STAR WARS: STAR DESTROYER   作:あーくわいてんず

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優先貨物

C.R.C. 7952.233 スティアガード宇宙基地

 

 回答書は、シーアが戻る前に届いていた。

 

 ラスクが机の端へ寄せておいた資料には、補給部の受領確認と、委託会社の作業記録が付いている。《メリド》の十八個口と、拿捕船に残っていた搬入番号。別々に出した照会への回答が、同じ担当者の署名で返ってきていた。

 

 シーアは上着を椅子へ掛け、最初の一覧を開いた。

 

 十八個口は、すべて見つかっていた。

 

 換気設備の交換用フィルター、密封材、計測器の予備部品。救難の翌朝に搬出され、委託倉庫へ入り、数日後には基地の設備担当へ渡っている。既に取り付けられたものもあった。部品番号と取り付け先の区画番号が並び、受け取った整備員の署名まである。

 

「ここは、合っているそうです」

 

 ラスクが言った。

 

「現物の残っている分も確認してもらいました。使用済みの分は、整備記録と照合できます」

 

「受領時刻の方は?」

 

「入力担当者が説明に来ます。明日の午後」

 

 シーアは日程を確かめた。遭難中の船から荷物を受け取ったという記録は、訂正されていた。だが、どうしてその記録を作れたのかは、まだ聞けていない。

 

 もう一方の照会を開くと、今度は品名より先に受領場所が目についた。

 

 第四受領所。

 

 《メリド》の貨物も、ここを通っていた。拿捕船が使っていた番号も架空ではなく、実際に発行された基地向け優先搬入の番号だった。

 

 ただし、貨物の所在を示す欄には、別の文言が入っている。

 

 《指定配送先への転送完了》

 

「どこへ?」

 

 シーアが訊くと、ラスクは添付資料を送った。基地の医療資材を扱う契約番号があり、その下に、受託業者の管理番号があった。

 

「最終の受け取りは、この資料にはありません」

 

「なら、まだ答えになってない」

 

 言いながら、シーアは次の照会を書き始めた。手元の端末には、エレナから出港したという連絡が届いていた。受信を返してから、資料の二枚目へ進む。

 

 同じ受領所。同じ形式の署名。しかし、一方は実際に基地で使われている荷物で、もう一方は、その基地から先へ送られていた。

 

 *

 

 第四受領所は、司法軍基地の外にあった。

 

 地図では基地の補給施設と同じ色になっていたが、実際には、港湾委員会から借りた倉庫区画をマルダン港務サービスが運営している。軍の荷物も、民間企業の荷物も、それぞれの契約に従ってここへ入り、別の車両や輸送艇へ積み替えられた。

 

 翌日の説明に来たサナ・メイルは、そこの受領事務を担当していた。制服ではなく、会社の上着を着ている。シーアの向かいへ座ると、用意してきた画面をすぐには開かず、同席したトールの身分証を確かめた。

 

「私の署名が、間違っているという話ですか」

 

「何を確認して署名したのかを、聞かせてください」

 

 トールが答えた。

 

 メイルは頷き、《メリド》の記録を呼び出した。訂正前の時刻を示す数字の横には、作業を終えたことを表す印が付いている。

 

「これは、受領予定をまとめて承認したものです。車両と置き場所が決まった時点で、こちらの作業は済んだ扱いになります」

 

「荷物が来る前に?」

 

「私の仕事は、場所を用意するところまでなので。実際に受け取る人は別です」

 

 シーアは受領票の表題を見た。そこには予定とも、手配完了とも書かれていない。

 

「基地へ送る時も、このままですか」

 

「変換されます。軍の書式に」

 

 メイルは二つの画面を並べた。会社側の作業完了が、基地側では受領完了へ移されていた。実際の入庫記録は別にあり、事故で遅れた《メリド》についても、翌朝に貨物を取り込んだ時刻が残っている。

 

 それらを一件ずつ開けば、何が起きたかは追えた。ただ、集計の表だけを見ている者には、前日の午後に全部終わったように見える。

 

「誰も、違うと指摘しなかったんですか」

 

「しました」

 

 メイルは即答し、過去の問い合わせを出した。

 

 書式の変更を求める社内連絡。基地への確認。現行の契約期間内は運用を継続し、次回更新時に改修するという回答。シーアは日付を見た。自分がここへ来る前から、同じ問題が記録されていた。

 

「書式を直せば、荷物の方も全部分かりますか」

 

 トールが訊いた。

 

「入った分は。転送する分は、次の業者が受け取った記録まで見ないと」

 

 彼は拿捕船にあった番号を示した。

 

 メイルは長く黙った。最初の記録ではすぐに動いていた指が、今度は膝の上に置かれている。

 

「これは、私の担当ではありません」

 

「担当者は?」

 

「基地指定の搬入です。私たちが配送先を変えることはありません。変更指示が来たら、その通りに出します」

 

「その指示を、見せてもらえますか」

 

 メイルは会社から渡された説明用資料へ戻った。そこには、いま求められたものが入っていなかった。

 

「持ち出す許可を、受けていません」

 

 トールは新しい書面を作り、必要な記録の範囲を彼女へ確認した。会社へ正式に求めるので、個人の判断で持ち出さなくてよいと伝える。

 

 面談が終わった時、シーアは机の端にあった過去の問い合わせを指した。

 

「これも、添付させてください。以前から訂正を求めていたことが分かるように」

 

 メイルは初めて、彼の顔をまっすぐ見た。

 

「そう書いていただけるなら」

 

 *

 

 次の週、シーアは補給部と医療区画を行き来した。

 

 請求書に載っていた資材を必要としていた部署を探し、その部署が実際に注文したかを確かめる。シーアが担当するのはTF-4Bに割り当てられた分で、基地全体の契約を調べる権限はなかった。別部隊の番号が出るたびに、ロウを通じて照会先を増やしていく。

 

 医療区画の責任者は、一覧を見終わる前に首を振った。

 

「これは、当方からは請求していません」

 

「請求元は《アテンダント》の医療班になっています」

 

「その番号は、診療設備の保守契約です。医薬品の購入には使いません」

 

 シーアは品名を拡大した。医療用精製原料。受領した品目の詳細は、契約業者の別表によると記載されていた。

 

「こういうものを、船内で扱いますか」

 

「原料から薬を作る設備はありません。製剤を買います。少なくとも、この契約で取り寄せるものではない」

 

 責任者は、自分たちが出した本来の注文書を並べた。滅菌器の部品、測定装置の点検、交換用の小さな管。金額も数量も、シーアが持ってきた一覧とは違っている。

 

 そこで初めて、彼はトールへ、単なる受領時刻の誤りでは説明できないと連絡した。

 

 その日のうちに解決したわけではなかった。トールは星系検察へ資料を送り、契約会社の申告と、許可された医療用貨物の情報を照合するよう求めた。共和国側にも、基地の契約番号が使われた経緯の確認を申し立てる。

 

 次に来たのは回答ではなく、問い合わせだった。

 

 《本件の照会は、通常の補給確認か、正式な査閲に基づくものか》

 

 シーアは文章を読んで、椅子へ背を預けた。

 

 普通の作戦参謀として来た。それは着任した日に確認されている。いまになって、首都にいた頃の権限がまだあるように振る舞うことはできなかった。

 

 彼は、TF-4Bの請求記録との不一致を確認していること、犯罪の疑いについては司法官が別途扱っていることを分けて書き、ロウへ送った。

 

 返信を待つ間に、個人端末の予定が点いた。

 

 二三九日。エレナと話す時刻だった。

 

 シーアは資料を閉じ、部屋へ戻った。通信をつなぐと、彼女は劇場の壁がまだ何色にも決まっていないと報告した。シーアは昼に食べたものを答えたが、名前を覚えていなかった。

 

「次は、食べる前に見て」

 

「名前を?」

 

「献立を」

 

 笑われたので、明日はそうすると答えた。その日の仕事について訊かれ、彼は、注文していない荷物の受取人を探していると言った。

 

「見つかった?」

 

「まだ。受け取ったっていう書類は、たくさんあるんだけど」

 

 *

 

C.R.C. 7952.244 スティアガード宇宙基地、補給部

 

 ヨレン・ダースト管理官の机には、シーアが送った照会が全部並んでいた。

 

 受領所の管理を担当する司法軍士官で、マルダンを含む複数の委託業者との調整を行っている。基地の倉庫だけで賄えない分を、港の空いた区画へ割り振り、部隊からの急な要求に応じて配送順を変える仕事だった。

 

「受領書の表示については、改修を前倒しするよう求めました」

 

 ダーストは言った。

 

「《メリド》の件で、運用上の問題が明確になった。そこは認めます」

 

「医療班が請求していない分は」

 

「契約の一括管理です。最終使用者が、書式上の請求元と一致しないことはあります」

 

「では、最終使用者を教えてください」

 

 ダーストは机上の一覧へ目を落とした。シーアの隣には、司法官としてトールが座っている。先ほどから、管理官は主に彼の方へ答えていた。

 

「医療支援を受託している業者です。すべての資材が軍の倉庫を経由するわけではありません」

 

「業者の名前と、軍からの依頼内容を確認します」

 

 トールが言った。

 

「既に契約番号を送っています」

 

「そこに、該当する原料は含まれていません」

 

 ダーストの手が止まった。やがて別の資料を開き、契約変更の記録を取り寄せると答える。

 

 シーアは机の向こうを見ていた。棚には、各部隊から来た急送要求の紙が挟まっていた。部品不足で出港できない艦。壊れた設備。追加の乗員。自分たちが急いでほしいと求めた仕事も、この部屋を通っていたはずだった。

 

「その原料の次の便は、二四六日です」

 

 トールが言った。

 

「同じ名目で、同じ受領所へ来る。許可と実物を照合します」

 

「基地の優先搬入枠です。通常貨物と同じ待機へ回せば、ほかの納品にも影響が出る」

 

「この貨物を急いで受け取る部署が、まだ見つかっていません」

 

 シーアが答えた。

 

 ダーストは、ようやく彼を見た。

 

「キャプテン。部品一つが遅れて、何人が待つかは御存じでしょう」

 

「はい。だから、何を止めるのかを確認したいんです。正しい品目と受取人が出れば、そちらは分けられます」

 

 トールが、次便の明細の提出期限を示した。管理官はその紙を受け取り、補佐の職員へ渡した。

 

 部屋を出た後、廊下でシーアを呼ぶ声があった。ダーストの補佐だった。

 

「対外説明の予定はありますか」

 

「ありません」

 

「報道機関から御本人へ連絡が来ている場合は、先に広報を通していただきたいと」

 

 シーアは頷いた。相手は安心したように会釈したが、戻っていく足取りは速かった。

 

 まだ、貨物を開けてもいなかった。

 

 *

 

C.R.C. 7952.246 スティアガード軌道港、第四受領所

 

 貨物船《ヴェラント》が運んできたのは、六個の輸送容器だった。

 

 通路へ降ろされたところを見ると、どれも同じ灰色に見えた。側面には医療資材の取扱表示があり、荷役員は他の貨物と混ぜず、指定された台車へ載せている。危険物の検査は済んでいた。爆発も、放射線も、急激な温度変化も検出されていない。

 

 シーアは受領所の入口で待った。制服の上には借りた作業用の外衣を着ていたが、顔を隠すためではない。荷役区画へ入る者は、誰でも同じものを着る。

 

 トールと星系側の捜査官が、貨物の番号を照合していた。前日に裁判所から出た命令は、この六個と、対応する運送・受領記録を対象にしている。倉庫全体を封鎖するものではなかった。

 

 それでも、台車が検査区画へ向きを変えたところで、基地の保安員が歩み寄ってきた。

 

「こちらは、司法軍の指定貨物です」

 

「承知しています」

 

 トールが書面を示す。保安員は認証を確かめたが、通路を空けなかった。

 

「公用貨物の開封には、基地側の立会い承認が必要です。受領管理官へ確認します」

 

「そのために連絡してあります。こちらが昨日の受領回答です」

 

 保安員は端末を受け取り、別の回線を呼んだ。彼が命令を出したわけではない。シーアにも、それは分かっていた。

 

 台車の向こうでは、荷役員が次の仕事を待っていた。検査のために空けた場所を、他の荷物が避けていく。壁には、予約された搬出時刻が出ていた。

 

「このまま待てば、搬出便が来ます」

 

 捜査官が言った。

 

「出せません。現地の命令が出ています」

 

 トールは答え、シーアへ視線を向けた。

 

 彼はドーヴァンが承認した受領保留の通知を開いた。TF-4B名義の依頼内容と一致しない貨物について、確認が済むまで部隊として受領しない。それが、いま持っている命令だった。

 

「TF-4Bは、この六個を受け取りません。正規の請求に合うものがあれば、確認後に受領します」

 

 保安員は、基地側との回線へそのまま伝えた。

 

 返ってきたのは、部隊が受け取らないなら業者へ返還するという回答だった。だが、業者の荷物として扱うなら、今度は裁判所の命令によって移動できない。

 

 シーアはそのことを指摘した。誰も大声は出さなかった。保安員は再び通話を始め、トールは台車の番号を記録させた。

 

 四十七分後、基地の当直責任者から立会いの承認が来た。

 

 扉が開くと、シーアは横へ退いた。先に入ったのは、鑑識の担当者と資材を判別する医療班の技術員だった。

 

 一個目には、包装された診療器具が入っていた。二個目も同じだった。どちらにも製造元の封印があり、注文した部隊まで辿れた。TF-4Bではなかったが、基地の患者搬送班が必要としているものだった。

 

 シーアはその場で注文番号を受け取り、保留対象から分ける手続きを始めた。残る四個の検査を待つ間に、正しい受領先へ連絡が通る。

 

 三個目と四個目も、申告された品目に合っていた。

 

 五個目を開いた時、医療班の技術員が手を止めた。

 

 外装の下には、小さな密封容器が整然と並んでいた。製剤の名称ではなく、原料の管理番号が付いている。鑑識員はラベルを撮影し、採取する分と保存する分を分けた。

 

「品名に合っていますか」

 

 トールが訊いた。

 

「原料であることは。ただし、この扱いでは受領できません」

 

 技術員は番号を端末へ入れ、照合先の回答を待った。シーアには、蓋の内側に収まった容器が何を意味するのか、まだ分からなかった。

 

 簡易分析の表示が変わる。

 

「規制対象の精製スパイスが疑われます。確定には検査室での分析が必要です」

 

 誰かが息を吸った。港の職員が、開いた容器から一歩下がった。

 

 六個目も、同じだった。

 

 シーアは手元の表で、二個を未確認の医療原料から、鑑定のための留置へ移した。医療班の技術員は、その番号を受領簿へ写さなかった。代わりに、鑑識側の保全記録へ署名した。

 

 検査区画の外へ出ると、搬出車両の運転手が待っていた。

 

「六個まとめて、基地へ持っていく予定ですが」

 

「四個です。行き先も確認しました。変更票を渡します」

 

「残りは?」

 

 シーアは、閉じられた扉へ目を向けた。

 

「今日の便には、載せません」

 

 *

 

 二五一日、鑑定結果が確定した。

 

 二個の容器に入っていたのは、申告された設備保守契約では扱えない精製スパイスだった。医療用途で許可を受けた事業者が扱う原料とは、濃度も成分の構成も違っている。提出された許可は、この貨物を認めるものではなかった。

 

 違法性の判断は、共和国側と星系側で一致した。

 

 同時に、貨物船《ヴェラント》の運航を止め続ける理由はなくなった。乗員は荷主から封印された荷物を受け取り、申告に従って運んでいた。船内の他の貨物と記録を調べても、船長が内容を知っていたという証拠は、その時点では出ていない。

 

 船長は、返してもらった書類を見ながら、待機中の費用を誰へ請求すればいいのかと訊いた。担当者が窓口を説明し、シーアは横で聞いていた。船長は感謝もしなければ怒鳴りもしなかった。次の入港枠を取るため、通信室へ急いでいった。

 

 拘束されていた海賊の一人への聴取も、進み始めた。

 

 シーアが受け取ったのは、その全文ではない。拿捕船に記録されていた輸送のうち、軍の優先搬入枠を使った便についての確認事項だった。トールによれば、男は指定された港へ運んだことは認めたが、中身を知っていたかどうかについては答えを変えているという。

 

「荷物を運ぶ時は、護衛が付いたこともあるそうだ」

 

「企業の?」

 

「そこは確認中だ。こちらが聞きたい名前を先に出さない方がいい」

 

 トールは、確かめられていない部分を省き、航行日と搬入先だけを渡した。

 

 シーアは部隊の行動記録を開いた。その日は自分が来る前だったが、司法軍の護衛便は運航している。そこへ《ナーレン》の名も入っていた。誰かが偽装を見抜けなかったのか、確認する者がいなかったのかは、この一覧では分からない。

 

 ただ、少なくともその便は、司法軍を避けて港へ入ったのではなかった。

 

 彼は照合の結果をトールへ送り、続いて、同じ契約番号を使う入荷予定をロウへ提出した。

 

「全部止めるのか」

 

 参謀長は一覧を読んだ。

 

「同じ契約で、申告と発注元が一致していない分です。医療資材という名前だけでは止めません。今ある予備と、代わりに取り寄せられる分も確認します」

 

「人手は」

 

「照合だけでも、今の担当者では足りません。基地へ増員を求めたいです」

 

 ロウは頷いたが、そのまま署名はしなかった。

 

「この契約を処理していた部署から、人を出すと言ってくる」

 

 シーアは顔を上げた。

 

「別の系統から、お願いします」

 

「理由も書け。信用できないから、では通らない」

 

 彼は申請へ、調査の対象となる記録を作成・承認した者と、照合を担当する者を分ける必要があると書き加えた。

 

 *

 

C.R.C. 7952.258 コルサント、共和国元老院

 

 スティアガードの貨物検査は、地方のニュースから首都へ届いた。

 

 最初の見出しは、医療資材を装った違法貨物の摘発だった。翌日には、司法軍の優先搬入枠を使っていたことが加わった。映像に使われたのは、倉庫の外から撮られた保安員と、青い封印を付けた輸送容器だった。

 

 映像の端には、作業用の外衣を着たシーアも映っていた。報道局がそこを拡大すると、手元の受領票は読めなくても、誰なのかは分かった。解説者が、かつてスカリフの施設計画を説明していた公子が現地調査に関わっていると述べ、軍内部の調査が始まったという見出しまで現れた。

 

 正式な調査範囲は、それほど広くなかった。アウレリアンは委員会へ出席する前に、その点を司法省へ確認した。

 

「それでは、基地の契約が使われたのに、基地の調査はしていないのですか」

 

 モスマの質問に、説明員は、部隊からの照合と司法官による捜査協力が進んでいると答えた。

 

「照合した資料を作ったのは、どの部署ですか」

 

「基地補給部と委託業者です」

 

「その説明を受け取るだけでは、独立した調査になりません」

 

 ハロルドが、現在の権限と対象施設を図にするよう求めた。企業の倉庫、港湾委員会が貸している区画、司法軍基地の保管棟。貨物が移るたびに、記録を扱う部署も変わっていた。

 

「業者が共和国の便宜を悪用したのでしょう」

 

 ロジンが言った。

 

「契約を解除し、許可を取り消す。必要なら、司法軍が直接管理すればよい」

 

「いま問題になっている許可を出したのも、司法軍です」

 

 ヴェッロは図の承認欄を指した。

 

「軍へ任せるという言葉だけでは、この件は終わりません。誰が何を確かめて印を押したのか、調べる必要がある」

 

「末端の一件で、部隊全体を犯罪者扱いするべきではない」

 

「そうしないために、個人と記録を調べるのです」

 

 アウレリアンは発言を求め、対象を特定した調査官の派遣と、軍の記録を保全する措置を提案した。シーアへ権限を追加する話にはしなかった。本人が気づいた経緯と、後から事件を調べる立場は分ける必要がある。

 

 モスマも、その案には賛成した。

 

 一方で、加盟星系協定協議事務局から来た資料には、別の要求が載っていた。共和国当局が地域の民間施設へ立ち入る場合、現地司法機関による手続きを必須とする。軍の調達契約を結んでいるというだけで、施設全体が共和国の管轄へ移ったとは認めない。

 

 スティアガードの今回の検査は、現地の裁判所の命令で行われていた。その意味では、事務局が求める手続きを既に踏んでいる。

 

「なら、今回は問題がないはずです」

 

 アウレリアンが言った。

 

「今回は。しかし、次に来る調査団が同じ範囲に留まる保証はない」

 

 別の代表が答えた。

 

 彼の本星では、域外当局との司法協力を一件ごとの承認へ戻す案が審議されていた。既存の協定に基づく一括の同意を、行政だけで続けてよいのかが争点になっている。似た決議案が、他の代表団からも届いていた。

 

「共同で調べるための窓口を作っている最中に、なぜ窓口が使える案件を減らすのですか」

 

「共同の名で、一方だけが決めることを防ぐためです」

 

 ボンテリが割って入った。

 

「現地の同意を求めることと、同意できる担当者をいなくすることは違います。議会が毎回開かれるまで、資料を渡せない形にはしないでください」

 

 代表は、本星の委員会へ伝えると答えた。撤回するとは言わなかった。

 

 ハロルドは、スティアガードへの調査官派遣と、加盟星系間の司法協力の見直しを別の議題へ分けた。前者については、司法省が候補者と権限案を提出することになった。後者は、また各代表部へ照会が送られる。

 

 会議を出たところで、記者がロジンを囲んだ。

 

「今回も、分離主義が捜査を妨げていると?」

 

「共和国の執行権を一つずつ縛れば、最後には何もできなくなる。私は以前から——」

 

 アウレリアンは足を止めなかった。通路の先では、自治派の議員が同じ事件を、軍の特権を監督しなければならない理由として説明していた。

 

 端末に届いたのは、現地の検査担当者からの追加要求だった。保管中の試料を分析する費用と、立会い要員の旅費。アウレリアンは書類を補佐官へ回し、先ほどの派遣案に含まれているか確認するよう頼んだ。

 

 *

 

C.R.C. 7952.264 スティアガード軌道港

 

 マルダン港務サービスの事務所へ入る前に、シーアはトールに止められた。

 

「最初は、外で待ってくれ」

 

「僕がいない方が話せますか」

 

「担当者による。今日は、その担当者からの希望だ」

 

 彼は頷いた。通路の向こうに、自分が着任した日に荷物を運んだ会社の標章が見える。その下を、同じ上着を着た者たちが通っていた。

 

 待っている間、誰にも気づかれないというわけにはいかなかった。若い職員が足を緩め、次に来た者へ何かを囁く。しばらくして責任者らしい男が現れ、応接室を用意すると言った。

 

「ここで待つように言われています」

 

 シーアは断った。男は引き下がったが、それから通る職員の数が減った。

 

 二十分後、トールに呼ばれた。

 

 部屋にはサナ・メイルがいた。隣には会社の法務担当者がおり、机には契約書と、保存対象になった配送指示の複製が置かれている。

 

「会社の記録として提出します」

 

 法務担当者が言った。

 

「ただし、これを出したことで、当社が貨物の内容を認識していたと認めるものではありません」

 

「その点は、別に確認します」

 

 トールは答えた。

 

 シーアが席へ着くと、メイルは一枚の指示を前へ出した。医療原料を受け取った後、基地へ入れず、民間の配送へ戻したという記録だった。

 

「私たちの画面では、ここで終わります」

 

「返還先は、荷主ですね」

 

「書類では」

 

 メイルは別の記録を開いた。倉庫から荷物を出す時に付けた積載票で、運転手の受領と車両番号が残っていた。

 

 シーアは二枚を見比べた。荷主の民間車両ではない。

 

 基地の構内輸送車だった。

 

「これを、自分で直せなかったんですか」

 

「配送先の変更は、基地指定です。私たちには、軍の車が業者を代行しているのか、どこかで積み替えるのかも分かりません」

 

 彼女は以前の連絡を添えた。照会への回答は、指定の車両へ渡せば契約上の業務を完了したものとする、という内容だった。

 

「何回ありました?」

 

 トールが訊いた。

 

 メイルは抽出された一覧を渡した。全件が同じ品物とは限らない。表の中には、現物の使用先が確認できた正規の部品も混ざっている。シーアは、それらを消さず、確認済みの印を付けた。

 

 異常な記録を探すためには、普通に届いた荷物も残しておく必要があった。

 

 事務所を出た時、入口にいた責任者が、基地から契約を見直すと通知されたことを告げた。

 

「取引の継続について、こちらからも説明の機会を求めています」

 

 男はシーアへ名刺を差し出した。

 

「殿下から、何か一言いただければ」

 

 シーアは名刺を受け取ったが、その場で約束はしなかった。

 

「僕は契約の更新を決められません。ただ、資料を提出した日と、その内容は報告します」

 

 男は失望を隠さなかった。トールが、記録の提出を理由とする不利益の懸念があるなら、通知そのものも提出するよう言った。

 

 帰りの車両で、シーアは名刺を端末の隣へ置いた。

 

 頼まれれば、知っている相手へ連絡することはできる。首都では、それで前へ進めた仕事もあった。だが今回は、その連絡をしなければ資料を受け取れない形にしてはいけなかった。

 

 彼はドーヴァンへ、会社が記録を提出した事実と、契約見直しの通知を受けたという説明を分けて送った。

 

 *

 

C.R.C. 7952.273 スティアガード宇宙基地

 

 基地の輸送車は、民間の倉庫へは向かっていなかった。

 

 入門記録には、第四受領所から積んだ貨物を載せたまま、基地の第五保管棟へ入ったことが残っていた。シーアは車両の整備記録と勤務表も照合した。同じ番号を別の車へ付けた形跡は、今のところ見つからない。

 

 第五保管棟は、長期保管品と契約業者へ返す機器を置く施設だった。稼働中の部隊が日常的に出入りする場所ではない。中へ入るには、補給部の承認が要った。

 

 シーアは、もう一度、荷主へ返還したという書類を開いた。

 

 承認者は、ダーストだった。

 

 名前を見たからといって、そこで全部分かったとは思わなかった。部下が作った一覧へ印を付けただけかもしれない。契約の処理を急がせた結果、実際の配送と書類が離れた可能性もある。

 

 だが、どちらであっても、本人の説明だけで済ませてよい段階は過ぎていた。

 

 その午後、司法省から、軍の契約執行と記録管理を調べる監察官が到着した。出迎えたのは基地の幕僚で、シーアではなかった。彼はTF-4Bから提出する資料を持ち、指定された部屋で待った。

 

 呼ばれると、トールとともに中へ入った。机には、星系検察側の捜査対象と、共和国側で確認する軍の記録が並べられている。

 

「君が、最初に時刻の不一致を見つけた」

 

 担当者が言った。

 

「はい。《メリド》の救難後の引き渡しです」

 

「その荷物は、正規の物資だった」

 

「十八個口とも、受領先を確認しています」

 

「今回留置した精製スパイスは、別の便だな」

 

「別です」

 

 彼は順に説明した。どの時点で何を知り、誰へ照会し、誰から回答を受けたか。報道に出た順番とは違っていた。見つけた時には意味の分からなかった番号が、後の資料でつながる。つながらないものも残った。

 

 監察官は第五保管棟の位置を確かめ、返還記録に記された車両番号と照合した。

 

「ここへ入った貨物の現在位置は?」

 

「未確認です。基地側へ、記録と現物の保全を求めています」

 

「返答は」

 

 トールが、届いた文面を示した。

 

 契約業者の所有物を含むため、当該業者との調整を要する。

 

 担当者は読み終えると、机の別の書類へ署名した。軍の管理下にある記録と貨物について、移動と処分を止める措置だった。業者の所有権を確定するまで、何もできないという回答は採らなかった。

 

 夕方、シーアはその執行に立ち会った。

 

 第五保管棟の前には、基地の保安員が二人いた。監察官から命令を受け取ると、当直へ連絡し、出入口の使用記録を保存した。搬出予定の車両は手前へ止められたが、運転手は車内に残り、誰も武器へ手を掛けなかった。

 

 記録室の職員が、申請された範囲の資料を出してきた。外へ返したはずの貨物に、基地内での保管番号が付いている。保管料を誰へ請求したかの欄もあった。

 

 シーアはその紙を受け取り、最初の一枚をトールへ渡した。

 

 基地の外で荷主を探していた間、司法軍は、その荷主へ保管料を請求していた。

 

 担当者が次の簿冊を求めた。職員は鍵の束を持ち直し、記録庫の奥へ戻っていく。

 

 シーアも椅子を引き、机の上に空いた場所を作った。

 

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