STAR WARS: STAR DESTROYER   作:あーくわいてんず

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並走

C.R.C. 7952.181 スティアガード星系、南方第三航路標識付近

 

 最初に見えたのは、プロヴィデンス級の艦首だった。

 

 細長い船体が星明かりを遮り、その後ろへ大きな機関部が続いている。艦の周囲には、随伴する小型艇の航法灯が散っていた。左舷後方にレキューザント級が一隻。もう一隻は、離れた場所から船団の後尾へ近づいている。

 

 《コンコーダット》《ワーデン》《インデムニティ》。三隻の識別信号は、出港前に受け取った届出と一致していた。

 

 シーアは光学映像を拡大した。三隻とも通商連合の標章を付けているが、登録上の所有法人は二つに分かれている。同一区域の保安契約に基づく共同運用として、認証を受けていた。

 

「契約船団、十一隻。先行していた護衛艇二隻が離れます」

 

 管制席から報告が上がった。

 

 貨物船が三隻の大型艦の間へ入り、間隔を詰める。レキューザントの一隻が外側へ回った。「保安訓練を兼ねた護衛行動」という届出どおり、実際の商船を伴っていた。

 

「撃つための配置にも、守るための配置にも見えますね」

 

 シーアが言うと、ゼーンは映像から目を離さずに答えた。

 

「護衛なら、必要になれば撃つ。砲がこちらを向いたかどうかを見ていろ」

 

 《ケストレル》は、船団の外側を航行していた。後方には《タリスマン》がいる。ドレッドノート級の艦影は心強かったが、その向こうにいる三隻を同時に見てしまうと、艦の大きさについて余計なことを考えたくなった。

 

 ゼーンは前方の大型艦へ挨拶を送り、所属と識別、任務を確認させた。定められた項目を読み上げる返答は、早かった。

 

 《タリスマン》からは、当初の計画を継続すると連絡があった。二隻で外縁積み替え港へ続く航路を巡察し、その途中で、企業艦の配備と活動範囲を確かめる。通商連合の船がいることだけを理由に、商船を止める任務ではなかった。

 

 航法士が次の変針点を示した時、通信士の手が止まった。

 

「港湾管制から、新しい安全通報です」

 

 星図の一部が橙色に変わった。

 

 南方第三航路標識を挟む、長い区域だった。両艦が申告済みの進路は、その中を通っている。

 

「本日一〇時から一六時まで、保安船団の引き継ぎ訓練に伴う交通調整。区域内へ進入する官公署船舶は、港湾管制との事前調整を要する」

 

 シーアは時刻を見た。九時三十三分。

 

「出港前の通報には、その条件はありませんでした」

 

「追加です。承認者は港湾委員会」

 

 ゼーンが、《タリスマン》と司令部へ同じ資料を送るよう命じた。艦の針路はまだ変わらない。

 

 シーアは基地使用協定を開いた。指定された出入域航路について、共和国艦艇の通常航行は認められている。事故、工事その他の安全上の必要により、管制側が一時的な調整を行うこともできる。

 

 「その他」に保安訓練が含まれるのかは、書かれていなかった。

 

 *

 

 管制局から、承認番号の付いた文書が返ってきた。船団の引き継ぎに使う安全区域と、受託事業者による配置調整は、前日に承認されている。官公署船舶にも事前調整を求めるという通知だけが、今朝、加わっていた。

 

 両艦の航行計画は、昨日の夕方に受理されている。

 

「それなら、受け付けた時に言えるでしょう」

 

 シーアは言ってから、送信用の回線が開いていないことを確かめた。

 

 ゼーンは気にせず、航法士へ迂回した場合の所要時間を求めた。立体図が傾き、区域の上方を回る経路と、船団の後ろを大きく回る経路が現れる。

 

 宇宙全体が塞がれているわけではない。だが、区域の向こうには民間船が集まる航路の合流点がある。そこへ通常と異なる方向から入るには、別の交通流との調整が必要だった。

 

「短い方で五十七分増し。指定時刻の変更が通れば、です」

 

 シーアの端末へ、参謀長のロウから回答が入った。

 

 通常航行の権利は維持される。訓練実施を妨げず、経路について調整せよ。危険な接近を避け、強行通過は行わないこと。

 

 コルサントから来た命令ではない。《アテンダント》にいるドーヴァンが決め、送ってきた指示だった。

 

 《タリスマン》の艦長が、二隻をいったん減速させると告げた。

 

「船団の引き継ぎが済めば、通れるのか」

 

 ゼーンが管制へ尋ねた。

 

『六時間の訓練枠として承認されています。個別の通過については、現地の配置担当と協議してください』

 

「その配置担当が、通商連合なのか」

 

『受託事業者です。管制権限そのものを移したわけではありません』

 

 シーアは、画面の隅にある船団の表示を見た。十一隻の貨物船は停止していない。中央の通行帯を、一隻ずつ抜けている。

 

「通常交通は続けていますね」

 

 ゼーンが頷いたので、シーアは次の資料を開いた。

 

「《タリスマン》まで同時に入れる必要はありません。《ケストレル》だけ、ここを通過させてはどうでしょう。事前の航行計画を維持したまま、船団の引き継ぎを外側から記録できます」

 

「分ける理由は」

 

「二隻で入れば、訓練を妨げる接近だと言われます。一隻なら、通行帯を塞がずに済む。相手にも通す理由ができます」

 

 ゼーンは、《タリスマン》からの距離を測った。

 

「通さなかった場合は?」

 

「境界の手前で止まります。通過そのものを認めないなら、その回答を記録して戻る。船で押し合うところまでは行きません」

 

 相手が断ることは想定していた。だがシーアは、商船が通っている場所で、共和国のコルヴェット一隻だけを止め続ける方が難しいとも考えていた。

 

 ゼーンはその案を《タリスマン》へ送り、許可を求めた。間もなく、同じ条件で実施するという返答が来た。

 

 一〇時〇七分。《ケストレル》は単艦で進んだ。後ろのドレッドノート級が、表示の中で遠ざかっていく。

 

 *

 

『共和国司法軍《ケストレル》。こちら《コンコーダット》、保安運航責任者。貴艦の予定進路は、訓練中の配置と競合する』

 

 ホロ表示に、ニモーディアンの女性が現れた。司法軍の制帽を見て相手を選ぶような間はなく、最初からゼーンへ話しかけてきた。

 

「昨日受理された進路だ。通常交通の通行帯を使用する。訓練艦の間を抜けるつもりはない」

 

『貴艦の目的は、当社の保安活動の監視と承知している。一般商船と同一には扱えない』

 

「だから、港湾管制へ知らせている」

 

『その管制当局が、調整を求めている。指定の待機点を使われたい』

 

 表示に点が一つ加わった。《タリスマン》よりさらに後ろだった。

 

 シーアはゼーンへ資料を差し出した。訓練計画の付図には、商船用の通行帯が残されている。その幅と、《ケストレル》が必要とする航行余地を重ねる。

 

「ここなら、今の配置を変えずに通れます」

 

 ゼーンは図を送り、提案を繰り返した。

 

 相手は同意しなかった。代わりに、船団の後方にいた《ワーデン》が動き始めた。

 

 レキューザント級の長い艦首が、こちらと同じ方向へ回る。中央の船団から離れた巨艦は、《ケストレル》の右舷前方へ入り、速度を合わせた。

 

「《ワーデン》、並走に移ります」

 

 航法士の声に、ゼーンが前方表示へ目を向けた。

 

「距離を維持。針路変更は告知しろ」

 

 《ワーデン》へ送った通信には、受信確認だけが返った。

 

 シーアは艦の位置を見た。相手は衝突する進路にいない。だが、このままなら、《ケストレル》が使おうとしていた通行帯の入口を、横に並んだ状態で通り過ぎる。

 

 そこへ曲がれば、大型艦の進路を横切ることになる。

 

「避ければ、入口から外される」

 

 ゼーンは答えず、速力を一段落とした。《ワーデン》も減速する。急な動きではなかった。どの操作にも、安全に反応するだけの時間があった。

 

 その分だけ、こちらも何度でも選び直せた。譲るのか。減速するのか。後方へ回るのか。

 

「相手は、こちらの申告進路を見ています」

 

 シーアが言った。

 

「見せたからな」

 

 ゼーンは港湾管制を呼んだ。《ワーデン》の動きと、現在の通行帯を示し、接近調整を求める。

 

『当該艦は、承認された区域の警戒を実施しています。司法軍側で待機点への移動をお願いします』

 

「こちらの通常航行を止める命令か」

 

『当局は、安全な交通整理を求めています』

 

 返答と同時に、《コンコーダット》から小型の機影が離れた。

 

 ヴァルチャー・ドロイド。最初の編隊が船団の上へ出て、二つに分かれる。続く編隊は、《ワーデン》の外側へ回った。

 

「戦闘機、展開」

 

「火器管制は」

 

「捜索波のみ。照射の分類は変わっていません」

 

 砲術士が、シールド配分の変更を求めた。ゼーンが許可すると、艦内の表示が変わり、後方から隔壁が閉まる音が届いた。

 

 この数日、救難班の出入りのために開いていた扉だった。

 

 シーアは手元の文書を閉じ、両艦と船団の予測位置を一つの画面へ移した。まだ条文を読む時間はあった。読んでいる間にも、接近する艦の距離は短くなった。

 

 《タリスマン》が支援可能な位置へ前進すると通報してきた。向こうの艦橋では、《ケストレル》が巨大なレキューザントの脇へ押し付けられていくように見えているのだろう。

 

 シーアにも、同じ位置関係が見えていた。

 

「待ってください。《タリスマン》がそのまま来ると、十一隻の船団の針路と重なります」

 

 ゼーンが予測線を確認し、《タリスマン》へ送った。

 

 民間船は、前方の通行帯を抜けつつあった。彼らの航行計画は変わっていない。その後ろへ戦闘艦二隻が入り、周囲にはドロイド機が出ている。

 

 右舷前方で、《ワーデン》の艦首がさらにこちらへ寄った。

 

「六分後に、規定の安全間隔を下回ります」

 

 航法士が報告した。

 

 ゼーンは、相手に針路変更を警告する通信を送らせた。企業艦からは、司法軍側が指定点へ移れば解消されるという答えが来た。

 

 六分。砲を撃てば、もっと早く状況を変えられる距離だった。

 

 シーアは、《タリスマン》と自艦の間へ退避進路を引いた。これを使えば、入口まで戻ってくる頃には、船団の引き継ぎは終わっている。近接した状態で配備を確認する予定も、外縁の巡察時刻も崩れる。

 

 最初の案を出した時、自分は、ここで相手が引くだろうと考えていた。

 

 引かなかった。

 

「艦長。左舷後方へ離隔できます」

 

 ゼーンが彼を見た。

 

「通過は」

 

「今日は、この経路では行けません。《タリスマン》へ寄せて、区域の外から追います」

 

「相手の待機指示に従ったことになるぞ」

 

「指定された点は使いません。安全確保のための針路変更として、異議を同時に送ります。ただ、通れなかった事実は残ります」

 

 ゼーンは図へ目を落とし、それから《タリスマン》へ同じ案を送った。

 

 表示された時刻が、また一つ進んだ。

 

 《タリスマン》の艦長から許可が返る。ゼーンは操舵を命じた。

 

「左舷へ変針。相対距離を開く。《ワーデン》へ通報。こちらは衝突回避のため離隔する。航行制限の適法性を認めたものではない」

 

 《ケストレル》が回った。

 

 大きなレキューザントの船体が、正面から右へ流れていく。砲座の列が順に見え、それから長い機関部が現れた。

 

 企業艦は追ってこなかった。ドロイド機の一隊だけが、離れていくコルヴェットとしばらく同じ向きへ飛び、船団の方へ戻った。

 

 ゼーンは操艦の報告を聞き終え、砲術席へ顔を向けた。

 

「警戒は続けろ。艦内への一斉通報を。危険な接近は解消した」

 

 シーアは抗議の文面を送信した。署名欄には艦長名を置き、自分の名は作成者の欄へ入れた。

 

 右側の画面で、十一隻の民間船が通行帯を抜けていった。

 

 *

 

 その後も、二隻は企業艦隊を追った。

 

 司令部は訓練終了までの監視を優先し、二隻を分離しないよう指示した。迂回して先へ向かう案は、そこで取り下げられた。

 

 区域の外から、船団の針路変更と戦闘機の帰投を記録する。《インデムニティ》が後尾を守り、《コンコーダット》が前へ出る。三隻は申告された時間の中で交代を終えた。

 

 一五時四一分、安全区域は解除された。

 

 予定より十九分早いと、管制局は知らせてきた。

 

 《ケストレル》が南方第三航路標識を通った時、既に十一隻の船団はいなかった。遠距離センサーの中では、三隻のデストロイヤーが商船とともに星系外縁へ向かっている。

 

 同じ位置まで追いつくことはできた。だが、そのために使う時間は、次の任務から取らなければならない。

 

 《タリスマン》の艦長は、追尾を所定の範囲で終えると決めた。外縁積み替え港への巡察寄港は取りやめ。定例の交通状況の聞き取りと、予告していた保安担当者との協議は再設定する。

 

 代わりに一隻寄越してくれないかという現地からの問い合わせに、司令部は当日の手配はできないと答えた。

 

 シーアが知らせると、港側の担当者は了解し、次はいつかと尋ねた。

 

 今度は、決まっていない時刻を答えなかった。

 

 通信が終わると、船橋へ飲み物が届いた。シーアは茶を受け取り、カップの縁に付いていた小さな欠けを指で避けた。

 

「冷めていますよ」

 

 持ってきた乗員が言った。

 

「どうして分かるの?」

 

「二時間前から、そこへ持っていっていいか聞いていましたから」

 

 シーアはカップを見て、それならそうだと答えた。

 

 飲むと、本当に冷たかった。

 

 *

 

C.R.C. 7952.182 スティアガード宇宙基地

 

 報告の最初に、ドーヴァンは発砲がなかったことを確認した。

 

 次に、何ができなかったかを一つずつ挙げさせた。

 

 予定経路での通常航行。引き継ぎ訓練の近接監視。外縁積み替え港への巡察寄港。

 

 シーアが最後まで読み上げると、ロウが当日の位置記録を開いた。

 

「単艦で通る案を出したのは、君か」

 

「はい。船団への影響を小さくすれば、向こうも通過に応じると見込みました」

 

「《ワーデン》が来た時点では?」

 

「境界までに回答を得られると考えていました。拒否されたら停止するつもりでしたが、相手がこちらと速度を合わせる動きまでは、詰めていませんでした」

 

 ロウは、停止した場合の予測を追加した。そこで《ケストレル》だけが減速しても、右舷の大型艦が同じように動けば、安全な間隔は取り戻せない。

 

「止まる場所を決めただけでは、そこへ安全に止まれるとは限らない。これは次の接近計画へ入れろ」

 

 ゼーンが口を開いた。

 

「案は私が採用し、《タリスマン》の承認を受けました。離隔の判断は適切でした。遅らせれば、船団側にも変針を求める必要がありました」

 

 ドーヴァンは頷いた。シーアをかばうために発言したようには聞こえなかった。誰がどこで決めたかを、記録へ戻す言い方だった。

 

「企業側の妨害については、司令部から正式に申し入れる。こちらの計画の問題は、それと分けて直す」

 

 ドーヴァンはシーアへ顔を向けた。

 

「港との再協議にも出てもらう。君が考えた通過案を、そのまま見せてよい。通れる幅があったのに、なぜ調整できなかったか。向こうの判断を聞いてこい」

 

 会議が終わりかけた時、連絡担当のラスクが端末を差し出した。

 

 港湾委員会から、着任挨拶の正式な日程が来た。一八五日。当初は新任者の紹介だったものに、今回の航行調整についての説明が加わっている。

 

「報道も入るそうです」

 

 シーアは添付された取材案内を見た。

 

 番組の紹介用画像で、コルサントにいた頃の自分が笑っている。《ケストレル》の艦長名は、写真の下に小さく入っていた。

 

「ゼーン艦長も出席します。まず、そこを直してください。写真も、着任時のものへ」

 

「通行証に使った方ですか?」

 

「あれなら、今の顔ですから」

 

 ラスクは取材案内と本人を見比べ、黙って頷いた。

 

 *

 

C.R.C. 7952.185 スティアガード、港湾委員会

 

 会議室に入るまでに、三度足を止められた。

 

 最初は記者だった。次は、荷役会社の組合役員。三度目は受付の職員で、こちらは単に、違う会議室へ案内しようとしていた担当者を呼び戻しただけだった。

 

 銀髪の青年を見れば、誰のことを話しているかはすぐ通じる。部屋番号を確認する前から、廊下の向こうで「あちらです」と手が上がった。

 

 ゼーンはそれを見ながら、シーアの隣を歩いた。

 

「私なら、名札を裏返せば通り過ぎられるな」

 

「艦長までやめてください」

 

「便利な時もある。今日は、私の顔まで覚えてもらえる」

 

 港湾委員長のエルン・サヴィクは、二人を扉の前で迎えた。星系政府から港湾運営の権限を委ねられている人物で、横にはミリア・フェンがいた。

 

 撮影のため中央へ呼ばれたシーアは、半歩ずれて、委員長と艦長を並ばせた。記者の質問が自分へ向きかけたところで、サヴィクが会議の開始を告げる。

 

 扉が閉まると、フェンが先日の訓練許可を投影した。

 

「官公署船舶にも調整を求める通知が、出港後になった点は認めます。今後は、航行計画を受け取る時点で回答するよう改めます」

 

 ゼーンはその改善を求めたうえで、通常航行を止めた根拠を尋ねた。

 

「止めたのではなく、時間を調整したのです」

 

 サヴィクが答えた。

 

「同じ時間に商船は通った」

 

「商船は保安訓練の対象です。監視任務中の戦闘艦が接近すれば、受託側は配置を変える。危険が増すと判断しました」

 

 シーアは、提出済みの通過案を開いた。

 

「この案なら、《コンコーダット》の周囲へは入りません。通行帯も塞ぎません。ですが、こちらの通過案を受け取った後、《ワーデン》が進路を変えています」

 

「連合側からは、監視艦が訓練区域へ近づいたため、境界警戒へ移ったと説明されています」

 

「先に出した航行計画の中へ、後から境界を置かれました。司法軍にとっても、認められない手順です」

 

 サヴィクはシーアの階級章を見てから、資料へ目を戻した。

 

「基地の設置に同意したからといって、港の運営まで司法軍へ渡したわけではありません」

 

「そこまで求めていません」

 

「では、交通調整への異議を出す手順を使ってください。船を進めながらでは、こちらも配置を解けません」

 

「異議の回答が来るまで、通常の航路を使えない。それでは、既存の協定で認められた航行まで、毎回許可を取り直すことになります」

 

 ゼーンが言った。シーアは頷き、帰路に使った経路を重ねた。

 

「迂回はできます。ただし、その分だけ遅れます。一八一日の外縁積み替え港への巡察は取りやめました。次の訓練日にも同じことが起きれば、先に巡察を減らすことになります」

 

 フェンが今後の運航表を開いた。

 

 保安訓練は、あと三回あった。護衛契約の交代と重ねて組まれており、航路を一日止めるより安く済むという。中央に表示された料金を、サヴィクが指した。

 

「この条件で発注しています。別の区域へ移して、別の時間を確保し、船を待たせれば費用は変わる。共和国がその変更を求めるなら、誰が払うのでしょう」

 

「費用で、艦を通すかどうかが決まるのですか」

 

「誰かが払わなければ、港は動きません」

 

 サヴィクの声が硬くなった。

 

「私たちは司法軍基地を受け入れ、港も使わせています。その費用が未処理の間も、水と電力を止めてはいない。民間の保安契約も要らなくなると言われましたが、今も必要です。両方を払い続けた上で、片方の都合をいつも優先しろと言われれば、委員会へ説明できません」

 

 フェンが何度も示してきた金額だった。シーアはその写しも持参していたが、未処理の欄は埋まっていない。

 

「次の訓練について、通過枠を先に置けますか」

 

 彼は運航表へ戻った。

 

「恒久的な条件は、上級の機関で協議してもらいます。その間まで、同じ場所で艦を向かい合わせたくありません」

 

 フェンは船団の予定を二つ移し、貨物取扱いの時間を確かめた。

 

「可能性はあります。ただし、深夜か早朝です。水先と管制の勤務を組み直す必要があります」

 

 サヴィクは、新しい費用の見積もりも出すよう命じた。

 

 その日は署名まで進まなかった。

 

 帰り際、記者から、通商連合を通させないということなのかと訊かれた。シーアは、向こうの船団も使う航路だと答え、ゼーンとともに廊下へ出た。

 

 *

 

C.R.C. 7952.188 コルサント、共和国元老院

 

 スティアガードで起きたことは、既に三つの名前で呼ばれていた。

 

 司法軍の報告書では、航行調整に伴う異常接近事案。通商連合の声明では、保安訓練区域への接近問題。ロジンの取材では、共和国艦艇に対する排除行動。

 

 アウレリアンは、机上に並んだ三つの資料を見ていた。

 

 いずれにも同じ時刻が載っている。同じ三隻がいて、《ケストレル》が針路を変える。違うのは、どこから説明を始めるかだった。

 

 司法・通商両委員会の合同審議では、まず港湾管制の録音が流された。

 

『当局は、安全な交通整理を求めています』

 

 録音が止まると、ロジンが手を上げた。

 

「安全。ナブーでも聞いた言葉です。企業が艦を置き、共和国の船を止める。違うのは、今度は地方政府の印を押させたことくらいでしょう」

 

「ナブーでは、現地政府は同意していません」

 

 ロット・ドッドが答えた。

 

「今回は正式に委託された保安業務です。荷物は動き、船団は通過した。司法軍の艦も、区域解除後に予定航路を使っています」

 

「貴社が認めた時刻に、だ」

 

「現地の管制当局が認めた時刻です」

 

 ハロルドは、双方へ資料の頁を示すよう求めた。ドッドが契約条項を開くと、グレッシュがその横の許可書を拡大した。

 

「保安活動に必要な配置調整を認めることと、共和国艦の航行を阻止する権限を与えることは別です。船を寄せて相手を曲げさせる行為まで、ここには書かれていない」

 

「司法軍側も、指定された調整に応じず接近しています」

 

「その指定が、既存協定に反していれば?」

 

 ドッドは、協定の解釈は政府間で解決すべきだと答えた。共和国と加盟星系の間で意見が一致しないことまで、企業へ責任を負わせるべきではない、と。

 

 ドッドが示したのは、地方当局の適法な指示に従うという、商業組織へ課された義務だった。

 

「船を置いたのは貴社です」

 

 グレッシュが返した。

 

「自治政府の判断を尊重することと、自ら選んだ接近の責任を政府へ渡すことを混同しないでいただきたい」

 

 ロジンは、さらに広い決議を求めていた。共和国艦艇の任務遂行に必要な通航は、個々の地方協定に優先する。許可を得た企業艦であっても、それを妨げる場合は排除できる。

 

 賛意を示す表示が、議席の周囲に点った。

 

 ベル・イブリスは反対した。

 

「『任務遂行に必要』を、現場の司令官が決めるのですか。それなら、地方との協定は、その司令官が必要ないと考える日までしか効かない」

 

「共和国の法を執行するために、地方の同意を待てと?」

 

「司法命令の執行や、急を要する救難には、既に別の根拠があります。今議論しているのは、通常の監視と巡察でしょう」

 

 ロジンは、ベル・イブリスが司法軍の増員へ賛成したことを持ち出した。

 

「艦を増やせと言いながら、来るなと言う。どういう防衛を望んでいるのです」

 

「艦を増やすことには賛成しました。地方政府が協定の解釈を争った時、その政府へ艦を向けて黙らせる権限までは、渡していません」

 

 モスマが、ロジン案の例外規定を示した。必要な通航と認定すれば、事前通告も省ける文章になっている。

 

「企業による実力行使を止めるための決議が、司法軍による協定の停止まで認めています。私は、そこを同じ採決にはできません」

 

「では、現場は次も退けということですか」

 

 アウレリアンが訊いた。

 

 モスマはこちらを見た。身内の弁護が始まったのか、と測るような間があった。

 

「同じ状況を繰り返さないために、政府間で航路を確定するべきです」

 

「賛成です。それまでの間も、一時的な指定を重ねれば、共和国の通常航行を止められるという実績は増える」

 

 アウレリアンは、スティアガードから届いた翌月の予定を示した。

 

「弟を通せという話ではありません。次の三回も、同じ条文を使うという話です」

 

 モスマは予定表を受け取り、常設の航路へ出される一時規制の期間と、異議が出た場合の判断期限を加える案を出した。

 

 グレッシュは、危険な接近で相手を退避させてから審査を待つことが有利にならないよう、暫定的な通行を維持する必要があると主張した。

 

 合意は、その先で止まった。

 

 中央が暫定措置を決めるのか。現地の管制が決めるのか。どちらも自分の判断が優先すると言った場合、艦長は何に従えばいいのか。

 

 ハロルドは、企業艦の航行記録と管制との交信記録について、消去せず提出するよう求めた。ドッドは、その範囲で応じると答えた。

 

 軍縮法による登録と認証は、資料を取る入口にはなった。あの場で《ワーデン》を退かせる命令までは、用意してくれなかった。

 

 *

 

 休会中、共同事務局の前には取材者が集まっていた。

 

 部屋の正式名称は、加盟星系協定協議事務局になったばかりだった。入口の表示にはそう書かれている。廊下から中継している記者は、「分離主義の動きをまとめる事務局」と紹介していた。

 

 ボンテリは、その呼び方に抗議していた。

 

「参加者全員が離脱を支持しているわけではありません。きょう配布したのは、基地協定の留保条項です」

 

「加盟関係を再検討する議題もあるのですね」

 

「あります。それと、この文書へ賛同することは別です」

 

 記者は頷き、次に来た議員へ同じ質問をした。

 

 アウレリアンが室内へ入ると、シンが、参加を取りやめたいという代表団からの通信を読んでいた。本国から、離脱組織へ加わったように報じられることは認められないと指示されたらしい。

 

「費用の共同照会だけは続けたいそうです」

 

 シンはボンテリへ伝えた。

 

「別の窓口にすれば、また同じ資料を集め直すことになる」

 

「その作業はこちらで受けます。参加者名簿からは外す。資料の共有先として残せばよいでしょう」

 

 シンが答えると、ボンテリは、相手がその扱いに同意するか確認するよう頼んだ。

 

 名簿の一行が消えた。共同照会の件数は変わらなかった。

 

 反対に、新しい参加を求める連絡も来ていた。企業の保安契約を更新する前に、司法軍との費用分担について共通回答が欲しいという。

 

 机上には、スティアガードの港湾委員会がまとめた説明書が置かれていた。司法軍側の抗議書も添えられ、留保条項の検討資料として配布されている。

 

 アウレリアンは、双方の文書がそろっていることを確かめた。

 

「地元で、実際の航路は調整しています」

 

「それがまとまれば、こちらにも送ってください」

 

 ボンテリが言った。

 

「他の港で使えるところがあるかもしれません」

 

 ベイルは、留保条項を一括して要求する前に、既存の協定ごとの差を残してほしいと求めていた。同じ文章を入れた結果、今まで動いていた手続きまで止まることを心配している。

 

 トゥーラは、同じ条件で交渉できるから共同事務局を作ったのだと答えた。

 

「港ごとに譲歩していけば、最後には、譲らなかった政府だけが非協力的だと言われます」

 

「だからといって、合意できる協定まで保留すれば、必要な施設も遅れます」

 

 ベイルの言葉に、彼女は、遅れる責任をいつも地方だけが引き受けるのはおかしいと返した。

 

 会話を聞きながら、アウレリアンは端末へ届いた採決予定を見た。

 

 司法軍の整備費を増やす案には、ここにいる何人もが賛成する。同じ者たちが、中央へ通航の最終判断を委ねる案には反対する。

 

 艦を増やす多数派と、その艦を動かす条件を決める多数派は、別々に集めなければならなくなっていた。

 

 *

 

C.R.C. 7952.197 スティアガード宇宙基地

 

 次の訓練まで、六日になっていた。

 

 シーアの机には、航路図が四枚重なっていた。管制用、司法軍用、受託事業者用、それらを重ねた調整案。同じ図を配れば済むと思ったのだが、各組織で公開できる情報が違う。

 

 フェンから届いた修正版には、薄緑の通行帯が加わっていた。

 

 一回三十八分。基地から外縁側へ出る艦を通し、訓練に使う部隊の配置をその間だけ開ける。

 

 緊急救難と有効な司法命令の執行については、別の通報手順を使う。今回の時刻表による待機を求めない。そこは、最初にドーヴァンが条件にした部分だった。

 

 通常の巡察については、星系政府側が提示した通過枠に合わせる。

 

 両者の法的な立場を変更しないという一文は付いた。それでも、司法軍が自分の航行時刻を相手の表へ合わせることは変わらなかった。

 

「二十三分、出港を早めます」

 

 シーアはロウへ説明した。

 

「給油と乗員の交代を出港前夜へ移します。管制の追加勤務費については、司令部の運航費で処理できる見積もりです。ただし、毎回同じ額を払う前提にはしていません」

 

「最初の三回だけだな」

 

「はい。恒久協定の代わりにはしません」

 

 ロウは帰投予定まで追った。《タリスマン》の整備開始時刻が変わり、共通の技術員の勤務も動いている。

 

「ここの同意が抜けている」

 

「まだ回答待ちです」

 

「なら、確定版として回すな」

 

 シーアは表紙の表示を戻した。

 

 ラスクが買ってきた菓子を分けてくれた。口へ入れようとしたところでゼーンから通信が来たので、シーアは机へ戻し、回線を開いた。

 

「こちらの航行区間は問題ない。港側の連絡官が同乗する条件は、何を意味する?」

 

「管制との連絡と、通過の立ち会いです。操艦の指示権は持たせません」

 

「誰が乗る」

 

「フェンさんが、初回は自分で来ると」

 

 ゼーンは短く考え、了解した。

 

「前回と同じ場所を見てもらおう。できれば、窓だけでなく航法表示も」

 

 通信が終わると、ロウが新しい文案を開いた。受託側は、保安調整のために司法軍の巡察先と滞在時間も共有してほしいと求めていた。

 

 シーアはその項目を消した。

 

「通行帯を使う時間と、合流点を抜ける方向までは出します。その先の巡察計画は、港の交通整理には必要ありません」

 

「企業側は、不測の接近を避けるためだと言っている」

 

「必要なら、その場所で調整します。出港前に全部知らせれば、予告した船を見に行くだけになります」

 

 ロウは削除に同意し、司令官へ上げる欄に署名した。

 

 シーアが菓子を取り直す頃には、ラスクの分はなくなっていた。

 

 *

 

 協定の付属書へ署名が入ったのは、その日の夕方だった。

 

 ドーヴァンとサヴィクが、同じ会議室で端末を交換した。シーアは作成担当として後ろに座り、最終版が艦と管制へ届いたことを確かめた。

 

 撮影の時、記者がシーアにも前へ出るよう求めた。

 

 サヴィクが頷く。ドーヴァンも特に止めなかった。シーアは立ち上がり、署名を終えた二人の脇へ並んだ。

 

 レンズがこちらへ向く。どの角度なら髪が目に掛からないか、そんなことは考えなくても分かった。口元を整えるのにも時間は掛からない。

 

 前の会見では、その手慣れた顔が、企業艦へ接近した部隊の説明に使われた。今日は、合意を作った者の顔として求められている。

 

「公子がこちらへ来たことで、交渉が進んだという声があります」

 

「来る前から協議していた担当者がいます。今回、時刻表を作ったのはフェンさんと、司令部、各艦の航法担当です」

 

 名前を挙げると、記者はフェンにも話を聞くと言った。

 

 翌朝の見出しには、それでもシーアの名が残った。

 

 《ヴァラリアン公子、地方との調整に成果》

 

 記事を最後まで読むと、追加費用は「必要な運航上の措置」とまとめられていた。

 

 シーアは広報担当へ、署名者と合意の範囲を訂正するよう頼んだ。その後で、追加勤務の予算番号を、次の出港計画へ入力した。

 

 *

 

C.R.C. 7952.199 コルサント、ラクサス代表部

 

 アヴィ・シンが求めたのは、調印式の写真ではなかった。

 

 基地から合流点までの通行帯。艦がそこを抜けるための通知先。港の管制と司法軍の間で意見が分かれた時、どの部署が判断を引き取るか。

 

 スティアガードから共有された付属書を、補佐官が机へ投影した。

 

「これを、他の政府へ標準案として勧めますか」

 

「協定事務局へは、比較資料として。港ごとの差も残すように、ボンテリ議員が求めている」

 

 シンは公開用の資料を確かめ、それから別の画面を開いた。

 

 独立時の動員と、共和国駐留部隊への措置。

 

 ドゥークー側の担当者へ送る資料には、同じ通行帯の図を使った。そこへ、港が停止できる業務と、基地側で維持できる業務を別々に加える。

 

 水と電力を止めれば、民間区画にも影響する。曳航艇と水先の提供を止めても、自力で離港できる艦は残る。共和国の指揮官が緊急出動を宣言すれば、平時の時刻表だけでは艦を留めておけない。

 

「軍事委員会側からは、封鎖に必要な艦数の前に、港側だけで何時間遅らせられるかを求めています」

 

 補佐官が言った。

 

「回答は、確実なものと、相手が従う場合だけのものを分けてください。紙の上で止められる時間を、そのまま軍の計画へ入れてはならない」

 

 シンは、《ケストレル》が進路を変えた時の記録を開いた。

 

「この件を、スティアガード政府の独立支持として数えることもできません。あちらが認めたのは、保安契約と管制の権限までです」

 

 補佐官は頷き、政治的な確約の名簿を閉じた。

 

 別の契約書には、企業側へ求める技術調査が書かれている。共和国基地の出港能力。商業通信を失った場合の代替手段。増援が来るまで、近隣の艦を拘束するのに必要な配置。

 

 シンは、軍事委員会の準備費から支出する欄へ承認を入れた。

 

 署名済みの契約が送信されると、議会用の回線が鳴った。暫定的な保護保証について、アウレリアンの事務所から文案が来ていた。

 

 シンは次の会合の予定を確認し、出席すると返信した。

 

 *

 

C.R.C. 7952.203 スティアガード星系、《ケストレル》

 

 フェンは予想より早く艦へ来た。勤務用の上着に小さな鞄。持参した端末を通信席の隣へ固定し、港側との回線を確かめると、シーアへ準備はできたと伝えた。

 

 出港準備は、いつもより早く始まっていた。夜勤を延ばした整備員が最後の確認を済ませ、通路から資材の台車を引いていく。港側の誘導艇が離れ、《ケストレル》は指定された進路へ入った。

 

 後方には《タリスマン》。今回も二隻だった。

 

 シーアの画面には、作り直した計画と実際の位置が並んでいる。航行余地は確保できていた。だが、予定より早く着いてしまっても困る。前の通過枠では、民間の船団が動いていた。

 

「前方船団、最終船が抜けます」

 

 フェンが管制からの報告を伝えた。

 

 ゼーンは航法士へ確認し、速力を上げた。

 

 右舷前方に、細長い艦影が現れる。

 

 《ワーデン》だった。

 

 前回より離れている。船体の向きも、こちらの進路を横切るものではなかった。それでも、識別名を見た瞬間、シーアは手元の図を拡大した。

 

 相手が速度を変える。《ケストレル》と同じ向きへ、緩やかに回る。

 

「港側、配置を確認してください」

 

 シーアが言うと、フェンは用意されていた回線で問い合わせた。返事を待つ間、艦橋の表示から目を離さない。

 

『訓練開始前の境界警戒。合意済みの通過帯には進入しない』

 

 連合側の回答を、彼女はそのまま読み上げた。

 

 ゼーンは《ワーデン》へ直接、現在の間隔を維持するよう通告した。

 

 今回は、了解という返答があった。

 

 二隻の艦が、同じ方向へ進んだ。

 

 レキューザントの巨大な船体を背景にすると、《ケストレル》の窓から見える星の範囲は狭い。シーアは艦影から、航法表示へ目を戻した。並んでいるように見えても、間には十分な距離がある。

 

「前回は、これより近かったんですね」

 

 フェンが言った。

 

「はい」

 

 シーアは前回の最接近位置を呼び出した。現在の印の内側に、もう一つの線が現れる。

 

 フェンはそれを見て、管制局へ送る報告欄へ何かを書き込んだ。何と書いたかまでは、シーアには見えなかった。

 

 南方第三航路標識が近づいた。

 

 管制から、通過枠の残り時間が送られてくる。ゼーンは予定どおりだと答え、《タリスマン》へ連絡した。

 

 シーアは、外縁積み替え港から受け取っていた通報の一覧を開いた。巡察を取りやめた後にも、照会は増えていた。登録と違う識別信号を出す輸送艇。荷役予約だけを取り、入港してこない船。船籍を確かめようとすると回線を切る曳船。

 

 どれも、それだけで海賊とは言えない。次の寄港では、現物の航行記録を見せてもらうことになっている。

 

 《メリド》の事故調査についても、司法担当官から連絡が来ていた。マルダンの受領票は訂正版が届いたが、最初の入力を行った端末と担当者の確認は続いている。報告書を閉じるには、まだ足りない。

 

 シーアはそちらを保存し、巡察の連絡先を順に確かめた。

 

「標識通過」

 

 航法士が報告した。

 

 右舷の《ワーデン》が離れていく。企業の船団へ戻るために、艦首を反対側へ向けたのだった。

 

 フェンが、通過完了を港湾管制へ伝えた。後続の《タリスマン》も同じ帯を抜け、司法軍の二隻は予定された集合点へ向かった。

 

「連絡官を移乗させた後、巡察進路へ」

 

 ゼーンが命じた。

 

 迎えの港湾艇が近づいてくる。フェンは端末を外し、最後に航法表示を見た。

 

「次も、この時刻表でよいでしょうか」

 

「三回分までは、今の予定です。その後は、また協議します」

 

 シーアが答えると、彼女は頷き、艦橋を出ていった。

 

 移乗完了。港湾艇が離隔する。《ケストレル》の艦首が外縁へ向いた。

 

 シーアは、次の寄港先へ到着予定を送った。今回は、出港してから計算し直した時刻だった。

 

 返事はすぐに来た。

 

『お待ちしています。前に渡せなかった記録も、用意してあります』

 

 彼は受信確認を返し、机の脇から記録媒体を収めるケースを引き寄せた。

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