍側の調整状況を補足した。司法省、施設部、現地政府。それぞれから条件付きの回答が届き、残っているのは、その条件を同じ実施命令へ収める作業だった。
ターキンは、スカリフの図へ目を落とした。
「現地の港湾契約は?」
「照合中です。試験用の係留位置については、現地当局から認めるという回答があります。商業施設の一部を使う条件には、まだ調整が残っています」
「連合が、そこを使うだろう」
「独立した輸送会社も手配できます」
「船会社を替えるだけで済むとは限らん」
シーアは頷き、港湾事業者との契約を別の表示へ出した。分かっていた。分かっていても、全てが終わるまで待てば、今回の搬入枠を失う。次の費用見積もりまで、また時間が掛かる。
もう一つ、考えていたこともあった。実物が届けば、未調整の項目は、いつまでも次回の会合へ送れなくなる。係留中の構造体をどうするかという具体的な判断を、関係者へ求められる。
先に置くことで、残りの決定を進める。それも、シーアが搬入を急いだ理由だった。
「構造体の搬入と、商業施設との接続工事を分けます。先にできるところから始めたいんです」
ターキンは図の中央にあるゲートへ触れた。惑星シールドとの接続は、今回の実証範囲の外に置かれている。
「連合は、この用途も持ち出す」
「使用しない機能は、協定にも明記します」
「できることが増えれば、しないという約束も増えるわけだ」
「その形で説明できるか」
「できます」
ターキンはヴァントを見た。上級士官が、実施案として局から提出すると答える。
最高議長との面会は、その後だった。
パルパティーンは、二人が室内へ入ると立ち上がった。シーアへ手を差し出し、演習後も忙しく働いていると聞いている、と言った。握手を終えて席へ着くまでの間に、彼は同席する担当者全員へ名前で挨拶した。
「教育要員の説明は、委員会でも役に立ったそうですね」
「部隊側から、追加の資料をいただけました」
「それを揃える者が必要だったのでしょう」
シーアは用意してきた説明を始めた。最初の一拠点。既存計画を利用する部分。新たに調整が必要な部分。試験の終了時に、何を報告するか。
パルパティーンは途中で口を挟まずに聞いた。説明が終わると、元老院へ再び諮る必要のある事項と、既に認められている範囲で実施できる事項を訊いた。
答えたのは、同席していた司法省の担当者だった。
最高議長はその説明を確かめ、実証段階の調整を進めるよう指示した。全銀河に及ぶ基地網の承認ではない。それでも、止まっていた部署間の作業に期限が入った。
「現地政府の同意条件は、添付から落とさないように」
パルパティーンは言った。
「共和国が約束を守るための計画であるなら、最初の約束から守っていただきたい」
シーアは頷いた。終わるはずだった面会で、次の資料を出すべきか迷った。
ターキンが、彼の手元へ目を向けた。
「艦艇の設計試験についても、運用上の整理があります」
シーアは二つ目の表を開いた。
パルパティーンは、三つの艦名を見た。驚いた様子はなかった。既に別の説明を受けているのだろう。
「こちらも、大きな仕事になりそうですね」
「今、何を始めなければならないかを分けました。全艦の発注を、今日決めていただくものではありません」
話しながら、シーアは一つ気づいた。
先ほどまで迷っていたのは、最高議長へ話しかけることではなかった。もう一件を、この面会で扱ってもらうだけの説明を用意できているかどうかだった。
パルパティーンは表を受け取り、次の予算協議へ回すよう秘書官へ伝えた。
部屋を出た後、ヴァントは廊下の端で足を止め、シーアに向き直った。
「次から、追加する議題は先に私にも言ってくれ」
「すみません」
「内容には反対しない。ただ、私が知らない案件まで、君に聞けば局の返事が来ると思われると困る」
シーアは謝り、面会記録へ追加した項目を書いた。
さっきまで、うまくいったと思っていた。実際、うまくいった部分はある。そのために、何を自分の判断で加えたのかも、書かなければならなかった。
翌日、特別昇任が正式に発令された。
司法上級士官。キャプテン。
辞令の功績欄には、演習と計画立案について書かれていた。番組の視聴状況は載っていなかった。
*
C.R.C. 7952.090 コルサント、ホロネット放送局
昇任から十一日後、シーアは新しい階級章を付け、もう一度スタジオへ入った。今度は施設部の技師も同席していたが、司会者が質問の初めに名前を呼ぶのは、いつもシーアだった。
「先日はルテナントでしたね。昇任、おめでとうございます」
「ありがとうございます」
シーアは正面のレンズへ顔を向けた。制服の胸元まで入るように、画角が変わった。紹介の字幕には、《キャプテン・ヴァラリアン》とある。
最初に出演してから、同じ映像が何度も使われていた。夕方のニュースでは短く、週末の番組では図と一緒に。新しく撮った説明も加わり、委員会への照会には、放送で見たという一文が付くようになった。今日は、打ち合わせの前から担当者がシーアの茶を用意していた。
「今度こそ、スカリフで始まるのですね」
「シールドゲートの搬入が認められました。接続工事には調整が残っています。そこを急いで、予定通り始めたいと思います」
「延期の可能性もある?」
シーアは、すぐに頷かなかった。ここで延期を前提に話せば、来週の予定へ移す者がまた増える。実施できるところまでは進めると、先に伝えたかった。
「船も、設備も、人も準備しています。合意した範囲で進めるべきだと考えています」
司会者は、その返事を待ってから搬入予定を表示した。画面の半分にシーアの顔、もう半分にスカリフへ運ばれるゲートが映った。
放送後、ロジンから短い通信が届いた。予定通りの実施を求める議員の書簡を出す、とある。シーアは礼を述べ、現地との協議事項を併記してほしいと頼んだ。
広報担当には、次回は現地から話せるかもしれないと伝えた。
*
C.R.C. 7952.102 コルサント、オルデラン代表部
ベイル・オーガナの晩餐会には、議場で見た顔が何人も来ていた。
シーアがアウレリアンと会場へ入ると、さっそく番組を見たと言われた。新しい階級への祝いもある。以前なら父や公国の近況を尋ねた相手が、今日は基地計画の続きを聞いてきた。
兄が別の議員に呼ばれて離れた後も、シーアの周りには人が残った。淡い銀髪と整った顔に目を留め、それから軍服の胸を見て、番組で聞いた名前を確かめる。彼は相手を紹介されるたびに挨拶し、資料を求められれば、公開版の送り先を訊いた。
「昇任、おめでとうございます」
ようやくグラスを受け取ったところで、後ろから声がした。
モン・モスマだった。隣には、主催者のベイルがいる。彼女の視線はシーアの顔では止まらず、新しい階級章へ下りた。
「番組の字幕で拝見しました。随分、お早いのね」
「ありがとうございます。辞令も出ています」
「でしょうね。字幕だけでは、軍服に付けられないもの」
シーアはグラスを持ち直した。モスマは微笑んでいる。先ほどまで挨拶していた客とは、祝っている場所が違うらしかった。
「議員にもお送りしましょうか。最近、ご説明するたびに、別の書類を求められるので」
「結構です。あなたの昇任理由まで調べ始めたら、基地の協定を読む時間がなくなりそうですから」
「そちらを先にお願いします。僕の人事より、待っている人が多いので」
ベイルが、グラスを口元へ持ち上げた。飲む前に笑ってしまい、いったん下ろす。
「まだ、乾杯もしていないんだが」
「お祝いを申し上げていたところです」
モスマが答えた。シーアも頷く。
「お礼を申し上げていました」
「そう聞こえるようには、二人とも話していたね」
ベイルは苦笑し、近くを通った給仕からモスマのグラスを受け取った。彼女は礼を言ってから、再びシーアを見る。
「今度は、スカリフから中継されるの?」
「許可が下りれば」
「新しい階級章、最高議長への説明、今度は自分の基地。番組の方も、次の題材には困りませんね」
「僕の基地ではありません」
「ええ。費用を出すのは共和国ですものね」
シーアは、返そうとした言葉を一度飲み込んだ。モスマはそれを見ていた。言い過ぎたと思っている顔ではなかった。
「費用を出していただくための説明です。議員のお時間が取れない時でも、放送なら見ていただけるので」
「見ていますよ。放送のたびに、未決定の計画が、既に動き始めた政策のように見える。その変化も」
「動かせるところから動かしています。説明だけで終わらないように」
「議場の外から、議場の決定を急がせるために?」
「急いでいただきたいことは、あります」
モスマは頷いた。そこだけは、問い詰める必要もなかったらしい。
「あなたの望む速さで決めないことも、元老院の仕事です」
「そのお仕事には、随分熱心でいらっしゃいますね」
「あなたが次々に増やしてくださるので」
ベイルが二人の間へ半歩入った。
「私としては、夕食までに一つくらい仕事を減らしてもらえると助かる」
「では、基地の協定を」
シーアが言うと、モスマがすぐに返した。
「合意した任務を広げる時の再協議。その条件を維持していただけるなら、読む箇所は減ります」
「維持します。先日の修正から変えていません」
「ロジン議員にも、そう伝えてください。あなたの説明を聞いているのに、彼の話を聞くと、違う計画へ賛成しているように思えるので」
「あの方の発言に、僕が全部責任を持つわけではありません」
「支持は受け取るけれど、説明は別々なのね」
「議員の賛同者は、皆、同じ理由で賛成しているんですか」
モスマはグラスへ目を落とした。口元の笑みは消えなかった。
「もちろん、そうではありません」
「それなら、議員はよくご存じでしょう」
ベイルは今度こそ飲み物を口にした。飲み終えるまで、何も言わなかった。
「私が心配しているのは、あなたがいなければ進まない、と皆が思い始めていることです」
モスマが言った。
「その期待へ応えるために、権限も艦も人員も集める。誰が止められるかを確かめようとすると、いつも、現地で待っている者がいると言われる」
「実際に、待っています」
「ええ。だから、その人たちを理由にすれば、何でも急がせてよいわけではないでしょう」
シーアは、会場の窓へ目を向けた。遠くの交通回廊を、定時運航の政府艇が横切っている。
「議員は、共和国が強すぎた場合の心配をなさる。僕は、来なかった場合の仕事をしています」
「来た後、帰らなくなった場合にも、誰かの仕事が必要でしょうね」
「帰る条件を書けばいい。それには反対していません」
「その条件より先に、シールドゲートが出発するのね」
「合意した範囲で運びます」
「その『範囲』が、次の番組で広がらないことを期待しています」
シーアは彼女へ視線を戻した。
「次には、議員にも出ていただけませんか。何を、いつまでに決められるか、同じ場で説明していただきたいので」
「出演者を決めるところまで、あなたの仕事になったの?」
「お願いしているだけです。お断りになる自由はあります」
「覚えておきます。あなたの計画にも、それが残るように」
「断った後、どうするかも伺いますよ」
「そうでしょうね。あなたは、私に黙って頷いてほしいのではないものね」
「頷いていただけるなら、かなり助かりますけど」
モスマが笑った。今度は短い声も出たが、返ってきた言葉は優しくなかった。
「次の昇任の功績欄に、私の説得まで加えなくて済みそうで安心しました」
「あの欄には、実績を書くことになっています。まだ載せられません」
「まだ、ですか」
「諦めた方がいいと?」
「いいえ。成果を急がず、丁寧に進めてください」
ベイルがグラスを下ろした。
「そこまでにしよう。これ以上続けると、君たちの挨拶に議事録を付けたくなる」
ちょうど、会場の係員が主催者を呼びに来た。ベイルは頷き、モスマへ席の方を示した。彼女はシーアへ会釈する。
「スカリフでのご成功を」
「ありがとうございます。戻りましたら、結果をご説明します」
「階級章より先に、そちらを拝見できると助かります」
モスマが離れると、ベイルはシーアを見た。苦笑いは、まだ残っていた。
「君も、よく返すね」
「黙っていると、認めたことにされそうだったので」
「モンも、同じことを言うだろうな」
ベイルは二人の席札が置かれた方を確認し、係員へ顔を寄せた。
「今夜の席は、予定通りでいい。少し心配になっただけだ」
シーアはその向こうを見た。モスマが隣の客と話しながら、こちらへ目を向ける。軽くグラスを上げられたので、同じように返した。
*
C.R.C. 7952.110 コルサント、共和国司法軍本部運用局
搬入工程の最終確認には、曳航隊とスカリフの港湾局も通信で参加した。
M3185の交換機器は取り付けを終え、輸送中に使う電力系統の試験も済んでいた。別便で送る物資には、現地の倉庫へ到着したものもある。シーアの画面には、出発する船と、既に目的地で待っている荷物が、違う色で並んでいた。
「接続工事の実施要領は?」
ヴァントが訊いた。
「地上側の荷役条件と、共用区画の管理者を調整中です。ゲートの搬入と軌道上での保全については、同意文書が揃っています」
施設部の担当者が、二つの文書番号を示した。曳航隊の指揮官は、今回の使用枠を外れた場合の次の候補日を送ってきた。設営要員の派遣期間まで動かす必要があった。
「全部決まるまで留める案も、出しておくべきだろう」
ヴァントの声に、シーアは未調整の欄へ目を戻した。
「費用は、どちらでも掛かります」
「運べば、向こうで待たせることになる」
「はい。ただ、搬入を止めれば、決まったところまで動かせなくなる。現地へ行って、残りを詰めたいです」
通信の向こうで、タリ・エンが頷いた。スカリフの港湾局次長だった。これまで何度も資料を送り合っているが、会ったことはない。
『こちらも、設営に合わせて人を出します。止める場合は、今日中に知らせてください』
シーアは担当者所見の欄へ、搬入を予定通り実施し、接続工事は協議成立後に着手すると入力した。待機が長引いた場合の費用も添えた。
ヴァントは最後まで読んでから、局長の決裁へ回した。
午後には、曳航隊へ命令が出た。予定表の《調整中》が、《実施》へ変わる。
シーアは自分の出張日程を開き、帰還日の欄を空けたまま提出した。