STAR WARS: STAR DESTROYER   作:あーくわいてんず

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スティアガード

C.R.C. 7952.165 拡張領域、ウーストリ・セクター

銀河平面座標M-16 リムマ・トレード・ルート、スティアガード星系

 

 客室の案内表示が入港予定を告げた時、窓の向こうでは、通商連合のミュニファスント級が貨物船団を連れて出ていくところだった。

 

 長い船体の腹側を小型輸送船が横切り、その後ろへ、さらに三隻が続く。連合艦から離れた連絡艇が最後尾の船へ近づいた。しばらく並走してから戻っていくのを、シーアは座席へ膝をつかないよう気をつけながら見ていた。十七歳になっても、小さな窓から下を見るには、姿勢に工夫が要った。

 

「接岸まで、お席へお戻りください」

 

 振り向くと、乗務員が通路に立っていた。シーアが素直に座り直すと、相手は窓の向こうを見て笑った。

 

「護衛便です。あちらは出発なので、こちらの入港には影響ありません」

 

「いつも、あそこへ集まるんですか」

 

「連合の便は。司法軍の船団は別の待機域です。乗り継がれるのでしたら、到着後に御案内できますが」

 

「いえ。今日から、こちらで勤務します」

 

 乗務員は、膝の上の制服へ目を落とした。襟の階級章を見てから、顔へ戻る。その間に、名前まで分かったらしかった。

 

「失礼しました。番組で——」

 

「いまは、ちゃんと座っていますよ」

 

 相手が笑い、接岸の揺れに備えるよう言い添えて通路を戻っていった。シーアは上着へ腕を通し、窓の下に広がる軌道施設を見た。

 

 スティアガードの港は、一つの建造物ではなかった。惑星へ降りる貨物を扱う施設、幹線へ戻る船へ補給する施設、修理のために船体を固定する長い架台が、離れたり連絡橋でつながったりしながら軌道上に並んでいる。司法軍宇宙基地は、その一角を占めていた。軍の標章のある係留区画へ向かうまでに、定期輸送船は二度、管制を引き継がれた。

 

 荷物を抱えて到着口へ出ると、迎えの士官が台車の脇に立っていた。

 

「ルテナント・トマ・ラスクです。TF-4Bの連絡を担当しています」

 

 敬礼を返し、シーアが名乗る。ラスクは受領票の氏名と本人を照合したが、隣の荷役員はそれより先に頷いていた。後ろから随員が降りてこないことを確かめ、手荷物を二つ、台車へ載せる。

 

「先送りのお荷物は居住区へ入れてあります。こちらも同じ部屋へ」

 

 マルダン港務サービス。

 

 社章を読んだ時、リヴィアがホテルの机へ並べた書類を思い出した。受領票の番号を確かめ、署名する。荷役員はその場で控えを渡し、荷崩れを防ぐ帯を締め直してから去っていった。手続きには、何もおかしなところはなかった。

 

「司令官への挨拶の前に、通行証を作ります」

 

 ラスクに案内された窓口には、シーアの登録写真が既に出ていた。広報用に撮ったものだった。正面からの照明を弱め、銀髪の輪郭へ別の光を当ててある。番組の担当者には、肩まで入れたものより、この写真の方が画面の隅へ置きやすいと言われていた。

 

 窓口の女性は写真と本人を見比べ、撮影機の電源を入れた。

 

「帽子を取って、そちらへ。前髪も目に掛からないように」

 

「これでは駄目ですか」

 

「綺麗には撮れていますけれど、通行証なので」

 

 平らな照明の下で撮り直すと、画面に現れた顔は驚くほど無愛想だった。頬の白さも銀髪も隠れないが、相手の方へ顔を傾けて話を聞いている時の、あの親しみやすい表情がない。

 

「笑った方がよかったですか」

 

「結構です。夜中の当直でも確認できれば」

 

 ラスクが笑ったので、シーアも諦めた。受け取った通行証には、長い本名と、司法上級士官の資格、許可された区画が記されている。公子という肩書はなかった。

 

 それでも、通路へ出て三十歩も進まないうちに呼び止められた。

 

「ヴァラリアン公子ですよね」

 

 若い荷役員が、同僚に背中を押されて立っていた。番組を見ていたこと、弟が学院へ行きたがっていることを、一息に話す。最後に写真を頼まれ、シーアはラスクへ時間を確かめた。

 

「一枚なら」

 

 男は端末を同僚へ渡し、隣へ立った。シーアが顔を向けると、最初は緊張していた肩が下がる。撮影が済んでから、弟の受験がいつなのかを尋ねた。来年だという。

 

「では、まだ準備できますね。僕は廊下で迷ったので、見学はしておいた方がいいです」

 

 男が笑った。シーアも会釈して歩き出し、角を曲がったところで、ラスクに言われた。

 

「制服を見て気づいたのではなさそうですね」

 

「髪を隠せば、多少は」

 

「先ほどは、帽子を被っていらっしゃいました」

 

 シーアは返事をやめた。通行証だけは、ここにいる他の士官と同じ大きさだった。

 

 *

 

 第4B任務部隊司令官、司法代将カレル・ドーヴァンの机には、着任辞令より先に三通の照会が届いていた。

 

 一通は泊地司令部から。今回の補充に、査閲局の任務が付随するか。二通目は港湾委員会から。スカリフの施設計画と、ヴァラリアン上級士官の赴任との関係について。三通目は基地の補給部で、前任地から整備設備が移管される予定の有無を尋ねていた。

 

「通常の作戦参謀の補充だと答えた。間違いはないな」

 

「ありません。設備については、技術条件を照会しただけです」

 

「では、それも同じ回答でよい」

 

 ドーヴァンは三通を脇へ寄せた。シーアを試すような口調ではなかった。自分の部隊へ何が来たのか、まず確認している。

 

 隣にいた女性士官が勤務表を差し出した。参謀長のコマンダー・サリス・ロウ。シーアが開く間に、彼女は一七六日の欄を拡大した。

 

「次の船団護衛を担当してもらいます。配置案と船団側との調整。出港時には《ケストレル》へ乗り、艦長の下で連絡を担当してください」

 

 表示へ所属艦が並ぶ。旗艦のプロクラメイター級《アテンダント》。ドレッドノート級《タリスマン》《コンスタンシー》。コレリアン・コルヴェットの《ケストレル》《リフト》《ハリアー》。六隻のうち二隻は任務で泊地を離れ、二隻には整備と検査の予定が入っていた。

 

「《コンスタンシー》が戻れば、次の配置に余裕ができます」

 

 シーアが言うと、ロウはその横の人員表を開いた。検査を受けるために機関担当者を呼び戻し、その担当者が手伝っていた別の艦から、今度は代わりを求められている。

 

「艦長の話は、一通り聞いてください。その後で、この表へ戻ります」

 

「承知しました」

 

「君がコルサントへ連絡すれば、動く話もあるだろう」

 

 ドーヴァンが椅子へ背を預けた。

 

「使える連絡先を使うなとは言わん。ただし、何を先にするかは、こちらで決める。私の知らないところで、来月の入港予定が組み替わっていては困る」

 

 スカリフの名は出なかった。シーアは頷いた。

 

 人事に金が動いたという話も、ここではしなかった。保安委員会への照会番号は私用の端末に残っている。どこまで調査が進んだのかは、まだ回答待ちだった。いま机の向こうで自分を見ている二人が、その件を知っているのかも分からない。

 

 ロウが次の予定を示したので、シーアは仕事の端末へ目を戻した。

 

 明日の朝から艦を回る。午後には港湾庁との打ち合わせ。一七六日までの日付が、自分の知らない人々との約束で埋まっていった。

 

 *

 

C.R.C. 7952.166 スティアガード泊地

 

 翌日の午前中だけで、シーアは五つの照会番号を渡された。

 

 部品の納入日を確かめたい者も、検査員がいつ来るか知りたい者もいた。《コンスタンシー》の機関担当者は、これまでの返信をまとめた資料を渡し、最後の回答が三週間前だと教えてくれた。

 

「君なら、どこへ聞けばいいか分かるだろう」

 

 表紙の隅には、カースの名が書いてあった。

 

「メーカーの判断を待っているものと、司法軍側で予算を付けるものを分けます。理事に頼めば全部済む話ではありませんから」

 

「どちらが止めているのか分かるだけで助かる」

 

 その隣の士官は、説明を終えるたびに、持ち帰る記録を確認させてほしいと言った。訪問先と照会事項を記した予定表を見せても、最後まで口頭の不満を資料へ加えなかった。通路へ出てから、シーアは自分が来る直前には閉じられていなかったらしい作業日誌を思い出した。

 

 午後、ロウの机で五つの照会を並べ直すと、三つが同じ技術班を必要としていた。別々に聞けば、どの艦の希望日ももっともだった。全部へ間に合わせるには、その班を二つに分けなければならない。

 

「増員で来た機関員は?」

 

「います。ですが、この検査に署名できる者は増えていません」

 

 ロウは資格の欄を示し、シーアが希望日を直すのを待った。その作業が済んだところへ、港湾庁のミリア・フェンがやってきた。

 

 彼女の持参した施設図では、シーアが整備ユニットの仮設先に考えていた区画が、夜間荷役用の色で塗られていた。

 

「昼間は空いていましたが」

 

「夜に入ってくる貨物のために、昼間は空けています。常設の機材を置けば、そちらの契約を変えなければなりません」

 

「移す費用の見積もりは取れますか」

 

「取れます。その前に、今ある請求の支払い先を決めていただきたいんです」

 

 施設図の隣へ未精算の明細が出た。シーアが本部運用局へ移るより前の日付がある。岸壁の給電設備、軍用貨物のために移動させた民間船、夜間に増やした警備員の給与。どれも、軍艦が増えた時には誰かが引き受けた仕事だった。

 

「港湾委員会からは、巡察の増加を求めていたと聞いています」

 

「求めました。来てほしくなければ、契約も結びません」

 

 フェンは明細を一つ選んだ。

 

「この港には、通商連合との保安契約もあります。司法軍が来たので明日から半額にしてください、とは言えない。共和国への拠出と、従来の契約と、工事費が重なっています」

 

 シーアは、番組で使った整備計画の図を思い出した。完成後の拠点があり、そこから艦が出ていく。工事の間、民間船をどこへ移すかという図は使わなかった。聞かれなかったから、説明しなかった。

 

「既存の軍用区画の中なら、条件は変わりますか」

 

 ロウが尋ねると、フェンは二か所を示した。一方は配管の延長が必要で、もう一方には《コンスタンシー》が入っていた。シーアは検査員の予定を再び開いた。

 

 退出の前に、フェンは整備ユニットの資料を指した。

 

「これについて、最高議長府から何か指示が来ていますか」

 

「いいえ。貸与できるか、条件を確認しているところです」

 

「元老院への説明も?」

 

「こちらへの貸与については、まだありません」

 

 彼女は頷き、その回答を記録した。

 

「こちらにも、問い合わせが来るんです。公子が来た以上、次は設備が来るのだろうと」

 

「私が来たことと、貸与の決定は別です」

 

「その説明も、書面に入れてください」

 

 彼女が出ていった後、シーアは資料の表紙から、スカリフで使っていた計画名を外した。中身を読めば、あの基地を移す案ではないと分かる。しかし、表紙だけで連絡してくる人間もいるのだった。

 

 *

 

C.R.C. 7952.167 コルサント、共和国元老院

 

 アウレリアンが委員会室へ入った時、十二代表団の共同要求には、まだ通称がなかった。

 

 表紙には、基地協定に伴う追加負担と未精算経費に関する照会、とある。長い名前だった。本文の半分は金額と契約番号で、その後ろに、今後の常駐部隊や専用区画の拡張について、地方政府の明示的な承認を求める条項が付いていた。

 

「個別の精算は、各担当部門で進めています」

 

 司法省の説明員が答えると、ミーナ・ボンテリは、受け取ったばかりの文書を閉じた。

 

「同じ回答を、全代表団が持っています。連名でお持ちした理由も、それです」

 

 隣にいたコレリア代表、ガーム・ベル・イブリスが、地方保安戦力の維持費を表示させた。共和国への拠出に加え、自前の艦と基地にも支出がある。そこへ共同事業の負担を上乗せするなら、共和国側が引き受ける任務を明確にすべきだという。

 

「自前の戦力を減らせばいいのでは?」

 

 委員席から声が上がった。

 

「代わりの艦が、いつ来るかを示してください。来る日が決まれば、こちらも考えられます」

 

 ベル・イブリスは相手の方を見たまま待った。説明員が資料を送っている間に、ローディアのオナコンダ・ファーが発言を求めた。

 

「私のところでは、減らせる艦の話をするほど余裕がありません。次の輸送計画を組むために、護衛の予定が欲しい。それも、この共同照会へ入っています」

 

 同じ文書へ署名していても、求めているものは違っていた。地方の艦隊を手放したくない者と、そもそも来る艦がない者。アウレリアンは、共通条件と個別要求を分けた手元の一覧へ書き加えた。

 

 司法委員長ハロルド・タッグは、省側へ精算の期限を求めた。ダリオ・グレッシュも、それを支持する。

 

「共和国自身が契約を守らなければ、相手に義務を求める根拠まで傷つく。ただし、未払いがあることを理由に、既存の法執行を止めてよいとは考えていない」

 

「その点は、区別していただきたい」

 

 ボンテリが、追加承認の条項を示した。

 

「私たちが留保しているのは、新しい義務の受け入れです。現に結んでいる協定を、ここで破棄すると言っているのではありません」

 

「同意できる部分まで、本国へ持ち帰る必要があるのか」

 

 ロジンが訊いた。ボンテリの向こうに座る議員が、自分の端末を持ち上げた。

 

「あります。地方議会から訓令を受けています」

 

「君をこの議場へ送った意味がないだろう」

 

「私を送ったのは、あなたではありません」

 

 複数の席から声が上がる。ハロルドが発言順を整理している間に、年配の議員が一枚の明細を拡大した。

 

 ヴェッロだった。使い込まれた端末の縁に、補修した跡がある。会議のために持参した紙の控えも、裏面へ別の決算資料を印刷したものだった。

 

「この請求は、昨年度の予算で執行済みになっています」

 

 騒いでいた席が静まった。

 

「地方は受け取っていない。司法省は払ったという。なら、どこまで払ったのかを示していただきたい。事業の必要性を、もう一度説明されても、その間のクレジットは見つかりません」

 

 説明員は、元請け業者への支払いと、現地事業者への精算が別であると答えた。

 

「では、その先も調べてください。元請けがタッグ家の系列でも、ほかの企業でも同じです」

 

 ハロルドは表情を変えず、契約別の提出を命じた。ヴェッロは確認を取ると、次の請求へ印を移した。ロジンの方は見なかった。

 

 休会前の発言を求めたのは、ベイル・オーガナだった。

 

「当面の支払いを解決することに、異論は少ないはずです。そのうえで、追加の負担を決める手続きについても協議を続けたい。声を上げた星系が、この議場で答えを得られるようにする必要があります」

 

 彼は、分担金の配分と、地方政府との協議を並行して進める修正案を送った。アウレリアンも起案へ加わったものだった。精算を待つ間に、その先の議論まで止まらないようにする。

 

「共和国から星系を切り離していく分離主義ではなく、加盟星系がここにとどまる理由を取り戻す改革を。私たちが進めるべきなのは、そのための協議です」

 

 ベイルは説明を続けた。修正案への質疑には、ボンテリもベル・イブリスも加わった。三つの項目について担当者が決まり、一つは法制部門へ戻された。

 

 休会になると、アウレリアンは精算だけを先に採決できないか、ボンテリへ持ちかけた。

 

「支払いを待っている港には、それで説明できます。追加の承認条項は、別の日程で審議を」

 

「精算を進めていただけるのは助かります。ただ、金を受け取ったから次の条件にも同意した、とは扱われないようにしてください」

 

「案文へ入れます」

 

 彼女は頷いた。そこへ、胸元に細い鎖を掛けた男が近づいてきた。白髪を整え、声を掛ける前に、二人の話が切れるのを待っていた。

 

「ラクサスのシン議員です」

 

 ボンテリが紹介した。

 

「アヴィ・シンです。ヴァラリアンの名は、こちらでもよく聞いております」

 

 アウレリアンは握手を返した。相手の代表資格を確かめると、端末の星図が銀河の外側へ動いた。

 

 ラクサス星系。アウター・リム、ティオン覇権領、銀河平面座標S-5。ペルレミアン・トレード・ルートから接続航路をたどる先にあり、シンの地元は、その星系に属するラクサス・セカンダスだった。

 

「弟の番組を御覧に?」

 

「もちろん。ただ、今日はあなたの修正案の話をしたい」

 

 シンは、アウレリアンが示した精算の条項へ指を置いた。

 

「これが通れば、何人かは故郷へ良い知らせを送れます。その後も、ここで話を続ける理由になる」

 

「そのつもりで出しました」

 

「ええ。ですから、急いでいただきたい」

 

 声は穏やかだったが、儀礼的な激励ではなかった。ボンテリの補佐官へ連絡先を渡し、シンは次の会合へ向かう。アウレリアンは席へ戻り、修正案の採決を求める賛同者へ、一人ずつ連絡を始めた。

 

 *

 

C.R.C. 7952.168 スティアガード宇宙基地、第三整備区画

 

 《リフト》の補機は新しかった。周囲の配管が古いせいで、塗装の違いが余計に目立っていた。

 

 シーアは取り外した保護蓋を跨ぎ、整備主任ダスの横へ入った。デュロス人の主任は、狭いところへ入ってきた士官の肩を押し、頭上の突起から離した。

 

「そこへ立つと、振り向いた時に当たります」

 

「ありがとうございます。この補機は、一六二日に検収が終わっていますね」

 

「単体試験は。記録を出しましょうか」

 

 シーアは、自分の持つ整備一覧を見た。艦名、交換部品、検収完了。出港を妨げる別の問題があるのだと思って来た。

 

 ダスが開いた試験記録には、艦へ組み込む前の負荷が並んでいた。

 

「納入の検査ですか」

 

「購入したのは補機ですから。これを受け取った後、船に付ける工事が残ります」

 

 シーアは端末を下ろした。

 

「読み違えました。艦の修理が完了したものと」

 

 ダスは彼を見てから、仮止めになっている継手を照らした。過去の改修で配管の位置が変わり、付属の部品がそのまま使えない。工事会社から届いた図面は改修前のもので、現物を測り直していた。

 

「これを作れば、つながります。材料の使用可否をメーカーへ聞いていますが、返事が来ない」

 

「受信番号はありますか」

 

「あります。二度目の催促も」

 

 番号を受け取りながら、シーアはホテルで聞いた話を思い出した。補給記録がおかしい。荷物がどこへ行ったか分からない。そう聞いて来たから、目の前の違いにも、その説明を当てはめかけた。

 

 主任が困っているのは、自分が思っていた問題ではなかった。

 

「既に出した照会の続きとして、司令部から回答を求めます。別件を起こすと、最初から確認されるかもしれません」

 

「そうしてもらえると助かる」

 

 ダスは作業台へ戻った。荷役員が持ってきた箱を開けさせ、品番を読み合わせてから受領欄へ署名する。その手順を見ていると、シーアに必要な接続条件を読み上げるよう頼んだ。

 

「端末を持っているなら、手伝ってください。私の方は、ここを押さえます」

 

 シーアは袖をまくり、言われた位置へ立った。相手の手が塞がっている間、表示を送る。三つ目の数値で訊き返され、拡大して読み直した。

 

 作業が終わる頃には、制服の袖口が汚れていた。ダスはそれを見て布を渡したが、写真を撮ろうとは言わなかった。

 

 *

 

C.R.C. 7952.170 スティアガード宇宙基地、港湾共用区画

 

 昼食の皿を半分ほど空けたところで、地元の部品商が話しかけてきた。

 

 以前どこかで会ったかと尋ねると、初めてです、と答えた。彼の端末には、シーアの着任記事が開かれていた。帽子から出る銀髪だけなら、似た者もいるだろう。だが顔を上げて相手を見た瞬間、男の表情は確信に変わった。画面の中で何度も見た目元と、白い頬の輪郭が、そのまま目の前にあった。

 

「公子に来ていただけるとは。この港も、しばらく忙しくなりそうですな」

 

「もともと忙しい港だと思いますが」

 

「ええ。ですが、軍の仕事は別です。設備の受け入れについて、我々にもお話しできることがあるでしょう」

 

 事業者との懇談へ来てほしいという誘いだった。シーアは司令部を通すよう頼んだ。男は当然だと頷き、それでも顔を見せていただくだけで話が進むと付け加えた。

 

 少し前なら、その効果を喜んで使ったかもしれない。いまも、集まらなかった事業者が集まるなら悪いことではないと思った。だが、誰が出席したかで設備の受け入れを判断されると、フェンとの打ち合わせからやり直しになる。

 

「説明する内容も、担当者と合わせます。私が来たことだけで、貸与が決まったとは受け取らないでください」

 

 男は笑顔を保ち、連絡先をラスクへ渡して去った。

 

 シーアが食事へ戻ると、今度は隣の卓にいた女性が声を掛けた。地域ニュースの経済欄を担当しているという。

 

「スカリフの構想を、こちらへ移すのでしょうか」

 

「既存の部隊を支援する設備について、条件を確かめています。新しい拠点の建設を決めるために来たのではありません」

 

「ですが、公子御自身がメーカーとの連絡を?」

 

「仕事の一部です。設備の判断は、司令部と基地の担当者が行います」

 

 記者は答えを記録した。否定した部分だけを都合よく消したりはしなかった。ただ、その次に訊いたのは、いつ司令部が判断するかだった。

 

 ラスクが正式な照会先を渡し、ようやく二人で食べられるようになった時には、温かかった料理も冷めていた。

 

「普通の参謀も、食事中にこれくらい話しかけられますか」

 

「請求を急いでほしいとは言われます。最高議長の構想を持ってきたのか、とは聞かれません」

 

 シーアは苦笑してカップを取った。壁の表示に、着任記事が流れている。

 

 《スカリフ構想の推進者、スティアガードへ》

 

 大きく使われていたのは、到着の日に荷役員と撮った写真だった。相手へ顔を向け、笑っている。銀髪が通路の照明を受け、通行証の写真よりずっと柔らかく見えた。隣にいた男は、肩の端しか残っていない。

 

 記者からの正式な質問は、その日の午後に届いた。港湾委員会も、着任の挨拶を希望していた。シーアは同行者を含めて司令官へ相談し、食事中には約束しなかった会合を、勤務予定へ加えた。

 

 *

 

C.R.C. 7952.171 コルサント、サーティネイニアン代表部

 

 アウレリアンは、精算条項の賛同者をあと二人集めなければならなかった。

 

 一人は、支払いを先にすれば地方側が基地協定の協議へ戻らなくなると考えていた。もう一人は賛成していたが、本国から承認の通信が来ない。回線がつながるのを待っている間、補佐官が壁面の番組を大きくした。

 

「司法軍の説明です」

 

 画面に弟の姿はなかった。

 

 コマンダー・ベルント・オース。後方業務と本部勤務の長い士官で、シーアが担当していた艦艇更新や基地整備の説明を引き継いでいた。航路図を前に、建設中の施設と稼働済みの施設を分けて話している。数字に迷うところがなく、質問されれば資料の該当箇所をすぐ示した。

 

 番組も、今回は顔より図を長く映していた。アウレリアンは、最初の数分を聞く限りでは、悪い人選ではないと思った。

 

『では、地方政府が新しい基地協定へ同意しない場合、その航路の増強は遅れるわけですね』

 

『当然です。施設も補給契約もない場所へ、予定通り艦を置くことはできません』

 

『既にその地域へ住んでいる人の救難にも、影響しますか』

 

 オースは図から目を離した。

 

『協力している地域と、協力を拒んでいる地域を、いつまでも同じ優先順位で扱うことはできないでしょう』

 

 アウレリアンは、通信待ちの表示へ伸ばしかけていた手を止めた。

 

『確認します。基地がないために到着が遅れる、という説明ですか。それとも、同じ条件で救難要請があっても、協定へ反対した地域を後にする、ということですか』

 

『優先順位の判断には、地域側の協力も考慮されるべきだということです。救難だけ切り離して、共和国に責任を求めることはできません』

 

 進行役は資料を置いた。

 

『海賊に襲われた船や、事故に遭った住民についても?』

 

『住民も、自分たちが選んだ政府の方針には責任があります』

 

 補佐官が、小さく息を吸った。

 

 進行役はもう一度、司法軍の公式な方針なのかと尋ねた。オースは、実務を担う側の認識だと答え、有限の戦力を配分するには協力した側が報われなければならないと続けた。

 

 誰かが声を重ねて聞き取れなくなったわけでも、長い回答から一部分を抜き出されたわけでもなかった。問いは三度、確かめられていた。

 

 番組の下部に、いま口にした言葉が字幕で現れた。

 

 《司法軍説明官「住民も政府の方針に責任」》

 

 通信待ちだった議員から、承認は保留になったと連絡が来た。理由はまだ分からないという。アウレリアンは返答を短く済ませ、司法委員長室へ回線をつなぐよう頼んだ。

 

 四十八分後、司法軍本部は、救難の優先順位を地方政府の政治姿勢によって変更する方針はないと発表した。最高議長府も、その説明を支持した。

 

 夕方の取材で、ロジンは両者の声明とは違うことを言った。

 

「言い方は悪かったでしょう。だが、分離主義的な要求を突きつけながら、保護だけは従来通りというのも、随分と虫のいい話ではありませんか」

 

「既存の協定を破棄した星系があるのですか」

 

「破棄するまで何も言うなと? いまは追加分を拒み、次には既存分を拒む。どこまで譲れば納得するのか、こちらからも聞くべきだ」

 

 その後の質問には、共和国側の未払いは処理すべきだと答えた。だが、支払いの話より、前の発言の方が長く放送された。

 

 ロット・ドッドは、通商連合との保安契約では依頼者の政治的な意見を審査していないと述べた。

 

「我々が確認するのは、契約した業務と、その履行です」

 

 ニモーディアンの代表が、あのナブーの後でそれを言うのか。アウレリアンはそう思った。それでも、今日の番組でその言葉を使う機会を与えたのは、司法軍の側だった。

 

 夜、放送局の担当者から弟への出演依頼が届いた。辺境へ赴任した今なら、現場に近い声として説得力があるという。

 

「非公式でも結構です。以前お話しになった、公平な保護について——」

 

「弟の出演予定は、代表部では決めません。司法軍へ照会してください」

 

 電話を切ってから、アウレリアンは声明案の署名欄を開いた。ベイルとモスマから回ってきた、政治的な意見による救難の差別を否定する文書だった。賛同する旨を送信すると、机へ伏せていた精算条項を取り直した。

 

 今朝は、あと二人だった。

 

 そのうち一人の名前に、確認待ちの印を戻した。

 

 *

 

C.R.C. 7952.172 スティアガード宇宙基地

 

 翌朝の最初の仕事は、各艦へ救難基準の再確認を送ることだった。

 

 《政治的な意見、所属星系の協定協議の状況を、救難の可否および優先順位の判断要素としてはならない》

 

 新しい基準を作ったのではない。以前からの基準が、そのまま有効であることを、各艦長が受領確認した。シーアは六隻分の返信をまとめ、ロウへ提出した。

 

 港湾庁からは、別の文書が来ていた。

 

 既存の給電、給水、緊急入港の契約は継続する。一方、新たな専用区画の提供については、支払い主体と期間、民間利用へ戻す条件を契約に明記するまで承認しない。

 

「急に決まったんですか」

 

「協議していたものです。昨日、文面を揃えました」

 

 フェンは、近隣の六つの港も同じ書式を採用したと説明した。シーアがスカリフで使おうとした汎用整備ユニットは、まだ誰の区画にも降ろせなくなった。

 

「同意しないことが、保護を断る理由にならない。それも入れます」

 

「本部からの通達を添付します」

 

「通達では変えられない契約に、したいんです」

 

 フェンは怒鳴らなかった。司法軍に出ていけとも言わない。今日も軍艦へ給電しながら、次に貸す区画の条件を増やしていた。

 

 午後の地元局は、《外縁星系で強まる分離主義的傾向》という見出しで基地協定の協議を伝えた。オースの映像に続いて、シーアがコルサントで整備拠点の必要を説明していた頃の映像が流れた。発言者の名も撮影日も付いていたが、前任者と後任者が同じ政策の別の面を説明しているようには見えた。

 

 港湾庁から、シーア自身の考えも確認したいと連絡が来た。

 

「前の出演で説明した内容は撤回しません。拠点は必要です。ただ、協定の賛否を理由に救難を断つべきだとは考えていません」

 

 回答を広報の担当へ渡した後、シーアは一七六日の護衛計画へ戻った。今日だけで、自分の名が入った説明を四つ確認している。艦の配置は、朝から一つも進んでいなかった。

 

 *

 

 出発を八時間遅らせれば、《ハリアー》を加えられた。

 

 ロウが示したもう一つの案では、《ケストレル》だけで予定通りに出港する。六隻の民間船に対し、一隻のコルヴェット。現在の脅威評価では、護衛基準を満たしていた。

 

「《ハリアー》を早く戻すことは?」

 

 シーアの問いに、ロウは巡察報告を開いた。登録を確かめられなかった船が、補給航路の近くで二度確認されている。攻撃の報告はない。しかし、そのために始めた警戒を、何も分からないまま切り上げる理由もなかった。

 

 民間船側の予定を開くと、八時間の延期で乗り継ぎを失う船が二隻あった。荷役の予約を取り直さなければならない船は三隻。出発する前から、こちらが遅らせた分の費用が発生する。

 

「予定通りで提案します」

 

 シーアは《ケストレル》の航程へ指を置いた。

 

「単艦護衛の基準を満たしています。途中で救難任務へ移った場合は、この管制待機域へ船団を入れます。港湾側の救難艇と、民間の保安契約も照会します」

 

「待機域は、もう一隻の護衛艦にはならん」

 

 ドーヴァンが言った。

 

「はい。航路から外れて位置を把握しやすくするだけです。長い待機になる場合は、別の護衛への引き継ぎを調整します」

 

 艦長のゼーンも案を確認し、ドーヴァンが承認した。出発時刻は変わらなかった。

 

 翌日の説明会には、六隻すべての船長が出席した。《セトラ》の船長は、予定通りなら間に合うと言った。年配の女性で、冷蔵貨物の納入時刻を何度も確認する。

 

 シーアは、司法軍艦が緊急救難へ移る可能性を説明した。待機する場所と連絡先も示す。代替の護衛については、その時の配置に応じて調整すると伝えた。

 

「追加料金は、こちらへ来ますか」

 

「民間との新しい契約になれば、その可能性があります」

 

「事前に金額は分からない?」

 

「船と契約によります。いま確約できる会社はありません」

 

 船長は手元へ書き込み、出港時刻の欄へ戻った。シーアも、説明を済ませたものとして確認を付けた。

 

 夜、部屋へ戻ると、カッシオから短い通信と模型の発送通知が来ていた。

 

『プロクラメイターの新しい拡張。部屋に入る大きさか、今回は確かめた。実物の艦隊まで分けすぎるなよ』

 

 シーアは苦笑し、港で保管してもらうよう返信した。リヴィアからは食事をしたかと聞かれていたので、夕食の写真を送る。しばらくして返事が来た。

 

『料理じゃなくて、お店の名前も残して。次に行った時、探すから』

 

 シーアは食堂の正式名称を調べた。補給棟第二食堂。送ると、笑っている顔の小さな表示が返ってきた。

 

 端末を閉じる前に、明日の予定を確かめる。一七六日の出発に向けて、艦長との最終確認が入っていた。

 

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