STAR WARS: STAR DESTROYER   作:あーくわいてんず

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ラクサス宣言

C.R.C. 7953.003 コルサント、共和国元老院

 

 アウレリアンが代表部へ入ると、補佐官は朝の報告を脇へ寄せ、先に本星から届いた照会を示した。

 

 近隣の星系議会が採択した主権決議について、共和国政府の見解を確認してほしいという。父の署名があった。サーティネイニアンでも同じ決議を出すという意味ではない。自国の船と商社が、相手の港で昨日までと同じ扱いを受けられるかを確かめる必要があった。

 

 添付された決議は、共和国への加盟を維持するという一文から始まっていた。その後には、星系内の捜査、港湾管理、財産の差押えについて、最終的な承認権を星系の機関へ留保するとある。従来の司法協力を全面的に破棄するのではなく、域外当局への包括同意を停止し、案件ごとの審査へ切り替える内容だった。

 

「こちらにも、似た決議が来ています」

 

 補佐官は別の文書を並べた。だが、同じ箇所を読むと、今度は軍の駐留と施設の用途変更が対象になっていた。通常の捜査協力は継続すると明記されている。

 

「まとめずに、止まる仕事を分けてくれ」

 

 アウレリアンが言うと、補佐官は作りかけの一覧へ列を加えた。

 

 次の通知は、分担金だった。基地拡張と追加の保安事業へ充てられる額について、用途の確認が済むまで送金を留保する。別の政府は新年度の分担金全額を議会の再審査へ戻し、共和国財務局から、既に確定した納付義務は消えないという回答を受けていた。

 

「留保中の資金は、どこへ置くと?」

 

「自国の勘定に確保するとしています。支払いを拒んだわけではない、と」

 

 財務局の回答には、納付期限を過ぎた場合の扱いを変更しないと記されていた。アウレリアンは双方の文面を読み、予算担当へ確認する事項を書き加えた。

 

 共同事務局への増員通知の隣には、そこから職員を引き揚げ、単独で交渉すると伝えてきた政府の書面があった。軍の増員には賛成したまま恒久配備を拒む者も、駐留艦を必要としながら共和国司法官の権限拡張へ反対する者もいる。同じ様式で回答を求めたところから、同じ回答が戻ってくるわけではなかった。

 

 補佐官が最初の一覧を修正している間にも、新しい通知が入った。

 

 今度は、スティアガードからだった。

 

 *

 

C.R.C. 7953.003 スティアガード軌道港、第四受領所

 

 記録保管室の前では、共和国の捜査官と星系側の司法官が、同じ配送記録を見比べていた。

 

 セレダ医療供給を通じた違法貨物の搬入について、域外の送金先と輸送業者を調べるための資料だった。逮捕された現地責任者の手続きは進んでいたが、それで他の拠点への照会が終わったわけではない。トールは、後任の担当者へ引き継ぐ前に、必要な複製を共和国側へ送るつもりだった。

 

 ところが、二日前に星系議会が採択した決議を受け、証拠の域外移送に関する扱いが変わっていた。

 

「以前の承認は、この事件の捜査協力を対象にしています」

 

 共和国の捜査官が示した書面を、現地司法官は端末の横へ置いた。

 

「原記録の保全と現地での照合は、そのまま続けられます。複製の域外送付については、裁判所へ申立てをしてください」

 

「共和国の契約が不正に使われた事件です。共和国側でも、記録の提出命令が出ています」

 

「こちらでは、星系刑事手続法に基づいて差し押さえています。この提出命令だけで、保全の条件を変えることはできません」

 

 トールは、二つの命令書の事件番号を確かめた。共和国側は星系をまたぐ不正取引と共和国契約の侵害を調べ、現地側は、この港で行われた違法貨物の搬入と申告の偽りを調べている。同じ人物の、同じ取引が、それぞれの法律の下で事件になっていた。

 

「先方の裁判所へ送る期限があります」

 

「こちらの裁判にも使います」

 

 現地司法官は答え、机上の一覧を示した。彼も、同じ送金先について追加の資料を求めていた。調べる必要があるという点では、争っていない。

 

 倉庫の職員が、用意していた記録媒体をどちらへ渡せばよいか尋ねた。トールは持ち出さずに保全を続けるよう伝え、閲覧できる範囲で、共和国側の一覧との照合を始めた。隣の捜査官は本部へ権限の確認を求め、現地司法官は裁判所へ申立てを送った。

 

 その午後、共和国側から届いた回答は、共和国機関の提出命令はなお有効だというものだった。現地の裁判所も、自らの保全命令を取り消さなかった。

 

 資料は失われず、双方の捜査も続いていた。それでも、予定していた日の発送はできなかった。

 

 *

 

C.R.C. 7953.004 コルサント、共和国元老院

 

 合同審議の説明資料には、前日の倉庫の映像が使われていた。

 

 現地での照合は行われたこと、複製の送付には追加の司法手続きが求められていることを、説明員が話した。ロジンは発言を求め、その途中で表示された各星系の決議へ話を戻した。

 

「名称を変えても、やっていることは同じです。分担金を払わない。共和国の捜査官に記録を渡さない。艦艇が使ってきた施設へ、新しい条件を付ける。それを主権確認、再審査、暫定留保と呼んでいるだけでしょう」

 

「今回、施設への立入りは行われています」

 

 説明員が補足したが、ロジンは表示から目を離さなかった。

 

「今日は記録だけだ。次には立入りを止め、その次には捜査そのものを拒む。一つずつなら問題ないとでも言うのですか。これは分離主義的な行動です」

 

 複数の席で発言要求が点いた。アウレリアンは順番を待ち、ロジンが並べた文書のうち一つを開いた。

 

「どの決議を指しているのか、特定してください。こちらの政府は、既存の分担金を支払っています。留保したのは追加の拠出です」

 

「共和国の決定へ、従わないと言っている」

 

「この追加拠出は、まだ決定していません。もう一方の政府は、確定した納付を留保しています。財務局が対応しているのは、そちらです」

 

 ロジンの隣にいた議員が、未納政府への新規の支出を停止すべきだと主張した。地方政府の要求を擁護していた議員が、それでは地元へ約束した事業も止まると抗議する。別の席からは、義務を果たさない相手に先に払う必要はないという声が返った。

 

 ハロルドは説明員へ、争われている額を区分して示すよう求めた。

 

「共和国への忠誠は、費目ごとに選ぶものではない」

 

 ロジンは、まだ話を終えるつもりがなかった。

 

「共和国の機能を削ぎ、政府の権限を認めない。そうした行動を許し続ければ、最後には共通の法も保護も失われます。分離主義は、共和国の敵です」

 

 賛同する声と抗議が重なった。ボンテリは発言を認められると、議案に添付された主権決議の冒頭を表示した。

 

「この政府は、共和国への加盟を維持すると明記しています。その上で、証拠の移送を自国の裁判所で審査すると言っている。裁判所へ申し立てるよう求めることが、共和国の敵になる理由なのですか」

 

「共和国の捜査を妨げる行動を、分離主義的だと申し上げている」

 

「では、犯罪を立証するために、同じ証拠を保全している現地の捜査官も?」

 

 ロジンは、これまで協力できていたものを政治的に止めた責任を問題にしていると答えた。ボンテリは、そのために異なる決議と司法手続きを一括するべきではないと反論した。

 

 グレッシュは共和国の提出命令を有効に扱う必要を支持したが、補給契約の監督を軍だけへ戻す案には賛成しなかった。ヴェッロとともに、軍側が記録を出さなかった経緯の審査を求めた。ベル・イブリスは、地方の承認権を擁護しながら、合意済みの納付まで無条件に止めてよいとは認めなかった。

 

 議題が変わるたびに、隣の席へ頷いていた議員が、今度は異議を述べた。

 

 審議を終えた後、通路でロジンを囲んだ報道員の一人が、分離主義への対応を尋ねた。彼は立ち止まり、決議の名称に惑わされるべきではないと、同じ言葉を繰り返した。

 

 アウレリアンはその横を通り、代表部へ戻った。司法協力、分担金、基地利用を分けた一覧は、朝より長くなっていた。共和国全体の採決結果だけでは、その後、どの星系で何が実行されるかを説明できなくなっていた。

 

 *

 

C.R.C. 7953.006 コルサント

 

 到着口の向こうに弟を見つけた時、アウレリアンは、思っていたより荷物が少ないことに気づいた。

 

 シーアは旅行鞄を従者へ渡し、記録ケースだけを自分で持っていた。制服の襟には、新しい階級章が付いている。連絡員へ会釈すると銀髪が肩から滑り、近くの報道員が撮影機を持ち上げた。仕切りの向こうから呼ばれて顔を向けたが、歩みは止めず、指定された出口へ向かってくる。

 

「おかえり」

 

「ただいま。来てくれたんだ」

 

 差し出された手を握ると、弟は笑った。アウレリアンは肩へ軽く触れ、待たせてあった車へ案内した。

 

 構内を離れる頃、着任先から確認の連絡が入った。シーアは到着を知らせ、指定時刻には間に合うと答えてから、兄が渡した追加資料を開いた。

 

「三日前からの分だ。前に送った添付だけで説明しないように」

 

「トール司法官のところも?」

 

「記録は保全されている。問題は、その先だ」

 

 シーアは新しい条件の付いた欄を読んだ。自分が手続きを見届けてきた事件も、他の星系へ資料を送る段階で、別の争いになっていた。

 

「オルディス議員の後任は、もう来てる?」

 

「昨日、代表資格の確認が済んだ。イレナ・ヴァルス。地元の議会で通商委員長を務めていた人だ」

 

 デノンの事故を、弟は移動中に知っていた。公邸と管制塔を巻き込んだデューロ航空611便の墜落。政府首脳と元老院議員の死。その後に届いたのは、暫定政府の成立と、新しい代表を送るという通知だった。

 

「前任者との協議は引き継ぐと言っている。ただ、同じ回答をするとは限らない」

 

「うん。直接は会ってないのに、もう話したことがあるような気がしてたんだ。議事録を何度も読んだから」

 

 シーアは記録ケースへ手を置いた。アウレリアンは、出発前のオルディスと話した廊下を思い出した。費目を分けた案を送ると約束し、実際に送っている。受領したという返事も残っていた。

 

「弔問は、仕事とは別に時間を取ろう」

 

 弟は頷いた。しばらく二人とも話さず、窓の外を流れる街を見ていた。

 

 *

 

 装備計画部の机には、新しい名札と、兼務先へ持ち出せる資料の区分が置かれていた。名札には、司法佐官アレクシアール・ヴァラリアンとある。

 

 本部運用局から来ていたニール・ヴァントが、向かいの椅子を引いた。

 

「移動は順調だったか、コマンダー」

 

「はい。……その呼び方、まだ慣れません」

 

「こちらもだ」

 

 ヴァントは予定表を滑らせた。午前は装備計画部、午後は司法省。兼務の調整は部局間で行い、面会を求められた時も、先に担当を確認する。シーアが記録ケースを開けると、彼は机の空いた一角を見た。

 

「模型を置くなら、まず資料を片付けてからにしろ」

 

 会議の最初に出たのは、修理中の艦と使えない設備の一覧だった。就役艦、現在出動できる艦、次の任務までに整備を終えられる艦。重ねた表の中で、同じ名前の色が変わる。シーアは《ケストレル》を見つけ、ゼーンから頼まれた通り、配備案がどの表を使っているか確かめた。

 

 クアット・ドライブ・ヤーズからは、設計試験の進捗が説明された。ヴェネター、マエルストローム、マンデイターII。以前、自分が説明した名前に、見覚えのない改訂番号が付いている。彼が貨物を追っている間も、試験は進んでいた。

 

 通信越しのカースは祝辞を短く切り上げ、ヴェネターの艦橋周辺を拡大した。

 

『艦隊指揮区画の追加席と、航空管制側の作業区分を検討しています。上部構造物は、まだこの案ですが』

 

「救難と輸送の連絡が重なった時に、誰かの席を空けて使う形にはしたくありません」

 

『居住区より、そちらを先に御覧になるとは』

 

「どちらも必要です。寝るところを潰して増やすのも困ります」

 

 周囲で小さな笑いが起きた。カースは確認項目を技術担当者へ渡した。

 

 新造艦の費用を、この数週間で決着させることはできない。一方、既存の修理設備へ送る電源機器と部品には、今期の予算で判断しなければ間に合わないものがあった。シーアは午後の資料へ加え、基地の拡張費とは分けられると説明した。

 

「現地では、追加工事と解釈しているものもある」

 

 施設担当者が念を押した。

 

「こちらの費目を分けても、搬入の承認にはならない」

 

「用途と工事の範囲も確認します。費用だけ決めて、荷物を先に出すことはしません」

 

 ヴァントはその回答を書き留め、会議の後も、司法省へ持っていく資料を彼と確認した。

 

 *

 

C.R.C. 7953.009 共和国元老院、司法委員会

 

 モン・モスマは、説明席に立ったシーアが、いつ顔を上げるのかを見ていた。

 

 資料を出す職員へ礼を言い、表示が揃うまで待っている。六歳年下の少年の輪郭はまだ残っていたが、発言の許可を求める声には、以前のように言葉を急いで押し込むところがなかった。傍聴席の撮影機が動いても、彼はハロルドの合図を見ていた。

 

「本日は、スティアガードで変更した受領確認と、それを継続するために必要な人員について説明します。捜査中の事実認定と、個人の刑事上の責任には、司法省の説明員から回答します」

 

 発注、搬入、受領、使用先の確認が図に並んだ。調査対象の記録を作った者と、照合する者を分ける。外部から来た質問を、調査対象の部署だけへ返さない。モスマは地方の司法機関が参加する位置を確かめた。

 

「軍側が選んだ資料だけを見るのでは、これまでと同じになりませんか」

 

「原記録と照合できる窓口が必要です。作戦上の理由で制限する場合も、その理由と、代わりに確認できる資料を記録へ残す案です」

 

「その制限を、誰が審査しますか」

 

「契約を扱った部署とは別の者です。星系側の司法機関との共同確認は、司法省から協議を求めています」

 

 実施の時期を訊くと、今度は司法省の説明員が答えた。人員と予算の承認が必要であり、最初は対象を限るという。ロジンが審査ばかり増やすべきではないと言い、グレッシュは、正規貨物を遅らせない受領担当の増員も必要だと応じた。

 

 ヴェッロは、前回提出させた査閲報告を開いた。

 

「その予算とは別に、以前の指摘へ回答しなかった者の審査も続けていただきたい。新しい仕組みを説明しても、古い報告の受取人は変わりません」

 

 続いて人事局へ、軍務調整担当の選任と昇任の理由を尋ねた。勤務実績と特別選考の経過が説明されても、照会の欄は閉じなかった。

 

「本人の勤務を否定しているのではありません。ほかの者には適用していない選び方をした理由を、選んだ側へ尋ねています。本人に答えさせず、書面で回答してください」

 

 モスマは、シーアが小さく息を吐くのを見た。庇われたというより、自分が答える番ではないと確かめたようだった。

 

 休憩になると、ベイルが彼を呼び止め、帰還と昇任を祝った。モスマも近づくと、シーアは少し丁寧に会釈した。

 

「お久しぶりです、モスマ議員」

 

「コマンダー。次にお会いする時も、同じ呼び方でよいのでしょうね」

 

 ベイルが口元へ手を当てた。シーアは一拍置いて答えた。

 

「今のところ、変更の連絡は受けておりません」

 

「それは安心しました」

 

 彼女は手元の図を示し、照会先を分ける案は支持すると告げた。

 

「実施後の報告も、委員会へ直接出してください。あなたが来られない時にも読めるように」

 

「そのつもりです」

 

「担当部署の仕事にしていただきたいのです」

 

 シーアは頷き、次の会合で確認すると答えた。声に混じった苛立ちを、モスマは聞き流した。

 

 デノンの話になると、ベイルの表情が変わった。事故に関わった機関から独立して記録を確認できる体制を求め、照会を出している。モスマも署名していた。

 

「結論は、まだ出ていませんね」

 

「中間の説明だけだ。遺族へ説明することと、新しい政府との仕事を進めることは、どちらも必要だよ」

 

 モスマは廊下の先を見た。オルディスと最後に話した時も、彼はあの先から次の会合へ向かった。休憩終了の音が鳴るまで、三人の会話は途切れていた。

 

 *

 

C.R.C. 7953.012 デノン代表部

 

 イレナ・ヴァルスは、持参された資料を受け取る前に、シーアを壁際の記帳台へ案内した。オルディスの写真のそばには、公邸で亡くなった人々を悼む文面がある。彼は名を記し、筆を戻した。

 

 仕事の席へ移ると、ヴァルスは同じ協定案を出した。部屋の隅には地元から来た荷物が積まれ、補佐官は必要な資料を探すたびに箱を開けていた。

 

「前の政府は、これを審議へ出すこと自体に反対していました。新政府は、条件を付けて再開する方針です」

 

 シーアは同席した司法省の文官と確認し、九十日間の暫定利用案を示した。現在の救難と補給を対象とし、用途を広げる場合は別の協議を行う。常駐艦は増やさず、緊急救難による寄港には別の報告を付ける。

 

 ヴァルスは、軍の使用によって動かした民間作業も確認できるよう求めた。共和国側は記録の範囲を広げる代わりに、通常の寄港まで毎回議会の採決を待つ形にはしないよう要請する。対象を定めた九十日分の承認なら、本国へ諮れるという回答だった。

 

「内閣も連立の組み方も変わりました。ただ、港で働いている者まで入れ替わったわけではありません」

 

 ヴァルスはオルディスが送った照会を開いた。

 

「ここに書かれた問題は、今もあります」

 

 シーアは、その文面を覚えていた。用途変更を拒めるか。拠出した金が別の事業へ回らないか。少し前まで、画面の中のオルディスへ返事をするつもりで、説明を組み立てていた。

 

「これがまとまれば、前任の議員も賛成されたでしょうか」

 

 言ってから、訊くべきでなかったと思った。ヴァルスは古い書面を新しい案の横へ置いた。

 

「分かりません。私は何度も反対された側ですから。ただ、御本人に理由を聞くことはできたでしょうね」

 

 シーアは目を伏せ、未決の欄へ戻った。自分たちの案を改善して相手の賛成を得たのではない。いま同じ机にいるのは、別の考えを持つ人だった。

 

 その日は、両政府へ持ち帰る文面を揃えるところまで進んだ。事故調査についても代表部は協力すると答えたが、宇宙港と公邸を扱う機関は別であり、資料の提出期限までは約束できなかった。

 

 シーアはその連絡先も公務の記録へ加え、退出の前に、もう一度写真の前で足を止めた。

 

 *

 

 リヴィアと会ったのは、四日後だった。

 

 ホテルの窓際には夕方の光が入り、低い卓に茶が二つ置かれていた。彼女は立ち上がり、仕事の時よりも先に笑った。

 

「おかえり」

 

「ただいま」

 

 差し出された手を取ると、リヴィアはすぐには離さず、階級章から彼の顔へ目を戻した。

 

「写真だと、もっと大人びて見えたのに」

 

「それ、褒められてる?」

 

「写真を撮った人は」

 

 シーアは笑い、隣へ座った。カッシオが四人で会おうと言っていたと話すと、セリアとはもう予定を合わせてあるという。

 

「あなたが、忙しいふりをしなければ」

 

「ふりじゃないよ」

 

「それなら、忙しいまま時間を取って」

 

 茶を寄せられ、彼は袖口を直してカップを持った。リヴィアはその手元を見ていた。遠いところへ行ってしまったように感じた時間が、同じ卓につくだけで短くなる。

 

 シーアはスティアガードの話をした。メイルが新しい受領票を使っていたこと、ラスクへ照会を引き継いだこと。捜査の先について、彼女が答えられる範囲は限られていた。

 

「ウルダンの件は、別の拠点への照会が続いている。人事への干渉も、別件で進んでいるわ。必要な説明は、担当の司法官から来るはず」

 

「第二室の資料で確認できたものも多かったと聞いた。ありがとう」

 

「読んで確かめた人たちにも、言ってあげて」

 

 彼は頷き、首都の仕事へ話を移した。デノンの新しい代表と会ったこと、前任者の質問が残っていたことを話す。

 

「相手は変わったけど、答えなきゃいけないところは、あまり変わってなかった」

 

 リヴィアは横顔を見ていた。オルディスの窓の前にも、開いた協定案があった。倒れた手の下へ挟まった紙を、彼女は動かさなかった。

 

「協議は進みそう?」

 

「前よりは。ただ、事故の後だから進むという言い方は、したくない」

 

 リヴィアは茶器の取っ手を指で直した。彼は亡くなった議員の質問を無駄にしないよう話し、彼女は、その議員が最後に何を求めたかを知っていた。

 

「疲れてる?」

 

 シーアが手へ触れた。彼女は引かずに、少し、と答えた。

 

 食事までの時間を仕事の話だけで終わらせたくなくて、カッシオから聞いた模型のことを尋ねた。シーアはスティアガードで広げる場所を探した話を始めた。

 

 夕食の時刻になっても、彼女はデノンのことを話さなかった。

 

 *

 

C.R.C. 7953.020 司法省、危機対策委員会

 

 次の会議に必要な資料は、二日前になっても揃っていなかった。

 

 契約を扱う部署は捜査中のため提出できないと回答し、司法省は通常の執行記録なら出せるはずだと答えていた。並べてみると、保全された通信と、今月の修理費の記録が、同じ照会番号にまとめられている。一方を出せないという回答で、もう一方まで止まっていた。

 

 シーアは要求を分け直し、ヴァントと提出先を確認した。支出の一覧はその日のうちに届いたが、それにも必要な答えがなかった。

 

「承認した額です。業者へ実際に入金された額ではありません」

 

 会計担当者が説明した。元請から先の作業員や部品業者が受け取ったかどうかは、さらに別の記録になる。

 

 シーアは説明文から、未払いは解消されたという一文を削った。

 

「そこを消すと、改善した点が伝わりません」

 

 広報の担当者が言った。

 

「承認したことは説明できます。受け取ったことは、まだ分かりません」

 

「全体として前進していると示す必要があります」

 

 シーアは言い返しかけ、口を閉じた。代わりに、確認できた支払いと、まだ照合中の支払いを分けた。地方の業者が知りたいのは、この表のどこへ自分の請求が入っているかだった。

 

 午後にはトールから、域外送付の申立てを補正して出したという報告が来た。原記録を動かさず、必要な期間の認証された複製を送る。現地法廷に用いる資料は現地で保管し、共和国側へ渡した範囲も記録する案だった。裁判所の許可は、まだ出ていない。

 

 シーアは、これを他の星系でもそのまま使えるとは考えなかった。だが、同じ争いが起きるたび、最初から誰が答えられるかを探すのは避けたかった。法務担当者へ、案件を受け取る窓口と、拒否された時に照会できる先を協議項目へ加えるよう求めた。

 

 翌日の議長府への説明では、その仕事へ継続して人を出してほしいと申し入れた。

 

 パルパティーンは一覧を読み、ターキンは、既存の職員を回せば何が遅れるかを尋ねた。シーアは通常業務の代替要員も必要だと答えた。各部局の余った時間だけで返答していては、会議へ間に合わない。

 

「予算を進めるために、先に人を出さねばならないわけだね」

 

「はい」

 

 最高議長は司法省の担当者へ、現在の権限で可能な割当てを示すよう求めた。承認の要る部分は別にする。担当者が席を離れると、シーアへ目を戻した。

 

「君なら間に入ってくれる、と考える者が増えたようだ」

 

「公務の窓口も知らせています。ただ、個人の連絡先へ来る照会もあります」

 

「それを断れば、元の窓口へ戻ってくれるかね」

 

 シーアは答えをためらった。自分の連絡で回答が早くなることはある。その順番も、自分が選んでいた。

 

「同じ条件の案件なら、同じように処理できる形にしたいです」

 

「そのためにも、いま止まっているものを動かさねばならない。結果を知らせてほしい。約束した相手にも、私にも」

 

 夕方、臨時の照合班へ職員を出す決定が届いた。シーアは担当者の名と回答期限を、次の説明資料へ加えた。

 

 *

 

 ホロネットのスタジオには、帰還したシーアを紹介する映像が用意されていた。

 

 宇宙港で撮られた姿、スティアガードの倉庫、元老院の廊下。制作担当者は、背景の図より人物を大きく映したいと説明した。化粧を担当する女性が、制服の肩に落ちた銀髪を整える間、彼は動かずに聞いていた。

 

「皆さん、戻ってきたあなたを見たいんです。書類を見たいのではなく」

 

「図を消さなければ、構いません。司法省の説明員も、最初から同じ机にお願いします」

 

 映されることを断るつもりはなかった。なぜ自分が呼ばれているかは分かっていたし、その時間を使うために来ていた。

 

 番組が始まると、司会者は救難と海賊対処を尋ね、それから現在の担当へ話を移した。

 

「議員の方を説得するお仕事になるのでしょうか」

 

「軍が何を実施でき、どの条件が必要かを説明します。予算と協定の決定は、議会と政府が行います」

 

「でも、皆さんがあなたへ相談を持ち込む」

 

「私から、説明を聞いていただくようお願いすることもあります」

 

 司会者が頷く間に、シーアは修理施設の図を出してもらった。電源を更新しなければ作業台が使えなくなる。新設基地とは別の仕事だが、同じ予算案にあるため審議が止まると一緒に遅れる。

 

「それなら、分ければよいのでは?」

 

「更新した設備を別の任務にも使えるなら、現地政府は、その条件も聞きたいはずです。費用だけでなく、用途を明記した案を協議しています」

 

 司法省の説明員が地方側も参加する手順を補足した。シーアは相手が終えるのを待ち、実際に修理できる艦が増えるまでの工程を示した。

 

 最後にデノンとの協議を訊かれた。新政府との関係が変わったのは、彼が戻った効果かという。

 

「協議再開を決めたのは、私の帰還前です。いま取り組んでいるのは、その協議で使う条件を整える仕事です」

 

 翌日、彼の出演を見た代表部から照会が届いた。三つは、しばらく会合へ職員を出していなかったところだった。案を見たいという返事であり、賛成や出席の約束ではない。それでも、説明を送る先が増えた。

 

 同じ日の報道には、ロジンが「分離主義的な留保に屈してはならない」と述べる映像も使われた。その後で、シーアの修理施設の説明が流れた。

 

 彼は番組を閉じ、返ってきた質問へ目を戻した。一つの代表部は、協議に出席すれば主権決議の撤回と扱われるのかを確かめていた。シーアは司法省へ確認し、未合意の権限を認めたことにはならないという回答を、出席案内に付けてもらった。

 

 *

 

C.R.C. 7953.031 共和国元老院

 

 作業部会の座席が足りなくなり、壁際から椅子が運ばれてきた。

 

 アウレリアンは資料を膝へ移し、戻ってきた代表団の補佐官を机の端へ迎えた。以前の案へ同意するためではなく、本星の条件を伝えるために来た者たちだった。

 

 修理費の審議は、負担と監督の話へ広がった。地方の要望を入れていくと、当初案より共和国側が負担する額は増えた。ベル・イブリスは、自分の代表部の修正を示した。

 

「地方で出している費用を、全部差し引けとは言っていない。合意した共同任務へ提供した分を確認して、同じ仕事の費用を二度取らないよう求めている」

 

「共同任務のために増えた支出かどうか、確認が必要です」

 

 会計担当者に、シーアが行動記録から分かる範囲を説明した。艦の燃料を一律に同じ割合で分けることはできない。ハロルドは、その計算を続ける職員の費用も示すよう求めた。節約になるという説明だけでは、実施を承認しなかった。

 

 司法協力では、星系の裁判所が保全した証拠を、共和国へ一律に引き渡す条項が外された。法務担当者は、所在を維持したまま必要な複製を送る手順と、域外送付の申立てを受ける窓口を提示した。拒否の場合も、何が不足し、どこで審査されるかを返答する。

 

「これでも、本星の裁判所が許可しなければ出せません」

 

 地方の代表が念を押した。

 

「その権限について、今回、包括的な移譲は求めません」

 

 司法省の説明員は答えた。

 

「ただし、共和国側からの保全要請を受け取らないという扱いは避けたい。現地の手続きへ送る担当者を、常に指定してください」

 

 ボンテリは、その担当者を行政の都合だけで替え、案件ごとに受取りを止められないよう修正を求めた。最終的な管轄権の争いは残ったが、先に証拠が失われるのを防ぎ、申立てを処理するところでは、文面が揃い始めた。

 

 デノンからは暫定利用の承認が届いていた。ヴァルスが九十日分の用途と費用を確認し、共和国側の権限を持つ担当者が署名した。シーアは運用条件を付表へ反映する仕事を終えてから、ほかの代表部の返答を確かめた。

 

 参加を続けると答えた者も、今回の案を持ち帰るだけだと言った者もいた。主権決議を取り下げたという報告は、そこにはなかった。

 

 片付けが始まると、モスマがシーアの隣へ来た。机には、次の面会依頼がいくつも残っている。

 

「どの順で会うつもりですか」

 

「支出の期限が近いところから。相手の予定もありますが」

 

「誰と先に話すかを、あなたが決めるのですね」

 

 シーアは顔を上げた。

 

「相談はしています」

 

「承認を受けたかどうかだけを訊いているのではありません。政府への照会より、あなたへの面会を先に求めるようになっている」

 

「来ていただける機会があれば、使います。僕が断っても、元の窓口へ戻ってくれるとは限りません」

 

 言ってから、議長府で聞かれたのと同じことを答えていると気づいた。モスマはしばらく彼を見て、報告様式を机へ置いた。

 

「面会した案件と、受け入れた条件を残してください。あなたに会っていない代表団にも、なぜこの案が先に進んだのか説明できるように」

 

 公表する決定の経過と、交渉中のため非公開とする情報が分けられていた。シーアは読み終え、手元へ挟んだ。

 

「出したら、今度はその順番を批判されそうですね」

 

「理由があれば、答えればよいのです」

 

「議員は、僕が何をしても安心はしないでしょう」

 

「安心するために選ばれたわけではありませんから」

 

 モスマは少し口元を緩め、今回の支出案には賛成すると告げた。シーアは礼を言ったが、彼女が去った後も、しばらく面会依頼を見ていた。

 

 *

 

 ラックスとハックスには、二人が本部へ来る日に合わせて会った。

 

 それでもシーアは二十分遅れ、食堂へ入った時には、ハックスは食事を終えていた。ラックスが向かいの椅子から上着を取る。

 

「君の昇任を祝うにも、予約が要るようになるとは」

 

「遅れて悪かったよ」

 

 シーアは皿を手元へ引いた。ラックスは階級章を見て祝いを述べ、政府が彼を呼び戻したのは当然だと言った。

 

「前に首都を離れた時も、似たことを言ってなかった?」

 

「前は、君が動かしすぎた。今度は、ほかの者では動かせない」

 

 ハックスがカップを置いた。

 

「君が間に入るまで、同じ案を読むことさえしなかった。それで最後には、自分たちの決定だったと発表する」

 

「同じ案じゃない。負担も、閲覧できる記録も変えた」

 

「変えたのは誰だ?」

 

 シーアは食器を止めた。二人の見方を、ただの見当違いだと言い切ることはできなかった。

 

「僕も提案した。でも、金を出す人も、現地で仕事を変える人もいる。僕が承諾して、代わりに済ませられることじゃない」

 

「それでも、君の求めた回答が先に返るようになった」

 

 ラックスは穏やかに言った。

 

「それも実際に起きていることだ」

 

 食堂の入口で、職員がシーアを探していた。目が合うと近づき、午後の説明を早められないかと訊いた。彼は勤務表を確認し、十五分ならと答えた。

 

 ラックスは何も言わず、彼が席へ戻るのを待っていた。

 

 *

 

 四人のお茶会は、その数日後になった。

 

 カッシオは、贈った模型が無事だったかではなく、何回遊べたかを訊いた。シーアが数えようとすると、セリアが笑った。

 

「そんなに少なかったの?」

 

「途中で片付けた分を入れていいなら、増える」

 

「勝つところまでやってから片付けるんだ」

 

 カッシオの言葉に、リヴィアは、負けそうだったから片付けた可能性もあると答えた。シーアが艦の組合せを説明し始めると、カッシオがすぐに異議を唱えた。

 

 茶が来てから、セリアは新しい輸送契約の発表を見せた。通商連合の系列企業が、途中の港を使えなくなった場合の代替輸送まで引き受けるという。

 

「港の条件が変わるから、次の便を探し直さなくていい契約が売れるのね」

 

「軍の巡察が増えても、そちらは残るわ」

 

 リヴィアは答えた。

 

 シーアはスティアガードで待たせた船長を思い出した。船を守ることと、商船の仕事が予定通り終わることは、同じではない。

 

「修理できる場所が増えるだけでも、少しは違うと思う。今回の予算で、そこを進めたいんだ」

 

 カッシオは頷き、発表を閉じた。窓の外を貨物船が横切ると、シーアは無意識に目で追い、また二人に笑われた。

 

 その後、エレナから劇場の写真と、見学できる日の候補が届いた。シーアは休暇を申請したことを返信した。まだ承認前だとも書いたが、返事を勤務が決まるまで延ばしはしなかった。

 

 リヴィアはセリアの話を聞いていた。彼が端末を伏せると、空いていた菓子の皿を寄せた。

 

 *

 

C.R.C. 7953.044 共和国元老院

 

 支出案は、当初の形では成立しなかった。

 

 新設施設の一部と、軍が求めた追加の自由裁量は外された。その代わり、既存の救難と巡視、修理機器の更新、契約を独立して確認するための人員は残った。費目を移す場合には別の承認を求め、地方が共同任務へ出した経費のうち、合意済みの分を精算する措置も入った。

 

 結果が表示されると、アウレリアンは実施側へ成立した条項を送らせた。賛成票には、それまで一緒に投票していなかった者の名があった。反対した者の中にも、司法協力の個別協議は続けると答えた代表団がいた。

 

 シーアは装備計画部へ連絡した。翌日には発注と支払いの処理が始まり、現地の作業日程と使用許可を照合して、輸送の順番が決まっていった。

 

 四九日、スティアガードから共用整備区画で点検を再開したという報告が届いた。フェンが確認した条件には、軍と港の双方の承認が付いていた。

 

 ロウからも短い連絡が来た。

 

 《艦の予定を戻せます。技術員は、まだ戻りません。次の作業まで残ってもらいます》

 

 シーアは笑い、滞在費が計上されていることを確認して返事を送った。

 

 トールの求めた複製にも、現地裁判所の許可が出た。認められた記録が共和国側へ送られ、受領の回答が戻る。ただし、別の星系へ出した金融資料の照会は、その地の手続きに基づいて追加の審査を受けていた。最初の許可を、次の場所でも使えるわけではなかった。

 

 デノンでは暫定協定による寄港支援が始まり、ヴァルスから、九十日後の更新に使う報告も最初から揃えたいと連絡が来た。一方、事故調査への追加照会は全部には答えられず、モスマとベイルは再照会を出し、ヴェッロは未提出の資料とその理由を確認した。

 

 新規拠出を留保していた政府の一つは、用途を限定された巡視分の送金を認めた。しかし、分担金全額を止めた別の政府は、会計の説明だけでなく、共和国の決定が自国の議会に優先する根拠を求め続けた。財務局の回答も変わらなかった。

 

 アヴィ・シンからは、今回の用途制限と経費精算を、ほかの政府にも検討させたいと連絡があった。共同事務局には引き続き職員を出すという。シーアは公表可能な資料を送り、必要なら説明に応じると答えた。

 

 翌週の会合へ出る者の一覧には、共和国に留まると明言した代表団と、加盟条件そのものを再検討すると通告した代表団が、ともに載っていた。

 

 *

 

C.R.C. 7953.053 コルサント、司法省

 

 最後の会議が終わった時、窓の外は暗くなっていた。

 

 シーアは、回答待ちの二件のうち、一件が解決したことを確認した。残る一件には、翌朝、本星から返答するという連絡がある。明日の最初の説明も取り消され、送った資料だけで審議を進めてもらえることになっていた。

 

「朝食を食べてから来られますね」

 

 机を片付ける職員へ言うと、相手は笑った。

 

「家で食べられる、というだけですよ。ここでも食べています」

 

 椅子の脇には軽食の容器があった。自分の机にも同じものがあるのを見て、シーアは資料を鞄へ入れる前に捨てに行った。

 

 廊下では、翌日の交通と天候が案内されていた。兄へ帰宅の連絡を送り、エレナとの通信までに何を済ませるか考える。装備計画部の図面は、明日見ることにした。

 

 その時、背後で音が途切れた。

 

 振り返ると、公共表示が暗くなっていた。すぐに青い光が戻り、人物の上半身が映った。画面の隅には、通常の番組とは違う発信表示がある。

 

 白い髪と整えられた髭。外套を垂らした男は、撮影機をまっすぐ見ていた。

 

 ドゥークー伯爵だった。

 

 シーアが足を止めると、会議室から出てきた職員も壁を見上げた。別の者が報道局の回線を開いた。そちらにも同じ男が映り、予定外の放送であることを知らせる文字が流れ始めていた。

 

『銀河に生きる諸君』

 

 低い声が廊下へ響いた。

 

『諸君の多くは、私をかつてのジェダイとして知っているだろう。私は長い歳月、共和国に仕えた。星々を結ぶ法が、遠く離れた者同士にも同じ保護を与えると信じていたからだ。力を持たぬ者が、力ある者に従うほかない銀河を、私は望まなかった』

 

 通信担当者が回線を呼び出した。シーアは鞄を脇へ置き、発信元を確かめた。

 

「ラクサスです。ラクサス・プライムの共和国通信施設から送信されています」

 

 端末の星図が拡大された。アウター・リム、ティオン覇権領、銀河平面座標S-5。ペルレミアン・トレード・ルートから接続航路へ入った先にある、シンの代表する星系だった。

 

「施設が占拠されたという通報が出ています。通常の管理回線には応答がありません。報道局も、それぞれ中継を始めています」

 

 画面に群衆も兵士もいなかった。ドゥークーは声を張らずに続けた。

 

『諸君は知っているはずだ。危機に際して助けを求めた時、共和国から何が返ってきたかを。調査の約束。次の会期。さらなる負担の要求。諸君の港が閉ざされ、商船が襲われ、子どもたちの食卓から食べ物が失われても、コルサントでは、どの委員会がそれを扱うべきかが話し合われていた』

 

 兄から連絡が届いた。

 

 《見ているか》

 

 シーアは受信を返し、書きかけた言葉を消した。

 

『この銀河に、勇敢な軍人がいないわけではない。誠実な官吏も、公正な裁きのために働く者もいる。私は、その献身を軽んじるつもりはない。しかし、共和国はいつまで、彼らの勇気に頼って、自らの怠慢を償わせるのか。救われた者の感謝を、救いを届かせなかった政府への信任にすり替えるのか』

 

 シーアは足元の鞄を見た。今日使った支出の報告が入っている。届いた機器と、再開された作業の記録だった。だが、画面の男は、その一件を反証として求めてはいなかった。

 

『元老院は、銀河を等しく代表すると称している。ならば、なぜ辺境の声は、コアの有力者の紹介を得るまで届かないのか。なぜ幾十億の市民の訴えが、一企業の利益よりも長く待たされるのか。腐敗は、密かに金を受け取る者だけの問題ではない。それを知りながら、秩序のためだと言って存続を認める者の問題でもある』

 

 帰宅しかけた職員が呼び戻され、廊下へ足音が重なった。誰かが公共表示の音量を上げた。

 

『かつて共に歩んだ、ジェダイの諸君にも問おう。諸君が守ると誓ったのは、生きる者たちか。それとも、この政府の威信か。元老院が正義を見失った時、その決定に従うことを、正義に仕えることと呼んではならない。平静を保つことと、不正を見過ごすことは、同じではないのだ』

 

 シーアは記録の保存を指示した。

 

 元老院では、ベイルが補佐官から渡された端末を机へ置き、モスマは明日の修正案から顔を上げていた。共同事務局では、本星へ連絡を取る職員の声が重なった。すぐにつながる回線も、応答のない回線もあった。

 

 スティアガードの港では、勤務を終えた荷役員たちが食堂の壁を見ていた。途中から入ってきた者が隣へ尋ね、答えを聞くより先に、伯爵の声へ顔を向けた。

 

『諸君は、改革を求めてきた。代表を送り、請願し、負担を引き受け、約束が果たされるのを待ってきた。その忍耐は、忠誠の証として称えられた。そして、もう待てないと告げた時、諸君は共和国の敵と呼ばれた』

 

 ドゥークーはわずかに間を置いた。次の言葉は、前よりも静かだった。

 

『政府は、信任を失った者へ、永遠の服従を要求することはできない。星々を結ぶのが自由な合意であるならば、その合意を見直す権利もまた、星々に属する』

 

 待機を命じる公務連絡が入った。シーアは確認を返したが、まだ鞄を持ち上げなかった。映像の下へ、署名を伴う共同宣言の表題が出ていた。

 

『私は今日、元老院へ、もう一度同じ請願を届けるために立ったのではない。自らの未来を、自らの責任において選ぶ決意をした政府と市民を代表し、ここに告げる』

 

 表示され始めた星系名を、シーアは追った。協議のために同じ机へ資料を並べた相手も、その一覧にあった。共同事務局にいなかった星系の名が加わる一方、主権決議を出していた政府でも、ここには名を連ねていないところがあった。

 

 コルサントで「分離主義的」と呼ばれてきた相手の一覧とは、一致していなかった。

 

『我々は、共和国政府の支配から離れ、主権を有する独立した星系の連合を結成する。我々の法と、我々の通商と、我々の安全を、我々自身の合意によって定めるために』

 

 保安委員会の執務室で、リヴィアは通信へ手を伸ばしかけ、そのまま止めていた。同じ声は、デノンの新しい政府庁舎にも流れていた。

 

『我々は、コルサントの市民を敵とはしない。共和国に留まることを選ぶ星系へ、同じ選択を強いることもしない。我々が求めるのは、諸君が当然のものとして享受する権利を、我々にも認めることだ』

 

 伯爵はまっすぐ前を見ていた。

 

『独立星系連合は、自由を望むすべての星系に門戸を開く。諸君の未来を決める席は、諸君自身のために用意されている。もはや、そこに座る許可を、コルサントへ求める必要はない』

 

 通信は途切れなかった。受信した局がまだ届いていない地域へ送り、別の放送では最初の言葉が再び流れた。夜の都市にも、朝の宇宙港にも、航路上の船内にも、同じ男の顔が映っていた。

 

 シーアの前で、伯爵の姿が共同宣言の文面へ変わった。別々の決議で見た星系名の幾つかが、今度は一つの文書の末尾に並んでいた。

 

 銀河中へ、離脱の呼びかけが広がっていた。

 

 分離主義危機が、始まった。

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