STAR WARS: STAR DESTROYER 作:あーくわいてんず
C.R.C. 7953.053 コルサント、最高議長府
議長府の控室では、ドゥークーの演説が音を落として流れていた。
シーアが記録ケースを置くと、司法省の職員が隣の机を空けた。向かいでは、共同宣言へ署名した政府と、それぞれの星系に残る共和国の施設を照合している。星図に色が付くたび、別の担当者が通知を持ってきた。港の受入れを続けるという回答もあれば、政府の決定が出るまで入港させないという回答もあった。
「ここの議会は、宣言への参加を承認していないそうです」
職員が一つの星系を指した。署名したのは政府の全権代表だったが、本星の議会は委任の範囲を争っていた。シーアは名簿から消さずに異議を付け、艦の受入れについての回答を別の欄へ移した。同じ色に塗られていても、翌朝にできることは揃っていなかった。
会議室へ呼ばれると、ターキンは司法軍の幕僚から報告を受けていた。地方政府が自国の部隊を共同任務から引き揚げるという通告と、司法軍に所属する隊員の離籍申請が、違う書類として机に並んでいる。艦の所在は変わっていなくても、誰の命令で動くかが変わり始めていた。
「明朝、補給船が入ります。現地の港は受け入れると回答していますが、基地司令が命令の確認を求めています」
幕僚が積荷を示すと、パルパティーンは医療資材と交換部品の欄を読んだ。
「宣言を、直ちに交戦開始の通告として扱ってはならない。安全を確認し、既存の任務を続けられるよう指示してくれたまえ。現場ごとに違う判断で発砲を始められては困る」
司法軍側は、継続する命令と追加の指示が要るものを分けた。シーアが報告を求められたのは、前日まで協議していた政府の連絡先だった。成立した予算や修理の予定も、一件ずつ確かめられる。独立を宣言した相手へ、既に発注した部品を送ってよいのか。支払いだけを止めれば、そこに残る共和国の艦も動けなくなるのではないか。答えの出ない項目が増えていった。
「ラクサスの窓口には、まだつながるのか」
ターキンに訊かれ、シーアは受け取ったばかりの文面を示した。
「共同事務局の職員には。ただ、今後は別の資格で連絡することになると言っています」
パルパティーンはその通知を手に取った。署名の下には、会談の用意があると記されていた。
「何を話すつもりなのか、確かめよう」
シーアは席へ戻った。端末にはエレナとの通信予定が残っていたので、今夜は難しくなったと送った。彼女も演説を見ていた。返ってきた短い言葉を読んでから、彼は、相手側が会談へ持ち込もうとしている軍事上の要求を開いた。
共和国基地の拡張停止。艦隊の集中を制限する区域。参加政府の領域からの部隊撤収。
修理費を通すために使っていた星図の上へ、違う線を引く仕事が始まろうとしていた。
*
C.R.C. 7953.066 コルサント、共和国元老院
ラクサス・セカンダスへの招請状には、アヴィ・シンの署名があった。筆跡は以前と同じだったが、共和国元老院の議員として送ってきたものではなかった。独立星系連合の参加政府から委任を受けた者として、政治的地位と軍事上の取決めを協議するとある。
「施設を占拠して放送した相手が、次は正式な使節を招く。こちらが出向けば、彼らの手続きを追認することになる」
ロジンは招請状を指し、応じるべきではないと述べた。別の議員が、会談の前に宣言を撤回させるべきだと続ける。ベイルは双方の発言を聞いてから、返答の案を表示した。
「出席によって独立を承認したと扱わせない条件を付けます。何を実行しようとしているのかを確かめ、こちらの要求を伝えるための派遣です」
「軍備を整える時間を与えるだけでしょう」
「会談を開かなくても、工場も造船所も動きます。制限を求める相手と話さずに、何を止められるのですか」
議場が静まったわけではなかった。対話を支持する者にも、共和国側が先に建造や配備を止めることには反対があった。ハロルドは、相手の申告を確かめる仕組みなしに削減を約束するべきではないと述べ、ヴェッロは、会談に出る者の委任を明確にするよう求めた。
「基地の所有を争っていることと、そこにいる職員を帰すことは別です。同様に、接近事故を避ける合意を、共和国の撤退義務へ読み替えられてはならない」
修正を経て、ベイルを首席とする代表団が組まれた。政治的地位と資産の帰属は文官団が扱い、艦艇・兵力・配備の附属書には司法軍の武官団が加わる。最終的な条約の締結と批准まで、その場で決める権限は与えられなかった。
シーアの担当は、装備計画部と軍務調整の仕事から続く、戦力の評価と申告の照合だった。武官団長となる司法代将カイラス・リンドは、最初の打合せで彼の前へ星図を置いた。
「数を比べるだけでは済まない。三隻を戻させるために、こちらの一つの工事を止める。その交換が何を意味するのかを説明してもらう」
「相手の三隻が、別の名義で戻ってくれば同じです」
「その通りだ。だから、所有だけでなく、誰が動かせるかを調べる。こちらが約束を守った時に、相手も守ったと確かめられる条件が必要だ」
リンドは、クアットの建造計画にも指を置いた。
「向こうは、これを出せと言ってくる。自分が進めてきた計画だからといって、最初から交渉の外へ置くことはできないぞ」
シーアは頷いた。机にあるのは、自分が何度も予算の必要を説明した艦の名前だった。
*
C.R.C. 7953.081 コルサント
派遣艦には、プロクラメイター級《アシュアランス》が割り当てられた。
かつて演習評価のために乗った艦は、今度は代表団の輸送と通信支援を担う。軍艦を外交船へ登録し直すのではなく、訪問目的と搭載する人員を通告し、指定の泊地へ入る条件を取り決めた。地上との往復には搭載艇を使い、代表団は自前の通信設備を維持する。
トーリンは乗艦したシーアを見ると、階級章へ目をやった。
「今度は査閲ではないと聞いた」
「記録を読ませていただくのは、変わらないかもしれません」
「必要な分は出す。ただし、艦を動かす判断は私がする。会議の予定を守るために、出せない艇を出すとは約束しない」
シーアは了承した。同じコマンダーになっても、ここで指揮を執るのはトーリンだった。
出発前夜、エレナは劇場の見学日を予定表から外した。取り消しは既に知らせていたが、通信越しに実際の欄が消えるところを見ると、改めて謝らずにはいられなかった。
「次に、とは今は言えないんだ」
「うん。初めて人を入れる日には写真を送る。あなたが来られないから、その日も延ばすわけにはいかないもの」
「見たい。帰ってからじゃなくても、見られる時に」
「じゃあ、どこが変わったか当てて」
彼女は笑った。シーアは、予定が確定するまで連絡をしないという以前の癖へ戻らないよう、写真が来る日を残した。リヴィアたちにも出発を知らせ、返事が揃う前に、艦内の打合せへ向かった。
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C.R.C. 7953.094 ラクサス星系
ハイパースペースを離れると、前方には商船の灯りと、警備艦の識別表示が重なっていた。
ラクサス星系。アウター・リム、ティオン覇権領、銀河平面座標S-5。ペルレミアン・トレード・ルートから接続航路を通って入った先で、共和国艦へ待機位置の変更が届いた。先行する貨物船の移動が遅れたためだった。航海担当者は指示を復唱し、トーリンは針路の変更を命じた。
シーアは艦橋後部の連絡席で、地上への移動予定を送った。正面の外部映像には、細長い艦影がある。ミュニファスント級《トレッセル》。所有者は企業で、ラクサス側の契約により会談周辺の警備へ就いていた。
新しい針路へ落ち着いて間もなく、警報が鳴った。
「特定追尾。火器管制の警告です。発信方位、《トレッセル》と一致」
電子戦担当者が表示を切り替えた。周辺を広く捜索していた信号とは別に、自艦へ追尾が集中している。トーリンは椅子から身体を起こし、格納庫へ発進待機を命じた。
「こちらから照射するな。受信記録を保存。管制と警備艦の両方へ連絡しろ」
シーアも回線を開いた。ベイルらは搭乗前の説明を受けているところで、まだ艇へは入っていなかった。移動を止めるよう伝えている間に、《トレッセル》からの通信が艦橋へ流れた。
『共和国艦。通告された経路から外れている。指定位置へ復帰せよ』
「こちら《アシュアランス》。管制の変更指示に従っている。受領番号を送信する。火器管制照射を中止されたい」
通信員が答えた。航海担当者は変更を認めた管制官の識別まで確かめたが、警告は消えなかった。シーアは艦外の細い船体を見た。砲火も発進する艇もなく、姿勢もほとんど変わっていない。その静かな画像の横で、経過時間だけが増えていった。
『通常の識別確認である。武器の使用を意図するものではない』
「意図ではなく、照射を止めるよう要求している」
トーリンが通信員へ言った。管制を同じ回線へ入れ、経路変更を警備艦にも確認させる。格納庫では搭乗口が閉じたままで、艦内では、撃たれた場合に備える報告が短く重なった。
七十四秒後、警報が途切れた。
トーリンはすぐには搭載艇を出さず、再照射がないことと、双方の回答を確かめた。代表団へ説明して発進を再開するまでに、さらに時間が掛かった。地上から届いた式典の変更通知には、「進入確認に伴う遅延」と記されていた。
シーアはその説明を消さず、自艦の報告を隣へ添えた。
*
ラクサス・セカンダスの地表には、林と水路に囲まれた街が広がっていた。着陸場へ近づくまで、軌道上の軍艦と同じ緊張を見つけることはできなかった。道路には車が並び、広場の天幕の下を人々が歩いている。低く降りて初めて、新しい旗と警備の列が見分けられた。
タラップを下りるシーアへ、どこかから名前を呼ぶ声がした。歓迎か非難かは聞き取れない。出迎えたシンは、まずベイルと握手し、随行員へ順に挨拶した。
「御兄上から、あなたの資料はよく拝見していました。今度は直接、お話を聞ける」
「先ほどの件についても、説明をお願いすることになると思います」
シーアが答えると、シンは短く頷いた。
「報告は受けています。まず、安全に到着されたことを喜ばせてください」
撮影機の向こうで、案内係が遅れた昼食をどうするか相談していた。シーアは次の随員へ場所を空けた。艦内では発砲に備えていた時間が、ここでは到着式の遅れとして扱われている。
会場は既存の公館を使っていた。新しい案内表示の下に、古い政府機関の名が残り、廊下の端には通信線が通されている。リンドは控室へ入ると、《アシュアランス》への回線を確かめさせ、シーアに照射の記録を整理するよう命じた。
隣の部屋では、ベイルが明日の机に置く名札を確認していた。肩書をどう記すかという、別の争いが始まっていた。
*
C.R.C. 7953.095 ラクサス・セカンダス、会談会場
最初の会議では、軍の数字を出す前に、それを約束できる者が誰かを確かめた。
シンが示した委任状は、参加政府ごとに範囲が違っていた。配備を協議できるものもあれば、保有数の上限には本国の再承認を要するものもある。共和国側も、地方政府の艦隊を一括して削減すると約束する権限は持っていなかった。
「本協議への参加は、政治的地位についての双方の立場を変更するものではない」
ベイルが文案を読み、シンは、共和国の管轄へ戻ったと解釈されないことを確認した。資産と主権を扱う文官団の会議は別室で続き、武官団は艦艇の模型が置かれた卓へ移った。
相手側の軍事技術代表は、リサ・ヴェルンと名乗った。ラクサスの保安艦隊で技術監督を務めていた女性で、制服の袖には使い込んだ跡があった。新しい所属札だけが、他の装具より白く見えた。
到着時の照射に関する抗議書を受け取ると、彼女は、艦の運用記録を取り寄せていると答えた。射撃命令はなく、通告された経路との相違を確認するための追尾だったという。
「射撃命令がなかったことと、照射がなかったことは別です」
リンドが言うと、彼女は頷いた。
「発信は否定していません。何を行っていたかを、記録で確認します」
その言葉がどこまで届くのかを、シーアは翌日の会合で知ることになった。《トレッセル》を警備へ出したのはラクサス政府だったが、所有者は企業であり、船内の記録をすべて提出する権限まで、ヴェルンへ与えられてはいなかった。
同じ問題が、艦隊の申告にも現れていた。
シーアは、ヘヴィ・クルーザーとしてまとめられた一覧を表示した。既知の艦級と新しい建造計画が、所有者別に並んでいる。建造番号七一号には、艦隊護衛用、未完成、引渡し先調整中と記されていた。寸法と搭載設備は、共通の申告様式が決まった後に提出するという。
「この一隻と、こちらの大型プロヴィデンスを、同じ枠で数えるのですか」
シーアが尋ねると、企業側の担当者は、用途に従って分類したと答えた。ヴェルンは共和国側の識別図を見比べ、分類ごとの上限を決める前に、その分類を揃える必要があると述べた。
ルクレハルクの模型が卓の中央へ置かれた。貨物船登録を理由に計数から外すという説明へ、リンドは、その状態で運用できる艦載機と兵力を示すよう求めた。船体の一部を商用へ使っていることと、戦闘能力がないことは同じではなかった。
「それなら、司法軍が命令できないクアットの大型艦も対象ですね」
ヴェルンが共和国側の表を引き寄せた。
「所有する者と、実際に動員できる者を両方記します。こちらだけを例外にはしません」
リンドが答え、シーアへ修正を命じた。彼は所有者の隣へ平時の指揮者、契約や動員によって使用できる者を加えた。艦種名に加え、寸法と搭載能力も必要だった。
兵力の説明では、稼働中の戦闘ドロイドだけを数えた数字が出てきた。シーアは停止中の保管分を尋ね、ヴェルンは、武器と動力設備を外した機体と、命令があれば動く機体を一緒にはできないと答えた。
「その区別を、こちらが確認できるようにしてください。電源が入っていないという申告だけでは、削減したことにはなりません」
「工場の在庫まで、すべて軍の保有に含めるのですか」
「完成して引渡しを待っているものと、材料しかないものも分けます。どの段階で計数し、保管先で何を確認するかを決める必要があります」
相手は、共和国側の予備要員と動員予定も同じように問うた。現役の総数を揃えるだけでは、短期間に戻せる戦力の差が残る。削減した兵器を別の倉庫へ動かすだけにしないための条件には、双方の軍から質問が増えた。
初日を終える頃、上限の数値を入れる場所はまだ空いていた。だが、誰かが数を一つ書けば、そのためにどの艦を外し、どの設備を調べさせることになるかは、少しずつ見え始めていた。
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C.R.C. 7953.098 ラクサス・セカンダス
附属星図の南方区域には、六隻の巡洋艦を示す印があった。
分離側が指定した基準日の記録では二隻だったが、現在は交代と護衛を理由に艦が増え、二つの補給地点が使われている。共和国側は、現状をそのまま基準にすれば、会談の間に集めた戦力まで既存配備として認めることになると反対した。
ヴェルンは、同じ図に表示された共和国の拠点を指した。
「こちらには、既存基地の維持と書かれています。追加の電源、整備設備、弾薬の保管区画まで、維持に含めるのですか」
スカリフのM3185も、その中にあった。シーアは基地化が凍結されたままであることを説明したが、計画が存在しないとは言えなかった。本体と保全要員は残り、工事を再開すれば、艦隊が利用できる能力は増える。
「電源の交換だけで、船を新しく置くわけではありません」
共和国側の施設担当者が言った。ヴェルンは、その電源を何に使うかを尋ねた。
「交換前に直せなかった船を、交換後には直せる。滞在できる艦が増え、別の基地まで戻らなくてよくなる。それを軍事的な変更として扱わないのなら、こちらの補給船も同じです」
シーアは施設担当者と図面を見た。相手が誇張している部分もあったが、すべてが誤りではなかった。まさに、その効果を得るために計画を進めていたのだ。
午後には、双方から組み合わせた案が出た。巡洋艦六隻のうち三隻を指定区域外へ戻し、新たに設けた補給地点の一つを閉じる。その代わり、共和国はM3185への追加設備の搬入を一定期間据え置き、ほかの指定施設でも新たな能力を加える工事を凍結する。
「期間は一〇〇日。その間に、恒久的な地域枠を詰める」
シンが文官団との協議を終えて戻り、試案を説明した。
「出ていく三隻と、交代で入れる艦の扱いも必要です」
シーアは六つの印を見ながら言った。
「別の会社へ契約を移して戻れるなら、減っていません。巡洋艦の代わりに、同じ任務を続けられる航空部隊と補給設備を置く場合も同じです」
「こちらは、艦の引揚げに応じると言っています」
企業の担当者が答えた。
「その代わりに止める工事は、動かして戻すことができません。こちらだけ工事の遅れを引き受ける案にはできない」
リンドが言葉を継いだ。ヴェルンは、撤収する艦と残す設備の申告を合わせる案へ修正し、共和国の工事現場についても確認を求めた。
署名には至らなかったが、シーアは初めて、持ち帰って検討できる交換条件ができたと思った。リンドの指示で、工事を遅らせた場合の巡察と修理への影響を書き始める。相手側も、引き揚げた艦を受け入れる場所と、保安契約の変更を確認することになった。
会議の後、費用を扱う資料が届いた。分離側の補給と整備を支える共同融資には、コアの複数の工業星系の名があった。豊かな政府が中央への拠出を減らし、その分を自分たちの艦隊と共同事業へ回す。そうすれば独立しても保安を維持できるという試算だった。
調整役のダニル・ヴァルテン議員は、コルサントで融資の保証条件をまとめていた。彼の地元では連合への参加も審議中だったが、関係する金融組合と造船企業が同じ方針を支持しているわけではない。共和国の調達を失うことを恐れる者も、中央の制限を外したい者もいた。
シーアは、まだ署名されていない保証を、確定した資金と分けて記した。相手の整備計画が実行できるかどうかには、その違いも関わっていた。
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C.R.C. 7953.100 ラクサス・セカンダス
現役艦の保有枠から先に協議する案が、机に戻ってきていた。
建造中の艦は、完成して引き渡された時点で通告する。それまでは現役の数に含めない。船体だけでは戦闘できず、所有関係も確定していないものを、今ある艦と同じに扱うべきではないという説明だった。共和国側も、将来の増加を扱う附属書を後から加える案なら、検討の余地があるとしていた。
シーアが次の質問を用意していると、連絡員が部屋へ入ってきた。いつものように机へ紙を置かず、リンドの背後から端末を差し出す。武官団長は読み終え、シーアを呼んだ。
「ヴァラリアン。少し来てくれ」
会議は止めず、残る担当者へ説明を続けさせた。代表団の通信室へ移ると、連絡員は持参した専用端末を置き、閲覧者を確認した。
「保安委員会情報局から、至急です。首席代表、武官団長、指定された評価担当者へ」
シーアの名も含まれていた。認証を済ませると、画面の上に極秘の区分が出た。交渉資料への転記には、別途開示の承認を要するとある。
最初の画像は、造船施設だった。
船台の周囲に作業構造物が並び、建造中の船体を囲んでいた。艦首側では外板が張られ、後方には露出した区画が残っている。主機を収めるらしい大きな空間の近くで、輸送船が接舷していた。シーアはその船の識別注記を読み、比較用の尺度へ目を戻した。
「船台が、五キロですか」
「船体だ」
リンドが答えた。
解析図では、建造設備と船体の輪郭が別々に示されていた。支持架構を含めた長さではない。画像で確認できる船体は、四千八百メートル前後と見積もられている。未装着の部分を含む完成時の寸法は、不明だった。
シーアは椅子へ座り直した。小さな作業艇だと思っていた影には、船名のある輸送船が含まれていた。船腹の厚みも、艦尾の構造も、尺度を読んだ後では違って見える。
次の頁に、申告書との照合結果があった。
《建造番号七一号。予備申告上の艦種、ヘヴィ・クルーザー》
シーアは番号を読み直した。会議場の一覧にあった。未完成のため保有数へ含めないことを協議していた、一隻だった。建造施設の位置と工程資料の照合から、同一の船体に対応する可能性は高いと評価されている。
古い撮影画像も添えられていた。その時点でも、既に大きな船体が組み上がっていた。新しい画像の撮影日は、一〇〇日だった。それまで露出していた区画に外板が張られ、船台へ運び込まれた設備が増えている。
評価欄は短かった。
《既知のヘヴィ・クルーザー級とは船体規模および構造が著しく異なる。未知のスター・ドレッドノート相当級と考える》
主兵装、機関出力、実用状態に達する時期は未確認。大型の軍用艦と評価される構造はあるが、画像から見積もれる収容空間を、そのまま搭載済みの能力として扱わないよう付記されていた。
「いつから分かっていたんですか」
「施設は以前から追っていた。今回、船体の連続した部分を確認できた。申告番号との照合も進んだそうだ」
リンドは画像から目を離さず答えた。
「昨日までなかったのではない。我々が昨日まで知らなかった」
シーアは撮影の日付を確かめた。ラクサス演説よりも前の画像だった。交渉が始まったので急に造り始めた艦ではない。自分がコルサントで修理費を説明していた頃には、既に船台にあった。
許可を受けて予備申告を開くと、寸法は空欄だった。用途は艦隊護衛。引渡し先は調整中。そこへ記された一隻と、いま見た船体を結び付けるのに、もう一度画像へ戻る必要があった。
「この大きさで、巡洋艦として出すつもりだったのか」
「呼称だけでは、意図を決められない」
リンドは申告を引き寄せた。
「向こうの分類なら、そう呼ぶのかもしれん。こちらがその分類で制限することに同意する理由はないがな」
シーアは頷いた。名称を変えさせても、船体が小さくなるわけではない。ここで警戒しなければならないのは、同じ呼称の一隻として数えた時に、何が枠の内側へ入ってくるのかだった。
連絡員がベイルを呼びに出た。シーアは報告の末尾を読み、同じ設計の二番艦は未確認という一文で止まった。全建造施設を調べ終えたという意味ではないと、すぐ下に記されている。
ベイルは画像と評価を読んでから、情報局への追加の質問をまとめさせた。申告番号との対応をさらに確認できるか。今後も工程を追えるか。どの情報を交渉へ出せるか。承認前に画像を会議場へ持ち込むことは認めなかった。
「今日は、どこまで決める予定でしたか」
首席代表に訊かれ、リンドは机上の案を示した。建造中の艦を除外し、現役の保有枠を先にまとめる案だった。
「このままでは、了承できませんね」
「できません。建造中の艦を後回しにして、こちらの現役艦だけ保管へ回す約束はできない」
シーアは午後の説明文を開いた。先に合意できる部分をまとめるため、自分が支持した順序だった。そこにいた頃の相手も、今の相手も、机へ出している文章は変えていない。新しい画像を見た側だけが、計算を変えなければならなかった。
*
会議室へ戻ると、シーアの席には修正版が置かれていた。相手側は休憩の間にも作業を続け、引渡し後の通告に期限を付けている。ヴェルンは彼が座るのを待ち、これなら将来の増加も把握できると説明した。
「引渡し前に、船体の規模と建造状態を申告していただく必要があります」
シーアが答えると、彼女は手元の紙を見た。
「共通の様式が決まれば提出します。そのために、別の附属書を設けるという話だったでしょう」
「その附属書が決まるまで、建造中の艦を除外した保有枠には同意できません」
ヴェルンはリンドを見た。武官団長はシーアの発言を訂正せず、本国からの情報を検討して立場を変更したと答えた。
「こちらは、巡洋艦三隻の撤収を本国へ提案しています。共和国側から出た順序に従って、です」
彼女の口調に、初めて不快感が現れた。合意できないことより、持ち帰った案の根拠を変えられたことに向けられているようだった。
「撤収を求める立場は変わりません。ただ、区域外へ戻した戦力を、建造中の艦がいつ置き換えるか分からないまま、こちらだけ工事を止める案にはできません」
リンドが答えた。
「どの艦の話をしていますか」
企業側の担当者が訊いた。シーアは七一号を指さず、建造艦の一覧全体を表示した。寸法、現在の工程、完成予定、引渡し先。既存の申告に欠けている項目を、すべての艦に求める。
「商業上の秘密を理由に、開示しない企業もあります」
「その場合は、未確認として残ります。記載がないことを理由に、戦力もないものとして計算はできません」
シーアは言い終えてから、次の質問を待った。ヴェルンは共和国側の建造計画を手元へ引き寄せた。
「マンデイターIIを含む、そちらの建造艦にも同じ資料を求めます。製造元の説明を受け取るだけでなく、船台の状態を確認する必要がありますね」
シーアは答える前にリンドを見た。武官団長は、相互に適用する原則を受け入れ、具体的な開示と査察の範囲は本国へ求めると述べた。
ヴェルンは少し待ち、それまで合意済みとしてまとめていた紙を抜いた。破棄せず、未決の束へ戻す。企業側の担当者は新しい照会を書き始めた。誰も席を立たなかったが、翌日には終えられると思っていた議題が、また増えた。
その夕方、シンがベイルを訪ねた。シーアは呼ばれ、軍務上の変更点を説明した。シンは最後まで聞き、追加の申告を集めるには各政府と企業の承認が要ると言った。
「その間も、事故を避ける協議は続けていただけますね」
「続けます。こちらの艦にも、約束した条件は守らせます」
ベイルの返答を聞いて、シーアは今日止めた案と、止めなかった案を記録へ分けた。巨大な船体を見たからといって、次の輸送艇を安全に降ろす仕事まで、なくなったわけではなかった。
*
C.R.C. 7953.103 ラクサス・セカンダス
《トレッセル》の提出記録から、管制の変更が警備側の訪問計画へ反映されていなかったことは確認できた。
しかし、変更が正しいと管制から返答された後も、追尾は続いていた。相手側は確実な識別のためだったと説明し、共和国側は、火器管制に使われる状態へ移った記録を根拠に抗議を維持した。発砲の意思までは確認できないが、受けた側が警戒しなければならない追尾だったという認定は変えなかった。
ヴェルンは当直者の判断記録も提出させると約束し、未了の資料に期限を付けた。その上で、会談に伴う通告済みの訪問艦と艇へ、通常の経路確認を理由とした射撃用の追尾を行わない暫定措置をまとめた。通常の捜索と自衛まで放棄するものにはせず、共和国側にも同じ制限を適用する。
管制からの変更は、訪問艦だけでなく警備側が受領したことも確かめる。試験では政府の受付から運用担当への転送が止まったため、臨時連絡席と各指揮系統に夜間の担当者が置かれた。会場の職員が艦へ直接命令するのではなく、誰が受け取り、どこへ伝えたかを返すための窓口だった。
ベイルとシンが覚書へ署名し、派遣部隊、ラクサス政府、警備を受託した企業が、それぞれ実施を承認した。適用期間は翌日から一二五日まで。照射事件の責任を解決済みとする文言は入らなかった。
翌朝、シーアは《アシュアランス》で最初の連絡艇の出発を確認した。予備の通信機器と交代要員を運ぶ便だった。管制と警備側の受領が返り、艇は予定の降下経路へ入る。電子戦の表示には捜索信号が残っていたが、火器管制の警告は出なかった。
着陸の報告が来ると、トーリンは当直へ次の予定を確認させた。合意があるから危険を無視してよいわけではないと、事前に代表団へ伝えている。今回、艇を出せたのは、艦長がその時の状況を確かめた結果だった。
シーアは地上へ戻り、実施の経過を送った。その隣には、なお止まったままの保有枠と、回答のない建造艦の一覧が開かれていた。
*
C.R.C. 7953.106 コルサント、共和国元老院
アウレリアンは、委員会へ提出された公開報告と、別に指定された閲覧資料を分けて受け取った。公表できるのは、訪問交通に関する暫定措置と、その最初の実施結果だった。艦艇の申告をめぐる追加情報は、全議員へ配られる資料には入っていなかった。
「相手は照射を認め、謝罪したのですか」
ロジンが訊くと、説明員は、追尾の経過は確認されたが、目的と責任には見解の相違が残ると答えた。ロジンは、謝罪もないまま対等の署名を与えたと批判した。
モスマは実施した輸送について尋ね、夜間にも連絡が届いたかを確かめた。ベイルの報告には、試験で失敗した部分も含まれていた。共和国艦の艦長が、政治的な理由で発進を強制されないことも確認された。
「一便が飛べたことと、軍備制限ができることは別です」
ロジンの言葉に、彼女は頷いた。
「だから、別の成果として報告されています。次の便まで止めてよい理由にもなりません」
ヴェッロは残る照射記録の提出期限と、艦艇申告の審議を継続する費用を確かめた。交渉の旅費だけでなく、後に査察を実施する人員をどこから出すかも説明するよう求める。その最後に、演壇から顔を上げた。
「そして、分離主義同盟滅ぶべし、と申し上げておきます」
今まで経費の欄を追っていた数人が、思わず彼を見た。離れた席から笑いが漏れ、別の場所では賛同の声が上がった。ヴェッロは表情を変えず、自分の端末を閉じた。
会議の後、アウレリアンの元へ、共同融資をまとめているヴァルテンから面会の依頼が来た。自国が連合へ参加する前に、共和国との条件を改めて確かめたいという。事務所が求めているのは、スローガンへの賛否ではなく、地元の造船所と金融組合が失う契約と、引き続き使える制度についての回答だった。
アウレリアンは時刻を指定し、その照会を関係部署へ送った。
*
C.R.C. 7953.110 ラクサス・セカンダス
共同融資の承認状は、まだ届いていなかった。
シーアは宿舎で、相手の整備計画と金融組合の公表文を並べた。船を持つ者と費用を出す者が違うことは珍しくない。ただ、整備を終えるという日付の中に、署名されていない保証を前提としたものが混ざっていた。
リンドは未確定と記すよう指示した。それで翌日の評価は作れるが、相手が本当に実行できるのかを知りたかった。造船所が発注を取り消すのか、それとも別の資金で続けるのかによって、交渉で待てる時間は変わる。
シーアはリヴィアの名を開いた。
『少し話せるか? 共同融資の公表資料について、聞きたいことがある』
会議の文書は送らず、公表文の表題と発表元だけを添えた。返事を待ちながら、机の上へ運ばれた食事を寄せる。壁面のホロネットでは港の取材番組が流れ、仕事が続くのかと訊かれた作業員が、明日の船は来ると聞いていると答えていた。
皿の覆いを外したところで、端末が点いた。
『今日は難しいから、一一六日でいい? そちらの夜なら話せる』
シーアは予定表を確かめ、大丈夫だと返した。都合が変われば教えてほしいと添え、端末を卓へ置く。その時、壁面の映像が報道局へ切り替わった。
『コルサントから入ったニュースです。元老院議員ダニル・ヴァルテン氏が、公用スピーダーの事故により死亡しました』
彼は顔を上げた。
警備の向こうに、横倒しになった車体が見えた。道路へ散った破片の間を救助員が歩き、映像の端を担架が通った。カメラが寄る前に議員の写真へ切り替わり、会合から戻る途中の事故だったと説明された。同乗していた運転手の死亡も確認されている。原因は調査中で、最高議長府が弔意を表したという。
シーアは机から金融組合の公表文を取り上げた。ヴァルテンは、その保証条件を参加政府の承認へつなげていた人物だった。地元の艦隊と工業力があれば中央に頼らず保安を維持できると主張し、共和国側の計算にも独自の資料で異議を出していた。
生前の映像が流れた。議員は元老院の廊下で呼び止められ、随員へ先に行くよう手を振っていた。声はなく、アナウンサーが本星政府の声明を読んでいる。
シーアは兄へ連絡した。少し前に面会したばかりだという返事が来た。詳しいことは分からず、代表部も情報を集めているらしい。
翌日の評価資料には、議員の事務所が回答する予定の欄が残っていた。シーアは事故の記事を添え、連絡先の変更を確認することにした。そのまま保存しようとして、一度、手を止めた。今夜のニュースを、未回答が増えたという記録だけにしてしまったように思えた。
彼は作業を閉じ、画面へ戻った。議員の紹介が終わり、事故現場がもう一度映っていた。運転手については、家族への連絡が続いているとだけ伝えられた。
食事を終えた後、予定表から確認が出た。
一一六日、リヴィアとの通信。
シーアは時刻を入れ、兄へ、現地でも訃報が流れていると短く送った。
*
C.R.C. 7953.113 ラクサス・セカンダス
相手が用意していた整備計画の一部は、日付が空欄になって戻ってきた。
ヴァルテンの死去を受け、共同融資へ保証を出す政府の一つが再審査を求めた。他の出資者も、その政府の分を誰が引き受けるかを確認するまで承認を見合わせている。計画が取り消されたわけではない。既に入金された契約は進み、まだ保証のない工事が止まっていた。
「この部分は、代わりの出資者との協議が済んでから示します」
ヴェルンは説明した。シーアは表から艦を消さず、完成予定の確度を変更した。
「費用が遅れることを、こちらの保有を減らす合意には数えないでください」
彼女が念を押す。
「数えません。動かせる時期の評価は変えますが、艦そのものがなくなったわけではありません」
リンドが答えた。シンは、参加政府の間で資金を調整すると述べ、南方区域から艦を戻す案は維持すると伝えた。ただし、どの艦を戻すかを変える可能性があるという。
共和国側も、その変更を受け入れるには代わりの艦の状態を確かめる必要があった。もともと長期修理に入る予定の艦を撤収と数えるのなら、相手が手放す運用上の負担は小さくなる。代わりに何を求めるかを、リンドとシーアは控室で話し合った。
その間に、コルサントから別の照会が届いた。ヴァルテンがまとめていた星系の連合参加案は、委員会へ差し戻された。残留派は共和国との産業契約を維持する案を出し、参加を求める側は、協議を打ち切らず続けるよう要求している。後任は、まだ決まっていなかった。
シーアは、数日前に相手の確定資金から外した保証額を見た。富裕な政府が中央から離れるために使おうとした金が、今はその政府の中に残っている。誰の支出へ向かうかは、まだ決まっていなかった。
*
C.R.C. 7953.116 ラクサス・セカンダス
リヴィアは、約束した時刻に応答した。
勤務を終えた後らしく、上着を脱いで椅子へ掛けていた。シーアを見ると帰国の見通しを尋ね、まだ本国へ持ち帰る案件が揃っていないと聞いて、少し眉を寄せた。
「最初は、もう少し早く戻る予定だったでしょう」
「予定を立てた時には、聞いていなかったことが増えたんだ」
彼は極秘報告のことは話さず、共同融資の公表資料を開いた。関係する組合の名前と、政府が保証する部分を確かめる。リヴィアは発表の日付を見て、事故後に更新された文書を送ってきた。
「ヴァルテンが一人で金を持っていたわけではないのね」
彼女は、出資者を示す表を指した。
「別々の条件で参加する相手をまとめて、最後に政府の保証を取るつもりだった。前から反対していた理事もいる。彼が亡くなって、同じ案を同じ責任で提出できる人がいなくなった」
「代わりの代表を選べば、戻る?」
「その人が、同じ合意をまとめられれば。今は別の案も出ているでしょう。共和国との契約を残したい会社には、そちらを審議させる理由がある」
シーアは、共同融資の資料から、共和国側が受け取った産業契約の照会へ目を移した。二つの文書に、同じ事業者の名があった。離脱へ備えていた会社が、それだけの方針で動いていたわけではなかった。
「裕福だから中央を必要としない、と説明されていたけど、どの商売を続けたいかでも違うんだな」
「自分たちの税収で艦隊を持てる政府なら、中央へ払うより自分で使いたいという案は出せるわ。けれど、造船所が受けている注文や、銀行が持っている債権まで、一緒に切れるわけではないから」
彼女は公表された条件を一つずつ確かめた。誤った額でまとめられた記事もあり、シーアは元の発表に戻って修正した。来週すべて取り消されるという話ではなく、どの保証がなくなると、どの工事へ影響するかが分かった。
「助かった。これなら、全部止まったと報告せずに済む」
「正式な評価へ使うなら、そちらの担当者にも確認してもらって」
「うん。……ヴァルテン議員のこと、残念だった」
リヴィアは頷いた。机からカップを持ち上げたが、口は付けなかった。
「事故の原因は、まだ分からないそうね」
「兄さんも、少し前に話したばかりだって。相手の計画を調べていて、この人が次に何を言うか考えていたんだけど」
シーアは言葉を止め、開いたままの資料を閉じた。彼女は続きを促さず、彼が席を直すのを待っていた。
「そちらは、もう食事をした?」
リヴィアに訊かれて、シーアは今夜も遅くなったと答えた。会場の食事は悪くないこと、庭のベンチへ一度は座れたことを話すと、彼女は、せめて毎日どこかで休むよう言った。
通信を終えた後、彼は修正した資料をリンドへ送った。食事へ行く前に一度だけ予定表を開き、リヴィアとの通話を実施済みに変えた。
*
翌朝、武官団の控室には、本国へ持ち帰る案が並んでいた。
地域別の配備枠、現役と保管の区分、建造中の艦の申告、実地に確認するための査察。合意に近い文言もあれば、双方の案を併記したままの頁もある。三隻の撤収と基地工事の凍結を交換する案には、代替配備を制限する条件と、建造艦の扱いが追加されていた。
シーアはその隣へ、マンデイターIIの建造工程に関する照会を置いた。
前倒しできる範囲と必要な費用だけでなく、部品、設備、乗員の教育、ほかの建造艦に生じる遅れを求めるものだった。リンドは読み終え、彼を呼んだ。
「これで、あの艦に対抗できると判断したのか」
「まだ、そこまでは分かりません。相手の兵装も出力も確認できていません」
「なら、なぜ今出す」
シーアは返事を考え、照会の着手時期を見た。
「向こうが完成してから、こちらを間に合わせられるか聞き始めるのでは遅いからです。実施するかは別にしても、何を変えれば、いつ使えるかは知っておきたい」
リンドは、他艦への影響も求めていることを確かめた。大型艦へ部品と設備を集めれば、昨日まで必要だと言っていた別の艦が遅れる可能性もある。その費用を隠した照会ではなかった。
「制限する案は、続けるぞ。あの船を含めて」
「はい。だから、建造中の艦へも確認に入れる条件が必要です」
送信が承認された。シーアは、工事を早めるための回答を待つ欄を作り、それから、同じ工事を制限する可能性のある附属書へ戻った。
会談会場では、ヴェルンが次回へ持ち越す質問をまとめていた。七一号を含む建造艦の寸法と引渡し予定は、まだ回答待ちだった。共和国側の新造艦についても、本国と製造元の承認が済んでいない部分が残っている。
「スカリフの現状は、次の会期までに確認できますか」
彼女が訊いた。
「求めています。いまある設備と、追加する予定のものを分けて出します」
「こちらも、残す艦と戻す艦を分ける。それを見て、もう一度話しましょう」
シーアは頷いた。帰国して説明する相手の顔が浮かんだ。工事を止めたくない者と、もっと早く艦を造れと言う者へ、同じ画像を見せられるとは限らない。開示できる範囲で、何を交換すれば見合うのかを伝えなければならなかった。
控室へ戻る途中、臨時連絡席の職員が、次の輸送艇を確認していた。相手側の当直から受領が返り、艇は予定通り出せるという。シーアはその報告を聞いてから、持ち帰る資料をケースへ収めた。
極秘資料は、指定された別の媒体に戻した。最後に閉じる画面には、まだ外板の張られていない船体が映っていた。大きな区画のそばに、小さく見える輸送船が一隻接舷している。
撮影から、既に十七日が経っていた。