STAR WARS: STAR DESTROYER   作:あーくわいてんず

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栄転

C.R.C. 7952.155 コルサント、ヴァラリアン邸

 

 栄転、という文字を最初に見つけたのは、自分の送別会の招待状だった。

 

 シーアは端末を兄へ向けた。アウレリアンはその画面を見て、文章を作ったのは事務所だと答えた。

 

「兄上は確認したんでしょう」

 

「した」

 

「僕、階級は変わらないけど」

 

「艦隊司令部へ作戦参謀として赴任する。勤務先も職務も変わるだろう」

 

「コルサントから離したいから、とは書かないんですね」

 

 アウレリアンは招待者の一覧を閉じた。邸宅の小広間では、既に給仕がグラスを並べ始めている。弟が不満を述べたところで、二時間後には客が来る。

 

「書いて呼んでほしかったか?」

 

「別に、呼ばなくてもよかったのに」

 

「なら、お前が一人ずつ挨拶に回るか。あと何件残っている?」

 

 シーアは、未返信の連絡を思い出した。議員事務所、メーカー、司法省、番組制作部。出発前に十分だけでもと言われ、その十分のために移動と待ち時間が要る。

 

「……ここで会った方が早いですね」

 

「そういう会だ。私も、弟を送り出すのに都合がいい」

 

 そう言われると、もう断りにくかった。

 

 父はサーティネイニアンにいる。今朝の通信では、現地へ着いたら所属部隊の仕事を覚えろと言われた。何もするなとは言われていない。だからといって、何かしろとも言われなかった。その辺りが、いかにもアルドレンらしかった。

 

 兄が立ち上がり、シーアの制服へ目を向けた。

 

「その顔は、客が来るまでに直せよ」

 

「何もしてません」

 

「している。セレナが襟を直しに来た時と同じ顔だ」

 

 扉の向こうで、ちょうどセレナが足を止めた。

 

「今は曲がっていません。ご安心ください」

 

 シーアが襟へ触れると、二人とも笑った。

 

 *

 

 会が始まって三十分も経たないうちに、シーアは六回、栄転を祝われた。

 

 今度は現場で存分に。若いうちに艦隊を知るのはよいことです。首都で得た経験が役に立つでしょう。言い方はいろいろあったが、相手が自分の異動をどう受け取っているかは、その後の話の方によく表れた。

 

 後任の名前を尋ねる者。中断した案件の連絡先を確かめる者。次にコルサントへ戻る時にはぜひ、と言いながら、具体的な予定は訊かない者。

 

 以前のように、今週中にこの資料を持っていってほしいとは頼まれなくなった。

 

 その代わり、記念撮影は多かった。

 

「キャプテン、顎を上げないで。そのまま、こちらへ」

 

 邸宅から許可を受けて入った広報担当者が、壁際の明かりを調整した。シーアが顔を向けると、相手はすぐに撮影を始める。制服の階級章よりも、銀髪に光が当たる角度を気にしていた。

 

 出来上がった写真を見せてもらうと、自分はずいぶん楽しそうだった。滑らかな頬の輪郭も、伏せかけた目の表情も、実際に鏡を見る時より柔らかい。学院へ入った頃の写真とは違っていたが、軍務の厳しさを伝えるための写真には見えなかった。

 

「いいですね。新任務への期待が出ています」

 

「それ、僕が何も言わなくても書けるんですね」

 

 担当者は笑った。冗談だと思ったらしい。

 

 撮影が終わると、番組の制作担当者が近づいてきた。新しい勤務先でも映像を送れないかという相談だった。出発の挨拶に来たのだと思っていたので、シーアは一度、相手の顔を見直した。

 

「現地司令部の許可が必要です」

 

「もちろん、勤務の妨げにならない範囲で。私生活でも結構ですよ。食堂や居室、出勤するところなど」

 

「艦隊が何をしているかではなく?」

 

「そちらも入れたいのですが、まずは視聴者が親しみを持てる入口を」

 

 隣へ来たカッシオが、ちょうどグラスを持ち替えた。

 

「部屋を映すなら、模型は片づけておけよ。そっちの番組になる」

 

 制作担当者は、それもいいですねと本気で言った。シーアは正式な照会を広報へ出すよう頼み、今夜は引き受けなかった。

 

 相手が離れると、カッシオは手にしていた薄い包みを差し出した。

 

「餞別」

 

「何?」

 

「開けてみろ」

 

 中にあったのは、《アルマダ》の小型プレイマットだった。折り目に沿って畳むと端末より少し大きい程度になる。艦艇を入れる薄いケースには、ドレッドノート級とプロクラメイター級が一隻ずつ収まっていた。

 

「置けるかどうか、先に確かめろ」

 

「これなら置けるよ」

 

「前にもそう言って、俺の机を使っただろ」

 

 シーアは包み直す前に、模型の側面へ指を添えた。初めて一緒に買ったルクレハルクほど大きくない。赴任の荷物へ入れても、どれかを出す必要はなさそうだった。

 

「ありがとう。通信対戦できるかな」

 

「勤務が合えばな。今度は、お前の都合だけじゃなくなる」

 

「知ってる」

 

「なら、帰ってきた時でもいい」

 

 それで次に会う話が済んだことが、ありがたかった。

 

 ハロルド・タッグは、息子の少し後ろでアウレリアンと話していた。シーアが挨拶に行くと、司法委員長は教育支援班の報告が届いたと教えてくれた。

 

「君から照会のあった、指導員の追加枠です。次の派遣には間に合うそうですよ」

 

「全員ですか?」

 

「そこまでは。足りない職種も残っています」

 

 ハロルドは、件名を確かめるために開いた端末をシーアへ見せた。担当者の欄には、運用局で引き継ぎをした相手の名前があった。

 

「こちらへ追加で何か必要なら――」

 

「後任に聞きます」

 

 シーアが顔を上げると、ハロルドは穏やかに続けた。

 

「引き継いだばかりでしょう。最初の返事くらいは、その人から受け取りましょう」

 

 シーアは頷いた。自分の名前が外れた一覧をもう一度見てから、端末を返した。

 

 広間の反対側では、ヴァディム・ロジンが既に三人を相手に話していた。声を落とすことはあまり得意ではない。スカリフ、という言葉が聞こえ、シーアがそちらを向くと、すぐ手を上げられた。

 

「ちょうど本人が来た。私は今、その人事が説明に窮するものだと言っていたところだ」

 

「ご挨拶より先に、その話ですか」

 

「祝いはする。だが、基地を止めたうえに担当者まで首都から出すとは、企業にずいぶん分かりやすい褒美を与えたものだ」

 

 周囲の二人が、シーアの返事を待つ姿勢になった。ロジンはこういう場所でも、聞いている者を増やすのがうまかった。

 

「基地計画を凍結した理由と、僕の次の職務は、別に説明されています」

 

「君はその説明で満足したのか?」

 

「今夜、ここで人事への抗議を始めるつもりはありません」

 

「では、抗議は私が引き受けよう」

 

 断ったつもりの返事が、そのまま議員の役割を増やした。シーアは息を整え、委員会で尋ねるなら、現地の精算と保全費を先にしてほしいと言った。

 

「元の仕事を止めて、設営を手伝った人たちがいます。僕の配置を変えても、その人たちへの支払いは早くなりません」

 

「その資料を事務所へ送ってくれ。両方聞く」

 

 ロジンは引かなかった。シーアは最後には、照会先を送ることだけ約束した。

 

 その輪を離れたところで、司法軍の制服を着た男から声を掛けられた。

 

 オルネ・ヴェイド。人事局配置調整室長、司法佐官。直接仕事をしたことはなかったが、今回の説明に付いていた連絡先で名前を覚えていた。

 

「ご栄転、おめでとうございます」

 

 七回目だった。

 

「ありがとうございます」

 

「TF-4Bは、以前から本部との調整ができる人員を求めていました。経歴を拝見して、よい配置だと思いましたよ。査閲、演習、基地の整備計画。現地では、どれも役に立つ」

 

 ヴェイドはよく通る、落ち着いた声で話した。次の勤務への不安を抱えた士官を、何人も送り出してきたのだろう。異動の理由に触れず、新しい職務だけを説明する言い方だった。

 

「出発までに、足りない手続きはありませんか」

 

「今のところは。引き継ぎを終えてから出ます」

 

「赴任日を動かす必要があれば、早めにお知らせください。旅程も含めて、こちらで調整します」

 

 シーアが礼を言うと、ヴェイドは握手を求めた。広報担当者が近くにいたので、そのまま二人で写真に収まった。

 

「いい表情です。そのままでお願いします」

 

 シーアは言われた通りにした。

 

 *

 

 リヴィアが来たのは、料理の大皿が二度目に替わる頃だった。

 

 仕事で遅れたらしい。礼装のまま小さな鞄を持っており、シーアを見つけると、挨拶より先に皿へ目を落とした。

 

「何か食べた?」

 

「今夜は、みんな同じことを訊くね」

 

「その皿が空だからでしょう」

 

「さっき下げてもらったんだよ」

 

 彼女は疑わしそうだったが、目の前で新しい料理を取ると、それ以上は追及しなかった。会場の端へ並んで移り、カッシオが持ってきた包みを見せる。リヴィアは中を覗き、一つで済んだのねと言った。

 

「大きい方も持っていくの?」

 

「迷ってる」

 

「やめておいたら。まだ部屋を見ていないでしょう」

 

 シーアは反論せず、箱を閉じた。

 

 遅れて来た彼女は、栄転という言葉を使わなかった。気を遣っているのだと思ったが、異動の話を避けているわけでもない。出発日と、今週どこまで引き継ぎを済ませるかを尋ねてくる。

 

「一五七日の午後は?」

 

「本部へ行くのは午前中だけ。どうして?」

 

「会いたいの。いつものホテルで」

 

 シーアは彼女の顔を見た。リヴィアは空になった自分のグラスを給仕へ渡し、そのまま声を落とした。

 

「夕食の前に、時間を取っておいて。二時間くらい」

 

「そんなに?」

 

「仕事の話もあるから」

 

 横から近づいてきた客に気づくと、彼女は挨拶の表情へ戻った。シーアも身体を向け、新しい赴任先について、今夜何度目かの説明をした。

 

 しばらくして、ヴェイドがアウレリアンへ帰りの挨拶をしているのが見えた。リヴィアの視線も、そちらへ動いた。彼女はすぐに自分の鞄から端末を取り出した。

 

 シーアの予定表に、部屋番号が届いた。

 

 *

 

C.R.C. 7952.157 コルサント、ウスクル・ディストリクト

 

 今度は、夕食まで予定を空けて来た。

 

 昇降機の中でそう送ると、扉の前へ着くまでに返事が来た。

 

『覚えていたのね』

 

 開いた扉の向こうで、リヴィアが同じ言葉を言った。シーアが鞄を持ち直すと、彼女は部屋の奥へ通し、廊下を一度見てから扉を閉めた。

 

 前に来た時と同じホテルだったが、部屋は違った。窓に向けた長椅子と、小さな食卓。寝室との間の扉は閉まっている。窓際には仕事の端末があり、その横にカップが二つ並んでいた。一方にだけ、ミルクが付いている。

 

 シーアは自分の方を取った。

 

「今回は、会議?」

 

「それもある。今日は、あなたと落ち着いて話せる場所が欲しかった」

 

「ラウンジでは駄目な話?」

 

 リヴィアはポットを置くまで答えなかった。手元の端末を開き、表示範囲をテーブルの内側へ狭める。いつものように隣へ座ると思っていたので、向かいの椅子を引かれた時、シーアはカップを口へ運ぶのをやめた。

 

「その前に、どこまで聞いているのか教えて。異動の理由」

 

「ターキンさんから説明された通りなら、コルサントで進めすぎたから。TF-4Bは作戦参謀を必要としていて、僕の経験も使える。それ以上は聞いてない」

 

「自分では?」

 

 シーアは窓の外へ目を向けた。細い交通レーンが、隣の塔の向こうへ消えていた。

 

「スカリフで、先に設備を置けば話を進められると思った。その判断は間違えた。僕一人の決定ではなかったけど、賛成したのも、予定通り進められると説明したのも僕だ」

 

 そこまでは、もう何度も考えている。

 

「でも、今度は別の計画なら、と戻ってきたところで、首都には置かないと言われた。邪魔になったんだろうね」

 

「誰に?」

 

「議長府や運用局に。自分たちが決める前に、僕が話を大きくするから」

 

 リヴィアは画面を一枚、こちらへ送った。

 

「それだけではなかった」

 

 最初に見えたのは、人名だった。

 

 オルネ・ヴェイド。

 

 つい二日前、握手をした相手だった。シーアは名前の下へ続く数字を読んだ。日付、振込額、受取法人。六万クレジット。その後に、十八万。

 

「これ、何?」

 

「前金と、残金。支払い名目は組織再編に関する助言業務。受け取った会社は、ヴェイドの妻が持っている」

 

 シーアは画面から目を離さなかった。最後の振込は一五一日。自分が異動を告げられた翌日だった。

 

「親族の会社へ払ったことだけでは、収賄とは決まらないでしょう」

 

「そう。だから、その次」

 

 続いて開かれた資料は、金融仲介業者の業務通信だった。無関係な依頼人の名前は伏せられていたが、短い履行条件と、その添付資料は読めた。

 

 本部運用局常勤からの離任。

 

 議会連絡および広報業務の兼任なし。

 

 人事発令確認後、残金決済。

 

 添付されていたのは、アレクシアール・ヴァラリアンの勤務経歴だった。

 

 シーアは指で資料を戻した。名を読み直し、もう一度、入金日を確かめた。今度は、意味が分からないわけではなかった。

 

「……僕を異動させるために?」

 

「ヴェイドは、あなたを本部の常勤から外すよう、人事局内で働きかけていた。起案の履歴と、仲介業者への報告が一致している。受け取った金の一部は、彼自身が保証人になっていた借入れの返済に使われた」

 

 彼女はそこで説明を止め、シーアが次の資料へ進むのを待った。

 

 来歴の違う記録だった。人事局に残った推薦案と、仲介業者が依頼人へ送った業務報告。金融機関の入出金記録。その一つ一つが、自分の知らないところで、自分の名前を使っていた。

 

「誰が払ったの?」

 

「ハットのウルダンが支配している通商金融組合。そこから仲介業者へ、仲介業者から管理会社へ。最終の支払いは、別件で監督司法官が取得した帳簿と突き合わせて確認した」

 

 ハット。

 

 シーアはゆっくり顔を上げた。

 

「通商連合じゃなく?」

 

「この支払いは違う。スカリフの基地化を嫌がっていたのは、連合だけではないの」

 

 リヴィアは小さな輸送図を開いた。星図ではなく、船便と積み替え、荷主と運送会社の関係を示したものだった。中央のスカリフへ向かって、幾つもの契約がつながっている。

 

 シーアが港で見た業者の名前もあった。独立系と聞いていた会社の一つに、金融組合から融資が入っていた。所有者がハットというわけではない。しかし、荷物を一回運ぶたびに、決められた相手へ手数料を払っている。

 

「スカリフから、ハットの支配する星まで司法軍が攻め込むと思ったの?」

 

「そこまで行かなくていい。スカリフを使う取引があって、運ぶ船がある。船長から話を聞く司法官と、帳簿を照会する事務所がそこへ置かれるだけでも、困る相手はいる」

 

 リヴィアはスカリフ側の区画を拡大した。

 

 シーアたちが造ろうとしていたものが、列挙されていた。整備設備、常駐する連絡官、保全できる証拠品の収容区画。司法軍の艦艇が寄港し、短期の補修を受け、次の便を待たずに再び出ていくための施設。

 

「今なら、照会が届く頃には船が出ている。次の港へ頼んでも、相手の管轄や契約を調べている間に、また荷主が変わる。あなたたちが置こうとした人と設備は、その途中に入ってくる」

 

「巡察艦を直せるだけでも、嫌だったわけだ」

 

「ええ。あなたの番組は、向こうの代理人もよく見ていた」

 

 シーアは、自分が整備ユニットを指して説明した映像を思い出した。大型艦の就役を待たなくても、手元にある艇が動ける時間を増やせる。そう話した。誰に向かって話していたのかなど、あの時は考えなかった。

 

「融資を止めると言ったの?」

 

「港の業者には。更新されるはずだった信用枠を保留して、下請けには保安費が上がると通知した。基地ができると商売が難しくなる、と現地側からも言わせたかった」

 

「契約を止めたのが、全部ハットの指示だった?」

 

「全部ではない。通商連合は、自分たちの契約と権限を理由に動いている。星系政府の不安にも、実際の理由がある。その上に、金を出して反対を強めた者がいた」

 

 シーアは、書類の端を握ろうとして、指が光の中を通り抜けた。手を戻し、テーブルへ置く。

 

「計画は凍結された。なのに、僕まで外す必要があったんだね」

 

「あなたがコルサントに戻れば、委員長にもメーカーにも会える。凍結は、中止ではないでしょう」

 

 その通りだった。実際、シーアは帰還する前から、予算のうち何を残せるか考えていた。ゲートが軌道上にあるのだから、小さく始める方法はないか。整備設備が無理なら、連絡所だけでも先に。そういう案は、まだ何通りも作れた。

 

「人事局の一人を買えば、止められると思ったのか」

 

「止めやすくなる。反対する理由は、もう上の方にもあったから」

 

 シーアは椅子から立った。窓際まで歩き、戻ってきたが、すぐには座れなかった。

 

 自分を昇任させた局長。面会を取り次いだターキン。計画を引き継いでいるヴァント。顔が次々に浮かび、それをどこまで疑うべきなのか分からなかった。

 

「局長も知っていた?」

 

「買収に関わったという証拠はない。確認できているのは、ヴェイドと仲介業者、その資金を出した相手。今回の決裁に署名した全員が、金を受け取ったわけではないわ」

 

「でも、実際に僕は出される」

 

「そう」

 

 慰める言葉を付けなかったので、シーアも続きを待たずに済んだ。

 

 あの夜、ヴェイドは出発の日を動かすなら連絡してくれと言っていた。親切な言い方だった。手続きが滞らず、自分が予定通り首都を離れることには、相手の方にも都合があった。

 

「写真を撮ったよ」

 

 口にしてから、そんなことは資料に何も足さないと思った。それでも、リヴィアは顔を上げた。

 

「見ていた」

 

「栄転だって。よい配置だと思いました、と」

 

 リヴィアは彼のカップを手元へ寄せ、冷めた茶を替えた。シーアはようやく椅子へ戻ったが、差し出されたカップには触らなかった。

 

「これ、僕に見せていいの?」

 

「あなたに関わる部分を説明する許可は取った。原本は調査担当と監督司法官が保全している。受け取った要求や、個人的な働きかけに覚えがないか、こちらからも確認する必要がある」

 

「この部屋に呼ぶところまで?」

 

 リヴィアはそこで、一度だけ視線を下げた。

 

「話す場所は私が決めた。あなたを委員会へ呼べば、それだけで人事局へ伝わるかもしれない。……それに、誰かと一緒に説明したくなかった」

 

 シーアはそれ以上、場所の理由を訊かなかった。

 

 彼女が、時系列を確かめるための記録を開く。シーアはヴェイドと直接会ったのは一五五日の会だけだと答え、誰が招待したのかは兄の事務所で分かるはずだと付け加えた。勤務の変更を求めるよう、本人から金銭や便宜を持ちかけられたことはない。

 

 自分の送別会について、聴取を受けていた。

 

 返答を確かめて署名すると、リヴィアは仕事の画面を閉じた。シーアはその手が止まるのを待ってから、訊いた。

 

「今、公表したら?」

 

「ヴェイドの金が動いたことは話せるかもしれない。でも、誰が何を依頼したか、その原本を出すのはあなたではない。向こうにも、こちらがどの取引まで見つけたのかを教えることになる」

 

「黙って赴任しろ、という話?」

 

「人事への異議を出すことはできる。その場合も、調査記録を使うなら担当者を通して」

 

 リヴィアの声は落ち着いていた。そのために、シーアはかえって声を荒らげずに済んだ。ここで彼女へ怒ったところで、金を受け取った男に届くわけではない。

 

 黙って行けば、依頼人は金を払った甲斐があったと思うだろう。会見を開けば、その思い通りにはさせずに済むかもしれない。顔を映してくれる番組も、話を聞く議員もいる。

 

 だが、次に出る見出しは、スカリフの精算でも、航路保護の予算でもなかった。

 

 アレクシアール・ヴァラリアンが、不当な異動を訴えた。

 

 それを続けて報じてもらうために、また人を集め、資料を回し、会う相手を選ぶ。返ってくる要求も分かった。誰が裏切ったのか。最高議長は知っていたのか。自分をどの地位へ戻すべきなのか。

 

 シーアは端末を取った。ヴェイドと並んで撮った写真が、邸宅から届いた画像の中にあった。削除しかけて、やめる。代わりに、撮影時刻を付けて保存した。

 

「異動を戻せば、ここでまた仕事ができる。でも、向こうに参謀が必要なのは、本当なんだよね」

 

「人員の補充要求は、前から出ている」

 

「その要求まで嘘だったら、さすがに困る」

 

 リヴィアは、そこは確かだと答えた。

 

 シーアは自分の旅程を開いた。異議の申し立てを今夜中に作ることはできる。兄に相談すれば、明日の面会も取れるかもしれない。その手を使えば、同じ仕事を求めて待っている別の士官より早く、返事を受け取れるだろう。

 

「今夜は出さない。赴任の準備は続ける」

 

 そう言うのに、思っていたより時間が掛かった。

 

「でも、この件の説明は求める。調査を受け付けたことと、次に誰へ照会すればいいかは、正式に知らせてほしい。僕がコルサントを出たら、返事も終わり、というのは嫌だ」

 

「分かった。担当へ伝える」

 

 リヴィアが新しい記録を作る。シーアはその間、自分が署名した人事の受領書を見ていた。

 

 嫌だという気持ちは、何も減っていなかった。

 

 *

 

「もう一つ、話しておきたいことがある」

 

 リヴィアは仕事の端末を閉じず、別の区画を開いた。画面の上に、今度は見慣れ始めた名前が現れた。

 

 スティアガード泊地。

 

「行き先まで、ハットが決めたの?」

 

「仲介業者の記録で確認できる条件は、首都の常勤と議会・広報の仕事から外すこと。スティアガードへ送れ、という指示はない」

 

 シーアは、表紙の下へ続く件名を読んだ。補給契約。貨物保険。優先搬入。司法軍の関係する輸送も、一般の商業輸送も混ざっている。

 

「何かあるんだね」

 

「あそこは、きな臭い」

 

 リヴィアがそんな言い方をするのは珍しかった。分からないことは分からない、条件が足りなければ先に調べようと言う方だったから、シーアは画面へ身を寄せた。

 

 彼女は二つの一覧を並べた。左は泊地周辺の治安状況。右は同じ時期に保険会社へ出された貨物損失の申告だった。

 

「公式の海賊被害は減っている。ところが、貨物が途中でなくなったという申告は、あまり減っていない」

 

「事故や横流しなら、海賊ではないでしょう」

 

「ええ。ただ、同じ便について、荷主は武装した相手に積み替えを強制されたと申告しているのに、港側は受領者の変更として処理しているものがある」

 

 荷主の申告だけで正しいとは決められない、と彼女は付け加えた。保険金を受け取るために被害を大きく言う者もいる。港が扱った書類に不備がなく、別の場所で契約を偽造されていた可能性もあった。

 

 それでも、同じ説明が何件も続けば、確かめる必要がある。

 

「司法軍には、被害届が来ていない?」

 

「こちらに届いた報告では。現地の窓口で何を聞いたのかは、まだ分からない。照会すると、契約上の紛争を海賊事件へ数えるべきではない、と返ってくる」

 

 シーアは一覧を送った。一度は拿捕と記されていた貨物が、後の書類では、荷主都合による契約解除へ変わっていた。

 

 次にリヴィアが示したのは、司法軍向けの優先搬入証だった。

 

 整備部品、医療用原料、生命維持設備の交換品。民間の貨物より先に通す理由はあった。問題は、荷物のうち幾つかが、泊地の受領記録では見つからないことだった。

 

「基地の倉庫へ入る前に、整備業者へ渡しているのかもしれない」

 

 シーアが言うと、リヴィアは頷いた。

 

「その説明は来ている。だから、今は業者側の受領と、実際にどの艦へ付けたかを照会しているところ」

 

「返事は?」

 

「三社から、ほとんど同じ様式の回答が来た。会計を一つの会社へ委託しているからだそうよ」

 

 マルダン港務サービス。

 

 シーアはその社名を読んで、眉を寄せた。自分の端末から、着任前の案内を呼び出す。宿泊区画へ送る荷物と、部隊へ納入する資材の扱いがまとめて説明されていた。その末尾に、同じ会社の名前があった。

 

「ここ、僕の荷物も受け取ることになってる」

 

「基地の指定業者の一つだから」

 

 シーアは差出人を確かめた。TF-4Bの連絡担当者が送ってきた、正式な案内だった。着任前に個人の荷物を預けることまで、不自然ではない。

 

 途端に、その不自然でなさが気になった。

 

「案内を送った人も、関係していると思う?」

 

「それは分からない。日常の手続きを説明しただけかもしれない」

 

 リヴィアは、金融組合の図と泊地の契約一覧を、一つにはつながなかった。資金の流れを追えば、さらに先へ行けるかもしれない。しかし、同じ業界の取引があることと、同じ犯罪を行っていることは違う。

 

 シーアは、二日前まで誰が栄転を祝ったかなど気にもしていなかった。それが今は、荷物の送り先一つで、その案内を書いた人間まで疑いたくなっている。

 

「行く前に、みんな悪い人みたいに考えたくないな」

 

「私も、全員を疑えと言っているわけじゃない」

 

「うん。でも、考えてしまう」

 

 リヴィアは返事をせず、彼が開いた案内を一緒に読んだ。

 

 窓口の担当者には名前があり、内線番号があり、不明な点は連絡してほしいと書いてあった。シーアはまだ、その人物の声さえ聞いていなかった。

 

「整備ユニットの件は、カースさんに相談してる。スカリフへ出せなかったものを、あちらで使えないかと思って」

 

「貸してもらえるの?」

 

「条件を照会しているところ。向こうから来た設備の表だけでは足りないって。電源と係留区画、それから、直せないまま待っている艇の一覧が要る」

 

「どこへ頼んだ?」

 

「司令部の連絡担当。補給部から返事をもらうことになってる」

 

 リヴィアの指が、画面の端で止まった。

 

「返ってきたら、元の記録と比べてみて。まとめた表だけで決めない方がいいと思う」

 

「艇を見れば、動くかどうかは分かるよ」

 

「直した代金を払っていたら?」

 

 シーアは顔を上げた。

 

 演習では、同じ熟練者を幾つもの班へ回していた。書類の上では、どの班も課目を終えていた。あの時は、何もないところへ数値を作ったわけではなかった。実際にできる人間が、何度も同じ仕事をした。

 

 今度の表にも、たぶん一つ一つには説明が付く。請求書があり、検収の署名があり、それでも艇が動かないなら、誰かが別の説明を加える。

 

「……分かった。着いたら、整備担当者に直接聞く」

 

「一人で犯人を決めないでね」

 

「作戦参謀として行くんだよ。捜査官じゃない」

 

「分かってる」

 

 その返事は、すぐだった。

 

 シーアは案内を保存し直した。受け入れの説明を送ってくれた相手への返事も、途中のまま残っている。赴任前から探るような文章を書くのはやめた。必要な図面と整備記録を、もう一度、項目をそろえて依頼する。

 

 リヴィアは、送信を終えるまで黙っていた。

 

「ありがとう」

 

 シーアが言うと、彼女は顔を上げた。

 

「僕、何も知らないまま行くところだった」

 

 リヴィアはカップの持ち手へ触れ、少し位置を直した。

 

「全部が分かったわけじゃないから」

 

「それでも、聞いてよかった」

 

 *

 

 端末が震える

 

 リヴィアはベットから手を伸ばし端末を見た。19時だった。給仕を頼むためのパネルへ手を伸ばし、食事の時間を十五分遅らせてほしいと連絡する。同時に起きたシーアはようやく、テーブルの端に置かれたメニューに気づいた。

 

「今日は下へ行かないの?」

 

「ここへ運んでもらうつもり。嫌?」

 

「嫌じゃない」

 

「なら、決まり」

 

 連絡を終えると、リヴィアはベットから起き上がる。そして縁に座り、今度は、シーアに隣へ座るように促す。

 

「怒ってる?」

 

「怒ってるよ」

 

「私に?」

 

 シーアは驚いて彼女を見た。

 

「どうして?」

 

「せっかく来てもらったのに、嫌な話ばかりしたから」

 

「それでリヴィアに怒ったら、次から教えてくれなくなるでしょう」

 

 彼女は笑わなかった。シーアは持っていた端末を鞄へしまい、ようやくリヴィアの隣に腰を下ろす。

 

「二日前も、笑ってたんだよ。あの人の隣で」

 

「見ていたって言ったでしょう」

 

「うん。だから、今日はもういいかなって」

 

「何が?」

 

「感じよくしているの」

 

 リヴィアの口元が、そこで緩んだ。

 

「最初から頼んでない」

 

 彼女はクッションを取り、彼の脇へ押し込んだ。シーアが礼を言うと、その手を引く前に、指先を握られた。

 

 どちらから話すでもなく、しばらく窓の外を見ていた。運ばれてくる料理を待つだけの時間だった。シーアは、今夜のうちに返さなくてもよい連絡を頭の中で数え、一つずつ後へ回した。

 

「最初の休暇、いつになる?」

 

「着いてから。向こうの勤務表をまだ見てない」

 

「では、分かったら教えて」

 

「予定を空けておくの?」

 

「空けられるか、調べる」

 

 必ず会えるとは言われなかった。その返事の方が、今は信じられた。

 

 食事が届くと、二人でテーブルを空けた。リヴィアが皿の位置を直し、シーアは最後に残っていた仕事のホロシートを渡した。彼女はそれを閉じ、机の上の身分証の下へ重ねた。

 

 食事の最初は、カッシオの餞別の話をした。自分の艦を貸すと言いながら、いちばん使い慣れた編成を残している、とシーアが言うと、リヴィアは帰ってきた時に負けたくないのだろうと答えた。

 

「セリアも、出る前に一度会いたいって」

 

「一六〇日なら、夕方は空いてる」

 

「四人で合わせてみる。あなたが遅れたら、先に食べるからね」

 

「最近、そればかり言われる」

 

「実際に食べないからでしょう」

 

 シーアは抗議する代わりに、皿へ手を伸ばした。

 

 ヴェイドの顔は何度か浮かんだ。そのたびに、無理に追い払おうとはしなかった。リヴィアが話している時にはそちらを聞き、言葉が途切れれば窓を見る。食事を終える頃には、明日の朝から何を確かめるかだけは決まっていた。

 

 帰り際、彼女は扉のところまで見送りに来た。

 

「今度は、いつもの四人で」

 

 シーアが言うと、リヴィアは頷いた。

 

「部屋の寸法が分かるまでは、誰も大きな箱を買わないようにしておくわ」

 

「僕はまだ買ってないよ」

 

「まだ、でしょう」

 

 シーアは笑った。扉が開く前に、もう一度、彼女の手へ触れた。

 

「今日は、来てよかった」

 

 リヴィアは彼の顔を見てから、気をつけて帰ってね、と言った。

 

 *

 

同日 二二時一〇分 コルサント、ウスクル・ディストリクト

 

 シーアが出ていった後、リヴィアはしばらく扉の前に立っていた。

 

 廊下を歩く足音は、もう聞こえなかった。窓から下を見ても、彼の乗った車両を見分けることはできない。

 

 食器を下げてもらい、部屋に給仕がいなくなってから、仕事の端末を開いた。机の上に置いていた身分証を読み取らせる。接続先は、保安委員会の担当部署だった。

 

 主任の顔が現れた。その隣には、別の回線が既に開いている。

 

「説明は終わったか、セリン分析官」

 

「はい。本人からの聴取も記録しました。異動への異議は、今夜の時点では申し立てないと。予定通り赴任する意向です」

 

 主任は頷き、記録を自分の方へ送るよう求めた。

 

「先方も聞いておられる」

 

 隣の回線の表示が広がった。最高議長府の執務室だった。卓の脇に立つターキンと、椅子に座ったパルパティーンが見えた。

 

 リヴィアは姿勢を正した。

 

「最高議長。ターキン閣下」

 

「遅い時間にすまないね」

 

 パルパティーンは、手元にあった文書を閉じた。

 

「彼は、買収の件をどう受け取った?」

 

「怒っています。人事局だけでなく、決裁した上官がどこまで関与したかを気にしていました」

 

「当然だろう」

 

 ターキンが言った。

 

「調査への協力は?」

 

「応じました。ただし、首都を出た後も回答を受け取れるよう、正式な窓口を求めています」

 

「設けてください」

 

 パルパティーンは主任へ言った。

 

「我々の都合で知らせた以上、彼の疑問にも答えなければならない。捜査に支障のない範囲で」

 

 主任が承知したと答える。リヴィアは、昼に見せた資料とは別のファイルを開いた。

 

 司法軍人事配置に関する参考意見。

 

 作成日は、一四五日だった。

 

 本文にはTF-4Bの補充要求が添えられ、候補者の一人として、アレクシアール・ヴァラリアンの名が記されている。起案部署は共和国保安委員会。金融・商業調査部門の所見には、リヴィア自身の署名があった。

 

 彼女は、スティアガードに誰かを送る案を知っているだけではなかった。

 

 その候補にシーアの名が挙がった時、適任だと書いたのは自分だった。

 

「配置の選定については?」

 

 ターキンが訊いた。

 

「委員会と議長府から推薦が出ていたことは、伝えていません。ハット側の要求で確認できるのは、首都の常勤から外すことまでだと説明しました」

 

「それでよい」

 

 ターキンは人事案の履歴を呼び出した。ヴェイドが最初に用意していたのは、後方の教育部隊への配置だった。本部から離れ、元老院への説明も番組出演も引き継ぐ。依頼人が求めた条件は、それで満たせた。

 

 その案をスティアガードへ変えたのは、ヴェイドではなかった。

 

 保安委員会から来た参考意見を受け、ターキンがTF-4Bの要望と勤務経歴を照合した。最終的にその配置を承認したのは、最高議長だった。一四八日。シーアへ説明する二日前のことだった。

 

「ヴェイドは、変更について何か?」

 

 リヴィアが訊くと、主任が答えた。

 

「異論を出していない。首都の常勤から外れ、兼務もなくなる。それ以上、特定の赴任先へ固執する理由を説明できなかったのだろう。仲介業者にも、条件は達成したと報告している」

 

 その報告を受け、残りの十八万クレジットが支払われた。

 

 依頼人は、コルサントから厄介な士官を遠ざけることに成功したと思っている。買われた室長も、自分の働きかけで人事が動いたことには満足しているはずだった。

 

「ヴェイドの件は、この配置とは別に進める」

 

 ターキンが言った。

 

「追加の記録も司法官へ渡せ。彼が任務を果たしたからといって、受け取った金の説明が不要になるわけではない」

 

 主任が提出予定を示した。家族企業の会計記録と借入れ返済の経路を固め、仲介業者への捜索の順番を調整している。リヴィアは、その話が終わるのを待った。

 

「スティアガードへ正規の調査員を送る案は、変わらないのですか」

 

「必要な裏付けが揃えば送る」

 

 主任が答えた。

 

「前回は、司法省からの照会が倉庫業者へ先に届いた。現地へ人を入れた時には、対象の荷物も、受領担当者も別の契約へ移っていた。どこから情報が出たのか、今も確定していない」

 

「彼も、目立ちます」

 

「目立つからよい」

 

 ターキンは言い、候補者の所見へ目を戻した。

 

「送り先へ来るのは、首都で計画を進めすぎた若い作戦参謀だ。こちらが別の目的で配置を選んだとは考えにくい。少なくとも、査閲団の先触れには見えない」

 

「現地が、彼の前でだけ帳簿を整えたら?」

 

「整えるために何を動かすかは、委員会が追える。彼が自分の仕事をすれば、艦を動かすための物資と、代金を払った記録の両方を見ることになる」

 

 リヴィアは、自分が書いた所見を見た。

 

 査閲局勤務。演習評価。調達・施設整備の調整経験。元老院司法委員会、KDY、司法省本部への照会を継続できる人的関係。

 

 どれも事実だった。シーアが部屋で話していたように、直らない艇を見れば、整備担当者へ聞きに行く。そこで話が止まれば、請求と検収を確かめる。回答が来なければ、本部へもう一度照会する。

 

 それを見込んで書いた。

 

「首都に置けない理由も、撤回したつもりはない」

 

 ターキンは続けた。

 

「彼には、部隊の仕事を覚えてもらう。自分の決定のために誰が待ち、誰の手を借りるのかを、毎日同じ相手と働きながら知る必要がある。その配置に、こちらの別の目的も合った」

 

 パルパティーンはしばらく聞いていたが、そこでリヴィアへ顔を向けた。

 

「彼へ警告することには、反対する意見もあったね」

 

「はい。何も知らせない方が、普段通り行動するという意見でした」

 

「君は、知らせるべきだと書いている」

 

「自分の異動に金が動いたと、現地の業者から聞かされる方が危険です。こちらが知っていて黙っていたと分かれば、その後の照会にも応じなくなるかもしれません」

 

「それだけかね」

 

 穏やかな問いだった。リヴィアは画面の向こうの目を見た。

 

「赴任先で、誰の用意した説明を信じていいかも分からず働かせたくありません」

 

 言ってから、自分の前に開いている参考意見が目に入った。

 

 パルパティーンは追及しなかった。

 

「君が直接話してくれてよかった。警告だけでは、相手を疑うことに気を取られる。普段の彼を知る者の説明なら、受け止め方も違うだろう」

 

 褒められているのだと、リヴィアは理解した。

 

 彼の隣へ座ったことも、冷めた茶を替えたことも、この男が指示したわけではない。食事の予約も、帰ってきたら会おうと言ったことも、自分がしたかったからだった。

 

 それでも、シーアが警告を信じ、予定通り赴任すると答えた結果は、今、仕事の報告になっている。

 

「現地からの照会を、補給系統の中だけに戻さないでください」

 

 リヴィアは言った。

 

「本人には作戦参謀として勤務させるのですから、調査に必要な情報かどうかの判断まで任せるべきではありません。通常の報告を受け取る側で照合する担当を、先に決めてください」

 

 主任が頷いた。既存の連絡担当へ丸ごと返すことはせず、委員会が関係記録を継続して照合する。その体制は、赴任前に整えると答えた。

 

「危険が明らかになった場合は?」

 

「調査のために任務を続けさせるとは決めていない」

 

 ターキンが言った。

 

「君も、報告を遅らせるな」

 

「承知しました」

 

 最高議長が礼を述べ、回線が閉じた。

 

 部屋に戻ってきた静けさの中で、リヴィアは椅子から立たなかった。仕事の端末には、まだ二つのファイルが開いていた。今日、シーアと一緒に読んだ支払い記録と、一四五日に自分が起案へ加えた所見。

 

 私用の端末が鳴った。邸宅へ戻ったという短い連絡だった。次の行には、一六〇日の夕方は空けたから、カッシオとセリアに聞いておいて、とある。

 

 リヴィアは、分かったと返した。

 

 それから仕事の画面へ戻り、面談結果を入力する。本人の説明、追加の照会、署名を添えた聴取記録。赴任予定に変更なし。

 

 最後に、開示した資料の一覧を確かめた。

 

 配置先の選定経緯を示す参考意見は、そこへ加えなかった。

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