STAR WARS: STAR DESTROYER 作:あーくわいてんず
C.R.C. 7952.274 スティアガード宇宙基地、第五保管棟
保管棟の照明は、奥から順に点いた。
低い駆動音を立てて扉が開くと、空調の弱い区画に溜まっていた冷気が流れ出した。シーアは入口の線の手前で止まり、記録担当者が撮影を終えるのを待った。棚には、梱包を解いていない機器と、業者へ返すためにまとめられた部品が並んでいた。壁際には古い診療台があり、その上に、納入先を失ったらしい椅子が逆さに載せられている。
昨日の書類にあった貨物は、奥の棚に置かれていた。
保管番号を記した札は、ほかの荷物と同じだった。司法軍の標章が入ったものでも、特別な警告のあるものでもない。シーアが記録室で見た番号を読み上げると、立ち会っていた倉庫員が台車を止めた。
「こちらです。隣の段も、同じ扱いになっています」
男は出庫予定を開きかけ、画面に表示された保全命令を見て手を止めた。
「昨日、返すことになっていました」
「どこへですか」
トールの問いに、倉庫員は配送指示を差し出した。荷主の代理人が引き取るという記載があり、受け渡し場所は基地の外だった。ただし、昨日の搬出車両は門を出ていない。荷物も、まだここにあった。
司法省の監察官は、星系側の捜査官と書面を照合した。前日の移動禁止とは別に、対象貨物を開封して検査するための手続きが整えられていた。軍の立会人と倉庫の管理者が署名し、ようやく技術員が容器へ近づいた。
最初に出てきたのは、交換用の医療機器だった。二つ目には配管の部品が入っている。注文書との一致が確認されると、それぞれ別の台車へ移された。シーアは、止めていた納品のうち何を再開できるか、担当部署へ問い合わせた。
奥の容器を開いたところで、作業の手が止まった。
鑑識員が蓋の内側を撮影し、医療班の技術員を呼んだ。小さな密封容器が並んでいる。先日の第四受領所で見たものと似ていたが、シーアには同じ物質かどうかは分からない。技術員も、その場では断定せず、試料を取るための容器を準備した。
「これを必要としている部隊は、確認できましたか」
監察官に訊かれ、シーアは持ってきた回答を示した。
「記載された部隊は、すべて注文を否定しています。設備の保守契約そのものはありますが、この原料は含まれていません」
「荷主への請求は?」
「保管料です。入庫した日から、昨日まで」
監察官は、倉庫員が提出した帳簿へ目を戻した。入庫、棚の割当て、定期点検。どれも普段の業務として処理されていた。
シーアは倉庫の高い天井を見上げた。外側には基地の保安員が立ち、上空には警戒用のセンサーがある。この荷物を盗もうとする者がいれば、司法軍が捕まえたはずだった。
鑑識員が次の試料番号を読み上げた。記録担当者が復唱し、倉庫員は自分の帳簿に同じ番号を書き加えた。
*
検査結果が揃ったのは、二八一日だった。
第五保管棟にも、提出された許可では扱えない精製スパイスがあった。第四受領所で留置した二個とは別の搬入分であり、既に同様の貨物が基地内へ入っていたことになる。荷主として記されていたセレダ医療供給には、軍の診療設備を保守する契約があった。しかし、その契約に基づく発注書には、見つかった原料の注文が存在しなかった。
貨物とともに保全された資料は、別々の机へ送られた。トールと星系の捜査官は搬入と販売の経路を調べ、監察官は軍の契約と承認を追った。シーアはTF-4Bの記録を照合し、司法軍の護衛を利用していた便について、運航日と参加船を確認した。
仕事は、貨物を見つけた日よりも増えた。
ラスクが持ってきた一覧には、同じ会社の名が何度も出ていた。正規の納品もあった。診療室で使われている部品や、整備員が取り付けた機器まで、すべて違法な取引へ数え直すことはできない。二人は一件ずつ使用先を確かめ、現物がないもの、請求元が注文を認めないものを分けていった。
「保管料の入金は、ありました」
二九四日の朝、監察官がシーアへ説明した。
「基地の収入として処理されている。帳簿から消えていたわけではない」
シーアは、示された受入れ勘定を見た。軍の倉庫を民間業者が使った分の費用。数字の上では、共和国が受け取るべき金は受け取っている。
「それなら、支払った側が分かりますね」
「支払いをまとめていた会社までは。実際の荷主との関係も、調べている」
監察官は別の資料を重ねた。ダーストの職務に関係する取引先から、彼個人に利益が渡っていた疑いがあった。保管料とは別の支払いだった。シーアへ渡された資料では個人の口座情報は伏せられていたが、契約上の役務と実際の仕事が一致しないこと、同じ時期に特定の貨物への便宜が繰り返されていたことが記されている。
「本人は、何と?」
「軍務とは別の助言に対する報酬だと説明している。その仕事が実在したかを確認する」
紙の端には、資料を取得した機関と日時が付いていた。保安委員会から提供された取引関係の情報も、その一つとして記録されている。
添付された企業関係図の中に、シーアは見覚えのある金融組合を見つけた。
以前、リヴィアがホテルの客室で示した名前だった。
彼はすぐに私用回線を開くことはせず、トールへ、その組合について既に別件の説明を受けたことがあると伝えた。数日後、正式な照会への回答が届いた。セレダの資金調達には、ウルダンが支配する通商金融組合が関係している。ただし、貸し付けていたという事実だけで、個々の違法貨物への指示が証明されたわけではなかった。
その先は、契約会社から押収された通信と、拘束中の者の供述を照合して調べることになった。
シーアの手元へ来るのは、自分の担当に必要な確認事項だけだった。彼が知らないところで、別の者が資料を取り寄せ、回答を待ち、同じ説明をもう一度聞いていた。
*
C.R.C. 7952.309 スティアガード宇宙基地
ダースト管理官の机から、部隊別の急送要求がなくなっていた。
担当を外された後、未処理の仕事は臨時の受領班へ移されていた。机の脇には空の箱が置かれ、棚には私物のカップが一つだけ残っている。シーアは入口で足を止め、監察官に呼ばれてから中へ入った。今日は照合した記録について確認を受けるためで、彼自身が聴取を行うわけではなかった。
ダーストの隣には代理人が座っていた。管理官は以前と同じ制服だったが、襟元の留め具を外している。机に置かれた返還指示を見たまま、シーアとは目を合わせなかった。
「この通知を受け取った日には、貨物の内容を知っていましたね」
監察官が示したのは、二五一日の鑑定結果を伝えた文書だった。
ダーストは代理人と短く言葉を交わし、受領したことは認めた。
「その後にも、第五保管棟から同じ荷主へ返す指示を出している」
「契約を終了するためです」
「では、なぜ調査担当へ連絡しなかったのですか。対象となる貨物を保管していると、報告できたはずです」
返事はなかった。監察官は続けて、もっと前の日付の連絡を出した。医療班が注文を否定したこと、原料の用途が確認できないことを、担当者が管理官へ報告していた。返された指示には、通常の医療班へ問い合わせを戻さず、指定された業者との間で処理するよう書かれている。
シーアは、その文面を初めて見た。
自分が同じ質問を繰り返していた頃には、既に回答の一部が、この机へ届いていたことになる。
「部隊が必要とするものを、全部、正規の手配だけで揃えられると思いますか」
ダーストは顔を上げた。監察官ではなく、シーアを見ていた。
「君も急がせたでしょう。部品がなければ船が出ない。契約書の訂正を待っていられない。ここへ来る要求は、いつもそうです」
「僕たちが頼んだのは、船に使う部品です」
「それを持ってくる業者が、別の荷物も扱っている。取引を切れば、必要な方も来なくなる」
シーアは机の書類を見た。ダーストが早く通した注文の中には、実際に部隊を助けたものがあった。そのことまで否定するつもりはなかった。だが、管理官がいま説明しようとしているのは、納期の問題だけではない。
「この荷物を受け取って、僕たちのどの艦が出られるようになったんですか」
ダーストは口を閉じた。代理人が監察官へ、質問の範囲を確認したいと申し入れた。シーアはそれ以上、話さなかった。
確認を終えて廊下へ出ると、補給部の職員が壁際に立っていた。以前、広報を先に通すよう伝えに来た補佐だった。自分も呼ばれるのを待っているらしい。膝の上で書類の端を曲げ、シーアが見ていることに気づくと、それを伸ばした。
「仕事は、どこへ出せばいいですか」
男が訊いた。
「照会が来ている分です。返答を止めたままのものがあるので」
「臨時受領班へ。調査に必要な原記録は、監察官が保全しています。写しを使う時も、担当者へ確認してください」
補佐は頷いた。シーアは男の顔を見たが、何をどこまで知っていたのかは分からなかった。
その日の夕方、ダーストは拘束された。
廊下を歩いていく姿を、シーアは離れたところから見た。両側には執行を担当する保安員がおり、代理人が後ろから続いている。誰かが事務室の扉を開け、管理官の姿を認めて引っ込んだ。銃を抜く者も、何かを叫ぶ者もいなかった。
翌週には、セレダ医療供給の現地責任者と、マルダンの委託業務を統括していた幹部も身柄を取られた。配送先を変える指示と、申告内容が事実と違うことを認識していた記録が、それぞれにあった。
サナ・メイルの名前は、その発表にはなかった。
彼女が以前から訂正を求めていた書類は、誰が問題を知り、その後どう扱ったかを示す資料になっていた。
*
基地の補給部長が職務を停止されたのは、三一六日だった。
疑いは、部下の承認書へ印を押したというだけではなかった。契約をめぐる警告を受けた後にも特定の業者への扱いを変えさせず、その業者側から利益を受けていたことが、通信と取引の記録から調べられていた。
一方、基地司令官については、同じ金の流れへの関与は確認されていなかった。監察官の中間報告には、以前の査閲で指摘された管理上の不備を残し、改善の報告を十分に確認しなかった責任が記された。刑事事件の対象と、指揮監督の責任についての審査は、別々に進められた。
ドーヴァンはTF-4Bの幕僚を集め、担当を外れた者の代わりに誰が何を承認するかを読み上げた。基地司令部と任務部隊の仕事が、普段からすべて一致していたわけではない。今まで補給部へ回せば済んでいた要求が戻り、別の部署から同じ内容を訊かれるようになった。
「止まったものは、未処理のままにするな。必要な部品なら必要だと、こちらからもう一度出す」
司令官はロウへ確認を求めた。彼女は担当を振り分け、シーアには、確認済みの正規貨物と、現在止めている分を各艦へ説明するよう命じた。
廊下へ出たところで、ラスクが小声で言った。
「全部、やり直しですね」
「全部じゃない。使える回答もある」
「その区別を、もう一度するんでしょう」
シーアは否定できなかった。
外縁の修理泊地から、逃走していた武装艇が見つかったという連絡が来たのも、その頃だった。契約会社に残された修理費の資料から捜査が進み、星系側の捜査官が現地へ入った。艇は主機を降ろしており、出港できる状態ではなかった。身柄を確保された者と、二〇六日の戦闘との関係は、航行記録や押収した通信から調べられた。
トールから渡された照会には、《ケストレル》が記録した機影の識別についての質問があった。
シーアはゼーンの承認を受け、該当する記録を送った。戦闘の映像を開くと、画面の端に被害報告が重なった。艇の行方が分かったことと、あの日に失われたものは、同じ報告書の中で別の欄に載っていた。
ウルダンの取引網へつながる通信も、やがて金融資料と一致し始めた。現地の業者は、単に同じ組合から借り入れていたのではなかった。指定された貨物を扱い、利益の配分について連絡を受けていた。共和国側の司法機関は関係する資産への措置を進め、他の拠点へも照会を送った。
ただし、スティアガードの一件で、ハットの全取引が止まるわけではない。他の拠点へ出した照会の多くは、まだ回答待ちだった。
基地を使うこの搬入経路は停止された。現物と主要な記録が確保され、現地で承認と輸送を担った者たちの手続きは、裁判へ向けて進んだ。
毎日使われていた第五保管棟の一角だけが、しばらく出入りのできない場所として残った。
*
C.R.C. 7952.326 スティアガード軌道港
共用整備区画の入口には、新しい案内が貼られていた。
軍の作業員が通用口から入ろうとすると、港の職員が止め、別の入口を示した。身分証だけでは入れない。工事番号と、港側の承認を受けた作業一覧が必要になっていた。
シーアはフェンと並んで、そのやり取りを見ていた。港湾庁へ出した照会への回答は、その朝、基地に届いている。既存の救難設備と給水・給電は継続する。一方、協定の解釈が争われている共用施設では、新たな軍の作業を承認が済むまで止めるという内容だった。
「今日の点検も、新たな作業ですか」
「昨日までの承認書に載っていません」
フェンは端末を示した。
「前の書式なら、同じ設備に関係する作業として追加できました。今は、それを担当者の判断だけではできなくなっています」
「共和国側は、既存の整備支援に含まれると回答しています」
「こちらは、本星の委員会から違う指示を受けています」
彼女の声に、勝ち誇ったところはなかった。入口では作業員が工具を抱え直している。先に入った者の人数を確認するため、港の職員が奥へ呼びかけていた。
シーアは、午後に予定されていた救難艇の点検を示した。その艇を止めれば、別の一隻に待機を集めることになる。フェンは作業内容を読み、救難設備の継続に含められるか、港の責任者へ確認すると答えた。
「すぐには出ません。少なくとも、私だけでは」
「分かっています」
「それなら、基地からもそう説明してください。窓口の者が仕事を嫌がっているという苦情が来ています」
シーアは画面から顔を上げた。フェンの背後にいる職員も、同じ話を聞いていた。制服を着た自分が、彼らの前で何を言うかを待っているようだった。
「指示が変わったためだと、伝えます。以前のやり方で入らせるようには求めません」
フェンは頷き、責任者への照会を送った。
救難艇の点検には、その日のうちに承認が出た。次の日の設備改修には出なかった。ロウは技術員の割当てを組み直し、一隻の出港を後ろへずらした。
不正な契約を止めた後にも、正規の仕事を続けるための説明が要った。
帰り道、シーアは臨時の受領窓口にいるメイルを見かけた。マルダンの上着を着て、運転手へ新しい票を渡している。会社の契約は一部が停止されたが、港のすべての業務を一度に別の会社へ渡すことはできず、確認を終えた範囲では仕事が続いていた。
こちらに気づいた彼女が会釈したので、シーアも歩みを緩めた。
「新しい書式ですか」
「手配と、実際の受領を分けました。今度は同じ欄へ入りません」
見せられた票には、二つの時刻があった。どちらにも、何をした時刻なのかが書かれている。
「まだ、前の票で来る人がいます」
メイルは窓口の向こうへ目をやった。次の運転手が、古い形式の書面を手に待っていた。
「一度で全部は変わらないですね」
シーアが言うと、彼女は小さく息をついた。
「変わるなら、やります。今度は」
彼は仕事を止めないよう脇へ退いた。メイルは次の運転手を呼び、訂正する場所を説明し始めた。
*
C.R.C. 7952.351 コルサント、共和国元老院
アウレリアンが議席へ着いた時、補佐官は、朝に届いた訓令の一覧を開いていた。
共同事務局へ寄せられたものだけではなかった。司法軍の増員へ賛成していた代表団からも、分担金の執行を留保するという通知が来ている。あるものは新規の拠出だけを止め、別のものは、既に決まっていた納付まで本星の再審査へ戻していた。
最高議長が議事を進め、司法省の説明者がスティアガードの中間報告を読み上げた。貨物の押収、関係者の拘束、監督体制の変更。未了の捜査と、軍内部の審査についても説明があった。
最初の質問は、調査がどこまで及ぶのかというものだった。次の質問は、誰が費用を負担するのか。その次には、軍の記録を地方の裁判所がどこまで使えるかが問われた。
「今回、共和国の制度は犯罪を発見し、関係者を拘束した」
ロジンが発言した。
「その成果を無視して、司法軍全体への協力を止める理由に使うべきではありません。キャプテン・ヴァラリアンのように、内部の問題にも目をつぶらず仕事をする士官がいる。必要なのは、その者たちが働けるだけの権限と予算です」
「最初の貨物を開けた命令は、どこから出ましたか」
モスマが説明者へ訊いた。
「スティアガードの裁判所です」
「会社の記録を出した者も、鑑定した者もいる。その協力を省いて、自浄能力という説明だけをするのは正確ではありません」
アウレリアンは、机上の中間報告へ目を落とした。弟の名前は目立つ位置にあったが、事件をここまで進めた部署は、何頁にもわたって並んでいた。
「ですから、協力を制度にする必要があるのです」
ハロルドが言った。
「現地司法機関との連携と、軍の契約を外から確認する監督を、継続できる形にする。調査が済むまで何も変えないという案ではありません」
デノンの代表席に発言要求が点いた。
セヴラン・オルディスは、資料を読むために掛けていた眼鏡を直し、立ち上がった。アウレリアンとは、基地協定を扱う会合で何度か同席している。声を張る人物ではなかったが、相手が質問へ答えなければ、同じ文面を読み直すことを苦にしない。
卓上の航路図には、デノンの位置が表示されていた。インナー・リム、イセノ・セクター、銀河平面座標N-13。コレリアン・ランとハイディアン・ウェイが交わるこの星系では、港の利用条件の変更が、別々の方面へ向かう輸送へ響いた。そのために中央は協定の拡張を求め、オルディスは、そのためにこそ地元の承認が要ると主張していた。
「私が求めているのは、単純な確認です」
彼は司法省の説明者へ向き直った。
「補給と修理のために認めた施設が、後から別の任務にも使われる。その変更を、我々の政府が拒むことはできますか」
「既存の協定と共和国法に従って、個別に協議することになります」
「拒むことはできますか」
議場が少し静かになった。説明者は、最高議長の方を一度見てから、協定の義務を一方的に履行しないことは認められないと答えた。
「私は、元の協定を破るという話をしていません。新しい用途を加える時の話をしています」
オルディスは資料を切り替えた。デノン政府が受け取った協定案には、寄港支援と施設利用の範囲を広げる条項があった。
「スティアガードでは、軍の管理下に置いた貨物へ、誰が立ち入れるかが争われました。私の政府が同じことを懸念して、署名する前に条件を確かめると、分離主義と呼ばれる。署名した後に異議を出せば、義務を破ったと言われる。では、どこで同意すればよいのですか」
「通商連合との契約なら、そこまで慎重にはならないようだ」
ロジンが言った。
「企業との契約には、解除の条件があります」
オルディスはそちらを見た。
「共和国との関係も、同じように終わらせたいと?」
「同じだとは言っていません。だから、政府間の承認を求めています」
ハロルドが双方へ議題に戻るよう求めた。オルディスは口を閉じたが、表示していた協定案は消さなかった。
ヴェッロは、その条項とは別に、補給部長への過去の査閲報告を提出するよう要求した。
「犯罪の立証を待つ間にも、職務上の責任は調べられます。警告が出ていたのなら、誰が受け取り、改善したという報告を誰が了承したのか。業者と一人の管理官だけで終わらせないでいただきたい」
説明者は、提出可能な部分を整理すると答えた。
「可能な部分と、出せない部分の理由を。それぞれ期限を付けてください」
ヴェッロは座り、使い込んだ端末に日付を入れた。
アウレリアンは発言を求めた。捜査中の個人情報を保護することと、監督の経過まで説明しないことは別であると述べ、司法省に提出の区分を明らかにするよう求める。そのうえで、救難と通常の巡視を継続する費用を、係争中の基地拡張費から分ける案を示した。
「拡張の是非を争っている間にも、既存の任務は続きます。反対する案件を予算から特定できるようにしてください。すべてを留保すれば、既に同意した仕事も止まります」
「一つの支出から、別の事業へ振り替えられない保証は?」
オルディスが訊いた。
「用途を限定し、変更には別の承認を要する形を提案しています」
ベイルも、その案を実務協議へ送ることに賛成した。ボンテリは、本星政府が確認できる支出報告を条件に、共同事務局で検討すると答えた。合意できそうな部分はあった。
しかし、議事が次へ移る前に、別の代表団から帰国の通知が出された。
本星議会が採択した主権決議に基づき、追加の権限移譲に関する審議への参加を停止する。代表は政府へ報告するため帰国し、再派遣までの間、該当する会合には出席しない。
オルディスも、数日中にデノンへ戻ると告げた。政府と協定案を再検討するためだった。
採決の準備が始まると、表示された出席数は、開会時より少なくなっていた。共和国に留まると言う者も、なお交渉を続けると言う者もいた。それでも、この場で決めたことを本星へ持ち帰り、執行させると約束できる議員は減っていた。
会議を出たところで、アウレリアンはオルディスに追いついた。
「費目を分けた案を、出発までに送ります」
「拝見します」
オルディスは答え、眼鏡を外した。
「弟さんは、まだスティアガードですか」
「ええ」
「現場でされた仕事には、敬意を持っています。その仕事を理由に、別の権限まで認めろと言われることには反対ですが」
「本人の報告にも、誰の命令で何をしたかは書いてあります」
「それなら、政府の説明にも残していただきたい」
随員が出発時刻を伝えた。オルディスは会釈し、廊下を去った。アウレリアンはその場で補佐官へ連絡し、協定案に付ける費目別の資料を急がせた。
*
C.R.C. 7952.353 コルサント、最高議長府
ターキンが持参した勤務評定を、パルパティーンは最後まで読んだ。
窓の外では、夕方の交通が行政区の間を流れていた。執務机には、地方政府から来た回答と、翌年の予算審議の日程が並んでいる。代表団が帰国したため、出席者を確定できない会合もあった。
「現地での引き継ぎは可能かね」
「主要な証拠は確保されています。捜査機関は残ります。彼が常駐しなければ調査を続けられない段階ではありません」
「司法省は」
「軍務の説明と実施案をまとめる担当を求めています。司法軍は装備計画部への配置を提示しました。危機対策委員会の勤務を兼ねさせれば、予算と基地協定の調整にも使えます」
パルパティーンは、人事案を机へ置いた。
「以前は、彼が政治へ近づきすぎることを問題にしていたはずだ」
「非公式な関与が、所属部署の職務を越えていました。今回は、担当を明示します」
ターキンは、首都で必要になる面会先を示した。司法軍の部局、元老院の委員会、地方代表団、企業の担当者。同じ資料を別々の場所で説明し直す仕事だった。シーアには、そのうちの何人かが、役職へ就く前から連絡を取ってくる。
「彼の名前を出せば、話を聞く者はいるでしょう。軍の説明を、そのままは信じない者にも」
「聞いてもらうだけでは足りない」
パルパティーンは穏やかに言った。
「戻ってきた彼が、何を約束できるのかも整えてくれたまえ。誰も答えを持っていない場所へ座らせれば、次には彼も信じられなくなる」
ターキンは頷いた。
最高議長は、司法省との調整を進めることを了承し、人事案を返した。
*
C.R.C. 7952.356 スティアガード宇宙基地
辞令を渡された時、シーアは、最初に異動先を見た。
司法軍装備計画部。続いて、司法省・危機対策委員会の軍務調整担当を兼ねるという記載があった。コルサントへの召還。着任予定日は七九五三年の〇〇六日だった。
その上の一行へ目を戻す。
司法佐官。コマンダー。
「本日付だ」
ドーヴァンが言った。
シーアは読み直してから、姿勢を正した。司令官は受領の確認を終えると、儀礼的な調子をやめ、机の向かいの椅子を示した。
「座れ。任務の説明がある」
ロウも同席していた。彼女の前には、引き継ぎ案と移動の予定が置かれている。コルサントへ戻ることは、先に調整されていたらしい。シーアは二人の顔を見た。
「捜査が終わったから、戻されるんですか」
「終わってはいない。ただ、君の勤務場所をここに置く必要はなくなる。残る確認には、向こうからでも答えられる」
ドーヴァンは新しい任務の説明を開いた。
「首都で、軍の説明をさせたいそうだ。汚職の件だけではない。予算、監督の仕組み、地方との協定。いま止まっている案件を、軍が何を実施できるかまで含めて調整する」
「僕が、ですか」
「そのために呼んでいる」
説明書には、面会の調整に関わる部署が記されていた。最高議長府の幕僚として、ターキンの名もある。
午後、シーアは指定された回線で首都と話した。ターキンの傍らには司法省と司法軍の担当者が座っていた。誰かの私的な誘いではなく、各機関が仕事を分けるための説明だった。
「私が、首都政治の混乱を収める仕事に就く、と理解してよろしいですか」
シーアが確かめると、ターキンは、その通りだと答えた。
「軍務に関する部分を担当する。議会への説明、是正案の実施確認、予算と協定の調整だ。政治上の決定は、議員と政府が行う」
「前回は、その政治へ踏み込みすぎたという理由で、首都を離れました」
「今回は政府が求めている」
シーアは返事をしなかった。ターキンも、前の人事を言い換えて取り繕おうとはしなかった。
画面の向こうにいる担当者が、帰還後に予定される説明の一覧を出した。シーア自身の勤務について訊かれるものもあったが、大部分は、本人が決めていない制度と、その制度を今後どう変えるかについてだった。
「説明する資料には、職務上の権限でアクセスできるようにしてください」
彼は言った。
「知っている人へ個別に頼まなければ回答が来ない形では、説明を続けられません。司法省と軍の、どの部署が回答するかも決めていただきたいです」
司法省の担当者が、対象案件ごとの照会経路を設けると答えた。
「修正すると説明した後、その進み具合を確認できる体制も必要です。実施部門が何も変えていないのに、広報だけで完了したことにはできません」
「委員会への定期報告に含める」
ターキンが答えた。
「君にも、その資料をまとめてもらう」
約束されたものを、シーアは手元の任務説明へ書き込んだ。予算を自由に動かす権限でも、議員へ指図する権限でもない。それでも、いまより広い範囲から回答を集め、同じ机へ載せる仕事ができる。
彼は、そこまで確認してから任務を引き受けた。
通信が終わった後、ドーヴァンが一枚の紹介文を渡した。帰還に合わせて公表する略歴の案だった。
護衛と救難。海賊対処。不正摘発。
簡潔にまとめられた文章の中では、シーアがそれぞれの仕事を率いたように読めた。
「この部分は直してください。捜査を指揮したのは、僕ではありません」
シーアは該当する行を示した。
「トール司法官と、現地の捜査機関と監察官です。僕の担当は、資料の照合と情報提供でした」
「指摘して返す」
「戦闘検討の記録も、勤務評定に添付されていますか」
「ある」
ロウが答え、手元の添付一覧を見せた。二〇六日の戦闘について、本人の提案と続行中の判断を検討した記録が残っている。
シーアは、略歴の人質救出という記述の下へ、損害を併記するよう求めた。人質二名を救出し、八名を拘束した戦闘で、《ケストレル》は一名を失い、二名が負傷した。別の書類を探さなければ、そのことだけ分からない紹介にはしてほしくなかった。
「誤りは直す。ただ、記録を付ければこの人事が普通になるわけではないぞ」
ドーヴァンは、シーアの置いた辞令へ目を向けた。
「勤務の評価は私も出した。護衛と救難も、この件への協力も評価している。しかし、同じ仕事をした士官が、全員この速さで上がるわけではない」
シーアは頷いた。
ロウと同じ階級になった。自分より長く艦に乗り、いくつもの任務を終えた者が、その下の階級で働いている。家名と、放送に映る顔と、連絡を取れる相手の多さがなければ、この辞令が来たとは思えなかった。
それでも、新しい階級を見た時、嬉しくなかったわけではない。
そのことを、二人の前でうまく説明する言葉は見つからなかった。
「引き継ぎは、これまで通り私が確認します」
ロウが書類を差し出した。
「同じコマンダーになったからといって、未回答の照会を残して出ていかないように」
「はい」
シーアは受け取った。最初の頁には、自分が何度も追記してきた貨物の照合番号が並んでいた。
*
エレナには、その日のうちに知らせた。
彼女が通信へ出た時、背後には布を掛けた椅子が見えた。劇場の作業を手伝った帰りで、まだ外出着のままだという。シーアが昇任を伝えると、エレナは驚き、次に笑った。
「おめでとう」
「ありがとう」
「今度は、いつ戻るの?」
「コルサントへは、年が明けて六日。出発は三六一日になった」
エレナは予定表を開いた。少しして、シーアが何も言わないことに気づき、目を戻した。
「エリアドゥへ来る話は、まだ決められない?」
「うん。ごめん」
「帰ってからの勤務が分からないものね」
彼女は、予定表を閉じずに置いていた。シーアはそこへ目を向けた。次は自分が会いに行くと言ってから、まだ一度も日付を伝えられていない。今度の異動を説明しても、その約束を延ばしていることは変わらなかった。
「決められるようになるまで、連絡をしないつもりはないよ」
「それは、前にも決めたでしょう」
エレナが少し笑ったので、彼も笑った。
「じゃあ、今週の話。今日、階級が変わった」
「それも聞いた」
「まだ、付け替えてないんだ」
彼が机の小さな箱を見せると、エレナは画面へ身を寄せた。
「付けたところを見せて。今じゃなくてもいいから」
シーアは箱を開き、手のひらへ階級章を載せた。机の灯りが表面に映った。明日からこれを見て、別の呼び方をする者がいる。
「嬉しい?」
エレナは訊いた。
シーアは、すぐには答えなかった。
「嬉しいよ」
やがて、そう言った。
「戻ったら、やりたい仕事もある。ただ、僕だけが上がっていいのかとは思う」
エレナは彼の手元を見ていた。
「その話も、帰ってから聞かせて。お祝いする時に、してはいけない話じゃないでしょう」
シーアは頷き、階級章を箱へ戻した。その夜、制服へ付けた後で写真を撮り、最初に彼女へ送った。
*
C.R.C. 7952.361 スティアガード宇宙基地
出発の日、シーアの机は、着任した時よりも狭く見えた。
私物を片付け、持っていく資料を抜いたはずなのに、引き継ぎの書類だけで端まで埋まっている。ラスクが一つずつ受け取り、担当者と期限を確かめていた。現地に残す原記録は、既に別の保管場所へ移されている。
「この照会は、コルサントから答えていただくことになります」
「軍務調整担当の回線が決まったら送る。それまでは装備計画部へ」
「個人の連絡先ではなくて?」
「公務の方へ」
ラスクは頷き、欄を書き換えた。
廊下へ出ると、当直を終えたロウが待っていた。彼女は最終の確認済みの印を示し、移動中に返答できなくなる期間を各担当へ知らせてあると言った。
「首都の話も、時々送ってください。正式な通達で分かる頃には、こちらの予定が決まってしまっていますから」
「送れる範囲で」
「その範囲を確認するのも、今度の仕事でしょう」
シーアは笑い、敬礼した。ロウは返礼し、それから握手を求めた。
乗船前には《ケストレル》へも顔を出した。ゼーンは出港前の打合せへ向かうところで、長くは話せなかった。
「向こうで艦の話をするなら、整備中の分も数えてくれ」
艦長は言った。
「一覧に載っているからといって、全部、今夜出せるわけではない」
「分かっています」
「知っている相手が、説明する側へ行く。それだけでも少しはましだ」
前部通路には点検盤を開けた作業員がいた。シーアは床に延びた線を避け、記録ケースを身体へ寄せて通った。留め具はもう引っ掛からなかった。
旅客区画へ向かう車両からは、第五保管棟の屋根が見えた。隣の棟では荷役が続き、基地の門には搬入車両が並んでいた。確認に時間が掛かるようになったと苦情も出ている。その一方で、以前は書類だけで終わっていた質問に、誰が答えるのかが決まり始めていた。
シーアは、窓の外を見えなくなるまで見送った。
船内で端末を開くと、首都から来た着任資料が更新されていた。装備計画部の勤務場所、司法省の連絡担当、初日の説明予定。アウレリアンからは、各代表団が何を留保し、何なら協議に応じるかをまとめた資料が届いている。
帰国中のデノン代表、セヴラン・オルディスの名もあった。
協定の用途変更に対する地元政府の承認。費目を限定した拠出。施設内の記録を外部の司法機関が確認する条件。
添えられた伝言には、帰還後の説明を聞く用意があると書かれていた。
シーアは、三五一日の議事録を開いた。オルディスが何度も同じ質問をしている。司法省の返答を読み、その下へ、確認しなければ答えられない事項を書き出した。
客室の表示が変わり、出港前の案内が流れ始めた。彼は端末をいったん閉じ、拘束帯を締めた。
向こうで会う相手の一覧は、既に何頁にもなっていた。